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時をかける少女(2010)

2010年、「時をかける少女」製作委員会、筒井康隆原作、菅野友恵脚本、谷口正晃監督作品。

※これは新作ですが、最後まで詳細にストーリーを書いています。ご注意ください。コメントはページ下です。

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アルコールランプの芯に灯がともる。

大学の薬学部で研究をしている芳山和子(安田成美)

デザートに乗っていたサクランボをシャーレに乗せた和子は、そこに何か液体を振りかけると、やがてシャーレの中にアリがたかる。

そこに、助手が入って来て、14時からの症例研究会に出てくれと催促した後、個人研究ばかりしてもらうと、私が教授から叱られるんですと釘を刺して出て行く。

タイトル

走る芳山あかり(仲里依紗)、帰る途中の学生たちの中を逆に走る。

和子は、コンビニでもらった昭和47年に作られた100円硬貨を、研究室の引き出しの中に入れてある集めていた瓶の中に入れる。

なぜその年にこだわっているのか、和子本人にも理由は分からなかった。

バッグから大学の受験票を取り出したあかりは、受験発表の番号が貼り出された掲示板の前で自分の番号があるのを確認する。

3階の研究室で、何か透明な液体を抽出している最中だった和子の携帯が鳴り、部屋の外に出ると、その建物の下にいた娘あかりが「ミラクル起きた~!」と叫んでいる姿が見えた。

あかりは、和子が働いている大学の薬学部に無事合格したのだった。

その後、いつもお祝いがあると二人して乗るボートに乗って、あかりの入学祝いをする和子。

あかりは、唐揚げを頬張りながら、近くを通った親子の乗ったボートを観て、自分の父親ってどんなんだった?と母和子に聞く。

変な人よ。日本に帰って来て映画撮っている。今、山にこもっているけどねと言う和子は、父親とは今でも時々メールはしていると教える。

幼い頃、自分たちを残し、家にほとんど寄り付かなくなった父親の記憶を、あかりはほとんど持っていなかったのだ。

あかりは現在、高校の弓道部に所属していたが、的を狙っている時、矢が指から外れてしまったりする程度の腕前。

そんなあかりが目当てなのか、少し頭がぬるそうな男の子元宮悟(柄本時生)が、部室の窓から覗き込んでいる。

浅倉酒店のライトバンであかりの家に来て、懐メロマニアの元宮と吉田拓郎の「春だったんだ」を一緒に歌っているのは、和子の中学時代の同級生だった浅倉吾朗(勝村政信)だった。

今でも、和子からは頼られていた。

そのことをあかりの口から聞いた朝倉は、芳山君が?と嬉しそうだった。

その朝倉、帰ろうとしてライトバンに乗り込もうとした時、運転席のダッシュボードの上に乗っていた封筒を見て、和子に渡そうとしていて忘れていたことに気づく。

大学に向かった朝倉は和子を呼び出すと、深町君の旅館のおばあちゃんが屋根裏部屋を整理していて見つけたそうだと、その封筒を手渡す。

その中には、中学時代の和子と同じ制服を着た男の子が、どこかラベンダーの温室の中で写った写真と、押し花になったラベンダーが一つ入っていた。

朝倉も和子も、その写真に写っている男の子に記憶がなかったが、写真を見ていた和子は何かを思い出そうとしていた。

土曜日の研究室?何かを思い出しそうだった。

私、行かなくちゃ…

横断歩道の前で、ぼうっと立っていた和子は、信号が変わっていることに気づき歩き始めるが、その時後ろから小走りで渡り始めた男と接触し、横断歩道の途中で倒れてしまう。

持っていたバッグが路上に落ち、そこからこぼれた写真の封筒を見ていた和子は、思わず「深町君…」と口にする。

その時、近づいて来た乗用車があった。

自宅にいたあかりは電話を受け、母親和子が交通事故で入院したことを知ると、病院へ向かう。

出迎えた医者が言うには、大きな外傷はないので、傷は二週間程で治るが脳を強く打っているので昏睡状態にあり、目覚めるのを待つしかないと言う。

和子が寝かされていた病室に入ったあかりは、昏睡状態の和子を見る。

一人残っていた看護婦は、なるべく声をかけてあげて下さいとあかりに云い残し、病室を後にする。

眠る母親と二人きりになったあかりは、「母さん…、お母さん!起きてよ!」と泣きながらすがりつくが、和子が目覚める気配はなかった。

翌日、待合室の椅子に座っていたあかりの横に座って声をかけて来たのは、事故を知り駆けつけて来た浅倉吾朗だった。

寝ずの番をしていたあかりに、少し横になったらと優しくいたわる。

その時、待合室のテレビでは、「タイムトラベル」と云う過去のニュースを紹介する番組をやっており、その日は、1974年3月3日に起こった深夜バス転落事故のことを特集していた。

