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猫と庄造と二人のをんな

1956年、東京映画、谷崎潤一郎原作、八住利雄脚本、豊田四郎監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

畳屋の木下(芦乃家雁玉)が、オート三輪で駆けつけて来たのは、自分が仲人をした庄造(森繁久弥)の嫁、品子(山田五十鈴)から電話で呼び出されたからであった。

庄造の家である雑貨屋「尾山商店」に到着して、品子に訳を聞くと、今朝方、二階にいる義母と、自分に子供が出来ないと嫌みを云われ大げんかしたので家を出る決意をしたのだと言う。

四年間も連れ添った肝心の庄造は、今は逃げたと、諦めた様子で品子は木下に言う。

その間、義母のおりん(浪花千栄子)は二階で狸寝入りを決め込んでいたし、庄造の方は、愛猫リリーと一緒に、近くの海岸で身を潜めていた。

木下は、仕方なく、品子の荷物をオート三輪に積んで出発するが、すぐにパンクをしてしまい、げんなりするのだった。

その頃、ようやく家に戻って来た庄造は、品子がいなくなっていたのでほっとしていたが、嫌な嫁がようやく出て行ったと喜ぶ母親から、早く、西宮の兄の娘福子に挨拶に行けとけしかけられる。

果物かごなどを手みやげに出かける庄造は、近所のカフェ「アシヤ」の女給二人はま子(春江ふかみ)とみどり(桂美保)と出会い、品子が出て行った事を教える。

その頃、品子は、結婚している妹の初子(南悠子)の家に転がり込み、二階に居候させてくれと頼み込んでいた。

初子は、二階を夫、添山(山茶花究)の知り合い友川に貸そうとしていた矢先であり、困惑するが、姉の強引さに渋々押し切られる形で、同居を許可する事になる。

荷物を初子の家に運び終えた木下は、前に奉公していた医者の城川家に又戻って働いたらどうかと品子に勧めるが、品子は、庄造の元に戻気持ちが残っていたので、その気はないと断る。

西宮に住む叔父で金持ちの中島(林田十郎)の家にやって来た庄造は、給仕をやりながら夜学に行っていた14、5の時から、青木ゴルフのキャディやコックなど経験し、それなりの苦労はして来たはずのなのに、一向に一人前の男になりきれない事を中島から説教されるが、すぐに、持って来た果物かごを下げて、二階から聞こえて来る「マンボバカン」の声の主、福子(香川京子)に会いに行く。

ところが、部屋にその姿はない。

すぐに、箪笥の中に隠れている事に気づき、声をかけると、水着姿の福子が飛び出して来る。

福子は、完全なアプレガールだった。

福子は、品子を追い出してすぐ、自分を嫁にしようとやって来た庄造の軽さを嫌っていた。

事実、値切って購入した果物は、皆傷んでいた。

福子はこれから海に行くと言い出すが、準備の良い庄造は、着物の下に着込んでいたアロハと股引姿を披露する。

福子は、股引が嫌いと脱がそうとするが、その下は猿股だと、庄造は慌てる。

その日、帰宅した添山は、役所の友川が二階を借りたがっているのにと、急に転がり込んで来た品子を迷惑がる。

妻の初子が妊娠中で、今後、金が必要になるので、家賃を当てにしていたからだ。

その頃、海岸にやって来た庄造は、ソフトクリームとジュースを持って、甲羅干しをしていた福子を見つけると、一目もはばからず、彼女の足にしがみついて来る。

その頃、西宮の中島家では、昼間から兄と酒を酌み交わすおりんの姿があった。

二人とも上機嫌であった。

まんまと二人で企んだ計画が成功したからだった。

金に困っていたおりんにとっては、姪の福子を嫁にもらう代わりに、多額の持参金を兄からせしめる事が出来るし、兄の方にしても、男遊びにうつつを抜かす厄介者の娘が片付いてくれるから、両者にとって、今回の展開は願ったりかなったりだったのだ。

庄造は、猫のリリーを可愛がるように、浜辺で福子の喉を触ったりしてべたべたしていたが、浜辺にあるダンスホール「渚センター」のダンス教師萩村(田中春男)に福子が馴れ馴れしく話しかけたので不機嫌になる。

そのダンス教師も、福子のアバンチュールの相手の一人だったが、その日は相手の妻が一緒にいると分かり、福子は悔し紛れに、持っていたソフトクリームを萩村目がけて投げつけるが、手元が狂って、踊っていた別の客の顔に当たってしまう。

