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影なき声

1958年、日活、松本清張原作、秋元隆太+佐治乾脚本、鈴木清順監督作品。

※この作品はミステリであり、後半、謎解きがありますが、ここでは最後までストーリーを書いていますので、ご注意ください。コメントはページ下です。

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毎朝新聞の交換手高橋朝子(南田洋子)は、ある深夜、社会部の記者石川汎(二谷英明)から電話をもらい、東大教授赤星牧雄に繋いでくれるよう頼まれたので、すぐに電話帳で確認し、赤星邸に電話するが、出て来た男は「ちがう。こっちは火葬場だよ。ハハハ…」と奇妙な返事をして電話を切る。

もう一度、電話帳を確認し、電話をし直した朝子だったが、翌朝、電話帳で見間違えたと思われる赤星牧雄の上に書かれていた赤星専三と云う、世田谷区北沢の質屋の主人が殺害されていた事が分かる。

300人の新聞社社員の声を聞き分けられると云う驚異の耳を持っていた朝子は、すぐに警察から事情を聞かれ、様々な容疑者たちの声を聞かせられるが、該当者は見つからなかった。

朝子の名前は新聞にも載り、2、3ヶ月は話題になったが、やがて事件は迷宮化し、彼女の名前も何時しか忘れられ、3年が過ぎ去った。

石川は、田端にある「どん底値」と書かれた安売りの店の近くに立っていた時、その店から出て来た女性の顔を一瞬見て、結婚して会社を辞めた高橋朝子だと気づいて、好奇心の赴くまま後を付けてしまう。

今の彼女は、明らかに貧しい生活をしているようで、その姿は見るからにやつれていた。

彼女が帰ったのは「美蓉荘」と云う安アパートで、その二階の一室に、夫と二人暮らしをしているようだった。

その夫の姿を、別の日に競馬場で見つけた石川は、その夫が、「社長」と呼びかける別の男と連れ立っている事。たまたま、食堂で隣り合ったその社長なる人物から、何か書く紙がないかと聞かれた夫が、背広のポケットから取り出した自分の名刺をテーブルに置いたので、それをちらりと盗み見た石川は、そこに書かれていた小谷茂雄(高原駿雄)が、朝子の夫の名前なのだと知る。

小谷と朝子が暮らすアパートの部屋に、その後、社長と呼ばれていた浜崎(宍戸錠)、中野でビリヤード場をやっている村岡(芦田伸介)、さらに、薬局をやっている川井(金子信雄)と云う三人が集まり、小谷も加え徹夜で麻雀をやり始める。

小谷は、会社の偉い人たちだからと朝子に説明していたが、どうやら、川合と云うのがカモになっている賭け麻雀らしく、その日から毎夜、集まった四人は賭け麻雀を連日続け、一ヶ月が過ぎた。

他の部屋の住人たちからも、深夜の騒音に対し嫌みを云われるし、朝子は、隣の部屋の物音で、眠れない毎日を過ごす事になる。

神経が参り始めた朝子は、なぜ毎晩うちで麻雀をやらなければいけないのか?川井と云う人は、毎回4、5万取られているようだが、どういう事なのかと問いつめるが、小谷は何も答えようとしなかった。

ある日、他のメンバーが集まった中、浜崎が遅れていたので、小谷が、買い物に出かける朝子に、電話して呼び出してくれと頼む。

朝子は、はじめて浜崎に電話をし、皆さんもう集まっていますけど…と連絡するが、それに「すぐ、行きますぜ」と答えた浜崎の声を聞いた時、凍り付いてしまう。

三年前に聞いた、あの質屋殺しの犯人の声だったからだ。

朝子は狼狽し、思わず電話を切ってしまう。

今まで聞き慣れていたはずの浜崎の声で気づかなかったのは、レシーバーを通した声ではなかったからだと気づく。

浜崎の方も、電話の様子や、アパートで彼を見る朝子の目が変わった事に気づいたらしく、昔、交換手をやっていたそうですねとか、300人の声を聞き分けられるって本当ですか?三年前の犯人の声が今でも分かりますか?など、執拗に朝子に聞いて来る。

