2008年、「おくりびと製作委員会」、小山薫堂脚本、滝田洋二郎監督作品。
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吹雪の中、走って来る一台の車。
運転しているのは小林大悟(本木雅弘)、東京から故郷である山形に戻って来て2年経つ。子供の頃は冬もこんなに寒くなかった。
女性の遺体を前にする大悟の勤めるNKエージェント社長社長佐々木生栄(山崎努)と大悟。
遺体は、まだうら若き美しい女性に見えた。
佐々木は大悟に、「練炭自殺だ」と小さく耳打ちする。
遺体がきれいなのは、そのせいだと言う。
大悟は、居並ぶ遺族たちの前で、納棺の儀を執り行いますと挨拶をすると、遺体の衣装を身体を見せないように脱がせ、その身体を拭き始める。
しかし、下半身に手を伸ばした大悟は驚いたように動きを止める。
側に座っていた佐々木は事情が分からず、大悟の様子を見ていたが、大悟は「付いています。あれが…」と言ったので、代わって身体を拭き始めた佐々木だったが、やはり下半身に手を伸ばした時に事情を悟る。
遺体は、女性ではなく男性だったのだ。
佐々木は、身体を拭き終えると、遺族に向かい、化粧はどうするか問いただす。
男性用にするか、女性用にするかと云うのだ。
家族たちは性同一傷害の悩みで自殺したらしい「留夫」の化粧をどうするか相談するが、やがて姉が「女でお願いします」と頭を下げる。
佐々木は、遺体を横に傾ける。
タイトル
大悟は東京のとあるオーケストラでチェロを弾いていた。
その日の演奏会も、いつものように客は少なかった。
演奏後、楽屋に戻った大悟は、自分の妻がウェブデザイナーをやっているので、楽団のHPを作らせようかと仲間に話してみるが、その仲間は継ぎの仕事を探さないと…と意外な事を言い出す。
そこに、先ほどまで客席に座っていた楽団オーナーの曾根崎(石田太郎)が入って来て、今日限り、このオーケストラを解散しますと宣言する。
大悟は、ようやくつかんだチャンスがあっけなく潰えたのを知ると同時に、買ったばかりのチェロの借金だけが残ってしまった事を悟るのだった。
アパートに帰った大悟は、新妻の美香(広末涼子)にその事を告げると、美香は、別の楽団にハイれば良い。チェロの借金は自分が何とか手助けしてやると励ますが、その金額が1800万と聞いて絶句する。
それでも、チェロの値段としては安い方だった。
他の楽団を探すにしても、大悟程度の力量を持つ人間はたくさんいた。
美香は、演奏旅行しながら日本中を新婚旅行で廻ろうと考えていた夢が甘かった事を知る。
それでも、夕食の支度をして気分転換しようとした美香だったが、買って来たタコが生きている事に気づくと怖がってしまい、大悟と一緒に川に捨てに行く。
タコは淡水の川に投げ込まれるとすぐ死んでしまった。
大悟は、チェロを辞め、田舎の山形に帰ろうかなと言い出すが、以外にも、美香も賛成する。
田舎には、昔喫茶店をやっていた父親が、愛人を作って出て行った後、2年前亡くなった母親がスナックをやっていた店が残っていたのだ。
大悟は、その店で母一人の手で育てられたのだった。
秋田に帰り、その店で住み始めた大悟は、新しい仕事を探す為に新聞の求人欄を読んでいたが、ある時「旅のお手伝いをする NKエージェント」なる求人を見つけ、さっそく面接に行ってみる事にする。
目指す会社には、上村 百合子(余貴美子)と云う女性事務員がいただけだったが、待っていると、社長の佐々木が戻って来たので履歴書を差し出した大悟だったが、佐々木は、そんなものに目もくれず、すぐに採用と決めてしまう。
給料は?とおずおずと聞く大悟に、片手を差し出した佐々木。
大悟は5万かと思いがっかりするが、佐々木は50万だと云う。何なら日払いでも良いと云うではないか。
しばらくは、佐々木のアシスタントのようなことをやってくれれば良いと言う。
