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伊豆の踊り子('67)

1967年、東宝、川端康成原作、井手俊郎脚本、恩地日出夫脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

朝もやの中、林の中を歩く一人の書生(黒沢年男)。

九十九折れを過ぎた辺りで、書生は、道ばたで休息している旅芸人一座に出会う。

目の大きな芸人の娘薫(内藤洋子)がじっと見つめる。

先で、少し休んでいた書生の横を通り過ぎる、先ほどの一座の後ろに付いていた男栄吉(江原達怡)が軽く会釈して行く。

天城峠に差し掛かった時、書生は雨に降られて道を急いでいた。

書生は二十歳、一人で伊豆に来てから四日目だった。

間もなく、一軒の茶店を見つけたので中に入ると、そこには、先ほどの旅芸人一座が休んでいた。

先ほどの目の大きな娘が、そっと書生にタバコ盆を差し出す。

すると、奥から出て来た店の老婆(小峰千代子)が書生に気づき、奥へと案内する。

いろりのある奥に入った書生は、そこにいた老人に気づき立ち尽くす。

老婆が云うには、中風で動けず、あちこちから薬を取り寄せているが、反古がたまるばかりだと云う。

どちらまでと老婆が聞くので、書生は、湯ヶ島を通って下田まで行くつもりと答えると、老婆は悪い女には気をつけなさいよと忠告する。

やがて雨が上がったのか、旅芸人たちが店を出て行ったので、書生は、あの人たちは、今夜どこに泊るのでしょう?と好奇心から聞く。

すると老婆は、あんなの…と吐き捨てるように、今夜の宛てなどございますものですか、座敷に呼ばれればどこへでも泊るんでしょうと答えるだけ。

その後、老婆は、書生が50銭も払ってくれたので恐縮し、鞄を持って付いて来ようとする。

書生は、もう良いからと、鞄を受け取り、老婆を茶店に戻そうとする。

老婆はなおも恐縮し、お顔は覚えておりますから、又お通りの時はお寄りください。又その時にお礼を申し上げますからと頭を下げる。

老婆と別れた書生は道を急ぎ、トンネルの中では走っていたが、抜けた所で、先ほどの一座がいたので、慌てて、歩幅を彼らと合わせる。

一座の娘百合(高橋厚子)が「書生さんだよ」と云うと、薫は「そのくらい知っている。ハブの港に学生さん、たくさんくるね」と百合に話しかける。

それを聞いていた書生が「それは夏でしょう?冬も来るんですか?」と聞くと、薫はムキになったのか「冬でも…」と答え、後ろで聞いていたお芳(乙羽信子)を呆れさせる。

一行の前に「旅芸人入るべからず」の立て札が立っていた。

しかし、気にせず村に入ると、大勢の子供たちが取り囲み「太鼓を叩いて!」とねだるので、嬉しそうに、薫は太鼓を叩いてみせる。

しかし、後ろを歩いていたお芳が止める。

前から、村の農民が二人近づいて来たからだ。

宿に到着したので、書生も一緒になりたいと申し出でると、薫は笑顔になった。

上がり込んで書生が座っていると、お茶を運んで来た薫が、書生の前に置こうとして思わずこぼしてしまう。

それを見たお芳は、「色気づいたんだよ、この子」と笑う。

そのお芳も、書生の絣の着物を見て、「民次のと同じだね」と千代に話しかける。

その後、甲府に尋常5年の子供を残して来たのだと書生にも説明するお芳。

夕方になった頃、栄吉は、書生を別の宿に案内すると言い出す。

書生はここで良いのだがと戸惑うが、ここではいくら何でも…と栄吉は云う。

やがて、川縁の旅館に案内された書生は、お茶でもと誘うが、これから仕事なので…と言いながら栄吉は帰って行く。

座敷でおひねりを包んだ書生は、「これで果物でも買って下さい。二階から失礼!」と言いながら、下の道を帰りかけた栄吉に投げ渡すが、「そんな事をなさっては行けません」と、栄吉は投げ返す。

