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BALLAD 名もなき恋のうた

2009年、「BALLAD 名もなき恋のうた」製作委員会、「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦」原案、山崎貴脚本+監督作品。

※この作品は新作ですが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、ご注意ください。コメントはページ下です。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

湖に佇む一人の姫君…

「又だ…」朝、ベッドで目覚めた小学生の川上真一(武井証)は、そうつぶやいた。

ここ数日、同じような夢を何度も見ていたからだ。

学校へ行く道すがら、仲良しの女の子にその事を話していると、いじめっ子が三人女の子を取り囲む。

彼女が自分たちの事を告げ口したと絡んで来たのだ。

それを見ていた真一には、さっさと行けと云われたので、助けを訴えているような女の子から目をそらすと、真一は自転車を押し、先に帰る。

いつも来慣れている川上にある大きなクヌギの下に来た真一は、自分の臆病さを恥じ、僕に勇気を下さいと巨木に念じる。

しかし、その側を、恨めしそうな目で真一を睨みながら女の子が通り過ぎて行く。

真一の母親川上美佐子(夏川結衣)は、夫である暁(筒井道隆)が、勤めていたカメラ会社を休んで、ともだちの会社を手伝うと聞かされ、家で文句を言っていた。

その夜も、真一は、又同じ夢を見ていた。

翌日、川上の大クヌギの所に来た真一は、父親の暁が、クヌギの写真を撮っているのを目撃して近づくと、写真の仕事、嫌になったの?と聞いてみる。

暁は、曖昧な返事をしてその場を立ち去ったので、一人になった真一は、クヌギの実の下に、何かが埋まっているのに気づいて掘り起こす。

土の中から出て来た古そうな箱のふたを開けてみると、中に入っていたのは、何か巻物のようなものだった。

その瞬間、煙のようなものが立ちこめ、真一はめまいを起こし、自転車を握りしめて倒れてしまう。

気がつくと、周囲の情景が一変していた。

一番驚いたのは、大くぬぎがなくなっている事。

近くの草原から太鼓を鳴らす音が聞こえて来たので、そちらの方に言ってみると、時代劇のような格好をした二人の男が屈んでいたので、近づいて声をかけてみる。

小兵たち二人は、今まさに、敵軍の井尻又兵衛(草彅剛)を狙い、鉄砲を撃とうとしていた時だったので、背後からいきなり声をかけられたので、驚いた瞬間引き金を引いてしまう。

弾は、井尻又兵衛が着ていた鎧の胸の部分をわずかにかすって逸れた。

又兵衛は、弾が飛んで来た方を眺め、そこにぽつんと立っていた不思議な格好をした子供を見つける。

それが、兵士たちが逃げ去った後、呆然と立ち尽くしていた真一だった。

真一は、1974年の春日の国にタイムスリップしていたのだった。

又兵衛に連れられ、城に連れて行かれた真一は、城主康綱(中村敦夫)に、自分が時の果てから来たと説明するしかなかった。

岩槻の間者とも思えんと家臣が云うと、あるいは大倉井…と康綱はつぶやく。

証明してみよといきなり言われた真一は、仕方ないので、携帯を取り出すと、それで康綱の姿を写メを撮ってみせる。

それを見せられた家臣たちは、天狗の子供?と驚愕する。

そこに、騒ぎを聞きつけたのか、廉姫(新垣結衣)がやって来るが、その姿を見た真一は、夢の人だと、つい口走ってしまう。

それを聞いた廉姫が詳しい事情を知りたがるので、真一は、良く似た人が湖でお祈りをしていたと答える。

すると、我が願い叶えるためそちは来たのか?面白い、次郎丸、面倒を見ろと、又兵衛に命ずる。

又兵衛はいきなり、姫から自分の幼名を呼ばただけでなく、面倒な事を言いつけられたので困惑する。

しかし、姫の言いつけとあっては断れるはずもなく、城から帰る道すがら、同行していた文四郎(吉武怜朗)に、真一の面倒を見ろと命じてみるが、相手が承知するはずもなかった。

