1952年、電通DFプロ+新東宝、高峯秀雄原案、船橋比呂志脚本+監督、鈴木英夫監督作品。
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新橋駅前の朝の様子が映し出される。
都会は活動を始めた…とナレーションが重なる。
渋谷区の外れの焼け跡に、一人の男の死体が発見される。
その死体は、飲み屋「おかめ」のマッチを持っていた。
犯行は12時前後、現場検証をしていた捜査第一課長は中沢刑事(石島房太郎)を指名し、「おかめ」を当たらせてみる。
事件はすぐに新聞報道される。
捜査本部内では、刑事たちが畳にあぐら姿で話し合っている。
被害者は、友達と一緒に有楽町のおかめで飲んだ後、省線の帝都線に乗った。
その際、飲み代は被害者が払ったと、刑事の一人(小林昭二)が報告する。
被害者の会社での評判は良かったらしい。
その時、「おかめ」の店とマダムの自宅が別なので、手間取ってなかなか戻らないと報告があった中沢から又電話がかかり、それに出た主任に、自分は4時頃こちらに来たのだが、マダムがやられていると報告が入る。
さっそく、マダムのアパートに向かった捜査陣は、死体を見聞した所、刃渡り2.5cmの切り傷があり、心臓を一突きと言う結果を知る。
それは、渋谷で見つかった最初の被害者とやり口だった。
犯行時刻は昼前後と推定され、女将の指には指輪痕がある事から、盗品目録を作る事にする。
地取り、鑑取りが始まる。
部屋に置かれていた湯のみから指紋が採取され、一本の糸や、毛髪まで採取された。
又、被害者の手紙や手帳も、出入り関係を洗う貴重な資料になる。
死体は解剖され、体内に残っていた精液と、タバコの吸い口に付着していた唾液の分析から相手の男の血液型はA型、枕カバーには紫外線が当てられ、整髪油を発見。
採取された毛髪の分析から、散髪して15日目くらいで、外国製のポマードを使用している事が判明。
又、現場に残されていた一本の糸くずは、ホームスパンである事が分かった。
こうした結果を受け、捜査会議では、犯人像は40~50才、相当な生活をしている「洒落もの」である可能性が高いと言う事になった。
豊田刑事(土屋嘉男)は、貿易振興会の山田を洗ってみたらどうかと進言する。
アパートの管理人が来て証言するには、事件前夜、女将と連れ立って部屋に入る男を見たと言う。
酔っていたようで、部屋に入るときは笑っていたように見えたが、眼鏡をかけており、派手作りだったとの証言も得られたので、さっそくモンタージュを作る事にする。
管理人の証言を元に完成したモンタージュ写真は、山田そっくりだった。
さらに、帰りかけた管理人は、おかめに出入りしていたその男は、50年配くらいで、「山さん」と呼ばれていたと思い出す。
さっそく、貿易振興会の山田を訪ねた中沢、豊田両刑事は、応対に出てきた山田に、モンタージュが出来たのでと言い、全く無関係の男の写真を見せ、そこに残された指紋を採取すると共に、こっそり落ち帰ったタバコの吸い殻から血液型を割り出す。
指紋も血液型も、殺された女将の部屋にあったものと一致したので、山田を呼び出し尋問を始める。
証拠を突きつけられた山田は、当夜、女将の部屋に泊まった事だけは認める。
翌朝8時頃には帰り、10時過ぎには役所に来たと言う。
途中の時間が空きすぎていないかとの質問に、途中で、銀座の木村商事と言う会社に寄ったと答える山田。
さっそく、中沢と豊田は、裏を取るため、銀座の木村商事に向かう。
社員たちは、昼間からトランプ遊びに興じていたが、予期せぬ来客に、慌ててトランプを隠す。
中沢に応対した社員が、隣の社長室に社長の木村を呼びに行く。
その社長室のソファーには、殴られたらしく、口から血を流した男が倒れ込んでいた。
刑事たちの前に現れた社長の木村(丹波哲郎)は、おかめのマダムを知っているかとの中沢刑事の問いに知っていると素直に答える。
山田が来たかとの問いには、10時頃来たとの証言。
我々は貿易上付き合いがあるが、あの人はいろいろありますからねと含みを持たせた答え方をする木村。
取りあえず、会社から出て階段を下りかけた中沢だったが、その時、社長室のドアが明き、そこから出て来る男の気配を聞き取る。
新聞には、木村の容疑が薄れ、残された手がかりはホームスパンの糸くずだけと言う記事が載った。
捜査本部の主任に電話が入り、女将が持っていた指輪は、プラチナの台に三分の一カラットのダイヤがついたものだった事が分かったとの報告が入る。