福子は、その後、急に庄造と踊り始めるのだった。

ある日、初子の家にやって来た木下は、品子に、庄造が福子と再婚したと教える。

その内、庄造が自分を迎えに来ると信じ込んでいた品子は、それを聞いて驚愕し、裏切られたと思い込み、復讐の念に駆られる。

「尾山商店」に居着く事になった福子は、すっかり自堕落な新婚生活を始めていた。

朝遅く起きると、先に起きて蘭をいじっていた庄造を呼ぶと、エロ写真か何かが仕込まれているライターを見せて、挑発したりする。

客が来ても、庄造と一緒で商売に感心を見せる訳でもなく、寝床の始末はおりんがやっていた。

問屋に出かける事にした庄造は、途中で、カフェ「アシヤ」の女給に呼び止められ、ジュースをごちそうになる。

庄造は、リリーの初産の時の想い出などを熱心に話し始めたので、女給のはま子とみどりは呆れてしまう。

表に出た庄造は、停めていた自転車が倒れている事に気づき起こすが、すぐ側に、品子が立っている事に気づき硬直する。

品子は、庄造を近くの浜辺に行こうと強引に誘う。

その頃、福子の朝食の世話をしてやっていたおりんは、慣れぬトーストなどに戸惑いながらも、今日は西宮に行かないか?などと福子に媚びへつらっていた。

一方、品子の方は、元の家のものが何もかも懐かしい、せめてリリーを自分にくれないかと庄造に申し込み、突堤から飛び降りてみせたりする。

庄造は、品子の落胆を直感的に見抜き、自転車にまたがると、追って来る品子の手ぬぐいを後輪に巻き込んだまま、一目散に逃げ出すのだった。

「尾山商店」では、遊びに来た女友達の多美子(環三千世)が、福子と寝転がって雑談に耽っていた。

多美子は、義母であるおりんをこき使っている福子の態度に驚いていた。

その後、店の前に立っていた福子は、郵便配達員から「阿井品子」と差出人に書かれた自分宛の手紙を受け取ると、中身を読む事もなく、そのまま破り捨てる。

庄造は、リリーを連れて、小舟で釣りに出ていた。

前に女中奉公していた城川夫人(三好栄子)から、又、戻って来てくれても良いと勧められた品子だったが、庄造宛に手紙を三度も出しているが、まだ一度も返事がないのだと答えた後、直接「尾山商店」に出向いてみる。

そこに、福子が自転車で帰って来て出くわす。

おりんは、二人が対面した事に気づくが、自分は身を潜めてしまう。

手紙を出したはずだが?と話し始めた品子に、どうせ、泣き言が書いてあると分かっていたので全部破り捨てたと答える福子。

あの人は、あんたに譲ったので、代わりにリリーをくれないかと持ちかける品子。

しかし、あの人はリリーの事が一番好きと言われた福子は、機嫌を悪くする。

二人してリリーを探すが、リリーは見つからない。

品子は、畳屋の木下さんにリリーを渡してくれと頼んで、そそくさと店を後にする。

福子が二階に上がると、おりんは、急に熱が出たと言い、布団の中にうずくまっていた。

品子からの申し出を福子が説明すると、あいつは家の中をかき回し、腹の中で笑おうとしているだけだとおりんは福子に説明する。

そこに、庄造が帰って来るが、出迎えた福子は、あの人を苦しがらせるために、仲良くしてやる。意地や、うちの意地やと言いながら、庄造に甘えかかって来る。

その頃、妹の家に戻っていた品子は、リリーをもらうと、あの人もリリー恋しさと一緒に、前の嫁はんも恋しがるはずやと、自分の作戦を初子に教えていた。

そんな品子に、初子は再婚話に興味はないかと切り出す。

実は二号さんの話だと聞かされた品子は、それを無視し、自分には学はないけど、知恵比べやったら負けるものかと意地を見せる。

そこに突然、添山が友川を連れて上がって来る。

着物を干し、襦袢姿だった品子は、慌てて干してある着物の陰に隠れるが、友川(三木のり平)は、部屋の様子を見るなり、押し入れを勝手に開け、その中に自分の鞄を押し込むと、添山と二人で下に降りて行く。

初子は、今の人は税務署の人で、品子が払っている家賃の3倍出すと言っているのだと、申し訳なさそうに姉に説明する。

品子は、妹までも、自分を追い出そうとしている事に気づき不機嫌になる。

「尾山商店」では、西宮から福子がメロンを持って帰って来たので、お裾分けをもらったと言いながら、うれしそうにおりんがメロンにむしゃぶりついていた。

その横では、庄造がリリーも年を取ったなどと云いながら、金をせびる。

しかし、おりんは、福子からもらえと相手にしない。

福子は、珍しい事に、いつも店の前を通る魚屋「鯵のとれとれ」(谷晃)から買ったアジを料理していた。

畳屋の木下の所に来た品子に、三味線を弾いていた女房のまつ(都家かつ江)が、庄造の事は憎くないのかと聞くと、とたんに品子は怒り出し、そして泣き出したので、木下夫婦は余計なことを言ったと知らん振りを決め込む。