仕事の内容を聞くと、納棺だと云う。
新聞広告では「旅のお手伝い」となっていたが…と大悟が疑問を口にすると、それは誤植で「旅立ちのお手伝い」が正しく、「NKエージェンシー」の「NK」は「納棺」の意味だと佐々木はあっさり説明する。
取りあえず、今日の分と云われ現金を手渡された大悟は、米沢牛を買って帰る。
美香から、新しい仕事の内容に付いて聞かれた大悟は「冠婚葬祭関係」と曖昧な返事をしてしまったので、美香はすっかり、結婚式の関係の仕事だと思い込んでしまう。
翌朝、家を出た大悟は、途中で、ネクタイを普通のものから黒タイに付け替える。
出社してみると、植村が一人で、棺桶のほこりを払っている。
すでに、大悟の名刺も出来上がっていると云う。
その後、二人で雑談をする事になり、家族の事を聞かれた大悟は、父親は6歳の事に出て行ったと打ち明ける。
上村の方は、季節の変わり目になると仕事が増えるし、その仕事は葬儀屋さんがか依頼されるなどと説明すると、そこに置いてあった三種類の棺桶の値段が違う事なども教えるのだった。
そこに、社長から電話が入る。
指定した場所に大悟が行ってみると、会場のステージのような所で待っていた佐々木が、今日の仕事はモデルだと云う。
ステージ上には仏壇のセットが作ってあり、何やら撮影班のような連中がビデオの準備をしている。
業務用のDVD撮影なのだと佐々木は説明する。
訳も分からずスタッフについて行った大悟は、褌一つにされ、ようやく自分が遺体の役をやらされる事に気づく。
すぐさま撮影が始まり、佐々木は、遺体役の大悟を前に、納棺の作法に付いて色々説明をし始める。
ヒゲを剃る段になり、佐々木は大悟の顔をカミソリで剃り始めるが、思わず大悟がくしゃみをしてしまい、そのせいで佐々木の手元が来る、頬が切れ、血が流れ始める。
家で頬の傷の手当をしていると、美香がどうしたの?と聞いて来たので、会社でヒゲを剃っていたら、社長に押されたと大悟は思わず嘘でごまかすのだった。
やがて、大悟の初仕事の日がやって来る。
車で目的地に向かう途中、大悟は運転していた佐々木から、「悪い時にぶつかってしまった」と暗い顔で言われる。
目的の家で待っていた葬儀屋は「死後二週間、一人暮らしの老婆だ」と佐々木に耳打ちする。
佐々木は大悟にゴム手袋を渡すと自分もすぐにはめながら、家の中に入って行く。
恐る恐る付いて行った大悟は、部屋中で腐乱している食べ物と腐臭に気づく。
佐々木が、布団で亡くなった遺体の頭の方に廻り、大悟には足を持てと云う。
大悟は必死に、腐乱した遺体の足を持ち上げようとするが、すぐに耐えきれなくなり、その場で吐いてしまう。
何とか、遺体を棺桶に納めた後、呆然と立ち尽くす大悟に、佐々木は二万円を渡すと、今日はもう帰って良いと告げる。
バスで帰宅する途中、大悟は、乗っていた女子高生たちが、何か臭わない?とささやき合っている事に気づく。
自分の身体に腐臭が染み付いているのだ。
すぐに、途中で降り、銭湯「鶴の湯」に入る事にする。
そこは、子供の頃から良く来ていた馴染みの銭湯だった。
今、一人でこの銭湯をやっているのは、大悟も良く知っている山下ツヤ子(吉行和子)だった。
風呂から上がった大悟は、ツヤ子と何か言い争っている息子の山下(杉本哲太)に出会う。
どうやら、この銭湯を売る売らないでもめているらしい。
久々に出会う昔の同級生だった。
脱衣所では、常連らしい老人平田正吉(笹野高史)が、一人将棋をしていた。
帰宅してからも気分が優れなかった大悟は、美香が鍋にしようと夕食に出して来た、地鶏のぶつ切り肉を見て、思わず流しで戻してしまう。
心配して近づいて来た美香の手を取った大悟は、急に欲情を感じ、美香のジーンズを脱がそうとし出す。
戸惑う美香だったが、大悟はそんな美香を出し決めるのだった。
その夜、寝床の中で大悟は一人苦悩していた。
一体、自分は何の為にためされているのだろう?
