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十三人の刺客(2010)

2010年、「十三人の刺客」製作委員会、天願大介脚本、三池崇史監督作品。

※この作品は、まだ公開前の新作ですが、試写会で観た段階での内容を最後まで詳細に書いていますので、ご注意ください。コメントはページ下です。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

きわめて残忍な男が権力を握ろうとしていた。

それは、広島や長崎に原爆が落とされる百年前の事であった。

明石藩江戸家老間宮図書(内野聖陽)が、老中土井大炊頭の屋敷の前で割腹する。

倒れ伏した彼の前には、明石藩藩主松平左兵衛斉韶(稲垣吾郎)の非道振りを諌める上申書が置かれていた。

弘化六年3月5日

土井家では、この話で持ちきりなるが、当の家主土井大炊頭(平幹二朗)は、幕府のお達しにより、今回の件は穏便に済ませるようにと家人たちに言い伝える。

その頃、海釣りを楽しんでいた御目付役島田新左衛門(役所広司)の元に、使いがやって来る。

使いは、随分、島田を探しあぐねていた様子だった。

タイトル

島田を呼び寄せたのは土井大炊頭であった。

土井は、近々、将軍家慶の弟で、明石藩藩主松平左兵衛斉韶が老中職になる事が決まっていると島田に打ち明ける。

その後、島田は、牧野靭負(松本幸四郎)と云う人物に引き合わされる。

牧野は、昨年四月の参勤交代のおり、松平左兵衛斉韶が自分の尾張木曽の宿で一夜を過ごした時の話をし出す。

宿を提供した牧野は、斉韶に粗相がないように、奥の部屋の点検を息子妥女()に指示する。

この一言が悲劇の引き金だった。

息子は、新妻の千世(谷村美月)にその役目を頼むが、その千世が好色な斉韶の目に留まってしまう。

お辞儀をしている彼女の名前を尋ねた斉韶は、いきなり彼女の髪を掴むと、寝所に引きずって行く。

なかなか戻って来ない新妻を案じた妥女が案じて奥の部屋に行ってみると、そこには、無惨にも斉韶に陵辱された千世の姿があった。

その横で、つまらなそうに座っていた斉韶が、「木曽の山桜は引っ掻くばかりで
面白うない」と吐き捨てる。

愕然として、千世の元に駆け寄り、その身体を抱きしめた妥女は、背後からいきなり斉韶に斬りつけられる。

千世の目の前で、妥女はなます切りにされ、あまつさえ、首まで斬り落とされてしまう。

その後、斉韶は一言、「木曽の山猿は骨が硬い」と呟いただけだった。

主君に生き恥をかかされた形になった牧野靭負は、即刻切腹して果てるつもりだったが、生き証人として生きながらえる道を選んだと云う。

土井大炊頭は、そんな斉韶であっても、自分には、将軍の弟と云う身分である事を考えると、どうする事も出来ず、三日前に間宮図書が腹かっ捌いて抗議をした後、三日三晩策を考え抜いて来た結果、その方と思い定めたと云う。

部屋の横のふすまを開け放つと、そこには、若い娘とその両脇に男女が座して頭を下げていた。

土井が云うには、その女は、百姓一揆の首謀者の娘だったのだが、捉えられ、斉韶に両腕、両肘から下を切断されたあげく、慰み者とされていたが、それも厭きたのか、先日両国に捨てられていたと云う。

両脇から、男女がその娘の着物をはぎ取ると、その下には、まさしく奇形と成り果てた哀れな娘の裸身が現れ出る。

親兄弟はどうした?と、島田が聞くと、娘は口を開けるが声は出ない。

横の者が、その娘の口に筆をくわえさせる。

土井が「舌も抜かれている」と説明する。

娘は、前に置かれた一枚の半紙に、懸命に何か文字のようなものを書きなぐる。

そこには、乱れて読み難い文字ながら「みなごろし」と書かれてあった。

それを読んだ島田は、にやりと笑い、「面白いものでござるな」と呟くと、「侍として、死に場所を探していた。手の震えが止まりませぬ。これは武者震いです」と土井を見据えると、お望みのお役目、見事成し遂げてみせましょうと言い放つ。

