2007年、「キサラギ」フィルムパートナーズ、古沢良太原作+脚本、佐藤祐市監督作品。
※この作品は、謎解きミステリ要素があり、全般にわたってどんでん返しが繰り返されますが、ここでは最後まで詳細にストーリーを書いていますので、ご注意ください。コメントはページ下です。
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2007年2月4日
機材運搬用エレベーターに乗って、一人の男が、ビルの屋上にある部屋にやって来る。
男は、如月ミキの熱狂的ファンであり、家元(小栗旬)と云うHNで、自らのファンサイトを作っていたが、そこに書き込む常連5人に、今日の追悼会をケイタイで呼びかけていた。
部屋の中に、「永遠の清純派グラビアアイドル如月ミキ一周忌追悼会」と書かれた紙を貼り、自ら自慢のコレクションなどを飾り終えた家元は客の到着を待ち受ける。
最初に部屋にやって来たのは、小太りのいかにも風采の上がらない男だった。
家元は自ら名乗ろうとする相手を制し、「当てさせて!オダ・ユージ?」とHNを言ってみせるが、相手は、サイトに毎日熱心に書き込みをする安男(塚地武雅)だった。
安男は、ラフな格好で来た事を気にしているようだったが、家元は、今日はそれで良いのだと安心させる。
どう見ても、超ださい格好なのに、それを最新ファッションで決めて来て良かったと安心したよな発言をした安男に、家元はちょっと呆れる。
そして、急に、「あれ!アップルパイ…」と云いながら、自分が持って来た荷物を探すが、すぐに「コンビニだ!」と思い出す。
何でも、自分で焼いたアップルパイを土産に持って来たのだが、早めに着いたので、暇をつぶしていたコンビニに忘れて来たので、すぐに取って来ると部屋を飛び出して行く。
続いてやって来たのは、喪服に身を固めたスネーク(小出恵介)だった。
さらに、同じく喪服に身を固めた痩せた男がやって来る。
Hン、オダ・ユージ(ユースケ・サンタマリア)だった。
織田裕二ファンなのか?とスケークが聞くと、サイトに打ち込もうとする時、たまたまテレビに織田裕二が出ていただけで、軽い気持で付けたものだと弁解する。
オダ・ユージは、ラフな格好をしている家元を見ると、礼節を重んじなければいけないのでは?と硬い事を言い出す。
最初は、今日はそんな堅苦しい会ではないので…と、苦笑いしていた家元だったが、オダの真剣さに押される形で、ボンボンなどで飾り付けていた「永遠の清純派グラビアアイドル如月ミキ一周忌追悼会」の貼り紙を慌ててはがすと、それを持って外に出て行く。
部屋に残ったスネークは、家元のパーフェクトコレクションを見つけると喜び、すぐに読もうとするが、みんなと一緒に観た方が良いのではないかとオダから諭されると、あっさり納得する。
スネークとは、つくづく自分がない男であった。
そこに、妙な中年男が侵入して来たので、一体誰かと困惑したスネークとオダだったが、部屋の奥の方にこそこそと向かったので、この部屋の大家かと思い込む。
そこに安男がアップルパイを持って戻って来て、二人に自己紹介するが、そのラフな格好を見て、又、オダが注意し、それに乗っかって、スネークも注意する。
追い込まれた安男だったが、さらにそこに、いつの間にか外で喪服に着替えた家元が戻って来たので、立場がなくなり、着替えて来ようかな?などと言い出す。
家は近いのか?とスネークが聞くと、福島からで、片道6時間弱かかると云う。
それじゃあ仕方ないだろうと、安男の服装は不問と云う事に全員意見が一致するが、当の安男が今度はすっきりしなくなる。
一応これで全員そろったのかな?とみんなが思った時、家元が、もう一人来ていないのだが、今日は来られるかどうか分からないと連絡があったと全員に伝える。
それが「いちご娘」と云うHNの人物の事だと分かったので、きっと若い女の子なんだろうとスネークなどは妄想していたが、その時、奥のカーテンを開けて、喪服を着た先ほどの男が登場する。
それを見た家元は唖然とする。
スネークとオダは、すっかり大家だと思い込んでいたが、家元は全く面識がない模様。
