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デトロイト・メタル・シティ

2008年、DMC製作委員会、若杉公徳原作、大森美香脚本、李闘士男監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

桜咲く、春の大分県犬飼駅から母親(宮崎美子)に見送られ、大学に行く為上京する根岸崇一(松山ケンイチ)は、幼い頃から優しく可愛かった事から、良く女の子と間違えられたほどの大人しい青年だった。

電車に乗って遠ざかる兄崇一を、田んぼから手を振って見送っていたのは、弟の俊彦(加藤諒)だった。

根岸の憧れは、東京でおしゃれな部屋に住み、おしゃれな生活をする事。

そして何よりも、小沢健二やコーネリアスのような、おしゃれなミュージシャンになる事だった。

大学のサークル紹介で、ポップミュージックを唄っていた学生の歌に聞き惚れていた根岸は、同じ歌手を観に来ていた可愛らしい女の子相川由利(加藤ローサ)と運命的な出会いをし、そのまま一緒に「ポップミュージック研究会」に入る。

部室でギターを弾きながら、オリジナルソングを披露していた根岸は、歌で誰かに夢を与えたいんだ。「ノーミュージック ノードリーム」と漏らし、それを聞いた後輩の佐治秀紀(高橋一生)や由利を感激させ、根岸君はプロになれると褒める。

その言葉を真に受けた根岸は「デス・レコード」と云う怪し気な会社のオーディションに、デモCDを持って出かける。

それが、運命の過ちだった。

大学を卒業して、根岸がやっていたのは、理想とはほど遠い、悪魔系デスメタルバンド「デトロイト・メタル・シティ(通称DMC)」のボーカル、ヨハネ・クラウザーII世だった。

根岸は、自分の運命を呪った。

「こんなのサイテーだ!」と…

タイトル

DMC控え室

そこには、メイクを落としたDMCのメンバーがいた。

リードギター担当でリーダー、アレキサンダー・ジャギこと和田真幸(細田よしひこ)と、ドラマーのカミュこと西田照道(秋山竜次)。

西田は「ブルマ…」としか云わないデブの変態。

和田は、調子の良い普通の青年で、三人とも、趣味もタイプも全く違うのに、無理矢理一緒にバンドを組まされていたのだ。

根岸は、西田に貸したまま帰って来ないプレステの「ボクの夏休み」そろそろ返してとねだるが、相手にされない。

そこに、デス・レコードの女社長(松雪泰子)がやって来て、世界のデスメタルの頂点に上り詰めるのよとメンバー三人に檄を飛ばす。

しかし、ずっと納得が行っていない根岸は、自分がやりたいのはこう言う音楽なのだと、ラジカセに吹き込んだ「ラズベリーキッス」を聞かせるが、「わたしゃ、そんあんじゃ、濡れねえんだよ!」と、女社長から回し蹴りを延髄に決められ失神してしまうのだった。

メイクを落とした根岸は、会場から出ようとするが、「DMC」の出待ちをしている熱烈なファンたちから、もみくちゃにされる。

ファンたちは、クラウザの事を、生まれた瞬間に母親を地獄に送ったらしいとか、とんでもない伝説を口走っており、それを聞いた根岸は、現実とのあまりの差に震え上がってしまうのだった。

根岸は、今でも、自分がやりたいポップミュージシャンを目指して、時々路上で唄を歌っていたが、聞いてくれるのは、いつも犬のメルシーだけだった。

ある日、タワーレコードに入ってみると、そこでばったり由利と再会する。

彼女は今、音楽雑誌の編集者をやっているらしく、その雑誌は根岸の愛読書だった。

何と、根岸が一番お気に入りのコーナーは、由利が担当していると云うではないか。

運命の再会に上機嫌だった根岸だったが、その時突如、大音響と共に、聞き慣れたメロディーが流れて来る。

『DMC」のセカンドシングルの発売日に、ファンが殺到していたのだ。

由利は、その歌に対し、歌詞もサイテーだし、ビジュアルもおしゃれじゃないと痛烈な批判をするので、根岸はショックを受けるが、その時、近くで間もなく開かれるイベントが始まる連絡が携帯に入る。