38名の犠牲者が出た事故だったと云う。

それを観るともなく観ていた吾朗は、実はこのバスに自分も乗るはずだったんだと意外なことを言い出す。

3月2日の夜、新宿からスキー場に向かう為、能代行きの深夜バスに乗ろうとしたのだが、途中でチケットを家に忘れたことに気づき諦めたのだと言う。

今自分が生かされたのは運命だったと思う。芳山君も強運の人だから絶対に目覚めるよと吾朗はあかりを力づける。

家に一旦戻ったあかりは、自分の幼い頃のアルバムをめくったり、母親のパソコンをのぞいたりしていたが、そこに父親長谷川政道とのメールが残されていることを発見、すぐに「芳山あかりです。母が事故に遭いました」とメールを送信してみる。少し、別の言葉も添えようとしたけど、考え直してそれは止めてしまう。

再び、病院の母親を見舞ったあかりは、お母さん、私、今日誕生日だよ。18歳…、なんか大人の響きだねと、涙ながらに和子に語りかける。

すると、突然ベッドの和子の目が開き、あかりが「お母さん!?」と呼びかけると、「あかり?行かなきゃ…、あの人に会いに。深町一夫。写真と鍵、私のバッグ…」と断片的な言葉を呟いたので、すぐに、和子のバッグの中から写真と鍵を取り出してみせると、やはり、その写真に反応し、私、行かなきゃ…と和子は呟く。

その言葉を聞いたあかりは、分かった、私が行くからと答える。

和子は「1972年4月土曜日中学校の理科実験室…」と呟くが、それをあかりは「1974年…」と聞き間違えてしまう。

さらに和子は「研究室の机の鍵…、その中に薬が…、過去へ…、飲んで念じれば…、会って伝えて…、約束・・ない…」と呟きながら、再び昏睡状態に戻るのだった。

すぐに、大学の研究室に向かったあかりは、母親の机の引き出しを鍵を使って開け、その中から、大量の昭和47年(1972年)の刻印が入った百円玉が詰まった瓶と、金属ケースに収められた二本の液体が入ったガラス容器を見つける。

あかりは、古い母親が写った写真を片手に持ち、その液体の一本を勇気を出して飲むと、「1972年4月土曜日の理科実験室!」と念じてみる。

しかし、何事も起こらないので拍子抜けするが、ふと「1974年2月だっけ…?」と日付の自信がないので呟いてみる。

次の瞬間、あかりが手にしていた写真が微妙に変化し、身体はタイムリープしていた。

大きな動物の骨格のような部分を走って行くと、後ろから洪水のような水が押し寄せて来る。

いつの間にか、あかりの足下は数字の絨毯のように変化しており、目の前には一羽のカモメが飛んでいる

あかりは、数字の切れ目の部分から、思いっきり、そのカモメを掴もうと手を伸ばしながらジャンプする。

カモメの羽が一枚、空中に落ちる。

1974年、溝呂木涼太(中尾明慶)は、研究室の戸棚から薬品を取り出そうとしていた。

その側に、鳥の羽が一枚落ちて来たのに涼太は気づく。

次の瞬間、教室の上から降って来たあかりの身体が、涼太の屈んだ背中に激突する。

倒れた涼太は、ビックリしながらも起き上がると、床に制服姿のまま倒れているあかりを発見し、「降って来た…!」と唖然と見つめる。

目を覚ましたあかりは、自分が見知らぬ小汚い部屋で寝ていたことに気づく。

そばには、知らない男も寝ているので、緊張しながらも「誰ですか?」と聞いてみる。

目を覚ました青年は「溝呂木涼太」と名乗ると、何も覚えてないのか?と少女の言動を不思議がる。

尚徳大学に出現したあかりは、昨日一瞬目覚めた時、助け起こした涼太に「ここは世田谷西中学?」と聞いたからだ。

昨日のことは忘れていたあかりが、今日の日付は?と改めて聞くと、1974年2月17日日曜日と涼太は教える。

部屋にあった「SFマガジン」最新号を確認しながら、母親が言っていた「1972年4月」と云う言葉を思い出したあかりは、飛ばなきゃ行けない場所から2年も経っていると云う事実に気づいて慌てる。

