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あした

1995年、アミューズ=ピー・エス・シー=イマジカ=プライド・ワン、赤川次郎 「午前0時の忘れ物」原作、桂千穂脚本、大林宣彦撮影台本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

小学校の音楽の授業中、一番前の席に座っていた原田法子(野村祐香)は少し退屈そうに、先生(奥村公延)が弾くオルガンに合わせ、「浜辺の歌」を唄っていたが、その時、窓の外から何かが飛び込んで来て、窓際に置かれたゴミ箱に見事入ったのを目撃する。

すぐに友達の貢(窪島誠司)の仕業と気づき喜んだ法子は、授業後、すぐにゴミ箱から石を包んだ紙を拾い上げると、外に飛び出すが、待っていた貢は、母親(風吹ジュン)に叩かれながら連れ去られてしまう。

法子は、改めて、貢が寄越した紙を読む。

「のりこへ 約束の場所で待っている みつぐ」と書かれていた。

人は約束する。会う為に、共に生きる為に、そして「さよなら」を云う為に…

タイトル

あれから10年が過ぎて…

嵐の中、小型客船・呼子丸が尾道沖で遭難した事、その乗客の一人が生還したらしい事などが書かれた新聞を読みながら、馴染みの床屋でヒゲを剃っていた地元のヤクザ金澤弥一郎(植木等)を狙ったのか、店の前を通り過ぎるトラックの荷台に乗った連中が、床屋にマシンガンを撃ち込んだ。

床屋の源さん(坊屋三郎)は驚いて、弥一郎の安否を気遣うが、命は助かったものの、怪我をしたようだった。

それからさらに三ヶ月が経った…

女子高生相手に、地元、尾道をスライドで紹介する高校教師(尾美としのり)

ある一枚のスライドが写った時、そこに「恵 呼子浜 今夜12時ここで待っている 淳」と文字が書かれていたので、教師は戸惑ったように、誰のいたずらだ?と尋ねる。

しかし、電気が点いた教室内で、その文字を読んで立ち上がった朝倉恵(宝生舞)は、驚いたような顔のまま、飛び出して行ってしまう。

再会紡績水泳部員の安田沙由利(椎名ルミ)は、プールで自己ベスト記録1分3秒28の高タイムを出したと、水泳部部長(奈美悦子)から教えられる。

水泳部部長は、さぞかし唐木コーチも喜ぶ事だろう。あの人との事は分かっていたのよと、シャワー室に向かう沙由利に語りかける。

シャワー室で身体を洗っていた沙由利に、やって来た水泳部員が、掲示板に「りゅうじ」と云う人からあなた宛の伝言が貼ってあると教える。

その掲示板に向かうと「SAYURI 今夜12時呼子浜に来てくれ RYUJI」と書かれていた。

RYUJIとは、三ヶ月前、呼子丸と共に海に消えた唐木隆司コーチの名前としか考えられなかった。

とある造船設計事務所では、電話が鳴り、電子ファックスの文字盤に「パパ 今夜12時会いに来て呼子浜に しずか」続いて「今夜12時 しずかと二人で会いに行きます 厚子」と書き込みがあったので、それを見た結城直子(中江有里)は、すぐに設計技師の永尾要治(峰岸徹)にそれを見せる。