ちょっと用事で出かけなければ行けないと云う根岸の言葉を聞いた由利は、近くで待っていて上げようかと云うではないか。

有頂天になった根岸は、クラウザのメイクでイベント会場に入ると、由利の為に頑張ろうと張り切る。

しかし、調子に乗り過ぎ、クラウザトークを長引かせてしまったため、由利が帰るかもしれないと気づいた根岸は、慌てて控え室でメイクを落とすと、すぐさま隣のビルの茶店で待っていた由利の元へ向かう。

しかし、慌てていた根岸は、クラウザのコスチュームの上からセーターを着て来たので、何だか体格が良くなった事を由利から不思議がられ、最近筋トレをしているからだとごまかす。

やがて、又会場に戻らなければ行けない事に気づいた根岸は、慌てて会場に戻り、又、クラウザとしてトークを始めるが、又、途中抜け出して、中途半端にメイクを落としたまま、由利の元に駆けつけ、今度はブーツを履いたままなのを指摘される。

何度か、そうした事を繰り返しているうちに、根岸自身、元の姿とクラウザのメイクの区別がつかなくなり、最後には、ほとんどクラウザのコスチュームのママで駆けつけるが、幸いにも、ヘッドホンで音楽を聴いて待っていた由利には、その姿を見られずにすんだ。

しかし、その後、イベント会場に戻り、魔の刻印サイン会の後、唄を歌い、ファンの差し上げる手の上に飛び込み運ばれていたクラウザの前に、何のイベントに根岸が参加しているのだろうと気になった由利がやって来る。

さらに悪い事に、ファンの手で運ばれるクラウザの身体は、由利の近くに向かってしまう。

このままでは、自分の正体がばれると焦ったクラウザは、由利のスカートをめくり上げてしまう。

その後、自分がやった事に絶望し、会場から町中に逃げ出したクラウザだったが、由利から携帯が入り、ちょっとショックな事があったので先に帰ると云われたが、今度、代官山で見つけたおしゃれな店に一緒に行かないかと誘われたので、自分の事がバレてなかった事を知りほっとすると同時に、恋の予感に飛び上がるのだった。

しかし、そこは、中から丸見えのガラスの前だったので、中で音楽教室に来ていた女の子が、外で浮かれているクラウザの姿に怯えてしまているに気づかなかった。

イベント会場で、クラウザが由利のスカートを巡った事件は「一般女性に暴行!」と云う扇情的な記事になってスポーツ紙に載り、それを読んだ女社長は良くやったと喜ぶ。

女社長は、伝説のデスメタルの教祖的存在、ジャック・イル・ダーク(ジーン・シモンズ)に、自分は若い頃感化され、それを目指しているのだとメンバーたちに明かし、これからも、バンバン、レジェンドを起こして、レコードを売り上げるのだと命ずる。

しかし、嫌ですと即答した根岸は、その場で、女社長から股間を蹴り上げられる。

根岸はその場から逃げ出すが、女社長は、あいつは自分の才能に気づいていないと呟く。

根岸は、約束通り、代官山のおしゃれな店で由利と再会する。

由利を前にした根岸は、急にインスピレーションが湧いて来て、「音楽を生み出すエネルギーは恋なんだ」と心で呟いていた。

そこに、おしゃれ四天王の一人として有名なアサト ヒデタカ(鈴木一真)がやって来て、由利に声をかける。

有名人に出会えた事に喜んだ根岸だったが、由利からの紹介で、ミュージシャン志望者だと知ったアサトは、ここで唄ってみる?といきなり勧めてくれる。

アサトのプロデュースで、ポップスのプロに慣れるかもしれない!夢が叶ったと喜んだ根岸は、いつも路上で歌っている歌「甘い恋人」を、この時ばかりとその店で唄い始めるが、聞いていた客たちは急にしらけ始め、アサトは「お遊戯的な事なら、外でやってくれない?」と根岸に言い放つ始末。