朝子は、浜崎に追いつめられる悪夢にうなされるようになる。

朝子は思いきって、浜崎と離れて、あの人は三年前の犯人よと教えるが、小谷の態度は煮え切らない。

その日、思いきって、毎朝新聞の石川に会いに行った朝子だったが、忙しい石川は、ちょうど高校生殺しの取材に出かけたのとすれ違いだった。

帰りかけた朝子は、念のため、もう一度、浜崎の電話での声を確認してみようと、公衆電話に入りダイヤルを仕掛けるが、扉が突然開き、当の浜崎が笑いながら入って来る。

尾行されていたのだ。

その頃、小平にある村岡の家では、元踊り子だった妻マリ(石塚みどり)に、元ボクサーで、今は村岡の下で働いている明(野呂圭介)が言い寄っていた。

その時、客だった川井ともう一人の前掛けをした男が帰る。

村岡は、声を聞かれていたんじゃ仕方がない。殺すしかないと呟き、それを聞いたマリは、殺すのね!と、目を輝かせて喜ぶ。

明が何時やるのかと聞くと、明日だと村岡は答える。

ある夜、一人でアパートにいた朝子は、扉が開き、何者かが部屋に入り込んで来たので思わず逃げかけるが、畳に倒れ込んだのは、夫の小谷だった。

夫は、浜崎と手を切って来た。殴られたけど、自分もあいつを殴ってやった。あいつは君を狙っていたんだ。愚連隊だったんだとつぶやき、それを聞いた朝子は倒れた夫を、泣きながら抱きしめるのだった。

翌朝、北多摩郡小平の畑の中で、浜崎の死体が、牛乳配達人によって発見される。

顔は石炭で汚れ、ズボンの折り返しや肺の中からも石炭が発見されたので、別の殺人現場から運んで来られたものと推測された。

浜崎は、大東京宣伝社なる会社の社長を名乗っていたが、元は世田谷の愚連隊であり、会社も存在しなかった。

朝子の夫、小谷は、重要参考人として小平署に連行される。

小平署の前に着ていた石川は、同僚の小林(近藤宏)に警察と夫の取材を任すと、自分は「美蓉荘」に車で向かう。

しかし、朝子はどこかに出て行ってしまったと云う。

石川は、朝子の実家に向い、そこで朝子に出会う。

実家で朝子に取材してみると、小谷は、夜中の1時半に帰って来たが、あの人がやるはずがないと朝子は答える。

浜崎が三年前の犯人である事は警察に話したのかと石川が聞くと、誰も、自分の耳の正確さなど信用してくれないと朝子は嘆く。

新聞社に戻った石川は、三年殺しの晩、朝子は電話に答える声の他にもう一人の声を聞いていた。犯人は二人いる可能性があると、三村次長(内藤武敏)を説得し、三千円の取材費を前借りする。

まず、石川は、薬局経営の川井に話を聞きに行く。

川井が云うには、昨日の夕方の五時頃、雨の中を小谷がここへ来たらしい。

その時、小谷は、浜崎が宣伝広告の仕事をしていると云っているが、自分は最初から疑っており、逆に利用してやるつもりだったと言い、あんたは奴に恐喝されていたんじゃないかと聞いて来たと言う。

川井は、そうだと認め、あんたは自分の名刺を奴に利用されているだけの、あいつの飼い犬、小道具にされているだけだと言い返すと、黙って小谷は帰って行ったらしい。

話を聞き終えた石川が、恐喝のネタは何だったのかと聞くと、女の為に公金を使った過去があるのだと川井は白状する。

川井の前夜のアリバイを確認すると、渋谷の「アウル」と云うトリスバーで11時過ぎまで飲んでいたと云うので、さっそくその店に行ってみるが、店はまだ閉まっていた。

中野のビリヤード場の事務所に戻って来た明は、そこに見知らぬ男が立っていたので、誰だと凄むが、相手の男は石川だったのだが、ヤクザ言葉で村岡は新田マリの所にいるのかと聞いて来たので、思わず明は、大将なら小平に家を買ったと口走ってしまう。

