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幽霊列車

1949年、大映京都、朽木綱博原作、小国英雄脚本、野淵昶監督作品。

※この作品はミステリであり、後半、謎解きがありますが、ここでは最後までストーリーを書いていますので、ご注意ください。コメントはページ下です。

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大きな人魂の絵を背景に…

♩モダンでウルトラ~♩

♩あなたもお化け~♩私もお化け~♩

♩お化けばかりのア・ラ・モード♩(…と、女性の陽気なテーマソングでタイトル)

「御守護札」のアップ

軽便鉄道と近くにある白石温泉を結ぶバスの運転手大川三郎(伊達三郎)は、雨が降りしきる中、駅から降りて来る客を、居眠りしながら待っていた。

車掌の三田圭子(藤代鮎子)が傘をさし階段を上って駅に入ると、ちょうど売上を鞄にいれ金庫に仕舞いかけていた駅長が驚いて振り向く。

圭子だと知ると、温泉に住んでいるとはうらやましいとか、又東京に帰りたいだろう?あちらで失恋でもしたのかい?などとからかう駅長。

そうこうしているうちに、列車から降りた客たちが、切符を圭子に渡してバスに向かう。

社長らしき男藤城(花菱アチャコ)とその秘書らしき男石田(横山エンタツ)の二人連れ。

アロハシャツ姿のチンピラ風の男野上(小柴幹治)。

頭の禿げた中年男山下敬太郎(柳家金語楼)は、自分のかぶっていたカンカン帽と同じカンカン帽をかぶっていた葉巻をくわえた男渋谷(藤井貢)に、帽子を間違えませんでしたかと後ろから声をかける。

これは失礼と、互いに交換してみるが、葉巻をくわえた男がサイズが合わないと言い出す。

やはり、最初にかぶっていたもので正しかったと云う事が分かり、山下は恐縮する。

バスの中はたちまち満員になり、外は土砂降り、車内は蒸し風呂状態になるが、とにかくバスは出発し、約1時間半先の白石温泉を目指す。

途中、和服姿の中年女性がよろけて、藤城の膝の上に腰を降ろしてしまうが、藤城は喜ぶ。

誰か、女性の為に席を空けてくれたまえと石田が声をかけても、誰も動こうとしないので、仕方なく、石田本人が立ち上がって、その中年女性に席を譲るが、女性の顔をまともに見たらがっかりしてしまう。

横に座る形になった藤城が見ても、同じように落胆してしまうのだった。

運転手と車掌の名札を見ていた最前列の客野上が、あんた、東京にいた事ないかと大川運転手に聞いて来るが、この辺じゃ、大川と山中なんてざらにある名前だと運転手はあしらう。

やがて、バスは、橋の真ん中でエンストを起こしてしまう。

ハンチングをかぶった中年男(羅門光三郎)が、藤城にこの近くに良い場所があるのだが…と耳打ちして来る。

その話を一緒に聞いていた石田は、金ならうなるほど持っていると、手にした鞄を抱きしめてみせる。

圭子が傘をさす下で、大川がボンネットを開け、修理をしている最中、葉巻の男渋谷は、中は暑いので雨にでも当たるかと云いながらバスの外に出る。

その直後、アロハ姿の男野上も外に出る。

大川に近づいた渋谷は、何事かを話しかけるが、大川はもう直ったと不機嫌そうに返事をする。

その時、窓から外に顔を出していた山下のカンカン帽が外に飛ばされてしまう。

慌ててそれを取りに外に出た山下は、大川運転手と話し込んでいる渋谷の姿を見つけるが、カンカン帽は、アロハシャツの男がかぶっていた。

飛んで来たこの帽子が、そのまま自分の頭の上に乗ったのだと言う。

このまま俺のものにしようかなどと意地悪を言うアロハの男野上に、頭を下げて返してもらう山下だった。

バスに戻って来た大川運転手は、パイプが故障しているので、温泉までは行けないと乗客たちに説明する。

乗客たちは、一斉に文句を言い始めるが、葉巻の男渋谷が取りなして、バスは、折り返し列車が来るはずの元の駅まで戻る事にする。

ところが、駅に戻ってみると、駅長が困惑した様子で、折り返し列車なら、もう5分前に通過してしまい、それが最終だったので、明朝7時の始発までもう列車はないと言う。

乗客たちは騒ぎだし、近くに泊る所でもないのかと駅長に詰め寄るが、一里ほど先にある村まで行くとあると言う。

土砂降りの雨の中、誰もそこまで歩くとは言い出さなかった。

みんなが待合室に泊る気配を見せる。

藤城と石田は、モダンな洋装の女に声をかけ、一人が離れた隙に、相方を「あいつは色魔No.1だ」と悪口を言い、どちらも自分の方が気に入られようとする。

山下は他の客に、「DDT」と書かれた薬瓶を差し出すと飲まないかと誘うが、相手がそんなものが飲めるかと云うと、中身は酒だと教える。

駅長は、大川運転手を駅長室に連れて行くと、どういうつもりだ?隣村の分教場へでも連れて行け。お前は、わしの命令を断れないはずだと迫るが、大川は、俺にはどうしようもないんだと言うばかり。

