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悪女の季節

1958年、松竹大船、菊島隆三脚本、渋谷実監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

現代人において、意識するにしろ、しないにしろ、殺人に繋がっていない行為はない。(D.H.カールソン)

タイトル

病院内で、胸のレントゲン写真やオシロスコープの映像。

人間ドックの検査を終了した財産家の八代泰輔(東野英治郎)は、医者からの、どこにも異常なし。あなたは十万人に一人の健康体ですとの診断結果を、満面の笑みで聞いていた。

何事も四十代と同じだと考えていいのですな?と意味ありげに問いかけ、医者が太鼓判を押し退室すると、満足そうに、八代は残っていた担当看護婦町田(九條映子)の手を握ると、「これが、わしの若返りの秘訣なんだ」と好色そうな笑顔を見せながらベッドに誘いかけるのだった。

その町田看護婦と共に車で自宅まで送ってもらった八代だったが、看護婦が門のブザーを押しても一向に人が出て来る気配がない。

看護婦が、誰もいないのではと、車中の八代に告げると、そんなはずはないのだが?と八代は不機嫌になる。

お手伝いの婆や、きん(三好栄子)は、ブザーの音に気づくと、誰か来たようですよと、二階の菅原妙子 山田五十鈴)に声をかけるが、寝室のベッドで、枕に足を投げ出し、上下逆さの格好で昼寝していた妙子は、聞こえない振りをしていた。

しかし、続いて鳴り出したベルの「ブー、ブブブ」と云う、独特のリズムを聴くなり、旦那様のお帰りだよとあわてて飛び起きると、門まで走って行く。

門を開け、八代を屋敷の方へ誘う妙子の様子を、車の運転手が興味深そうに見つめていた。

きんは、妙子に連れられ屋敷に入ろうとする老人を見て、どなた様ですかと不思議そう。

妙子は、ここのご主人様じゃないかと叱りつけるが、その場に取り残されたきんは、やっぱり怪訝そうな表情を変えなかった。

「旦那様は、お亡くなりになったはずでは?」と呟いている所を見ると、少し、認知症が始まっているらしい。

八代は、夕食時、妙子が「こんな油っぽいものを食べて大丈夫ですか?」と心配しながら焼く焼き肉を、人間ドックで十万に一人の健康体だと太鼓判を押されたので、百歳まで生きるぞと笑いながら、うまそうに頬張っていた。

その後、机に置いてあった請求書の金額を見るなり、もっと値切れと八代が妙子を叱っている時、焼き肉用の火が消えてしまう。

台所で、いつまで食べているんだろう?片付きゃしないとぶつぶつ言いながら、きんがガスの元栓を切ってしまったのだった。

それに気づいた妙子が危ないと言いながら、部屋のガス栓を止めると、あの婆さんは何だ?しげはどうした?と八代は不機嫌になる。

しげは脚気で田舎に帰っているので仕方ないのだと妙子はなだめる。

八代が寝室に引き取った後、彼から渡された健康診断書を「バカにしている!こんなもの!」と、悔しそうに引き裂く妙子。

その後、寝室に行った妙子は、もう八代がベッドで寝入っている様子を見る。

その途端、何を考えたか、部屋の暖炉用のガス栓を開放すると、そのまま部屋を出て、ドアの下の隙間に、赤い足拭き用カーペットを寄せ、さらに、その密着部分に、水を垂らして、完全に部屋を密閉状態にする。

さらに、きんに、入浴するからガスの元栓を開けてくれと声をかける。

きんは云われるままに台所の元栓を開いたので、風呂場の湯沸かし器のガスがつき、八代の寝室のガス栓からはガスが放出され始める。

その頃、屋敷の門の外には、昼間、八代を送って来た車が停まっており、そこから降りた運転手が、門のブザーを鳴らし始める。

入浴中だった妙子は、その音に気づき慌てるが、きんは自室で眠りこけていて気づかない様子だったので、そのまま放っておくと、やがて音は止んだので安心する。

しかし、運転手は無断で屋敷内に入り込み、中の様子をうかがっていた。

すると、ガラス戸の一つに施錠がされておらず、押せば開く状態だったので、その不用心さに驚きながらも呆れる。

その頃、八代はベッドの上で苦悶していた。

無意識に起き上がり、窓を開けようとするが開かないので、思わずガラスを割ってしまう。

その破片が、中庭に侵入していた運転手の頭に降り注いだので、異変に気づいた運転手は、ガラス戸から中に侵入し、二階の八代の寝室に駆け上がるとガスの臭いに気づき、窓を開け放つと、そこに倒れていた八代を抱えて部屋を出ようとする。

