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十七才は一度だけ

1964年、大映東京、石坂洋次郎「青い芽」原作、池田一朗脚本、井上芳夫監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

波打ち際の映像に重なるように少女の声

私は夢を見る…、どんなに燦々と陽が照っていても…

北国に生まれた私には、こんな寒々しい海でも夢を見る。

私は明日に向かって夢を見ることが出来る今を大切にしたい。

なぜなら、十七歳は一度だけだから…

タイトル

体操着を着た女子高生たちが、先生に引率されながらランニングをし、秋田芙蓉高等学校の門に入って行く。

体育が終わり、顔を洗う女子学生たちは、五日後に迫った修学旅行の話に夢中。

雨が降らないようにてるてる坊主でも作るんじゃないのと子供扱いされたカナッペこと田中加奈子(高田美和 )は、むくれて、もう修学旅行なんて何度もやっているからそんなに嬉しくないわよねと、同意を求めるように同級生のミッチー川村路子(林千鶴)に話しかけるが、何故かいつも明るいはずのミッチーは、暗い表情のまま返事もしないで教室に戻ってしまう。

その後、写真部の暗室に向かった加奈子は、タバコの臭いに敏感に気付き、先に暗室に入っていた1年先輩の沢木光雄(青山良彦)に手を差し出す。

こんな所でタバコを吸っていることが知られたら、写真部は解散。

そうすると、先輩のあなたは自分のせいだと自責の念に襲われ悩み抜き、最後には仲の良い私に相談するに決まっている。

そうすると、私も同情して、あなたと一緒にめちゃめちゃな生活をし出すようになるかも知れないからと、おかしな論理でまくしたてる加奈子の言葉に根負けしたかのように、沢木は素直に謝りタバコを差し出すが、秘密保持の為に、加奈子からお汁粉三杯をおごる約束までさせられてしまう。

自転車で一緒に下校する二人だったが、ミッチーの様子がおかしかったと加奈子が打ち明けると、彼女の父親が会社を首になったそうだと沢木が教える。

ミッチーの家庭の事情を知って同情した加奈子だったが、沢木が200mmの望遠レンズを買ったと教えると、すぐに見せて興味を示し、そのまま近くの二の丸公園に向かうと、勝手に沢木のカメラを手に取り、盛んに周囲の風景を覗き出す。

すると、草むらの中で昼日中から、濃厚なキスをしているカップルの姿をファインダーの中に見つけてしまい、興奮した加奈子は、何に驚いたのか聞きたそうな沢木の頬をいきなりビンタすると、そのまま沢木のカメラを首にぶら下げたまま、一人でさっさと帰ってしまう。

加奈子の実家は田中屋と云う地元でも老舗の醤油醸造元だった。

両親とも家にいたが、弟の修次(小柳徹)は、帰って来た姉が首から下げていたカメラに興味を示し触りたがるが、加奈子から邪見に手を払いのけられたので、「何だ?この台湾金魚!」と悪態をつく。

修次が去った後、加奈子の不機嫌そうな態度を心配して近づいて来た母とも子(荒木道子)にいきなり、「いっそ結婚しようかな」と加奈子は言い出す。

唖然としながらも「誰と?」と聞くとも子に、「沢木君とでも…、今すぐ結婚するのよ」と簡単そうに答える加奈子。

「そんな話は、私は心臓が悪いんだから止めてくれ。それにそんな話を顔を赤らめもせずに平気でするお前の気持がわからない」ととも子が叱りつけると、「どうして顔を赤くしなければいけないの?」と加奈子は平然と聞き返す始末。

「学生同士で結婚したら、生活費はどうするのか」と聞くとも子に、私の大学進学の為に貯めているはずの学費を回してなどと加奈子は答え、「今結婚しておかないと、私は不良になりそうな気がする」と言い出したので、隣の部屋で聞いていた父親修吉(船越英二)が押っ取り刀でやって来て話に加わるが、加奈子は夫婦がもめ出したのを機にさっさと二階の勉強部屋に上がってしまう。

