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大江戸千両祭

1958年、東宝、宇野信夫「心の灯」原作、竹井諒+蓮池義雄脚本、青柳信雄監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

江戸の髪結い「おかめ床」には、昼間から暇を持て余した男たちが集まっていた。

鉄(由利徹)と八公(八波むと志)がへぼ将棋をしているのを、横で眺めていた利八(南利明)があれこれ口を出して一悶着。

そこに、仲間内から貧乏神とあだ名されている勘十郎(本郷秀雄)がやって来るが、大工職人が本を読んでいるのを見て、読んでみせろとからかう。

怒ったその大工職人は、「あねさま合戦」と云う本をみんなの前で声を出して読んで見せようとするが、それは「姉川合戦」の本で、勇んで読み始めた職人は、最初の一行もまともに読めなかった。

それを聞いていて「職人のくせに、本なんて読む奴はろくな奴じゃない」と声を上げたのは、先ほどから髪結いの仙之助(トニー谷)に髷を整えてもらっていた客の大工、金兵衛(柳家金語楼)だった。

その声で金兵衛に気づいた勘十郎は、祭りの寄り合いがあると師匠が呼んでいるよと教える。

それを聞いた金兵衛は、急に喜び、いそいそと店を出て行きかけたので、仙之助はお代を請求する。

金兵衛の祭り好きは町内でも有名だったのだ。

しかし、読み書きすら出来ないので、いまだに棟梁になれないことを知っている鉄や八公らは、店を出て行った金兵衛の事をバカにし出す。

その話に加わった仙之助や松五郎も、お蝶と云うきれいな娘がいるのにねぇなどと噂をしていたが、その当のお蝶(八千草薫)が店先に立っていたことに気づくと、ばつが悪そうに黙り込む。

お蝶は、父親なら祭りの寄り合いに出かけたと勘十郎から聞くと、髪結い代はきちんと払ったかと仙之助に確認し帰りかけるが、その時、お父っあんの悪口は言わないで下さいと、その場にいた男衆に言い残して行く。

祭りの出し物に付いて登美春師匠(藤間紫)の家に集まったのは、金兵衛、長屋の大家太兵衛(沢村いき雄)、尺八の先生(小西得郎)、若旦那こと徳三郎(柳沢真一)、鳶松こと松五郎(如月寛多)などだった。

催し物としてお芝居をしないかと提案したのは師匠だったが、金兵衛はすぐに乗り気になり、自分に良い役を付けて下さいねと頼んで、早速芝居のまねなどしてみせ、他の出席者たちに苦笑される。

寄り合いの後、鳶松と共に長屋に帰って来た金兵衛だったが、そんな二人に自分の所に届けられた手紙を読んでくれと声をかけて来たのは、同じ長屋で金兵衛の向かいに住んでいる寅吉(南都雄二)だった。

自分は文字が読めないので、読んで欲しいと云う。

女房に読んでもらえば良いではないかと二人が云うと、これからの手紙だったら困ると小指を差し出す。

差出人の当てはないのかと聞きながら手紙を受け取った鳶松は、鳥越の叔父からかも知れないと答えた寅吉に応ずるように、その叔父さんからの手紙だと云う。

丼を貸してくれなどと書いてないかと寅吉が聞くと、そう書いてある。茶碗も貸してくれと書いてあるなどと、いかにも、手紙を読んでいるかのように答えていたが、そこに近づいて来たのが、寅吉の女房おなみ(ミヤコ蝶々)。