真一は、又兵衛の住いに連れて来られ、同居している文四郎の両親、仁右衛門(吹越満)と、その妻のお里(斉藤由貴)に紹介される。

又兵衛は、自分の父親が御館様に仕えていた頃から、自分が廉姫のお守りをしていたのだと真一に打ち明ける。

それを聞いていた真一は、モテモテなんですねと、つい現代語で冷やかすが、又兵衛から意味を聞かれたので、好かれていると云う事だと答える。

その頃、現在の川上家では、両親が真一を探していた。

大クヌギの木の下で、巻物を見つけた暁が広げて読んでみると、「今、天正二年に来ています。真一」と筆で書かれているではないか。

すぐに、いたずらだと思い口走った暁だったが、美佐子は、何で、こんな事をしなければいけないの?と疑問をぶつける。

又兵衛は、自分が母親は病で、父親と兄は戦で亡くし、今は一人暮らしである事を真一に教えていた。

真一が、お嫁さんはいないのと聞くと、俺は武士だ、妻がいると戦が出来ぬと又兵衛は、ムキになって反論する。

それを側で聞いていた文四郎が、女には臆病だと又兵衛の事をからかったので、母親のお里がひっぱたく。

真一は、何時の時代も、女が強いんだなと、妙な感心をする。

又兵衛は、心配しているはずのお前の両親に手紙を書いたらどうかと真一に勧める。

言われた通り、手紙を筆でしたためているうちに、これは、あの時、大クヌギの実の下で見つけた文と同じものだと云う事に、真一は気づく。

そして、大クヌギの場所を教えるが、又兵衛たちは全く知らない様子。

近くに地蔵が奉ってあった事を言うと、隠れが淵の石仏の事かも知れん。廻りを森に囲まれた湖があると又兵衛は教えてくれる。

夕日を見つめる真一を案じた又兵衛は、帰る方法は、この又兵衛が見つけてやる。ここへ来れたのだから、帰る方法も必ずあるはずと慰めるのだった。

真一の腹が鳴る。

真一はいつの間にか、小学校の教室に戻っていた。

元の時代に戻れたと喜んだ真一は、廊下で女の子に声をかけられたので、タイムスリップした夢を見たんだと打ち明け、何でこんな夢を見たんだろうと不思議がると、女の子は、真一君が、いつも逃げてばかりいるからよと答える。