しかし、「良いんです」と、又、書生が投げると、そのおひねりは、栄吉の足下に落ちた。

栄吉は、一瞬むっとしたような顔つきでそれを拾うと、礼を言って帰って行く。

書生は、風呂で知り合った紙屋と云う行商人(小沢昭一)と碁を打っていた。

紙屋は、湯ヶ野の道の普請が始まってからガラが悪くなってきましたねと話しかける。

しかし、書生は、窓から見える坂道を、拍子竹を鳴らしながら上って来る薫たちの姿に目を奪われていた。

それに気づいたのか、紙屋は、湯ヶ島で、17、8の子を見つけたが、付いていた婆さんとの金が折り合いがつかず諦めたと、お色気話を披露する。

やがて、表が静かになったので、どこかでお座敷でもありついたようだと紙屋が云う。

しかし、書生が碁石を打ち損ねたので、遊び心は逸りますかとからかう。

そこへ、女中のお時(園佳也子)が入って来て、紙屋とじゃれ合い始めたので、書生は風呂に入りに行く。

布団の中に入ったものの、まだ、隣の宿の三味線の音や笑い声は聞こえている。

寝付けない書生は、起き出し、雨戸を開けて外を見ると、雨が降っている。

そこに風呂上がりの紙屋が通りかかったので、あの人たちは、金で身体を売るのかと書生は聞いてみる。

紙屋は、ここにも酌婦はいますし、あの連中は芸を売っているのだからと言いながらも、でも金を積まれれば…と言葉を濁した後、又、碁をしようと誘うが、書生が外を見たままなので、諦める事にする。