駅長は、待合室に集まったバスの乗客たちに、一里ほど歩きませんか?他の宿へ行ってくれ。自分はここには泊れない訳がある。その理由を言っても、誰も信用しないでしょうが…と思わせぶりな事を言い出す。

興味を持った乗客たちは、ぜひ、その理由とやらを聞かせてくれと駅長に迫る。

駅長は、実はこの駅には幽霊が出るのですと答える。

その頃、バスに残っていた車掌の圭子に、アロハの男が、大川と云うのは東京にいた事があるのではないかとしつこく聞いていた。

駅の待合室では、駅長が話を続けていた。

終戦の1年前の今夜と同じように雨のひどい夜。

この近くに軍需工場があり、この鉄道はその工場の為に作られたのだが、その日は、東京から女優たちが来ると云うので臨時列車が出た。

この駅を通過したのは午後10時45分の事だった…と駅長が話すので、皆時計を見ると、今はまさに10時35分だった。

当時、駅員だった小野寺と云う男が、ポイントを切り替えにホームに向かったが、プラットフォームで突然心臓マヒを起こし倒れてしまった。

彼がポイントを切り替えないまま、列車は、時速40マイルでこの駅を通過して行った。

何か異常を感じた運転士の大隈が汽笛を鳴らしたが、時既に遅く、女優たちを乗せた列車は脱線し、谷底に転落してしまった。

女優が7名、男優3名、他の乗客7名が全員即死だった。

かろうじて、運転士の大隈だけが生き残って、この駅まで戻って来たが、頭を強打したためか、頭がおかしくなっており。赤い信号ランプを持ったままホームをうろうろしていたが、翌朝これも亡くなってしまい、結局18名が全員死亡したと言う。

それ以来、雨の日になると、シグナルが鳴り、列車が猛スピードでこの駅を通過する。

異聞も、残業で残っていた時、見た事があるし、幽霊列車を見たものは必ず死ぬと云われている。

赤いランプを持った男をホームで目撃したものや、白石川にさしかかる辺りで、汽笛が聞こえる事もあると言う。

その頃、大川運転手と圭子車掌は、このまま逃げ出そうと相談していたが、そこに葉巻の男が乗り込んで来て、二人を無言で威嚇する。

話を終えた駅長は、そのまま駅から帰ってしまう。

石田は、洋装の女のために、空気枕を膨らませてやる。

山下は、浴衣姿の男に酒を勧めるが、男は、昔、シャムの奥地にいた事があると言う。

洋装の女は、持っていたラジオをかけ、浪花節が聞こえて来ると、後ろに座っていた新婚夫婦の新妻の方が下品ねと眉をひそめたので、洋楽に切り替える。

一方、ハンチングの男は、藤城と石田に、この線の終点の奥に宝が埋まっているのだと話しかけていた。

「御山教」と書かれた半纏を来ていた男は、隣の男が歯痛に悩まされているのに気づくと、祈祷して差し上げとうと言い出すが、それを聞いていた杉山渡と書かれた着物を着た目が見えないらしき傷痍軍人が、そんな宗教は当てにならないと言い出す。

そんな中、新婚夫婦はこっそりバスに戻ると、後部座席でいちゃつきだすが、中に残っていた車掌の圭子は、その様子を見て呆れる。

浴衣の男は、洋装の女の横で、自分はホテルに睡眠薬を忘れてしまったので困った。自分は睡眠薬がないと全く眠れないのだとこぼしていた。

しかし、洋装の女が、その男の顔の前でハンケチをひらひらさせると、すぐに寝入ってしまう。

さらに、石田の顔にもハンケチを向けようとするが、その時、藤城が石田を呼び寄せたので、眠りかけていた石田は又目を覚ます。

先ほどから、石田、石田と呼びつけられ、面白くないと石田が抗議すると、自分たちはここに重要な使命を帯びて来ている事を忘れるな。きみのその貧弱な身体で社長に見えるか?と藤城に言われると、石田は今の境遇を納得するしかなかった。

