1957年、東宝、柴田錬三郎原作、小国英雄脚本、日高繁明監督作品。
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天保年間、11代将軍徳川 家斉の頃、父を憎み、亡き母を慕うあまり無頼になった眠狂四郎(鶴田浩二)と言う浪人がいた。
水野越前守失脚を企てた林肥後守(沢村宗之助)は、将軍家拝領のお小直衣雛御台覧を企て、狂四郎が手に入れたその内裏雛の男雛、女雛の首を斬らせた。
今、その男雛の首は美保代(津島恵子)の元に、そして女雛の首は廻船問屋美濃屋嘉兵衛(上田吉二郎)の元にあった。
人形師雛屋杜園(笈川武夫)の家に世話になっていた狂四郎は、一人河原に出て、足下に咲く花を見つけ摘もうとしていたが、その時背後から「まあ、きれい!」と声がかかる。
若い娘だった。
娘は、自分は美濃屋嘉兵衛の娘、お園(若山セツ子)で、付き添っているのは乳母の菊(音羽久米子)だと名乗ると、どなた様に差し上げるのですか?と聞くが、狂四郎は名乗りなど好まないし、この花も特に誰のためと言う訳でもないので、欲しいとあらば差し上げますとお園に花を渡すと、その場を去る。
狂四郎の姿がないのを心配した杜園の娘千弥(河内桃子)が表に出た後、窓障子に怪しげな二人の姿が映ったのを、杜園は気づかないまま仕事に没頭していた。
戻って来た狂四郎は、犬の鳴き声で異変を感じ、飛びかかって来た賊の一人を斬る。
鎖鎌を持ったもう一人は逃げ去る。
狂四郎が家の中に入ると、杜園が斬られて、奥の扉の方ににじり寄ろうとしていた。
助け起こした狂四郎に気づくと、杜園は「その扉を…」とつぶやく。
その手から鍵を受け取った狂四郎が、棚の扉を開けてみると、その中には、亡き母親そっくりの生き人形が収まっていた。
杜園は、この人形には計り知れない狂相がありながら、打ち砕く勇気がなかった…。娘を頼みます…と善い残し、息絶える。
その姿を帰って来ていた千弥も見ていた。
林肥後守の一派にやられた。杜園の傷は鎖鎌だと狂四郎から教えられた千弥は、父親の亡骸にすがりついて泣く。
そんな千弥に狂四郎は、江戸に出るぞと伝える。
江戸は祭りの最中だった。
狂四郎は千弥に、勢以菊と言う店に行け、二三日中に迎えに行くと約束して別れる。
その頃、林肥後守は、顔に大きな痣がある左馬右近(小堀明男)と言う浪人と対面していた。
狂四郎を倒せるかと言う肥後守の問いに、倒せる!と即座に答える右近。
そこに、右手を狂四郎に斬られたむささび喜平太(徳大寺伸)が戻って来る。
喜平太は右近の弟弟子だった。
そんな二人に、肥後守は、吹き矢を得意とする伊賀者いたちの源次(平田昭彦)を紹介するのだった。
湯屋の二階にやって来た狂四郎は、待っていたお由良(中田康子)から抱きつかれる。
肥後守に腕を見せろと言われたいたちの源次は、さっそく庭に出て、腰元が放す雀に吹き矢を次々に命中させていたが、三羽目で失敗する。
肥後守に叱責されたいたちの源次だったが、右近が、三羽目は、俺が投げた小づかが吹き矢を射抜いたのだと説明し、すぐに、その証拠の吹き矢を喜平太が拾ってみせる。
その腕前を見た肥後守は、これで狂四郎を倒せると喜ぶ。
その後、湯屋の二階で、お由良と差し向かいで飲んでいた狂四郎は、どこからともなく聞こえて来る笛の寝に聞き惚れる。
吹いていたのは、背後の席にいたいたちの源次だった。
彼は、吹いていた笛に、針を仕込むと、すばやく、狂四郎の首を後ろから狙うが、人が通りかかって邪魔される。
もう一度狙いをつけた所に邪魔をして来たのは、閻魔の吉五郎(三井弘次)だった。
眠なら、俺に任せろ。嫌なら俺にも了見の付けようがあるぜと、匕首を源次の腹に突きつけてすごむ。
そのしくじった経緯を源次から聞いた肥後守は、右近に狂四郎を倒せと命じる。
湯屋を出て、祭り見物に出かけた狂四郎の背後から近づき、身体をぶつけて来た吉五郎だったが、狂四郎は素早く刃をきらめかせる。
押されたと思い倒れた吉五郎は、狂四郎に因縁を吹きかけるが、気がつくと、自分の着物が着られ、背中の閻魔の入れ墨が見えているではないか。
さらに懐に入れていた、今すったばかりの財布も地面に落ち、衆人環視の中、正体がばれてしまう。