その返事を聞いた土井は、今日限り、その方の役職を解くと申し渡す。

その頃、明石藩江戸屋敷では、明石藩側用人鬼頭半兵衛(市村正親)が、慌てて家人たちに、土井大炊頭から間宮家の家族に手出しをせぬようにとの達しがあったと駆け込んで来ていた。

しかし、すでに遅かった。

庭に引き立てられていた間宮図書の家族は、斉韶の弓の的にされ、玩具のようになぶり殺されていた。

斉韶は、武士の家人ならば、主人と運命を共にするのは当然、世が老中になるようでは、徳川の世も長くはないな、半兵衛…と、その惨状を前にして呆然とする鬼頭に語りかける。

鬼頭は、滅多な事を口になさいますな…と慌てて答えるしかなかった。

その頃、土井大炊頭利位は、間宮が書き記した上申書を焼き捨てていた。

鬼頭は、出口源四郎(阿部進之介)に、土井家にここ数日出入りした人物の名を調べ上げろと命じる。

その後、出口が調べて来た人物名を確認していた鬼頭は、そこに牧野靭負と島田新左衛門の名がある事に目をつける。

島田は、自分の道場で稽古をしていた平山九十郎(伊原剛志)の元に来ると、一手勝負してみないかと木刀を手にするが、平山は、桃井道場で会って以来10年もの間、島田からもらっている生活費の事を考えると、遊びで剣の腕は使えないと生真面目に答えるので、島田はその心意気に感心する。

そこにやって来た倉永左平次(松方弘樹)も、平山のストイックさに感じ入った様子だった。

倉永は、計画に参加させるべく、五人の手練を連れて来ていた。

三橋軍太夫(沢村一樹)、石塚利平(波岡一喜)、大竹茂助(六角精児)、樋口源内(石垣佑磨)、堀井弥八(近藤公園)が挨拶をする。

使えると見込んだ島田は、そんな五人に、松平斉韶のお命を頂戴する。四日に参勤交代が江戸を出立するが、明石藩に入られては手も足もでないので、それまでの道中で片をつけると計画を打ち明ける。

その計画の後、帰宅途中だった若侍の一人が怪し気な四人の侍に取り囲まれ、今、何の相談をしていたと聞かれる。

若侍は松平家の手の者と悟るが多勢に無勢、窮地に陥る。

そこに駆けつけて来たのが平山九十郎、あっという間に四人を斬り殺してしまう。

その四人の死体を見聞した鬼頭半兵衛は、功を焦りすぎた出口源四郎を叱りつけると、島田の元には、これほどの剣の使い手がいるのかとおののくのだった。

とある賭場。

一人の若者が勝負に勝ち続けていた。

隣に座っていたヤクザ者が声をかけるが、「声をかけるな。運のない男と話すと運が落ちる」と相手にしない。

ヤクザ者は、その場から出て行きがけ、生意気な若者を睨みつける。

若者は、島田の甥に当る島田新六郎(山田孝之)であった。

博打で勝った金を、その後、新六郎は遊女と酒に注ぎ込んでいた。

そんな遊郭に、島田新左衛門がやって来て新六郎と顔を合わせる。

二人きりで飲み始めた新左衛門は、新六郎の世を捨てたような生き方を叱るような事はしなかったが、わしも一生一度の大ばくちだ。同じ博打なら、わしの方が断然面白いと謎めいた言葉をかける。