母を看取らなかった罰なのか?
急にチェロが弾きたくなり、屋根裏部屋に上がった大悟は、チェロケースのふたを開けてみた時、そのチェロが思っていたより小さいと感じるが、そのまま演奏し始める。
その音色を寝床で聞いていた美香は一人微笑んでいた。
白鳥が飛んでいた。
ある日、橋の上に立ち止まった大悟は、下の川をさかのぼって来る鮭の姿を発見、そのまま見とれていた。
必死に川を上って来る鮭もあれば、その側に沈んでいる鮭の死骸もあった。
そこに通りかかった平田も、鮭に気づき足を止めると、切ないよね。死ぬために上って来るなんて…と呟く。
その時、近くからクラクションの音が聞こえて来て、見ると、車の運転席から佐々木が顔を見せている。
「飯を食いに行こう。社長命令だ」と言う。
ここへ佐々木が来たのは偶然ですかと大悟が問いかけると、運命だと云う佐々木は、この仕事は君の天職だとまで付け加えるのだった。
その日、二人が向かった家では、待っていた葬儀屋が5分遅刻した事に遺族がいら立っていると伝える。
その言葉通り、二人を迎えた仏の妻富樫(山田辰夫)は、佐々木らの事を頭から見下している態度だった。
佐々木はいつも通り、仏の身体を拭き清めると、奥さんが使っていた化粧品はないかと遺族に聞く。
娘がすぐに、仏が生前使っていた化粧品を持って来ると、佐々木はそれを使って丁寧に化粧を施す。
やがて納棺された遺体を前にした娘は「お母さん!」と泣き出し、富樫もじっと妻の顔を見つめていた。
家を去り際、佐々木の側に近寄って来た富樫は「あいつ…、今までで一番綺麗でした。ありがとうございました」と頭を下げて、手みやげを持たせる。
ある日、大悟は美香を連れて「鶴の湯」に出かける。
ツヤ子は、美香が大悟の妻だと知ると喜んで迎える。
男湯の湯船には、いつも通り平田が一人入っていた。
女湯を上がった美香に、ツヤ子は、役所に行っているうちの息子は、ここにマンションを建てろなんて言っている。それに比べ大ちゃんは優しい子だから大事にしてやってねと頼む。
大悟と二人で外に出てみた美香は、いつの間にか雪が降り始めていた事に気づく。
ある日、自宅の店の中で、美香は大量のレコードを発見する。
大悟は、それは出て行った親父のものだと言う。
自分と母親を捨て、一人出て行った父親を、どうしても大悟は許す事が出来なかった。
その一枚を美香がかけてみると、それは父親が一番好きだったと云うチェロの演奏曲だった。
それを聞きながら美香は、大ちゃんのお母さんって、お父さんをきっと好きだったに違いない。そうじゃなければ、こんなにレコードを整理していないと云う。
その夜、大悟の携帯が鳴る。
それは上村からの連絡で、駅前のホテルで首つりがあったのだが、社長が不在なので一人で行って欲しいと云うものだった。
大悟はこっそり寝床を抜け出すと、着替えながら家を出て行くが、寝床の美香は、そうした夫の様子に気づいて目覚めていた。
翌朝、徹夜明けでそのまま出社した大悟を上村がねぎらい感謝する。
コーヒーを飲みながら、何となく上村と雑談が始まる。
どうして上村はこの仕事に就いたのかと大悟が聞くと、帯広に住んでいたのだが、町にいられなくなって、男がこっちの人だったので自分も付いて来たが、その相手が脳溢血で急死してしまい、その時納棺に来てくれたのだここの社長だったのだと云う。
自分も死んだら、この人にやってもらおうと思ったのが、ここで働き始めたきっかけだとも。
ある日、大悟は、家族連れの山下と道ですれ違う。
山下は大悟に近づいて来ると、町中で噂になっている、やるならもっとマシな仕事に就けと耳元でささやかれる。
家に戻った大悟は、美香の姿が見えない事に気づく。
