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戦国群盗伝('37)

1937年、P.C.L.+前進座、三好十郎原作、梶原金八脚色、滝沢英輔監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

タイトル部分で、主要俳優の名前がその姿と共に紹介される。

北条家と上杉家が覇権を争っていた時代。

富士の麓、野武士が根城としている合掌造りの山小屋の中では、朝起きた野武士たちが顔を洗ったりしている。

戦利品らしき兜をかぶった猿丸(市川莚司=加東大介)が、同じく戦利品の中から火縄銃を見つけ、その扱い方を仲間に聞く。

そこに、一人の野武士が戻って来て、大仕事を見つけて来たと仲間たちに報告する。

土岐左衛門尉が、小田原の北条家に上納金を奉納するらしいので、それを横取りしようと云うのであった。

そんな中、猿丸から聞かれた勝太(助高屋助蔵)は知ったかぶりをして、火縄銃の扱い方を教え始めるが、本当に火縄に火をつけてしまったので、銃が暴発し、その音に驚いた馬が逃げ出してしまう。

銃を暴発させた張本人の勝太は、馬が一頭逃げ出したと聞き、馬の手綱をしっかり縛っていないなど武士の風上にも置けないとあざけるように言っていたが、逃げた馬が自分の馬だと聞くと慌てて外に飛び出し、馬を追いかける。

その逃げていた馬が近づいたのに気づいた通りかかりの男は、さっと馬にまたがると、馬をあやし始める。

そこに、ようやく追いついた勝太が近づき礼を言うが、馬に乗った男は、そんな言葉は耳に入らないかのように、そのまま馬に乗り続け、走り去ってしまう。

馬に乗った男は、近くの農家にやって来ると、その馬を売ろうと家の主人と掛け合うが、ちょうど、この間、馬を盗まれた所なので買っても良いと、主人がその男が持って来た馬を見るが、その途端、これは自分の家から盗まれた馬の青ではないかと驚き、「馬泥棒だ!」と大声を上げたので、近所の農民たちが集まって来る。

思わぬ展開に驚いた馬を持って来た男は這々の体で逃げ出すと、気分直しを兼ね、町の飲み屋に入るが、そこには、昼日中から大声で唄を歌う一団が飲んで騒いでいた。

男は、自分の小刀を金に替えて一杯飲ましてくれと店の女に掛け合う。

酒が来るのを待っていた男は、目の前で既に酔っていた客が、ちらちら自分の顔を見ている事に気づき、自分もどこかで相手に見覚えがあったので誰だったか頭をひねっていたが、ほとんど同時に、相手の正体に気づく。

先に酔っていた男こそ、馬に逃げられたあの野武士の勝太だったのだ。

ふたりはたがいに「馬泥棒!」「お前こそ馬泥棒ではないか!」とののしり合い、あげくの果てに、表に出ろと気色ばむが、そこに仲介に入ったのが、野武士の一人治部資長(市川笑太郎)だった。

店に連れ戻され、治部から酒を勧められながら丁重に名乗られた男の方も、甲斐六郎(中村翫右衛門)と名乗る。

そんな六郎に、治部は、そなたは大層、馬が達者らしいが、その腕を見込んで一つやってもらいたい仕事があるのだが…と話を持ちかけて来る。

その頃、土岐の城の中では、城主の土岐左衛門尉(河原崎長十郎)が、何やら城に運び入れている農民たちの姿を城郭から見つけ、あれは何かと、次男である次郎秀国(河原崎国太郎)に問いただしていた。

次郎が云うには、北条家に献上する上納金が少ないので、農民たちから新たに年貢を取り立てているのだと云うではないか。

そこに、外出から戻って来た長男、太郎虎雄(坂東調右衛門)は、自分が不在の間に、弟次郎の独断でそんな事をやっていたと知り驚き注意する。

太郎は常々、民百姓を苦しめるような事は絶対にするなと言い聞かせて来たからだ。

弟の勝手な行動を諌めた太郎は、上納金は今城にあるだけで良いので、すぐに農民たちを帰すよう次郎に命ずる。

そうした話を聞いていた父左衛門尉も、次郎を叱りつけるのだった。

太郎は、その父親に、明日早朝、自分が上納金を小田原の北条家まで運んで行くと申し出る。

左衛門尉は、道中、野武士に十分気をつけるよう、太郎に言い聞かす。

その頃、自分の部屋に戻った次郎は、父と兄から叱られ、ふてくされていたが、兄が上納金を運ぶと知り、あんな兄、このまま帰って来なければ良いのに…と、日頃の不満を口に出してしまう。