叔父と別れた新六郎は、帰る途中、四人の賊に囲まれて金を要求される。

しかし、新六郎はあっという間に四人を投げ飛ばしてしまう。

一人逃げ遅れた男の頬被りをはぎ取ってみると、怯えたその顔は、最前、賭場で声をかけて来たヤクザ者だった。

新六郎は「下らねえ…」とつぶやき、持っていた小判を、その男の足下に落としてやる。

男はその小判をつかみ取ると逃げ去って行く。

新六郎の帰りを待っていた芸者おえん(吹石一恵)は喜んで迎えるが、新六郎が「島田の叔父に会った…」と云うと、何かを察したように、「いや!いや!」と拒む。

新六郎はそれでも「しばらく留守にする」と身支度を始めたので、「いつ、帰って下さるの?」と聞くおえん。

新六郎は「すぐさ。もし帰らなければ、お盆に帰って来る。迎え火を焚いて待っていてくれ」と言い残して家を出る。

すでに両親をなくしたと云う若者、小倉庄次郎(窪田正孝)と佐原平蔵(古田新太)が、新しく仲間に加わる。

佐原は、相談があり、200両を即金で頂きたいと申し出たので、金目当てか?と倉永左平次は一瞬落胆の色を見せるが、金の使い道を島田が聞くと、120両は、これまでの借金を返すため、30両は死んだ妻の墓を作るため、20両は身支度のため、そして残りの30両は思い切り贅沢をしてみたいと正直に答えるので、これは面白い男だと感じ入った島田は承知する。

そこに、甥の新六郎がやって来て、俺も仲間に加えてくれと云う。

博打のカタは一つ。

断るなら、この場でばっさりやってくれと島田の前に座り込む。

これには、島田も笑うしかなかった。

その後、剣の修練や火薬を学ぶ者など、参加者各人が準備を始める。

そうした中、佐原平蔵は、もらった金で建てた妻の墓に手を合わせていた。

一方、鬼頭半兵衛は、島田の襲撃を予知し、明日に迫った参勤交代の中から、足手まといになるような者は全て外すよう命じていた。

島田たちは、その襲撃計画を練っている最中だったが、そこに突然、鬼頭半兵衛が訪ねて来たので、仲間たちは緊張し、障子の陰に隠れる。

屋敷に上がって来た鬼頭半兵衛は、障子の陰で息をひそめる仲間たちの気配に気づいたようだったが、応対に出て来た島田と冷静に言葉を交わす。

鬼頭半兵衛は、ずっと島田に出世競争で勝てなかった事を打ち明け、それが悔しいばかりに今まで腹を斬れなかったと言い、侍とは終世、主君に仕える者ではないのかと問いかけ、又会おうと云う島田を残し、静かに去って行く。

