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壁の中の秘事

1965年、若松プロダクション、大谷義明+曾根中生+吉沢京夫脚本、若松孝二監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

スターリンの大きな写真が壁に貼っている団地の一室で、裸の男永井が同じく裸の女の腕に注射をしてやっている。

永井の背中の左反面には、目立つやけどの痕があった。

広島の原爆で受けた傷だった。

女、夫を持つ主婦信子は、抱き合ったその男の背中の傷を触りながら、「これは広島の象徴、戦争反対の象徴、私はあなたと一緒に戦うわ!あなたを愛している限り、戦争を憎み、平和の為に戦うわ!」と呟く。

永井は「僕はいつ死ぬか分からない…」と呟きながらも、女を抱きしめる。

信子は呟く。「私たち、なぜ、結婚しなかったのかしら?」

永井が答える。「君が結婚したからさ」

「私の事、裏切ったと思っているの?」と信子。

「いや…、青春が終わったんだと思っているよ」と永井。

信子は、「平和ねぇ…」と嘆息する。「毎日毎日、この監獄のような部屋の中に住んでいて…、平和な監獄」

永井が解説する。「知っているかい?廻り中、鏡貼りした部屋の中に猿を入れておくと、どれが自分か分からなくなり、数日で発狂するそうだ」

信子は、そんな永井の話を怖がる。

外から、りんご売りの拡声器の声が響いて来る中、男は、そんな信子を又抱こうとする。

その信子と長い常時にふけっていた向いの棟の一室では、一人の浪人生まことが受験勉強をしていたが、隣室で、姉のマサ子が音楽を鳴らしながら美容体操をしているので、うるさくて集中出来ない。

まことが、音楽を止めてくれと講義すると、姉マサ子は、私、知っているわ、あんたが予備校に行かない理由と意味ありげに言って、そのまま運動を続行する。

さらにマサ子は急に、何か冒険してみない?こんな狭い部屋にいて息が詰まらない方がどうかしていると弟に話しかけるが、まことは乗って来ない。

まことはその後、団地のあちこちで集まってしゃべりまくっている主婦たちの生態を観察していた。

夜になると、まことの父親が帰宅し、テレビ時代劇を見る事だけが楽しみな毎日。

その頃、信子は、ベッドの中でベトナム戦争を報ずる雑誌を読みふけりながら、信子の身体をまさぐっている夫の態度にいらついていた。

たまりかねた信子は、あなた、私の事疑った事ある?と突然切り出すが、夫は馬鹿にして説教を始めたので、信子は、これでも自分も昔、平和活動をしていたのだと反論する。

しかし、やはり、会社で組合運動をしている夫は、信子の言葉を馬鹿にする。

信子は、昔と違って、今は組合天国ねと皮肉るのが精一杯の抵抗だった。

ある日、信子が一人で部屋でテレビを観ていると、二階から洗濯物がベランダに落ちて来たので、それを持って、上の階の女の所に持って行ってやる。

しかし、しばらくすると、又、上から数点の洗濯物が落ちて来て、上の階の女が取りに来る。

信子がベランダから拾って来て渡してやると、相手は、その中に混じっていたフランス製高級下着に入手方法を自慢げに話し出す。

その夜、まことは、勉強机でエロ本を読んでいた。

すると、別室から、両親の喘ぎ声が聞こえて来たので、「あ〜あ、ゆっくり寝たいな」とわざと大声を上げ、母親を慌てさせる。

そんな母親が、茶を持って来たので、自分は、親父みたいな安月給の役人になるつもりはないとまことは告げる。

翌日も、まことは小さな望遠鏡で、向いの棟の部屋を覗き見ながら、自慰にふけっていた。

信子は、やけど痕のある男永井と、いつものように浮気していたが、その時突然部屋の電話が鳴り出す。

信子が電話を取り上げると、無言だったので怪しむが、永井の方は、亭主の山辺からではないのかと疑っていた。

その頃、まことは洗面所で、丁寧に手を洗っていた。

永井はラジオの株情報を聞き始めた後、信子に注射してやる。

信子は、男のために不妊手術まで受けていたのだ。

私たちの戦いに子供は邪魔だと云うのが主婦の考えだった。

その考えを聞いた永井は、感謝して涙した後、自分たちの運動に協力してくれる人物があるのだと話し始める。

その後、タバコを買いに外に出かけた信子は、自分は今でもあの永井を愛しているのだろうかと自問し、もう何の魅力も感じていない事を悟るが、別れるのが怖いだけなのだと知る。