その言葉を、いつの間にか部屋の外に控えていた家老の山名兵衛(橘小三郎)に聞かれてしまった事を知った次郎は、心を読まれたかのような不快感を覚え、山名に下がるよう命ずる。

翌朝、北条家への上納金を運ぶ太郎の一行は、いきなりどこからともなく撃たれる。

待ち伏せしていた野武士たちが一行を襲撃し、銃声に驚き、上納金を積んだ馬が逃げ出したので、太郎はあわててその馬を追うが、途中で銃撃を受けてしまい落馬してしまう。

一方、草むらに潜んでいた甲斐六郎は、逃げ出した馬を追いかける。

上納金を賊に奪われたとの報告が城にもたらされるが、それを聞いて驚く次郎の横で、同じく聞いていた山名は、無礼者と言うと、伝令をその場で斬り捨ててしまう。

その行動に驚く次郎に対し、山名は、兄上様は上納金と共に逐電なされたと言い聞かせ、賊に襲われたなどと云う報告は聞いていないときっぱり否定する。

山名の真意を理解した次郎は、太郎が上納金と共に逐電したと父親に報告に行くが、左衛門尉は、そんな話は到底信じられないと驚愕し、伝令はどこにいると問いかける。

すると、山名が、そんなおかしな報告をした狂った伝令は、自分が斬り捨てましたと冷静に受け答えするのだった。

住処に戻った野武士たちは、打ち合わせ通り、上納金を積んだ馬を連れてやって来るはずの六郎が、なかなか戻って来ないので、六郎を見込んでこの仕事を頼んだ治部はやきもきしていた。

そこへ、ようやく戻って来たのは、荷物を積んでいない馬だけだったので、治部は、まんまと六郎にしてやられた事を知るのだった。

その頃、落馬し、怪我を負った太郎は、近くの農家に助けられ、手厚く介抱されていた。

数日が過ぎ、何とか身体も動くようになった太郎は、農家の主人に勧められ、娘の田鶴(山岸しづ江)と共に、足慣らしのため、近くを散歩する事にする。

一方、城にいた次郎の方は、太郎が今にも帰って来るのではないかと不安におののいていた。

太郎の許嫁、小雪姫(千葉早智子)は、今やすっかり次郎の言葉を信じ込み、悩む左衛門尉を気遣っていた。

そこへ、北条家からの使者畑山剛太夫(嵐芳三郎)がやって来て、上納金がいまだに小田原に届かぬがどうした訳かと問いただして来る。

それに応対した次郎は、太郎虎雄は上納金と共に逐電したので、先日勘当した。今後はいかようにも御成敗くださいますようと、横で聞いていた父親も無視して伝える。

そんな次郎の言動を、小雪は部屋の外でじっと聞き耳を立てていた。

やがて、町中に、上納金と共に逐電した太郎虎雄を見つけたら知らせるよう高札が立つ。

それを興味深そうに読んでいたのは、あの野武士軍団だった。

その野武士たちが、いつもの飲み屋に入ると、何と、あの六郎が愉快そうに飲んでいるではないか。

治部は、だまされた六郎に詰め寄るが、六郎は悪びれる風もなく、金なら安全な所に隠してあるから心配するなと平然と答え、息巻く野武士たちに、今日は俺がおごるから酒でも飲もうと笑いかける。

しかし、野武士たちがそんな懐柔策に乗るはずもなく、女中に客を入れるなと命じると、六郎に詰め寄って行く。

そんな緊迫した場面に、一人の客が入って来る。

野武士は、その客を追い出そうとするが、逆に投げ飛ばされてしまう。

その様子を見た仲間たちは、その客の方へ一斉に向かって行ったため、六郎は店の中で取り残されてしまう。

驚いた事に、その客は一人で野武士たちを蹴散らせてしまう。

そのあまりの強さに感心した六郎は客に礼を言うが、その客は、店の表に立っていた高札を読み始める。

六郎は、客を店に招くと酒を勧めながら、あの太郎虎雄と云う人物は立派な奴で、自分の幼なじみであり、高札に書いてあるような事をするはずがないと話し始める。

何事においても優れた奴だが、馬がまずい。時々落ちるなどと六郎が、太郎の事を説明している時、高札を出した管領宮崎家の捕方たちが店になだれ込んで来て客を取り囲む。

すると客は、「自分が太郎虎雄だ。竹馬の友を忘れたようだな」と六郎に笑いかけたので、ホラ話をしていた六郎は唖然としてしまう。

その強い客こそが、上納金を積んだ馬を追いかける途中、銃撃で落馬し、農家で怪我の療養をして元気になった土岐左衛門虎雄本人だったのだ。

太郎は捉えようとする捕方たちに抵抗するが、側でその様子を見ていた六郎は、足軽の一人が銃を構えようとするのを見ると、とっさに物を投げつけ加勢をし始めると、太郎を外に連れ出す。