半分気づいた八代は、ベッドの枕元にいつも置いている金が入った小さなジュラルミンケースを取ろうと手を伸ばすが、そのまま気絶してしまう。

二階から降りて来た運転手に気づいた妙子は驚くが、早く電話して医者を呼べと云われると、素直に従うしかなかった。

翌朝、八代を診察に訪れた医者(中村伸郎)は、後一時間もすれば元通りの状態になると妙子に告げながら帰って行く。

妙子は、殺害計画の失敗に苦虫をかみつぶしたような顔をしながら、屋敷内に無断で停めてあった車の運転手を捜す。

近くから姿を現した運転手は、そんな妙子に「太ったな」と無遠慮に声をかけながら近づいて来る。

実は、その運転手、芸者時代の妙子の馴染み客だった片倉盛太(伊藤雄之助)だった。

二人が話している所に近づいたきんは「葬儀屋の電話番号が分かった」などと報告し、妙子から叱られ屋敷に追い返される。

妙子と共に屋敷に付いて来た片倉は、指圧マッサージの仕事をしていた病院は8年前に辞め、今は白タクをやっており大崎の三楽ベッドハウスに住んでいると近況を語った後、自動車の借金が残っているので金を貸してくれないかとずけずけと頼み込む。

なぜ、そんなことしなくてはいけないのかと妙子が気色ばむと、それなら電話しようか?近くに警察があっただろう?と片倉は意味ありげに妙子を見る。

八代の寝室のドアの下に、赤い絨毯が詰めてあったのを見た。例え八代が助かったとしても未遂は未遂だ。このことをじいさんは知っているのかな?と言いながら二階に上がろうとする。

そこまで知られているのなら…と覚悟を決めた妙子は、片岡を別室に連れ込むと、泣き落としを始める。

あんたに私の気持なんか分かりゃしない。芸者をしていた時分、子供と無理矢理別れさせられ、10年経ったら籍を入れてやると云われて八代の妻でも二号でもない今の立場に付いたが、実態は態の良い家政婦でしかない。

自分は金なんて一銭もいらない。昨日、八代が百まで生きると聞かされたので、ついかーっとなって…と妙子は言い訳し始める。

しかし、いくら何でも殺すことはないだろうと片倉が呆れると、どんな女房だって、一度くらい亭主を殺したい時はあるはずだと開き直り、再び大袈裟な泣きまねを始める。

話を聞き終えた片倉が、俺だって、あのじいさんには「鳶に油揚げをさらわれたようなもんだ」と、まだ妙子に未練があるような言葉を吐いたので、妙子は、私も、あんたと結ばれていた方が良かったかも。私って女は本当に運がないんだねえなどと調子を合わせる。

それを聞いた片倉は、急に「あのじいさんは目は良いのかい?」と聞くので、「十万人に一人の目だとか言っていたよ」と妙子が教えると、二人して、寝室で寝ていた八代の顔を見に行く。

その枕元で憎々しげに「くそじじい!」と呟いた妙子だったが、それに呼応するかのように八代が寝ぼけて起きかけたので、慌てた二人は下に逃げ帰る。

片倉は「俺、手伝おうか?」と言い出し、その代わり、30万円、車の借金返済用に保証しろと妙子に迫り、値切って25万と云う妙子と、その場で掛け合い始める。

その時、近くの廊下の方から「警視庁の石山刑事を呼んでくれ」と言う女の声が聞こえて来たので、肝をつぶした二人はそっと様子を観に行く。

すると、廊下に置いてある電話から呼び出していたのは、朝往診に来た医者が残して行った看護婦だった。

片倉と妙子は息をひそめて、その看護婦の電話を盗み聞きしていたが、どうやら、石山刑事と云うのは彼女の兄のことであり、電話の内容は、洗濯物を干しておいてくれたと云うプライベートな内容だった。

話を聞かれていたのではないと安心した二人だったが、その直後、二人の側の壁に掛けてあった室内スピーカーが鳴り、二階で寝ていた八代が起きたらしく、生命保険の証書を持って来いと云う。