その中年男(香川照之)は「イチゴ娘です!」と笑い、カチューシャを頭に乗せる。
そんないちご娘が、テーブル席からはなれた所に置かれていたイスに腰を降ろしたので、家元は慌てて、そこはミキちゃん用の席なのでと、テーブル席の方に招く。
スネークはショックを受けるが、オダは、最初から男だと思っていたと冷静に対応する。
それでも、これで全員そろったと云う事で、追悼会を始める事にし、まずは、家元が簡単な自己紹介を始める。
如月ミキ愛好家の一人で、しがない公務員だと言い、全員を促して、乾杯の音頭を取ろうとするが、一応、うるさ型のオダの意見を聞いてみる事にする。
オダも、天国のミキに対してなら良いのではないかと云うので、ミキ用のイスの上に置いた花束に対して、全員ジュースの乾杯する。
参加者たちが、それぞれ、簡単な自己紹介し合う。
安男は農業、スネークは雑貨屋で働いている。オダは、本名を名乗ろうとするが、皆が、それは良いのではないかと止める。
実は、今日の追悼会は、オダが発案したのだと家元が明かす。
イチゴ娘は、名前だけ言うと云うあまりにも簡単すぎる挨拶だったので、皆がもうちょっと…と突っ込むと、「無職です」と言い、ちょっと場がしらける。
しかし、そうした間も、安男は表情が暗く、自分だけラフな格好をしているのがどうも嫌なので、着替えてきたい。この近くに洋服の青山があったので、そこで買って来ると言い出したので、皆は、何もそこまでしなくても…と落ち着かせようとするが、一旦思い込んだら後に引かないタイプらしい安男は、喪服を着たら盛り上がれるからと、妙な論理を言って、部屋を出て行く。
スネークやオダは、そんな安男を異端視し、さっきから変な臭いがすると、安男が置いて行ったアップルパイに鼻を近づける。
オダは冷静に、そのりんご腐っているから、食べない方が良いですよと警告する。
残りのものたちは、家元のコレクションを見る事にする。
まず最初のコレクションの冒頭には、一般的に如月ミキがデビューしたと云われる「プレイボーイ 2002年10月3日号」より前に、商業誌デビューしてた「月刊 ホットレモン 7月28日号」のグラビアを持っていたので、スネークやイチゴ娘らは興奮状態になる。
さらに、家元は、ミキが、母校の学校新聞のインタビューに答えた珍しい文章なども持っていた。
200通もファンレターを出したので、ミキからの直筆の手紙まで持っていると自慢げに家元が披露すると、さすがに耐えきれなくなったスネークは、自分が持っている生写真と、直筆の手紙のコピーを交換してくれと頼み込む。
ミキからの手紙には、いつもファンレターありがとう。ミキの命より大切な宝物ですと書かれてあったが、「お世辞だよ」とスネークが悔しさまじりで言うと、家元もそうだと思うとあっさり認める。
あんたは、何かお宝を持っていないのか?と、スネークからけしかけられたイチゴ娘が取り出したのは、驚いた事にキスマーク付きのサインだったが、そのキスマークは自分で着けたと云う。
家元はさらに、カメラの持ち込みが禁止されていたはずの大磯ロングビーチでの写真も披露する。
みんなは、そこに写っていたミキのマネージャーの通称デブッチャ(デブで茶髪)に、しょっちゅう嫌がらせを受けていたと、口々に文句を言い合う。
その時、オダが、ミキのヘアヌード写真集見たかったか?と聞いたので、みんな猛反発する。
イチゴ娘は泣き出し、永遠の清純派だぞ!と家元などは興奮気味。
しかし、オダは、なぜ彼女は去年の今日、自殺なんかしたんでしょう?皆さんはどう思います?と突然言い出す。
当時の報道では、仕事が上手く行かず悩んでいたと書かれていたが、何で、あんな死に方を…と、なおもオダが続けようとするので、家元は、その話止めませんかと口を出す。
しかし、オダは、この問題に触れずに押し通すんですかと諦めきらない様子。
耐えきれなくなったように、イチゴ娘が、ミキは死んでいない!心の中にいつまでも生きているんだ!ときれいごとを言う。
オダは、そんな言葉には耳を貸さず、もし、自殺じゃないとしたら…と続ける。
いつの間にか、外は雨になっていた。
オダは、この一年、事件を調べてきましたが、結論は、如月ミキは自殺なんかしていない。殺されたんです!と言い出し、その瞬間、雷鳴が轟く。
