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人間狩り

1962年、日活、星川清司原作+脚本、松尾昭典監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

「警察官斎藤純立ち会いのもと、判決を言い渡す。被告人は無罪!事実誤認である。犯罪の照明ないと談ぜざるを得ない…」裁判官の声が響く。

それを聞いて喜ぶ被告と弁護士。

対する佐藤検事(神山繁)は、苦虫をかみつぶしたような顔になる。

傍聴席で呆然と固まる被害者の妻とその母親にしがみつく幼い二人の子供。

その裁判所の傍聴を終え、同僚の刑事桂木保(梅野泰靖)と出て来た小田切拓次(長門裕之)は、後から出て来た佐藤検事に上告はしないのかと聞く。

物証決め手がないと答えた佐藤検事は、君たちと同じく、私も腹の中は煮えたぎっているんだと言い放つと立ち去って行く。

その後ろ姿を見ながら「あいつは負けたんだ」とつぶやく小田切に、「負けたのは俺たちもだ。法律も…」と桂木が答える。

「まるでジャングルだ。血に飢えた獣たちが蠢いている。獣がいるジャングルには狩人もいる。俺がこの手で狩ってやる」と吐き出した小田切の目は凄まじほどぎらついていた。

数々の生々しい現場写真をバックにタイトル

警察署の入り口から出て来た小田切は、車から降ろされる田口(小沢栄太郎)の顔を見て、とうとう尻尾を出したな!と睨みつける。

田口は、警察署前にたたずむ女を見つけると、鼻で笑って署に入る。

小田切は、その女梶本志満(渡辺美佐子)に近づくと、ちょっと待っててくれと頼んで、署に戻る。

署長室では、署長(嵯峨善兵)が市村部長刑事(下元勉)に、丸の内署から転任して来た湊昌彦(高山秀雄)を面倒見てやってくれと紹介していた。

湊は、自分の命が惜しくて犯人を逃がしたと言う過去があった。

桂木が刑事部屋に連れて来た田口を、後から追って来た小田切が「お前が半殺しにした女が死んだぞ」と言いながら、締め上げ始める。

その時、電話が入り、派出所にその事件の犯人が自首して来たと言う。

それを聞いてほくそ笑む田口。

しかし、小田切は、「3年前と同じ手だ!」と言いながら、田口の身体を書類戸棚に押し付ける。

ガラスが割れ、田口は「人権蹂躙だ!」と大声を出す。

小田切が田口にそれほどの憎しみを持つのは、小田切が最初に担当した3年前女性殺害事件でも田口にまんまと逃げられていたからだった。

そんな小田切は、捜査のため、ここ二日間寝ていないと聞いた市村部長刑事は、とにかく帰って寝ろ!と小田切に釘を刺した後、新任の湊を全員に紹介する。

田口は、薄笑いを浮かべながらそのまま帰ろうとするが、桂木刑事から、そうはいかんと留置される事になる。

留置場に留め置かれた田口は、牢内でベチャクチャしゃべっている男(野呂圭介)を「うるせえ!」と怒鳴りつける。

渋谷のプラネタリウムで志満と出会った小田切は、大阪に行くと言う彼女を何とか止めさそうと説得する。

しかし、志満は、いつも過去を責められているのが耐えられないと言う。

君に去られたら…、君だけなんだ、ボクには…と食い下がる小田切に、店には一時間で帰ると言って来たからと、話を切り上げようとする志満。

君の事、責任持つよとなをも食い下がる小田切に、お互い不幸よ。その目が怖いの。この女は、自分が掴まえた男、死刑になった男の情婦だって、口に出さないだけで…、責めてないって言い切れる?と詰め寄る志満。