妙子がすぐに生命保険の証書を持って行くと、八代は、夕べ自分が死んでいたら、今日にでもお前に500万入っていたはずだが、お前から殺させる嫌な夢を見たので、今後は自分がこれを預ると、その証書を受け取り、この部屋のガスの配線をガス会社に外させろ、さらに、あの婆さんを首にしろと命ずる。

その婆や、きんは、屋敷に入り込んで来た野良猫を追い回していた。

翌日、とあるミルクホールで片倉と落ち合った妙子は、色々、八代の殺し方について作戦を練り始めるが、そこに警官(諸角啓二郎)が顔をのぞかせたので慌てる。

しかし、警官の用事は、外に停めていた片倉の車をどかせなさいと云うものだった。

神宮外苑絵画館前に車で移動し、そこで話の続きをしようとした二人だったが、白バイが近づいて来たのに気づくと、又してもそこを逃げ出す。

結局、二人がやって来たのは、片倉の住いである「三楽ベッドハウス」前だった。

片倉は、アイスクリームを買って来て、妙子の機嫌を結ぼうとするが、妙子はいら立っていた。

そこにふらりと現れたのが、同じ「三楽ベッドハウス」に住むと云う「殺し屋の秋ちゃん(片山明彦)」、本物か玩具なのか怪しい拳銃を懐から取り出してみせた秋ちゃんは、「何かないか?殺しの仕事」と、車に乗っていた妙子に話しかけると、「人殺しの唄」なる不思議な唄を口ずさみながら立ち去って行くのだった。

再び、妙子の屋敷にやって来た片倉は、八代愛用の猟銃をいじりながら、かつて外国船に乗っていたと云う八代の過去を妙子から聞き出す。

その部屋には、八代が買い集めたと云う名画の類いが壁一面に飾ってあった。

片倉が、カーテンが閉まった窓を開けようとすると、その先には火葬場があり、窓を開けると死人の灰が入って来るので開けないでと妙子は止める。

窓を開けてみると、確かに火葬場の煙突が見える。

八代がこんな場所に屋敷を建てたのも、地所も安かったからだそうだと妙子は説明するが、その時、片倉の右目の異常に気づく。

しかし片倉は答えず、冗談で猟銃を妙子に向ける。

妙子が止めてよ!と怒ると、弾なんか入っている訳ないじゃないかと笑いながら、片倉が猟銃を窓の方に向けた途端、妙子が「良い考えがある!」と叫び、片岡が手にしていた猟銃が暴発する。実弾が入っていたのだ。

外に出た妙子は、寝室の窓の外側に首つり縄を仕掛けておき、八代が帰って来たら、私が外からあの人を呼び、窓から八代が顔を出して窓枠の廻りに仕掛けておいた縄の中に顔を突っ込んだ時、縄を屋根から引けば、首つり自殺に見せかけられると云うのだ。

庭に実際に仕掛けを作り、縄に片倉の首を入れさせた後、夢中で実演しながら説明していた妙子は、いつの間にか、その縄に首を絞められ空中でもがいていた片倉に気づくと、慌てて手を離すのだった。

その頃、久しぶりに町に出かけた八代は、呼び出した若い女と出会っていた。

その間、屋敷の屋根に上った片倉は、八代の寝室の窓の外側に、首縊り用の綱を張り巡らせていた。

そこに車が帰って来る音が聞こえたので、外に出ていた妙子は二階の寝室に向かい呼びかけてみる。

しかし、二階の寝室に見えた姿は八代ではなく、幼い頃別れた娘の眸(岡田茉莉子)と気づく。

慌てて二階に上がって娘と再会した妙子は、眸から屋根に上っている人は誰かと聞かれたので、屋根の修理屋だとごまかす。

里子に出されていた眸は今、千葉の病院で、子供用の虫下しばかり作っている薬剤師だったが、そこでの生活に嫌気が指したので、ここで一緒に暮らしたいと云う。

その頃、八代は、若い女と一緒にスチームバスに入ってご機嫌だった。

夜、電話で三楽ベッドハウスにいる片倉を呼び出そうとしていた妙子は、眸が二階から降りて来た気配を背中に感じ、間違いよと言いながら電話を切ってしまう。

きんは、野良猫が寝床に入って来たとぶつぶつ文句を言いに来る。

怖いので一緒に寝て欲しいとねだる眸は妙子から叱られると、ママ、今日は一日中機嫌が悪いのねと嫌みを云う。

三楽ベッドハウスでは、片倉が、同じハウスの住民でもぐりのパン助を生業にしているみどり(倉田マユミ)から、あなたの右目は変じゃないかと聞かれ、実は全く見えないんだと打ち明けていた。