興味を持ったスネークが、オダの話を促す。
その時、喪服に身を固めた安男が嬉しそうな表情で部屋に戻って来るが、室内の雰囲気が妙な事になっているので、戸惑ってしまう。
そんな安男にはおかまいなく、オダは、事件の矛盾点を話し始める。
まず焼死と云う死に方が不可解で、2006年、2月4日、ミキは自宅アパートから「やっぱりダメみたい。私もう疲れた。」と云う内容の電話をマネージャーにした後、部屋中に油をまいて、火をつけたらしいのだが、こうした状況から、誰かが油をまいたと考えた方が良いのではないか?電話も本人ではなかった可能性もあるのでは?とオダは指摘する。
それに対し、家元は「電話の声紋鑑定をして、ミキ本人の声だった事は分かっている」と、当時の情報を披露する。
しかし、オダは、ミキは犯人から脅されてしゃべらされた可能性があったのではと反論し、当時、ミキは悪質なストーカー被害に会っていたと新たな情報を披露する。
そうした話を、自家製アップルパイを食べながら聞いていた安男は、急に気分が悪くなる。
オダは冷静に、そのりんご、腐ってますよと指摘すると、がっかりした安男は、トイレの場所を聞いて、部屋を出て行く。
オダは、そんな安男の行動は無視し、自宅付近で何度もストーカーらしき人物の姿が目撃されており、ミキの部屋にも侵入して、食器が洗ってあったり、布団が畳んであったりしたと続ける。
事件現場の窓は開いており、ヘアヌード写真集の噂が犯行の動機かもとオダが云うので、聞いていた者達は、なぜそれほどの詳しい情報をあんたが知っているのかと疑問の声があがる。
オダは、マネージャーだったデブッチャから聞いたのだと明かす。
そうしたオダの説明中、イチゴ娘だけは、始終頭を抱え込んでいた。
家元は、「マネージャーはストーカー行為の被害届を出していないので、その話の信憑性は疑わしい」と反論する。
なぜそんな事が分かるのか?とオダが聞くと、実は自分は、警視庁総務部管理課に勤めている刑事で、父親は警視総監なのだと正体を明かし、事件の資料は全部読んだのだと説明する。
すると、オダは、被害届は出されており、ないとしたら、警察が処分したのだ。つまり警察も共犯と云う事だと指摘し、警察はそんな事はしないと云う家元と対立関係になる。
お調子者で自分がないスネークは、完全にオダ側に乗っかって、家元を責める口調。
興奮したオダは、つい「事件は現場で起こっているんだ!」と、どこかで聞き覚えのあるセリフを口にし、織田裕二のファンである事がバレてしまう。
そうした雰囲気に嫌気がさしたようなイチゴ娘は、怒ったように部屋を出て行こうとするが、それを阻止したオダは、逃がさねえって云ってるんだと意気込む。
証拠をお見せしますよ、ストーカー自身に…とオダが言うと、急にスネークが、イチゴ娘を羽交い締めにする。
そこに、トイレから福男が戻って来て、状況が激変していると驚くが、又、腹の調子が悪くなり、部屋を出て行く。
オダは、実はこの男を前から疑っており、こいつをおびき出す為にこの会を提案したのだと明かす。
家元のファンサイトに、「近頃、ミキちゃんと同じ、アロマキャンドルにはまっています」とイチゴ娘が書き込んでいたが、そう云う情報はどこにも発表されていないはずで、どこで情報を知った?とオダは詰問する。
羽交い締めを続けているスネークは、お前なんか、毎日香で十分だとののしる始末。
イチゴ娘は、どっかに書いてあったはずと抵抗するが、ミキに関するあらゆる報道を完璧に熟知している家元が否定する。
事件の二日前2月2日の書き込みには、最近は、ミキと同じ、きつねのキャラ、ラッキーチャッピーグッズを集めるの趣味なりましたとあるが、それもどこにも情報公開していないはずだとオダが詰め寄ると、イチゴ娘は、偶然の一致だろう?俺とミキとは心と心で繋がっているんだと開き直る。
デブッチャから聞いた話では、ストーカーに入られた部屋からは、金目のものは取られていなかったが、愛用していたカチューシャが紛失していたとオダが、カチューシャを頭にはめたイチゴ娘を睨む。