永尾は、誰がこんな悪質ないたずらを…と怒る。

彼の妻厚子と娘のしづかは、三ヶ月前の呼子丸沈没の犠牲になっていたからだ。

しかし、直子は、行ってみるべきだと永尾を説得する。

永尾は、あの二人が沈んでいるかもしれない海の上をボートで行くのは怖いと怯える。

浜にいた金澤組のヤクザ笹山剛(岸部一徳)は、同じ組の大木貢(林泰文)から携帯に電話が入り、今夜、親分が、勝とケンと自分を連れて呼子浜に向かうと知らされる。

笹山は、今夜やれ!男になるんだ!と貢をけしかける。

笹山は、側にいた弟の哲(田口トモロヲ)に電話の内容を教えると、今日は歯医者の予約日だったと想い出す。

呼子にある旅館の風呂に、一人のんびりつかっていた原田法子(高橋かおり)を、一緒に旅行に来た綿貫ルミ(朱門みず穂)が慌てて呼びに来る。

船が出てしまうと言うのだ。

しかし、法子は、そんなルミを風呂の中に引きずり落としてしまう。

法子は、最終便の時間にはまだ間があるはずと思い込んでいたが、今日の最終便は今出た所だと、部屋に戻り丹前に着替えたルミが説明する。

それでも、法子は慌てる風もなく、もうここに泊る金はないので、船着き場で一夜を明かし、明日の朝一番の船で帰れば良いと言い出す。

その日も、床屋でヒゲを剃っていた金澤弥一郎は、ター坊から、今夜会いに来ると知らせて来た。ばあさんも一緒だそうだと源さんに話しかける。

源さんは、一瞬ぼけたのでは?と案じ、初歩的な減算を云わせようとするが、弥一郎は持っていた手紙を差し出す。

そこには確かに「今日の夜12時 呼子浜に来てくれ」と書かれていた。

驚く源さんに向い、今朝届いたのだと、弥一郎は平然と説明する。

朝倉恵は、家で出かける準備をすますと、心配する母親(赤座美代子)に、明日必ず帰って来るからと言い残し、自転車で自宅を出発する。

社員食堂にいた安田沙由利は、気になってもう一度掲示板を見に行くが、もうあの貼り紙は消えていた。

意を決した沙由利は、ミニバイクに乗って会社を後にする。

貢は、徒歩で金澤の家に向かっていたが、その途中、路地の主婦(明日香尚)から誤って水をかけられる。

永尾は、仕事をする気にならなくなり、会社を早退すると、フェリーに乗って帰宅しようとしていた。

しかし、その後を追って来た結城直子は、行ってやって下さい。私信じているんです。愛していれば、こんな事もあるのではないかと…と説得する。

呼子の宿では、女将(入江若葉)が、ここの所のお化け騒ぎで他に客はいないんだから、もう一晩泊っても良いんだよと、船着き場に向かおうとする若い二人の娘たちを説得しようとしていた。

お化け騒ぎとは、呼子丸沈没の日、自力で浜にたどり着いた女性を助けた若い警官が、人を呼びに行って戻って来ると、もう、その女性は姿を消していたのだと言う。

しかし、法子とルミは、女将の心遣いに感謝をして、ロウソクだけを貰い受け、宿を後にする。

金澤家では、妻と孫の遺影を眺めていた弥一郎が舎弟のケン(小倉久寛)に、そろそろ出発すると伝えていた。

同じく舎弟の勝(ベンガル)は、恋女房の歌子(増田恵子)に見送られ、親分を迎える為に車で家を出ようとしていた。

歌子は、明日は笹山さんの誕生日だったと、勝に甘えながら教える。

浜では、その笹山が、自分と哲の二人だけがのけ者にされたといらついていた。

結城直子は、自分が乗って来た車を使ってくれと永山に託すと、自分はバスで帰ると言い、車を降りて去る。

永山は、結城直子の気持ちに感謝し、彼女の車で出発する。

金澤弥一郎は、ケンと共に勝の車に乗り込もうとしていた。

そこに、少し遅れて貢が到着する。

恵は自転車を漕ぎ、沙由利はミニバイクで呼子浜を目指していた。

その頃、夫を呼子丸事故で亡くした未亡人森下美津子(多岐川裕美)が、秘書の一ケ瀬布子(根岸季衣)に、ブラームスのレコードを聴いている最中、「今夜12呼子浜に来てくれ」と云う夫の声が聞こえたと、突如言い出す。

