1965年、東宝、南条範夫原作、鈴木英夫脚本+監督作品。
※この作品はクライムストーリーであり、後半、どんでん返しがありますが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、ご注意ください。コメントはページ下です。
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深夜、「クラブ東京」と看板が出ているビルの側面の階段の下に停まった一台のトラック。
運転席に二人、荷台に二人、男たちが身を潜めている。
助手席に座っていた岩尾(山崎努)が、あの店は、麻薬密輸が本業なので、金庫を破られても警察には届けられないと説明する。
荷台に乗っていた熊谷(久保明)と下山(西村晃)が飛び降り、助手席から降りた岩尾と共に階段を上がり、ドアのガラス窓を破って中に侵入すると、金庫室の鍵をこじ開け中に入る。
運転席で待っているのは、小西(加東大介)だった。
目当ての金庫を開けようとする熊谷だったが、らちがあかないのを見て取った下山は、ハンマーを渡し、ぶっ壊せと命ずる。
鍵の部分をハンマーで叩くと、大きな音がしたが、人に気づかれる様子もなかった。
何とか開いた金庫の中から札束を出した岩尾は「10万とちょっとだ」と他の二人に教える。
翌朝、寝床で目覚めた下山は思い出し笑いを浮かべていた。
それに気づいたのは、横で寝ていた情夫のルミ子(団令子)。
「何笑ったの?」「仕事のことだ」「会社の仕事じゃないわね」と勘の良いルミ子が言う。
「球をちょっと早く投げられるくらいの青年が、契約金として2000万~3000万もらったり、歌が巧い少女が何百万も稼ぐ…、そんな時代だ」と岩尾は言う。
前に、自分も仕事を手伝わせると言っていた事をルミ子が尋ねると、上手くいったと岩尾は答える。
自分に黙って既に仕事が終わった事を知ったルミ子はすねるが、まだ大きな仕事が残っている。全部仕事が終わったら、本当の仕事が始まるんだと岩尾は言う。
私の仕事は何?と聞くルミ子に、今に分かるさと答えをはぐらかす岩尾。
岩尾は、本業であるビルの建設現場にやって来ると、同じ職場で働いていた下山に、明日は公休日だ、良いね?と小声で話しかける。
下山は、それを同僚の熊谷と小西にも伝える。
翌日、4人は、競艇場の外で集まっていた。
ルミ子も競艇場の客席にいた。
岩尾は、第一の仕事は成功した、新聞には一行も載っていなかったと報告すると、第二の仕事として、23日に亜東工業1700人分の分の給料が、一晩だけ金庫に入れられている会社を調べたと云う。
警備の男二人が、二個のジュラルミンケースに入れている。7年前、山田工場の仕事をやったので知ったのだと云う。
さらに、今度の仕事が終わった後、4人が一斉に職場を止めたのでは目立ちすぎる。まず自分が辞めるから、熊谷は2、3日後に辞め、下山は一週間後、小西は社長の運転手として雇われたばかりだから、最低でも三ヶ月くらい働かないと怪しまれるだろう。そして、4人とも、手にした金に半年間手をつけないと約束しろ、すぐに使ったのではバレてしまうと釘を刺す。
金の隠し場所として、良い場所を見つけといたと岩尾は最後に付け加える。
人通りもない場末の場所にぽつんとある「共進不動産」、それが岩尾が見つけたと云う場所だった。
そこに、岩尾とルミ子が住み始める。
岩尾はルミ子に、お前の仕事が始まる。地下室に金庫が大小二つあるのを見たかと聞く。
23日、再びトラックで目指す工場近くにやって来た岩尾は、運転する小西と時間を合わせ、4、50分したらここへ戻って来い。その時、自分たちの姿がなくても慌てるなと支持すると、車を降り、熊谷と下山を従え、工場に乗り込んで行く。
前と同様、扉のガラス戸を割って中に押し入った三人は、金庫室に到着すると、持参して来たガスバーナーで金庫を焼き始める。