一つや二つ、指紋が残っているかも…と、オダはイチゴ娘に詰め寄るが、すでにその時、家元とスネークがそのカチューシャを奪い合ってたので、指紋検出は期待出来なくなる。
家元から、家宅侵入したのかと改めて聞かれたイチゴ娘は、事件の一週間前、アパートの前で見守っていたら、ミキが窓を開けたまま外出したので、雨樋をよじ上り、窓を閉めてやっただけだと認める。
部屋の中に入ったのかと聞かれると、布団が乱れたままだったので、畳んでやったと悪びれもせず打ち明けるイチゴ娘。
さらに、台所には、ラッキーチャッピーの食器があったので、それを洗ってやったし、ウォークインクローゼットの中の下着も畳んどいてやったと云うではないか。
事件当日2月4日は聞くと、あの日は、いつも通り、前の道から見守っていただけだと云う。
怒ったオダが、イチゴ娘を突き飛ばすと、あの日は、足立署の留置場の中にいたとアリバイを、開き直ったように申し出るイチゴ娘。
家元はすぐに、イチゴ娘に身分証明署を出させると、ケイタイで足立署に連絡をして裏を取る。
当日、確かにイチゴ娘は、無銭飲食で捕まっていた事が判明、イチゴ娘のアリバイは立証される。
イチゴ娘犯人説だったオダは諦めきれず、事件当日、隣の住人が、ミキの部屋で男の声を聞いていると訴える。
当日、誰かミキのアパートに来なかったか?とイチゴ娘に問いつめるが、犯人扱いされていたイチゴ娘は、ちゃんと謝罪したら教えてやると開き直る。
それでも、ようやく、事件当日、ミキはモヒカン頭の男と玄関口で会っていたと証言する。
それを聞いた家元は、どこかでモヒカン頭の男に会ったような気がすると言い出す。
色々想いを巡らせていた家元は、先ほど、スネークが、自分が持っていたミキ直筆の手紙のコピーと交換させてくれと見せた生写真に写っていた人物である事を思い出す。
そのモヒカン頭の男は誰かに似ていた。
そう、スネーク本人だったのだ。
スネークは、あっさり、その頃バンドをやっていたので…と、写真のモヒカン男が自分である事を認める。
その時、トイレから戻って来た福男が、部屋の中の様子を見るなり、又状況が変わっていると驚く。
家元が簡単に説明してやるが、福男は、そこで思わず漏らしてしまい、又、部屋を出て行く。
オダは、用意していたナイフを取り出すと、スネークに迫って行く。
慌てたスネークは、ミキとは客と店員の関係でしかないと弁解する。
イチゴ娘が、あの時、ミキはお前に抱きついていた!と迫ると、自分抱きついていたのではなく、自分が注文を受け配達しに行ったラッキーチャッピーのボトルセット6本入りに抱きついていただけだと、スネークは必死に弁解する。
ミキは、そのボトルに、ハンドソープとか、食用油を詰め替えると云うので、手伝ったし、上がって、お茶もごちそうになったと言うので、聞いていた他のメンバーたちは嫉妬に狂う。
その後どうしたと聞かれたスネークは、ゴキブリが出たので殺してやったが、あの日地震があったろう?と皆に確認し、店の品物が散乱したので、それを朝まで店長と一緒に整頓していたのだと云い、これ又、しっかりしたアリバイがある様子。
ミキちゃんの普段の様子はどんなだったとの家元の質問には、軽く告ったくらいで、大した話はしなかったから…と、スケークは爆弾発言をし、でも、すぐに振られたとオチを言うと、彼女には恋人がいたらしかった。なぜならその時、いつも支えてくれていた人の為にクッキーを焼いていたからだと云う。
オダは、その恋人とは、ジョニー・デップに似ていると常々ミキが言っていた、幼なじみで恋人だと噂だった「やっくん」の事ではないかと推測する。
それを聞いたスネークは、オダに、なぜそんな事を知っているのかと聞く。
イチゴ娘も、オダがあまりにも情報通である事を怪訝に思っており、さっきの仕返しも込めてオダに迫ろうとするが、あっさり投げ飛ばされてしまう。
その時、イチゴ娘は、この投げられる感じ、どこか、デジャビュ(既視感)を感じると言い出す。
その場にいた全員は、何故かハンカチで顔の汗を拭き始めたオダの顔をまじまじと見つめ、何かを思い出そうとしていた。
確かに、そのオダの面影は全員見た記憶があったからだ。
家元のコレクション写真に写っていたマネージャーのデブッチャそっくり!