妹と一緒らしい目の不自由な傷痍軍人は、山下から酒を勧められると、恐縮しながら、この中でまともなのはあなただけだと言う。

日本はこれで良いのでしょうかと、傷痍軍人は山下に嘆く。

その頃、新妻がバスの中で寝入ったのを見届けた新婚夫婦の夫の中村が、バスの外で圭子に謝っていた。

圭子は、東京で、この中村から捨てられた女だったのだ。

圭子は、あなたが最初の人だったのに、あんな所を見せつけるなんてひどい!と中村に抱きついて来る。

中村は、まさか、ここが君の故郷だったとは知らなかったんだと謝りながらも、足下の蝦蟇を踏みつけて飛び上がる。

その時、バスからクラクションが聞こえて来たので、慌てて中村はバスに戻る。

新妻が目覚めたのだ。

待合室では、ハンチングの男が、藤城と石田に埋蔵金の話を続けていた。

額にして5億は埋まっており、札束を六畳間に並べても並べきれないほどだと云う。

二人が金額にビックリしているのを見て取ったハンチング男は、地元の村のものに5万ばかりばらまいておくと仕事がしやすいと持ちかける。

それを聞いた藤城は、あっさり五万の札束を、石田の鞄から出して渡す。

その後、また、洋装の女に藤城たちが話しかけている隙を見て、ハンチング帽の男は、石田の鞄を持ち出そうとするが、すぐに石田に見とがめられ、用心の為、自分が持っていたとごまかす。

駅に戻って来た新妻は、自分の過去にラブアフェアがあったらどうするつもりと、中村の先ほどの行為を責めていた。

中村は、さっきの女とはきれいに切れているし、君の過去に何があっても気にしないと答える。

それを聞いた新妻は、自分には過去に5人も恋人がいたと悪びれる風もなく打ち明け、中村を唖然とさせる。

駅舎の中では、目の不自由な傷痍軍人が、何か恐ろしいものが近づいて来る。足音が…と言い出し、何も気づかない他の乗客たちに緊張感が走る。

悲鳴が聞こえ、渋谷が駅舎の扉を開くと、何者かが倒れ込んで来る。

先ほど帰ったはずの駅長だった。

医者の心得があるのか、山下は、駅長の容態を診ると、酒を口に流し込んでやり、何気なく時計を見ると、ちょうど10時45分だった。

その直後、駅は突然停電してしまう。

渋谷が、誰かロウソクを持っていないかと呼びかけると、傷痍軍人が持っていると差し出す。

そのロウソクをハンチングの男が持ち、先導する形になると、野上が駅長の身体を背負うと、渋谷と共に隣の部屋に運んで寝かせる。

御山教の信者が、怯える客たちに、霊験あらたかなお札を売りつけ始める。

その直後、ハンチングの男が、先ほど手に入れた五万の自分の鞄に詰め込み、ホームの方に逃げようとしていたが、赤いランプを回す男の姿を目撃し、腰を抜かしていた。

鞄からは大量の札束が飛び散る。

待合室の窓ガラスに、外から見知らぬ女の顔がぺたりと頬を押し付ける。

やがてシグラルが鳴り始め、汽笛が迫って来る音が聞こえて来たので、待合室の中はパニック状態になる。

御山教の信者は必死で祈り始め、山下は酒をがぶ飲みし始める。

やがて、駅のホームを列車が通過して行く。

その後、何事も起こらなかったので、大した事なかったななどと負け惜しみを言いながら、石田が何気なく改札口からホームの方を覗こうとすると、いきなり着物を着た女が出現し、見たんだよ。兄ちゃんが運転していた。きれいな女優さんが、記者の中で踊っていたなどと口走ると、その場で踊り始める。

