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1963年、東京映画、橋本忍脚本、堀川弘通監督作品。

※この作品はミステリであり、最後にどんでん返しがありますが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、ご注意ください。コメントはページ下です。

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青年弁護士浜野一郎(仲代達矢)は、先輩弁護士宗方治正(千田是也)の妻で、自分の愛人であった靖江(淡島千景)を前に、赤い腰紐を握りしめる。

ベッドの上でそれを見た靖江は、「殺す気?あんたは所詮、私の男妾じゃない!」とののしる。

その言葉に切れた浜野は、迷わず腰紐を靖江の首に巻き付け締め付ける。

ベッドの上に倒れた靖江を残し、浜野は宗像邸を飛び出す。

しばらく歩いてタクシーを呼び止めようとした浜野は、バイクに乗って後ろから近づいて来たラジオ屋の店員(東野英心)から「こんばんわ!今夜はやけに冷えますね」といきなり声をかけられ硬直する。

自宅アパートに帰り着いた浜野は、たった今逃げて来た宗像邸の女中キヨ(菅井きん)からの、「浜野さん!大変なんです!奥さんが…」と慌てふためく電話を受ける。

通報を受けた警察は、直ちに宗像邸に到着、早速、刑事の平尾(西村晃)はキヨから事情を聞き始める。

主人の宗方治正は、現在、九州に出張中。

キヨ自身は、8時半頃から10時過ぎまで料理学校に出かけていたと言う。

誰か来なかったと聞かれたキヨは、浜野さんが来たと打ち明ける。

その浜野も、再び宗像邸に戻って来ていた。

平尾から事情を聞かれた浜野は、宗像と一緒に城南弁護士事務所を開くまでの3年ほどの間、ここで同居していたのだと話す。

8時20分頃、ここに来たそうですね?と聞かれた浜野は、奥さんが風邪で寝込んでいると聞いたのでお見舞いに…と言いよどむ。

その時、「緊急逮捕です!」と別の刑事が部屋に飛び込んで来る。

それを聞いた平尾も驚き、刑事たちは一斉に部屋を飛び出して行く。

そんな中、部屋に一人取り残された浜野は、呆然と立ち尽くすのだった。

タイトル

東京検察庁の捜査検事落合克巳(小林桂樹)は、翌朝、トイレの中で、宗像夫人殺害事件の報道を熱心に読んでいた。

熱心な死刑論者として有名な宗像弁護士は、落合も良く知る人物だったからだ。

外でおしっこを我慢していた息子の強(榊原秀春)にせかされ、ようやく新聞片手に食卓へ戻って来た落合は、妻の知子(乙羽信子)から、いつ痔の手術をするのかと聞かれる。

出勤する為団地の外に出た落合は、土曜日だと言うので、業者と一緒にゴルフに出かける建設課長岩崎(山茶花究)と朝の挨拶を交わす。

検察庁のある霞ヶ関でバスを降りた落合は、自室に入ると、秘書の高倉美代(小林哲子)に冗談を言いながら机に座り、助手の矢野(浜村純)に参考人の吉沢と久保田を呼ぶように命ずる。