その夜、松平斉韶は、一人で食べていた夕食を、全部、膳の上にぶちまけると、犬のようにむしゃぶりつきながら、今夜は女を二人抱こうと呟いていた。

参勤交代が出立して三日が経ったが、島田は動こうとせず、じっと策を練っていた。

それを隣でじっと待ち受ける仲間たち。

ついに島田が動き、一同の前に地図を広げると、天領木曽と尾張の間に大滝川が流れる地域の説明をし始める。

もし、尾張藩が参勤交代の通り抜けを阻止すれば、一行は迂回路を廻るしか手はなくなり、やがて、落合宿に来るしかないはずで、そこに先回りして奇襲を仕掛けると云うのだ。

しかし、参勤交代の一行は別の道を選ぶ可能性もあると、新六郎や佐原が指摘すると、しょせんは運を天に任せるしかないと島田は断言するのだった。

牧野靭負に、尾張藩通行禁止の手配を依頼しに倉永左平次が出立する。

さらに、三橋軍太夫には、落合宿全体を買い取るため、3750両で掛け合いに向かわせる。

外は雨が降り始めていた。

残りの一行は、全員馬に乗って出発する。

駒込の宿で一休みするため、馬を降りた一行を待ち受けていたのは、見知らぬ浪人たちだった。

どうやら、明石藩から雇われた食いつめものたちらしい。

一行は、それら浪人たちと戦い始めるが、最初から、命を賭けている者と金で動いているだけの者の気迫の差は明らかで、浪人たちは散り散りに逃げ去ってしまう。

鬼頭半兵衛の先手を読んだ島田新左衛門は、我らは姿を消す事にしようと呟く。

その後、馬を捨て、山に入り込んだ一行は、川の水で身体を洗い、山道を進む。

もう彼らには、肩書きなどなかった。

一方、三橋軍太夫から宿場を全部売ってくれと持ちかけられた落合宿の三州屋徳兵衛(岸部一徳)は、最初は相手にしかねていたが、入り口に千両箱を積まれると、腰を抜かす。

その頃、山道を急いでいた島田たちは道に迷っていた。

その時、不思議な者を一行は目にする。

何かが、罠に引っかかってぶら下がっているのだ。

新六郎が、罠の綱を斬って落とすと、中から出て来たのは、痩せた青年だった。

山暮らしの男で木賀小弥太(伊勢谷友介)と言うその青年に訳を聞くと、ウパシと云う頭の女に手をつけてしまったため、こうなったと云う。

島田が自分たちは道に迷っているのだと教えると、食い物があるのなら、自分が案内してやろうかと小弥太は言い出す。

小弥太は、途中で、虫を食ったり、石つぶてでウサギを倒したりする野生児振りを見せる。

その頃、松平斉韶ら参勤交代の列は、橋の前で立ち止まっていた。

通行お断りと書かれた尾張藩の高札が立っていた為である。

橋の向こうには、牧野靭負らが道を塞いでいる。

鬼頭半兵衛は善後策を練り始めるが、駕篭を降りた斉韶は、尾張藩が御三家なら、自分は将軍の弟だと言いながら、高札を斬って捨てると、そのまま刀をぶら下げて橋を渡ろうとする。

やがて、その斉韶が牧野靭負の前に立つと、背後から尾張藩の鉄砲隊が前に進みでて斉韶に銃口を向ける。

その間に立ちはだかり主君を守ったのは鬼頭半兵衛だった。

鬼頭は斉韶を橋のたもとに押し戻すと、参勤交代を二手に分け、荷物だけは尾張藩を通してもらい、我らは馬で別の道を行こうと提案する。

そんな鬼頭の元へ、心配する島田たちの動きは、駒込の宿から消えてしまったとの報告がもたらされる。

鬼頭や斉韶が馬で迂回路に走り去った様子を、橋向こうで確認した牧野靭負は、その場で自らの腹を斬って自害するのだった。

その頃、島田たち一行は、小弥太の案内で、無事宿場に降りる道にたどり着く事が出来た。

島田は礼として財布ごと小弥太に渡そうとするが、小弥太は、喧嘩をするんだろう?俺も連れて行ってくれと意外な事を言い出す。

背後にいた新六郎が、気絶させて、この場から去ろうと考えたのか、刀の柄で小弥太の頭を殴りつけるが、小弥太は「何?」と不思議そうに振り向くだけ。

その背後から、今度は佐原が棍棒で頭を殴りつけるが、棍棒が木っ端みじんに砕け散っただけで、「だから、何?」と小弥太は平然としている。

呆れた島田は、小弥太の同行を許すが、すると喜んだ小弥太は、馴れ馴れしそうに、「お頭!」と島田の肩をつかんで来る。

何とも面妖な男であった。

山を降りた島田たち一行は、先行していた倉永左平次や三橋軍太夫と、落合の宿で合流する。

迎えた三州屋徳兵衛は、すっかり小判に頭がおかしくなったのか、女もいくらでも用意しますなどべんちゃらを言い出したので、戦いを前にした侍たちは叱りつけるが、ただ一人、小弥太だけは女に興味があるようだった。