六郎は、高札を引き抜き、それを振り回して捕方たちを追い払うと、そのまま太郎を自分の住処であるあばら屋まで連れて来て、汚い所だが、しばらくここで隠れていろと勧める。

隣の部屋で寝ようとした六郎だったが、盗まれた上納金の行方を何としても探し出すと固い決意を述べた太郎を知った今、やすやすとは寝付けず、とうとう寝ようとしていた太郎を表に連れ出すと、鍬を持たせる。

怪訝そうな表情の太郎に、決して怒らぬと誓いを立てさせた六郎は、庭先を掘ってみろと言い出し、実は上納金を盗んだのはこの俺だと告白する。

驚いた太郎だったが、約束をした以上、怒るに怒れないまま、土の中から出て来た千両箱を掘り当てるが、その時、六郎を付けて来た野武士の一団が庭先に乱入して来て二人を取り囲む。

しかし、六郎の連れが、飲み屋でこてんぱんにやっつけられた客と知り、尻込みする野武士たち。

そんな野武士に向かい、太郎は、自分こそ土岐左衛門虎雄であり、この上納金の持ち主だ。奪おうとする奴は相手をすると息巻いたので、鼻白んだ野武士たちはすごすご退却するしかなかった。

翌日、六郎と共に、上納金を積んだ馬を連れ、父と弟が待つ城に戻っていた太郎は、六郎をすっかり気に入り、城に帰ったら、それなりの役職を約束するから仕官しないかと誘う。

しかし、六郎は、一国一城など、俺にとっては小さすぎると笑いながらきっぱり断る。

やがて、二人の前に管領宮崎家の捕方たちが立ちふさがる。

心配する六郎を表に待たせ、太郎は叙情を説明すればすぐに誤解は溶けるはずだと言い残し、臆する事なく宮崎家の城に入って行くが、案の定、いつまで経っても戻って来ない。

たまりかねた六郎が門番に事情を聞くと、あの者はすでに入牢と決まったと云うではないか。

牢に入れられた太郎も、必死に宮崎殿にお伝え願いたいと牢番に申し立てていたが、一切相手にされなかった。

その頃、野武士たちは、いつものように塒の山小屋の中で陽気に酒を飲み浮かれていた。

そこに、単身乗り込んで来たのは、またもやあの甲斐六郎であった。

六郎は、今日はまじめに尽力を頼みたいと切り出すと、酔って彼を無視する野武士たちに向かい、土岐左衛門虎雄こそは、関東一の若大将である。その太郎が、今、宮崎家に捉えられ、縛り首にされようとしており、無実の罪で命を落とそうとしているのだ。上納金を盗んだ奴は俺たちが一番良く知っている。今、土岐家が小田原北条に媚びんとしているのを見て見ぬ振りをするつもりかと訴え始める。