その時電話がかかり、吉岡荘蔵刑事部長(小沢栄太郎)が呼んでいると矢野から伝えられたので、さっそく部屋を出る。

吉岡刑事部長は、痔の心配をしてくれながら、脇田正吉の調書を落合に手渡す。

宗像夫人殺害の重要参考人として捕まった男だった。

部屋に戻って来た落合に、その事件を捜査した一課六班の平尾とは、所轄時代の同僚だったのだと、助手の矢野が声をかける。

昭和38年1月18日に起こった、目黒区中目黒の宗像邸金品強奪事件の調書を、さっそく読み始める落合。

捕まった脇田正吉(井川比佐志)は、宗像邸近辺の空き地を逃げていた所を警官二名に追跡され、威嚇射撃を受けた後確保されたのだった。

脇田は、宗像邸から盗んだイヤリングやネックレスを持っていた。

早速落合は、部屋に脇田を呼び入れ、話を聞き始める。

昭和9年11月22日、岩手県生まれで住所不定の脇田は、窃盗強盗の常習犯で、前科四犯、20才の時から6年9ヶ月を刑務所の中で過ごしていた男だった。

脇田は、窃盗は確かに自分がやったが、殺しは違うと言う。

靖江の葬式がしめやかに行われ、日航機の一番機で九州から戻って来た宗像弁護士が喪主を務めた。

そこに、娘の由紀(大空真弓)と妻を伴って、村松(三島雅夫)が弔問に訪れて、先妻に次ぎ、二度目の妻までもを失って呆然としている宗像を慰める。

妻を殺した犯人を殺してやりたい!と漏らした宗像の言葉を聞いて凍り付いたのは、出席者の一人として部屋の隅に座っていた浜野だった。

脇田への尋問は続いていた。

20円しかない所持金を持って宿を出た脇田は、中目黒に到着すると、30分ばかり辺りの屋敷を物色していたと言う。

やがて、人気の感じられない宗像邸に目をつけ、鍵がかかっていなかったドアを開け中に入り込むと、寝室で靖江がすでに死んでいたと脇田は説明する。

その頃、焼き場では、緊張に耐えられなくなった浜野が雨が降りしきる外に飛び出していた。

そこに、傘をさした村松由紀が心配して近づいて来る。

由紀と浜野は恋人関係だった。

脇田への尋問は翌日以降も続き、5日目になっていた

2日目までは、宗像邸の寝室に入った時、靖江は既に死んでいたと供述していた脇田だったが、3日目からは、急に生きていたと供述内容を変えたからだった。

聞いていた落合は、靖江が生きていたにしろ、死んでいたにしろ、その後の脇田の行動は筋が通らないと突っぱねていた。

やがて落合は、脇田の弁護士が決まったと教える。

国選だろう?と聞いて来た脇田に、落合は意外な名前を告げる。

殺された靖江の夫である宗像弁護士本人が、脇田の弁護を買って出たのだと言う。

その後、再び尋問を続けようとする落合に、脇田は昨日、おふくろから手紙が来て、早く自供しろと書いてあった。おふくろまで、俺が犯人だと決めつけていると愚痴る。

落合がタバコを勧めると、一息吸ってむせた脇田は、叩きに殺しが加わって死刑になろうが、叩きだけの罪で10年食らおうが、今の俺にとっては同じ事、こんな身体じゃ、後五年も持たない…とつぶやき、貧しい実家の裏の林の中には亡くなった父親と兄貴の墓があるので、早く俺もその中に入って、ゆっくり手足を伸ばして休みたい…と続ける。

きれいさっぱり本当のことを言うと言い出した脇田は、殺しも俺がやったと自白する。

その脇田自供のニュースがカーラジオから流れたのを、車の中で聞いていた浜野と由紀。

無事、自供が取れた落合は、矢野を連れて馴染みの飲み屋で久々にご機嫌になっていた。

その頃、落合のアパートを訪ねて来たのが浜野。

しかし、その夜、酔って帰りが遅くなった落合は、翌日、職員食堂で浜野と落ち合う。

浜野が、脇田の証言には信憑性があるかと尋ねてきたので、苦労の末に得た証言だっただけに、どう転んでも脇田は死刑ですよと落合は答える。

その後、浜野と宗像は、脇田に面会に出かける。

宗像は、どうして俺なんかを弁護する気になったのかと聞く脇田に、今でも正気な所、君が憎いが、40年間、死刑廃止を言い続けて来た自分が、今、君を許さないと、40年間世間に嘘をついて来た事になると伝える。