これで終わりか?僕たちの…と小田切は、金網にしがみつくが、遠くへ言って出直すつもり。今に笑える時が来ると思う…と言い残し、志満は立ち去る。

再び署に戻って来た小田切は、桂木から尋問されていた田口の元にやって来る。

田口は、そんな小田切の顔を見ると、てめえの事は棚に上げ…とあざ笑い、掴まえた男のスケと付き合っているくせに…と嫌みを言う。

田口は、四谷でたたきをやった。婆さんは死んだが、俺がやったんじゃないと桂木に昔話を話しだす。

やったのは、戦争中、工場で知り合った男だったが、そいつは品川の線路縁に住んでおり、戦後マーケットで再会した。

そいつの名前は房井と言い、その頃、年は40くらいだったが、その事件ならもうとっくに時効になっていると言い出す。

刑法250条、死刑は15年経てば消えるんだろう?と言うのだ。

署長は、市村部長刑事刑事から、小田切の犯罪者への行為が目に余るし、警察学校の同期である桂木以外の同僚たちとの折り合いも悪いとの相談を受けていた。

小田切の過去に何かあったのかね?と署長は困惑するしかなかった。

何せ、小田切は、警視総監賞を五回ももらっている凄腕だったからだ。

署長は、湊と組ませてみようか?と提案する。

その小田切は、記録室で、田口が自供した美濃部さと強殺事件をひもといて、犯行が行われたのは15年前の2月13日、今日は2月11日、時効成立は明日の午後12時、まだ後36時間残されている事に気づく。

田口をやっつける!と小田切は決意する。

しかし、住民登録が始まったのは昭和27年から、房井の住所にたどり着くには困難と思われた。

しかし、小田切は部屋を飛び出す。

そんな小田切に、湊を連れてけと市村部長刑事が声をかける。

小田切の後を追う湊を見ていた他の刑事が、命が惜しくて犯人逃がした男、良いコンビだなと皮肉る。

「お茶漬け屋 鼓や」では、女将の咲枝(山岡久乃)が、店を辞めると言い出した志満を説得していた。

志満は、桂木から預かった経緯があるからだ。

そこに小田切から電話が入り、又、志満に思いとどまってくれと言って来たので、志満は電話を切ってしまう。

その様子を見ていた咲枝は、志満が辞めると言い出した理由を理解し、あんた、うちにいらっしゃい、桂木さんには話しとくから。切れて良かったわと助言する。

小田切と湊は、品川近辺の米屋を片っ端から当たっていた。

しかし、房井と言う店は見つからない。

最後の米屋へ行く途中、湊はもうダメかもしれませんねと愚痴る。

後32時間あると言う小田切に、何かもつれがあるんですかと尋ねる湊。

田口とか?何もないと答えた小田切だったが、胸くそが悪くないか?あんな奴は憎んでいいんだ!奴ら、人間じゃない!…とすごい目つきで前方を見据える。

一方、署内で、桂木から事情聴取に判を押すように言われた田口は、急にそんな事は言っていないと言い出す。

小田切と湊は、昭和20年の正月頃、京成青砥に移った房井と言う男がいたと言う、付近の理髪店店主からの証言を掴んでいた。

その房井は古物商をやっていたが、戦時中は、田無の方の飛行機工場で働いていたらしい。

すぐに電車で青砥に向かう小田切と湊。

しかし、房井が移ったらしき住所を訪ねても、そこは団地になっており、房井の家は見つからない。

煙草屋の若主人(沢井杏介)に聞くと、知らないと言うので諦めかけた所、その妻(久木登喜子)が出て来て、房井?あのおじさん?闇米持って来た…と知っているような事を言い出す。

空襲で奥さんを亡くしたそうで、昭和27年頃まで団地の近くの空き地に住んでいたけど、その後いなくなったと言う。

手がかりが切れたかと思われたが、おばあちゃんなら知っているかもしれない。最近、街で会ったと言っていたからと妻が言うではないか。

そのおばあちゃんは今どこに?と意気込んで小田切が聞くと、熱海に旅行に行っていると言う。

宿泊先の西熱海ホテルと言う名前を聞いた二人は、その足で熱海に向かう。

電車の中で、湊が、田口が始めて挙げられたのは、昭和27年ではなかったか?と言い出す。

その田口の写真は新聞にも載ったはずで、ひょっとすると、房井はそれを見て身の危険を感じ、逃げ出したのではないかと言うのだ。

その推理を聞いた小田切は、お前、案外頼りになるなと感心する。

しかし、湊は、刑事も所詮サラリーマン、犯人と命を交換するなんてご免ですと言い出し、小田切をむっとさせる。

その頃、「鼓や」の志満を外に呼び出した桂木は、君たちの出会いは最初から困難があった。辛抱してやってくれ。もう一度会ってやってくれと、小田切との分かれを思いとどまらせようとしていた。