やがて、野武士たちも、六郎の言葉にしゅんとなり始める。

その六郎の言葉通り、宮崎家にやって来た家老山名兵衛は、勘当した太郎の処分は御存分になさいませと申し出ていた。

その時、遠くから雄叫びが聞こえて来て、牢に入れられていた太郎が何者かによって逃がされたとの報告が入る。

野武士たちによって助け出された太郎だったが、六郎の忠告も聞かず、父親や弟が待つ城に戻って、きちんと事情を説明すると言い出す。

父と弟を信じたいと云うのだ。

その頃、城に帰っていた山名兵衛は、夕べ、太郎が宮崎家の城を破って逃げ出したと次郎に報告していた。

それを聞いた次郎は、兄が戻って来たらどうしようと怯え出す。

それに対し山名兵衛は、門を固く閉じ中に入れさせなければ、宮崎家の捕方が隠れているのですぐに掴まえられると説得する。

その夜、単身城に戻って来た太郎は、門を叩き、開けるよう声を上げるが、中にいた門番は、その場にいた山名兵衛の命令で門を開ける事が出来ない。

いら立った太郎だったが、そこに銃声が響き、外に隠れていた宮崎家の捕方たちが襲いかかる。

門の所に駆けつけた小雪姫は、何とか自分で門を開けようとするが、山名兵衛に邪魔される。

家名を考えろと云うのだ。

しかし、小雪姫は、懐剣を抜き抵抗する。

一方、門の外で応戦していた太郎だったが、多勢に無勢、どうにもならないと悟ると、乗って来た馬に再び飛び乗ろうとするが、捕方たちの追跡も執拗で、太郎は一晩中森の中を逃げ続け、もはやこれまでと思われた。

そこに駆けつけて来たのが、六郎と野武士たち。

太郎は彼らに助けられ、塒の山小屋に連れて行かれる。

六郎は、太郎が助かったので大喜びだったが、太郎の方は、今こそ目が覚めたと神妙になり、自分は本日より、天城山の虎となると宣言する。

かくて1年が過ぎ、雨着の虎となり、野武士の頭になった太郎は、土岐家から北条家への上納金の輸送を次々と襲撃し始める。

こうした反逆行為に業を煮やした北条家の所司代は、天城の虎を捕らえよとの高札を立てるが、野武士たちは、引き抜いて来たその高札を的に矢の練習をする有様だった。

そうした中、単に的当てでは詰まらぬので、何か賭けないかと云う事になり、つい、娘を賭けようと言い出した者がいたのを聞きとがめた六郎は、山小屋の中に呼び出すと、お頭太郎が最初に何とお前たちに誓わせたか忘れたかと注意する。

それは、民百姓を苦しめたり、領民である女子供を犯してはならないと云う誓いであり、それを破った者は、お頭自らが一刀の元に斬り捨てると云う厳しい掟だった。

そうした規範を守らせようとする六郎の姿を、物陰から太郎はじっと聞いていた。

しかし、そうした規範に不満を募らせていた者もいた。

治部資長と梵天(中村鶴蔵)だった。

治部は、こんな窮屈な思いをするのはばかばかしい。実は近くの村で良い女を見つけたと梵天に打ち明けていた。

ある日、農家の娘、田鶴は、土岐の城のお殿様に会ったと言いながら、弟音蔵(市川扇升)が連れて帰って来た太郎を見て驚く。

太郎は、遠出して来たので、この前のお礼を言いに来たと云うではないか。

久々の再会を喜ぶ田鶴だったが、音蔵は、そんな姉に、天城の虎が庄屋の家に押し入ったと愉快そうに報告する。

今や、貧しい者からは盗まず、殺生もしない野武士の一団を義賊のように憧れる音蔵のような者が増えていたのだ。

しかし、その天城の虎の治部資長と梵天は、その庄屋を襲った帰り、以前見つけていた良い女が住む水車小屋に二人きりで近づいていた。

その水車小屋の女とは、田鶴の事だったのだ。

一方、その農家の主人は、太郎をもてなしながらも、天城の虎の事を美化して話す息子に対し、泥棒は所詮泥棒だと言い聞かせる。

その言葉を、太郎はじっと噛み締めるように聞いていた。

しかし小雪は、考え込む太郎を見て、お城の小雪様の事を想っておられるのでしょう?と娘らしい勘違いをしたので、太郎はつい、長く会わないままでいる小雪の事を思い出してしまう。