周囲の町民たちはスリを捉えようと近づくが、それを制止した狂四郎が、この男は拙者に預からせてくれと頼み、すっかり観念した吉五郎に付いて来いとに命じる。
その頃、美保代は、勢以菊の離れに身を置いていた。
勢以菊(北川町子)は、踊りの稽古を付けていたが、預かっていた千弥から狂四郎が来たと知らされると、弟子たちをすぐに帰す。
美保代も呼ばれる。
狂四郎は、千弥をもう二三日預かってくれと勢以菊に頼む。
そんな狂四郎の背後にかしこまって座っていた吉五郎の姿に気づいた美保代が声をかける。
吉五郎の方も、思わぬ所で美保代に会えて「お嬢様!」と驚くのだった。
眠にかどわかされたと聞いていた吉五郎だったが、別室で詳しい話を聞き、美保代がその眠を慕っている事を知ると、それほど大切なお方なら、あっしが命に代えてもお守りすると美保代に誓うのだった。
久々の主従の再会であった。
その頃、美濃屋では、お園が、肥後守の腹心、小岩玄蕃(小杉義男)らに、琴など披露していた。
そこに、肥後守からの書状が届いたと知らせが来たので、それをきっかけにして、お園は奥の部屋に逃げ帰るのだった。
お園は、慌てる菊に対して、父の取り巻きが大嫌い!と打ち明ける。
書状を読んだ小岩玄蕃は、いよいよ正冷院様に雛を見せざるを得なくなったようだとあざ笑う。
一方、狂四郎に会いに来た、筑前守のお側頭武部仙十郎(藤原釜足)は、水野様は切腹せねばならぬやも知れぬと心配を口にしていた。
偽物を作っていた杜園亡き今、いよいよ、男雛女雛の首を手に入れねばならなくなったのだ。
その頃、いたちの源次は美保代の部屋に忍び込み、まんまと男雛の首を盗み出していた。
吉五郎から、美濃屋にあると聞いた女雛の首を取り戻そうと、単身、狂四郎は美濃屋に乗り込んで行く。
狂四郎がやって来た事を知ったお園は、以前もらった花を花瓶に刺しているのを見せるが、狂四郎は、そのようなものは覚えておらんと冷たく言い放つと、さらに奥に進み嘉兵衛を捜す。
嘉兵衛は、狂四郎の姿に驚くが、今夢中で調べていた「捨神教納品書」を、狂四郎に見られてしまう。
その「納品書」には、武器鉄砲の事が記されてあった。
狂四郎は、女雛の首を頂きたいと迫り、嘉兵衛はおとなしく渡すと見せかけ、狂四郎を廊下に誘うと、落とし穴に落とす。
地下室の窓から顔をのぞかせた嘉兵衛は、「お若い、お若い。私は商人、商売のためなら、人の尻もなめます」と、罠にかかった狂四郎を笑い、釣り天井を降ろし始める。
水野越前守は間もなく失脚、そして林肥後守と、私美濃屋、そして、全国に50万の信徒を持つ捨神教の天下になり、仏教も駆逐するようになるだろうと、嘉兵衛は愉快そうに続ける。
さすがに狂四郎もこれにはどうする事も出来ず、押しつぶされるかと思ったその時、父親嘉兵衛の元にやって来たお園が、会見を自らの喉に当て、狂四郎様を助けて下さらなければ、私も一緒に死にますと迫る。
これには、嘉兵衛も降参するしかなかった。
釣り天井を上げ、地下室ら開放された狂四郎は、お園の気持ちはしかと受け止めた。しかし拙者は、女の真心を受け止められぬ男と言いながら、娘子のためにも心を入れ替えよと諭しながら、嘉兵衛から女雛を貰い受ける。
唄を歌いながら、橋を渡っていた狂四郎は、そこでお園が待ち受けていたのを知る。
お園は、父はよこしまな野心を持っています。それでもたった一人の父ですと訴えかけて来る。
その時、雷鳴が轟き、雨が降って来る。
林肥後守は、喜平太が持ち帰って来た男雛の首を見ながらほくそ笑んでいた。
そこへ、高麗寺玄流が来るが、女雛が奪われたとの知らせも届く。
あばら屋で雨宿りをしていた狂四郎は、お園が震えているのを見ると、寒いかとささやき、これでも寒いか?と言いながらそっと抱きしめてやるのだった。
しかし、それ以上は何もしようとしない狂四郎は、そなたを抱かぬは、憎いからではない。私の母の姿を、そなたの瞳の中に見たからだとささやく。
左馬右近は、塾の先輩、平山子竜(河津清三郎)に会いに行き、弟弟子喜平太の仇討ちのため、狂四郎を討つと報告をしていた。
平山子竜は、随意にするが良かろうと答える。