それを聞いた脇田は、結局、俺の事より、自分の世間体の為じゃないかと呆れる。

そんな脇田に、強盗の方はともかく、殺人の方は状況証拠とあんたの自供しかないが、あんたがやったのかと浜野は問いかける。

すると、脇田は、これじゃあ検事と一緒じゃないか!お前がやったんだろう!と検事の口調を真似し、その言葉に、浜野は呆然となる。

そんな二人をあざけるように、脇田は「やりました!俺がやりました!」と、何度も繰り返すのだった。

落合は、調書を、公判検事の高原(永井智雄)に手渡す。

高原は、捜査検事として10年やって来たと言う落合の仕事っぷりを誉める。

やがて、公判が始まる。

弁護人質問の際、浜野は、前科者にも人権があると、建前的な意見を主張するだけだった。

その夜、浜野は由紀と抱き合っていた。

しかし、その異常な興奮振りに戸惑った由紀は、あなたも、自分の妻の殺害者を弁護しようとする宗像さんもおかしいと言い出し、別に犯人がいるのでもなければ、脇田が助かる訳はないと言い放つのだった。

そんなある日、土建屋の宮本(東野英治郎)に無理に誘われ、嫌々飲み歩いていた浜野は、町中で、同じように酔った落合と出会う。

落合の連れだった岩崎に、旧知の宮本が気づき、路上で声をかけたからだった。

帰りたがっていた浜野だったが、宮本にまたもや無理強いされ、4人で近くのクラブに入り込む事になる。

4人は互いに名乗り合い、宮本と岩崎は、浜野と落合が、共に、今話題の宗像夫人殺害事件に関わっていると言う事を知り驚く。

やけになってブランデーを飲み始めた浜野が、目の前に座ってる落合に対し、脇田に物的証拠はあるのかと絡み始める。

落合は、そう言う話は高原とやってくれ。それとも君は、脇田以外の犯人でも知っていると言うのか?と気色ばむ。

そうした二人のやり取りを横で聞いていた宮本は、気まずくなった雰囲気を変えようと必死になるのだった。

帰宅した落合は、浜野から売られた喧嘩を引きずっており、痔の心配をする妻の知子に、あの若造め…と愚痴ってみせる。

しかし、翌日、検察庁に出勤した落合は、高原を屋上に呼び出すと、脇田の殺しに関しては、もう一度客観的に当ってくれと頼み込み、高原を戸惑わせる。

落合は、警視庁から平尾刑事も呼び出し、靖江殺しに関して、もう一度、事件当夜の事を詳しく聞き始める。

今さら、終わったと思っていた事件の事を蒸し返された平尾は、今流行の推理小説的に考えれば、容疑者になりうる人物は二人いた事は確かで、それは、浜野と女中だが、それはあくまでも、脇田がいなかった場合の話だと笑う。

しかし、その話を聞いた落合は、改めて、浜野も重要な容疑人物だった事に気づく。

その帰り、一人で飲み屋に立ち寄って考え事にふけっていた落合に、近づいて来た馴染みの女給ちよみ(野村昭子)が、考えてばかりいないで体当たりしなさいよと、初老の男と差し向かいで飲んでいた別の女給明美(木村俊恵)の方を目で促す。

落合が明美に気があると思い込んでいるらしいちよみは、あの男は、明美の旦那だと教え、35の女盛りにあんな老人が相手じゃ、身体が持たないで浮気をしたくなるのも当然だとつぶやきかける。

翌日、再び呼び出した平尾から、事件当夜の浜野の様子を尋ねた落合だったが、平尾は、そう言えば、あの時、何故、その日、ここへ来たのかと尋ねた時、浜野は何かを言いよどんでいたな〜…と思い出す。

落合は、補充捜査を始める決意をし、吉岡刑事部長に報告に行く。

吉岡刑事部長は、まさか、その結果、別の犯人が出て来るなんて事にはならんだろうね?そうなったら、検事局の黒星になるぞと落合に釘を刺す。

落合は、そんな事はまずないと返事をするが、今度の定期異動は大掛かりなものになりそうで、君は広島の刑事部長らしいと吉岡から聞かされると表情を引き締めるのだった。

落合は平尾刑事と、事件の洗い直しを始める。

殺された靖江は、甲府の財産家の娘だったが、遺産管理に関して宗像弁護士が担当したのが再婚するきっかけになったと言う。

再婚したのは昭和29年で、宗像弁護士は今63才だった。

一緒に話を聞いていた矢野は、靖江の男関係はどうだったのかと平尾に尋ねる。

老人相手だけでは、満足出来なかったのではないかと言うのだ。

落合も、その事が気になり始めていた。

しかし、調査の結果、靖江の身持ちは固かったと、平尾は報告する。

浜野は確か、日本大興と言う会社の部長の娘と縁談がまとまりかけていたそうだが…と、落合が聞くと、その会社に部長は23人もおり、その結婚適齢期の娘となると12人もいると答えた平尾は、明らかにこれ以上の捜査を嫌がっていた。