洋装の女が持っていたラジオが転がり、突然、「東京ブギウギ」がかかると、女は狂ったように踊り始める。

大川運転手は、その女に目で合図を送ると、こいつは転覆した列車の運転士だった大隈の妹で正気ではないと客たちに説明すると、外に連れ出す。

その様子を見ていたアロハ姿の野上は、その後を追いかけ、女を掴まえると、近くの納屋に連れ込むと、狂ったまねはよせ。その目は狂人のものではないと迫る。

さらに、大川と云うのは、新宿にいた大川だろう?自分の妹を無理矢理犯した男だと詰問する。

女、京子(日高澄子)は、大川は自分の兄なのだと打ち明け、しんちゃん、許して!と懇願した後、かつて付き合っていた野上を誘いかける。

野上が、その誘いに乗りかけた時、兄の大川が納屋に入って来て、ナイフを取り出す。

そうした様子を外で盗み聞いていた藤城と石田が中に踏み込もうかと迷っている時、京子が飛び出して来る。

藤城と石田は、京子を追って駅舎の休憩所の中に入り込むが、中は暗かった。

手探りで、畳の部屋に上がり込んだ藤城は、京子を掴まえたかと思ったが、それは寝かされていた駅長だった。

駅長は、目を開け、むっくり起き上がったので、それを見た藤城と石田は目を回してしまう。

外の闇の中、大川は、何者かに助けてくれと命乞いをしていた。

その後、野上は、外で倒れていた大川運転手の身体を発見する。

山下がその大川の死体を調べていた時、突然、渋谷が発見者である野上の手を取ると、手錠をかけてしまう。

渋谷は刑事だったのだ。

次の瞬間、待合室に女の悲鳴が轟く。

駅長が立っていたのだ。

その背中には、渋谷が銃を突きつけている。

一方、山下は、バスの下から、クランク棒を探し出していた。

渋谷は、自分は国家警察の刑事だと、客たちに説明していた。

この線の終点駅には隠匿物資が隠されており、時々、その隠匿物資を運び出す列車があるとの情報を知り、調査に来たのだと言う。

その一味である駅長は、その秘密をあなたたちに知られるのを恐れ、幽霊列車の話をでっち上げて、ここから出て行かそうとしていたのであり、ハンチング帽の男が見た赤いランプを回していたのは、駅長から命じられた大川運転手だと言う。

その言葉を裏付けるように、先ほど通過して行った列車が折り返して戻って来る。

列車を運転していた二人は、駅で停止の合図を送る駅長のランプを見て列車を停める。

駅長は、渋谷に銃を突きつけられ、否応なく言う事を聞いていたのだ。

渋谷の手助けをすると名乗り出た藤城と石田は、停まった列車に乗っていた運転士二人を掴まえる。

手錠をかけられたまま隣の休憩所に閉じ込められていた野上は、その間、いらついていた。

京子に帰れと怒鳴るが、京子は拒否する。

外に出ようと入り口まで来るが、ちょうどやって来た藤城と石田に「分かっている、分かっているから」と言われながら、押し戻されてしまう。

そんな藤城と石田に近づいて来たハンチング帽の男は、先ほどもらった5万円が2万しかないと言うが、石田は、それ本物だと思っていたのかとあざ笑う。

洋装の女は、そんな石田と藤城の顔の近くでハンカチを振る。

すると、麻酔が振りかけてあったのか、二人はホームに戸待っていた列車に手を添えると眠り始める。

次の瞬間、二人が手をついた列車が動き始める。

何と、渋谷が勝手に列車を運転し、出発したのだった。

それを知った山下は、走り去る列車の最後尾に飛び乗る。

彼も、実は、刑事生活13年のベテランだったのだ。

気がついた藤城と石田も、列車を追って走りだす。

後部列車から機関車に飛び移り、運転席を覗き込んだ山下は、運転していた渋谷の後頭部を、持っていた拳銃で殴って気絶させる。

人のしゃぶを持ち逃げしようなんて虫が良すぎると言いながら、運転席に入り込んだ山下だったが、自分が列車の運転の仕方が出来ない事に気づくと、このままでは転覆してしまうと慌てだす。

気絶している渋谷を揺り起こそうとしても無駄だった。

汽笛を鳴らしたり、あれこれ装置をいじっているうちに、何とか列車は停まる。

一安心した山下だったが、今度は、ここに停まったままにしておくと、やがて、別の列車と衝突してしまうと気づき、今度は何とか、元の駅に戻ろうと装置をいじりだす。

その頃、背後の線路を枕にして、疲れきった藤城と石田が寝入っていた。

やがて、列車はバックをし始める。

山下は喜ぶが、線路上で寝ていた石田は、ふと目を覚ますと、戻って来る列車に気づき、慌てて藤城を起こして、線路上を逃げ出す。

その背後から迫る列車。

駅では、他の客たちが、戻って来る列車をホームから眺めていたが、列車には、何時の間に乗り込んだのか、藤城と石田が笑顔で手を振っていた。

しかし、列車は駅には止まらず、通り過ぎて行く。

休憩所に閉じ込められていた野上は、窓ガラスを突き破って外に飛び出すと。列車の後を追いかけ、列車に飛び乗る。

しばらくして、野上が運転した列車が駅に戻って来る。

列車から降り立った藤城と石田は、先ほど自分たちを眠らせた洋装の女を掴まえる。

渋谷も、手錠をされ、そのまま休憩所に連れて行かれる。

客たちは、大川運転手殺しの真犯人を知りたがる。

山下刑事は、笑顔で駅長さと答える。

駅長のナイフには血が付いていないが、大川の持っていたナイフに血が付着しているから、気絶させた後、これで突き刺したのだろうと言う。

その証拠はと聞かれた山下は、バスの車体の下から見つけた血痕の付着したクランク棒を取り出して見せる。

やがて、朝が開け、ベンチでぐっすり寝ていた浴衣男が目を覚まし、夕べは静かな夜でしたねと呟くと、呆れた様子で中年女が、夕べは幽霊列車が通ったり、頭のおかしな女が出たり、一晩中にぎやかな夜だったと説明する。