今はアイバンクと云うものがあるそうだとみどりから聞かされた片倉は、実は以前、秋ちゃんと二人でアイバンクに目玉を盗みに入り、秋ちゃんが非常ベルを鳴らしてしまったので、慌てて何も取らずに逃げて来た事があったのだと恥じを明かすが、今、十万人に一人の目があるんだと謎めいた言葉を残す。

その後、妙子が片倉に会いに現れ、上機嫌そうな秋ちゃんも姿を見せる。

翌朝、八代が屋敷に帰ってみると、きんが、外に転がっていた野良猫の死体を見ながら、眸に一服盛ってもらったと喜んでいた。

その言葉で、眸が来ていることを知った八代は寝室に向かうと、当の眸が自分のベッドの上で寝ている。

毛布から片足を出すので、毛布をかけてやると、又大胆にも艶かしい足を突き出す。

持っていたジュラルミンケースを乱暴に枕元に放り投げ、目を開けた眸に、色仕掛けでだますつもりかと八代は苦笑する。眸が狸寝入りであることはとっくに見抜いていたのだ。

忙しいのかと八代から聞かれた眸は悪びれる風もなくベッドから立ち上がると、自分は今生きることに忙しい。新聞じゃ、毎日、原爆、水爆の記事ばかり。どんな事があっても自分だけは生き抜きたいと言いながら、八代の身体から香水の臭いがする。おふくろ以上の女だな?と嫌みを云う。

さらに、ママは新橋の芸者だったといているが、実は場末の芸者で、自分はそんな母親の子ではなく、おじいちゃんの子供として生まれたかったと媚び始める。

八代が既に、金目当てで自分が来ていることを悟っていると知った眸は、自分はママのように悠長ではないので、一回しか頼まないし、その誓約書も用意していると堂々と言い始め、手切れ金として100万円くれとねだる。

何に使うのかと八代が聞くと、車代だと云う。

車は今や「動く住宅」なのだと云い、さらに、八代が身につけていたダイヤ付きのネクタイピンもくれと云う。

八代は苦笑しながら、これは偽物で、本物は金庫の中に仕舞ってあると言いながらも、眸の要求通り100万円出してやるが、条件は結婚資金として出すのであり、本物の婚姻届を持って来たら渡してやると云う。

そんな二人の会話を、ちょうど帰宅して一階の室内スピーカーで盗み聞いていた妙子は、興奮しながら二階に上って来て、ケチンボと怒鳴りながら、八代をベッドに突き倒した眸を部屋の外に付け出すと、きつく叱りつける。

しかし、眸は、あの人たちは良い時代に良い思いをして来た人たちばかり。今や年々平均寿命が伸びており、このままでは、世の中じいちゃん、ばあちゃんばかりになり、若者が身を置く場所がなくなってしまうと母親に抵抗する。

二階の八代から呼ばれた妙子は、寝室で着替えた八代の姿に驚く。

八代は妙子に今眸から受け取った誓約書を渡すと、不機嫌そうに、明日、浅間の別荘に気晴らしに出かけると言い出す。

八代の機嫌を損じた事に狼狽しながら、又、眸を叱りつけた妙子だったが、悪い種から良い種は出ないと親をバカにする発言をされたので、思わず眸の頬を叩き、持っていた誓約書をその場で破り捨てる。

私は身を切られる程辛い。どこへでも行きなさいと妙子から言い放たれた眸は、死んでやるよ!と捨て台詞を残すと、二階の寝室のベッドに置いて来たバッグを取りに戻ると、その中に入れてあった誓約書のコピーを八代に渡すと屋敷を出て行く。

「三楽ベッドハウス」では、何か良い殺し方はないかと、ザル蕎麦を持って来て片岡が秋ちゃんに相談を持ちかけていた。

秋ちゃんは「殺し」と題する本をひもとくと、良い方法があると教える。

その後、クレー射撃場へ出かけた秋ちゃんは、先客の老人に勝負を挑むが、全く歯が立たなかった。

その老人こそ八代だったが、秋ちゃんがその正体に気づくはずもなかった。

一方、結局、八代から車代を出してもらえなかったと打ち明けられた友人のヌードダンサー早川美美(岸田今日子)は、その老人は保険には入っていないのかと聞く。

生命保険は500万で、その受取人は自分のママだと眸が答えると、ママのものならあなたのものじゃない!いっその事、やっちゃったら?と言いながら、美美はメイク室の引き出しを開ける。