口紅が付いてるぞとからかった石川は、相手が鏡で確認している隙に、するりと部屋から逃げ出してしまう。

続いて、明が行っていたと思しき売春婦のアパートに向かった石川は、夕べ、あのボクサー崩れの朝が来なかったかと聞く。

売春婦は、「ゴジラ(明のあだ名)」なら、今朝の5時半頃、ここを出て行ったと教えてくれる。

石川は、さらに小平に向かう。

交番で村岡の家を訪ねると、この先に「鈴本」と云う、味噌醤油の店があるからそこで聞けと教えられる。

村岡は、自宅でマリの足にペディキュアを塗ってやっていたが、事件当夜のアリバイを石川が尋ねると、一緒にいた鈴本(柳谷寛)が答える。

以前、川井と一緒に村岡邸から帰って行った前掛け姿の男が鈴本だったのだ。

鈴本が云うには、夕べは、村岡もマリも明も、8時頃から自分の家のテレビで、ボクシング中継を観ていたらしい。

マリは、その時も異常な行動を取り、鈴本の飼い犬を絞め殺そうとしたり、鶏の羽をむしったりしたと言う。

その後は、村岡に誘われ、この家で朝まで飲んだのだと鈴本は証言する。

その言葉の裏を取るため、鈴本の店に戻った石川は、妻のヤス(初井言栄)から事情を聞くが、テレビを観た後、自宅で飲もうと鈴本を誘った村岡は、一旦、準備の為に明やマリと共に自宅に先に戻り、20分くらい経ってから、明が夫を呼びに来たのだと言う。

話を聞き終えた石川が車で店を出る時、のこのこ戻って来た鈴本の姿を見つけたヤスは、怒鳴りつけるのだった。

小平署の第三取調室で、小谷の尋問を続けていた畠中部長(長弘)は、電話だと聞き席を立つが、電話の相手は、名乗らず、浜崎の死体遺棄現場から村岡邸まで5分しかないと一方的に用件を言う。

もちろん、電話の主は石川だった。

その頃、実家で、早く小谷と別れるように、兄と母親から責められていた朝子は、いたたまれなくなり家を飛び出していた。

夕方、石川は、再度「アウル」に出向き、店員から、川井が事件当夜、9時から深夜の2時頃まで、ここで飲んでいたとの証言を得ていた。

そこに、当の川井がやって来たので、村岡が、浜崎殺しの容疑者として警察に挙げられたと、石川は教えてやる。

しかし、翌日、社にいた石川に小林から電話が入り、田端で犯行現場が見つかった。さらに、小谷のズボンの折り返しからも石炭が見つかったとの連絡がある。

犯行現場は、田端駅の貯炭場だった。

田端と小平の直線距離は34km、緊急車両で突っ走っても30分はかかり、二人で大の男を殺すには5分程度かかると見られる事から、20分間アリバイがないだけの村岡には、浜崎は殺せないと云う事になってしまう。

又、科研の調べで、小谷と浜崎のズボンから見つかった石炭は全く同質のもので、夕張か筑豊でしか産出せず、東京でその石炭がある場所と云えば、国鉄田端駅の貯炭場しかないと言う。

再び状況が不利になった小谷は、執拗な刑事(高品格)からの尋問を受け、精神的に追いつめられる。

雨の中、浜崎と争っていたあの夜の事が思い出された。

石川は、朝子を伴い、近くの喫茶店に畠中部長を呼び出し、事情を聞いていたが、そこに刑事がやって来て、今、小谷が犯行を自供したと畠中に伝える。

社に戻った石川は、自分の見込みのミスを認め、三村次長に退職願を提出するが、次長は「それでもブン屋か」と叱り、その場で退職願を破り捨てる。

石川は、留置されていた小谷に会いに行き、本心を聞き出そうとするが、小谷は、朝子に俺の事を忘れて離婚してくれと伝えて欲しいと言われる。

朝子は、元の「美蓉荘」の部屋に戻って来ていた。

石川から、小谷の言葉を聞かされた彼女は、今後、どんなに世間から冷たい目で見られようと、ここであの人を待つと答える。

小谷は見栄坊な人間で、結婚していた時勤めていた小さな会社を辞めた後、浜崎と関係を持つようになり、一時は広告関係の本を読み勉強をしていたが、やがて相手の正体に気づいても、私に言い出せなかったのだと自嘲する。