岩尾は、廊下で外の様子を監視していたが、やがて、近くにある作業場の騒音が止んだ事に気づくと、金庫を開けていた熊谷と下山の元に近づき、工場が予定より早く休憩時間になった。工場まで音が気づかれる心配はないが、休憩時間が終わるのを待っていたのでは、トラックを運転して戻って来る小西が待っていないだろう。問題は、ここの階段下にある宿直室にいる二人に音を聞かれる可能性がある事だと告げる。
下山が様子を見て来ると下に降りる事にする。
宿直の二人は碁をしていたが、やがて、一人が便所にでも行くのか部屋を出たので、その好きに部屋に忍び込んだ下山は、スパナで残っていた一人の首筋を殴りつけ気絶させる。
さらに、戻って来たもう一人も、扉の陰に隠れて待っていた下山が気絶させて、金庫室に戻って来る。
その間、金庫の外扉を焼き切った熊谷は、中の詰め物を取り出すと、内扉を焼き始める。
すでに、時間は41分経過していた。
内扉も焼き切り、中に入っていたジュラルミンケースを取り出す三人。
その頃、外の草地には、戻って来たトラックのナンバーを小西が取り替えていた。
ジュラルミンケース強奪に成功した四人は、「共進不動産」に戻って来る。
中で留守番をしていたルミ子が硝子戸の鍵を開け、四人を中に入れると、すぐにカーテンを閉め、みんなと同じく二階に上がる。
ジュラルミンケースをこじ開けると、中には想像通り、ぎっしり札束が詰まっていた。
それを各自手分けして勘定し、ルミ子に計算させ合計額を出す。
4235万円、四つで割ると、1059万1040円だった。
それを聞いた下山は岩尾に向かい、自分たちは最初の約束通り1000万ずつで良い。残りは計画を考えたあんたが受け取ってくれと提案し、熊谷も小西も同意する。
それを聞いた岩尾は、約束通り、この金は今日から六ヶ月間ないものと思ってもらうと再度確認すると、みんなで地下室の金庫の場所へ降り、ジュラルミンケースを中に入れる。
そして、内扉の鍵は岩尾が預かり、外扉の鍵は下山と小西に託すと、熊谷には自分と一緒に今後の金庫の見張りを命ずる。
再び二階に戻った四人は、ルミ子が注ぐウィスキーを飲みながら、1000万円の使い道を話し始める。
熊谷は若者らしく、スポーツカーを買い、外国製の時計や服を身につけると云う。そうすれば女に持てると思い込んでいるらしい。
12年間ムショ暮らしをして来たと云う下山は、地獄の沙汰も金次第と云う事を嫌と云う程知ったので、この金を元手に新しい商売を始め、2、3倍に増やしたいと云う。
小西は、男と生まれたからには、一度くらいよい女を抱いてみたいと云う。
女房にはすっかり飽き飽きしているらしい。
3人の男たちが帰った後、岩尾はルミ子に、あいつらの仕事は今日で終わった。俺の仕事は今日から始まる…と謎めいた言葉を投げかけるのだった。
ラジオから聞こえて来るニュースでは、岩尾が想像した通り、夕べの犯行を捜査する警察は、内部事情に詳しいものに目をつけたと報じていた。
小西は、建設会社の社長(清水元)と情夫お京(久保菜穂子)を乗せ、羽田空港まで車で送り届ける。
帰りにお京を乗せて帰ろうとした小西は、そのお京が助手席に自分から乗って来たので喜ぶ。
お京は、社長のお妾が何人いるか気になるようで、小西に噂を聞く。
小西は、良く知らないがと云いながらも、渋谷と五反田に良く行くと教える。
元々銀座のバーで働いていたと云うお京は、新しい店を出してくれると約束しながら、なかなか金を出そうとしない社長の悪口を始める。
金額は200万円だと云う。
それを聞いていた小西は、常々お京の事が気になっていただけに、自分なら出してやるのに…と思わず口に出してしまう。
にわかに信じようとしないお京の態度を観た小西は、田舎に土地を持っているのでと嘘を言う。
共進不動産の店番をしていた岩尾は、新聞報道で、どぶに捨てたガスボンベが警察の手によって見つかった事を知る。
そこに、下山がやって来たのでその事を教えると、あんなガスボンベなんか東京中に何本もあると気にしていない様子。
さらに下山は、この不動産屋を譲ってくれないか、新しい商売としてやってみたいんだと持ちかけて来たので、岩尾は、六ヶ月経ったら辞めるつもりなので、その後で良かったら譲ると答える。