ショックを受けた根岸はそのままアパートに逃げ帰ると、ベッドに泣き崩れる。

その時、チャイムが鳴ったので、由利が来てくれたと喜んで開けてみると、そこに立っていたのは、恐怖の女社長だった。

「私生活を変えに来た」と云うなり、女社長はブーツのままアパートに上がり込み、その後からは「グリとグラ」と云う二匹のドーベルマンまで付いて来る。

根っからのデスメタル野郎に調教してやると言い出した女社長は、グリとグラと共に、根岸がこれまで自分好みのおしゃれ雰囲気に飾っていた部屋を、めちゃめちゃに汚し破壊し始める。

最後には、女社長が、床に倒れた根岸の上に乗りかかって来た所で、何と、由利が訪ねて来て、二人の姿を見てしまい、呆然となって帰る。

女社長が帰った後、床に倒れたままだった根岸は、これまで感じた事がなかったような怒りの感情が湧き出て来て、雑誌に載ったアサトの写真の上から、新しく浮かんだ歌詞を書きなぐる。

音楽を一番生み出すエネルギーは、恋なんかじゃなくて、憎しみだったのだ。

「この恨み、晴らさで置くものか」呪詛のように呟きながら作った新曲は、たちまち大ヒットする。

狙い通り、新曲が出来た事を知った女社長は喜ぶ。

しかし、そんな新曲をレコード店で見た由利は「サイテー」と吐き捨てていた。

日本はいつしか、インディーズ戦国時代に突入していた。

フリースタイルラップを売り出していた鬼刃(きば)の会場に乱入したクラウザは、だじゃれラップで対抗し、相手を混乱させる事に成功する。

名古屋、大阪と進撃して対抗バンドを潰して行ったクラウザは、博多で、自分たちをからかう女性バンドの演奏を会場上のゴンドラ席から見ていたが、ジャギから、これはDMCを売り込む為に仕込んだ芝居なので、早く飛び降りろと云われ、焦って鎖が首に絡まったまま落ちてしまい、首つり状態になる。

首つり状態になるが、それを見たファンたちは、これこそクラウザ様の究極の自虐プレイだと賞賛する始末。

イギリスでは、ジャック・イル・ダークが、世界中のメタルを潰しに出るワールドツアーを発表していた。

根岸は、また、街角で自分のオリジナルポップスを唄っていたが、もはや、犬のメルシーさえも逃げてしまった。

気がつくと、近くの路上で人だかり。

別のグループが路上ライブをしていたのだ。

近づいて見てみると、そのボーカルは、何と、大学時代の後輩佐治ではないか。

しかも、自分が唄いたかったポップス路線でファンの心をつかんでいるらしい。

そこにやって来た由利は、根岸の姿を見ると、目を背けるので、あの時部屋にいた女性は大家さんで、家賃を滞納していたので責められていたのだと必死に嘘の言い訳をしてしまう。

それでも一応由利は納得してくれたようで、「テトラポット・メロン・ティ」と云うバンドを作った佐治も自分も、大学時代に根岸が言っていた「ノーミュージック ノードリーム」と云う言葉に感動して今の仕事をやっているのだと打ち明ける。

さらに、由利は、今度の土曜日にアサトさんから誘われているけど、行っても良いかな?と、根岸の気持ちを試すような言葉を投げかけて来る。

優柔不断な根岸は、「別に良いんじゃないかな?」と答えてしまい、由利をがっかりさせる。

音楽では後輩に負け、恋愛ではおしゃれ四天王に負けた自分に恥じる根岸だったが、さらに悪い事に、由利とアサトの遊園地デートを秘かに影から監視すると云うストーカーまがいになっていた。