島田は、石塚利平を物見に出した後、他の者は身体を休めるように言い渡す。

その夜、櫓の上で、ウパシの事を思い出していた小弥太の近くにやって来た新六郎は、お前は侍じゃないんだから、いつでも逃げ出せと忠告する。

しかし、そう云われた小弥太は、何だって侍はいつも、そう威張っているんだと腹を立てる。

その後、小弥太は、村中の女を相手にセックスをしまくるが、一向に満足をする様子がない。

その様子を盗み見していた三州屋徳兵衛は、それ以上やったら、女たちが死んでしまうと必死に止めるが、小弥太の股間をまじまじと観てあまりの立派さに感心する。

すると、次の瞬間、目が合った小弥太は、三州屋徳兵衛を掴まえ、背後から犯し始めるのだった。

しかし、その後、島田は、馬で移動しているはずの斉韶ら一行の姿が掻き消えたと云う情報を聞く。

皆は別の道を行かれたか?と浮き足立つが、島田は落ち着けとなだめる。

釣りと同じで、魚の動きをじっと待つしかないし、70数名もの一行が何の噂もなく移動する事などあり得るはずもなく、どこかに身を隠しているだけだと言う。

翌朝、「来たぞ!」と叫びながら、物見に出かけていた石塚が馬で駆け戻って来る。

島田の予想通りであったが、読みが違っていたのは、敵の数が70数名ではなく200を超えていると云う事であった。

鬼頭半兵衛は、姿を消している間に、各地から加勢を集めていたのだった。

朝霧の中、宿場の中心に集結した仲間たちに、島田は、大命あって集いし我ら…と口にし、小弥太の不安げな視線を感じると「13人!」と言い切り、小弥太を安心させると、一斉に各人を配置に付かせる。