その後、二階からものすごいボリュームでロカビリー音楽が流れて来た時、兄の修平(山下洵一郎)が帰って来たので、両親は加奈子の様子を偵察に行かせる。

兄が部屋に来た目的を知った加奈子は、公園でラブシーンを観てしまったことを打ち明けるが、その時、おごってもらうはずだったお汁粉のことを思い出す。

さらに、大人になるのって嫌じゃない?年頃になると、大人に批判的になったり、金持ちの二枚目が私を好きになってくれないかなどと妄想するようになるけど、それって精神的な不良ですものねと聞く加奈子に、修平は、そうしたことはむしろ矛盾と云った方が良いのではないかと優しく言い聞かせる。

やがて、二階から二人の笑い声が聞こえていたので、階段下で耳をそばだてていた両親は、取りあえず大丈夫だろうと胸を撫で下ろすのだった。

そこにやって来たのが沢木だった。

二階の加奈子の部屋で、修平とも会った沢木は、今までの経緯を二人の口から教えられ、なぜ、さっき、両親が自分を観る目がおかしかったかを知り、三人で笑い転げる。

沢木の帰り道、送って来た加奈子に、沢木は君の兄さんってシャープでパンチあるな~と感心てみせる。

その時、加奈子が、あなたのお嫁さんになるのは取り消しよと、あっけらかんと言い出したので、呆れた沢木はすごい星だなと夜空を見上げる。

その星を観ながら、修学旅行の日も晴れて欲しいと願う加奈子だった。

願い通り、晴れ渡った空の下、修学旅行が始まる。

集合場所に姿を現したミッチーを観た加奈子は驚くが、その意外そうな顔を観たミッチーの方が気になり、女子グループから加奈子を一人呼び出すと、「来ないと思ったの?知っていたのね、父が会社を辞めたことを」と聞く。

加奈子が申し訳そうに頷くと、一旦は修学旅行に参加するのを止めようかと迷ったが、どうせ最後の修学旅行だから、思い切って行くことにしたが、その代わりに…と言いかけた所に友達が声をかけて来たので話は中断する。

「辞める?!」乗り込んだ列車のデッキの所で、再びミッチーと二人で話していた加奈子は驚きの声を上げる。

ミッチーが学校を辞めると決意を述べたからだ。

卒業まで一年待っていられない。学校に求人が来た東京の企業が三社あったので、今回の修学旅行の自由時間を利用して、その会社訪問をしてみるつもりだと云うのだ。

私も付いて行ってやると申し出た加奈子だったが、ミッチーは一人で行くと言い張る。

一行は、京都、祇園などを見学した後、旅館で入浴するが、話題になるのは、男の子のことばかり。

島田春子 (渚まゆみ)の理想とする男性は、175cm以上で体重60kg、ポマードを付けていない人と言う発言を受け、湯船に浸かっていた加奈子らも、理想の男談義に花を咲かせるのだった。

一行はその後、奈良、伊勢などを巡り、東京へ到着する。

ミッチーと加奈子は、最初の訪問先である日東精器と言う会社にやって来て、加奈子には駒沢公園で待っていてくれと打ち合わせしたミッチーは単身会社へ入って行き、受付で秋田から来た川村路子だとはっきり名乗る。

一方、電車に乗った加奈子は、満員電車なのに、カナリアを入れた買ったばかりの大きな鳥かごを持ち込んでいるサラリーマン風の男から、その鳥かごを押し付けられたので、隙間を空けてやることにする。

恐縮した男に、駒沢公園へはどう行けば良いのかと加奈子が聞くと、男は驚いたような顔で、それじゃあ電車が違う!と教えてくれるが、ここからだとどう行けば良いかな?三軒茶屋で降りて二子多摩川からバスに乗った方が…?などと真剣に考えてくれる。