そこに、5年前の金庫破りの記事が出ているとルミ子が新聞を持って来る。
主犯の宮川が700万、共犯の須藤が500万、そして、運転を担当した森が2万円と云う分け方だったらしいと言いながら、小西さんが1000万も受け取るのはおかしくないかと誰に言うともなく呟く。
それを聞いた下山と熊谷は、確かに、トラックの運転しかしていない小西が1000万と云うのは確かにおかしいと言い出す。
岩尾は、良いじゃないか、小西に1000万円分けてもと言うが、下山と熊谷の態度の急変振りは予想通りだったので、一人ほくそ笑んでいた。
その小西は、お京とベッドを共にしていた。
お京は、金はすぐに欲しいと言い出すが、小西は半年間待って欲しいと答える。
しかし、それを聞いたお京は、バーを開くのにも時期ってものがある、あんたがダメなら、繊維問屋の守屋に頼もうかしら?と態度を変える。
それを聞いた小西は青ざめ、2、3週間で話をつけます。私に出させて下さい!と嘆願する。
その後、小西は単身で共進不動産に姿を見せると、話があると岩尾に持ちかける。
店番をルミ子に頼み、小西と共に二階に上がった岩尾は、もう半月経ったが、誰も怪しんでいないので、自分の分の金をもらえないかと聞くと、運転手風情が1000万も使ったら怪しまれるに決まっている。一体何に使うのか?と語気を強める。
小西は、弟がガソリンスタンドを出したいと云っていると嘘を言うが、岩尾は「女だね?」と嘘を見抜く。
小西は、お京なしでは生きて行けないんだと頭を下げるが、岩尾は私が承知しても、下山と熊谷がどう言うか…、明日下山が来るので話してみようと約束する。
嬉しそうに帰る小西の様子を見たルミ子は、「殺るの?」と浮かぬ顔で二階から降りて来た岩尾に聞く。
岩尾は「下山と熊谷が決めるだろう」と答えたので、ルミ子は「あんたが決めるんじゃないの?」と不審そうに聞くが、「結局は同じ事だ」と岩尾は言うだけだった。
翌日、又、小西は不動産屋にやって来る。
既に熊谷と待っていた下山は、小西を二階に連れて行く。
岩尾から話は聞いたと切り出した下山は、ダメだときっぱり断る。
すると、小西は俺がやけになっても良いのか?俺の一生一度の夢を潰すのなら、甘えたちの夢も潰してやる。警察にたれ込んでも良いのかと脅しにかかる。
しかし、すぐに言い過ぎたと反省した小西は、俺の分からあんたと熊谷で300万づつ分けてくれ、俺は400万円で良いと譲歩案を出す。
その提案を聞いた下山は、小西と下で待っていた岩尾の前に降りて来ると、事情を話し、岩尾さんはどうするね?と問いかけて来る。
それに対し、岩尾は、聞いてやっても良いんじゃないかと思うよと答えたので、下山と熊谷は小西を伴って地下室の金庫の所に降りる。
岩尾は、店番をしなければいけないのでと残る事にするが、同じく残ったルミ子とほくそ笑み合う。
地下室の金庫の前に立った下村は、小西から外扉の鍵を受け取ると金庫を開ける。
その後、自分が持っていた内扉の鍵で開けると、ジュラルミンケースが姿を表したので、小西がそれを取り出そうと金庫の中に身を入れた所で、突然、小西の尻を蹴ると、その首を絞め上がる。
そして、側で怯えてみていた熊谷に、岩尾さんを呼んで来いと命ずる。
岩尾が降りて来ると、床に倒れた小西を前にした下山は、まだ息があるから、二人で息の根を止めてくれとロープを手渡す。
熊谷は断ろうとするが、岩尾からやるしかないだろうと云われる、そのロープを倒れた小西の首に巻き付け、岩尾と共に両方から引っ張るしかなかった。
その様子を、地下室に続く階段の上からルミ子が観ていた。
下村は、これで、三人同罪だと岩尾と熊谷に告げる。
死体はどこに埋めると聞く岩尾に、下山はここだと地下室の床を指差す。
下山と熊谷が、地下室の床のコンクリートをはがし、その下の土を掘り起こしている間、一階の事務所に戻って来た岩尾にルミ子は「知ってて、殺させたの?」と聞く。
岩尾は「知ってなどいない、想像はしていたが…」と答え、万一、バレた場合は、有利な証言してくれるのはお前だけだからなとルミ子の顔を見る。
