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次郎長三国志 第八部

海道一の暴れん坊

1954年、東宝、村上元三原作、小川信昭+沖原俊哉脚本、マキノ雅弘監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

江戸時代、東海道を旅する人々の様子。

1年前、次郎長の女房お朝と豚松の二人を失った清水一家は、盛大な法要を行う事になり、清水港にも、大勢の来賓たちが降り立っていた。

そんな中、一人機嫌を悪くしていたのは森の石松(森繁久彌)。

親分から、讃岐の金比羅様に刀を奉納して来てくれと云われたが、180里、片道だけでも三ヶ月かかるような大変な仕事、とても受けられないとこぼしている。

それを面白そうに聞いていた法印大五郎(田中春男)をはじめとする一家の面々は、小遣いに30両ももらえると聞くと、なぜ受けないと不思議がるが、石が言うには、旅の途中で、一切喧嘩もしては行けないし、酒を飲んでもいけないと云う条件付きなのだと聞くと、ますます石をけしかけ始める。

女は大丈夫なのではないか、讃岐の女は情が深いらしいぞなどと、女に縁がない石をからかい始める。

追分三五郎(小泉博)が、一人旅だぞ。一里も歩けば、酒を飲むくらい、どうとでもごまかせるではないかと、飲み込みの悪い石に言い聞かせるが、意地をはる石はは、もう金輪際、酒は飲まないと言い張る。

いよいよ、大寺院で大供養が始まる。

都田村の吉兵衛(上田吉二郎)も顔を見せており、石松の旅の情報を聞き出していた。

豚松の老いた母親(馬野都留子)も許嫁だったお千(豊島美智子)に連れられやって来る。

それら客人たちを迎えていた石松たちの前に、普通の紋付姿の中年男が、ふらりと近づいて来て、香典を出そうとするので、今回は香典入らないので…と、受付の子分衆は断る。

しかし、その中年男は、石松目がけ、その香典袋を投げつけると、さっさと寺院の中に入ってしまう。

子分衆は、今の中年男は、身受山鎌太郎(志村喬)と気づくが、石松は、受け取った香典袋の中身を五両と読むと、親分ともあろう方がたった五両しか包んで来ないのは、きっと、俺たちを試していなさるに違いないと察しをつけ、「金 二十五両」と貼り出す紙に勝手に書いてしまう。

親分衆が居並ぶ中、お千に付き添われ、仏壇の前に座った豚松の母親は、「豚松の馬鹿やろう!こんな親分衆に拝んでもらいてぇから死んだのか!豚松の馬鹿!死んでも、何にもなるめぇ。お千も丸髷を結って来てくれた。帰って来い、おっかぁも会いたい…」と云いながら、握りしめた焼香を仏壇目がけて投げつける。

母親は、その後、背負われて国に帰って行く。

奉養の後、清水一家の家にやって来た身受山鎌太郎は、豚松の母が、顔を潰したと思っているのだろうと、何で泣いてやらんと、居並ぶ子分衆を叱り始める。

豚松の許嫁は丸髷まで結ってた。俺ゃ、今日、身につまされた。

次郎長はええ子分持ったなあ。ええ親分になったなあ…、うらやましいぜ。

今日、こんな格好で一人やって来た身受山鎌太郎の奴に顔を潰されたと笑うてみい、怒ってみい…。

次郎長どん、俺は惚れました。刀を納め、お蝶はんに今後一切喧嘩はしねえと誓ったそうだな…、立派!立派や!と次郎長を褒めちぎる鎌太郎。

それに対し、次郎長(小堀明男)が謙遜して言い返そうとすると、素早く制して、俺が見損なおうと買いがぶるのも俺の勝手や。近江くんだりからわざわざ来た、この年寄りを喜ばせておいてくれと黙らせる。