偶然にも、そこでイベントをやる事になり、由利とアサトに挨拶をしに来た佐治は、物陰に隠れて見ていた根岸に気づき、追いかけて来る。

しかし、ここで捕まったら最後とばかり、必死で公園内を逃げ回った根岸はトイレに駆け込む。

その直後、トイレに駆け込んで来た佐治は、扉が閉まった二つの大便所以外に人影がいないのに気づき不思議がる。

やがて、片方の大便所の扉が開き、出て来たのは、マスコット人形の着ぐるみおじさんだった。

さては…と、佐治がもう一つの扉が開くのを待ち受けていると、中から出て来たのは、何と、クラウザだった。

クラウザのファンだった佐治は、後ろから声をかけ、これから自分もイベントなんだが緊張していると相談する。

すると、クラウザは、ここで一度唄ってみれば緊張も取れるのでは?と言い出し、感激した佐治は、その場で自分の唄を披露する。

クラウザもそれに合わせて、一緒にノリノリの踊りを披露してくれた。

ますます感激した佐治は、クラウザさんは、自分が尊敬する大学の先輩とそっくりだと打ち明けるが、クラウザは、自分は悪魔なので、深入りするではないと注意する。

アサトは、佐治の事をプロデュースしてみようかなどと言い出していた。

その様子を、クラウザの姿になった根岸が監視していた。

その姿を見た女の子ひなちゃんは、音楽教室でも見た怖い化け物が公園にもいたので怯えてしまう。

クラウザーは、アサトの由利への馴れ馴れしい態度に激怒して来る。

そんなアサトと由利は、園内で行われていた「ビクトリースリーショー」と云うヒーローショーを見に来る。

そのまさに、ヒーローが登場していたステージ上に乗り込んだクラウザだったが、あろう事か、ヒーローのレッドを演じていたのは、熱烈なクラウザファンだった。

客席の子供たちは、クラウザの怖そうな姿に感激、一人の子供がステージ上に上がると、クラウザの腹を殴り始めるが、それを見ていたレッドは、その子を抱え、客席に戻すと「クラウザ様を叩くと殺すぞ!」と脅しつける。

アサトに近づいてきたクラウザは、アサトにヘディングをかます。

それを見ていた由利は呆れ、あなたのように化粧で素顔を隠しているのは弱虫の証拠と言い放つ。

さらに、私の好きな人は「ノーミュージック ノードリーム」と言っていたのに、あなたはどうしてそんな汚い歌しか唄えないのとなじる。

その時、折からの強風にあおられ、巨大なレッド像が、由利の頭上目がけ落ちかけるのに気づいたクラウザは、自ら由利の身体をかばって、覆いかぶさる。

間近にクラウザの顔を見た由利は、それが根岸である事いはじめて気づく。

しかし、背中を痛めながらも、その場から逃げ出したクラウザは、自責の念に駆られ、さようなら僕の夢、さようならDMCと呟きながら、雨の中泣いていた。

ジャック・イル・ダークは、世界崩壊ツアーに出発するが、一番楽しみにしているバンドはと記者から聞かれたジャックは、「デトロイト・メタル・シティ!」と答える。

しかし、クラウザの姿は東京から消えていた。

もぬけの殻となったアパートの部屋に来た女社長は、探さないでくれと書かれた根岸の手紙を読んでいた。

そこへ由利がやって来て、大家さんだと思い込んでいる女社長に、根岸の居場所を尋ねる。

女社長は知らないと答え、あいつは天才なのに…、自分に向き合うとヒーローになれるのに…と悔しがる。

その頃、根岸は郷里の大分に戻っていた。

久々に対面する牛のしげみに会うと感激するが、やって来た母親が、DMCの限定Tシャツを着ているのを見てショックを受ける。

それは、ライブか通販でしか手に入らないものだったからだ。

家に入ると、何と、あの大人しかった弟の俊彦が、DMCの完全な信者になっているではないか!