ルミ子は「私がやるのはそれだけ?今度は何をやるの?」と問いかける。
暗くなり、一人で地下室に残っていた熊谷は、掘った土を捨てて来いと云われたが一人ではとても怖くて出来ないとルミ子に相談する。
すると、ルミ子は、あの人はもう寝てしまったわ。私が手伝ってあげると熊谷に言いよると、熊谷と一緒に地下室に降りて行く。
その二人の様子を、二階から岩尾が、笑いながら見つめていた。
全ては、彼の計画だったのだ。
熊谷は必死で土を袋に詰めると、ルミ子に付き添われて、外に運び出し、それを数度繰り返した所でようやく仕事を終える。
怖くなかったかい?と訪ねる熊谷に、ルミ子は急にしおらしく「女ですもの、怖かったわ。でもなぜ、私が我慢したか分かる?」と意味ありげなまなざしで熊谷を見つめる。
不動産屋一人戻って来たルミ子は、待っていた岩尾から「上手くいったようだね」と聞かれると、「あなたが言った通りにしただけ」と答えるのだった。
翌日から、熊谷のルミ子を観る目が変わる。
岩尾がいない事を知っている熊谷は、大胆にもルミ子に抱きつくと「あんたが好きだったんだ」と迫る。
それに対し、ルミ子の方も「私もあんたが好きよ」と答え、互いにキスをする。
岩尾に知られたらどうする?下山も岩尾も怖い奴よ、私たち殺されるかも知れないわと怯えるルミ子に、熊谷は、ルミ子さん、逃げよう!俺の分け前もらって行く。自分は外の鍵は持っている。中の鍵はなくったって開けられると言い出す。
それを聞いたルミ子も逃げるわと答える。
俺を捨てないだろうね?と警戒する熊谷に対し、信じられないのなら証拠を見せて上げると言いながら二階に誘ったルミ子は、熊谷と抱き合う。
身体を許した事でルミ子を信用した熊谷は、明日、岩尾さんは横浜に行くと云っていたから、明日やろうと決意を述べ、ルミ子も鞄を買っておいて、明日上野から逃げましょうと応ずるのだった。
夜になって、共進不動産に戻って来た岩尾は、建て売りが一軒売れたと、満更でもなさそうにルミ子に伝える。
ルミ子は、新聞に、あの事件は、内部事情に詳しいものの犯行だろうと書いてあった事と、熊谷が鞄を買いに行ったわ。1400万も財布に入らないわとも伝える。
又、下山に片付けさせるつもり?と皮肉っぽく聞くルミ子。
翌日、予定通り、岩尾は店を出かける。
それを見送った熊谷は、「本日休業」の札を店の前に出すと、ガラス戸のカーテンを閉め、地下室の金庫を開けに降りる。
ジュラルミンケースから、自分の取り分である1400万円を取り出し、昨日勝手お言った鞄に詰め替えた熊谷は、階段を上る途中で、いつの間にか上で立っていた下山から蹴り落とされる。
地下室の床のコンクリートに頭を強打した熊谷はその場で息絶える。
そこに、岩尾も戻って来る。
下山は、「二人だけになりましたな」と岩尾に語りかける。
熊谷の遺体を乗用車のトランクに積んで捨てに行く途中、助手席に座った下山は、あの女、裏切る事はないでしょうね?」と運転していた岩尾に聞いて来る。
岩尾は、町で野良猫みたいにうろついていたのを拾って育てたんだとルミ子の過去を教えると、500万で譲ってくれないか、あの女と九州へ行くと、急に下山が切り出す。
どうせ行くなら南米だと答えた岩尾に、やろうと思えば、金も女も独り占めできるんですぜと脅す下山。
人気のない海岸縁に到着した岩尾は、車を停めると、ここに捨てようと告げる。
二人とも車を降り、トランクに詰めた熊谷の遺体を確認すると、ナンバーを外した後、車を押して崖から海へ突き落とす。
その後、「共進不動産」の地下室に戻った下山は、コンクリートをはがし小西を埋めた地面部分を、又コンクリートで塗り固めていた。
一階では、ルミ子が岩尾に、下山どうするつもり?殺るつもりでしょう?と問いかけていた。
岩尾は、俺は4000万掴むプランを考えた。下山はあっさり二人を殺ってくれた。俺には出来ない事だと呟く。
「又。私を使うつもりね」とルミ子は言う。
「あんたが下山を殺らなければ、下山がお前を殺る。あいつは一人で4000万独り占めするつもりなんだ」と岩尾は冷たく答える。