新聞社に戻った石川は、その夜、小林から、昔からあんたを信頼していたのが、朝子の耳の記憶など物証になるはずがない…と嫌みを言われる。

あんたが朝子に近づいた背景には、枕の臭いがする。朝子の枕の臭いが…とまで言われた石川は思わずカッとなり、小林が注いでくれたサイダーのコップをなぎ倒すと、席を立ち窓際に身を避けるが、「はんさん(石川のあだ名)、やるなら今だぜ!」と、言い過ぎたと詫びた小林から発破をかけられると、又奮い立つのだった。

石川は、翌日、田端駅の機関区長平塚に電話を入れ、事件現場から見つかった浜崎のボストンバッグを拾ったのが彼の娘である事を確認する。

社を出ようとした石川は、朝子の姿を見つける。

朝子は、やはり、世間から白い目で見られるのには絶えきれないと泣き出す。

そして、あの人、浜崎を殺したんだわと言い出すが、すぐに思い返したように、違う!違う!あの人は殺せやしないと自分の言葉を否定するのだった。

雨が降り出した事もあり、取りあえず、近くの喫茶店に誘い、道は一つ、真犯人を探す事だと諭した石川だったが、突然店を飛び出して帰る朝子は、あの日も雨が降っていたと事件当夜の事を思い出す。

その言葉を聞いた石川は、又、機関区長の平塚に電話を入れると、娘(鎌田みち子)を出してもらい、拾ったボストンバッグは濡れていたかと質問する。

娘は、ボストンバッグをだっこして帰って来たので、濡れていなかったとはっきり答える。

石川は朝子を連れ、新宿花園町にある飲み屋「三日月」に出向くと、事件当夜、ここに来た明はボストンバッグを持っていたろうと、金を渡して女将に聞こうとするが、その時、当の明が姿を現し、持っていた事をほのめかした女将や石川たちを脅しつける。

夜、田端駅の貯炭場にやって来た石川と朝子は、なぜ、殺人現場にボストンバッグが落ちていたのか考える。

そんな二人の頭上に、クレーンが落ちかかる。

一瞬早く気づき、身を避けた二人だったが、朝子は人影を観たと言い出す。

その頃、村岡の取り調べをしていた畠中部長は、石川と朝子が襲われたとの連絡を受け、現場にやって来るが、人影を観たと証言する朝子の言葉は今ひとつ信用していない様子だったが、花園の女は参考人として呼ぼうと思うと石川に耳打ちして来る。

自分の言葉が信用されていないと知った朝子は気落ちしてアパートに帰って来るが、送って来た石川から、取りあえず、ボストンバッグの事が分かったのは君のおかげだと云われると機嫌を直すのだった。

社の宿直室のベッドに戻って来た石川は、服を脱いでベッドに座ると、あれこれ推理を巡らすが、上手く行かず、そのまま寝ようとした所で、脱いでベッド脇に掛けていた自分のズボンの裾から石炭の粉が顔に付いた事に気づくと、すぐに小平警察の畠中部長に電話をかける。

村岡を釈放したと聞いた石川は、「石炭は運べるんですよ!」と怒鳴っていた。

石川は、その足で中野のビリヤード場に向かい、そこにいた村岡と明に、ボストンバッグには指紋が全くついていなかったが、浜崎が持っていたのなら、浜崎の指紋がついていないとおかしい。あんたらが消したんだと言い放った後、店から帰る振りをして、階段下に身を隠して様子を見る。

すると、村岡が、高飛びをするから、小平に帰って、すぐにマリと荷物をまとめろと明に命ずる声が聞こえて来る。

すぐさま小平の家に帰って来た明だったが、家にいるはずのマリの姿がない。

探しまわっている所に、村岡も帰って来て、焦ったように家中を探し始める。

やがて、どこにもマリがいない事が分かった村岡は、寝室で、持ち出す貴金属をまとめ始めるが、その時、ベッドの上に落ちていたマリのイヤリングの片方を見つける。

村岡は明を掴まえると、お前が帰って来た時にはマリはいたんだろう。お前ら二人の仲を俺が知らなかったと思っているのかと逆上しながら殴り掛かると、背後から明の首を絞め始める。