さらに、俺に20両立て替えてくれよったのは誰やと子分を見回し、石を見つけると、お前か?わしは男が下がった。貸しといてくれと鎌太郎は頭を下げる。

後日、結局、金比羅行きを承知した石は、小遣いとして渡された30両の内20両を、次郎長に返すと、これを身請山の金にしてくれと頼む。

見送っていた子分衆は、「10両じゃ、野宿を何日もしないと帰れないぜ」と忠告するし、次郎長も、すまなかった。酒を飲んでも良いのだと、20両を又持たそうとするが、石は「俺は飲まねえよ」ときっぱり言い切って家を出、三五郎が火打石を打つ。

その頃、石の兄貴分(堺左千夫)は、女房たちから金を集め、何とか8両2分になると、それを近づいて来た石に渡そうとする。

石は、頑固なまで受け取るのを拒もうとするが、兄貴や女房たちの気持を察し、最後には受け取ると、お前らを一つにしたような別嬪に惚れさせてみせる。この金は、女郎だけに使ってみせると、わざと粋がってみせる。

それを聞いた兄貴分は、間違って惚れられたら、のろけ話を聞かせろと石を送り出す。

船に乗り込もうとする石は、見送りのみんなに向かって唄を歌ってみせる。

中山道をひたすら進む石松。

途中の茶店では大量の団子を食う。

すっかり歩き疲れた石は、帰り馬に乗らないかと馬子から誘われるが、きっぱり断り、結局、その馬に紐を付けて引っ張られながら歩き続ける。

しかし、最後は、その馬の上に気絶したように寝そべり、次に宿場まで到着するが、一見の宿屋に入ると、茶を一杯もらい、いくらだと聞くと、女中たちは茶代はいらないと云うので、礼を言い、その宿を出ると又歩き始めるのだった。

小政()と合流し、小川のせせらぎで身体を洗っていた石は、小政に、お前、女に惚れられた事あるかと聞いてみる。

小政は、あるよと答えたので、石はうらやましがる。

小政は、俺は死ねねえんだ。俺が良いやくざになって帰るのを、あいつは安心して待っていてくれる、何年でも…とのろけたので、石はむかっ腹を立てて、刀を向ける。

その刀を振り回すと、二人の上に咲いていた藤の枝が一本切れて落ちて来る。

小政は、お藤って言うのよ、俺が生きてりゃこそ、咲いている花よ…と云いながら、その藤の花を川の中に立てる。

いつも濡れているような目をしている。笑っていても、泣いているような目…、そんな女らしい娘よ。

俺がヤクザと知っても、咲いてくれた花よ。

そこまでのろけられた石は、「だったら、女郎花(おみなえし)だって言いだろう」と言い返す。

いよいよ、讃岐の金刀比羅神社に到着した石松。

早速地元の色町に繰り出して、女郎を物色し始めるが、半日、歩き回っても良い女に巡り合わない。

諦めかけた石松は、声をかけて来たやり手婆(本間文子)に、女らしい女はいねえかと聞き、試しに、その婆の店を覗いてみると、中に一人、飛び抜けた美女がいるではないか。

誰か待っているのかと石が聞くと、お客さんを待っているのよと、その美女は答えたので、てっきり馴染み客がいると勘違いした石は、がっかりして店を出て、他を当りに行く。

その直後、婆はその美女に「夕顔はん、客を取りな」と注意する。

その後、石松が又、その店の前を通りかかると、夕顔(川合玉江)と呼ばれた美女を見つけた新客が、誰かを待っているか?」と聞くと、「おまはんを待っとんのよ」と答えているではないか。

それを聞いた新客と石松は、二人とも自分の事を指していると思い込み、その場でもめるが、相手を投げ飛ばした石松は、その店に飛び込むと、夕顔の客になる。

ようやく、お目当ての美女と巡り会えた石松は、持っていた八両二分をそっくり差し出す。

その時、部屋の外から夕顔を読んだやり手婆は、今の客は金を持っているのか?とこっそり聞く。

それに対し、夕顔は、今もらった小判を一枚見せると、急に婆は上機嫌になる。

部屋に戻った夕顔は、八両二分の金を、これ、うちが預っときますと石に確認し、部屋に飾ってあった位牌を拝むので、石松がそれは何だと尋ねると、今日は母の命日なのだと言う。