刺客たちが配置に付いた落合宿に、馬に乗った鬼頭半兵衛や斉韶の一行が近づく、

鬼頭は、宿場の前に差し掛かると、一旦列を停め、自分だけ様子を見に宿場に入ってみる。

そこには、女子供の普段と変わらぬ風景があったので、安心した鬼頭は、戻って列を先導し始める。

ところが、宿場中を通り過ぎていた鬼頭は、家の隙間から見える裏山を、先ほどの女子供たちが逃げている様子を発見。

さらに、家々の上には何本もの刀が刺してある事を発見、罠にかかったと悟るが、声を上げた時には、もう遅かった。

突然、進行方向の道を、両側から巨大な柵が塞ぐ。

戻ろうとすると、大爆発が起き、橋が崩れ落ちた。

その様子を見た斉韶は「面白い!」と目を輝かせる。

一斉に、宿場中の屋根の上に現れた刺客たちが、弓で下の斉韶一行に矢を射かける。

次々に倒れる侍たち。

パニック状態になった一行は、必死に逃げ道を探し、横道から抜け道を発見したと喜ぶ。

しかし、鬼頭はそれは罠だと叫ぶが遅かった。

横道から回り込もうとした一団を襲撃したのは、火のついた薪を背負った三頭の牛だった。

暴れ牛は、侍たちを蹴散らして行く。

このままでは斉韶が危ないと焦った一人の侍が、すぐ側の一軒家の扉を開けると、中が無人なので、斉韶を招き入れようと叫ぶ。

しかし、その声を聞いた鬼頭は、中を改めよ!と叫び返す。

その言葉に従い、数名がその家の中に入ってみると、億の柱に爆薬が数個取り付けてある事に気づく。

次の瞬間、大音響と共に、その家が大爆発する。

大きな柵の上に、三人の男たちが立っている。

島田新左衛門、倉永左平次、佐原平蔵であった。

その島田が叫ぶ。「小細工はこれまでだ!」

刺客たちは全員、弓を捨てると、剣を取る。

残りは約130と倉永が数えると、佐原は「200両では安すぎましたな」と軽口を叩く。

島田は懐から、一枚の半紙を取り出して広げる。

それは、あの身体を奇形にされた女が口にくわえた筆で書いた「みなごろし」と書かれてあった。

それを下から見上げて読んだ斉韶は、又おかしそうに笑う。

刺客たちは、皆弓から剣に替え、下に降りて斬り合いに挑む。

小倉庄次郎は初めて人を刀で斬りおののいていたが、その様子を見ていた新六郎が声をかけてやる。

まだ未熟な小倉は、逃げると見せかけて、敵を奥に誘い込むと、そこにあらかじめ撒かれていた油に、ロウソクの火を投げつける。

敵の侍は火だるまになり、それを平山九十郎は一刀両断に斬り捨てる。

斉韶を何とか逃がそうと道を探していた出口は、とある一角に入り込む。

そこには、何本もの刀が刺さっていた。

待っていたのは、平山九十郎と小倉庄次郎だった。

前に立った平山が、俺を追い越して行った者はお前が一人残らず斬れと後ろで控える小倉に命ずると、向かって来た敵を次々に斬り倒して行く。

やがて、出口と斉韶二人だけになったので、平山は二人に詰め寄る。

しかし、その時、新手が大勢なだれ込んで来てしまったので、やむなく平山たちは一旦後退する。

刺客たちも、一人、又一人と力つき、命を落とし始める。

日置八十吉(高岡蒼甫)の最期を見届けた倉永は、良くここまで戦った。それでこそ侍だと褒める。

石塚利平も最期を迎えていた。

大竹も、火薬を握りしめ、敵にむしゃぶりついて壮絶な爆死を遂げる。
そんな中、小弥太も石分銅で、次々と敵の頭を粉砕していた。

小弥太は、いつも威張りくさっている侍なんて大した事ないなとあざける。

その時、その小弥太の首に小太刀が刺さり、棒立ちになった所を腹を真一文字に斬られ、どうと倒れる。

小太刀を投げたのは斉韶であった。

なかなかそやつ、良い事を云うので小太刀を授けてやったと云う。

壮絶な戦いが繰り広げられている中、必死に自分を守ろうとしている鬼頭半兵衛に、「戦の世とはこのようなものか?良いものだな」と問いかける斉韶は、「世が老中になった暁には、又、戦いの世にしてみよう」と呟き、鬼頭を瞠目させるのであった。

さらに、倉永左平次までもが死を迎えていた。

かくして、刺客たちも大半が死んで行った。

何とか柵を乗り越えた斉韶を守るものは、鬼頭と配下二人を残すのみだった。

そんな四人の前に立ちふさがったのは、島田新左衛門と甥の新六郎二人だった。

島田の前に、鬼頭が進みで、侍と生まれたからには、終世、主君に仕えるまで。主君を殺したくば、俺を殺してから行けと島田に言い放つ。

そんな様子を後ろで観ていた斉韶は、「一騎打ちか?風流じゃの」と他人事のように呟く。

島田と剣を交えた鬼頭は、「懐かしいぞ、その太刀筋」と島田に語りかける。

「道場ならば、お主と拙者の腕は五分と五分」と島田も認めるが、その勝負は喧嘩殺法と割り切っている島田の方に部があり、島田は、鬼頭の首をはねる。

その転がった首を面白そうにける斉韶。

それを観た島田は、「家臣の首をお蹴りなさるか!」と叫ぶ。

斉韶少しも臆せず、「蹴りたければ、余の首も蹴って良い」と笑う。

脇に従えていた配下の二人が島田に襲いかかるが、その二人の相手をするのは新六郎であった。

「政とは政を司るものに都合の良いもの。下僕はそれに従うしかない」と云う斉韶に、島田は接近する。

「鞘に入った剣を、本物と思っていたのが間違い。」と詰め寄る島田の言葉に激した斉韶は、自らの刀で島田の腹を突く。

次の瞬間、斉韶も島田の剣で腹を突き抜かれていた。

倒れた斉韶は泥の中を這いずりながら、「余は死ぬのか?怖い…」ともがき出す。

それでも、斉韶は、今まで生きて来て、今日と云う日が一番楽しかった…と薄笑いを浮かべる。

そこに近づいた島田は、「御免!」と言いざま、斉韶の首を斬り落とした後、自分も倒れ、「終わった…、大ばくちに勝った!…侍とは、本当に面倒なものだ…」と呟いて、やがて息絶える。

二人の配下を斬った新六郎は、仲間も敵も全員死んだ宿場にふらふらと戻って来る。

その時「お〜い!」と呼ぶ声が聞こえた。

見ると、元気に近づいて来たのは、あの首に小太刀を貫かれ、腹を切り裂かれて倒れたはずの小弥太ではないか!