居ても立ってもいられなくなり、涼太のアパートの部屋を飛び出したあかりを、涼太も追いかける。

あかりは、下町風の商店街を通り抜けると、世田谷西中学に走り込み、帰宅しかけていた弓道部の中学生を呼び止めると、持って来た古い写真を見せて、ここに写っている男の子を知らないかと聞くが、去年卒業した和子のことは知っていても、男の方は見覚えがないと言う返事が帰って来ただけだった。

がっかりしたあかりを連れ、定食屋に入った涼太は、すっかりあかりを家で少女を思い込んでいたのだが、あかりは、自分が2010年からある人に会う為にやって来たのだと打ち明ける。

しかし、目の前で聞いていた涼太が信用するはずもない。

あかりは、証明するものがないかと、自分のバッグの中をかき回し、財布の中から現在の百円硬貨を出してみせる。

「平成19年」と刻印された百円玉を見た涼太は「ひらせい…」と読んでしまう。

さらにあかりは、携帯電話を取り出して「これが2010年の技術よ!」とかざしてみせる。

さすがに圏外なので、電話機能は証明出来なかったが、写真も撮れたりする多機能製はアピール出来たようで、それを手にした涼太は、最初は「小型ラジオ?」と勘違いするが、やがて、今自分が作っている8mm映画に出て来る「複合型通信機」なのだと気づくと興奮する。

あかりは、してやったりとばかり「結構、いけた?あなたSFオタクでしょう」と聞くが、涼太は「オタク」の意味が分からない。

定食屋を出たあかりは、深町一夫にメッセージを伝えて、すぐにでも母さんに会わなければ行けないのと、何とか涼太の協力とアパートに泊めてもらえるよう説得するが、涼太は乗り気ではない。

一旦断り、アパートに入ろうとした涼太だったが、下の道で一人佇んでいるあかりを見ているうちに気が変わり、上がれよと渋々声をかけることになる。

そんな二人を二階で待ち構えていたのが、同じアパートに住み、涼太の8mm映画に出ていると云う門井徹(松下優也)と市瀬ナツコ(キタキマユ)。

明らかに、あかりと涼太の関係に興味を持っている様子。

そんな二人に対し、あかりは思わず「従兄弟のあかりです」と自己紹介してしまう。

部屋に戻ったあかりは、今出会った「市瀬ナツコ」と云う名前に聞き覚えがあったような気がしたので、急いでバッグの中から雑誌を取り出して表紙を確認すると、やっぱり市瀬ナツコとは、2010年では「逆らうと、一生祟られそうなタレント5年連続一位」の称号を持つタレントになっていたことが分かる。

涼太は、自分は将来どうなっている?と興味津々聞くが、あかりは、あまり映画を観ないので…と、涼太の名前を知らないことをごまかす。

あかりは、涼太が口ずさんでいた「神田川」を聞くと、急に風呂に入りたくなるが、聞くと、このアパートに風呂はないらしい。

横町の風呂屋に行こうよとあかりが誘っても、冬場だし、身体を拭くくらいだったら、共同洗面所で十分だろうと云う涼太の感覚に、あかりは付いて行けなかった。

その夜、こたつに潜り込んで寝ようとしたあかりは、こたつの外で寝ようとしていた涼太に、こたつは入れば?風邪引いちゃうよと誘い、寒さに耐えかねた涼太もその言葉に従うことにする。

翌日、再び、世田谷西中学に向かった二人は、誰もいないことを知ると、校内に侵入し、昨年度の卒業アルバムを調べ始める。

和子の中学時代の写真はすぐに見つかったが、いくら探しても、一緒に写真に写っていた深町一夫は見つからない。

写真の深町一夫は、和子と同じクラスバッジを胸に付けているのに、同じクラスの写真に見当たらないのだ。

涼太は心霊写真じゃないかなどと言い出すが、その時、あかりは、お母さんに直接聞こうと思いつき、卒業アルバムに後ろに載っていた中学時代の和子の住所を書き写すのだった。