事情を聞き、手紙を受け取ってみると、「ご存知より」と書いてあることに気づき、寅吉を責め始める。

実は、鳶松も文字が全く読めなかったのが、金兵衛の前で恥をかきたくなかったので、でたらめを教えていたのだった。

道の真ん中で、派手な夫婦喧嘩を始めた寅吉とおなみの様子を苦笑しながら見ていたのは長屋の娘二人(中田康子、安西郷子)。

家を出た所で、同じく呆れて夫婦喧嘩を眺めていた金兵衛に気づいたお蝶は、棟梁から使いがきたと教える。

あわてて棟梁の家に出かけ、暗くなって帰宅途中だった金兵衛は、橋の上で身投げをしようとしている若者を見つけ、思わず駆け寄り助ける。

訳を聞くと、自分は鼈甲の山城屋の手代だが、集金でもらった代金百両をスリにとられてしまったのだと云う。

百両と聞いた金兵衛は、さすがに驚くが、ちょうど今、遠出の仕事の前渡金として棟梁から受け取って来たばかりの十両を、そっくりその手代に渡して帰る。

浮かぬ顔をして帰宅した金兵衛は、何かあったのか?と心配するお蝶を他所に、すぐに寝ると言いながら布団に入ってしまう。

様子が変よとさらに声をかけるお蝶に、ムクリと起き上がった金兵衛は、小田原への遠出の仕事用にと棟梁から受け取った十両を博打ですってしまったと答える。

それを聞いたお蝶は、取りあえず明日朝すぐに棟梁に謝りに行きなさい。お金は月々少しづつでも返済してゆけば良いわと慰める。

翌朝、長屋の前では、祭り用に鼓が置いてあり、勘十郎や三吉(丘寵児)丹次(加藤春哉)らが浮かれて叩いていると、娘たちがうるさいと文句を言いながらも、嬉しそうに一緒にはしゃぎ出していた。

そんな中、大家の太兵衛(沢村いき雄)が、二人の客を金兵衛の家まで案内して来る。

出て来たお蝶が、父なら今、棟梁の所に行っていると教えると、二人の客は恐縮しながら、金兵衛の帰りを待たせてもらうことにする。

間もなく、金兵衛が帰宅して来たので、家の前で出迎えたお蝶は、来客から夕べの話は聞いたことを耳打ちして家に入れる。

金兵衛を待っていた二人の客とは、夕べ、金兵衛が十両を渡した山城屋の手代多七(太刀川洋一)と、店の主人彦兵衛(森川信)だった。

彦兵衛は、夕べ、多七の命を助けてもらった礼を言うと、実は、すられたと思っていた百両は、集金先に置き忘れていたことが後で分かったので、あなた様のお陰で大事に至らず良かったと云う。

金兵衛は安堵するが、彦兵衛が差し出した十両とお礼の金や土産は受け取ろうとしなかった。

その十両は、もうそちらの手代にやったものなので、受け取らないと云うのだ。

横で聞いていたお蝶は父親の非礼をなだめようとするが、頑固一徹の父親が一度言い出したら聞かないことを知っているのでその内諦めてしまう。

押し問答をしているうちに、彦兵衛も金兵衛の気性に気づいたのか、その気っ風に惚れたと云うと、出した金は一旦引っ込め、改めて山城屋出入りの大工になって欲しい。今後こちらの暮らしに不自由はさせないと言い出す。

さすがの金兵衛も、この心配りには感謝するしかなかった。

しかし、そこに、鳶松が祭りの寄り合いに行こうと誘いに来ると、来客二人を残したまま、金兵衛は家を飛び出して行ってしまうのだった。

師匠が言うには、芝居の役柄として、金兵衛には腰元をやってもらいたいと云う。

セリフは一言「きゃいのう」と言ってくれと云うではないか。

意味が分からない金兵衛はあっけにとられるが、大家の太兵衛が乞食をやるので、同じく腰元役の若旦那のセリフの後に「きゃいのう」と続けて言えば良いのだと尺八の先生に説明される。

その後、勘十郎、三吉、丹次三人が湯屋に行き、先に金兵衛と大阪出身の隠居(花菱アチャコ)が入っていた湯船に入ろうとすると熱すぎてとても入れない。

水で薄めようとすると、熱さを我慢している隠居が「こんなもの日向湯でんがな」と言い出したので、金兵衛も負けずに我慢するが、湯船に入れず外に立ったままの三人は寒さに震え出す。