真一が目覚めると、そこはやはり、又兵衛の家だった。

教室に戻ったのが夢だったのだ。

そこに、大倉井様がやって来たと云う知らせが来る。

又兵衛は、文四郎と真一を連れて、早速城へ向かう事にする。

一方、現代の世界では、美佐子が車にあれこれ乗せ、出かける支度をしていた。

何をしているのかと暁に聞かれた美佐子は、パソコンで調べたネット情報を見せる。

そこには、川上真一とその家族が、春日の戦いで活躍したと、この街の歴史に書かれてあった。

大倉井高虎(大沢たかお)の訪問を出迎えた又兵衛だったが、高虎は,奇妙な衣装を着た真一に目をつけ何者かと尋ねる。

つい、大道芸人だと又兵衛はごまかそうとするが、芸をやってみろと高虎から命じられてしまう。

困った又兵衛を見かねた文四郎が、自転車を指し示し、この二輪の車を見事操ってみせますと申し出る。

真一は、緊張したあまり、最初はちょっと転けてしまうが、すぐに気を取り直すと、いつものように自転車を乗り回してみせる。

高虎は興味を持ったようで、自分の城にも来いと誘った後、春日の城へ向かう。

真一は、文四郎の機転に感謝すると、これに乗ってみないか?と文四郎に、自転車に乗るよう勧める。

春日の城に到着した高虎の目的は、廉姫を嫁にもらいたいと云う申し込みだった。

それを聞かされた康綱は大いに戸惑う。

同じく、同席していた廉姫が、ちらり又兵衛の方を見たのを、高虎は見逃さなかった。

高虎から名を聞かれた又兵衛は、名乗った後、大大名の大倉井様なら、これ以上ないご縁談かと…と、御追従を述べるしかなかった。

高虎が廉姫に目を付けたのは、かつて、森に鹿狩りに出向いたときの事だった。

鹿を射ようした高虎の前に、廉姫が立ちはだかったのだ。

高虎が引いている弓にも臆する事のない、廉姫の気の強さをいたく気に入ったのだった。

その高虎からの結婚申し込みを聞いた康綱から、本人の気持ちを聞かれた廉姫は、それはお父上が決める事、私はそれに従いますと答えるだけだった。

高虎が帰った後、家臣たちは、大倉井に御輿入れともなれば、今後、我が藩は安泰だと政治的な判断をし合う。

しかし、廉姫は一人、馬に乗って城を出かける。

その頃、真一は文四郎と自転車に乗って遊んでいたが、やがて、夢で見覚えのある大きな湖の場所を見つける。

真一は、じぶんがここに呼ばれたのかな?と考えるようになる。

その湖の対岸に、廉姫が馬でやって来たので、真一と文四郎は草陰に身を隠す事にする。

馬から下りて湖を見つめる廉姫は泣いているようだった。

そこに突然、野武士のような一群が出現、廉姫を取り囲む。

その時、どこからともなくけたたましい音が鳴り響いたので、野武士たちは驚くが、それは真一が持っていた護身用警報ブザーを鳴らしたものだった。

しかし、野武士に真一たちも見つかり、窮地に陥りかけた時、又兵衛が馬で駆けつけて来る。

又兵衛は、浅瀬を渡って来ると、野武士たちを蹴散らせ始める。

相手が「春日の鬼の井尻」だと知った野武士たちは、「あんたは良いよな。守る国があって…」と捨て台詞を残して立ち去ろうとする。

そんな野武士たちに近づいた又兵衛は、持っていた小銭を全部渡すと、その金でどこかに仕官してやり直せと諭してやる。

野武士たちが立ち去った後、野武士に対し、何も出来なかった自分を嘆く文四郎を、又兵衛は、こう言う事は場数を踏むしかないと慰める。

そして、又兵衛は廉姫に自重を促すが、廉姫は、良くここが分かったなとうれしそう。

姫様は、昔からここがお好きでしたし、私も良く昔、お供していましたから…と、又兵衛は控えめに答えていた。

廉姫は、いつもここへ来て、お前が戦で死なぬように祈っていると教え、お前はいつも、私を守って、良く怪我をしているなと、言いながら、今しがたの争いで怪我した又兵衛の指を手当てしてやる。

又兵衛は、すっかり恐縮してしまい、今後は高虎様が守って下さいますと答えるが、お前はそれで良いのか?高虎様との婚礼に賛成なのか?と廉姫は聞いて来る。

又兵衛は、春日の国の安泰こそ、私の願いでございますと答えるのみ。

その答えを聞いた廉姫は、分かった。城に帰ると言い出す。

側で二人の会話を聞いていた真一は、そっと又兵衛に、本当に良いの?と聞いてしまう。

又兵衛は、そう云う事ではないんだと答えただけで、それ以上は何も言い出そうとはしなかった。

現在、暁と美佐子は、ランドクルーザーに乗って、川上の大クヌギの場所まで来てみるが、それから先どうすれば良いのか見当もつかない。

真一と文四郎は、石仏のある場所にやって来て、ここに大きな木があったんだと教える。

文四郎は、その木の大きさを尋ね、その真ん中辺りの地面に、真一が持っていたクヌギの実を埋めてみろと言う。

真一は、言われる通り、クヌギの実と、ランドセルの中に入れて来た手紙を、一緒に埋める事にする。

文四郎は、手紙が父母君に届くと良いなとつぶやくが、その時、目の前に、見慣れぬ物体が出現する。

それこそ、真一の両親が乗ったランドクルーザーだった。

彼らも、予測通り、タイムスリップして来たのだ。

唖然とする文四郎に、息子が世話になった礼を言った両親は、又急いで来る間に乗り込むが、一向に元の時代に戻る気配はなかった。

その頃、馬で、廉姫と城への帰途についていた又兵衛は、背後から近づいて来る奇妙な物体に気づく。

文四郎と真一も乗っているそのランドクルーザーに、廉姫は興味を示し、乗り込む。

又兵衛は、姫の馬も引き連れ、自分の馬で出発するが、そこに、先ほど湖の所で出会った野武士の二人が出て来て、旦那に助けてもらった自分たちを家来にしてくれと頼む。

その話を車の中から聞いていた廉姫も、父上には自分から話をしておくと許可したので、二人の野武士も加え、全員、城に帰って来る。

真一の父である暁に対面した康綱は、春日と云う国は将来残っているのかと聞くが、暁は聞いた事がないと言う。

大倉井の名も、歴史に残る事はないと言う話を聞いた康綱は、戦で国を守っている今の自分たちの行為が空しい事だと悟り、廉姫を呼ぶと、高虎の所にやるのは止めた。あいつに尻尾を振った所で、暁の時代に、この国はないのだと伝える。