その時。やり手婆は、外から風呂の準備ができた事知らせる。

先に、部屋の隣の内風呂に入った石松が、「夕顔さん、お前もイロ(情夫)はあるのかい?」と聞くと、「あるんじょ、私のイロになりたい人なら、みんな私のイロじゃもん」と答えをはぐらかす。

「好き嫌いはあるんだろう?」と、なおも石松が尋ねると、「お女郎さんになる前はあった。うちはまだ『惚れる』って、どんな事か知らんのじゃけん」と初心な返事をするではないか。

そんな夕顔が、背中を流しましょうと、浴室に入って来たので、石松は恥ずかしがって、浴室の中で転んでしまう。

その様子を見た夕顔は思わず笑ってしまう。

夕顔が吊ってくれた蚊帳の中の寝床に入った石松は、浴室で夕顔が髪を洗っている間、小政が話していたお藤の話と、川のせせらぎの中に立てた一本の藤の花の事を思い出していた。

夕顔が湯から上がり、寝床に入って来た時、もう石松はぐっすり寝込んでいた。

翌朝、夕顔は、石松が払った金の内、三両を、地元のヤクザに奪われていた。

そのヤクザこそ、夕べ、夕顔を巡って、石松から殴り飛ばされた男だった。

それを見ていたやり手婆が、この事をお客さんに言わなくても良いのかと聞くと、夕顔は、あの人もやくざ。言えば喧嘩になると言うので、「おまはんのお父っつぁんもヤクザやったし…」とやり手婆は思い出し、「しかし、あんなやくざをやっつけたとは、あのお客、よっぽど強い人だな」と感心する。

その後、婆さんは、夕べの喧嘩でちぎれた、石松の着物の方袖を道で拾い上げ、それを、庭で洗濯をしていた夕顔に手渡す。

二階で、朝目覚めた石松に気づいた女郎たちは、庭先で、私たちは山鹿の猿よと、昨日石松から言われた事をおうむ返しする。

照れた石松は、猿のまねをして踊ってみせる。

しかし、夕顔は、石松の袖を繕いながら、どうせ、うちらは、山鹿の猿やけん…と寂しそうに呟く。

宿を出る石松に、夕顔は、清水に帰ったら読んでくれと云いながら、一通の手紙を渡す。

石松は感激して、思わず、おさくさんと本名で呼びかけるが、夕顔は、あんたはん、もし、うちの名前を思い出すときは、うちは夕顔じょと伝える。

岐路、身受山鎌太郎の家を訪ねて行った石松は、海辺で働いていた漁民たちに道を聞くと、一緒に働いていた娘が案内してやると言い出す。

石松が名乗ろうとすると、娘は知っていると嬉しそうに言う。

娘は、身受山鎌太郎の娘おみの(青山京子)だったのだ。

鎌太郎は石松に、奉養の日に渡した5両は、決して汚ぇ金ではなく、わしが若い衆と一緒に働いて得た汗の五両だと教える。

それを聞いた石松は、おりゃ、馬鹿だ。恥ずかしくなって、帰りたくなったと身を小さくする。

しかし、身受山鎌太郎の方も、恥ずかしいのはこっちだ、野宿までさせてしまって…と恐縮し、一緒にやるか?と酒を勧めるが、石松は飲めねえと断る。

やがて、裏庭に、先ほど浜で働いていた漁師たちが集まって来て、25両3分集まったと身受山鎌太郎に渡し、石松に挨拶する。

身受山鎌太郎は、その金を、わらじ銭と香典代としてくれと石松に渡そうとするが、石松は「俺は馬鹿ですが、この金を受け取る程馬鹿じゃねえ」と受け取ろうとしない。

鎌太郎は、次郎長やその子分の話をしたら、おみのもうちの子分たちも皆感心し、付き合いたがっているんだ。黙って持って帰れと、だんだん怒り出す。

居づらくなった石松は、ヤクザな稼業をしてもヤクザになるなって、ここに来て良く分かりました。ありがとうございましたと、挨拶もそこそこに返りかけるが、その時、懐から、夕顔の手紙が落ちた事に気づかなかった。