その頃、ミッチーはあっけなく社長に会うことが出来ていたが、それは、社長(見明凡太朗)の名前も川村だったため、親戚か何かだと勘違いされ社長室に通されたのだった。

それでも、これも何かの縁だろうと云うことで、川村社長は快く、高校生のミッチーが用意して来た質問に答えてくれることなる。

一方、加奈子の方は、あの電車で知り合った鳥かごを持ったサラリーマンに駒沢公園まで連れてもらって来ていた。

すっかり手間を取らせ、恐縮する加奈子に、東京住まいのその男も、実は今まで一度も駒沢公園へは来たことがなかったんだと笑う。

加奈子が秋田から来たと話すと、その男も以前、秋田に行った時、竿燈祭りと云うのを観た事があるけど、今年は行けなかったなどと懐かしそうに話し始める。

それを聞いた加奈子は、今年は10月26日に、新庁舎の完成式典があり、その時、もう一度、竿燈祭りをやるので、その時に来ないかと勧める。

すると男も手帳を取り出し、スケジュールを確認すると、そうしようかなと嬉しそうに返事をし、あなたの笑顔を観ていると何故か嬉しくなってしまう。何かまぶしいくらいに明るいからだろうと続ける。

その時、二人は、公園を飛んでいる一機のラジコン飛行機が空中で失速し、墜落したのを目撃する。

男は、そのラジコン飛行機の墜落地点へ駆け寄ると、持ち主らしい子供を前に、飛行機のエンジン部分を調べ始める。

そうした男の様子を、イスに腰掛けた加奈子は、好ましそうに眺めていた。

その時、ようやくミッチーが姿を見せる。

成果はどうだったのかと聞く加奈子に、幸運なことに、最初の会社がこちらの条件を全部飲んでくれたので、後の二軒を廻る必要がなくなったと報告するミッチー。

社長はどんな人だったの?と興味深げに聞いた加奈子は、おじいちゃんだったと答えるミッチーに、油断しちゃダメよ、今はそう云うのが危なくって、ロマンスグレーと云うんじゃないの?と注意する。

しかし、ミッチーは、社長の印象を「英国風の上等の服を着たカワウソ」と表現し、初任給は1万4500円で、ボーナスは3.5ヶ月分、年収に直すと30万を超えそうだから悪くないと満足そうだった。

そこに戻って来た男が、中井照吉(伊藤孝雄)と自己紹介したので、ミッチーも川村路子ですと答える。

中井が帰ろうとするので、入り口の所まで鳥かごを持って行くと付いて来た加奈子は、ちょっと電話をかけて来ると言う中井に、それじゃあ、邪魔でしょうからとその場で鳥かごを持ち続けることにする。

中井が近くの公衆電話をかけに行った間、ミッチーがその鳥かごを持たせてと頼むが、加奈子は絶対渡そうとしない。

そうこうしているうちに、公衆電話をかけ終えた中井は何事かに慌てた様子で、タクシーを止めると、加奈子らに預けた鳥かごのことも忘れて走り去ってしまう。

その夜、旅館では、女子高生たちが枕投げに興じていた。

そうした中、一階の部屋では、加奈子とミッチーが、引率の池島先生(高橋昌也)と今泉先生(豪健司)に、持ち帰って来てしまった鳥かごの事を報告していた。

今泉先生が、二階で騒いでいる生徒たちを注意しに出かけた間、池島先生は、一種の忘れ物なのだから警察に届けるべきだろうと諭すが、なぜか加奈子は、カナリアを死なせてしまったらどうします?預ったものの責任がありますから、警察になんか渡せませんと言い張り、ミッチーも同意する。

しかし、相手の名前は聞いていても手がかりがそれだけでは、広い東京で探す事など出来るはずがないと池島先生は粘り強く説得しようとするが、あの人は、今度の新庁舎完成の日に秋田に来ますから、その時に返すと加奈子は言い出す。