大倉井の口車に乗り、無血開城をしたものの、その後、無理難題を押し付けられ、皆殺しにされた越谷の国の前例を知っていたからだった。

しかし、小国の意地を見せてやると云う父親の言葉を聞いた廉姫は、大丈夫ですか?戦になりませぬか?と案ずる。

康綱は、奥を亡くした自分には、お前しかいないのだと答える。

又兵衛の家に世話になる事になった美佐子は、お里に手伝ってもらって、未来から持って来たカレーライスと缶ビールを皆に振る舞う。

又兵衛や文四郎たちは、はじめて味わう食べ物に驚愕するが、又兵衛の年が25才と知った真一たちはもっと驚く。

実年齢より、はるかに老けて見えたからだ。

その又兵衛が上機嫌なのはビールに酔ったせいばかりではなかった。

それを見抜いた真一は、酔った又兵衛を写メに撮りながら、廉姫様がお嫁に行かなくなったからでしょうとからかう。

縁談を断る康綱からの文を受け取った高虎は、メンツをつぶされた事に激高し、春日の国を攻めるように家臣たちに命ずる。

春日の城に、矢を背中に受けた伝令が、高虎が攻めて来た事を告げる。

それを聞いた又兵衛は、大倉井には岩槻も連動していると表情を引き締める。

真一は、戦が始まると聞き緊張し、婦女子たちは城の本丸に避難して来る。

そんな中、暁と美佐子のなれそめを知った廉姫は、未来の自由な恋愛事情をうらやましがる。

大倉井軍は5000、それに対し、春日の軍は、女子供も加え500人しかいなかった。

又兵衛は、城砦から、暁が持っていたカメラの望遠レンズで大倉井軍の様子を探りながら戦う方法を考えていた。

戦上手は、陥る罠があると見抜いていたからだった。

大倉井軍は、夜、左翼方向に大量にたいまつの火を発見、万一の夜襲に備え、全員寝ずの番をする。

たいまつを焚いていたのは、あの家来になりたての野武士二人だった。

しかし、想像に反し夜襲はなく、翌朝は寝不足で、大倉井軍全員、疲れきっていた。

一方、又兵衛は、味方の兵たちを鼓舞していた。

そんな戦の様子を本丸で見守っていた真一は、何だかお祭りみたいだと感じる。

大倉井軍は、春日の城に進軍しながら、鉄砲隊が発砲を始める。

これに対し、春日軍は、石つぶてを投擲し対抗する。

大倉井軍は、梯子を春日の城壁に立てかけ、よじ上って侵入しようとするが、又兵衛が必死胃応戦する。

そうした又兵衛の事を心配した真一は、それを止めようとした暁と共に城門の所まで来て様子を見る。

大倉井軍は、移動櫓を城に接近させて、そこから爆弾を投擲して来る。

又兵衛は、矢で、その移動櫓の兵を射抜き、その兵が持っていた爆弾は手から転げ落ち、櫓自体が爆発粉砕する。

本丸に戻って来た真一と暁は、形勢不利ながらも、取りあえず、又兵衛は無事だったと廉姫に報告する。

廉姫は、自ら炊き出しをする女たちの元に混じり、握り飯を作り始めると、兵たちは疲れているので、塩を利かせるように指示を出す。

大倉井軍の陣地では、高虎が、この戦をそろそろ和解に持ち込もうと画策していた。

あまり春日軍を追いつめてしまうと、廉姫が自害してしまう恐れがあったからだ。

一方、その日の戦を終了した又兵衛は、仲間たちと協議の末、明朝、自分が裏の谷に降り、敵陣の背後から、一気に敵の本陣へ打って出る事になったと廉姫に報告する。

敵の数が多すぎるので、捕まってしまうのではないかと心配する真一に、又兵衛は、戦と云うものは、敵の大将を倒せば勝ちなのだと教え、暁たちは、その騒ぎに乗じて、あの乗り物で逃げろと言う。