その内、金兵衛と隠居の江戸と大阪京都の祭り自慢合戦が始まり、最後には、金兵衛が湯船の中で熱さにのぼせて失神してしまう。

そんな事件を長屋のお蝶に知らせに来たのが三吉。

驚いたお蝶だったが、金兵衛は見慣れぬ浪人ものに連れられて帰って来る。

名前も名乗らず帰って行ったその浪人を、親切な良い人ねとお蝶は感心するのだった。

ある日、山城屋で仕事をして昼時になった金兵衛は、近くにいた羅宇屋の治助(榎本健一)にキセルの掃除を頼む。

聞けば、その治助と言うのは、山城屋が建てた長屋の店子なのだが、すでに三月分も家賃を払っていないらしい。

そこに通りかかったのが、先日湯屋から長家まで運んでもらった浪人者。

互いに言葉を交わした様子を見ていた治助は、今の浪人を知っているのかと金兵衛に聞いて来る。

実は、あの浪人者は、治助の隣に住む栗田甚内(小泉博)と云う男で、付き合いの悪い妙な男なのだと言う。

そこにやって来たのが、勘十郎らトリオで、今夜は宵宮(祭りの前日)ですぜとけしかけたので、祭り好きの金兵衛は居ても立ってもいられなくなり、急病で帰ったことにしてくれと云い残しと、そのまま仕事をほっぽらかして出かけてしまうのだった。

その後、心配した手代の多七がお蝶の元へ訪ねて来るが、仮病で不在になったことを知ると、自分も穀町で育ったので、お父さんの気持は良く分かると祭り好きに理解を示すのだった。

お蝶は、明日の半纏を縫いながら、帰って行った多七のことを好もしく思い出すのだった。

その夜、向いの寅吉とおたみが又派手な夫婦喧嘩を始めたので、見かねたお蝶は、おたみを自分の家に連れて来て落ち着かせる。

気勢をそがれたおたみは、お蝶が縫ったはんてんを見つけると、本当に上手だ。あんたもそろそろ壻はんもらわなあきまへんなと笑いかける。

しかしお蝶は、亭主なんてまっぴらですよ。毎日喧嘩ばかりしなけりゃ行けないんですからと本気だか皮肉だか付かないような返事をしたので、鼻白んだおたみは、家の亭主も昔は良い男で、オシドリと呼ばれていた時期もあるとおのろけ話を始める。

そこに、金兵衛が帰って来たので、おたみはばつが悪くなり帰って行く。

金兵衛は、明日の天気を盛んに気に掛け、お蝶が、先ほど多七がきたことを教えても上の空。

とうとう表に出ると、帰って来た長屋の易者玄白斎を呼び止め(昔々亭桃太郎)、明日の天気のことを聞くが、易者は分からんと云うばかり。

そんな所に帰って来たのが鳶松と勘十郎、明日は隣町に負けないように景気良くやろうと言い残し、銘々の家に帰って行く。

その後も、宵宮の晩は寝付かれないと表で立っていた勘十郎に近づいて来たのが、いつの間にか仲良くなり手を繋いだ寅吉とおたみ。

そんな二人にも、明日の天気のことを聞いた金兵衛だったが、二人とも明日は雨だ嵐だと冷たい返事をしたので腹を立ててしまう。

そんな金兵衛に、明日はきっと良い天気よ、私が保証するわとなだめて家に入れたのはお蝶だった。

向かいのおじさんとおばさんは変だ、夫婦ってみんなああなるのかしら?とお蝶は呟くが、気がつくと、金兵衛はもう床の中で熟睡していた。

お蝶が「多七さん」と呟くと、急にムクリと起き上がった金兵衛が「雨じゃないか?」と聞く。

今の独り言を聞かれたのかと驚いたお蝶が、降っていないと答えると、安心したかのように、又金兵衛は寝付くのだった。

翌日は、お蝶の言う通り快晴だった。

神輿が町を練り歩く中、金兵衛の芝居を見ようと家を出たお蝶は、多七と出会う。

町内の出し物として始まった芝居の舞台では、勝頼(有島一郎)と八重垣姫(三木のり平)が登場する「本町廿二孝」をやっていたが、二人とも途中でセリフが出て来なくなり、同じことの繰り返しでいつまで経っても終わらない。