武部仙十郎は、せっかく女雛が手に入ったのに、修復する人形師がいない事を嘆いていた。
それを聞いていた千弥は、父の技を受け継いでいるただ一人の雛屋左園と言う男がいると教える。
美濃屋は、喜平太を伴いやって来た右近に、狂四郎を打ち取った暁には、江戸一番の道場を作ってやるし、娘のお園もくれてやると約束する。
それを聞いていた菊があんなことを言って大丈夫なのですか?と聞くと、美濃屋は、化けものは、美しい娘をやると言えば、二倍にも三倍にも強くなるものだと笑うのだった。
千弥に案内され、雛屋左園の家を訪ねた狂四郎だったが、行灯は点いているのに誰もいないのを知ると、連れて来た吉五郎に、裏口から出て、杜園の家に行き、生き人形があるかどうか確かめて来いと去らせると、自らは表に出る。
そこには、以前取り逃がした鎖鎌の男を始め、数名の浪人たちが待ち構えていた。
狂四郎は、剣を抜くと、浪人たちを倒しながら、鎖鎌の男を家におびき寄せると、千弥に、父の仇だと言いながら、円月殺法で助勢してやる。
千弥は、その男を見事討ちとるのだった。
その後、勢以菊の家に戻った狂四郎は、美保代と対座していた。
美保代は、離ればなれになっていても心が通じ合っている雛人形がうらやましいと、女心を臭わせる。
しかし、狂四郎は、美しい女を抱いたとて、拙者は妻を求めぬと誓った身、明日を約束できぬがそれでも良いのか?と冷たい返事。
それでも、美保代がすがりついて来るので、狂四郎は抱いてやる事にする。
その後、平山子龍に会いに行った美保代は、左馬右近と言う腕の立つ男が狙っており、狂四郎には危険が及んでいると聞かされる。
一方、吉五郎を連れ、夜道を歩いていた狂四郎は、塀の上に忍んでいた喜平太に気づく。
降り立った喜平太は、平山道場の兄弟子の右近が、明日の七つの上刻、場所は冷月院で果たし合いをしたがっていると告げ、立ち去る。
夜道を帰る途中の美保代は、そなたの身体に用があると言う謎の御家人たちに囲まれる。
一人抵抗していた美保代だったが、たまたま近くを通りかかった平山子龍が騒ぎに気付き、駆けつけると、御家人たちを追い払う。
後に残されていた網代駕篭を開けてみると、中から麻薬の臭いがし、不気味な蛇の紋が刻まれていた。
狂四郎は、勢以菊の住いに戻って来た美保代に目をつぶらせ座らせると、千弥にそのその顔を観察させた誰かに似てないかと聞く。
やがて千弥は、父が作っていた人形に!と気づく。
狂四郎は、あの人形の注文主は誰かと聞くと、高麗寺玄流だと言う。
捨神教と言えば蛇、網代駕篭の中にも蛇があったとな?と狂四郎は、美保代襲撃事件を推理していた。
狂四郎は、吉五郎に、美保代を自分の家に連れて行くよう命じる。
美保代は、狂四郎に果たし合いをしてくれるなと頼むが、狂四郎は情けの押し売りはしてくれるなと拒む。
その会話を聞いていた吉五郎は急に怒りだし、母がそうだの父がどうなのとあんたは言うが、それで女に手をつけると言うのはどういう事だ!操は女の命だぜ!と詰め寄る。
しかし、眠は何も言わず、雪が降り始めた外に出て行く。
一人佇んでいた狂四郎の元にやって来た吉五郎は、旦那が寂しい事は分かっているのに、あんなことを言っちまって…と謝る。
狂四郎は、私は私なりの生き方しか出来ない。それが気に入らないのなら立ち去ってくれても構わないと言い、側の木の枝を斬り落とすのだった。
翌七つの上刻が迫る中、冷月院には、左馬右近、むささび喜平太、そして、いたちの源次らが援軍を引き連れて待ち受けていた。
吉五郎から、果たし合いの事を聞いた平山子竜は、「しまった!」と言い、美保代と共に、冷月院に向かう。
源次と援軍は、林の中に身を潜める中、やって来た狂四郎に、平山道場代理師範左馬右近は名乗りを上げ、喜平太と共に狂四郎に襲いかかる。
一人立ち向かっていた狂四郎は、援軍に取り囲まれ、さらには源次の吹き矢に右肩をやられる。
そこに駆けつけて来た平山子竜は、狂四郎の相手は拙者がするので、手向かいするなと、他の者を遠ざける。
逆縁ながら…と刃を向けて来た平山子竜に、狂四郎は、今こそ母の無念を思い知らせてやると対峙するが、肩の傷もあり形勢は不利だった。
狂四郎は死を覚悟するが、その時、平山子竜は、貴殿の父をご存知か?