主任は、最後の手がかりとして中沢と豊田を派遣する。
町を懸命に歩き回る二人。
特に中沢の方は、捜査に夢中になるあまり、家にも帰らない有様で、相当疲労困憊していた。
そんな先輩刑事の身体を気遣いながらも、豊田は、二丁目の質屋で指輪が見つかったと中沢に駆け寄る。
さっそく車で、二丁目に向かう二人。
交番で、その質屋の主人から売りに来た人物の事を聞いた二人は、すぐさまキャバレーに向かう。
踊り子(ジプシー・ローズ)が練習している店にやって来た二人は、堀川リリー(野村昭子)を捜す。
二階の控え室にいた彼女に指輪を見せると、貰い物なので、相手の名前は言えないと言う。
しかし、殺された女将がしていたものと聞くと、気味悪がって、兼田と言うチンピラだと、もらった相手を明かす。
同じ部屋にいた別の女が、その兼田なら、二三日前に開店した七丁目のパチンコ屋にいると教えてくれる。
すぐさま、その「太陽」なるパチンコ屋に向かった中沢、豊田の二人は、店内にそれらしき男を見つけると、両脇を固めて監視する。
やがて、兼田は、二人の気配を感じたのか、店を出ると町を歩き始める。
尾行する二人の刑事。
やがて、そんな二人の刑事を振り切ろうとするかのごとくは知り始めた兼田。
刑事たちは懸命に追うが、雑踏の中にまぎれそうになったので、思わず「泥棒!掴まえてくれー」と叫ぶ。
すると、周囲の通行人たちが協力して、兼田を取り押さえてくれる。
署に連れて来られた兼田は、なかなか口を割ろうとしなかった。
捜査第一課長に中沢は、兼田が犯人だと思うので、未決に入れておいてくれと伝える。
捜査第一課長は、証拠がなかったら、マスコミに騒がれる恐れがあると釘を刺しながらも、送検しておこうと答える。
やがて、世田谷署に巡回中の佐藤巡査から、血の付いたホームスパンの上着を見つけたとの報告が入り、その連絡は本庁に伝えられる。
科学鑑定の結果、上着に付着していた血液は、女将の血液型と同じである事が判明。
赤外線を当てた所、上着の襟元に「カネダ」の文字が浮かび上がる。
繊維も、殺害現場にあったものと同じだった。
しかし、その直後、肝心の兼田に保証人が現れ、保釈されたと一課長に連絡がある。
兼田を連れ出したのは、木村だった。
後部座席で兼田の隣に座った木村は、「お前に生きていられたんじゃ困る」と言いながら、銃を取り出す。
やがて、兼田の死体が見つかる。
車は盗まれたものだった。
兼田との利害関係のあるものを調べようと言う事になる。
主任は、とどめを刺している所から、よほど生き返る事を恐れていたに違いないと読む。
中沢は、先日、木村の会社で殴られて口から血を流していたのは、兼田だったと言う。
さっそく捜査陣は、木村商事を張る事にする。
出社した木村は、子分たちに金を分け与えていた。
そこに、遅れて出社した子分の一人がその様子を見て、山田の所に恐喝したくらいで逃げる必要はないんじゃないかと疑問を口にする。
木村は、兼田をやっちまったんだと教える。
全員、会社を出た後、先ほど疑問を口にした子分は一人悩んでいた。
会社を出た木村を、刑事が尾行する。
列車に乗り込んだ木村は、一緒の車両に乗り込んで来た刑事に気づいていた。
その頃、あの悩んでいた子分は警察に出頭し、三年前、世田谷で迷宮入りした殺人事件の事が、兼田の口からバレるのを恐れた木村がやったと証言していた。
すぐに、木村に逮捕状が出る。
その木村、座席に上着を残し、トイレに立つ振りをして、横浜駅で刑事を巻いてしまう。
連絡を受けた捜査主任は、中沢に横浜に向かうように命ずる。
捜査本部には、次々と情報が入って来る。
兼田ヤスズミを殺害したのは木村正和、共犯の福田と北野はまだ都内に潜伏中。
翌朝、福田と北野は、運転手が屋台で朝食を取っている隙に、路上に停めてあったタクシーを盗んで逃亡する。
盗難の通報を受けた警視庁は、ただちに、前方面に車の手配を命じる。
犯人らが乗った32年型ダッジの黒セダンは、渋谷から目黒、さらに三号道路を玉川方面に進行、それを複数のパトカーが追尾する。
犯人は、そのパトカーに向かい発砲するが、車があぜ道で田んぼに転落してしまい、あえなく二人は逮捕されてしまう。
その頃、とあるホテルのベッドの上で横たわっていた木村は、ラジオで、木村は都内に舞い戻ったらしいと言うニュースを聞いていた。