翌朝、挨拶に来た栄吉は、書生から誘われ、一緒に朝風呂に入ると、夕べの客はこの土地の人なんです。ばか騒ぎするばかりで、面白くありませんとこぼしてみせる。

そこから見える露天風呂の薫もこちらに気づいたらしく、全裸のまま、こちらに手を振っているので、栄吉は、子供だなと呆れる。

それを見た書生も、「ああいう髪型をしているので、もっと大人だと思いました」と云いながら、「子供なんだ、子供なんだ…」と笑い出すのだった。

風呂を上がって帰る栄吉は、薫が村の子供たちと鬼ごっこをして遊んでいる姿を見かける。

薫は、子供を追って行くうちに、一軒の家の庭先に入り込んでしまい、そこの布団に座っていた一人の少女と目が合ってしまう。

薫と同世代くらいのその娘お清(二木てるみ)は、薫の事を去年見かけて事があるらしく、踊り子さんでしょう?と話しかけて来る。

薫が追って来なくなったので、つまらなくなった子供達も集まって来る。

その中の、武ちゃんと云う子が、お清姉ちゃんはもうすぐ死んだよと言い出す。

お清はそれを聞いても怒る風でもなく、他の子供達に、私が死んだら、お棺に付いて来てねと約束し合う。

そこに、お清が、又客を取ったと聞いたお咲(団令子)と云う酌婦がやって来て、病気なのにと寝かしつける。

お客さんがここに来たのと云うお清の言葉を聞いたお咲は、さらに鶴の屋の事を怒り出す。

そんな二人の会話をじっと聞いている子供達と薫。

お咲が雨戸を閉めて、みんなに帰るように促したので、堪らなくなった薫は宿に戻るが、ちょうどそこに来ていた書生と出会う。

しかし、今見た事がショックだった薫は、何も言わず、宿に駆け込むと、お芳に云われるまま、飯をかき込むのだった。

その夜、書生が泊まっている宿の前の「藤之屋」から出て来た一座の姿を窓から見つけた書生は、上がって行きませんかと声をかける。

それを聞いた薫は「嬉しいね、嬉しいね」と千代(田村奈己)や百合に話しかける。

栄吉も、今夜はもう仕事もなさそうだからと、お芳に語りかけ、みんなで書生の元に邪魔する事にする。

書生の部屋に入って来た薫は、そこに碁盤を見つけると、嬉しそうに手に取るが、そこにお芳が、風呂を頂けるそうだからと誘いに来たので、つまらなそうに一緒に行く。

書生も一緒に誘われるが、今入ったからと断る。

その後、書生が本を読んでいると、一人早く上がって来た薫が部屋に戻って来たので、一緒に碁を打つ事にするが、薫は「私は白、書生さんは黒」と碁石を渡す。

「どこで碁なんか習ったの?」と不思議がる書生だったが、薫がいきなり碁盤の真ん中に石を置いたので、五目並べの事だと分かる。

勝負は薫の勝ちだった。

二局目に入った時、碁盤を見つめる互いの頭が近づき過ぎ、お互いに目が合ってしまったので、薫は恥ずかしそうに謝る。

そこに、他の一行が風呂から上がって来て同席する。

栄吉は、今朝方機嫌が悪かった薫が、又上機嫌になっているので不思議がる。

書生も、今朝方、そちらの宿へ行った時、睨まれたので帰って来たと打ち明けると、薫はぷいと窓際に立ち上がってしまう。

その様子を見ていたお芳は、どうも、この年頃の娘は扱い難いと笑う。

帰りかける時、お芳は、明日下田に発とうと思うがと云うので、書生も一緒に発つと答える。

しかし、翌朝、書生が、旅芸人の宿に向かって、ふすまを開けると、全員まだ寝ているではないか。

夕べ遅く、又お座敷がかかったし、今日も声がかかりそうなので、もう一日残る事にした。明後日が、旅先で死んだ子供の四十九日なので、厚かましいお願いだが、一緒に下田で拝んで行ってやれないかとお芳や栄吉が云うので、「明後日は、東京…」と口に出しかけた書生だったが、結局、承知してしまう。

その後、下に降りて来て、書生と一緒に河原まで着いて来た栄吉は、自分の事を語り始める。

自分は、東京で新派をやっていたが、その後身を持ち崩しこんな事をしているが、兄は甲府で実家を継いで立派にやっている。

女房の千代は19でお芳がその実母、薫は16で自分の妹、もう一人の子は大島で雇ったのだと説明する。

その頃、宿で起きたお芳たちは、栄吉はあの人の事、よっぽど好きなんだろう。昔の事を思い出すのかねと話していたが、それを聞いていた千代は、黙って遠くを見ていた。

書生が、学帽ではなくハンチングなどかぶっているので、訳を聞いた栄吉だったが、昨日買ったと云うだけの書生に、私たちなんかに気を使わなくても良いのだと恐縮し、女房が二度流産をして、今でも身体がしかりしていないのだと打ち明ける。

妹だけには、こんな事させたくなかったんですけど…と云う栄吉は、今の生活を悔やんでいる様子だった。

その夜、栄吉は、藤之屋の宴会場で、謡を披露していた。

それを宿の窓から見ていた書生は、薫が「母さん来ないか?おいしいよ」と箸を持ったまま顔をのぞかせ、お芳を誘いに来た薫を見る。

お芳は笑いながら、下で鳥鍋をごちそうになっているので、一緒に来ないかと云う。

行ってみると、鳥屋と云うあごひげの男(西村晃)が女達に鍋を食べさせている。

書生が自由に旅をしていると聞くと、鳥屋も、たまには宛てのない旅をしてみたいなどと言い出し、お芳も、私たちも、いつも宛てはないけどねと混ぜっ返す。

早く食べ終わった薫は、鳥屋に、講談本の続きを読んでもらおうとするが、その途中で、お座敷がかかる。

残って鍋をつつき出したお芳は、出かける薫に唄うんじゃないよと注意して、ちょうど声変わりなんですよと書生に説明する。

隣の宴会場では、栄吉が、国定忠次を始めていた。

その声を聞きながら、鳥屋が「新派の役者も落ちぶれたもんだ」と漏らし、聞いていた、お芳から「そんな事、お言い出ないよ…、ま、そうには違いないけどね」と混ぜっ返される。