しばらくして、動かなくなった明の様子がおかしい事に気づいた村岡は、自分が殺してしまった事に気づき狼狽する。

その時、どこからともなく、「マリは殺されたぞ」と声が聞こえて来る。

うろたえる村岡に、さらに声は「マリは殺されたんだ。浜崎を殺した所で死んでいるぞ」と語りかける。

その声は、家に先に到着していた石川が外から語りかけていたものだった。

しかし、怯えきった村岡は、声を信じ、風呂場の浴槽のふたを開ける。

そこには確かに、マリの死体が沈んでいるように見えた。

しかし、それは幻覚だった。

さらに村岡は、誰かに窓から銃撃され、浴槽の中に落ちる。

確かに、浜崎を、明とマリに協力させ、村岡が絞め殺したのはこの浴室だった。

事件当夜、マリが愉快そうに、田端の貯炭場から持って来た石炭の粉を、締めかけた浜崎の顔に振りかけていた。

浜崎の遺体の肺からも、石炭が検出されたのはこう言う訳だったのだ。

翌朝、村岡の自宅前から、張っていた警察に捕まったのは川井だった。

マリも、夕べのうちに警察が確保していた。

川井は、言葉巧みに、店にやって来た小谷に浜崎に会いに行かせるよう仕向けた後、村岡に電話を入れ、田端にやって来た村岡は、急所を蹴られて人事不省の状態だった浜崎の身体を、小平の自宅の浴室に運んで来て、ここで殺害したのだった。

川井の方は、その間、「アウル」でアリバイ工作をしていた。

一方、深夜になって気がついた小谷は、貯炭場を通って帰宅したので、その時、石炭がズボンの折り返しに入り込んだのである。

明は、花園の飲み屋「三日月」から、貯炭場にボストンバッグを捨てに行ったが、その時、濡らす事も忘れていた上に、ご丁寧に指紋までぬぐい去ってくれると云うへまをする。

三年前の質屋殺しの現場には、朝子が電話で声を聞いた浜崎と村岡だけではなく、もう一人、川井もいたのだ。

ある日、新聞社にいた石川は朝子から電話を受ける。

言われた通り、窓からビルの下を見下ろすと、そこに釈放された小谷が立っており、そこに、近くの公衆電話から走って来た朝子が合流する姿が見えた。

石川は、又仕事だよ!と怒鳴ると、朝子が忙しいのねと答える。

石川は、そのまま下に降り、社の車に乗り込むと、又取材に出かけるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

松本清張原作の映画化作品で、鈴木清順監督の演出になるが、この当時の作風は至ってオーソドックスで、後年観られるような難解な所などみじんもない。

宍戸錠演ずる浜崎が、三年前に声を聞いた犯人だと気づいた朝子が、アパートのどの部屋に入っても、中に浜崎が笑って待っていると云う悪夢を観るシーンや、クライマックスで、銃弾で割れた鏡に,殺人の回想シーンが映る演出部分などに、若干、清順らしさがうかがえると云った所か。

先日他界された南田洋子さんが窮地に陥るヒロイン役を演じているが、主役はどちらかと云うと、彼女に同情し、事件を調査する二谷英明の方である。

悪役の村岡を演じているのが、「七人の刑事」で有名だった芦田伸介(口ひげはない)だったり、刑事役が、この頃は悪役ばかりを演じていた高品格だったりするのが面白い。

又、明らかに残虐性を内に秘めたマリの不気味さも印象に残る。

川井を演じている役者が、最初は誰なのか良く分からず、後半になって、ひょっとしたら金子信雄か?と気づいたのは、まだこの当時は髪の毛がふさふさだからである。

原作を読んだのは遠い昔なので、ストーリーは完全に忘れており、全くオリジナル作品を観るような感覚だったが、展開も面白く、最後までぐいぐいと惹き込まれてしまった。

サスペンスものとしても推理ものとしても、かなり出来が良い方ではないだろうか。