次の出番の腰元姿に変装中だった金兵衛が、見かねて舞台に出て来ると、まだ芝居を続けたがっていた二人を強引に下がらせるのだった。

楽屋に戻って来た金兵衛は、そこに置いてあった腰元のカツラを頭に乗せると、急いで舞台に舞い戻る。

その後、楽屋に戻って来た登美春師匠は、タバコ盆の火種がないことに気づき苛つく、

一方、舞台に上がった金兵衛のかつらからは、いつしか煙が立ち上っていた。

それに気づかず、同じく腰元姿になった若旦那が、もう一人の腰元役が言う「むさ苦しい」に続け「とっとと外へゆ…」と言うが、金兵衛は何故か顔を歪めるばかりでセリフが出て来ない。

訳が分からない二人の腰元役は、何度も同じセリフを繰り返し、何とか金兵衛に「きゃいのう」と言わせようとするが、とうとう金兵衛が発したセリフは「熱いの〜!」だったので、観客として観ていたお蝶は恥ずかしさのあまり、多七を残して走り帰ってしまう。

祭りは終わったが、その最中に起こった隣町との喧嘩騒ぎで、先方にケガ人を出してしまったことを知った大家の太兵衛は激怒して、喧嘩をした勘十郎や三吉に謝りに行って来いと諭していた。

その場で話を聞いていて、二人共腰をあげようとしないのを見て取った金兵衛は、年の功で自分が詫びに行って来ると言い出す。

勘十郎や三吉を連れ、隣町の代表竹蔵(古川縁波)の所へ向かった金兵衛は、治療代を差し出して詫びを入れるが、竹蔵は一札詫び状を書けと紙と筆を差し出して来る。

さすがの金兵衛もこれには困惑し、返事をしかねていたが、その様子を見た竹蔵は、金助 (三遊亭小金馬 )、半公(江戸家猫八 )、貞吉(一竜斎貞鳳)ら仲間らのの前で、金兵衛を無筆者、開きメ●ラと嘲笑する。

堪忍袋の緒が切れた金兵衛は、江戸っ子の面汚しめと言い返し、隣町の連中と又喧嘩になりそうになるが、そこに通りかかった栗田甚内が刀を抜いて止めさせる。

その頃、羅宇屋の商売道具を盗まれ、長屋で風車作りの内職をしていた治助は、帰って来た女房にせかされ、大家の山城屋に家賃が溜っている詫びに出かける。

しかし、山城屋の台所には誰もおらず、おまけにそこには、祭り用に作られた酒とごちそうの残り物が無造作に置いてあるではないか。

治助はいつしか、ごちそうをつまみ食いしながら、残り物の徳利の酒を飲み始めていた。

そこに出現したのが、地下蔵から上がって来た山城屋の使用人権助(伴淳三郎)、彼は、勝手に飲み食いしている見知らぬ治助に気づくと誰かと聞くが、酔った治助が、山城屋の長屋の店子だから子供のような者と云う意味で「ここの子供」と答えたので、「山城屋の坊ちゃんか?」と不思議がりながらも、治助から勧められるまま、自分もその場で酒を飲み始める。