そこに今泉先生が戻って来たので、池島先生はどうしようかと相談する。

加奈子たちが修学旅行から戻ったある日、弟の修治は、表で沢木から呼び止められ、旅行から戻って来てから加奈子の様子が変わったそうだがと聞かれる。

確かに加奈子の様子は旅行後変わってしまっていた。

東京から持ち帰って来た鳥かごのカナリアの世話をするのに夢中で、母親の言葉も満足に聞かない態度。

カレンダーの26日の日に描かれた花印の意味を心配して様子を見に来たとも子が聞くと、新庁舎の完成式の日だと云う。

そこに帰って来た修治が、沢木さんが来ていると兄の修平に教える。

沢木は、東北大学の理学部に進みたいと、修平のアドバイスを受けに来たのだった。

仙台には親戚もいるので通いやすいと沢木は説明するが、そこに加奈子が降りて来て、何しに来たのと素っ気ない問いかけ。

写真部のゼミナールを今日の二時にする約束だったろう?と沢木が言うと、あっさりそうだったわねと加奈子は思い出した様子で一緒に外出する。

その途中、加奈子は運動靴を買わなくてはと思い出したので、思い切って沢木はカナリアの事を聞いてみる。

しかし、加奈子がとぼけるので、いら立った沢木は、今じゃ学校中にカナリアの事は知れ渡っているが、要するに気になるのは持ち主の事なんだなとけんか腰になる。

僕のカメラを持って行ったくせに、どうしてその持ち主の写真を撮らなかったんだと突っ込まれると、加奈子もどうしてあの時、あの人の写真を撮らなかったんだろうと考え込んでしまう。

あまりしつこく突っ込んで来る沢木の態度に切れた加奈子は、写真部を辞めると言い出す。

売り言葉に買い言葉で、沢木はカナリア部でも作れよと怒鳴りつけ、加奈子も作るわよ!と怒鳴り返すのだった。

その後、デパートへ運動靴を買いに行った加奈子は、壁に貼られた竿燈祭りのポスターを見つけ、今度の新庁舎完成の日に、あの憧れの中井と再会する時の事を妄想し始める。

夢の中の加奈子は、もうすぐ冬なので、今度は行きで作ったかまくらに案内すると中井を誘うが、その時、沢木がぶつかって来たので夢が壊れてしまう。

怒った加奈子は、何よ!人の邪魔ばかりして!嫌いよ!と癇癪を起こしてしまう。

その後加奈子は、授業中でもぼーっとした状態になり、池島先生の国語の授業中、かまくらの中で甘酒を中井に勧める自分の姿を妄想していた。

しかし、その途中、かまくらの天井が崩れ、そこからカメラが二人の様子を撮ろうと覗き込んで来たので、何よ!いつも人の邪魔ばかりして!と口に出してしまい、池島先生から注意されてしまう。