お芳は、残った鍋の汁にご飯を入れ、連れている子犬に食べさせに行き、鳥屋は出かけて行く。

一人残った書生は、部屋から隣の宴会場で太鼓を叩いている薫の姿をじっと見つめていた。

やがて、お座敷を終えた栄吉たちが戻って来たので、忠治見ましたと書生が云うと、「あんなもん!」と、栄吉は吐き捨てるように顔を背ける。

薫は、鳥屋の姿が見えないのに気づくと、講談本の水戸黄門の続きを知りたいとねだるが、誰も相手にしない。

そこで書生が、その本を読んで聞かせるのだった。

その内、お芳が書生さんに迷惑だよと言い出し、明日は槍が降っても発ちますと、薫に書生を送らせる。

玄関の外に出た薫は、月がきれいだと感激し、下田に着いたら、さっきの続きを読んで下さいませ寝。それからカツドウに連れて行って下さいねとせがむ。

下田では何をするのと書生が聞くと、櫛を買って、それから色々ありますと薫は答える。

宿に戻り、一人入浴していた書生は、「カツドウに連れて行って下さいませね」と云う、さっきの薫の言葉を口にしてみて、ニヤついていたが、そこに、お時ら女中達が入って来る。

お時達は、書生の姿に少し驚くが、自分たちの後に、お咲が入って来たので顔をしかめる。

お前たちの身体は汚いと云うのだ。

それを聞いたお咲は、自分が汚いのなら、この辺の男達はみんな汚いと言い返す。

別の女中が、お清ちゃんが肺病で死んだので、お咲は気が立っているのだとなだめる。

お咲が、まだ16だったんだと言うと、その場にいた全員押し黙ってしまう。

しかし、お時は止めずに、お清を殺したのはお前さんだ、お前さんは、酌達の見本で働き者だと皮肉を言ったので、怒ったお咲は、あんたたちなんかに、身体を売るしか稼げない自分たちの事が分かるはずがないと言い返す。

お清は、死ぬ前の日までお客を取っていたのだと言うお咲の言葉に、又しても全員言葉を失う。

お咲は、あの子は、村の子供らがみんな、自分のお棺の後を付いて来てくれる事だけを楽しみにしていたんだ。あの子は、自分が死ぬのを知ってた。知ってて、自分からお客を…。生きてるより、死んだ方が良かったって、きっとあの子、そんな風に考えたんだと泣きだす。