信子の上の階の女は、一人でテレビのメロドラマをいていたが、そこにクリーニング屋が洗濯物を届けに来たので、茶でも飲んで行かないかと誘うが、あっさり断られてしまう。

その夜、信子に部屋に女友達が遊びに来て、夫と三人で飲んでいた。

夫は、くだらない話で笑い転げている二人の女に呆れながら、世の中には、原爆の傷を負いながらも、必死に生きている人がいるんだと話すが、それを聞いた女友達はなおも笑い続ける。

しかし、信子は笑えなかった。

翌日も、まことは望遠鏡で、信子と永井の浮気現場を覗いていたが、母親が帰って来て、どうして予備校へ行かないのかと説教し出したので、まことは、あんな屈辱的な所へは行きたくないと口答えする。

翌日、信子は、夕べの二日酔いで苦しんでおり、トイレで戻した後、ベッドで寝ていたが、そこに夫の山辺が戻って来て、箪笥の中から衣類を取り出し始めたのに気づく。

こんな時間にどうしたのかと聞くと、大阪に三日間出張なのだと云う。

信子が、パートタイムでもして働こうかしらと言い出すと、山辺はかちんと来たのか、何が不満なんだと怒り出す。

信子は、男は良いわ、仕事から帰って来ると、後は何をしても良いように自由に振る舞えてと日頃の不満を漏らすのだった。

その頃、まことの姉、交換嬢をしているマサ子は、男にはじめて抱かれていた。

翌日、いつものように、まことが望遠鏡で信子と永井の浮気現場を覗き見していると、突然、訪問者を知らせるブザーが鳴ったので、出てみると、見知らぬ男が、夕べ、姉のマサコをタクシーで送って来たのだが、その時、マサコがタクシーに忘れて行ったものだとバッグを差し出してくる。

姉の会社の人なのかとまことが聞くと、違うと云いながら、その男は帰って行く。

情事が終わった後、信子は、夏みかんに砂糖を付けて永井に食べさせながら、私たち、話す事がなくなったわねと呟いていた。

山辺とはあるのかと永井が聞いて来たので、信子は寂しそうに首を横に振る。

今夜は私一人だけなの、ダメ?と帰りかける永井を引き止めようとする信子だったが、永井は、これ以上、深みにはまったらどうなるか…と答えるだけ。

私をここから連れ出して!と信子が迫ると、日本中、どこへ行っても、ここと同じようなものだと永井は云うだけだったので、信子は、私たち、もう終わりね…、私、赤ちゃんが欲しいと泣き出す。

すると永井は、僕たちは被害者なんだよ、それが、平和運動で又裏切られ…、被害者は行き場がないんだ、自分たちの青春は、一時の情熱が生んだ過ちだったんだと言い出したので、信子はたまらなくなり、今のあなたは、ベトナム戦争を株価の材料にして生きているだけじゃない、あなたは私に対して加害者になったのよ、あなたはそれで救われるのかも知れないけど…と言い放つ。