その頃、同じ山城屋の奥では、主人の彦兵衛とその女房おるい(一の宮あつ子)が仕事中だった金兵衛を部屋に呼びつけていた所だった。

金兵衛はすっかり、祭りで仕事をさぼったことを叱られるのかと思い頭を下げるが、二人の用事は全く別件だった。

実は、手代の多七は、おるいの甥に当る男なのだが、その嫁としてお蝶をもらえないかと云う話であった。

喜んだ金兵衛は、自分に異存はないと返事をするが、当のお蝶の気持も確かめてみると約束する。

その頃、台所では、すっかり出来上がった権助と治助を発見した女中が騒いだので、驚いた拍子に、治助は地下蔵に落ちてしまう。

女中は慌てて、奥の彦兵衛に報告に向かう。

何事かと金兵衛や彦兵衛夫婦が台所に行ってみると、そこには、すっかり酔っぱらった権助がおり、誰かが地下蔵に落ちたと云う。

彦兵衛が権助に、地下に居る者をここへ連れて来いと命じると、地下に落ちていた治助が穴の中から、「降りて来たら胯裂きをしてやる!」と脅しつけるので、権助は怖じ気づいて言うことを聞こうとしない。

困った彦兵衛が一両出すからと権助に再度命ずると、又地下から「ケツの穴から手を突っ込んで肝っ玉引っこ抜いてやる!」と治助が叫ぶ。

横で聞いていた金兵衛がたまりかねて、自分が降りて行って連れ出して来ようと言い出すが、又、「向こう脛に噛み付いて死んでも離さない!」と、地下の治助が吠えるので躊躇してしまう。

とうとう彦兵衛は、三両出そうと言い出す。

すると、それを地下で聞いた治助が、三両もらえるのだったら、自分から上がると言い出し、すぐに地上に姿を表す。

店子の治助と分かった彦兵衛は、金を渡そうかどうかと迷うが、おるいが小声で渡すようにささやいたので、素直に三両渡してやることにする。

その途端、今度はよろけた権助 が、地下蔵に落ちてしまうのだった。

長屋に戻った金兵衛は、お蝶に結婚話を切り出すが、なぜかお蝶は、お断りしてくれと言い出す。

金兵衛は、ひょっとしたら、お前は栗田甚内のことが好きだったのかと聞くが、お蝶は「この話は遠慮した方が良いと思う」と答えるのみだった。

ある日、栗田甚内は、長屋に訪ねて来た大高(高島忠夫)と言う青年に、「自嘲しろ」と言葉をかけ家の前で別れていた。

その直後、その長屋にやって来たのが金兵衛。

治助に会うと、妙にバカ丁寧な言葉遣いで、栗田甚内の家を尋ねる。

その後、栗田甚内の家に入って来た金兵衛は、どうか自分に「字」を教えてくれないかとバカ丁寧な言葉遣いで頭を下げるのだった。

しかし、栗田は、自分は人一倍面倒くさがりなので、そのようなことは断ると追い返そうとするが、何故か金兵衛は帰ろうとしないで頭を下げ続ける。

仕方がないので、それでは論語から始めるかと栗田が応ずると、まずはひらがなから教えてくれと云う。

いよいよ「いろは」から栗田が教え始めようとしたその時、隣室から、太鼓を叩きお題目を唱える隣人たちの騒音が聞こえて来る。

そうしたこともあり、なかなか字を覚えることに集中出来ない金兵衛の物覚えの悪さに業を煮やした栗田は怒って、寺子屋でも行けと追い返そうとする。

しかし、金兵衛は、誰にも知られたくないことなんでと頭を下げるばかり。

それでも、栗田は金兵衛を追い出してしまう。

その後、金兵衛は、勝手に、栗田の家の玄関先の修理をしてやったり、洗濯をしてやったり、ネギを持って来たりして、栗田のご機嫌をうかがおうとする。

一々相手にしなかった栗田だったが、とうとうある日、自分はいつ何時、ここを去らねばならぬかも知れぬ身なので字を教える暇がない。あまりしつこくすると斬ってしまうぞと、刀に手をかける。

すると金兵衛は、斬って下さいと、栗田の前に正座するではないか。

どうしても字を教わりたい訳があるのだと語り出した金兵衛の話を聞くと、自分には今年18になるお蝶と云う娘がおり、縁談があったのだが、なぜか断ると云う。

自分には理由を言おうとしないので、登美春師匠に聞いてもらったら、あんなお店には行きたくない。例え結婚したとしても、多七さんも、きっと長い間には、お父っあんが読み書きが出来ないことが気になりだすはず。