木村は怯えていたが、そこにノックの音がしたので、拳銃を持ってそっとドアを開け滝村だったが、そこに立っていたには、ルームサービスの朝食を持って来た女だった。
時間を木村が聞くと、8時5分前だと女は答えながらカーテンを開けようとしたので、木村は開けないでくれと頼む。
その後、内線でウィスキーを注文する木村。
やがて、さっきの女がウィスキーを持って現れるが、その際、ベッドの上に置いていた拳銃を女は見てしまう。
女は動揺をごまかすため、洗濯しましょうかと尋ねるが、木村は良いんだと断る。
その後、ベッドに横になっていた木村は、車が停まる音に気づき起き上がると、電気スタンドを消し、カーテンからそっと外を伺う。
下には、中沢、豊田ら刑事が来ていた。
木村は、ホテルの裏口から逃げ出す。
途中、バケツを蹴飛ばした音に気づいた豊田が、笛を吹き鳴らす。
刑事たちは木村を追うが、途中で見失ってしまう。
その後、三田近辺の警官から、5時20分頃、橋のたもとで木村らしき姿を見たと言う連絡が入り、刑事たちはその周辺を捜し始める。
そんな中、木村を発見した刑事の一人が撃たれて倒れる。
その銃声に気づき集まって来た刑事たちは、工場から線路に向かって逃げる木村を追うが、走って来た電車の陰に隠れた木村はまたしても姿を隠す。
木村は、下水道の中に身を潜めていた。
中沢と二手に別れて捜していた豊田は、下水の水たまりに近づくが、木村は水の中に身を潜め動かない。
しかし、わずかな波紋を見つけた豊田は、木村がいると確信、上から声をかけて来た中沢に「こっちにはいないようです」と答えながらも、目で「いる!」と伝える。
中沢もそれに気づくと、それじゃあ上に上がって来いと,何食わぬ様子で豊田に伝える。
その会話を聞いていた木村は、弾倉を抜くと、残りの弾を数える。
もう三発しか残っていなかった。
木村はそっと下水から抜け出ると、線路に這い上がって来る。
しかし、その周囲は警官たちに囲まれていた。
声をかけられた木村は、残りの三発を連射してしまう。
抵抗するなと言われた木村は、銃を捨て、手を上げるしかなかった。
人々は、今日もいつも通りに出勤して行きます…とナレーションが重なる。
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丹波哲郎のデビュー作として一部で有名な作品ではあるが、ここに登場している役者の大半は当時無名であり、ドキュメンタリータッチの内容をよりリアルに見せかけるためのキャスティングだったと言う。
つまり、刑事として登場している若き土屋嘉男や小林昭二なども、この作品がデビュー作だと思われる。
小林昭二などは、その雰囲気から、後年の「怪奇大作戦」での町田警部そのものと言って良いくらい。
冒頭の、東京の朝の出勤風景部分からナレーションが入り、捜査の過程、鑑識の科学捜査などの様子も、ナレーションが解説を加えている。
あくまでも、犯罪捜査啓蒙のための映画だったようで、事件そのものは案外単純であり、ミステリ的な意外性などは希薄と言って良い。
最初に警察から目をつけられた山田の証言から木村の会社に捜査が及んでいるのに、さらに性懲りもなり、その木村本人自らが犯罪に手を染めてしまう辺りは、短絡的で不自然としか思えないし、重要参考人を、身元保証人の確認もしないで釈放してしまう警察の対応の方もおかしいのだが、作品の主眼が、事件そのものに重きを置いている訳ではないためかも知れない。
戦後間もない当時の町並みや、伝説のストリッパージプシー・ローズの動く姿、まだ白黒のツートンカラーではなく白一色だったパトカーの姿など、映像資料として貴重なシーンは多い。
丹波哲郎は、デビュー作とは思えないほど堂々としており、もうこの時点で、社長など上に立つ人物が似合う存在である事が分かる。
痩せていてハンサムであり、それでいて風格がある。
ハンサムな犯罪者と言う点で、ちょっと、アラン・ドロンなどを彷彿とさせる役柄でもある。
登場した時の凛とした青年社長然としていた木村と、後半、惨めなくらい怯え、追いつめられる矮小な犯罪者としての木村の両方を演じ分けているのが見事。
対する土屋嘉男の方も、この時点ですでにその姿は目立っている。
最初のタイトル後、「丹波哲郎」名で出演者の名前が登場するが、ラストにも再びキャストロールが流れ、その際には「丹波正三郎」と言う本名が書かれている。
監督名が二人連盟なのは、鈴木監督が次の「続三等重役」を撮るため、最後の方で抜けなければならなかったためらしい。