小田切は警官の規律も超えようとしている。志満さんが、嫌いになったのなら別だが…と説得する桂木は、決して、志満の思いが冷めた訳ではない事を知っていた。

同じ時、「鼓や」では、志満の情夫だった岩佐が死刑になった記事を書いた山さんと言う記者が、仲間らと飲みに来ていた。

彼らの目的は、美人の志満だった。

3人の記者は、田口は最近、政界とも繋がりが出来たので手強くなったとうわさ話をしていた。

そんな3人に、咲枝は志満が辞めるのよと教える。

桂木と別れ、店に戻って来た志満を、奥の座敷で待っていたやくざの赤松大三(菅井一郎)が呼ぶ。

赤松は岩佐をガキの頃から面倒見て来た。

例え三月とは言え、その岩佐の女だったお前が、小田切とどうなっているんだと言うのだ。

情夫関係かどうか言わなければ、小田切がばらされても知らねえぜと凄んで来る。

志満は、私の方から棄てたと答える。

その頃、小田切と湊は、西熱海ホテルの須藤ヤス(北林谷栄)を訪ねていた。

房井の事を聞こうとした二人だったが、すでに飲んで寄っていたヤスは、なかなか本題に入らず、余計な話ばかりするので、聞いていた小田切はイライラして来る。

湊が、かつぎ屋だった房井はどこにいるんだと辛抱強く聞きただす。

寄ったヤスは、あの人は連れ合い亡くした。赤ん坊を預かった事もあったが、あの子も死んじゃった…ととぎれとぎれに語りだし、4年前、上野の正法寺側の蕎麦屋で会ったと言う。

今の住所は聞いたか?と期待する二人だったが、ヤスは又、この年になって邪魔にされるので、来たくもない旅行に来るようになった。養子なんか取るんじゃなかったと話をそらす。

その時、房井は、16、7の娘を連れていて、再婚したのかな?その娘が新しい家だから遊びに来てくれと言ってくれてね…と、ようやく話の本筋へ戻りかけても、dそうしても、その住所が思い出せない様子。