高校にも行っていないと云う。

愕然とした根岸は、その夜、俊彦を電話で裏の畑に呼び出す。

満月の中、警戒しながらやって来た俊彦は、突如出現したクラウザの姿を見て驚愕する。

クラウザは、しげみをて手なずけながら、農作業の仕事は全て悪魔の役に立つと説明し始める。

草刈りは、人の首を斬る役に立つ、トラクターの運転は、あらゆる乗り物をジャックする役に立つ、大学に行って全てを学ぶのは帝王学だ…と。

そこにやって来た母親は、クラウザの姿を怪しむでもなく、俊彦の友達なら、今日は泊って行きなさいと勧める。

翌朝、家族と一緒に、朝食をとる事になったクラウザは、久々に食べる母の手料理で好物の茄子の油炒めを口にして微笑んでいた。

写真立ての写真に写っていた自分を見たクラウザは、「チンポみたいな髪型の兄貴」とバカにする俊彦に、あれは、公然わいせつカットと云って、なかなか出来ない髪型だと解説してやる。

その時、妹の朋子(池澤あやか)が、急に一緒に写真を撮ろうと言い出し、そう云えば、崇一はどこに行ったと云う話になったので、焦ったクラウザは家から走って逃げ出す。

その姿を、母と父は笑いながら見ていた。

やがて、崇一の姿になって帰って来たので、母親は荷物が東京から届いていると見せる。

中には、たくさんの手紙が詰まっていた。

和田からの手紙には、君がいなかったら、自分はただのカラオケ上手なホスト、西田は変態として捕まっていたかもしれない。DMCは俺たち、社長、そしてファンの夢なんだと綴ってあった。

西田からは、赤いブルマと「ボクの夏休み」が入っていた。

社長からは、CDが入っていた。

さらに、多くのファンレターの山。

それらを読んでいた根岸は、自分がこんなに多くの人に夢を与えていたと云う事が信じられなかった。

そこに、母がやって来て、一緒出かけないかと誘う。

二人は神社にやって来る。

母は、あんな俊彦は始めて見た。クラちゃんって本当は良い人でしょうね、クラやん、歌で夢を与えているんよと語りかけて来る。

しかし、根岸は、自分の正体が見破られているとも知らず、夢なんて何の役にも立たんと返事してしまう。

ハハハ、良いじゃない、夢はただなんだし、誰でも夢を見るのは自由。

それを持っただけで勇気が持てて、一歩が進み出せる。

どんな見かけでも、そんな歌でも、人に夢を与えられる人は偉いと言い聞かせる。

神社を拝む母親の後ろで、根岸は「崇一の夢が叶いますように」と書かれた母の絵馬を見つける。

母は、東京に帰ると言い出した根岸に、もし、東京でクラちゃんい偶然会ったら、これを渡してくれと、今境内で買い求めたお守りを手渡す。

根岸は、ボクが誰かに夢を与える事が出来る!と感激しながら、駅に走っていた。

電車に乗り込んだ根岸は、すでにクラウザに姿に変身していた。

クラウザが、東京に向かう新幹線の運転席で発見されたと云う噂はたちまち信者たちに広まる。

一部の熱狂信者は、出迎える為に、東京駅へと向かう。

由利も、DMCの会場へ取材に出かける。

東京駅に到着したクラウザは、待っていた信者に先導される形で、会場までひた走る。

次々と信者たちが増えて行く。

クラウザは、ボクにしか…、ボクにしか見せられない夢がある!と心の中で叫んでいた。

客席には、ジャクのファンとDMCの信者が一緒に詰めかけており、由利もその中に混ざっていた。

そんな中、ステージ上では、ジャギとカミュが演奏していたが、まだ、クラウザの姿はなかった。

そこに、突如、ジャックが巨大なメタルバッファローを従えて乱入して来たので、ジャギとカミュは怯えてしまう。

しかし、その時、セットの上に、クラウザが姿を現す。

その額には、それまでの「殺」ではなく「KILL」の文字が入っていた。

「ちょっと、地獄に寄って、ジャックと云う老いぼれの為の破瓜穴を掘って来たぜ!」そう叫んだクラウザは、ステージ上に飛び降りるが、その背後から凶暴なメタルバッファローが飛びかかる。