しかし、その住所に向かった二人は、閉ざされた門の屋敷を見つけただけで、その家には誰も住んでいる気配はなかった。

その時、あかりは、自転車で酒を配達途中のどことなく見覚えのある青年を見かけ、思わず「五朗おじさん!?」と声をかけてしまう。

全く見知れぬ少女から「おじさん」などと声をかけられたこの時代の浅倉吾朗(千代將太)は、驚きながらも、あかりが和子の従兄弟だと名乗ると、近くの駄菓子屋の前でファンタオレンジをおごってくれる。

吾朗が言うには、高校入学と同時に、和子は横浜の方に引っ越したのだと云う。

念のため、吾朗にも写真の男の子を見てもらうが、やはり、見たことがないと言う返事だった。

和子の横浜の高校の住所は、配達を終えた夜に教えるから、電話をしてくれと言いながら、吾朗は配達に向かう。

浅倉酒店の電話番号は「894-4141(吐くよ、良い酔い)だそうだ。

夜まで時間が空いたあかりに、涼太は、ちょっと付き合ってよと誘う。

大学の映画研究会の部室に作られた妙な作り物は、涼太が今撮っている「光の惑星」と言うSF映画に登場する2011年の風景だった。

その頃、地球は自転が狂い始め、世界は崩壊の聞きを迎えていた。

画家のヒロは、桜が咲いたら救世主が現れると思い込んでいたのだった…と云うストーリーなのだそうだ。

あかりは、涼太のカメラの前で、ミニチュアの町を揺らし、都市が破壊される様を表現させられるのだった。

その夜、二人は銭湯に出かけた。

あかりは、初めて入った銭湯を満喫し、風呂上がりにフルーツ牛乳までの飲む始末。

先に外で待っていた涼太は、なかなか女湯から出て来ないあかりを出口前で待ち続け、凍えそうになっていた。

ナツコから借りたと云う70年代ファッションに着替えたあかりは、赤いマフラーを互いの首に掛け方をよせ合い帰る若いカップルの姿を見つけ、「リアル神田川だ!」とはしゃぐ。

翌日、吾朗に教えてもらった横浜の高校に、あかりは涼太と共に行ってみる。

入り口付近で下校中の生徒たちの中から、写真を頼りに母親和子を探そうとするあかり。

やがて、お目当ての和子が友達と一緒に校門から出て来たので、人探しをしていると声をかける。

しかし、和子本人も、あかりから見せられた写真に写った深町一夫を知らないと云う。

こんな写真を撮った覚えもないと答えた和子だったが、何にかを思い出すように頭を抱え始めたので、明日又来ると言い残し、あかりと涼太は帰ることにする。

涼太は、本人が覚えていないんじゃ、お手上げだな…と呆れた様子だったが、帰りにちょっと寄り道しないかとあかりを誘う。

涼太があかりを連れて来たのは、「あさま荘」と言うアパートだった。

そこに、今撮っている映画のカメラマンをやっているコテツと云う男がいるらしい。

部屋に声をかけた涼太だったが、返事は意外なこ所から聞こえて来た。

共同炊事場で、お湯をかぶって身体を洗っていたのだ。

インスタント銭湯のつもりらしい。

あかりは恥ずかしくて、まともに見れなかったが、コテツの方はまるっきり平気な様子。

コテツと涼太は、部屋で映画を語っては喧嘩をし、映画を語っては泣き、一緒に聞いていたあかりが全く付いて行けない男の世界だった。

そんなあかりが、コテツの洗面所で見つけたのは、母芳山和子を写した一枚の白黒写真だった。

やはり、ラベンダーをバックに写っている。

翌日、再び横浜で喫茶店に誘ったあかりに、和子は「私に関係していることなのですか?あの男の子?」と聞く。

あかりは、どうして横浜に引っ越したのか聞いてみる。

薬学部に進みたくて、理学系が強い私立を選んだのだと和子は答える。

いつ頃からそう云う気持になったのかとあかりが聞くと、中三になった春に突然、半ば使命感のように感じて…と和子が答える。

昨日、コテツの部屋で見つけた写真を見せると、長谷川さんが撮ってくれた写真だと和子は言う。

「長谷川?」あかりは、その名前に聞き覚えがあった。

「長谷川政道さん、通称コテツと云った方が分かりやすいかも」と和子は言い、予想していた通り、和子の未来の夫の名前であることにあかりは気づく。

昨日初めて会った、あのコテツと云うカメラマンこそ、あかりの父親になる人物だったのだ。

あかりが東京に戻り、駅に着いた時、雨が降っていたが、駅前にぽつんと、雨傘を持って佇んでいた男がいた。

涼太だった。

あかりはその気持を嬉しく思い、はしゃぎながら雨傘の中に駆け込む。

アパートに戻ったあかりは、涼太の家族のことを聞いてみる。

両親と妹と四人家族だと涼太は教える。

親父は秋田で印刷屋をやっているとのこと。

君のうちは?と逆に聞かれたあかりは、私ね、お父さんの記憶がほとんどないのと答える。

小さい頃、母と私を置いて出て行っちゃった。元々いないも同然だったけど、寂しいって思ったこともなくはない。お父さんがいたら、どうだろうな?って、一杯想像したりもした…