美津子は、いつも夢見がちな女だった事もあり、布子は又奇矯な発言か?といぶかしむ。

沙由利は途中、海を見つめながら「唐木コーチ」と呟いていた。

笹山は、哲の運転するオート三輪で呼子浜に向かっていた。

やはり、親分たちが、今夜、自分たちをのけ者にして何をするのか気になって仕方なかったからだ。

その頃、法子とルミは、無人の船着き場に到着していた。

ルミは、夕方って変だね。まだ明るいのに、かえって暗く感じると呟く。

オート三輪を運転する哲は、結局、オレがいないと何も出来ないんだ、兄貴って…と、何かと人を当てにする笹山の事を当てこすっていた。

森下美津子と一ケ瀬布子は、ボートで呼子浜に向かっていた。

走る勝の車から、海を眺めていた弥一郎は、「こんな穏やかな海が…」と漏らしていた。

法子とルミは、早く寝てしまおうと、さっさと船着き場の中のベンチに横になる。

呼子浜に近づいていた沙由利は、森の中でミニバイクが転倒し、気絶してしまう。

そこに、永尾が車で通りかかり、怪我した彼女を車の中に運び込む。

貢の案内でやって来た勝の車も、森の中に彷徨い込んでいた。

弥一郎は、ここからは歩こうと言い出す。

勝とケンが、先導する事にする。

笹山と哲のオート三輪も近づいていた。

待合室に入った勝は、そこで寝入っていた二人の娘に気づき、起こすと、今夜はここは貸し切りなので出て行けと言う。

しかし、法子が理不尽なので出て行かないと抵抗すると、勝に促されたケンがズボンを脱ぎ始める。

慌てて待合室から逃げ出そうとした二人は、ちょうどやって来た弥一郎と貢にぶつかってしまう。

その時、法子は、貢の革ジャンの胸の中の拳銃に気づく。

事情を知った弥一郎は、取りあえず、一緒に中に入ろうと、法子とルミを促す。

ケンは、修理が得意らしく、付かなかった待合室の蛍光灯を簡単に直してしまう。

蛍光灯がともった待合室に、自転車に乗った恵が到着する。

彼女は、待合室の中の人々に、自分は死んだ淳から呼ばれて来たと説明する。

待合室の側の森の中に到着した笹山と哲は、待合室の外で見張りをしている貢に気づく。

弥一郎は、孫の為に用意していたあめ玉を恵に与え、恵も、淳の為に持って来たと云うサンドイッチを食べ始める。

その様子を見ていたルミたちは、これからお化けと会うのに、あんなに平気でものを食べていると唖然とする。

法子は、外に出ると貢に声をかける。

「約束したでしょう?私、待ったわ、あの場所で…」と。

貢は、いきなり話しかけて来た見知らぬ彼女が、小学生時代、石を包んだ紙切れで呼び出した法子の成長した姿だと云う事に気づき、愕然とする。

あれからいろいろありすぎた…と言う貢に、私は貢の事は何もかも知っている。あなたのお父さんが倒産して自殺した事もと法子は打ち明ける。

そんな二人の様子を、森の中に身を潜めた笹山と哲が、いぶかし気に見守っていた。

その時、海からボートが近づいて来たので、貢は法子を連れて隠れる。

ボートから桟橋に降り立ったのは、森下美津子と一ケ瀬布子だった。

怪我した沙由利を乗せた永尾も、呼子浜に接近していた。

法子は、貢が拳銃を隠し持っている事から、今夜、何を取引するの?麻薬?と聞くが、うちの親分は麻薬だけは手を出さないんだと貢から反論される。

待合室に入って来た森下美津子は、その場にいた者達と名乗り合っていた。

そこに、永尾が沙由利を担いで来る。

沙由利の怪我を見た弥一郎は、自分の包帯を使えと言い出し、着物を脱ぎ出す。

すると、外から戻って来た法子が、自分の母親は助産婦だったので、手当の心得はあると言い、弥一郎の胸に巻かれていた包帯をほどき出す。

一方、勝は、いままで姿を消していた貢を外に連れ出すと、焼きを入れる。

その時、包帯を取った弥一郎が苦しみ出す。

持病の心臓発作だった。

薬は、貢がジャンパーの腕ポケットに入れており、勝がすぐに取り出すと、ケンに渡して弥一郎に飲ませ、横の座敷に寝かせる。

そんな騒ぎの中、一人うとうとしていたルミは、窓の外から中をのぞいている哲の顔を見るが、夢の続きと思ったのか、又気にせず眠ってしまう。