そうした態度に気づいた落合は、警視庁がやらないなら、検察庁だけでやると言い切る。

結局、平尾は、日本大興と言う会社の部長の結婚適齢期の娘、一人一人に、浜野との縁談がなかったかどうか当り始める。

そうした中、一人の娘大井房子(岩崎加根子)が、浜野との結婚話があった時、知らない人から手紙を頂いた事があると言い出す。

平尾が持ち帰って来たその手紙を読んだ落合は驚く。

浜野には、学生時代から同棲している女がいるのだと言う中傷的な内容が書かれていたからだった。

それを書いたのが宗方靖江だと面白いのだが…とつぶやく落合に、案外そうかもしれませんよと、平尾は「週刊婦人」と言う雑誌用に靖江が書いたと言う原稿を見せる。

筆跡鑑定をしてもらおうと言うのだ。

持ち込んだ筆跡鑑定人(横森久)が言うには、手紙の文字と原稿の文字は同一人物らしい。

そう知った落合は、村松由紀の所にも手紙が来ているかもしれないと推理するのだった。

その事を吉岡刑事部長に報告に行くと、次の公判が間近だと言われる。

平尾と二人で、テニスをしていた村松由紀に会いに行き、問題の手紙を見せた落合だったが、由紀は、自分はもらった事はないと言う。

やがて、次回公判が始まり、高原検事は脇田に死刑を求刑する。

その夜、街角に浜田を呼び寄せた落合は、近くの旅館に連れて行くと、二人きりの話があると切り出す。

富士屋旅館と言うのをご存知ですね?月に二三度行かれた事があり、宗方靖江と一緒だった。

常盤荘と言う旅館もご存知でしょう?この辺の事は全て調べはついています…と、落合は浜田に問いかける。

あなたは大井房子との縁談が決まりかけていましたね?近藤良子と言う人とも。

11月17日、あなたは11時に公判に出席した後、夜、宗像邸に行くまで何をしていたんです?…と聞かれた浜田は、喫茶店で村松由紀と会っていた時の事を思い出していた。

急に呼び出された浜野は、由紀から、自分の所に届いた一通の手紙を見せられる。

それを読んだ浜野は驚く。

明らかに、靖江の仕業だったからだ。

落合に問いつめられた浜野は、靖江との肉体関係に関しては、渋々「事情がいろいろあって…」と認めたが、殺しはやっていないと答える。

それを黙って聞いた落合は、何故あなたは、私に疑念を抱かせるような行動をとったのか?と聞き直す。

疑念を抱いたのは、私と平尾の他にもう一人いた。

それは由紀さんです、と落合は突きつける。

由紀さんは、その後、あなたにどうしました?事件に関し、あなたを過剰にかばうような言動を取ったのではありませんか?

脇田が犯人として捕まった後、あなたは知らん振りをしていれば良かったはずなのに、あえて弁護を願い出た。

それは、あなたの良心でしょう?

その良心にかけて、もう一度言ってくれませんか?