たまりかねて「須藤さん!」と呼びかけた小田切だったが、その時、一緒に旅行に来たらしい、ヤスの女友達二人が入浴を終えて部屋に戻って来る。

その二人を見たヤスは急に思い出す。「赤羽!お風呂屋さんとパーマ屋さんの奥!」

深夜、志満は一人で線路脇に佇んでいた。

一方、小田切と湊は、赤羽に電車で直行する。

赤羽に到着した二人は、スミ美容院と銭湯の奥に一軒家を見つけるが、表札が出ていない。

湊を裏口に張らせ、玄関を叩いた小田切だったが、出て来たのは若い女(雨宮節子)だった。

房井さんか?と聞くと、奥から寝起きのような男(玉村駿太郎)が出て来る。

訳を聞くと、二人は二ヶ月前にこの家を大洋不動産と言う周旋屋から借りたばかりだと言う。

人違いと悟った小田切が立ち去った後、女は「お父さんに見つかったのかしら?」と不安がり「引っ越そうか」と、男と相談を始める。

まだ朝早いので、周旋屋が開いていない事もあり、小田切は署の桂木に公衆電話から連絡を入れる。

桂木は、危険を感じたのか、証言を覆し、今や黙秘権を行使している。志満さんは店を出たそうだと桂木は教える。

それを聞いた小田切は、今はとにかく、房井を追いつめるのに全力をかけると伝える。

その房井末吉(大坂志郎)は、今では町屋駅の近くで靴屋をやっていた。

房井の店の奥の部屋では、病身の妻松江(高野由美)が寝ており、隣から聞こえて来る赤ん坊の泣き声を目を細めて聞いている。

息子の浩一(伊藤孝雄)は、部長の娘みさ子からパーティに招待されたとうれしそうに話していた。

区役所に勤めている娘の京子(中原早苗)は、本業よりもバイトに励んでいるらしいく、モデルに誘われたなどと自慢気に話している。

それは、つましくも幸せそうな家族の姿だった。

正午、大洋不動産で思うような収穫が得られなかった小田切と湊は、タクシーに乗り込むと、荒川出張所を回ってくれと運転手に頼む。

残された時間は後12時間だった。

志満は、警察署の桂木に最後の挨拶をしに来ていた。

桂木は、あいつは今、今日中に時効になる犯人を追いつめていると伝えるが、志満はもう許してくれと謝る。

そんな志満に桂木は、あいつの心は虐殺されていたんだと意外な話をし始める。

小田切が小学生の時、父親と別れ、二人暮らしだった母親を強盗に殺されたのだと言う。

小田切は、その母親の死体の側でずっと泣き叫んでいた。

その後引き取られた叔父の家はすぐに飛び出し、その後父親に会ったらしいが、酒をぶっかけられ帰ったそうだ。

そんなあいつにとって、あなただけが心の支えだったのです…と桂木は志満に迫る。

タクシーの中で仮眠していた小田切は、母親の死体の側で泣き叫んでいた自分の子供の頃の夢から覚めていた。

そんな小田切に、同乗していた湊は、今回の犯人を捕まえても無駄なような気がすると言い出す。

15年前の事件を追いかけたって、今日ももっとひどい事件が起こっている…と。

しかし、それを聞いた小田切は、そんな事で刑事が勤まるか!と逆上する。

房井の家では、松江が、今日は12日だから、店に品物を届けなければ行けない日ではないかと奥から話しかけるが、末吉は何かに気を取られているような様子。

ようやく我に帰った末吉は、寝ている妻の元に行くと、共稼ぎがたたったんだと言いながらいたわると、それでも、子供たちがようやく一人前になってくれたからうれしいと漏らす。

末吉は、品物を持って浅草の店に出かける。

通りに出ると、ぶつかりそうになったタクシーの運転手が、相手のトラックに文句を言っていた。

そのタクシーから折り、困った様子だったのが小田切と湊だったが、もちろん互いに気づかずすれ違う。

区役所で働いていた京子は、わざとらしい腹痛を訴え、バイトのために早引けしていた。

その区役所から出て来た京子とすれ違ってく役所にやって来たのが、小田切と湊。

2年前に北区から転入して来た男を捜しているので、台帳を見せて欲しいと頼む。

誰を捜しているのかと役所の人間が聞くと、ここで五件目だと言いながら、捜しているのは房井末吉だと小田切は答える。

そんな事を全く知らない京子は、「ありがたや節」などを口ずさみながら帰っていた。

夫妻の家を突き止めた小田切は、すぐさま靴屋を訪ねるが、応対に出て来た松江が、亭主は今出かけているが、じきに帰って来ると言うので、その場は名乗らず引き下がる事にする。

一方、近所で房井の聞き込みをしていた湊は、連れっ子を良くかわいがる立派な人だと、すこぶる良い評判ばかりを聞く事になる。

小田切は、房井の店が良く見える「喫茶 桃園」の窓際に陣取って、房井の帰宅を待つ事にする。

ちょうど、本部に電話をしていた湊の前を通って、京子が店に帰って来る。

帰宅した京子は早速バイト用に化粧を始める。

4時16分、末吉が浅草から帰って来る。

果物屋で、リンゴを五つ買い求めた末吉だったが、その果物屋(河上信夫)が、さっき、お宅の事を聞かれたので、良いように答えておいた。きっと、京子ちゃんの縁談調査をする興信所だよと教える。

しかし、それを聞いた末吉は、何事かに気づいたように、一旦、店の前まで来るが、玄関を開けられない。

その様子をいぶかしんだ小田切が店を出て近づこうとするが、そこに湊がやって来て桂木さんが来たと言う。

そんな二人の様子を振り返ってみていた末吉は、そのまま店に入らず通り過ぎる。

その直後、店から出て来た京子は、遠ざかって行く父親の後ろ姿に気づく。

桂木は、志満を伴っていた。

「喫茶 桃園」に腰を落ち着けた小田切、湊、桂木、志満の四人。

桂木は、この処置は俺に任せる気はないか?君にはもっと大切な事があるはずだと小田切を説得し始める。

過去がどうあろうが良いじゃないか。二人きりで生きて行くようにしてみろ…と。

側で話を聞いていた湊も、正直って気が進まないと言い出す。

それを聞いた小田切は、又、犯人を逃がしたいのか!と湊を睨みつける。

湊は、小田切の気持ちについて行けない。人殺しよりも悪い奴は世の中にごろごろいる。と言う。

しかし、小田切は、房井はどうするんだと切り返す。

どうしても説得できないと諦めた桂木は、じゃあ、お前やるさと投げ返す。

家族はどうなっても良いんだな?