一年で55kg痩せたのだと、観念したオダが告白する。
ストレスヤセなのだと云う。
それを聞いた瞬間、家元は笑い始める。
ここに来ているみんな、自分よりもミキちゃんに近い人ばかりじゃないかと云うのだ。
コレクションしか持たない自分なんて、虫けらに過ぎないとまで自嘲するので、みんなはそんな事はないと慰める。
オダは、ミキのぱっちり二重はプチ整形ですと衝撃の告白をする。
そこに、またまた安男が戻って来て、あれは自殺だったんです。自分は毎日、ミキと電話で連絡していましたからと言い出したので、またまた、全員凍り付く。
プチ整形の時も反対したのに、ミキっぺの奴…と、いかにも親し気に語り出した安男を見ていた家元は唖然としながらも、そう云えば、ミキの出身地も福島…、安男は本名と云っていたなと思い出す。
「やっくんです」と、安男が改めて自己紹介する。
それを聞いた全員は凍り付く。
どこがジョニー・デップ似なんだ!と突っ込みが入り、後ろ斜め横45度から見たら似ているとミキは言っていたと安男は照れくさそうに告白するが、全員納得いかなかった。
さらに、子供の頃は良く一緒に風呂に入っていたと、その証拠写真まで出してみせ、さらに、安男は、ミッキっぺの方は僕と結婚の約束をしたと思い込んでいたみたいと言うので、全員、大ショックを受けてしまう。
次の瞬間、その安男が、先ほど、オダが床に落としたナイフを拾い上げ、真犯人がいるとしたら、それはあんただよ!ミキっぺは、マネージャーが怖いと毎日電話で訴えていたんだ。あんたが、勝手に、ヘアヌード写真集の発売を決定したんでしょう!と言いながら、オダに迫る。
今度は窮地に立たされたオダは、あの子は強い子だったと必死に抵抗し始める。
しかし、安男は、作っていたんだよ!芸能界に入るのも、四つの時に生き別れた父親に、自分の成長した姿を見せるためだったんだと言う。
家元もオダに、君の自殺を他殺にし、無理に犯人を作ろうとしているのも、自分のせいにしたくないだけじゃないんですかと疑問を投げかける。
無責任なスネークは「殺りなよ」と、安男をけしかける。
オダは「愛していたんだ。あの子を何としてもスターにしてやりたかった。歌も芝居も出来ないんだよ。ヘアヌードで話題になってくれればと思って…。あのままだったら、D級タレントのままで終わり、そうなったら、お父さんにも伝わらないだろう。君たちも、彼女が売れなくて良かったのか?」と聞き返す。
「良かったんですよ。売れなくても。死なれるよりましだ。売れないままでも、静かに応援したかったです」と家元が答える。
自暴自棄になったオダは「殺してくれ!俺を殺してくれ!」と言い出す。
しかし、安男はナイフを手から落とし、「ミキっぺは帰りません」と呟く。
その落ちたナイフを取り上げたオダが、自らの喉を突こうとしたので、イチゴ娘はオダを殴りつけ、「あんたに死ぬ権利なんかない!ミキちゃんに悪いと思うなら、その気持を一生背負って下さい」と一喝する。
そんな様子を見ていた安男は「俺も同罪かもしてない。福島に連れ戻すべきだった」と呟く。
僕たちも同罪かもしれません。オダさんも無理をして、僕たちの為に頑張っていたんだからと弁護し、こっちの気持を一方的に送ってしまって…と反省した家元は、つい気になって、200通のファンレターの事何か言ってなかった?と安男に聞いてみるが、別に何も…と、あっさり否定する。
去年の今日はどんな話をしたのか聞かれた安男は、ゴキブリが出た話をしたと答える。
ゴキブリは殺したんじゃなかったのか?と聞かれたスネークは、恥ずかしそうに、実は殺せなかったんだと云う。
ママレモンで殺せるよと教えたと安男が続けると、イチゴ娘がファミリーピュアだったと訂正する。