そう問い詰めらた浜田は、ついに耐えきれなくなり、脇田じゃない!私がやったんだ!と自供する。

翌日、報告に出向いた吉岡刑事部長は、今後、検事局に降り掛かる問題は自分が何とかするが、君個人の問題は君が解決するんだと警告する。

宗像夫人殺しが逆転して、真犯人が分かったと言うニュースはたちどころに世間に広まる。

心労で宗像弁護士は入院してしまい、それを村松が見舞う。

しかし、意外な事に、検察庁が槍玉に挙がる事はなかった。

むしろ、落合の真実への追求振りを絶賛するマスコミは、彼にテレビ出演を依頼して来る始末で、吉岡刑事部長も、自分の考えが古く、姑息すぎたかなと反省させるほどだった。

有名推理小説家(松本清張)との対談番組に出た落合は、翌日出社した検察庁でも、皆から一目を置かれる存在になる。

秘書の高倉美代にまでテレビを観たと言われた落合は、少し得意になっていた。

そこに、一通の速達が届けられる。

それは、北海道の紋別に住む石川こういちと言う知らない人物からの手紙だった。

開封して読み始めると、テレビに出ていた落合を観た…と書きだしてあったので、落合は「テレビって怖いね」などとおどけながらも上機嫌になる。

しかし、読み進めて行くうちに、にやけていた落合の表情は引き締まりだす。

そして、部屋を飛び出し、屋上へ向かった落合は、じっと呻吟する事になる。

手紙には、これまでの考えを根底から覆すような、とんでもない事が書かれてあったからである。

上野駅で、北海道から呼び寄せた石川(浜田寅彦)を出迎えた落合は、彼の新証言を確認する。

石川は、以前、宗像弁護士の世話になった事があり、それ以来、たびたび連絡を取り合う仲となり、事件当日も上京したので、宿泊先の山城屋旅館と言う所から自宅に電話を入れたと言うのであった。

石川を連れ、その山城屋旅館の主人にも確認を取った所、自分の目の前で石川が電話をかけていたのは、事件当夜の9時半頃だったと言う。

問題は、その時、電話に誰が出たのかと言う事であった。

石川は、相手は出ず「ツー」と言う機械音だけしか聞こえないので、山城屋の主人にも確認してもらい、主人が電話局へ問い合わせをすると、しばらくして、相手方の受話器が外れていたので注意をしておいたと局からの連絡があったのだと言う。

しかし、その後、もう一度、宗像邸に電話をすると、今度は「ツーツー」と言う正常な呼び出し音が聞こえるようにはなったが、誰も出なかったと石川は言う。

すぐさま、平尾刑事を伴い、電話局へ出向き、局員に、事件当夜の宗像邸の4611番の電話について確認をした所、確かに、旅館からの連絡で調査した所、受話器が外れていたので、こちらから警告音を流し、相手が出た所で注意をしたと言うではないか。