その中には一丁の拳銃が入っていた。

一方、クレー射撃場からの帰宅時、時間外であるにもかかわらず、銀行の貸金庫を開けてもらった彼は、いつも持ち歩いているジュラルミンケースから、ダイヤモンドが入っている小箱を取り出すと、それを貸金庫の中に入れていた。

夜、ビアホールで落ち合った妙子と片岡が、秋ちゃんから教えてもらった八代殺害計画について相談し合っている所に、当の秋ちゃんが浮かない顔で合流する。

クレー射撃場で酷いジジイに負けてしまったとしょげている。

その夜、美美からもらった銃を片手に、眸は八代の屋敷に忍び込んでいた。

二階の寝室に忍び寄った眸が目にしたものは、ベッドにナイフを突き立てる見知らぬ青年の姿だった。

青年は、銃を持った眸の存在に気づくと驚くが、ベッドの中は空で、空振りだったと明かす。

眸はあんたは誰かと聞くと、八代の甥の八代慎二郎(杉浦直樹)だと云う。

驚いた眸も名乗ると、八代は常々親戚をここへ近づけようとしなかったので分からなかったが、あんたが眸ちゃんかと、慎二郎は奇遇を喜び、二人は若者同士、握手を交わす。

眸が、あんたは学生なのかと聞くと、わざと毎年落第しているのだと嘯く慎二郎は、眸がベッドに落とした銃を拾い上げると、引き金を引き、タバコに火をつける。

眸が満って来た銃は、銃型ライターだったのだ。

なぜ、八代を殺しに来たのかと眸が尋ねると、親父の恨みを晴らす敵討ちだと云う。

慎二郎の父親は、八代の実弟だったが、戦前南米に渡り、そこで宝石の商売をするうちに大儲けをし、それを元手にヨーロッパ旅行に出かける事になり、その時、船を操縦していたのが八代だったのだと云う。

大学の演劇部に入っていた慎二郎は、ヨーロッパに着いた八代が、言葉巧みに自分の父親をインターラーチへ猟へ誘うと、そこで射殺したのだと死に際の母親から聞かされて知ったらしい。

その母親も、八代から抱かれて、長らく口封じをされていたらしい。

事情を知った眸は、この際、協調し合おうと話し合い、その場で再び握手し合う。

車は持っているのかと聞く眸に、そんなものは古い。今はバイクだし、自分はバイクしか持っていないと云う慎二郎が乗って来たバイクに同乗した眸は、外に走り出る。

やがて、大きな木の下に着いた二人は、自然に抱き合いキスをする。

眸は、スピード、スリル、セックス、これだけは若者の特権だと云う慎二郎に対し、いきなり明日結婚してくれる?と誘いかける。

呆れる慎二郎に、婚姻届さえ手に入れば、明後日にでも別れても良いとあっけらかんと言い放つ。

眸と、八代は明日やろうと話し合った慎二郎は、電報を打ってくれ、「明日、叔父送る。迎え頼む」ってと笑う。

翌日、八代は、妙子を伴い、片岡の運転する車で浅間の別荘に向かっていた。

八代は片岡を、ただの運転手と思い込んでいるようで、しきりにゆっくり走れと命じていた。

やがて、片岡の運転する車の前に、たくさんのバイクが並んでおり、どこからともなく「ハレルヤ」の歌声が聞こえて来たので、不審に思った片岡は車を停め、降りると、何事かと周囲を捜し始める。

崖下を見ると、抱き合ったまま墜落死していた若者男女の周囲で、同じくバイク仲間のような若者たちが、追悼の意味を込めて歌っていたのだった。

キスをしたまま、120kmのスピードで突っ込んで死んだと言う男女を、歌う若者たちは、恋人同士の理想の死に方だと美化している様子だった。

呆れて車に戻った片岡は、根っから若者を嫌っていると云う八代と話を合わせながら車を出発させる。

間もなく、先ほどの若者たちがバイクで追い抜いて行くが、その中に、眸の姿を発見した妙子は驚く。

慎二郎と妙子が乗ったバイクは、Uターンして来ると、今度は片岡の運転する車とわざとすれ違ってみせる。

八代は、バイクを運転しているのが甥の慎二郎だと気づき、なぜ、眸と一緒なのかと驚くが、それは妙子も同じ気持だった。

車を停めさせようとした八代だったが、ブレーキが故障したらしく、片岡の車は、路肩に衝突してようやく停まる。

その時、近くの斜面で大きな爆発が二度起こったので、何事かと偵察に出かけた片岡は、戦時中隠匿されていた軍の爆弾と不発弾の処理が行われている現場を見て、八代に、こうした処理には後20年かかるらしいと報告する。