自分はお父っあんを幸せにしてくれる人の所に嫁に行きたいと、お蝶は言うではないか。

登美春師匠の家の庭先でこの会話を盗み聞いていた金兵衛は、自分のために、お蝶が結婚を躊躇っているのだと知り、その健気さに涙すると共に、我が身のふがいなさを情けなく感じるのだった。

あっしみてえなもんは、この地から消えてしまった方が良いんですと話し終えた金兵衛の話を聞いていた栗田は、しばしの沈黙の後、「偉い!感服した」と感心する。

お主は、例え読み書きは出来なくとも真心を持っておる。立派な人間だ。大いばりでどこへでも娘を嫁に出せる。今日からは、自分がそなたの師匠と同時に弟子となり、字を教えさせてもらいたいと頭を下げる。

喜んだ金兵衛だたが、その時又、隣の家から太鼓を打ち鳴らし、お題目を唱える読経が聞こえて来る。

気が散ると顔をしかめた金兵衛だった、心頭滅却すれば火も又涼しと栗田が諭し、すぐさま、いろはの読みから始めることにする。

金兵衛の字習いは、その後も続き、手習いをはじめてすでに三ヶ月が過ぎていたのだった。

その年も押し詰まったある日、いつものように金兵衛が栗田の家に出かけると、栗田が裏庭で紙類を焼いている。

何をしているのかと金兵衛を聞くと、すす払いのまねをしているだけだと云う。

金兵衛が、いつも金を受け取ろうとなさらない栗田様に、お歳暮として酒を持って来たと言うと、今日は手習いは止めて一献酌み交わそうと栗田は言う。

そして、互いに酒を酌み交わした後、謡を披露したいと言い出す。

信長が桶狭間に出陣する前にも歌ったと云う「人生50年…」とやりだしたので、金兵衛はきょとんとしてしまう。

その時、笹を持って裏庭に姿を表し「そろそろ出かけようではないか」と栗田を誘いに来た大高も、常々金兵衛のことを聞いていたらしく、にこやかに声をかけて来る。

これからどちらに行かれるのか?と金兵衛が聞くと、栗田は、旧藩の者が集まって年忘れの謡の宴会をやるのだと言うだけ。

金兵衛が帰った後、栗田は手紙をしたため出す。

年の瀬のある夕方、金兵衛は改めてお蝶に向かい合い、実は多七さんとの縁談は断っていないのだと打ち明ける。

そこに、山城屋彦兵衛と多七が、長屋に訪ねて来て、年が明けたら式を挙げたいと云う。

金兵衛が、ちょっと訳があり、まだお蝶の気持を確かめていないと恐縮すると、彦兵衛はそれでは困ると困惑する。

彦兵衛は結納を差し出すと、受け取りに名前を書いてくれと一枚の書状を差し出し、まずは中身を確認してくれと云う。

心配するお蝶の前、書状を受け取った金兵衛は、「一、金50両成 元禄15年12月14日…」と、文字を読んで見せ、「きんべえ」と見事に名前をしたためてみせたので、お蝶はビックリ!

「見事!立派なもんだ。よく勉強したもんだ」と感心した彦兵衛は、実は、金兵衛が文字の読み書きを学んでいるとの手紙を、赤穂藩の栗田陣内と言う方からもらったので、今日は一芝居打ったのだが、結納金は本当だ。わしは心から棟梁に惚れたとお蝶に打ち明ける。

それを聞いたお蝶と金兵衛は、涙ながらに抱き合い、その姿に、彦兵衛と多七ももらい泣きをするのだった。

手紙の礼を言いに、栗田の長屋を訪れた金兵衛だったが、栗田は不在だった。

たまたま出て来た治助と共に、一体栗田はどこに行ったのかと金兵衛は首を傾げるのだった。

その夜、金兵衛はムクリと寝床から起き出すと、嫌な夢を観た。胸騒ぎがしてならない。先生の身に何か起きなければ良いが呟きながら、雪が降りしきる表をそっと覗くのだった。