あかりが、未来から持って来た百円硬貨は、残り4万1200円しか残っていなかった。

涼太はふと、新聞の尋ね人欄はどうだろう?と思いつく。

深町一夫が未来人だとしたら、いつか読む機会があるのではないかと云うのだ。

あかりは、でも、あり得ないでしょうと否定し、言った涼太を白けさせる。

それでも、二人は読売新聞社に掛け合いに出かけ、一行20文字5万の規定料金を、何とか4万円に負けてくれないかと必死に頼む。

担当者は、二人の熱意に負け、負けてくれる。

その夜、二人はアパートで、ラーメンライス鍋を作って食べる。

翌日、あかりは、涼太の「光の惑星」の屋外ロケの手伝いをする。

カメラマンのコテツが、将来の自分の父親であることを知ってしまったあかりは、どうしても彼のことが気になる。

ロケが終わった時、さりげなく近づいたあかりに、コテツも「従兄弟なんて嘘だろう」と、あかりと涼太の関係を怪しんでいる様子。

あかりは思い切って「これが終わったらどうするつもり?」とコテツに聞いてみると、奨学金でアメリカに行くと言い、あいつ(涼太)の面倒しばらく見れなくなるから、よろしく頼むとあかりに伝える。

あかりはさらに、「彼女が行かないでって言ったらどうする?」と、アパートで見つけた和子の写真を見せながら聞くと、「そんなこと言う訳ない。むしろ、一人で行って来い」って言うよ、強い子だからな。

次のシーンは、セットを使った撮影だった。

画家のヒロは、密室の中で、壁に桜の絵を描き、恋人役のナツコは、壁一つ隔てた外で、何とかヒロに止めさせようと叫び続けるが、最後には二人とも床に倒れてしまう。

涼太は「カット!OK!」と笑顔で叫ぶ。

いつの間にか、和子もセットに来て、嬉しそうに撮影を見ていた。

二人になったあかりは、和子に「もし、コテツさんがあなたを置いて、遠くへ言ったらどうする?」と聞いてみる/

すると和子は「それってアメリカのこと?」と、すでに知っている様子で、「それ以外でも、頑張って来て欲しい。彼がやりたいことは応援したい。ちょっと強がりも入っているかも知れないけど」と、少し照れくさそうに答える。

あかりは「好きなんだ?」と問いかけ、和子は素直に「うん!」と答える。

その後、遅れてセットの建物から出て来たコテツに、この後は?と和子は近寄り、機材を返しに行くと云うコテツに、そのまま付いて行く。

そんな二人の後ろ姿を眺めながら、あかりは「70年代の男って面倒くさい!」と呟く。

その夜は、おでんの屋台で涼太とおでんを食べるあかり。

涼太は、明日載る新聞の告知を楽しみにしながらも、向こうでみんな待っているんだろうな…と、あかりがいつまでもこの時代にいないことを寂しがる様子を見せる。

あかりも、いつかは別れの日が来ることを予感していた。

涼太は、落ち込む気持を自ら励ますように、どこかで聴いたようなメロディを口ずさみ始める。

それは、2010年の元宮が吾朗おじさんと一緒に歌っていた吉田拓郎の「春だったね」だと知る。

夜、こたつの両側から互い違いに足を突っ込んで寝ていたあかりは涼太に、「なんで私を置いてくれたの?』と改めて聞く。

涼太は「何だよ、急に…」と口ごもるだけ。

あかりは、「こんな美少女に頼まれたら、普通断れないか」と自分で突っ込んで、気まずさをかき消そうとする。

涼太は将来、ビッグな監督になって、きれいな女優さんと結婚して、可愛い子供いるんだろうな…、でも、そん時の涼太には、私は過去の人になっているんだよね。何か、未来から来たのに、変だよね…と、あかりは独り言のように続ける。