持ち場に戻ろうとする又兵衛の様子を見守っていた美佐子は、良いの?もう会えないかもしれないのよと廉姫に問いかける。

真一の方も、立ち去ろうとする又兵衛に、明日死んじゃうかもしれないのに、本当にこれで良いの?と追いすがるが、又兵衛は、俺は武士として一番幸せなのだと答える。

しかし、真一は、最後の最後まで逃げてて良いの?又兵衛さんが死んだら、お姫様はどうしたら良いの?と食い下がる。

又兵衛は、自分を見つめている廉姫に対し、約束して下さい。自由に御生きください。姫らしく、凛と!それが、この又兵衛の最後の願いでございますと伝える。

廉姫は、ならば私も最後に言おう。必ず命を繋げ。お前が生きて帰って来てくれたら、自由に生きよう、お前と…と言いながら、又兵衛を抱きしめる。

又兵衛は、「姫様…」と一言答えただけ。

そうした中、暁は、みんなが必死に戦っている中、自分は何をすべきかと考え抜いていた。

何かしてあげたかったのだ。

そうした暁の必死な様子を見ていた美佐子は、昔のあなたみたいと見直す。

やがて、暁は、思いついた事を実行に移す。

明日朝出発する又兵衛の写真を、自分が撮ってやる事だった。

ただちに、怖がる又兵衛をモデルに、フラッシュを焚き、ポラロイド写真を撮る。

その場で出来上がった写真を見た又兵衛は、「俺じゃ」と驚愕する。

その様子を興味深気に眺めていた他の兵隊たちも、自分も撮ってくれと、暁に頼んで来る。

そうした仲間たちを、暁は必死に撮り続ける。

そうこうしているうちにいよいよ早暁が訪れ、又兵衛は出立する時間となる。

真一は、廉姫が写った自分の携帯を又兵衛に渡す。

又兵衛は、昨夜、暁に撮ってもらった自分のポラロイド写真を真一に渡し、万一の時は、廉姫に渡してくれと頼む。

その後、又兵衛は、一緒に出立する兵たちに、ここは我らが生まれた土地だ。何も恐れる事はないと鼓舞し、城門を出る。

又兵衛は、そっと携帯に写った廉姫の姿を、もう一度目に焼き付けるのだった。

真一たち家族は、ランドクルーザーに乗り込み、逃げ出す機会を待って待機する事になる。

城を出る又兵衛たち一行に、又、野武士の二人が草影から躍り出て来て、自分たちも連れて行ってくれと頼む。

一方、大倉井の陣営では、全軍に進撃を命じた高虎が、ここで又兵衛を待つと仁王立ちになっていた。

ランドクルーザーの運転席にいた暁は、俺はお前たち家族を守らなければいけないと緊張していたが、真一は、逃げるのは嫌だと伝える。

本丸にいた廉姫は、外の様子が見たいと急に言い出すと、乳母の吉乃(香川京子)が止めるのも構わず、城前の櫓に一人で登って行き、そこにいた康綱と一緒に、敵陣の方を見やる。