そんな加奈子の様子をミッチーは心配そうに見つめていた。

その日の放課後、駅で東京から来る列車の時刻表を調べていた加奈子に声をかけたミッチーはお茶でも飲もうと誘う。

喫茶店に落ち着いたミッチーは、カナッペの変わりようを観ていると辛いと話しかける。

加奈子が、何だかあの人の事を考えると胸が膨らんで、落ち着かないのと打ち明けると、それは恋よ!恋をしたのよと教えるミッチー。

二人は、今後の友情を約束して握手をし合う。

25日の夕食時、田中家の食卓では、明日の新庁舎の落成式に出席予定だった父修吉が、別用で横手まで出かける事になったととも子と相談していた。

一方、加奈子は、落ち着かない様子で、一膳でご飯を食べ終えると、慌ただしく二階に戻りかけ、母さん、明日の着物お願いねととも子に頼む。

雨が降る空模様を心配した加奈子は、明日が晴れるように久々にてるてる坊主を作って軒下にぶら下げるのだった。

その効果があったのか翌日は雨は止み、まだ、両親が寝ている間に起きて着物を来た加奈子は、店を飛び出して駅に向かう。

しかし、朝の東京からの列車に中井の姿はなかった。

やがて、新庁舎の完成披露式典が始まり、竿燈祭りの見物客の中に中井の姿がいないかと加奈子は探しまわる。

夕方、再び駅に戻って来た加奈子は、その日最後の東京からの列車を待つ事にする。

その夜九時、いつまで経っても帰って来ない加奈子を心配する両親。

とも子は警察に届けた方が良いのではないか。これはただ事ではないと案じ始め、修吉は、まだそんな必要はないだろうと言いながらも、こちらもいら立っていた。

そこに、加奈子を探すよう出かけさせていた修治が、どこにも見つからないと戻って来る。

ますます両親はいら立って来て、のんきにボクシング中継をテレビで観始めた修治に癇癪を起こしてしまう。

その時、兄の修平が、誰かを探すように祭りの中を歩き回っていたと云う加奈子を連れて帰って来る。

何を聞いても答えないと修平が言う加奈子は、家に帰ってからも、ただ「おやすみなさい」と言い残してそのまま二階に上がってしまう。

自室に戻った加奈子は、鳥かごの中のカナリアに向かって、あなたのご主人来なかったわ、来なかったのね、きっと…と呟きかけるのだった。

その後の学校の体育の授業中、ミッチーは加奈子に、いよいよ来月学校を辞めると打ち明ける。

それを聞いて落ち込んで校舎に戻った加奈子を見かけた池島先生が、あのカナリアの持ち主には会えたのかと聞くと、加奈子は泣きながら走り去ってしまう。

その日、修平が帰宅すると、両親が新国そうな表情で顔を突き合わせている。

何事かと聞くと、加奈子が体操着のまま早引けして来たと云う。

これは女親が先生に聞きに行くしかないよと修平から言われたとも子は、嫌だな〜…、何を着ていこうと言い出し、何でも良いでしょう!と修吉を怒らせてしまう。

学校に出向いたとも子は、池島先生から、加奈子は東京で男性に出会い、その人への想いを現実以上の憧れにしてしまったんだろうと聞かされ、誘惑されたんですね!と息巻く。

しかし、あの年頃は酷く傷つきやすいので、優しく慰めてやって下さいと諭される。

その結果、田中商店は店を閉め、慰安旅行と称した家族旅行をする事にする。

一家は男鹿温泉郷にやって来る。

現地に着くなり、修治とかけっこをする加奈子の様子を観ていた両親は、まだまだ子供なんだが…と複雑な顔。

宿に到着し、とも子と共に入浴した加奈子は、みんなが私を慰めてくれようとしているのは分かるけど、私なんでもないの。あまり気を使われると、かえって哀しくなる。でも、とても嬉しいのよと告白する。

その事を、夫の修吉に報告したとも子は、それでも、身体はもう立派な大人で、ぴちぴちしているんですからね〜…と嘆息する。

その後、加奈子が一人で外出した事を両親は知る。

加奈子は、海岸で地引き網を引く漁師たちの姿を観ていたが、ふと気づくと、堤防で一人釣り糸を垂れている段世が見えたので近づいて声をかけると、何とその男は、あの待ちこがれていた中井照吉だった。

しかし、中井の方は、加奈子の顔など忘れていたようで、加奈子が東京での事を話すと、ようやく思い出した様子。

それでも、東京で会った中井の姿とは全く別人のように暗く落ち込んでいる様子。

かなりあの事を持ち出すと、あれはもういらなくなったので、もらって下さい。今更もらっても辛いばかりだから…と中井は言う。

加奈子は、この地方が中井の妻の郷里であり、その妻が今病気なのでこちらに連れて来ただと聞き愕然とする。

好奇心から病名を尋ねると、精神分裂なのだと云う。

あの時、カナリアを買ったのも、妻から頼まれたのだが、駒沢公園の前から自宅へ電話をした所、いつもなら妻が出るのに、その時に限り、義母が出て、妻の様子がおかしいと云うので、あわててタクシーを拾ったのだと云う。