わらじを履きかけた石松に、後ろから鎌太郎が「うちの庭にも、もう夕顔咲いてるぜ」と声をかけたので、ようやく手紙を落とした事に気づいた石松は、ばつが悪そうに、もう一度座敷の鎌太郎の元に戻る。

鎌太郎は、私の母も夕顔と云う女郎でした…と、恐縮した石松の前で手紙を読み始める。

父親はヤクザで母と会い、いかさま賽を振りながら旅立つ日を伸ばしながら過ごしていましたが、母は別れがたくなったのですが、その後、父は旅立ってしまいました。

鎌太郎は、先を読んでも良いかと石松に許可を得、こんなにお前の事を思っている女なら見受けしろと言い出す。

私が五つの時、父はヤクザの義理で死にました…、そこまで読んだ鎌太郎は、一緒に神妙に聞いている子分たちに、良く聞いとけよと釘を刺し、後はおみのに読ませる。

そして、母の命日にあなたと会えたのです。

あなた様の嘘のない姿、そんな男心。

父と別れた後も、いつまでも残っていた女心とはどんなものだったのか、母の秘め事が分かったような気がします。

そのおみのが読む手紙を聞いていた鎌太郎は、我が事のように落ち込む。

その後、石松を一喝した鎌太郎、お前、その女に惚れているのかと聞く。

石松も、俺はどうしたら良いのか分からないと首を傾げるので、いきなり刀を抜いた鎌太郎は、分かるようにしてやる。お前、死ね!と石松に詰め寄ろうとする。

それを必死に停めるおみの。

そんな良い女を引っ掛けといて、分からないなんて…、死んでしまえ!と鎌太郎は激高する。

石は、惚れたと分かったら、死ねねえんだ…と、尻込みをする。

その姿を見た鎌太郎は、分かったかと刀を納める。

一緒になるのか?と鎌太郎が確認すると、石松は返事を躊躇うので、頬を殴りつける。

俺がヤクザだったばかりに、死んだかかあを苦しめてばかりいた…と、鎌太郎は話し出す。

石松は、あれはどうにもならない。俺を殺して下さいと頭を下げる。

鎌太郎は、俺が身請けしてやる。身受山鎌太郎やと笑顔になり、それを聞いていた子分たちも、はじめて晴れやかな顔つきになり、料理を座敷に運び込むと、祝宴が始まる。

鎌太郎も上機嫌で、唄を歌い始める。

その頃、盆踊りが始まっていた小松村では、都鳥の常吉(佐伯秀男)と梅太郎兄弟が、博打の借金を取り立てを理由に、七五郎(山本廉)の家を訪ねていた。

本当の目的は、石松が立ち寄っているのではないかと探りに来たのだった。

しかし、家の中にいたのは、女房のお園(越路吹雪)だけらしかった。

七五郎を隠しているのではないかと、家に踏み込もうとした常吉たちだったが、お薗が槍を取り出して来て啖呵を切る。

それを見た兄弟は、かかあを持つなら、あんな女を持つもんよと云いながら一旦帰る。

その二人の後ろ姿に、お園は、帰ったら、片腕もってうかがわせますと声をかける。

その後、踊りに行かないのかと、近所の者から声をかけられたお園だったが、うちの人が帰るまで…と断る。

石松暗殺を助けると布橋一家に請け負って、20両受け取っている都田村の吉兵衛の元に戻って来た常吉、梅太郎たちは、石松を見つけられないと、俺が指を詰めなければならなくなると怯えている吉兵衛に、かえって、石松が来ない方が、20両をそっくりもらい得になるではないかと、入れ知恵を授けるのだった。