そこに突然、ガラス戸を叩く音がする。
誰かやって来たのだ。
警戒しながらカーテンを開けたルミ子は、そこに立っていた巡査(佐田豊)と刑事(土屋嘉男)らしき二人組を見て、思わず鍵を開ける。
その時、地下室から下山が上がって来て、店に入って来た刑事と巡査に気づくが、その場は互いに知らぬ顔でやり過ごす。
刑事は、大石と云う人物に土地を売らなかったかと聞く。
岩尾が売ったと答えると、主人が会社の金を使い込んだのだと云う。
刑事たちが出て行った後、下山は、大丈夫か?小西の捜査願いも出ていると詰め寄る。
しかし岩尾は慌てず、捕まったらお前が一番罪が重い。俺は金は公平に分ける。金を二等分して別れよう。やってみたら良い。俺にはルミ子と云う証人がいる事を忘れちゃいけないと切り出す。
一旦帰り、夜、岩尾が不在の時、再び店にやって来た下山は、亜東工業の記事が出ていた。宿直が記憶を辿り、犯人の似顔絵が出来たと書いてあったと云うと、いきなりルミ子の首を絞め、俺のものになれ。そうすりゃ殺しはしない。岩尾が500万でお前を譲ると云っていたぞと耳元でささやく。
その頃、岩尾は雑貨屋で、継ぎ口の部分にある金具を回す事によって、中に入れた二種類の飲み物を自由に変える事が出来る特殊な水筒を購入していた。
下山はルミ子を抱きながら、あいつも俺も、お前を味方にしないと金を独り占め出来ない。お前が岩尾を本当に惚れているとは思わんがなと説得続けていた。
あいつはお前を殺るだろう。俺は奴に二等分を持ちかける。俺と九州に行くの嫌か?1000万お前にやる。それで、お前は勝手にしたら良いと持ちかける。
不動産屋に帰って来た岩尾は二階で、こっそり、水筒に入れるウィスキーの準備をしていた。
まず、注ぎ愚痴をひねって、本箱の中に隠していた毒を取り出すと、それを混入したウィスキーをもう水筒に流し込む。
そして、注ぎ愚痴をひねった時、ルミ子が部屋に入って来て、台所は片付いたわ。何しているの?と聞く。
岩尾は普通に、角瓶のウィスキーを水筒に注ぎながら、下山と別れるつもりだと答える。
私を500万で売ろうとしていたでしょうとルミが責めると、岩尾は、あいつらしい嘘だ。あいつの方から売ってくれと云われたが断ったと落ち着いて答える。
その時、下の事務所で待っていた下山が声をかけて来る。
岩尾が下に降りて行くと、金を半分にして今日限り別れよう。今夜のうちに高飛びしたいんだと告げる。
下で男二人が相談している間、ルミ子は、岩尾が買って来た水筒を不審そうにいじっていた。
そこに岩尾が上がって来て、2000万で別れると云って来たと教えると、後で別れの乾杯をするんでしょう?とルミ子は言う。
そのルミ子を従えて、下に降りて来た岩尾は、鞄は持って来たかと下山に聞く。
下山は、「なに…、ジュラルミンケースを一個もらって行く」と答え、地下室に降りて行く。
ちょっと思案顔になった岩尾も後に続く。
岩尾が内扉の鍵を渡し、受け取った下山が扉を開ける。
中からジュラルミンケースを取り出そうとした下山の背後から、突如岩尾は開いていた重い扉を全身の力で押し付けて閉めようとする。
下山の左腕だけがかろうじて金庫の外に出ていたが、やがて、その腕の骨が折れる音がして、下山は圧死してしまう。
階段付近で、ルミ子がその様子を見つめていた。
下山の死体を前にした岩尾は、バカな奴だ、こんなもの(ジュラルミンケース)など持って、一歩もここから出られる訳ないのに…と呟く。
かくして二人きりになった岩尾はルミ子とキスを交わし、二個のジュラルミンケースを二階に運び上げ、水筒に入ったウィスキーを飲もうと言い出す。
岩尾はまず、普通にコップにウィスキーを注ぐと、「チーズあったな?」とルミ子の気をそらした隙に、急いで水筒の注ぎ口の金具を回し、毒の入ったウィスキーの方をコップに注いで、ルミ子の前に置く。
ルミ子は警戒し、あなた、本当に私の味方なの?今度は私を殺すつもりなのだろうとルミ子は切り出すが、その時、一階の硝子戸の外こら「岩尾さん」と呼ぶ声がする。