哲は、森の中で待っていた笹山に、中は女ばかりだと報告し、勝に歌子を取られた笹山のふがいなさをなじる。

横になった弥一郎は、側に貢が立っている事に気づくと、12時だぞ。12時まで待つんだと言い聞かせる。

その言葉を聞き外に出た貢を追って来た法子は、袋に入れて持っていた紙切れと石を手渡す。

小学生のあの時の連絡文だった。

貢は、そんなものをいまだに持っていた法子を変な女だと呆れ、法子もあんたも変よと言い返す。

拳銃の事を指摘した法子を、自分の独り言を盗み聞きされたと思った貢はビンタする。

両親からも叩かれた事がなかった法子は、貢の暴力に怒り、その場を立ち去る。

一人残った貢の方も、なぜ、法子がこんな場所に現れたのかいぶかしんでいた。

まだ、10時五分前だった。

涙ぐみながら山の中に入った法子を見ていた哲は、いきなり襲いかかると、狼狽する笹山を他所に、こいつを盾にオレが社長を殺ると言いながら、待合室に向かう。

銃を取り出した哲は、法子を羽交い締めにしながら待合室に近づくと、「社長、出て来い!」と呼びかける。

その声を聞いた弥一郎が外に出て来ると、「止めて!おじいちゃんを殺さないで!」と、恵が前に立ちふさがる。

待合室に戻りかかっていた貢も、この異常に気づくが、法子が捕まっているので立ち尽くすだけ。

そんな貢に気づいた法子は、「投げて!、貢、石を投げて!できるわ、あなたなら!」と叫ぶ。

それを聞いた貢は、先ほど法子から手渡されて持っていた石を、思いきって投ずる。

その石は、哲の額に直撃し、ひるんだ哲は、法子を離すと森に逃げ込む。

弥一郎は、「引き上げるぞ。私たちがここにいたら、皆さんが迷惑だ」と子分たちに伝えるが、恵は、おじいちゃんが帰ってしまったら、呼び出した人と会えないじゃないと抗議をし、弥一郎も納得する。

そんな騒ぎの後、待合室を一人抜け出したルミは、森の中に入り込む。

その姿を隠れて眺めている笹山。

「貢、あの頃のまんまじゃない!」と、助けてもらって感激した法子は貢に駆け寄っていた。

勝は、森に向かって、「笹山、いるんだろう?話は明日聞くから、今夜はもう何もするな!明日はお前の…」と呼びかける。

その時、又桟橋に一艘の船が横付けする。

そこから降り立って来たのは、又しても若い女性で、待合室の中に入ると、小沢小百合(洞口依子)と名乗り、頭に包帯をした安田沙由利に気づくと驚く。

彼女たちは、同じ西海紡績の水泳部に所属する同僚だったからだ。

安田沙由利は、小沢小百合の顔を見ると、「ごめんなさい!」と言うなり、待合室を飛び出す。

法子は、先ほど哲に襲われた場所に貢を連れて来ていた。

戸惑う貢に、法子は、海に浮かぶ小さな島を指差し、あなたとあそこに行きたかったと呟く。

小沢小百合は、逃げようとする安田沙由利を掴まえ事情を聞いていた。

安田沙由利は「私、勘違いをして…」と口ごもるが、小沢小百合は「私はあの人の愛に答えて来なかった。でも、今は違う、あの人が死んだから…」と説明する。

法子は、なぜ、貢が社長を殺さなければいけないのか問いつめていた。

男になる為と言い張る貢に、本当は好きなんでしょう?社長さんの事と、法子は問いつめる。

自分を拾って育ててくれた社長だが、そんな社長も、もう行きていたくないんだと思うと貢は呟く。

そんな貢に対し、法子は、「貢、あなた、人の事愛した事がある?触れた事ある?命をかけて守ってみたい人を。触って私を。行きている事をバカにしないで。ここにいるのは私の貢よ、生きて!」と迫る。

待合室で、壊れて放置されている蓄音機を見つけたケンは、それを修理してレコードをかけてみる。

流れて来たのは「浜辺の歌」だった。

スピーカーを通じて、その曲が外にも流れだす。

それを聞きながら、弥一郎は恵に、孫のター坊の両親は事故で死んだと話して聞かせていた。

二人のさゆりも、その曲を聞き入っていた。

森の中で、ムックリをつま弾いていた哲も聞いていた。

無人の小屋に貢を連れ込んだ法子は、そこのいろりに火をつけると全裸になり、貢の手を取ると、自分の胸に触らせ、「感じる?何か感じる?私の心臓の音よ。これが生きてるってことだわ。あんた生きてるのよ!貢は男なのよ!」と訴え続けていた。