自室に上がってみると、そこにいた美香が、DVDを付けてみせる。
それは、大悟が遺体役をやったあの業務用DVDで、机の中に隠していたものだった。
大悟は、妻が勝手に自分の机の中を開けてみた事にショックを受けるが、美香は、仕事の内容を全部調べたと云い、恥ずかしいと思わないの?と責めて来る。
今まで、どんな時でも、あなたが好きだから、自分は笑って付いて来たじゃない。今度だけは私の言う事を聞いてと云うのだ。
大悟が嫌だって言ったら?と応じると、一生の仕事になるの?実家に帰ると言い出した美香は、止めようと近づいた大悟に、触らないで!汚らわしい!と嫌悪感もあらわに叫ぶのだった。
美香が家を出て行った後も、大悟は黙々と仕事を続けていた。
ある日の遺族である母親は、金髪に染めた娘の化粧した遺体を前にして、「美雪はこんなんじゃない!やり直して!」と叫ぶ。
遺影を見ると、制服姿の清楚な姿で写っている。
見ると、遺族の中に、怪我をした不良グループらしい仲間も同席しているではないか。
どうやら、この美雪と云う娘は、このグループと付き合って、バイクに乗って事故にあったらしい。
仏の父親も感情を抑えきれなくなり、不良高校生につかみ掛かると、一生、あの人みたいな仕事をして償うかと大悟たちの方を指差す。
そうまで蔑まれた大悟は、さすがにいたたまれなくなり、この仕事を辞める決意をする。
その事を会社で聞いた上村は、社長哀しむだろうな…と呟き、社長は二階にいるから、自分で辞めるって言ってくれと云う。
二階に上がってみると、温室のようになった部屋の中で、一人座っていた佐々木は、「飯はどうしてる?今かみさん帰っていないんだろう?食って行けよ」と声をかけて来る。
見ると、焼き網の上で、ふぐの白子を焼いているではないか。
佐々木の向かいに座ってみると、棚の上に置かれた写真立てが目に入った。
その視線に気づいたのか、9年前に死んだ佐々木の妻なのだと口を開いた佐々木は、夫婦っていつかは別れるものだが、先立たれるとつらい。俺の仕事の第一号だった。それ以来、この仕事をしていると説明する。
これだって遺体だよ。どうせ食うなら巧い方が良いと、今あぶっているふぐの白子を指した佐々木は、それを大悟に食わせる。
確かに、その白子は絶品だった。
「旨いだろう?旨いんだよ、これが…。困った事に…」と言いながら、佐々木も頬張る。
吹雪の中、大悟が運転する車がその日の仕事先に向かっていた。
性同一性傷害で練炭自殺した青年に、きれいに女用の化粧を施した佐々木に、父親は、女の格好をしていても、俺の息子だと礼を言うのだった。
その日はクリスマスだったので、会社で、上村も交え、三人でフライドチキンをかぶりつく事にする。
大悟が「旨いですか?」と聞くと、佐々木は「困った事に」と答えながら、フライドチキンにむしゃぶりつく。
その日は、二人の要望により、大悟は家から持って来たチェロを披露する事にする。
いつ頃からやっているのかと聞かれた大悟は、幼稚園の頃からだと答え、父親はウエイトレスと家を出て行ったとも打ち明ける。
チェロの音色に聞き惚れた上村は、クリスマスっぽいよねと感激するのだった。
曲は「アベ・マリア」だった。
大悟は、仕事に没頭し始める。
ある老婆の遺体に衣装を着けていた時、孫娘がルーズソックスを履かせてくれと持って来る。
生前、いつも履いてみたいとおばあちゃんが云っていたと云うのだ。
大悟は、時々家でチェロを弾き、気分転換をしていた。
ある日、会社のソファーで眠りこけていた佐々木の姿を見ていた上村が、社長も年取ったわねと呟く。
いつの間にか、大悟も、佐々木のように美食家になっていた。
そんなある日、いつものように帰宅した大悟は、美香が帰っている事に気づく。