ルミ子が降りてみると、外に立っていたのは先日の警官だった。
「ご主人おられませんか?呼んで来て下さい」と言うので、岩尾を呼びに行く。
岩尾が下で巡査と会話している間、机の上に乗っていた二個のコップを凝視するルミ子。
ルミ子は素早く、コップを入れ替える。
ほどなく岩尾が上がって来て、明日一時、本庁に出頭しなくちゃ…とほくそ笑みながら言うと、机の上に置いてあった自分用のコップのウィスキーを口に流し込む。
その様子を見ながら、ルミ子も自分の前に置かれたコップを口に運ぼうとするが、やおら、岩尾が苦しみ出す。
倒れて息絶えた岩尾の顔が、畳に置かれていたジュラルミンケースに写る。
そのあっけない死に様を見たルミ子は笑う。
その後、ルミ子は用意していたバッグに詰められるだけ金を積めると、お京に、小西の秘書の振りをして電話をし、金が工面出来たので、明日、お越し願いたいと伝える。
翌日、何も疑わず、小西を尋ねて、「共進不動産」にお京はやって来る。
迎えたルミ子は、ここは支局のようなもので、本社の社長はもうじき来ますからお待ちくださいと、コーヒーを出すと、社長を呼ぶ振りをして電話口に向かう。
その時、背後でカップが落ちる音と、お京が苦しむ声が聞こえる。
ルミ子がコーヒーに毒を盛っていたのだ。
ルミ子は、お京がソファに倒れ込んだのを確認すると、ガラス戸のカーテンを閉め鍵をかける。
地下室には、下山と岩尾、そして今降ろしてきたお京の遺体が並んでいた。
ルミ子は、それらの遺体の上に、自分が持ちきれない札束を振りかけると、さらにその上から油をまき始める。
階段を上がる途中、火のついた紙を下に投げ捨て、地下室は火の海になる。
ルミ子は金を積めたバッグを手にすると、急いで共進不動産を後にする。
翌日、鎮火した共進不動産の焼け跡の中から、三人の焼死体が運び出される。
その様子を見ていた巡査は、刑事(庄司一郎)に向かい、あの女の遺体は気になる。昨日会ったこの店の妻には金歯があったはずなのに、今の遺体にはなかったと告げる。
焼け跡から見つかったジュラルミンケースには「亜東工業」の文字が入っていた。
ルミ子は砂丘を嬉しそうに歩いていた。
その足跡を追って、二人の刑事が追って行く。
▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼
「天国と地獄」(1963)で一躍注目された山崎努主演で、犯罪者の仲間割れを描くクライムストーリー。
本作の山崎は、「天国と地獄」のキャラクターを彷彿とさせるような、頭脳派の犯罪者を演じている。
その山崎に利用される小悪人たちを演じているのは西村晃、久保明、加東大介と云った面々。
そして、明るいキャラクターイメージが強い団令子が、珍しく、クールな大人の悪女を演じている。
団令子が、下着姿になっている所など始めて観たような気もする。
犯罪者が仲間割れを起こし…と云う展開自体はさほど珍しいものではないが、登場人物が絞られているだけに、誰が最後まで生き残るのかと云う興味で、観客は最後まで内容から目が離せなくなる。
前半から、ルミ子の存在が気になるように撮ってあるので、薄々、最後の展開は想像出来なくもないし、後半、取って付けたように登場する「二種類の飲み物が注ぎ分けられる水筒」と言う、いかにも不自然な小道具など、安易に思える部分もないではないが、全体としては、なかなか巧くまとまった娯楽作だと思う。
西村晃の不気味な強面芝居、「マタンゴ」(1963)でお馴染みの久保明の怯える表情、そして何をやらせても上手い加東大介の小者振り。
そして、久保菜穂子の情婦役に至るまで、適材適所のキャスティングと云った印象である。
最後に気になる点を一つ。
共進不動産屋で暮らし始めた時、岩尾はルミ子に、「地下室に大小二個の金庫がある。見たか?」と言っているので、その二個の金庫が、後半何かのトリックに使われるものとばかり思い込んでいたが、特にそう云う展開にもならず、小さな方の金庫は途中から無視されているように感じる。
何か、途中で、脚本に変更があったのかも知れない。