その時、キャッチホンがかかって来たので、かけ直すと云って、ミキからの電話は切れたのだと安男が説明する。
その電話をしたのは自分で、明日のスケジュールの事を報告しただけとオダが証言する。
家元は、その時刻を確認する。
10時35分だったとオダが返事する。
当時の資料を読み返した家元は、疲れたと云う電話が入ったのが10時55分、その20分前には、そんな気配もなかったのに、急に自殺を考えるだろうかと疑問を口にする。
後でかけ直すって言ったんですよねと、再度安男に確認した家元は、オダさんには自殺をほのめかす電話をしているのに、なぜ、安男さんには言わなかったんでしょう?と更なる疑問を口にする。
それを聞いたオダは、常日頃、自分に対しては敬語を使っていたミキが、あの日に関してだけは、ため口だったのは奇妙だと言い出す。
家元は、リダイヤルと着信履歴を間違えたのではないかと気づく。
あのミキの最後の言葉は、遺言ではなかったかも知れない…
20分間もファミリーピュアを撒いていて、その直後自殺するはずがないからだ。
しかし、実際に床に撒かれていたのは油、洗剤とは全く入れ物が違うので間違えるはずがないとオダが否定する。
そこで全員が、スネークがさっき言っていた言葉を思い出す。
事件当日、ラッキーチャッピーの入れ物に、全部中身を入れ直したと。
しかし、スネークはその説を否定する。洗剤と食用油の容器に使ったラッキーチャッピー容器は全然別で、一方は、ラッキーチャッピーがミルクを飲んでいるパターン、もう一方はラッキーチャッピーがトウモロコシを抱いている姿をしているのだと言う。
それを聞いた全員は、それでは間違えても不思議はないと確信する。
では、火は何でついたんだとオダが疑問を言う。
寝る前に彼女は何をした?…「アロマキャンドル!」イチゴ娘が思い出す。
何かの拍子に、アロマキャンドルの比嘉由香の油に引火したんだ。
「地震?」とスネークが思い出す。
地震の揺れで、アロマキャンドルが床に転げ落ち、床に撒いた油に引火したのだ!
ミキは自殺ではなかった!事故死だったのだ。
運が悪かったのと、生来のおっちょこちょいが原因だっただけ。
推理を披露した家元が、みんなに「いかがですか?」と意見を聞く。
しかし、イチゴ娘は浮かない顔で、責任はある。俺がしっかりしていれば、あの子が芸能界に入る事もなかった…、あの子の運命を変えてしまったのは僕なんだんだと言い出す。
僕がかい性がないばっかりに、ミキが四つの時に…と呟いていたイチゴ娘の言葉を聞いたスネークが叫ぶ。「パパ?」
家元は又してもショックを受ける。「ファンは僕だけじゃん!」
「責任はみんなにある」と、スネークが殊勝な事を言い出すが、「僕だけ関わっていない」と家元がすねる。
安男はオダに「私をののしって下さい。さっき、あんな事して…」と謝る。
しかし、オダは、家元の推理に納得しきっていない様子。
スネークが「欠点あるか?」と聞くと、「死体発見された場所です」とオダは言う。
イチゴ娘に、アパートの見取り図がかけるかと聞くと、イチゴ娘は嬉々として、図面を書き始める。
ミキは物置で見つかった。
火に気がついて逃げるのだったら、入り口か窓のはず。敢えて、自分を逃げられない場所に追い込むだろうかとオダが疑問を言う。
イチゴ娘が言うには、物置には下着があっただけだと言いかけて、そう云えば、このくらいの段ボール箱があったと思い出す。
中には何が入っていたんだと聞かれたイチゴ娘は必死に思い出し、「手紙…、たくさん!」と答える。
それを聞いた瞬間、全員家元の顔を見つめる。
ファンレターを取りに行ったんだ!