庄造は、福子手作りのアジ料理を肴にビールを飲んでいたが、その料理をリリーにも食べさせようとするので、それを見た福子は急に怒り出す。

庄造は、その福子の嫉妬の理由が良く分からず、必死に取りなそうとするが、逆上した福子はリリーを放り投げ、やっぱりあんたは、うちよりリリーの事好きなんや!西宮に帰ると言い出す。

夜になっても、福子の執拗な攻撃は収まらず、蚊帳の中で寝ようとする庄造に、リリーの事を問いつめ、とうとう、便所の中に逃げ込んだ庄造の扉の前に座り込むと、雪隠詰めにしてしまう。

翌朝、二階で金勘定をしていたおりんは、庄造が上がって来た事に気づくと、慌てて、座布団の下に金を隠して、祈祷を始める。

リリーの事を嫌いだと福子が言ったと夕べの喧嘩の説明をする庄造に、この家は抵当に入っているのだから福子に逆らってはいけない。とおりんは言い聞かせる。

リリーを探していた庄造は、福子から、お義母さんから言われて木下の所に連れて行ったと聞かされる。

驚いた庄造は、自転車で木下の畳屋に向かい、ちょうど、駕篭に入れて、品子の元に届けようとしていた木下に追いつくと、持って来たかしわ(鶏肉)を手渡すと、しばしリリーを抱きしめ、別れを惜しむのだった。

その頃、品子は、これまで庄造の家で働いて来た労働を金に換算し、これだけ元手をかけたのだから、何としても家に戻ってみせると初子に説明していた。

そこに、木下がリリーを届けに来たので、品子は大喜びする。

家に戻った庄造は、プリンを食べていた福子に、リリーの事でねちねちと嫌みを言う。

それを聞いて怒った福子は、この家はうちのお金でやっているんやと威張り出す。

さすがに痛い所を指摘された庄造も逆上し、福子につばを吐きかけると、福子を叩き、出て行けと怒鳴る。

福子が本当に家を飛び出すと、驚いて駆けつけて来たおりんが庄造を諌めるが、庄三は押し入れを開け、そこに詰め込まれていた福子の汚れた下着を見せる。

福子は、洗濯もしたがらないだらしない女なのに、どうしていつもおだててばかりいるのかと庄造は抗議をするが、おりんは黙って、その汚れ物を庭に持ち出し、自分で洗濯し始めようとする。