その頃、待合室にいた森下美津子は、あの人はどうなっているのだろう?三ヶ月も海の底にいたのよと少し怯えていた。

いつの間にかレコードは止まり、時間は深夜の12時になっていた。

海がざわめき出し、船が海面に徐々に浮き上がって来る。

小屋の中では、全裸になった貢と法子が抱き合っていた。

呼子浜に近づいて来る船に最初に気づいたのは、笹山と距離を置いた場所に屈んでいた哲だった。

すぐに、笹山に教えに行く。

待合室にいた連中も、その船に気づくと、みな、外に飛び出して行く。

桟橋に駆けつけた恵は、横付けされた呼子丸から最初にび降り立ったのが、自分の恋人だった高柳淳(柏原収史)だと気づく。

思わず抱きついた恵は、相手がひどく冷たい事に気づく。

続いて、永尾の妻厚子(小林かおり)と娘のしずか(大野紋香)、さらに続いて降りて来たのは、森下薫 (井川比佐志)だった。

永尾は妻と娘を抱きしめ、森下に駆け寄った美津子は、その場で失神してしまったので、一緒に駆け寄って来た布子に促されるように、抱えて、森下が待合室に運んで行く。

続いて唐木隆司(村田雄浩)が降り立つ。

それを迎えた小沢小百合は、あなたに会いに来れたのは私にも資格が出来たから…と意味深な発言をする。

唐木は、後ろの方に立っていた安田沙由利の姿にも気づき不思議がるが、やがて、彼女の名前も「さゆり」だったと、自分の犯したミスを知る。

最後に降り立ったのは、ター坊こと正(篠崎杏兵)と弥一郎の妻、金澤澄子(津島恵子)だった。

弥一郎と共に、その姿を見た勝も、唖然として「正ちゃん!姉さん!」と呼びかける。

その頃、小屋の中では、「良かった、あんたとで…。私決めたの、人生でたった一つ、一番大切な想い出をお守りにして生きて行こうって」と貢に語りかけていた。

一方、森の中を彷徨っていたルミは、こうして私だけいなくなったら、みんな、私の事をお化けって言うのかな?と呟いていた。

待合室の横で、恵からもらったサンドイッチを頬張っていた淳は、これからはずっと一緒だからなと喜んでいた。

その言葉を喜んで聞いていた恵だったが、お前が一緒に来るんだろう?と言われると、驚いて言葉に詰まる。

しかし、その態度に気づいた淳は不機嫌になる。

オレを一人にして帰ると言うのか?社会科の授業で、古い港の資料が欲しいってお前が言うから、オレがここの写真を撮りに来たのに…とカメラを取り出して言う。

永尾は、船の設計の仕事に手が就かなくなったと嘆き、厚子から、何とか立ち直ってと励まされていた。

突如、欲望に駆られた永尾は、ストーブにあたっていた娘しずかをその場に残し、厚子を外に連れ出す。

ちょうど小屋から戻って来た貢と法子にぶつかって、車の元に向かう永尾。

しずかは、いつの間にか、両親がいなくなっている事に気づくと外に出ようとするが、それに気づいた法子が優しく話しかけて留まらせる。

永尾は、車の中に厚子を入れると、夢中でその身体を求めて来る。

その様子を草影から見ている笹山と哲兄弟。

失神している美津子を座敷に寝かせた森下は、布子に謝っていた。

20年前、君が入社したときから君の事を意識していたが、あまりに優秀だったので、つい告白出来なかった。

ボクは君と一緒になるべきだった…と。

小沢小百合は、自分が白血病にかかって、後半年か一年で死ぬ事が分かったので、水泳部の選手を辞め、マネージャーになったのだと唐木コーチに打ち明けていた。

まだ煮え切らない態度を取り続ける貢にいらついていた法子だったが、いつの間にか姿を消したルミの事を突然想い出し、外に探しに出かける。

車の中で抱き合っていた厚子は、思わず開いたグローブボックスに入っていた写真に写った永尾と見知らぬ女性の姿に気づく。

永尾は、その車の持ち主で同僚の結城直子で、一緒にバレー大会に出たときの写真だと説明する。

「愛しているんだわ、この子!うぬぼれないで、あなたをって言うんじゃないのよ。生きてるんだわ、この子…」と言うなり、しずかの事を想い出し、しずかは父親との時間が必要なのよ。三人で過ごしましょうと永尾に言い聞かす。

淳は、恵の乗って来た自転車を投げつけ壊していた。

直してと怒る恵に、いくらでも直す時間があるお前が直せ!オレには直せない。時間がないんだ!オレには明日がないんだ。夜が明ける前に逝っちまうんだよと淳は嘆く。

森の中にいた笹山兄弟は、貢がやって来ると、あそこにいる姉さんとター坊は本物かと聞く。

そう信じられるなら、兄貴…と、貢は冷たく言い返す。

同じ頃、待合室に座った姉さんこと金澤澄子は、笹山兄弟はどこですか?と勝に聞いていた。

一ケ瀬布子は、別の部屋で一人身を潜めていた安田沙由利の元に来ると、お互い、邪魔者同士、一緒にいましょうと語りかける。

小沢小百合は、「死が始まりってこともあるわ」と自らの死を望んでいるかのような事を言っていたが、それを聞いていた唐木コーチは、「いけないよ、小百合。君は生きるんだ、一日でも一年でも、生きられるだけ生きるんだ。ボクは待っている。これまでもずっと待っていたんだから」と言い聞かせ、互いに抱き合う。