新六郎は思わず呟く。「お前は不死身か!」

「傷は?」と聞くと、「こんなもの、猪にやられた時に比べれば何でもない」と小弥太は平気な様子。

これからどうすると新六郎が聞くと、やっぱりウパシが欲しいので山に戻ると答える小弥太。

お前は?と聞かれた新六郎は、俺も好き勝手にする。いっそ盗賊にでもなり、メリケン国とやらまで行って、女を抱くかと冗談を言うと、小弥太は興味を示す。

そんな小弥太と別れた新六郎は、死に損なっていた敵にとどめを刺すと、死屍累々の宿場を後にする。

弘化元年5月

松平左兵衛督斉韶は、参勤交代の途中で病死と記録される。

そして、その23年後、幕府は倒れ、明治となる。

芸者おえんは、玄関を出た所で誰かを見つけ嬉しそうな笑顔を見せる。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

1963年、工藤栄一監督の傑作時代劇をリメイクしたもの。

ストーリーは、途中部分が改変されているのと、前作で山城新伍が演じていた木賀小弥太の役が、全く違う個性的なキャラクターとして加わっている以外は、大筋同じである。

前半は、陰影を強調した白黒映画の雰囲気で、松平左兵衛督斉韶の非人間振りを独特のグロテスクな描写で見せて行く。

この重い説明部分を通過すれば、後は、後半の壮絶なクライマックスまで、久々の男好みのチャンバラ映画らしい展開が、三池監督お得意のユーモアや下ネタも交えて続いて行く。

クライマックスは、「家光の乱心 激突」(1989)などを彷彿とさせるような派手な演出も加わっており、なかなか迫力がある。

全体の印象として、出来は上々だと思う。

前作と遜色ない出来と言っても良いかも知れない。

前作を知らない人が観ても楽しめると思うし、知っていれば知っているなりに楽しめるのではないかと思う。

あえて難を云えば、配役全体に「華」がない事くらいか。

もはや「映画スター」と呼ばれるような人材がほとんどいなくなった今、それを求めるのは酷な事だとは思うが、やはりその部分が、この作品の興行的な難題になるのではと心配になる。

前作で菅貫太郎が演じ、強烈な印象を残した松平左兵衛督斉韶を、今回演じているのはアイドルの稲垣吾郎だが、アイドルのイメージを払拭するような、独特の異常キャラクターを作り上げている。

こうした演出、男にはおおむね好評だと思うが、はたして女の子たちの反応はどうか?

女の子が劇場に来ないとなると、一体どういう層がこの作品を支えるのか見えない部分がある。

稲垣吾郎以外の俳優も、皆なかなか好演しており、前作で内田良平が演じた鬼頭半兵衛を新たに演じた市村正親や、前作で西村晃が演じた平山九十郎を新たに演じた伊原剛志などもなかなかの存在感を見せてくれる。

ベテラン松方弘樹も、久々に大画面で父親近衛十四郎譲りのチャンバラを披露してくれる。

そして何と言っても、伊勢谷友介演ずる不死身の野生児木賀小弥太の面白さ!

どこか「七人の侍」の菊千代にも通ずる痛快キャラクターなのだが、このキャラクターを愛せるかどうかで、この作品に対する評価も変わるかも知れない。

こうした「男好み」「時代劇好み」でまとめられたこの作品が、女性観客が興行を左右する現在、どう健闘するのか興味ある所ではある。

これが客を呼べないとなると、もはや「男性向けアクション時代劇」の先は長くないかも知れない。