なおも愚痴を続けようとした庄造は、「一日も早く幸せにしてやろうとする、お母ちゃんの気持ちがわからんか!」とおりんからビンタを食らうと、泣きながら家を飛び出す。

一方、品子の方は、リリーが、なかなか自分になつこうとしないのでいらついていた。

庄造は、電気屋の国粋堂(横山エンタツ)の店の前で「かしわ」を煮ると、借りた100円と行灯を持って自転車で品子の家に向かう。

その頃、品子の方は、紐で電灯に繋いでいたはずのリリーの姿が見えなくなったので慌てていた。

庄造は、添山の自宅横の空き地で、「かしわ肉」を出しながら、リリーを探していた。

それを立ち小便をしながら観ていた小学生は、「おっさん、気●がいか?」と茶々を入れて来る。

表に探しに出た品子も、リリーを見つけられず、踏切の所で、絶望のあまり、しゃがみ込んでしまう。

その夜、西宮の兄の家にやって来たおりんは、中島がマッサージ上と同衾している所にぶつかり、慌てる。

その頃、当の福子は、パーマ屋に嫁いだ多美子の家に泊まると云い出していた。

家に戻って寝床に付いた庄造だったが、猫の声で目覚め、窓を開けて外を眺めるが、そこにいたのは全く別の黒猫だった。

がっかりした庄造は、目の前に干してあった福子のズロースを、悔し紛れに、竿ごと掴み落とす。

いつの間にか、リリーは、品子の部屋に戻っていた。

多美子は、庄造の事を指し、あれくらいで手を打っとかんと…と、いつまでも不良気分でいる福子を、そろそろ家に落ち着くよう説得する。

福子は、意地や、うちかて意地があるんや!と言い残すと帰って行く。

福子は、その夜、寝ていた庄造の元に帰って来る。

庄造は、寝入っている振りをしながらもその気配に気づいていた。

その頃、品子は、リリーを抱きしめて寝ていた。

翌朝、帰宅したおりんは、まだ庄造は寝ているのに、店が開いている事に気づき不思議がる。

裏庭に行ってみると、福子が、庄造の衣類を洗濯しようとしているではないか。

おりんは、起きて来た庄造に、福子には何も聞くな、西宮からたくさん小遣いをもらって来たと耳打ちする。

そして、福子に対しては、今日は宝塚か有馬温泉にでも夫婦で行って楽しんで来いとおべんちゃらを言い出す。

福子は、庄造の髪が伸びているので見苦しいと言い出し、おりんはすぐに床屋に行って来いと息子をせかす。

散髪を終え、店に戻って来た庄造は、借りっ放しの行灯を取り戻しに来た国粋堂の姿を見かけ、慌てて身を隠す。

福子はおりんに悪態をついていた。

庄造が、リリー目当てに品子の家に行っているのを、なぜ自分に黙っていたのかと責めているのだった。

完全にヒステリーを起こした福子は、おりんの目的が金だけである事は分かっていると指摘し、この家はうちのものだから出て行けと言い出す。

おりんは泣いて土下座をして詫びるが、その様子を覗いていた庄造は、そのまま自転車で逃げ出してしまう。

庄造がやって来たのは、リリーのいる添山の家だった。

ちょうど出かけた品子とすれ違いだった事を知った庄造は、ほっとし、初子に頼んで、二階のリリーに会わせてもらう。

やがて雨が振り出し、傘を持って姉を迎えに行った初子とすれ違う形で家に戻って来た品子は、縁側に置かれた庄造の下駄に気づくと、まんまと自分の作戦が成功したと喜び、化粧台で化粧をすると、いそいそと二階に向かおうとし、リリーを抱いて帰りかけた庄造と出くわす。

すっかり、庄造が自分の事を迎えに来てくれたと思い込んだ品子は、二階で茶を振る舞いながら、今までの事は堪忍ですなと殊勝な事を言い出す。

しかし、庄造は、自分はリリーと恋愛中や、あんたはリリーを道具に使っているだけ、自分の意地でやっているだけ。

人間は皆嫌いや、お前も嫌いやと言い放つ。

それを聞いて逆上した品子は、リリーを掴むと、二階の窓から外へと放り投げる。

愕然とした庄造は、お前の本心がそれやがな…と呆れる。

玄関口には、福子がやって来ていた。

外に出ようとした庄造は、お前の用事があるのは品子やろうと福子に言う。

それを聞いた福子は、庄造を追って来た品子とにらみ合い、互いに意地と負けん気をぶつけ合いながらその場でつかみ合いが始まる。

それを、怯えたように観ていた庄造は、「怖いな〜…」と呟く。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

その甘ったれた性格から、母親からも自立出来ず、結婚生活にも馴染めず、女にも、人間にも不信感を抱き、唯一愛情を注げる対象が猫だけと云う、哀れな現実逃避中年男を森繁が好演している。

夏場の設定と云う事で、全員、肌もあらわな格好をしているが、中でも、終止、水着姿ではすっぱ女を演じている香川京子の度胸振りがすごい。

欲深い母親を演じる浪花千栄子も巧ければ、山田五十鈴の形相凄まじい、女の執念芝居も怖い。

この香川京子、浪花千栄子、山田五十鈴と云う三人の女同士による、壮絶な欲と意地の張り合い、浅ましさを、それに怯える森繁のだらしなさで浮き彫りにしている。

ラストの香川京子と山田五十鈴のつかみ合いなど、まさに「怪獣映画」さながらである。

庄造でなくとも、男ならすくみ上がってしまうような凄まじさ。

嫁と姑のいがみ合いなどは昔から良く見聞きする事だが、品子と福子にとって、リリーも庄造も、自分の見栄や欲望に対する道具でしかないのだと観客に気づかせる所など、女の本質を良く観察して見抜いている作品だなと感じる。

もちろん、これは、男が女を蔑視していると云うのではなく、表面上、美化して描かれやすい女への幻想を打ち砕こうとする人間観察から出たもので、それに振り回されている男のバカさ加減も、同時に描いているのだと思う。

あらためて、こうしただらしない男を演じる森繁の巧さに感心すると共に、今回、若い頃の彼の風貌が、どことなくタモリに似ている事に気づいたりもした。

限られた登場人物で見せる長尺の話ながら、中身は濃く、見応え十分である。