赤ちゃんが出来たと言うではないか。
美香からの報告を受け喜んだ大悟だったが、美香は、もう中途半端な仕事は辞めて!仕事の事、子供に言える?成長したらいじめの対象にもなるし…。お金なんか良いから、三人で仲良く暮らしましょう?と言い、やはり納棺師を嫌っている事に変わりはない事をうかがわせた。
その時、大悟の携帯が鳴ったので、美香は「こんな時に!又仕事?」と気色ばむが、電話の内容は、「鶴の湯」のツヤ子がなくなったと云う知らせだった。
さすがに、今回ばかりは、美香も同行する事にする。
ツヤ子は、薪を運んでいる時に倒れたのだと云う。
銭湯の脱衣所では、一人、平田が寂しそうに座り込んでいた。
遺体の前には山下と妻の理恵(橘ゆかり)、娘の理恵(飯塚百花)が待っていた。
大悟は、山下と目で挨拶をすると、直ちに納棺の儀を始める。
その生前とした動作を見つめる山下家族と美香。
彼らは、自分たちが抱いていた大悟の仕事に対するイメージを改めなければならなかた。
そのくらい、大悟の仕事は見事だった。
大悟は、いつもツヤ子が首に巻いていた赤いマフラーを見つけると、それをツヤ子の遺体に巻いてやる。
大悟が山下に母親の身体を拭くように布を手渡すと、山下は「母ちゃん」と泣き始める。
それを見ていた理恵と理恵も泣いていた。
大悟はツヤ子の遺体に「おつかれさまでした」と声をかける。
火葬場で大悟は、制服姿の平田の姿を目にし驚く。
平田は、火葬場の職員だったのだ。
平田はツヤ子の遺体に、「ありがとな、又会おうの」と声をかけ、窯の中に入れる。
平田が、窯の点火スイッチの所に来ると、山下が一緒に観ても良いかと近づいて来る。
平田は、人間、何か予感があるのでしょう。昨年、珍しく、ツヤ子は自分と二人でクリスマスをやり、その時、一緒に銭湯をやってくれないかと頼まれたのだと山下に打ち明ける。
私、焼くのは上手だからな…と笑いながら、死は門だなぁって思うと平田は続ける。
死ぬってことは終わりってことではなく、くぐり抜けて継ぎへ向かうまさに「門」です。私は門番として、ここでたくさんんの人たちに「行ってらっしゃい」「又会おう」と声をかけて来たと平田は呟く。
点火スイッチを入れた途端、窯の中を覗き込んでいた山下は「母ちゃん、ごめんの!」と叫び、その様子を、大悟と美香も見守っていた。
帰り道、河原に寄った大悟は、丸いきれいな石を見つけるとそれを美香に手渡す。
何かと聞かれると「碑。大昔、自分お気持ちを人に伝えたい時、自分の気持に一番近い形の石を相手に手渡したんだ」だと教える大悟は、「何を感じた?」と問いかけるが、美香は「内緒」と笑うだけ。
そんな話を、親父から聞いたと打ち明ける大悟。
子供時代、河原で石を手渡され、これからは毎年、碑を送ろうって言ってたのに、結局あの一回だけだったと、大悟は父親を回想する。
いつの間にか、季節は春になっていた。
ある日、家にいた美香は、郵便配達員から一通の電報を受け取る。
小林和子宛だと云うが、それは、大悟の亡くなった母親の名前だった。
中を確認した美香は、すぐにNKエージェントに連絡をする。
会社に戻って来た大悟は、上村から父親が亡くなったと、今、奥さんから電話があったと知らされる。
しかし、30年以上会っていない父親の死を、大悟は素直に受入れないでいた。
美香に電話をすると、こちらに向かうタクシーの中からケイタイで応じた美香が、ずっと一人だったそうだと教える。
煮え切らない大悟の態度を見ていた上村は、「行ってあげて!」と頼む。
実は、自分にも帯広に6歳の息子がいたのだが、好きな人が出来たので置いて来たのだと打ち明ける上村。