夕方になったので、太郎は田鶴と音蔵に途中まで見送られ農家を後にするが、その後に農家にやって来たのが治部資長と梵天だった。

農家に入り込んだ二人は、田鶴の姿が見えない事を知ると、一人残っていた主人に襲いかかる。

一旦、森の中に帰りかけた太郎だったが、ふと気が変わり、道を戻る事にする。

その頃、太郎を見送り、家に戻って来た田鶴と音蔵は、侵入していた治部資長と梵天に捕まりそうになるが、音蔵だけは何とか外に逃げ出し「人殺し!」と声を上げる。

その声に気づき、駆け寄って来た太郎が見たのは、音蔵を追って来る梵天たちの姿だった。

梵天たちも、やって来たのがお頭と気づくと、一目散に逃げ出してしまう。

農家に戻って来た太郎は、そこに斬られて死んだ主人と嘆き哀しむ田鶴の姿を見て呆然と立ち尽くす。

音蔵も、天城の虎が父親を殺した事にショックを受けていた。

塒の山小屋に戻った太郎は、六郎に全員を呼び集めるように命ずる。

その頃、治部は、北条家の捕方たちを連れて、その山小屋に近づいていた。

天城の虎の塒を密告したのだ。

集まった仲間たちを前に、太郎は一人いないはずだと言い始める。

六郎は、岩松(中村進五郎)、猿丸、抗兵衛(山崎進蔵)、勝太…と点呼を取り始めるが、そう云われると、確かに治部がいつの間にかいなくなっていた。

窮地に追い込まれた梵天は、こんな窮屈な所にいるくらいなら坊主にでもなった方がましだ!偉そうなことを言ったって、泥棒は所詮泥棒じゃないかと叫び、小屋の外に飛び出るが、その途端、待ち構えていた捕方の放った銃弾に倒れる。

取り囲まれた事を悟った太郎は、陽の暮れるのを待って逃げ出そうと六郎と相談するが、そうした中、捕方たちは、山小屋の藁葺き屋根に火矢を射かけて来る。

屋根に火がついた事を知った野武士たちは必死に消火を試みるが、貯めていた水はあっという間になくなってしまう。

焼き殺されるとうろたえた野武士たちは表に飛び出すが、待ち構えていた捕方が放つ銃で皆倒れて行く。

六郎は、飛び出すと撃たれるだけだと注意するが、もはやこれまでと観念した太郎は、もし逃げ延びて命があったら、一月後、猫待峠で会おうと仲間たちに伝え、全員、煙に隠れて逃げ出す事にする。

山小屋に残っていた太郎の脇差しを手に入れた山名兵衛は、それをいまだに太郎を待ち続けている小雪に見せ、北条家の役人に撃たれたと報告する。

翌日、密告の報償として金を掴んだ治部資長は、女を侍らせて酒を飲んでいたが、女たちが、かつて自分たちが愛唱していた唄を歌うので面白くなくなり癇癪を起こす。

女たちを部屋から追い出した治部だったが、誰が唄っているのか、料亭の中にまだ歌声は続いていた。

そんな治部の部屋に、「夕べは酷い目に会ったよ」と言いながら、のっそりと入って来たのは甲斐六郎だった。

怯える治部に対し、何にも気づいてない様子の六郎は、頭に頼まれてそなたを探していたのだが、銃の扱い方を知っている勝太や猿丸が皆死んでしまったので、そなたに銃の扱い方を聞きたいのだと話しかける。

自分が裏切った事に気づかれていなかったと知った治部は、喜んで銃の扱い方を教え始める。

火縄部分に火をつけ…と、治部に教えられるまま、持って来た銃に火をつける六郎。

やがて、料亭内に銃声が轟く。

そこから一人出て来たのは、六郎だけだった。

そんなある日、病み上がりにも関わらず、家来の藤田源吾を連れ、遠出して来た土岐左衛門尉は、人気のない崖の上に差し掛かった所で、足を滑らせ崖下に墜落してしまう。

急ぎ城へ駈け戻った藤田は、お殿様が崖下に転落したと小雪に報告するが、一緒に聞いていた山名兵衛からはきつく叱りつけられる。

驚いて、部屋を飛び出しかけた小雪だったが、ふと足を停め、背後の様子をうかがっていると、藤田に対し、この城をそっくり北条家に差し出せば、わしも一国一城の主となり、そなたの身分も保証してやるとささやきかける山名兵衛の言葉をしっかり聞き届けていた。

太郎の逐電や城主の事故の裏側に、山名の影が蠢いている事を小雪は以前から悟っていた。

兄に続き、父親までいなくなり、城の実権を握った弟次郎は、小雪と婚礼をしようと言い出すが、小雪は、自分は太郎様の妻でございますときっぱりはねつける。

その夜、寝室の布団の上で、小雪は服毒自殺を図る。

塒を逃げ出して一月が経ち、約束通り、猫待峠の山小屋で待っていた太郎の元に集まった野武士たちの数は少なかったが、金兵衛などは、久々に出会った太郎に飛びついて喜んでいる。