盆踊りの中に、猿の面をかぶった男が混ざっていた。

七五郎の家では、お園が、隠れていた七五郎に逃げる為の路銀を渡しながら、お前さんの命がたった一両でなくなるのだったら、もうヤクザは辞めてねと言い聞かす。

そんな二人の様子を庭先から眺めていた石松が、お園さんと声をかける。

都田一家から出発しようとしていた常吉、梅太郎たちに、吉兵衛は、助っ人したと気づかれるなと注意して送り出す。

布橋一家も、吉常、梅太郎たちも、祭りに乗じ、全員仮面をかぶって、七五郎の家に向かう事にする。

七五郎の家では、石松が、自分が金を持っているので、それで博打の借金を返してくれと申し出、七五郎が返しに行くか、お園が行くかでもめていた。

吉兵衛は、石松は馬鹿だから、一太刀でだまし討ちしろと、子分たちに命じていた。

石松は、あれこれ言い合っている七五郎夫婦に代わり、自分が返しに行ってやると申し出る。

石が、命惜しむ男になったんだと言うと、ピンと来たお園は、石さん、できたんだねと、女ができた事を喜び、こんな男でも、私にとってはたった一つの命よと、七五郎を見やる。

それを聞いた石松は、良い女房だよと、お園を褒める。

石松が七五郎の家を飛び出した所に、猿の面をかぶった男が立ちふさがる。

石松は、俺は死なねえよ。俺、斬るよと相手に言う。

猿面の男は、もし、お前が死んだらどうなると迫って来る。

二人は斬り結び、猿面がまっ二つに切れて落ちると、面をかぶっていたのは小政だと分かる。

小政は、できたな?と石松に笑いかける。

石松も素直に、夕顔って名前よと教え、二人は笑い合うが、その時、にわかに雷が鳴り出し、雨が降って来る。

盆踊りに集まっていた村人たちは我先にと逃げ帰って行く。

男たちは、恥ずかしがる娘たちを背負って帰るが、その様子を見ていた石松は、自分が夕顔を背負って行く幻想を観る。

小政は、七五郎の家で、お園らと石松の事を案じていた。

石松は、林の中を進んでいたが、そこで待ち伏せていた面をかぶった集団に囲まれる。

石松は名乗り、人違いではないかと敬遠するが、どうやら、自分が目当てらしいと気づくと刀を抜く。

「俺、死なねえよ。死ねねえんだよ。」そう、石松は言葉に出していた。

お園は、胸騒ぎを感じたのか、ご詠歌を唄い始める。

一人、又一人と相手を斬って行く石だったが、自分も又、一太刀、二太刀受けて行く。

半死半生で、七五郎の家の側まで戻って来た石松だったが、思わず木に手を伸ばし、そこに咲いていた夕顔の花をもぎ取るようにしてその場にしゃがみ込んでしまう。

その後、讃岐から花嫁姿の夕顔を馬に乗せ、嬉しそうに旅を続ける身受山鎌太郎の姿があった。

一方、次郎長一家は、海辺をひた走りに走っていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

マキノ雅弘監督による「次郎長三国志」第八弾。

森繁演ずる森の石松が、讃岐の金比羅に出かけ、その帰りに、だまし討ちにあって死ぬまでを描いている。

女に持てない石松が、薄幸の美女夕顔と出会うドラマが丁寧に描かれているだけに、後半の悲劇性が強まっている。

この回の見所は、何と言っても、身受山鎌太郎を演じている志村喬の存在感だろう。

ヤクザ稼業をしながらも、真っ当に生きようとするその姿、そのセリフには重みがある。

軽はずみだった石松が、すっかり、この身受山鎌太郎に、人として生きる道を教えられると云う展開になっている。

もう一つの見所は、もちろん、夕顔を演じた川合玉江の美しさに尽きる。

白黒画面で観ても、その美貌は輝いている。

人柄も飾り気のない素朴で優しい女性として描かれており、男だったら、石松同様、一目で惚れてしまいそうな魅力的なキャラクターになっている。

もちろん、石松を演じている森繁の芸達者振りも見事で、唄あり、猿の形態模写ありとサービス満点。

若々しいその姿を見ているだけで、その多彩な才能に魅入られてしまう。

ヤクザ相手に一歩も引かない強気な女房お園を演じている越路吹雪も印象的である。