後から知ったのだが、妻の祖母もその病気だったらしいと哀しむ中井は、高校生にこんな話をしてはいけないだろうけど…と言葉を濁しかけたので、加奈子は聞きたいんですとせがみ、失礼ですけど、病気になられた時、奥様は妊娠なさっていたのでは?と聞いてみる。

すると驚いたように、中井は肯定する。

彼女の父親は子供を引き取ると云ってくれたんだが、結局、彼女には中絶手術をしてもらった。あいつが生きている限り、僕の妻である事に変わりはありませんと中井は告白する。

愛していらっしゃるのね…と加奈子が聞くと、むしろ、宿命と云った方が良いと思うと中井は呟く。

加奈子は思い切って、奥様に一度お会いしたいと申し出る。

驚いた中井は一瞬躊躇する。

高校生が病気の妻を観たら、ショックを受けるかも知れないからと心配したのだ。

しかし、加奈子は、もう自分は大人であり、心からお見舞いをしたいのだと主張する。

中井は、今の妻は、自分が中絶手術を受けた事を知らず、まだ赤ん坊が生まれて来ると思い込んでいるのだと加奈子に説明した上で、近くの妻の実家に加奈子を案内する。

家の中には中井の義母がおり、中井が客を連れて来た事に驚く。

中井が奥に声をかけると、椅子に腰掛け、無表情に編み物をしていたた妻のトミ子(田中三津子)が「照吉さん、会社は?」と聞いて来る。

中井は「休みだよ」と返事をし、近所の噂が怖くて、妻を外にも連れ出せないんだと加奈子に説明する。

トミ子は、編んでいた毛糸がなくなったと言い出したので、中井がすぐに買い置きの毛糸を渡そうとすると、今度は寒いと言い出す。

中井は、切れた灯油を補充しようと義母に声をかけるが、いないので、自分で外に出て行く。

トミ子と二人きりになった加奈子は、トミ子が大きな箱を一人で持ち上げようとしていたので、手伝おうと近づくと、邪険に振り払われ、その時、箱が倒れて中身がこぼれ出してしまう。

大きな箱の中に入っていたのは、数えきれないくらいの、赤ん坊用の靴下だった。

全部、トミ子が編んで入れているらしい。

それを見てたまらなくなった加奈子は外に飛び出す。

そんな加奈子の肩に優しく手を置いたのは、追って来た中井だった。

あなたはやっぱり、来てはいけなかったんだと悔いる中井に、神様がいる。何もかも許してくれる神様が必要ですと加奈子は呟く。

中井は、さっき、妻との事は宿命と云ったけれど、本当は空しさ、怒り、哀れみと云った方が正しいのかも知れないと打ち明け、あなたの心を傷つけるのが哀しく寂しいんですと呟く。