名は貝塚左近、又の名、高麗寺玄流がそなたの父だと教える。
後日、武部仙十郎が全国の隠密に調べさせた「捨神教動静記」を読む狂四郎。
武部仙十郎は、今や、捨神教は、上方方面でも相当量の武器弾薬を集めているようだと教える。
狂四郎は、たとえ捨神教の教祖高麗寺玄流が父だとしても、拙者にとっては母の仇でしかないと言う。
仙十郎は、越前守様は、桃の節句を前にしてご心痛だと訴えるが、捨神教の謎が解ける時こそ、雛の謎も解けるときだと狂四郎は冷静に答える。
そこに、吉五郎が飛び込んで来て、千弥がかどわかされたと言う。
狂四郎は美保代に向い、そなたの命をもらうと切り出し、相手の覚悟を見届けると、あるいはそう言う事になるかもしれんと何事かを話し始める。
その後、美保代は、囮として、わざと一人で出歩くようになる。
その背後には、たえず、吉五郎の目が光っていた。
はたして、網代駕篭を下げた一団が美保代に近づくと、彼女を拉致して、駕篭に乗せるとどこへともなく移動する。
それを追っていた吉五郎は、とある荒れ果てた門の中に一行が消えるのを見届けると、狂四郎を連れて来る。
通りかかった商人に、この屋敷の由来を聞くと、二三年前まで、大目付松平主水正の屋敷だったと言う。
塀を乗り越え中に忍び込んだ二人だったが、中はうっそうと生い茂った林があるばかりで、屋敷の影すらなく、どこにも入り口らしいものが見当たらなかった。
そんな二人の様子を木の影から監視していたのは、右近と美濃屋嘉兵衛だった。
その頃、美保代は、牢に入れられていた。
別の牢の中では、千弥をモデルにして、雛屋左園(佐田豊)が生き人形を掘らされていたが、その千弥が、御家人たちによって、外に連れ出されて行く。
美保代の牢の覗き窓が開き、顔をのぞかせた美濃屋は、もう小半刻もすれば、裏切り者にふさわしいもてなしをしてやるぞと、不気味に笑いかける。
狂四郎は、屋敷跡の床に隠し戸があるのを発見し、吉五郎に応援を読んで来るよう命じる。
地下に入った狂四郎は、そこに大量の武器弾薬や食料が備蓄してあるのを発見するが、やがて天井から檻が降りて来て、閉じ込められてしまう。
右近が現れ、捨神教の秘密を知ったからには表には出せん。間もなく美保代は生け贄だと笑う。
大きな飾り扉の前に連れて行かれた美保代は、眠様、美保代は、あなた様のためなら、喜んで死んで行きますとつぶやいていた。
飾り扉を開くと、そこは大きな広間になっており、正面には見上げるような龍神の作り物が安置されており、蛇の印のついた扇を持った大勢の女人たちがその前で踊っている様子を見る。
その横では、右近、美濃屋、林備前守などがそろって座っていた。
狂四郎は、戻って来た吉五郎に、上にある火薬を持って来るよう命じる。
龍神像の横には、あの生き人形も追いてあり、龍神の前で祷っていた高麗寺玄流(御橋公)は、連れて来られた美保代と千弥の着物をはぎ取らせると、この人形の身代わりに龍神の生け贄になるのだと迫る。
狂四郎は、吉五郎が持って来た火薬で鍵を爆破し、牢を脱出していた。
やがて、龍神の背後から広間に現れた狂四郎は、高麗寺玄流と対峙し、貝塚左近と呼びかける。
松平主水正と知り合った事から次々と出世の糸口を見つけたと追いつめる。
その時、突き出された槍をかわした狂四郎は、毒が塗ってあるな?これと同じものを前にも見た事があると美濃屋を睨む。
そんな狂四郎の様子を、龍神の頭の上から見守っていたのがいたちの源次、吹き矢を吹く機会をうかがっている。
狂四郎は、まだ高麗寺玄流に話しかけていた。
その生き人形を見て気づかぬか?貴様の前に立っている男を誰だと思う?貴様が母に生ませた子だ!と聞いた高麗寺玄流は愕然とする。