翌早朝、お清を入れた棺桶は、誰にも見送られる事なく墓に持ち運ばれていた。

その棺桶とすれ違うように、書生は、旅芸人たちの宿湯ケ野屋に向かっていた。

書生と出会った薫は、又、カツドウに連れて行って下さいませねとせがむ。

その頃、お咲は、竹林の中で一升瓶の酒を飲みながら、男(名古屋章)と出会っていた。

鶴ノ屋の親父にピンハネされるのを嫌って、お咲が一人で勝手に呼んだのだった。

男は、すぐにもお咲を抱こうとしたが、遠くを運ばれて行く、お棺に気づく、お咲も気付き、酷いよ!子供達はまだ寝ているじゃないかと悔しがる。

そして、男から金を貰い受けると、何かに思いをぶつけるように、一升瓶を竹に叩き付けるのだった。

見通しの良い場所に到着した書生は、大島が見えると一行に教える。

千代がつらそうに、下田まで後五里ねと言うので、栄吉は、ちょっと険しいけど近道があると書生に教える。

若い書生と薫は、ぐんぐん山道を登って行く。

薫が、東京に住んでいるのかと聞くので、書生は寄宿舎に住んでいると答える。

薫も、自分が小さかった頃、お花見時分に東京に行った事があると言う。

お父さんはありますかと、又薫が聞くので、ありますよと書生は答える。

甲府に行った事はありますか?と聞くので、書生はいいえと答える。

やがて、一休みした書生が、喉が渇きませんかと云うと、薫は探して来ると出かけるが、すぐにないと言いに来る。

大島では何をしているの?と書生が聞くと、よっちゃんやみっちゃんとぶどう畑で遊んだと薫が云うので、それは甲府の事でしょう?と書生は不思議がる。

しかし、そうですよと平気で答える薫は、さらに、弟をおぶって学校に行ってたけれど、その弟もすぐに死んでしまったと言う。

そこに、ようやく一行が追いついて来たので、書生は今聞いた事を栄吉に尋ねてみる。

栄吉は、仕方なさそうに、薫は大島の事をあまり語りたがらないのだと云う。

そこに、薫が、水がこの下にあるそうですと二人を呼びに来る。

小川の側に待っていたお芳は、手を入れると水が濁るし、女が手を入れた後では汚いでしょうからと、書生に先に水をすくうように勧める。

薫が時分の袖口で、櫛をこすっているのを見たお芳が注意すると、下田で買うのだと薫は平気な様子。

しかし、書生は、その方が良いよと口を添える。

やがて、一行は「下田村」への下り坂に差し掛かる。

その道沿いにも「物乞い、旅芸人入るべからず」の立て札が立っていた。

下り坂になったので、気をきかしたつもりの薫が、道ばたに束ねてあった竹竿の中から一番太いのを抜いて、杖代わりにと書生に渡そうとする。

栄吉が、そんなのではすぐに盗んだのがバレてしまうではないか、戻して来いと注意すると、やがて、薫は細いのを持って又書生に渡す。

その竹を杖代わりにして先を進む兄栄吉と書生の方を見ながら、良い人だね、良い人はいいねと薫は独り言のように口にするが、それを横できいていたお芳は、ちょっと警戒する顔になる。

下田の定宿、甲州屋に到着した一座と一緒に上がり込んだ書生は、紙に包んだ金を差し出し、供養代にしてくれと云いながら、実は今まで言い出せなかったけれど、明日、東京に帰らなければ行けないのだと詫びる。

それをきいた途端、薫はがっかりした顔になるが、急に思い出したように、じいさんのいる家なら良いね、じいさん追い出せば、いつまでいなさっても良いねと言い出す。

大島に、小さな家を二軒持っているのだと栄吉が補足し、町長さんの所が良いだろうと、書生を別の宿に案内すると言い出す。

又書生は、ここで良いのに…と戸惑うが、結局、栄吉に連れられて、別の宿に移る事とになる。

そんな書生に、薫は又、後でカツドウに連れて行って下さいませよと無邪気にねだるのだった。

疲れた千代は、先に横になる中、芸人一座は夕食を始めるが、香る婦ぁ、その食事中も、窓の外を気にしてそわそわしている。

やがて、書生がやって来て、カツドウに行きましょうと下から声をかける。

喜んだ薫が、お芳から金を受け取ろうと手を伸ばすが、お芳はダメだよと断る。

どうしてさ!と憮然とする薫に、急にお座敷が入ったのだからしようがないじゃないかと答えるお芳。

がっかりして部屋を飛び出し、階段を降りかけた薫は、途中で立ち止まる。

栄吉も、今日は休みだったはずだろう?カツドウくらい行かせてやれよ、あんなに楽しみにしていたのに…とお芳に抗議する。

しかし、お芳は、あの書生さんが、本当に大島に来て、薫とどうにかなったらどうするつもりだ、お前さんも、もうちょっと薫の事を考えなきゃと反論する。

まだ子供じゃないか、それにあの書生さんは良い人だよと抵抗する栄吉に、分かっているよ、あの人が良い人だくらい。でも、世の中に、何百人、良い人がいたってどうしようもない事もあるんだと、お芳は呟く。

それを階段の途中でじっときいていた薫は、表に出ると、座敷が急にかかったので、カツドウに行けなくなったと書生に告げる。

書生は驚くが、じゃあ、今日は一人で行こうと言い、もう会えないかも知れないので、今、皆さんに挨拶して来ると甲州屋に入ろうとするが、「いいの!」と薫が止めたので諦め、じゃあ、大島には必ず行かせてもらうから、さようならと去る。

薫と百合は、その後、お座敷でカッポレを踊っていた。

一人、カツドウを見終えた書生は、又、甲州屋に戻る事にする。

座敷では、踊りが終わって帰りかけたお芳が、酔って座敷内に倒れ込んで来た顔見知りのお滝(北川町子)を見つけ声をかける。

聞けば、東京の男と一緒に、修善寺の家を飛び出たお雪を探して、下田まで流れて来たのだと言う。

今頃、男に捨てられているに決まっている、東京の男なんて、ここらの女を弄ば武だけなんだと悔しがるお滝。

その頃、甲州屋に上がった書生は、千代が一人で寝ているのを知る。

起き上がった千代は、同じ宿の中にいたお雪(酒井和歌子)の姿を発見する。

聞けば、君と生活して行く勇気がないと書き置きを残して、一緒にいた男の姿が夕べいなくなっていたとお雪は言う。

東京に行くの?と千代が聞くと、行くもんか!とお雪は悔しがる。

その頃、先ほどの座敷では、お滝が、馬鹿だよ、お雪の奴…と、酔いつぶれていた。

お滝さん、あんたを捜して気●いみたいになていたわと千代が、お雪に言い聞かせ、書生も修善寺に帰るべきだと忠告するが、それを寝転がって聞いていた男客(宇野晃司)が、あんたらに、このこの気持ちなんか分かるもんかと、起き上がって口を挟む。