オダが家元に優しく語りかける。
家本さんのファンレターを守る為だったんですよ。ミキの命よりも大切な宝物ですから。
お世辞じゃなかったんだと、スネークが衝撃を受ける。
ミキの宝物でしたとオダが断言する。
家元は狼狽し、「嘘ですよ…、嘘に決まってますよ」と必死に否定しようとするが、安男が「当日、ミキはクッキーを焼いていたと云ってましたが、僕の誕生日はずっと後なんですよね」と言い出す。
誕生日を聞かれた家元は、叫ぶように「明日です!」と答える。
「あの子を支えていたのはあなたです。単なる一ファンだからこそ」と安男が言い切る。
「アイドルだったんだ。正真正銘の…」
それを聞いた家元は感激して泣き出してしまう。
「仕事は頑張るつもりだったんだ。写真集のタイトルも決めていたくらいだから」とオダが言う。
イチゴ娘も、決めていました。あいつの母親から16年振りに電話があって、お父さんに見てもらいたいって言ってたそうですと付け加える。
そのタイトルとは「SHOW ME~こんなに立派に育ちました~」だったと言う。
「やる気満々じゃん」と、全員納得する。
「不思議な子だ。とらえどころのない…」ミキを思い出すようにオダが呟く。
「我が子ながら、虚像だ…」とイチゴ娘も回想する。
「まさにアイドル!」と感心した家元が、「ミキちゃん、サイコ~!」と叫びながら座布団を放り投げると、それがオダが持って来た何かにぶつかる。
家元はそれが何かすぐに気づいた。
部屋の電気を消し、そのスイッチを入れると、天井に満点の星が輝き出す。
「幸せだったんだ、ミキちゃんは…」と家元。
「幸せですよ」と安男。
「あの子は幸せだった」とイチゴ娘が呟く。
不思議だ…、我々が導き出した結論は、推論かも知れないけど、五人が集まらなければ出なかった結論だ。僕たちが、今ここにいる事に意味がある。天国のあの子がそうさせたのかも知れない…、きっとそうだ!とオダが呟く。
イチゴ娘や安男は、幼かった時代のミキと一緒の頃の自分を星空に見る。
オダや家元も、星の中から出現したミキの幻影を見ていた。
窓を開けたオダは、きれいな夕焼けになりましたと云いながら、言ったんは没収したカチューシャをイチゴ娘に返しながら、無礼した事を謝りますと手を差し伸べる。
家元は、来年の2月4日も…と言いかけるが、止めようよとオダが制止する。
一人、安男だけが、家元のコレクションを観ていないと不満そう。
家元は、大磯ロングビーチの時の映像を、ハンディカムでも撮ってましたと打ち明け、みんなで一緒に見ませんかと誘いかける。
映像の中では、司会役の宍戸錠が紹介した後、如月ミキが唄い始め、みんなもそれに合わせて踊り出すのだった。
(エンドクレジット)
部屋の中に、いつの間にか、映像に写っていた司会者宍戸錠が出現していた。
5人はイスに腰掛けている。
「二年間、徹底的に調べ上げた」と宍戸錠が言う。
「2月4日、一体何が起こったか?」と、宍戸錠は、一本の折れ曲がった針金を取り出して五人に見せる。
▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼
「12人の怒れる男」(1957)にインスパイアされた「12人の優しい日本人」(1991)を連想させる、密室型推理コメディ。
登場人物が、一人を除いて皆、癖が強いアイドルオタクと云う設定が現代風。
いかにも「ださい醜男タイプ」の福男とか、いかにもチャラ男のスネークなども、単なるおちゃらけ要員か?と思わせておいて、後半、意外な展開に持って行く所などは巧い。
家元、イチゴ娘、オダ・ユージの正体も意外性があるが、何より、ファンと云うには、よりアイドルに近い身内のような存在や警察関係者がそろわないと、この種の推理は構成しづらい所を巧くひねって利用している。
ラストのしみじみとした結論に持って行く手腕もなかなかだし、話の展開だけで見せる低予算映画の見本のような作り方だと思う。
ただし、ラストの「振り出しに戻る」オチは、余計だったような気がしないでもない。
香川照之演ずる、いかにもうさん臭いキャラクターが秀逸。
オダ・ユージ役のユースケ・サンタマリアも、なかなか健闘していると思う。