そうした説明を受けていた八代と妙子は、又例のバイク軍団が爆音を響かせて通り過ぎたので、耳を押さえてその場にしゃがみ込んでしまう。

ようやく浅間の別荘に到着した八代は、そこに勝手に侵入し、眠り惚けているバイク軍団の若者たちの姿を発見、癇癪を起こす。

慎二郎と眸もいるではないか。

娘の眸に再会した妙子は、あんた、死ぬんじゃなかったのと皮肉を言うが、眸は平然と延期したと言い返す。

若者たちに別荘を占拠された事を知った八代は、近くにある気象観測所に泊りに行くと一人で向かう。

観測所にいた寺内助教授(神山繁)は、明日、うちの学生たちが、7、8人来るので、物置しか空いてないがと断ろうとするが、八代はそれでも良いと承知し、俺は一人になりたいんだと、付いて来た妙子を追い返す。

その頃、八代の別荘では、起きた若者たちがロカビリーの曲にあわせて踊り狂っていた。

このまま一晩中踊り続け、最後まで残った者が眸を抱く約束になっているのだと云う慎二郎の言葉に呆れる眸だったが、気にする風もなくそのまま踊り続ける。

その頃、気象観測所の物置から出て来た八代は、近くにある防空壕の中にこっそり入ると、その中に作られていた秘密の金庫に宝石類を入れて、代わりに、そこに保存してあった缶詰類を当座の食用として持ち帰っていたが、そうした様子を、近くの草むらに潜んでいた秋ちゃんがしっかり目撃していた。

物置に戻った八代は人の気配を感じ誰何すると、入り口に立っていたのは、ナイフも持った甥の慎二郎だった。

慎二郎が、お前は俺の父親をやったじゃないか!時効になったはずだったがと息巻くと、それは、お前の母親とわしが一緒に観た芝居の筋だと八代は笑う。

「凶器なき殺人」と言うリーチ・カールソンと有名な作家原作の舞台劇だから、調べればすぐに分かるはずだと云う。

その返事に動揺した慎二郎は、一旦物置から立ち去ろうとするが、すぐに戻って来て、「だまされるものか!」と又、ナイフをちらつかせる。

そうした慎二郎の態度を哀れむような表情で見返した八代は、わしは、唯一血の繋がったお前に全財産を残そうと思っていたのに…、性根を入れ替えて来い!と怒鳴りつける。

気迫負けした慎二郎は、ナイフをその場に取り落とし、すごすごと別荘に戻って行く。

やがて、雷鳴が轟き、雨が降って来たので、若者たちは別荘内に逃げ込み始めるが、中にはそのまま雨に打たれながら踊り続けているものもいた。

眸は、観測所から帰って来た慎二郎から事情を聞かされると、あなた、まさか、あのじいさんに財産を与えるとか何とか言われ、丸め込まれたんじゃないでしょうねと疑う。

しかし、慎二郎は、今夜は頭を冷やさないと叫ぶと、外に飛び出し、雨に打たれ始める。

気象観測所の物置では、八代が当らな訪問客を迎えていた。

殺し屋の秋ちゃんだった。

秋ちゃんは、ビジネスの為にやって来た。情報を買わないか?と話しかけて来る。

興味を持った八代が先を促すと、実は俺はあんたをバラシて欲しいと依頼されたものだが、ギャラがあまりに安いので、あんたがそれ以上の額で買ってくれないかと相談したいと云う。

頼んだのは誰だと八代が聞くと、一万円寄越せと云う。

素直に、ジュラルミンケースから一万円を取り出して渡すと、秋ちゃんは、あんたの女将さんが張本人で、顔の長い運転手を丸め込んだのだ。殺し方は俺が教えてやり、あんたを怒らせて、その隙に首を絞めて殺す…、まさに凶器なき殺人さと教える。