大切なものは過ぎた事じゃないんだ。今なんだ。

最低限、家族に気を配るのは必要だろう?

俺も、君との友達関係を考え直す。君自身が惨めになるだけだぞ…と。

それでも小田切は、犯人は犯人!弁解の余地はない!と頑な態度を崩そうとしない。

それを聞いていた志満は、一言「そうでしょうか?」と疑問を投げかける。

その頃、一人商店街を彷徨っていた末吉は、日東紅茶の看板を目にすると、昔、田口に誘われ、一緒に忍び込んだ店での忌まわしい過去を思い出す。

店内を物色していた末吉は、二階から下りて来た老婆と目が合ってしまい、思わず叫ぼうとする老婆の口を塞ごうとするが、次の瞬間、近くにあった金棒で、思わず相手の頭を殴りつけていた。

その回想をしながら、ぼーっと通路に突っ立ていた末吉は、若者に身体をぶつけられ、怒鳴られたので我に帰る。

房井の家では、浩一が、やはり部長の娘みさ子のパーティに行く事にしたと出かける準備をしていた。

彼女の気持ちはもう確かめてあると、その表情は出世の糸口を掴んだ喜びにあふれていた。

そこに、京子が「おかしいよ、お父さんが…」と言って戻って来る。

そこに、角の薬局から電話ですと取り次ぎが来る。

京子が行って電話をとると、それは末吉からのもので、先ほど、誰かお父さんに会いに客が店に来たようだ。何かあったの?どうしたの?と聞いても返事がない。ちょうどそこに、出かける浩一も通りかかっていた。

店に入って来た小田切は、その電話を奪い取るが、すでに電話は切れていた。

その時、小田切の腰に下げていた警察手帳が落ちてしまい、京子は小田切の正体を知る。

小田切は一旦引き下がるが、異常を察知した京子は、近づいて来た浩一に、今夜はどこにも行かないでとすがりつき、浩一も承知する。

「桃園」に戻った小田切だったが、すでに志満の姿はなかった。

桂木は、呆然とする小田切に対し、人間らしさはどうした?あの人はすがりついていた、必死だったから。それをお前は無慈悲に突っ放した。人を助けられなくて、何の正義だ!あの人はお前を抱きしめたんだろう?お前にそう言う時があったか!と責める。

たまらなくなった小田切は、「桃園」を飛び出す。

間もなく家に戻って来た末吉は、家族たちに昔の事を全部打ち明けていた。

お前たちと暮らしていた事がどんなに楽しかった事か…と泣くと、聞いていた京子は、お父さんのバカと責め、そうしてそんな事を…と聞く。

15年前、食料、ミルクがなかった。

徴用工仲間に見張り役だけと誘われて…、だけど私は。栄養失調の子供を救いたかった…。天罰は私の代わりに子供が死んでしまった。すまない、私は罪のない家族を滅ぼしてしまった…と、末吉は独白する。