その頃、栗田陣内と大高は、吉良邸で討入りの最中だった。

翌朝、三吉が血相を変えて長屋に走り込んで来る。

赤穂藩の残党が吉良邸に討入ったと知らせに来たのだった。

朝飯を食べていた金兵衛も、その声に驚き表に飛び出すと、三吉が持っていた瓦版を読もうとする。

しかし、あまりにたくさん文字が書いてあるので、さすがに読み切れない。

ちょうどそこにやって来た悟山(徳川夢声)に頼み、赤穂藩の中に栗田陣内と云う名前があるはずだと聞く。

しかし、瓦版を最後まで読んだ悟山は、大高源吾の名は見つけたが、栗田と言う名前はないと言う。

そんなはずはないとじれったくなった金兵衛は、お蝶の手を取って、長屋を飛び出して行くと、本懐を遂げた赤穂浪士の列に目を凝らす。

すると、やはり栗田の姿があった。

金兵衛は、栗田を呼び止め、「御本懐遂げられておめでとうございます。おかげさまでこの蝶の縁談もまとまりました」と頭を下げると、栗田も喜び、その後、金兵衛に気づいた大高源吾も、彼に近づくと、明るく声をかけて、又列に戻るのだった。

同じく列に戻ろうとする栗田に、御本名を教えて下さいとすがった金兵衛、栗田の衣装の襟に書かれた文字にゆっくり目を通し「不破数右衛門正種」と見事に読んだので、栗田こと不破は、良く読めたなと喜んで去って行くのだった。

その後ろ姿をいつまでも、金兵衛とお蝶は見送るのだった。

年が開け、お蝶と多七の祝言が執り行われることになり、父親として金兵衛が挨拶をする。

それに対し、列席した治助が「50周年って言ったって、若い頃からやって来たんだから、まだあんたは若いよ」とお世辞を言い、他の出席者たちも口々に、「これからも頑張ってくれ」と応援の言葉を口にする。

悟山も、「こんにゃくでも食べて、せいぜい若返りなさい」と言う。

それを聞いていた金兵衛は、正座していた姿を急にスクリーンに向きを変えると、「これからも若返って働きます。よろしくお願い致します」と観客に向かって頭を下げるのだった。

 

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柳家金語楼芸能生活五十周年記念。

それを祝うかのように集結した、当時の人気喜劇陣たちと共に繰り広げられる下町人情喜劇になっている。

興味深いのは、途中から登場して来る栗田と言う謎の浪人もの。

勘の良い人なら薄々察しは付くのだが、忠臣蔵とも絡めてあると云う趣向が面白い。

エノケン、ロッパ、ミヤコ蝶々、南都雄二、花菱アチャコ、伴淳、脱線トリオ(由利徹、八波むと志、南利明)、NHK「お笑い三人組」(三遊亭小金馬、江戸家猫八、一竜斎貞鳳)、トニー谷、森川信と懐かしい東西の人気者たちが登場するが、中でも、劇中劇の形でちらり登場する有島一郎と三木のり平の掛け合いはばかばかしくもおかしい。

珍しい所では、野球解説者の小西得郎が尺八の先生として出演しており、お馴染みの「何と申しましょうか…」のフレーズを披露している。

現代劇では時折見かけた姿だが、時代劇にまで出演していたとは…

徳川夢声などの登場も嬉しい。

一方、当時若手だった中田康子や安西郷子は長屋の娘としてちょい役扱いだし、大高源吾役の高島忠夫も目張りなどを入れた二枚目顔。

そして何より、類型的な親孝行娘役ながら、八千草薫の可憐さも忘れてはいけないだろう。

忠臣蔵の討入りや翌朝の赤穂浪士の行進姿など、お馴染みのシーンは手を抜かず、きちんと再現してあるし、撮影所全盛時代特有の安心して観ていられる娯楽時代劇の一本だと思う。