涼太はこたつを飛び出すと、「ちょっと出て来る」と言い残して部屋を飛び出して行く。

彼が向かった先は、コテツのアパートだった。

カメラを貸してくれないか。ラストシーンを変更したい。このラストだけはどうしても自分で撮ってみたいんだと頭を下げた涼太に、コテツは「一つ貸しだ」と言っただけで黙ってカメラを差し出してくれた。

翌朝、駅前で買った新聞の尋ね人欄を確認してみた涼太は、その足で、桜並木の場所へ向かうと、白いコートを一緒に来たあかりに渡す。

あかりは、自分が出るの?と驚く。

コートを着たあかりは、まだ咲いていない桜並木を遠ざかるラストシーンに出る。

涼太は、この桜は36年後にも咲いているかな?と尋ね、あかりは、咲いているよ。ここだけはずっと…と答える。

その時、56のオッサンだけどいい?と言う涼太に、あかりは「うける~」と笑うが、涼太には「うける」の意味が分からない。

あかりは、「あなたの言葉をお受けします」と云う意味だと教える。

川に浮かぶひとひらのラベンダーの花を撮影していた男に、もう一人の男が近づき、映像が浮き出る一枚の薄い装置を示しながら、君の名前じゃないかと聞く。

それは、あかりたちが新聞に載せた尋ね人欄だった。

「これは!」驚いた男が立ち上がる。

川の上空には、得体の知れない鉄塔類が林立していた。

アパートに戻った寮は、門井から、国のお袋さんから電話だと教えられる。

部屋に戻って来た涼太に、あかりは、フィルム出来てたと嬉しそうに教えるが、涼太は全くその言葉に反応しなかった。

あきらかに普通じゃない涼太の異変に気づいたあかりは訳を聞く。

涼太は思い口を開き、「親父が倒れた。脳卒中だって…」と答える。

過労が祟ったんだ。俺が上京して来た時も、オイルショックで工場傾いていた。

俺はそれを知っていたのに帰らなかった。家を捨てたも同然だよ。

あかりは、何とか慰めようと、「お父さんが倒れたの、涼太のせいじゃないよ。応援してくれてたんでしょう?」と言葉をかけるが、「それなのに、俺はのんきに映画撮ってた…」と言いながら、涼太は現像上がって来たばかりのフィルムを投げ捨てる。

あかりは、それを拾って、時間かけても完成できるよと続けるが、涼太は「未来人なんかに分かるか!」と癇癪を起こし、部屋を飛び出して行く。

あかりは、1日金曜日のカレンダーを見て、今日が新聞に告知した約束の日だと云うことを確認する。

大学に戻った涼太は、一人でタバコを吸っていた。

一方あかりは、中学校の化学実験室に行くと、深町一夫を待つことにする。

涼太は、8mm編集機のエディタービュワーをのぞいていた。

そこには、カチンコを打つ嬉しそうなあかりの横顔が映っていた。

あかりは、アルコールランプの火で、ビーカーの中に入ったミルクコーヒーを暖めていたが、コップに写そうと手に取ったビーカーが扱ったので、思わず身を引き、机に置いてあった別のビーカーを落としてしまう。