旅行から帰って来た加奈子は、一人鳥かごを持ち出すと、そっとカナリアを外に逃がしてやる。

「思いきり自由にね」そうつぶやきながら。

一方、修平を喫茶店に呼び出した沢木は、最近、加奈子と絶交状態になっているので、何とか彼女ともう一度話し合う為に、何か彼女の弱点を教えてくれないかと頼んでいた。

彼女は手が早いので、防衛方法を知りたいと云うのだ。

その後、加奈子は、沢木からの呼び出し状を受け取る。

「五日午後2時、二の丸御門の所に絶対来る事」と書かれているのを両親の前で読んだ加奈子は、持ち前の負けん気を出し、案ずる両親を他所に、行くわ、私!と意気込む。

約束の時刻に出向いた加奈子は、沢木を睨みつけるが、沢木は、君は手が早いから、ボートに乗ろうと言い出す。

それとも、泳げないから怖いかと挑発された加奈子は、乗るわよ!とむきになる。

やがて、近くの池でボートに乗った二人。

沢木は、君と絶交状態のまま卒業するのはやりきれないと告白するが、その時、近くにいた不良学生たちが乗ったボートが二艘、二人をからかうようにボートを挟み撃ちにする。

沢木はすぐに丘に逃げ出したので、不良たちはボートに取り残された加奈子をからかい出すが、その時、戻って来た沢木が「かなっぺ、頭を下げろ!」と言うなり、拾って来た小石を不良たちに投げ始める。

不良たちが退散すると、沢木は加奈子の手を取り丘に引き上げると必死に公園内を逃げる。

大きな木の陰に隠れた加奈子は、怖かったと打ち明け、いつしか顔を見合った沢木はキスしようと目をつぶるが、加奈子は又しても、そんな沢木の頬をビンタしてしまう。

「ごめんなさい!間違わないでね。その…、なんて言うか…、今何か言われたら、私、心臓が爆発するわ。一つだけ言っとくわ。ボートでの話は分かったわ。仲直りしましょう」と加奈子は必死にしゃべり続ける。

数日後、体育の授業でソフトボールをやっていた加奈子は、ヒットを打って二塁に進塁するが、なぜか代走を出してもらって校門の方へかけて行く。

そこで待っていたのは、学校を辞めたミッチーだった。

13時10分の列車で上京するのだと云う。

見送りに行くと加奈子が申し出ると、見送るのは好きだけど、見送られるのは嫌いなので止めてとミッチーが云う。

東京で、あの鳥かごの男性に会うかも知れないので、何か言う事ある?とミッチーが聞くと、加奈子は、何も言わない方が良いの、カナリア、逃げてしまったから…と答える。

その表情を観ていたミッチーは、カナッペ、今、大人の顔になっていたと感心したので、加奈子もあなたもよと言い返す。

二人とも、大人になるのは嫌だったけど、今は受入れるしかないと決めていた。

「さよなら」と互いに言い合い、加奈子は、遠ざかって行くミッチーを校門の所で見送ると、哀しげだった表情を笑顔に変えて、又、グラウンドにかけ戻るのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

高田浩吉の娘、高田美和主演の青春映画。

石坂洋次郎原作ものらしく、活発で男勝りなヒロインが、大人になる直前の不安定な時期に遭遇した出来事を描いている。

高田美和は、モデルのような美女と云うタイプではないが、くりっとした目は愛嬌があるし、やはり若くぴちぴちした時期の作品なので、それなりに輝いて見える。

この作品を改めて感じたのは、主題歌を歌っている高田美和が、結構巧い事。

さらに、劇中、着物姿になった彼女は似合っていると云う事だ。

物語は、修学旅行中と云う特殊な体験の中で遭遇した年上の男性に恋心を持ってしまったヒロインが、その後、不思議な再会を果たして大人へと成長する話と、親友のミッチーが、リストラにあった父親を助け、就職を決意する話がメインとなっている。

中井の妻が精神を病んで…と言う辺りの設定と、偶然、加奈子と郷里で再会する辺りの展開はいささか強引で無理があるような気もするが、現実の厳しさの一端をヒロインに体験させると云う狙いを分かりやすい形で提示したと解釈するべきかも知れない。

このミッチーを演じている 林千鶴と云う女優も、きりっとしたボーイッシュな感じでちょっと気になる感じの人である。

キャスト表を見ると、田宮二郎と本郷功次郎が特別出演しているようだが、残念ながら、確認出来なかった。

ひょっとすると、一人は、田中屋に洗濯機を運んで来た電気屋がそうだったのかも知れないが、あまりに一瞬の事なので、じっくり顔を確認する時間もなかった。

父親役を演じている船越英二の、おっとりした中にも、時折いらだちを見せる演技も面白い。