見ていたファンたちは一瞬殺されると恐怖にかかられるが。次の瞬間目にしたものは、「ベーベーベー」と牛をなだめるクラウザの姿だった。

信者は、「クラウザ様が、猛獣をなだめた!」と感激する。

やがて、マイクの前に来たクラウザは、ジャックの十八番「ファック!」ポーズをかます。

クラウザが、ジャックの「ファッキンガム宮殿」に挑戦する事が分かると、両者のファンたちはかたずを飲んで勝負を見守り始める。

お互い、一歩も引かない好勝負となった。

信者たちは、一度も息継ぎをしないで唄い続けるクラウザを見て、死ぬのが怖くないのか!と感激する。

やがて、ジャックが、ステージ上のペダルを踏むと、魔法陣が描かれたステージ中央部分が大爆発を起こす。

爆発で倒れていたジャックとクラウザは、ゆっくり立ち上がる。

それを見たファンたちは、もう良いです。良い夢を見せてもらったと感激する事しきり。

みんなの夢…、僕たちの夢…、そして僕自身の夢…

その時、又ステージが爆発を起こす。

又倒れて気絶しかけたクラウザは、ボクはやっぱりちっぽけ…、何も叶えられなかったのか?と絶望しかけるが、その時、ふとステージ上に目をやると、そこに母からもらって来たお守りが落ちていた。

客席では、全員が「Go To DMC!」のかけ声を上げ始めていた。

そのステージを見つめていた女社長も「立つのよ!私の夢を叶えなさい」と祈っていた。

由利も又「夢?根岸君点」と呟くと、いつの間にか、「Go To DMC!」と口走っていた。

ボクが戻る場所はここだ…、クラウザはお守りを握りしめていた。

ノーミュージック、ノードリーム…、ノーミュージック、ノードリーム…

立ち上がったクラウザに、同じように立ち上がって来たジャックが近寄り、自ら持っていたエレキを橋出す。

「受け取れてん」と言いながら。

「後は頼むぞ、DMC」エレキを渡したジャックは、ステージの袖に消えて行く。

その様子を見守っていた女社長は「夢みたいよ…、ジャックにDMCが勝つなんて…」と呟く。

そのエレキを抱えたクラウザは、マイクの前に立って唄い始める。

あの大好きなポップスを。

それを聞いたファンたちは唖然となる。

何だ!この吐きそうな甘い曲は?まだクラウザ様は俺たちを苦しめようとしているのか?

女社長は、火の付いたタバコを、ステージ上のクラウザの額に弾き飛ばす。

「わたしゃ、そんな曲じゃ濡れねえんだよ!」

再び、メタルを唄い始めたクラウザの側に近づいて来た由利は、ステージに上ると、「根岸君よね?」と、うれしそうにクラウザに近づく。

しかし、クラウザになりきっていた根岸は、「誰が根岸君じゃ!このネスブタめ!」と叫ぶと、又、彼女のスカートをめくり上げてしまう。

次の瞬間、素に戻った心の中で「しまった!」と叫ぶのだった。

エンドタイトルの後

俊は、兄と同じ、公然わいせつカットに髪型を変えていた…

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

人気コミックの原作らしいが、原作は知らない。

夢と現実のギャップに悩む、地方出身の青年の揺れ動く心を中心にコミカルに描いている。

くだらない話と言ってしまえばそれまでだが、若者には共感出来そうな、ありがちなエピソードがいくつも詰まっている。

普段着姿で出かけているはずの根岸が、時として、いきなりクラウザのすごいメイクとコスチュームに変身している所など、ナンセンスとしか言いようがないのだが、いつしかそんな事は気にならなくなり、観客も、根岸とクラウザの二面性を受入れて行く事になる。

それにしても、主役の根岸とクラウザを見事に演じ分けた松ケンと、下品な言葉を連発する松雪泰子の吹っ切れ振りはすごい。

他の役者たちが、コント芸に見えてしまうくらいの迫力である。

笑っているうちに、いつしか、作者が訴えている「夢を失うな」と云うシンプルなメッセージが、しっかり観客の胸に刻み込まれるようになっている。

青春喜劇の快作と云うべきかもしれない。