慌てたあかりは、床に落ちたビーカーを確認しようと覗き込むが、不思議なことに、ビーカーは空中に静止していた。

「僕を呼んだのは君か?」男の声に気づき顔を開けたあかりは、そこに見知らぬ中年男が立っているのに気づく。

「もしかして…、深町一夫さんですか?」「君は?」

「あかりです。芳山あかり。芳山和子の娘です」と、何とかあかりは答える。

その名前を聞いた深町は驚き、「芳山君が!?」と問いかける。

「あなたに会うために時間を飛ぶ薬を作ったんですけど、事故に会っちゃって、今、入院しています」とあかりは説明する。

深町は「具合は?…そうか…」と、予断を許さぬ状態であることを悟る。

あかりは「本当は、1972年4月に飛ぶつもりだったんですけど、間違えちゃって…」と話を続けるあかりは、相手が中年の姿になっていることを不思議がる。

「でもどうしてですか?今、高校生のはずですが?」

深町は、「新聞の尋ね人欄の記録を見て2698年から来たのだ」と答え、自分の本名は「ケン・ソゴル」だと教える。

あかりは、母から託された深町と和子が一緒に写った写真とラベンダーをひとひらケンに見せる。

「消し忘れか…」と呟いた深町ことケンは、「彼女は僕に何と?」と聞く。

「約束、消えてないって…。教えて下さい!母との約束」あかりはそう伝える。

開発途中のタイムリープで過去へ言った私は、帰りの薬を忘れ、未来へ帰れなくなった一時期、深町一夫として存在した…とケンは語り始める。

その時、芳山和子と出会った。

土曜日の実験室で、未来へ変える薬を調合中、芳山和子は実験室に入ってしまい、薬の臭いを嗅いで失神した後、短期間だけタイムリープできる能力を身につけた。

僕が彼女に恋をしてしまい、いつか又会いに来れる?と云う彼女の言葉に、ああ、深町一夫としてではなく、全く別人として君に会いに来ると約束し、彼女も、記憶は消えても、その約束だけは心で覚えておくわと答えた後、自分が記憶を消した…と、ケンは説明し終える。

ケンはあかりに、君は使命を終えたのだから、帰らなければ行けない。僕の使命は、君と君に関わった人の記憶を消すことだと言いながら、記憶を消そうと手をかざすが、あかりは「待って下さい!どうしても会いたい人がいるんです。その人に会って未来に帰りたい」と懇願し、ケンは夕方まで待つことを承知する。

その頃良太は、アパートで荷物をまとめると、故郷へ帰る為、部屋を出ようとするが、その時、こたつの上に置いてあったメモに気づき読む。

それはあかりからのもので、はじめて会った研究室で待つと云うものだった。

大学の研究室で「光の惑星」のシナリオを読んでいた明かりの元に、涼太がやって来る。

あかりは、やっと伝えられたよ。お母さんのメッセージと伝えると、涼太も興味を示し、俺も会ってみたかったなと言う。

あかりは、きっとびっくりするよ。想像と全然違うから…と、いたずらっぽく答える。

涼太は、今夜の夜行バスで秋田に帰る。明日朝着いたら連絡するよと云う。

明日は私の誕生日だった。忘れてたと戯けるあかりに、涼太は、編集し終えた8mmフィルムを託す。

音はまだ入ってないけど、すぐに帰って来る。この映画だけは完成させるから、帰って来たら、一緒にこの映画を観よう、誕生日プレゼントとして…と告げ、部屋を後にする。

一人研究室に残ったあかりは、涙ぐみながら「帰って来たら、私はもういないんだ…」とつぶやき、廊下に走り出ると、先に歩いていた涼太に飛びつき抱きしめる。

涼太は「ありがとう」とあかりの額にキスをしてやると「フィルム、なくすなよ」と念を押す。

涼太と別れたあかりは、研究室からの帰り道、慌てた様子で走って来たスキー服姿の浅倉吾朗と偶然ぶつかる。

吾朗が言うには、スキー旅行に行くんだけど、チケット、家に忘れたのだと云う。

ここは新宿、吾朗の家は二子多摩川、どう考えても間に合う訳ないでしょうとあかりは呆れるが、その瞬間、2010年の母が入院していた病院で、吾朗おじさんが、深夜バスに乗り損なった話をしていたことを思い出す。

どこに行くのと念を押すあかりに、吾朗は「秋田の能代スキー場」と答える。

間違いない。あかりは、病院のテレビで放映していた過去の深夜バス事故のことを思い出す。

38名が死亡したバス事故はも秋田行きと云うことだった。

あかりは、涼太が深夜バスで秋田に帰ると言っていたことを思い出すと、矢も楯もたまらず、吾朗を置いてバス乗り場の方に駆け出す。

「涼太!」思わず、あかりは叫んでいた。

バス乗り場で、秋田行きバスの中に駆け込んだあかりは、必死に涼太の姿を探すが見当たらない。

勝手にバスの中に入り込んだあかりを注意しようと近づいて来た車掌に、あかりは、秋田行きのバスはこれしかないのかと聞くと、能代行きはあちらだと、後ろのバスを指差す。

その方を見ると、今まさに、バスに乗り込もうとする涼太の姿が確認出来た。

慌てたあかりは、秋田行きのバスから降りると、野城ユキのバスの方に駆け寄ろうとするが、その腕を誰かに捕まれ、動きを阻まれる。

腕を掴んだのはケン・ソゴルだった。

「未来から来た人間が、過去を変えてはならない」と説き伏せるケン。

しかし、抵抗するあかりは、「私は未来に帰らない!私はここに残る!」と叫び、バッグの中に入れて来た、帰り用の薬瓶をその場で投げ捨て割ってしまう。

そして、ケンの腕を振り払ったあかりは必死に走り始めたバスを追いかけて走り出すが、再びケンに静止されると、「どんなに残酷なことであっても、歴史を変えてはいけないんだ」と繰り返す。