そこにやって来たのが、当の妙子と片倉。

秋ちゃんは、何をされても怒るなと八代にアドバイスすると、ベッドの後ろに身を隠すのだった。

そんな事は知らない妙子は、この運転手が、車代を約束の倍にしろって言い出したのよと、いかにも困った様子で言いに来る。

しかし、秋ちゃんから事情をすっかり聞いていた八代は、あっさり払ってやりなさいと答える。

拍子抜けした妙子だったが、このままでは帰れないので、この人は嫌らしい事ばかり言って来るのよとさらに告げ口を始める。

それを聞いた八代は、さすがにむっとしかかるが、ベッドの背後から伸びて来た秋ちゃんの手が、その服を押さえるので落ち着く。

何を言っても八代が動じないので、焦った妙子と片岡は、わざとらしい芝居をその場で始めるが、八代は、そんな女は君にくれてやると言い放つ。

そこにやっていたのが眸で、あっちはうるさいから、こっちで寝かせてくれと言いながらも、その場にいた片岡に気づくと、「あら、屋根屋のおじさん!」と親しげに声をかける。

三人の企みを見抜いていた八代は三人とも追い返すと、ベッドを移動させ寝ようとしたので、その背後に隠れていた秋ちゃんは慌てる。

一旦物置小屋の外に出た妙子と片倉だったが、ひょっとしたら自分たちの企みがバレたのかも知れないと心配する。

物置小屋の中では、約束通り、八代が秋ちゃんに報酬を手渡していたが、その時になっていきなり、防空壕の鍵を出せと秋ちゃんが凄み始める。

しかし、そこに、妙子が何とか八代を懐柔しようと、「あなた〜」と鼻にかかった甘え声で戻って来たので、秋ちゃんはあわてて又ベッドの背後に隠れる。

さらに、寺内助教授と予定を早めて到着した学生たちがどやどやと侵入して来たので、八代は思わず「バカ」と小さく口走るのだった。

翌朝、軽井沢図書館で、リーチ・カールソンなる作家などいない事を調べ上げた眸と慎二郎は、まんまと八代にだまされたと怒っていた。

その頃、別荘に戻っていた八代は、東京に帰ると言い出し、その前に警察に電話しようとするが、その直前、屋根に上っていた片倉が電話線を切断していたので通じなかった。

その別荘に向かっていた慎二郎は、防空壕近くで、一人、地面に穴を掘っている男を見つけ、近くからその様子を観察し始める。

その穴を掘っていた男は秋ちゃんだった。

防空壕の鍵が手に入らなかったので、その近くを掘って、地下室に侵入しようとしていたのだが、やがて掘り出したのは不発弾だった。

しかし、その正体に気づかない秋ちゃんは、それこそ、八代がダイヤを隠した容器と思い込むと、何とか開けようと、スコップで叩き始める。

さらに、近くに落ちていたトンカチで、不発弾の信管部分を叩き始める。

次の瞬間、不発弾は大爆発を起こし、秋ちゃんは吹き飛ばされて即死、近くにいた慎二郎も、瀕死の重傷を負ってしまう。

別荘に運び込まれた慎二郎を、哀しそうに見つめる八代は、バカだなお前、元々全財産はお前の父親のものだったのだから、お前に残そうと遺言状を書いていたのに…と呟いていた。

それを、部屋の外で盗み聞いていた眸は塩らしく部屋に入って来ると、慎二郎に近づき、あなたが死んだら、眸はどうなるの?二人で結婚式あげたのに…とわざとらしい芝居を始める。

しかし、瀕死の慎二郎は、「水をくれ…」とうめくばかり。

そうした眸をあざ笑ったのは、窓辺で聞いていた妙子だった。

眸の芝居が遺言状目的のものだと見抜いているのだ。

眸は、そんな母親に向かって行き、二人の母子はもみ合いを始める。

そうした浅ましい姿を傍らで見守っていたのが、八代と片岡。

つかみ合ったまま庭に転がり落ちた母子をあざける片岡に、お前も同類じゃないかと苦笑いする八代だったが、それを聞いた片岡は、俺の目的は金ではなくお前の目だと反論し出す。