康綱は、廉姫のやりたいようにさせよと、追って来た吉乃に言い聞かす。

谷を伝い、敵陣の背後に近づいた又兵衛たちだったが、大倉井軍の鉄砲隊に進行を阻まれる。

又兵衛は、槍襖を作るよう部下たちに命じるが、大勢の敵兵たちに囲まれてしまう。

その時、クラクションの音が響いたかと思うと、丘を飛び越えて、ランドクルーザーが敵陣の中に突き進んで来る。

暁が援軍に来てくれた事を知った又兵衛は、ランドクルーザーの背後に付き、そのまま本陣の中にいる高虎の側にまで近づく事に成功する。

受けて立った高虎は常陸の国大倉井高虎と名乗りを上げると、春日侍大将井尻又兵衛と答え、その場で双方一騎打ちを始める。

それをランドクルーザーの中から見守る真一たち家族。

高虎は、お前が悪いのだ!お前のような田舎侍がなぜ?俺の力は、廉姫にとって無力だと云うのか?と逆上しながら戦うが、最後には、又兵衛に槍を突きつけられてしまう。

覚悟を決めた高虎は、人と云うのは、つまらぬ所で躓くものだなとどっかとあぐらをかくと、やれ!と自らの兜を脱ぎ捨てる。

何をしているのと、車から降りて聞く真一に、春日の兵は、首を取るのだと教える。

それを聞いた真一は、刀を振りかざした又兵衛に駆け寄ると、許してやろうよ、この人を殺しても何も始まらないよと説得する。

しかし、又兵衛は刀を振り下ろしてしまう。

又兵衛が斬ったのは、高虎の元取りだけだった。

ざんばら髪になった高虎を敵陣の兵隊たちに見せつけ、お返し申すと又兵衛は口上を述べる。

大将の姿を見せられた大倉井軍は、完全に負けを認め、戦意を喪失する。

高虎は、この恩は忘れぬ。春日の窮地になった時には、必ず駈け参ずると又兵衛に約束する。

櫓から、この様子を見ていた康綱は、又兵衛がやりおったなと感心する。

又兵衛と真一は、ランドクルーザーの前をゆっくり歩いて城に戻って来ていた。

この戦に勝った褒美に何でも欲しいものを与えると云う又兵衛に、真一は脇差しをねだる。

しかし、これは父の形見じゃと又兵衛は断る。

櫓の上で手を振って又兵衛の帰りを待ち受けていた廉姫は、我慢が出来なくなり、櫓を駆け下りると、走って又兵衛の元に駆け寄ろうとする。

もう吉乃も姫を止めたりしなかった。

その時、一発の銃声が轟く。

又兵衛は、一瞬、鎧の胸の部分を触ると、ここか…とつぶやき、その場に倒れる。

驚いて抱きつく真一に、お前からもらった時間も尽きたらしい…とつぶやいた又兵衛は、腰に下げていた脇差しを抜いて真一に手渡す。

瀕死の又兵衛に駆け寄って来た廉姫は、約束を忘れたか!お前と共に自由に生きようと約束したではないか!渡しを一人にするな!と声をかけるが、又兵衛は、私は果報者です…と答えた後、静かに息を引き取る。

誰が撃った!と従者たちは狼狽して周囲を見回すが、誰も答えるものはいなかった。

廉姫は、自分の願いを叶える為に、かえって真一につらい思いをさせてしまったと謝る。

又兵衛は、あの時、撃たれて死ぬ運命だったのだが、この国と私を守る為に真一が時間をくれたのだと云う。

だとすれば、お主の役目は終わったのだから、元の時代に戻るはずだとも。

真一は、又兵衛から受け取っていたポラドイド写真を廉姫に手渡した後、車に乗り込む。

真一が、森の中に埋めたクヌギの実は芽を吹き出していた。

いつの間にか、真一たちの家族の車は、現在の大クヌギの木の下に戻っていた。

近くに見える山に気づいた真一は、あの山、春日城の跡だったんだと気づく。

美佐子はあそこに行ってみようと言い出す。

山の上に到着した家族は、底に立っていた古びた石碑に気付き、近づくと、底に書かれていた文字を読み「どう致しまして…」と答える。

石碑にはこう刻まれていたのだ。「ありがとう」と。

車に積んだ自転車を降ろす真一に、どこに行くのと聞く美佐子。

真一は「学校!」と答える。

走り去って行く真一の後ろ姿を見つめる暁も又、俺も逃げてばかりいられないなと言い、美佐子は、あの子、変わった。良い顔になった。男って、急に成長して大人になるのね…とつぶやくのだった。

真一は、長い坂道を自転車で駆け下りて行く。

 

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原恵一監督のアニメ映画「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦」を原案とした実写化作品

しんちゃん特有の下品さやおふざけ要素を取り除いた以外は、ほぼ原案に近い実写版になっている。

で、結果はいかにと云うと、山崎貴監督のこれまでの作品と同じように、特に際立ったインパクトもなく「毒にも薬もならない」子供向け娯楽作品になっている。

「毒にも薬もならない」などと書くと、批判めいて聞こえるかもしれないが、そうではない。

普通くらいに楽しめると云う事だ。

ただ、それ以上の感慨と云うほどのものは起きない。

原案となった「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦」の方も、通常の「クレしん」とは味わいが違う異色作と云う以上のものではなかった事を考えると、こう言う結果になるのも致し方ない所だと思う。

原作は「泣ける名作」などと、妙に持ち上げすぎるのも考えものだと思う。

確かに原作は悪くない出来だったが、大の大人が泣くような内容でもなかったと思うからだ。

個人的には、この実写版も原作のアニメの方も、出来は五十歩百歩のような気がする。

大倉井軍の兵士たちに、明らかに女性が混ざっている点や、精度の良い鏡などがなかった戦国時代に生きていた以上、生まれてこのかた、自分の顔など知らないはずの又兵衛が、自分を映したポラロイド写真を見せられ、「これは俺だ!」などと驚くはずがないと云った、奇妙な部分も多いが、あくまでも「ジュブナイル(子供向け)」と考えれば、取り立てて、難点と云う事もないのだろう。

CG処理は相変わらず上手いし、草なぎ君も良く演じていると思う。

こういう作品から、徐々に本格的な時代劇などに興味を持ってもらえば良い、あくまでも「初心者向け作品」なのかも知れない。