あかりは「止めて!時間を止めて!」と必死に叫ぶが、ケンはそんなあかりの記憶を消し去ってしまう。

気絶したあかりが持っていたバッグの中から、8mmフィルムのリールが入った缶を見つけ、一旦は回収しようと、自らの上着の内ポケットに仕舞いかけたケンだったが、缶の中に入っていた一枚のメモを取り出しそれを読むと、又、フィルム缶をあかりのバッグに戻しておく。

あかりは、2010年の自宅で目が覚める。

テレビの「タイムトラベル」と言う番組では、1974年の深夜バス転落事故のことを放映していたが、あかりは別に気に留める風でもない。

母親和子は病室で目覚めていた。

そのベッドの横には、あのケン・ソゴル、深町一夫が立っていた。

ケンは、あかりから受け取った、和子と一緒に昔写っていた写真と一緒に封筒に入っていたラベンダーを和子の枕元にそっと置く。

和子は、伝言届いたのね、深町一夫として来てくれたのねと喜ぶ。

ケンは、あかりがは君に良く似ていると、メッセージをくれたことに対する感謝をすると、又いつか未来で会うことを約束し、和子の顔の前に手をかざすのだった。

病室を出て廊下を帰って行くケンは、見舞いにやって来たあかりとすれ違うが、当然、あかりはケンに気づくはずがない。

母親の病室に入って来たあかりは、和子が目覚めていることに気づくと、ナールコールを押す。

医者が言うには、MRS検査をするが、この様子だと大丈夫だろうと太鼓判を押す。

ベッドで目覚めていた和子は、何だか懐かしい臭いがすると呟く。

あかりは、母親の枕元に置いてあったひとひらのラベンダーの押し花に気づくと、「これ?ラベンダーだわ。誰が置いたんだろう?」と不思議がる。

その後、あかりは、自分のバッグの中に入っていた見覚えのないフィルム缶を発見する。

家に戻ったあかりは、父からの電話を受ける。

母親の容態が安定したことを告げたあかりは、父親に願い事をする。

その後、久々に再会した父親からあかりが借り受けたのは8mm映写機だった。

父、長谷川政道は、8mmなんか観るのか?監督は?タイトルは?と興味ありげに質問して来る。

「光の惑星」とあかりが答えると、一瞬口ごもった父親は、「ま、良くあるタイトルか…、昔古い友達と一緒に撮ったタイトルと同じなんだ」と答え、そのままあっさりとあかりの前から立ち去って行く。

家に女友達を呼び、一緒に謎の8mmフィルムを上映してみることにしたあかりは、映写機の操作を元宮に頼む。

上映が始まると、全く観た事もないし、音も付いていない退屈な素人映画のようだった。

女友達は途中ですぐに厭きてしまったようだったが、あかりは、何故か溢れて来る涙を止めることが出来なかった。

このフィルムを観ているとどうして自分が哀しいのか、理由も分からなかった。

缶の中に入っていたメッセージには「未来の桜を観る君へ」とだけ書かれていた。

あかりは、満開の桜が咲く並木を、一人で歩いて行く。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

原田知世主演、大林宣彦監督「時をかける少女」(1983)の続編的作品。

アニメ版「時をかける少女」(2006)のヒロイン紺野真琴の声を担当した仲里依紗が、原田知世が演じた芳山和子の娘を演じている。

1983年版が中学校、2006年版が高校と、学園ドラマ風の側面を持っていた青春映画だったのに対し、この2010年版では、過去の映画マニアの大学生との交流と云うちょっと違ったアプローチとなっており、レトロ風味を肺家にした、ごく一般的な青春恋愛ドラマ風の展開になっている。

仲里依紗は、明るく屈託がない現代的な少女を好演しており可愛らしいし、芳山和子を演じている安田成美も、明るくどこか風変わりな魅力がある母親を演じており、嫌みがない。

そして、溝呂木涼太を演じている中尾明慶も、ナイーブな映画青年を良く演じている。

やや尺が長い気がしないではないが、じっくり過去の世界での経験を重ねて行く現代少女の物語は、旧「時かけ」を観ている世代にとっては、格別な想いで楽しめる内容になっているのではないだろうか。