世間で言えば父と子だが、お前は拙者の母を飢え死にさせた破廉恥非道の男だと狂四郎は迫る。
その母故、その父故、かく無頼と成り果てた眠狂四郎…と独白していた狂四郎に美保代が駆け寄る。
その時、源次の存在に気づいた高麗寺玄流は、とっさに、狂四郎と美保代を突き飛ばすと、自らの首に吹き矢が突き通る。
その高麗寺玄流を、背後から林肥後守が斬り捨てたのを見た狂四郎は「この人非人!」と叫ぶ。
狂四郎は、どう生きてみても、毒にも薬にもならぬおぬしと俺だと言いながら、向かって来た右近と対決すると、龍神の前で右近を斬り捨てる。
地上では、武部仙十郎率いる援軍が駆けつけていた。
転んだ林肥後守の懐から転げ落ちた男雛の首を美保代が拾い上げる。
その肥後守に迫ろうとした狂四郎を止めたのは、駆けつけて来た平山子竜であった。
肥後守を裁くのは御法があると言うのだ。
すでに、上の連中も全員確保したと伝えた平山子竜は、よかれと思ってやった事が皆あだになってしまった…と反省し、今後は仏門に入り、深雪の母をともらうつもりだと言う。
無事事件が解決し、男雛女雛の二つの首は、武部仙十郎の手に戻っていた。
その後、美保代と二人出会っていた狂四郎は、武部仙十郎からの書状が届き、五百石を賜ると言って来たが、そんなものは欲しくない。私は旅に出る事にしたと告げていた。
又いつかは帰っても来よう。母の墓詣でをしてもらいたいと美保代に託すと、狂四郎は一人立ち去って行くのであった。
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眠狂四郎と言えば、大映の市川雷蔵版が有名だが、これは、それ以前に作られた最初の「眠狂四郎」の映画化作品である。
雷蔵のイメージが強烈なせいもあり、鶴田浩二の姿に最初はやや戸惑いを感じないではないが、おそらく小説の挿絵などで既に確立していた姿形などに従っているため、後年の眠狂四郎像とそう大きな差はない。
円月殺法も、後年ほど様式化されたり、強調されてこそいないが、身体の前で剣をゆっくり回す動作は既に再現されており、ひょっとすると、こちらの方が原作のイメージに近いのかもしれないとさえ思える。
大映版と印象が違っているのは、東宝版は前後編の二部構成になっており、かなり連続活劇調のイメージが強い事。
クライマックスでは、巨大な龍神像の前で舞い踊るダンサーたち…と、まるで「海底軍艦」のムー帝国のよう。
やはり、いかにも田中友幸製作らしいと思わせる。
本作は、この前年公開の「眠狂四郎無頼控」の後編に当たる作品で、最初に大まかなあらすじが紹介される他は手がかりがないため、話のきっかけや人間関係などやや分かり難い部分もある。
さらに、冷月院の決闘シーンの後半など、編集にしては、やや展開が飛びすぎていたりしている部分も気にならないではなく、ひょっとすると、今回観たのは完全版ではないのかも知れない。
実際、キャスト表には出ている宗匠頭巾の隠居役の沢村いき雄など幾人かの人物は、今回観た中には登場しなかったように思う。
ただ、往年の時代劇には、このように話が急に飛んだり、つじつまが合わないものもあり、にわかには判別し難い。
若山セツ子、河内桃子、平田昭彦など「初期ゴジラシリーズ」でもお馴染みの当時の若手がそろっており、女性陣は皆初々しいし、小悪党の忍者役をやっている平田昭彦などもちょっと珍しい。
この時期、人気が高かったらしい小堀明男が、特徴的な風貌を持つ刺客として登場しているが、この時期の一般的な東宝娯楽時代劇同様、期待ほど剣劇シーンに迫力がないのがちょっと惜しまれる。
この一本を観ただけでの印象を言えば、鶴田浩二の眠狂四郎、特に悪くはないが、格別強烈なインパクトも感じないと言うのが、正直な所かもしれない。