会いたいに決まっているけど、会えないと自己弁護する上村に、子供を捨てた親ってみんなそうなのか!だったら無責任だよと大悟は切れる。
しかし、上村も折れず、最期の姿、見てあげてよと大悟に迫る。
会社を飛び出した大悟は、到着した美香と出会うが、黙って一人で帰ろうとする。
しかし、途中で思いとどまり、大悟は会社に戻ると、佐々木に「社長!」と呼びかける。
佐々木は黙って車のキーを投げ渡すと、「どれでも好きなものを持って行け」と、部屋に置いてあった棺桶を目で指す。
大悟と美香は、佐々木の車に棺桶を乗せ、電報の発信元の港に到着する。
出迎えた漁師が言うには、父親はふらりとこの港に来て以来、仕事を手伝ってくれたので、番屋を使ってもらったのだと云う。
番屋の中に入ってみると、そこに見覚えのない老人が寝かされていた。
大悟は、その顔を見ても覚えていなかった。
部屋の中には、小さな段ボール箱が一つ残っているだけだった。
この人の人生って何だったんだろう?残したのは段ボール箱一つなんだ…と大悟は呟く。
そこに地元の葬儀屋がやって来て、事務的に遺体を運び出そうとする。
それを見ていた大悟は、思わず止めろと!と、葬儀屋たちの手を振り払う。
何をするんだと戸惑う葬儀屋に、美香が、「夫は納棺師なんです」と説明する。
持って来た檜の納棺を持ち込み、一人で納棺の儀を始めた大悟は、遺体の右手が何かを握っている事に気づくと、そっと手を開いてみる。
遺体の手から転がり落ちたのは、ウズラの卵のような形をした丸い小石だった。
大悟は、父親の顔を剃りながら泣き始めていた。
きれいに化粧をし終えた父親(峰岸徹)の顔が、記憶のかなたでぼやけていた父親の顔にダブったのだ。
大悟は遺体に向かい「親父!親父!」と呼びかける。
そんな大悟に、美香は、今拾った碑をそっと手渡すのだった。
それを受け取った大悟は、美香のお腹にそっと当ててみるのだった。
▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼
アカデミー賞外国語映画賞をはじめ、いくつもの受賞を誇る作品。
山形の美しい風景を背景に、死に関わるために、人から忌み嫌われる特異な職業に就いてしまった男の生き方をユーモアを交えて描く佳作。
冷静に観てみると、受賞の数々が少しも不思議ではない完成度の高い出来だと云う事が分かる。
死を見つめる事で生きる事の大切さを、断ち切られた親子関係から連綿と続く親子関係の運命を…など、色々なメッセージが含まれており、観るものによって様々な解釈が出来るような奥深い内容になってる。
個人的に注目したのは、山崎努の存在。
伊丹十三監督「お葬式」(1984)の主演だったことを覚えていると、この作品はまるで「お葬式2」のような印象も受ける。
「お葬式」も又、人の死とお葬式と云う儀式を、様々な人間模様が交差するユーモラスな場である事を暴いた作品だった。
「お葬式」の火葬場で、妻を差し置いて愛人とセックスをしていた、まだ生臭さが残っていた山崎努の姿と、腐乱死体を処理した後、新妻の身体に「生」を求めようとする本木雅弘の姿がダブる。
この作品での山崎は、淡々と死を見送って行く、悟り切った人間に見えるが、「食」への欲望で、そのストレスを解消しようとする所など、やはり伊丹作品「タンポポ」(1985)などを連想せずにはおれない。
もちろん、この作品が伊丹作品を意識していると云う事ではなく、「食欲」にせよ「性欲」にせよ、人間の欲望と云うのは、それこそが「生きている証し」なのだと言う事なのだろう。
様々の死の裏に、「現代」が反映している事も見逃してはならない。
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