永井は黙って帰って行き、信子は小さく「さようなら」と呟く。

その時、サイレン音が近づいて来たので、何事かとドアを開くと、救急隊員が上から担架を運び降ろしている所だった。

担架に乗っていたのは、上の階の女だった。

どうしたのかと信子が聞くと、自殺だと云う。

その日、まことがエロ雑誌を読んでいると、姉のマサ子が帰って来たので、バッグを渡し、あいつはどういう男かと聞くと、バーで会った男だと云う。

まことは、一号館の奥さん、自殺したぜと教える。

狂言自殺のつもりで、自分で首を絞めているうち、本当に死んでしまったらしいと。

しかし、マサ子は興味なさそうに浴室に向かう。

その様子をカーテン越しに覗くまこと。

そうとは知らず、風呂に入り身体を洗うマサ子だったが、すりガラスから見えるそのシルエットを、まことは凝視し続けていた。

マサ子が風呂から上がり、下着を付け始めた瞬間、カーテンを開け飛び込んで来たまことが姉に襲いかかる。

下着を顔に巻き付け、抵抗するマサ子を殴りつけるまこと。

やがてぐったりとなったマサ子を犯そうとするまことだったが、身体が言う事を聞かない様子。

たまりかねたまことは、冷蔵庫を開け、中に入っていた何本ものソーセージを取り出す。

信子は、永井とのこれまでの情事を思い出していた。

その時ブザーが鳴ったので出てみると、そこに立っていたのは、見知らぬ青年まことだった。

何の用かと聞くと、自分はあなたの事を良く知っているものだと云う。

怪しんで、ドアを閉めようとすると、まことは片足をドアの隙間に差し込んで来る。

まことは、あんたに電話した事がある。どっかの男と寝ている時にね…と教え、それを聞いた信子は観念して、まことを部屋に招き入れる。

お茶を入れると言いながら、やかんをガスの火にかけた信子は、隣の部屋の電話を手に取ろうとするが、まことから警察に連絡をしても、俺は何もしていないと話しかけられ止める。

まことが、望遠鏡で覗いていた事を告白すると、信子は、主人に言うつもりねと言いながら、手落ちの金を渡そうとするが、まことは馬鹿にするなと跳ね返す。

信子は包丁を手に取り、まことを刺そうとするが、ちょっと手を怪我させただけで簡単に奪われてしまう。

まことは、自分に強姦されると思って怖がっているのだろうが、そんな気持ちはないし、帰って勉強がしたくなったと言い出す。

俺は頭が悪いので、本当は大学なんか行きたくないのだ、こんな所にすんでいると頭がおかしくなって来るんだと告白する。

それを聞いた信子は、分かるわ、みんなここのせいよと同情しながら、帰りかけたまことに、手の怪我の手当をしてやろうとする。

しかし、まことは、嘘だ!あんたも俺を馬鹿にしている。何も出来ないと思っているなと逆上し出すと、信子につかみ掛かって来る。

首を絞められた信子は覚悟を決め、服を脱ぐと、ベッドに横たわり、自分を好きにして良いと言い出す。

その上から乗りかかったまことだったが、信子が自分の様子をじっと見つめている事を知ると、目をつむれと命ずる。

信子が冷静に、あなたはじめてなのねと言うと、逆上したまことは、出来るんだ!俺にだって出来るんだ!とわめき出し、先ほど、ソーセージを使って姉を陵辱したときの事を思い出し、近くにあった包丁を手に取ると、それを信子の腹に突き立てるのだった。

その事件の事は、新聞の片隅に小さく載っただけだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

若松孝二監督28歳の時の作品らしい。

この作品に目を留めたドイツの映画配給会社の社長が、ベルリン国際映画祭のコンペティション部門予選にこの作品をエントリーしてみた所、それを知った国内マスコミから、「ピンク作品がエントリーされるとは国辱ものだ」と一斉に叩かれたと云う曰く付きの作品だったと言う。

今、改めて、この作品を観ると、ピンク映画とは言いながらも、性的に興奮するような描写はほとんどない事に気づく。

女性の裸の描写にしても、胸の露出すらほとんどない程度。

後は、目や身体の一部の接写などが多く、どちらかと云うと、アート映画の印象の方が強い。

60年代半ば頃のピンク映画と云うのは、この程度のものだったのかと言うのが正直な感想である。

ほとんど、団地内の部屋だけで撮影されている為、広がり感はないが、劇中の人物たちが漏らしているように、息が詰まるような密室感はそれなりに出ているようにも思える。

かつて、一緒に平和運動をしていた男と、その後も付き合いながら、自分なりの活動をしていたつもりの一人の主婦が感じる闘争への無力感、男への幻滅感。

狭い密室のような所で生活して行くうちに、何かを見失って行く男女たちの悲劇性は、今観ていても、それなりに感じるものがないではないが、全体としては、展開が容易に想像出来る範囲のもので、やや平凡で退屈な印象しか残らないのも事実である。