しかし、浩一は、僕たちを隠れ蓑にして…、出て行ってくれ!どうなるんだ?ボクがこれまで築いて来た苦労は…、何もかもめちゃくちゃじゃないか!と冷たい言葉を浴びせる。

しかし、その言葉を聞いた京子は、私は9つの時、お父さんが出来たとうれしかった。部長の娘に取り入って出世の事しか考えない兄さんは、父さんの事ばかり責めて!と怒る。

少し考え込んでいた浩一は、時効になるはずだ。逃げて下さいと言い出す。

それを聞いた京子は、兄さんの恩知らず!と、浩一の身体を叩く。

松江は布団の中で泣き、隣から赤ん坊の泣き声が聞こえて来る中、部屋には末吉が買って来たリンゴが転がっていた。

打ちのめされた末吉は、静かに裏口から家を出て行く。

その姿を、「桃園」にいた桂木と湊は見逃していた。

湊は、二日間あの人と一緒にいて、前身でぶつかっているあの人の姿を見ると、ズ分は生温いなって…間違っていましたと、反省していた。

路地を一人帰る志満は、目の前に小田切が経っているのに気づく。

志満は、憎み合うのは嫌!哀しすぎる…とつぶやく。

小田切は、罪を犯した人間を憎しみでしか見れない…と自分で自分を責め、君だけなんだ、頼む…、君がいなくなったら…、俺は…、俺は…、助けてくれ!と叫ぶ。

その小田切に、助けて欲しいのは私よ!と抱きつく志満。

二人が抱き合っている所に近づいて来たのが末吉だった。

末吉と小田切は、互いの顔を見つめ、互いに呆然とする。

思わず、きびすを返した末吉を追う小田切。

走り去った二人を「待って!」と少し追い、又諦める志満。

町屋駅に逃げて来る末吉を待っていた京子が呼び止める。

浩一兄さんがこれをって…と、預金通帳と印鑑を手渡す。

時間は、夜の12時15分前。

改札を抜ける末吉を追って走って来た小田切の足にすがりつき、「お父さんを見逃して!本当に良いお父さんなんです!」と絶叫する京子。

小田切は、必死に京子を振り払うと、改札に入る。

そこに電車が滑り込んで来る。

ホームにいた末吉は、開いた電車のドアの前でためらっていた。

京子もホームに入って来て「逃げて!父さん!」と叫ぶ。

その声を聞いて立ち尽くす末吉だったが、その目の前で電車のドアが閉まってしまう。

思わず、出発し始めた電車に飛び込むように身体を傾ける末吉を、小田切ががっちり掴まえる。

末吉は「死なせてくれー!」と絶叫する。

そんなホームに、何も知らない志満がやって来る。

ホームに泣き崩れた末吉を前にし、トレンチコートのポケットから手錠を取り出す小田切。

そんな小田切に気づき、近づきながら見つめる志満。

小田切は、右手に握った手錠を思わず取り落とす。

その手錠に手を伸ばし、掴まえてくれと言うように差し出す末吉。

しかし、小田切が見ていたのは志満の方だった。

末吉が差し出す手錠を受け取った小田切は、それをポケットにしまってしまう。

それを見た志満と末吉は泣き始める。

その末吉に駆け寄り、抱きついてなく京子。

小田切は、そっと島の肩を抱き、その場から立ち去る。

明くる日、警察署から釈放され出て行く田口と出会った小田切は、総監賞ものだったのに、惜しかったなと憎まれ口を聞き、車で走り去る田口の姿を見つめていた。

田口を連れて来た桂木は、公開していないと言い切れるか?一人の男を許した。その代償がこれだからな…と小田切に聞く。

しかし、小田切は、田口は必ず俺が掴まえる。奴らは滅びなければならないんだ!と、自らに言い聞かせるように答えるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

疑いようもない刑事物の傑作だが、驚かされるのは、二本立てで公開された併映の「猫が変じて虎になる」の方もコメディの傑作だと言う事だ。

共に長門裕之が出ており、一方はものすごいシリアスもの、もう一方はナンセンスもの…と言うギャップもすごい。

物語自体は、タイムリミットもの、バディ(相棒)もの、恋人との別れ話など、単独でも面白い要素がいくつも組み合わされているだけでなく、後半になると、さらに、つましい家族の幸せが崩壊するかどうかと言うサスペンスに繋がると言う見事な構成になっている。

派手さはないが、ダレ場もなく、一気に最後まで突き進む。

協調性がなく、悪を憎むあまり暴走気味の刑事と言えば、つい70年代の「ダーティ・ハリー」とか「フレンチ・コネクション」などを連想してしまうが、本作は、そう言うものの走りとでも言うべき印象がある。

いつもぴりぴりした刑事を演じている長門裕之とは対照的に、黒ぶち眼鏡をかけ、いかにもサラリーマン然とした湊のキャラクターとの対比の面白さ。

北林谷栄演ずるヤスの愉快な一人愚痴芝居のシーンなど、緊張感の中にも思わず笑える演出なども上手い。

後半は、老け役を演じる大坂志郎と、一見ちゃらんぽらんに見えながら父親思いの娘との情愛が描かれ、ラストの夜のホームでの、複雑な愛憎関係に縛られた四人の行き詰まる数分感のドラマに集約して行く見事さ。

刑事物や捜査ものと言うのは、本来あまり大外れがないジャンルだと思うが、本作は、そうした中でも、強烈な印象を残す一本だと思う。

この翌年の1963年、黒澤明の「天国と地獄」が公開されているが、この時期、こうした捜査もののジャンルに秀作が集中していたと言うのが興味深い。