しかし、今度はそれを聞いていた妙子がバカにしたかのように、本当にあんた、金は欲しくないのかいと片岡に詰め寄る。

眸は、一番悪党なのはおじいちゃん。慎ちゃんのお父さんを殺して、ダイヤを取ったでしょうとにじり寄る。

それを聞いた妙子はビックリし、15年間も一緒に暮らして来たのに、ダイヤのダの字も云わなかったわねと怒り出す。

しかし、八代は動じず、お前は俺を殺そうとしたじゃないかと反論する。その次は空涙、最後は甘い言葉…、女の手口はどいつもこいつも同じだと云うと、眸が笑う。

その時、慎二郎が、「ウナ電打ってくれ。天国のおふくろ、今すぐ行く、迎え頼む」と言い終えると息を止める。

そんな甥の最期を看取った八代は、遠くの丘で、気象観測班の学生たちが気球の準備をしている様を見ると、いつものように小さなジュラルミンケースを手に、すたすたとそちらに向かい始める。

気球に近づいた八代は、「安心しろ、この財産は誰にも渡さん。天国に送ってやるぞ」と呟くと、ケースから取り出したダイヤの入った箱を、気球の意図に縛り付け、空に解き放つ。

それを聞いていた眸は、慎二郎のバイクにまたがり、片岡は自分の車に飛び乗ると、気球の後を追跡し始める。

別荘に戻って来て、そうした二人の行動を観ていた八代は、あれを偽物とも知らないでと笑うが、気がつくと、猟銃を自分に向けた妙子が立っていた。

「本物はどこにあるの?」と迫る妙子に、「撃つなら撃ってみろ」と強がる八代。

バカにされたと思い込んだ妙子が引き金を引くと、銃は発射し、胸を押さえた八代がその場に倒れる。

窓ガラスも割れているので、呆然とした妙子は、死んじゃった!どうしよう?亭主殺し、私、死刑だわと狼狽し出す。

しかし、床に倒れていたはずの八代が、四つん這いで逃げ出そうとしている姿を見つけると、又だまされたと知り、壁にかかっていた別の猟銃を取って狙う。

八代は観念し、「防空壕。鍵は部屋にある」と答える。

妙子は、そんな八代の背後から猟銃を突きつけたまま部屋に案内させながら、「良い格好ね。私、胸のつかえがすーっと取れたわ」と喜んでいた。

しかし、部屋に置いてあった鍵で、ダイヤの箱を開けた八代は愕然とする。

中には「偽」と大きく自分で書いた文字が入っており、そこに入っていたダイヤの方こそ偽物で、さっき、気球で空に飛ばした箱の方が本物だったのだと気づく。

それを聞いた妙子はにわかに信じようとはしなかったが、箱の中身を確認すると、呆然とする。

そのころ、気球を追っていた片岡と妙子は、何とか気球の紐を掴まえそうになっていた。

気球は、浅間山の火口付近の石に引っかかっていた。

その場所に近づこうとする眸と片岡だったが、さらに、猟銃を持った妙子も近づいて来る。

妙子は、猟銃で気球を撃ち破裂させようとするが外れてしまう。

片岡は、妙子と眸に対し、宝はもうそこにあるんだから、この際、山分けにしようと言い出す。

しかし、妙子は「嫌よ!」と拒絶し、次の瞬間、片岡は足を滑らせ、火口へと墜落して行く。

眸がすごい形相で笑いながら、それを見ていた。

彼女が片岡を突き落としたのだった。

しかし、そんな眸も、母親が持っている猟銃に気づくと、私を撃つ気!?と殺気立つ。

その言葉通り、妙子は躊躇する事なく引き金に手をかけるが、弾はもう尽きていた。

鬼面の形相になった妙子と眸は、互いにつかみ合いながらも、気球の紐に手を伸ばそうと近づくが、紐が引っかかっていた石から外れ、気球は空へと登り始める。

そうして、もみ合った母子は、そのまま二人とも、火口へと転がり落ちて行くのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

犯罪風刺ものと云うか、ブラック・コメディ映画。

芸達者な俳優たちによるドタバタ劇は、一見、翻訳ミステリのようでシャレているし、この時期、かなり豊満な体型になっている山田五十鈴と可愛らしい盛りの岡田茉莉子との、ポンポンとセリフを言い合うような愛憎芝居や、伊藤雄之助や片山明彦、三好栄子らのとぼけたおかしさなど、軽い娯楽映画として楽しめる要素はいくつもちりばめられてはいるが、白黒時代の渋谷作品のような痛烈な社会風刺やインパクトは希薄と云う他はない。

網タイツ姿の岸田今日子や、この作品が入社第一回作品である杉浦直樹のバイク姿などの初々しい映像は貴重。