その頃、しずかを車に乗せ、呼子浜から逃げ出そうとしていた永尾だったが、後部座席に載っていたしずかが苦しみ出す。

それを見た厚子は「無理なのよ。神様に逆らっちゃ。私たち、離れられないのよ、あの浜から。あなた、感謝しましょう。ほんの少しの時間だったけど、三人でドライブしようって約束も果たせたし…」と、運転する永尾を説得する。

寝ていた森下美津子が目覚め、側で見守っていた夫を見ると、私、来ちゃいけなかったんじゃないかって思っていた。あなたが会いたかったのは私じゃないってと呟く。

布子は、森下にも生きるチャンスはあったのだと安田沙由利に説明していた。

一度は、10月27日、午後11時半、森下は自分に告白をしたが、へべれけに酔っていたし、その日は、奥様の誕生日だった。

私は、早く家にお帰りなさいとあの人に言ったと云うのだ。

二度目は、三ヶ月前の11月9日、あの船に乗っていた…と。

呼子丸のただ一人の生き残りとは、ここにいる布子の事だったのだと安田沙由利は気づく。

森の中にいた哲は、もう、横っちょにいるのは厭きたと言いながら、銃に弾を込めていた。

その時、永尾一家を乗せた車が戻って来る。

弥一郎は、自分はもう引退し、金澤一家を勝に譲ると切り出していた。

勝は、突然の申し出に戸惑うが、横で聞いていた澄子も、男にお成り。世の中、順番だから…と言い聞かす。

弥一郎は、もう決めたんだ。ばあさんと一緒に行くってと語る。

それまでストーブにあたっていたター坊が眠がったので、座敷に寝かせてやる。

いつの間にか、待合室に戻って来たルミは、いつの間にか見知らぬ船が桟橋に横付けにされている事に気づく。

唐木コーチは、隠れていた安田沙由利に声をかけて呼ぶ。

布子は、愛する人が呼んでいるのよと、身を潜めている安田沙由利に言い聞かし、外に追いやる。

ルミは、桟橋を歩いて船に近づいて行く。

哲は、淳の側にいた恵に近づき、後ろから抱きかかえると、銃を向け、淳にじいさんを連れて来い。さもないと、こいつを殺すぞと脅しつける。

驚いて身動き出来ない淳。

船の中に入り込んだルミは、その中で一人メロディを口ずさんでいる女性(原田知世)に出会う。

唐木コーチと出会った安田沙由利は、1分3秒28と云う自己最高記録を作った事を教え、ご褒美を下さる?と言い出す。

その時間だけ、私の事を見つめていて下さいと云うのだった。

唐木コーチは、腕時計のストップウォッチのスイッチを入れる。

哲は、自分の手の中で恵がぐったりとなったのに気づくと、死んだぜ!止めなかったお前のせいだと言い残し逃げ去る。

待合室の中では、弥一郎が、ター坊を残して行く。これなら神様も文句は言えめえ。せめてたった一度くらい、上手の死んでみたいもんだと話していた。

そこに、銃をかまえた哲が乱入して来る。

オレが上手に殺してやる。あんたをさっきかばった、あのちびは死んだぜと哲が言うので、驚いた弥一郎は外に飛び出して行く。

その頃、淳は倒れた恵を抱きしめ、死ぬなメグ!死ぬのはオレ一人でたくさんだと泣いていた。

お前は、母さんや想い出のある明日を生きるんだ!…と。

船の中で、一人の女性に対面したルミは、なぜ一人なの?あなたは誰にも会わないの?と尋ねていた。

待合室を飛び出した弥一郎を追おうとした哲を勝が殴りつけていた。

そこに、いつの間にか近づいて隠れていた笹山が飛びかかる。

恵の所に駆けつけた弥一郎が、そっと頬を叩くと、恵は目を開ける。

死んではいなかったのだ。

それを見た弥一郎も淳も安堵する。

「会いたい人いるわ」と、船の中に一人いた女性は答えていた。

「会いたい時には、こうして唄を歌うの。人間って、すぐ近くにいても遠い人も入れば、遠い所にいても、すぐ近くにいる人もいるの。私が会いたい人はずっと遠くにいる」…と。