落合は、その注意をした時、電話には誰が出て、何と言ったのかと…を聞きただすと、局員は、出たのは女で、一言「すみません」と言ったと言う。

その時間は、記録から、9時26分から27分頃の事だったらしい。

それを聞いた平尾は、それは宗方靖江に違いない。彼女は、その時点では生きていたんだと指摘する。

その後、事件当夜、宗像邸から帰る浜野に声をかけたラジオ屋の店員を突き止め、声をかけた時間を確認すると、9時10分だったと正確に覚えていた。

何でも、店員は、店で楽しみにしていたボクシングの試合を観ようと焦っていた所だったので時間を気にしていたのだとと言う。

その時間にタクシーを拾ってアパートへ帰り着いたのなら、浜野は宗方靖江を殺した犯人ではありえない。

法医学教授(稲葉義男)に話を聞きに行くと、それは浜野に首を絞められた靖江が一時的に失神していた後、気がついたのだろうと言う。

普通、失神している時間は3、40分くらいらしい。

落合に事件当夜の事を再確認された脇田は、呆れたと言う表情で、だから、俺がやったと最初から言っているじゃないかと答える。

その後、弁護士がおかしな事を言い出したので不思議だったと脇田は苦笑する。

事件当夜、宗像邸に忍び込んだ脇田は、寝室のベッドの上で気がついた宗方靖江と目が合う。

その時、突然、ベッド脇の電話が鳴りだしたので、狼狽した脇田は思わず靖江に飛びつき、赤い腰紐でその首を絞めて殺してしまったのである。

失神から目覚めた靖江が、外れていた電話の受話器を、電話局からの注意でかけ直した直後の話のようだった。

結局、殺害犯人は脇田だったと言う事で、事件は三転したとのニュースが流れる。

落合は、入院した病人のベッドの上でうなっていた。

とうとう決意して痔の手術を受けたのだ。

側にいた妻の知子が、あなたが悪いんじゃなく、新しい事実が見つかっただけなのだし、誰もあなたが検事総長に出世するなんて思っていないわよと慰める。

そこに、浜野が一人で見舞いにやって来る。

13日に保釈になったのだと言う。

知子が席を外した後、痛みを我慢しながら、落合は久しぶりに浜野と話し合う。

これからどうするの?と聞くと、浜野は故郷に帰るつもりだと言う。

逆に、釧路へ転勤されると聞いたがとの浜野の問いには、落合も、随分遠い所へ飛ばされたものだと自嘲する。

村松由紀の事を落合が聞くと、フランスへ行ったと言う。

それを聞いた落合は、あの人は聡明な人だったから、今頃、日本には馬鹿な男が二人いると思っているだろう。でも、世の中、バカな方が良いんだ…と悔し紛れにつぶやく。

浜野は、その後、何も語らず、部屋を辞去する。

浜野が甲府で自殺をしたと言う新聞記事が載ったのは、その後日の事だった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

ミステリ映画の名作と言うのは、大抵、原作があるケースが多いのだが、この作品は、橋本忍のオリジナル作品であると言うのがすごい。

ミステリ映画として一級の出来である。

この作品は、一見「倒述もの(犯人側からの視点で描いた事件)」のように思える。

ところが、そう思う観客の盲点を逆手に取ったひねりが加えられているのだ。

それは、娯楽映画として話を面白くする為のアイデアと言うだけではなく、「捜査における予断の恐ろしさ」への警鐘も含んでいる。

見事な脚本と言うしかない。

演出も手堅く、白黒画面が全体の緊迫感を高めている。

時として、目をぎらつかせたアクの強いイメージがある仲代達矢は、この作品では、眼鏡をかける事により、その目のぎらつき感を消し、弱気な若手弁護士を良く演じている。

後半、旅館の一室で小林桂樹と対峙した仲代の顔に、真上からの照明で出来たその眼鏡のシルエットが、あたかも、不気味なコウモリのようなイメージで張り付いている姿は印象的である。

また小林桂樹も、どこかユーモラスさも兼ね備えた、その凡庸そうなおじさん像と言う、彼特有の個性をひょうひょうと演じているように見え、後年に見られるようになる、どこか力んだようなオーバーな過剰演技はない。

その他の俳優陣も、抑えめの演技をしているように見え、一見淡々と進行しているように見えながら、実は意外な展開を迎える事になる物語の中の要素として、皆、適切な役割を演じている。

特に今回印象に残ったのは、落合の助手矢野を演じている浜村純。

痩せて、病的に目がギョロついたその独特の風貌は、時として犯罪者などにぴったりだったりするが、この作品では、元刑事で検事の助手と言う地味な役割ながら、何故か目に焼き付くような存在感がある。

同じく、落合の秘書なのか、助手の一人なのか、高倉美代と言う若い娘を演じているのは、「海底軍艦」でムー帝国皇帝を演じた小林哲子である。

まだ、この当時は、まだ痩せていて可愛らしい。

浜田が自供した後、テレビの解説者として登場するのが大宅壮一だったり、落合と対談する推理作家が松本清張だったりと言うゲストの意外さも面白い。

不遇な生まれで、犯罪常習者となる脇田役の井川比佐志も的確なイメージで演じているが、冒頭いきなり殺されてしまう淡島千景の存在も大きい。

当時、売れっ子女優だった淡島千景が、まさか、あのようにあっさり殺されてしまうとは、観客は誰も想像していなかったに違いない。

その起用法は、「サイコ」(1960)でのジャネット・リーとまで言うと、言い過ぎかもしれないが、かなり大胆な使い方であった事だけは確か。

その後も、回想シーンなどにちらり登場するが、出演シーンはほとんどないと言って良く、その出演を依頼した側も、承知した淡島千景側も、共に英断だったと感じる。