しかし、浴衣男は、夢でも見ていたんでしょうと呆れるだけ。

ホームでは、野上に抱きついた京子が、自分は兄に頼まれてここに戻って来たのだと言い訳をしていた。

そんな二人が熱いキスを交わしているうちに、すっかり朝顔も開き、ラジオからは「台風丙は日本海に通り過ぎた」とニュースが報じていた。

山下たちが乗り込んだ列車を、野上が運転席に乗り込み汽笛を鳴らすが、その時、又しても、山下のカンカン帽が飛んでしまう。

あの帽子は、必ず出て来る不思議な帽子なんですと山下が負け惜しみを言うと、聞いていた藤城たちは、それじゃあ幽霊ですよと笑う。

そのカンカン帽は車体の下の線路の上に乗っており、動き出した列車の車輪に踏みつぶされてしまうのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

最初のタイトルにかぶさる、妙に陽気なテーマソングから意表をついている。

この映画は、いわゆる「怖い怪談」ではありませんよと言っているようなもの。

確かに、出演者の名前を見ると、当時人気のお笑い芸人たちが名を連ねている事から、怪奇コメディの類いなのかと想像させるが、内容を見て行くうちに、これが意外にも「謎解きミステリ」なのだと気づく仕掛けになっている。

赤川次郎のデビュー作である同名ミステリも有名だが、こちらもなかなかの出来である。

怪し気なバスの運転手と駅長。

さらに、バスに乗り合わせる客たちも、皆一癖も二癖もありそうな怪し気な人物ばかり。

そこに、駅長が話す怪談通りの列車が走り抜けた後、さらに殺人事件が…と言う展開は、なかなか面白く出来ている。

意外な犯人よりも、意外な探偵役が楽しめる秀作と云えば良いだろうか。

怪談要素としては、目の不自由な傷痍軍人が、何か恐ろしいものが近づいて来ると、第六感を働かせる所や、失神していたはずの駅長がムクリと起き上がる所などが秀逸。

一応、伏線は説明されているように感じるが、最後まで分からないのが、エンタツ、アチャコが演じている社長と秘書の二人の本性。

「重要な役目でここに来ており、社長と秘書と云う芝居はその為のもの」と臭わせているからには、本当の姿は別と言う事だろう。

金語楼と同じように探偵のような仕事と云う事か?それとも、ハンチング棒の男のような詐欺師だったと云う事か?今ひとつ判然としない。

ハンカチに麻酔をしみ込ませた洋装の女と、渋谷との関係もきちんと説明されていない。

おそらく、愛人関係と云う事なのだろうが、新婚旅行の夫である中村と車掌の圭子、野上と大川の妹京子など、元愛人関係が三組にそろうと云うのは少し出来過ぎのようにも感じる。

円谷英二の手になるらしいミニチュア特撮は、前半、客を乗せたバスが山道を上る所と、幽霊列車の回想シーンで、列車が山道を走る所と転落する所に使われているが、どちらも、いかにも玩具にしか見えないちゃちなもの。

かえって、ラスト近く、線路上で寝ていたエンタツ、アチャコの二人が、バックして来る列車に気づき、慌てて逃げ出すと云うシーンがすごい。

合成にも見えないし、実際はゆっくりバックして来る列車を使い、コマ落としの技法で見せているにしては、エンタツ、アチャコの動きに不自然さがない。

ひょっとすると、本当に、二人に列車の後ろを走らせているのではないかと想像してしまう。

と言うのも、金語楼が列車の後部列車から運転席に飛び移るシーンも、合成とは思えないからだ。

一部、明らかに、逆光カットで、吹き替えが演じているのだろうと思えるジャンプシーンがあるが、走っている機関車の側面を移動しているのは本物の金語楼。

金語楼の顔がはっきり確認出来るまでワンカットで撮っているので、吹き替えではないと思う。

いくら、列車をゆっくり走らせていたと考えても、当時人気絶頂だった芸人がやるには、あまりにも危険なアクションシーンだったのではないだろうか?

このお笑い芸人たちが演じた危険なシーンが、トリックだったのか、命を賭けた芸人根性のなせる技だったのか、その真相が知りたいものだ。