「じゃあ、寂しくないんですね」とルミが聞く。

笹山と勝は殴り合っていた。

その頃、親子水入らずで、永尾は呼子丸を見つめていた。

「時間だ。頑張ったね」とストップウォッチを止める唐木コーチ。

「こんな事なら、記録縮めなきゃ良かった」と呟く安田沙由利。

笹山は弥一郎に向かって発砲し、その時、貢が、弥一郎をかばおうと前に飛び込む。

その時、呼子丸の汽笛が鳴った。

出発の時間が来た合図だった。

倒れた貢を抱き起こした弥一郎は、その胸からピストルを取り出す。

笹山が放った銃弾は、貢が胸に忍ばせていたピストルにのめり込んでいた。

貢は無事だ。あの娘さんも大丈夫でしたよと、弥一郎は心配して見ているその場の全員に声をかける。

弥一郎に抱かれた貢は思わず泣き出すが、貢、男だ、泣くんじゃないと弥一郎から叱られる。

そこに近づいて来た澄子は、あなたは、気象は弱いが頭が良い笹山の事を認めようとしなかった。無理して、あの子を大学へ行かした私が悪かったのかもしれない。親になるって難しいと呟き、さあ行きましょう。私たちの時間は終わりましたと告げる。

「笹山、勝と仲良くやって行くんだよ」と声をかけられた二人は、一緒に倒れて呆然としていた。

「哲!ケン!」と澄子は声をかけるが、そのケンは、恵の自転車を修理するのに夢中だった。

「勝、貢には足を洗わせてやってくれ」と言い残す弥一郎。

「じゃあオレ行くぜ」淳は恵に別れを告げていた。

「気づいていただろうけど、オレ、さっき、お前が死ねば良いと思っていた」と告白する淳に、恵は「知ってた。その後、私を抱いて、生きろ、生きろって淳が言ってたんで、私生き返った」と答える。

「さよならって言うんだ。オレにさよならを言う事が生きるってことなんだ」と言いながら、淳は桟橋を戻って行く。

「そう云えば、恵の字に、ちょんちょんってあったっけ?」と聞く淳。

「あったよ。心って云う字。メッセージにもちゃんとあったよ」と答える恵。

淳は、そんな恵の最後の姿を捉えようと、カメラのシャッターを切る。

安田沙由利は「もう私、泳ぐの止めます。もうこれ以上、記録縮められないから…。私太るかも…」と、唐木コーチに告白していた。

一緒に見送っていた小沢小百合の方は、「私も決めました。持ち時間一杯生きてみるって。私、悪い子になるかも知れない。生きている人に恋するかも。でも待ってて」と伝える。

しずかの足に一筋の血が流れている事に気づいた厚子は、この子は大人になったのよと永尾に伝える。

一緒に桟橋を歩いて船に向かっていた弥一郎は、そう云えば、お前会ったか?ター坊の両親に?と聞くが、いいえ、ただ寒くて、暗くて…。今度こそ、ちゃんと逝きましょう。おじいさん…と澄子は答える。

森下は、子供がいなかった事を気にしていたが、そんな森下に、美津子は、実は今四ヶ月なのだと打ち明けていた。

妻が妊娠している事を聞き喜んだ森下は、前々から決めていた「薫」だと名前を伝える。

それを聞いた美津子は、それなら、生まれて来る子供が男でも女でも使えると喜び、横で聞いていた布子も泣き笑いを浮かべる。

「船は行くけど、私は残るわ」そう、船に一人残っていた女性は答える。

「私ルミ、あなたは?」と、あいての名を聞くルミ。

「私は…わたし」と答える女性。

厚子は、船まで付いて行こうとした永尾を止めると、いつものように私に見送らせてと言い出す。

その意をくんだ永尾は、いつも出社するときのように、厚子からコートを着せてもらい、その場を戻って行く。

「振り向かないで!」と言う妻の声に答えるように、「行って来る」と言いながらまっすぐ桟橋を戻る永尾だったが、「パパ 行ってらっしゃい!早く帰って来てね!」と言うしずかの言葉に手を振って答えると、たまらなくなり、号泣しながら車の方へ走り始める。