お前さんみたいな東京もんに玩具にされた女達が、みんな下田に流れて来るんだとも男は言う。

それを聞いていた別の老婆(賀原夏子)も、全くだ、その子達の後始末を自分がやっているのだと、同感したので、他の客達は、自分の懐の為じゃないかと笑う。

どうやら、その老婆は、妊った女達の堕胎をしているらしい。

そんな会話を背中に聞きながら、書生は甲州屋を後にする。

翌朝、夕べは遅くまで座敷があったので、皆は来れないと恐縮しながら、栄吉だけが港に向かう書生に同行して来てくれた。

柿を土産にくれたので、書生はそれまでかぶっていたハンチングを栄吉にかぶらせた後、自分は鞄から取り出した学帽をかぶる。

気がつくと、港に薫が一人でしゃがんでいた。

そこに近づいた書生は、夕べのカツドウは面白くなかったと弁解がましく告げ、夏にはきっと大島に行きますと約束する。
そこに、栄吉が、艀が出るようですと教えに来たので、書生はさようならと云い残し立ち去る。

薫も、後ろを向いたまま「さようなら」と口にする。

船が出航し、甲板に佇んでいた書生は、涙を滂沱と流していた。

一方、薫の方は、いつものように、お座敷で太鼓を叩いていた。

その表情は、能面のように無表情なままだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

田中絹代版(1933)、美空ひばり版(1954)、鰐淵晴子版(1960)、吉永小百合版(1963)に次ぐ、五度目の映画化作品。

吉永小百合版から受け継ぐように、薄幸の酌婦お清とお咲のエピソードが再現されている。

この映画のオリジナルは、東京の男に捨てられたお雪と、それを追って下田まで来たお滝の存在だろう。

内藤洋子と並ぶ東宝アイドルだった酒井和歌子が、お雪を演じている。

この作品で注目すべきは、やはり、書生を演じている黒沢年男だろう。

違和感があるのではないかと思われるかも知れないが、その通りである。

特に違和感を感じるシーンは三つあり、まずは、有名な、露天風呂から全裸で手を振る薫を見て、子供なんだと呟く所。

笑っているのだが、その笑いがどうも不自然。

普通は微笑むくらいではないかと思うのだが、明らかに、わざとらしく笑っている。

次に気になるのは、鳥屋の部屋から、隣の藤之屋で太鼓を叩いている薫をじっと見つめているシーン。

ぼーっと見つめていると云うより、明らかに、頭の釘が抜けたような間抜け顔である。

三番目のシーンは、ラスト、船の甲板で一人泣くシーン。

流れている涙が不自然で、いかにも目薬たらしましたと云う雰囲気。

やはり、黒沢年男は、怒鳴ったり、叫んだりするような荒々しい演技はまだしも、内面的なデリケートな演技が苦手なのではないかと思う。

では、薫を演じている内藤洋子の方は、問題ないのかと云えばこれも若干、気になる所がないではない。

広い額と大きな瞳を強調する為か、やや上目遣いの表情のアップが多いのだが、今見ると、可愛いと云うより、やや癖のある表情に見えないではない。

黒目が、大きな瞳の上に上がり過ぎ、三白眼みたいに感じるのだ。

とは言え、全体としては、それなりにまとまった作品である事に変わりはない。

江原達怡の栄吉も悪くないし、乙羽信子のお芳も安心して観ていられる。

吉永小百合版に比べ、お芳が、薫の書生に対する気持ちを疑い始めるきっかけが遅いのが興味深い。

余談ではあるが、後年、自身がテレビで水戸黄門を演ずる事になる西村晃が「水戸黄門」を読んでやっている所も楽しい。