太郎は、隣の部屋に誰かが寝ている様子に気づき、誰かと聞くと、六郎が、崖下で倒れて瀕死の状態だった男がいたので連れて来たのだと言う。

太郎は、集まった仲間たちに、かつて梵天が言った言葉を覚えているかと話し始める。

「泥棒は所詮泥棒、これは正義だろうか?」

悩む太郎に対し、六郎は明るく酒を勧めるが、その時、隣の部屋から「太郎…、太郎!」と力なく口走る男の声が太郎の耳に届く。

まさかと思った太郎が隣の部屋に駆け込むと、そこで寝かされていたのは、まぎれもなく父親の土岐左衛門尉だった。

六郎は、お供の者に突き落とされたと呟いていたと太郎に教える。

左衛門尉は、太郎の腕に抱えられた直後、息を引き取る。

その頃、土岐の城では、瀕死の状態になった小雪が寝かされていたが、次郎は、自分が殺したようなものだと悔やんでいた。

しかし、そんな弱気な次郎を山名兵衛は嗜めていた。

その時、再び城に戻って来た太郎は、次郎を出せと門外から声をかける。

それに気づいた山名兵衛は、又しても門の所に駆けつけると、絶対開けるなと門番に命ずるが、一人の門番が耐えきれずにかんぬきを引き抜き、山名から斬られてしまう。

太郎は、開いた門の隙間から城の中に侵入する。

太郎は、自分は土岐左衛門虎雄だ!次郎はどこだと叫びながら城の中に走り込むが、狼藉者として迎え討つ家来たちと剣を斬り結び合う。

そうした騒ぎの中、廊下に立っていた行灯が倒れ、火が燃え広がる。

兄が戻って来た事を知った次郎はうろたえ、全て山名が企てた事だと叫びながら逃げ回るが、その山名に斬られてしまう。

しかし、その山名は、太郎によって斬られて果てるのだった。

燃える城の中、太郎に付いて来た六郎も暴れ回っていた。

太郎は、瀕死の小雪の元に駆けつけると、その身体を抱え起こすが、その腕の中で小雪は息絶えてしまう。

城は焼け落ち、土岐家は滅びてしまった。

太郎は、呼び寄せた田鶴と音蔵に、作ったばかりの小雪の墓を見せる。

六郎は、生き残った野武士たちに向い、これからは、民百姓の為に、自由の天地を作ろうと呼びかけるのだった。

その後、富士の裾野を走る野武士の一団の姿があった。

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

戦前の作品で、主要な俳優は歌舞伎役者らしいが、暗さや堅苦しさは全くなく、全編自由奔放、ユーモラスで痛快な娯楽時代劇になっている。

本作は「前篇 虎狼」と「後篇 暁の前進」の二部作らしいが、今回観たのは、その総集編だと思われる。

特に、豪放磊落な自由人甲斐六郎のキャラクターを見ていると、これは完全に三船敏郎のイメージだなと思ってしまう。

事実、戦後の1959年、三船が甲斐六郎を演じ、黒澤明が脚色を担当した、杉江敏男監督による「戦国群盗伝」のリメイク版が作られている。

リメイク版で太郎虎雄を演じているのは鶴田浩二らしい。

これも観てみたかったが、今回、こちらの作品を上映するとの情報で出かけたのだが、スタッフたちの手違いにより、上映されたのはオリジナル版の方だった。

土岐家の城の中のお家騒動は、戦後の娯楽時代劇でもお馴染みのありふれた設定だし、城主となるべき跡継ぎが城を追われた後、盗賊の首領になると云う展開は、貴種流離の典型例のようだが、義賊とはいえ、殿様候補が盗賊にまでなると云うのはなかなか突飛で、今観ても痛快である。

戦国時代なら、そうした事もあったかも知れないと思わせるからだ。

「天城の虎」と名乗り、北条家への上納金を奪うようになった太郎が、木の上から蔦を使って、あたかもターザンのように馬に飛び移る姿は、当時のターザン人気をヒントにしたものではないだろうか?

野武士の描き方が明るく楽しいのに対し、土岐家の次郎や悪役家老山名兵衛の描き方が紋切り型で掘り下げがないのが、今の目で観るとちょっと物足りなくも感じるが、物語の主眼が野武士たちの方に置かれている所から致し方ない所かも知れない。

それにしてもこの作品、後年の「七人の侍」を連想させるシーンがいくつかある。

野武士が、自由や民百姓の為に戦うと云う設定、馬に乗った野武士軍団が富士の裾野を駈ける姿などもそうだが、大きな合掌造りの山小屋の藁葺き屋根に火が付いて燃え上がるシーンなどはまさに「七人の侍」。

実際に影響があったかどうかは分からないが、黒澤明も観ていた可能性は高いと思わせる作品である。