汽笛が再び鳴り響いた。

「嫌だよ…」ケンも、呼子丸を見つめながら立ち尽くしていた。

船に乗り込んだ森下は、好奇心から呼子丸の船長室に入り込んでいた。

そこには、家族の写真を飾った船長(大前均)がいた。

呼ばなかったんですか?と問いかける森下に、私たちは出航の時に別れはすませていますからと答える船長。

「出航しましょう」船長はそう告げた。

桟橋を離れる呼子丸から、桟橋に飛び降りたのはルミ。

その姿を見た法子は驚く。

船室に座った弥一郎は、「長い間ありがとう」と妻の澄子に話しかけ、澄子の方も「ではさようなら」と挨拶を返していた。

呼子丸が桟橋を離れ、遠ざかっていた時、恵が「淳!待って!私も行く!」と海に入り出す。

「一緒に淳と行く!お願い連れてって!」、ぐんぐん海の中を進んで行く恵の身体は沈んで行く。

それに気づいた安田沙由利が海に飛び込み、恵の方へ泳いで近づく。

「さようなら〜!忘れない!」と叫ぶ恵。

船の上では、わたしが唄っていた。

やがて、呼子丸は海に沈んで行く。

それを見守っていた全員は泣いていた。

大きな波が起こり、瞬く間に、安田沙由利と恵の身体を浜辺に押し返す。

夜が明けていた。

車を飛ばして浜から去っていた永尾も、思わず車を停めていた。

すると、又グローブボックスが開き、結城直子の写真が飛び出して来る。

法子と貢を除いた全員は、美津子のボートで帰る事にする。

恵は、ケンが修理しておいてくれた自転車にまたがると、帰路につく。

残った貢は、「社長が言っていた12時のオレの客って、お前の事だったんだな」と法子に言う。

法子は「又会えるね」と答える。

「そうさな…」と煮え切らない返事をする貢に、「偉そうな事言って、一人じゃ何も出来ないくせに」と責める法子。

笹山は、勝から殴られたおかげで、取れた虫歯を吐き出していた。

勝は、そんな笹山に、今日、家に飯を食いに来い。歌子がごちそう作って待ってるぜと伝える。

ルミは、いつまで二人で旅を続けるの?と法子に問いかけていた。

おばさんになったら、又旅しようか?と答える法子。

いつの間に目覚めたのか、ター坊が待合室の外から、不思議そうに海を見つめていた。

その姿に気づいた子分たち五人は、そろって近づいて来る。

自転車に乗って、海の向こうの町を見た恵は「オハヨウ!」と声に出していた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「ふたり」に続く「新尾道三部作」の第二弾。

死んだはずの人から、会いに来てくれと云う連絡を受けた人々が、半信半疑ながら集まって来て…と云う趣向だが、怪談やファンタジーとしての縛りは緩く、呼んだ死者の意に反し、同じ名を持つ二人の女性が来てしまったり、人間が勝手に死者と生者を入れ替えたりと、話を面白くする為にかなりご都合主義になっている所は否めない。

ルミと云う第三者的な立場の人間までもが自由に死者の船に乗り込んでしまえると云った辺りも、不自然と云えば不自然なのだが、ぽーっとした彼女の独特の雰囲気が、そう云う理屈を超越しているようにも見える。

色んなゲストが登場しているが、やはり一番興味深いのは「時をかける少女」の原田知世だろう。

「会いたい人は、ずっと遠くにいる…」などと云う発言は、まさしく「時かけ」とのリンクを想像させるものだ。

「船は沈むけど、わたしは残るわ」と云うセリフの意味は?などと、大林ワールドファンには興味尽きない部分が多い。

少女たちの裸身が惜しげもなく登場するのも、大林監督らしいと云えばらしい。

オールドファンにとって魅力なのは、坊屋三郎、植木等、津島恵子と云ったベテラン陣の登場だろう。

特に、津島恵子の元気な姿を見れるのは嬉しい。

ヤクザが出ていても、途中のドタバタのためだけであって、後味はさわやかなのも好ましい。

シンプルな設定、そこで繰り広げられるいくつものつましい愛情の物語。

死者たちの登場と交差するように、若者同士の生の証としてのSEXシーン。

随所に、作者のメッセージを読み取る事が出来る。

特撮シーンも、短いながら、不自然さはない所にも感心した。