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刑事物語 ジャズは狂っちゃいねえ

1961年、日活、宮田達男脚本、小杉勇監督。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

夜の銀座には、雪が降っていた。

ジャズ喫茶「ファンキー」では、バンド「ファイブジャンプス」がジャズ演奏をしている。

タイトル

控え室に戻って来たメンバーたちの内、ドラムの白木(白木秀雄)とペット吹きの高木克彦(上野山功一)以外の者たちは、いつものようにヤクを打ち始める。

連日連夜の仕事の疲れをごまかすためだった。

しかし、そこに入って来たバンドボーイの伸ちゃんこと伸一(清水文夫)は、実兄でサックス吹きの五条健夫(伊藤孝雄)が、ヤクを注射している姿を見て、止めてと注射器を振り払う。

裏口に出た伸一は、そこで兄の五条にヤクを手渡そうとした売人に、止めてくれと飛びかかり、つい激情に駆られるまま、持っていたシンバルで後頭部を殴りつけ、売人を殺してしまう。

驚いた五条は、落ちた麻薬の入った包みを拾い上げると、車に伸一を乗せ逃げる。

その一部始終を観ていたのは、うらぶれた老人だった。

そこに、高木も出て来て、人が死んでいるのに気がつき、公衆電話から警察に通報すると、老人に金を手渡す。

金を受け取った老人は、やって来たイーさんこと井口軍一(佐野浅夫)なる人物に、その金を渡そうとするのだった。

現場にやって来た佐藤源造刑事(益田喜頓)は、すでに初動捜査班として現場を調査していた息子で本庁の部長刑事佐藤保郎(青山恭二)と出会う。

源造は、麻薬に絡む事件だと直感する。

その頃、ガード下の車の中に老人を連れ込んでいた井口は、サブを殺したのは誰だと締め上げていた。

ヤク中の老人は、問われるままに、しんちゃんだと答える。

その頃、兄と一緒に自宅アパートに帰って来た伸一は、洗面所で返り血を必死に拭い取っていたが、部屋に戻ると、又、偽装のため、コッペパンに挟んであった麻薬を取り出し、腕に打とうとしていた兄の姿を見つけ、兄さん、クスリ止めて!と飛びかかる。

しかし、五条は、切れると、サックスが鳴らねえんだよとつぶやくのだった。

そんな兄の姿を見て、伸一は泣き始める。

所轄署では、死んだのは藤田三郎32才、現在保釈中の身だったと源造が報告していた。

凶器は鈍い鉄板のようなものである事、事件当夜「ファンキー」に出演していたバンドは4つあり、最後に演奏していたのは「五条健夫とファイブジャンプス」だったと保郎が追加報告する。

翌日、源造は「ファイブジャンプス」に会うためテレビ局を訪れるが、エレベーターの所で伸一とすれ違うが、面識がないのでそのまま見過ごし、エレベーターに乗ってしまう。

テレビ局の外では、車に乗った井口が伸一を待ち受けていた。

スタジオ階に降り立った源造は、そこにいた追っかけの女2人を見て、放送の女優さんか?と聞いてしまう。

そこに、収録を終えた高木がやって来たので、話を聞こうとした源造だったが、ちょうどエレベーターに乗り込もうとしていた追っかけの二人は、エレベーターの床に血まみれで倒れている伸一の姿を発見して悲鳴を上げる。

高木の口から、その死体が、五条の実弟、伸一だと教えられた源造は、小守刑事(大森安行)と共に、五条のアパートに向かう。

部屋の中から、麻薬の道具類を見つけた源造が、大分やっとるねと五条に聞くと、五条は、仕返しですと答える。

誰のだ?と聞くと、サブの仲間ですと言う。

伸一は、自分からヤクの売人を遠ざけようとして殺してしまったのだと聞いた源造は、夕べ警察に通報したのはあなたかと聞く。

「ファンキー」の控え室では、「ファイブジャンプス」のメンバーたちが、ヤクを追っかけの女二人に打っていた。

それを苦々しそうに見ていたドラムの白木は、老人がドアから顔をのぞかせたので、高木は今いないと教えてやる。

あれは誰かとメンバーが聞いたので、丸山克己(伊藤寿章)と言う、かつてペットで一世を風靡した人だと白木は教える。

そこに、高木と源造がやって来て、追っかけの女の腕をまくると、ヤクの注射痕を見つける。

その部屋にいた全員検挙されるが、高木を取り調べた保郎は、高木と白木だけがヤクを打っていなかった事と、110番したのは高木だった事を知る。

高木は、あの連中とは手を切って、今度、白木さんと二人で新しいバンドをやろうと思っていると言う。

一方、源造は、五条を尋問していたが、そこに様子を見に来た保郎は、五条の顔を見ると、玉置しばらくぶりだったなと親しげに声をかける。

源造が怪訝そうにしているので、保郎は五条と学生時代、一緒に小さなバンドをやっていたのだと説明する。

その時、五条が突然苦しみだす。

クスリが切れたのだ。

それを見た源造は、売人仲間の事をこいつから聞かなければならないのに…と困惑する。

翌日の朝、自宅の中庭でトロンボーンを吹く保郎は、またまた不思議そうな顔をして自分を見る父親に対し、捜査の別働隊になったので、トラに化けて入り込む事したと源造に説明する。

トラとは、エキストラの事で、東京駅に行けば、メンバーの欠員が出来た楽団からの求人があるのだと言う。

東京駅に出かけた保郎は、手配師から、浅草の「音羽」と言う店に連れて行かれるが、欠員かと思われたレギュラーメンバーがやって来たので、その日の仕事はなしになる。

気の毒に思った手配師が、保郎にヤクをやっているのかと聞いて来たので、捜していると答えると、そこの店にいた男(山田禅二)について行けと教えてくれる。

男に、とある場所にあるタバコ屋まで連れて来られた保郎は、「イーさんから聞いて来た」と言えと教えられる。

その言葉通り、タバコ屋の娘に言うと、その娘は奥にいる兄を呼び出し、その兄について行くと、見張りの本多(野呂圭介)が立っている家があった。

そこに入ってみると、そこにはおかしな女(漆沢政子)が踊りを踊っており、あのじいさん、丸山克巳が寝ていた。

保郎は、そこにいた男から麻薬を買うと、相手の目をごまかすため、その場で自分の腕に注射を打ってみせる。

帰り道、保郎は、麻薬に苦しみ、思わず道ばたにしゃがみ込んでしまうが、その時、高木があの麻薬の家に入って行き、年老いた丸山克巳を連れ帰る所を目撃する。

所轄に戻って来た保郎は、麻薬の家の住所を主任らに教えるが、さすがに苦しさは我慢出来ず、源造からの言葉もあり、椅子に身を横たえる。

しかし、その家に踏み込んだ源造たちは、すでにそこがもぬけの殻になっている事に気づき落胆するのだった。

源造は、保郎をタバコ屋に案内した男を署に呼び尋問するが、イーさんと言う人物の本名が井口軍一だと言う事、井口のヤサは横浜のパイラ辺りらしいと言うくらいしか知らなかった。

その頃、横浜では、外国人が乗ったモーターボートから陸に降り立つ女がいた。

その女、南マリ子(楠侑子)は、車に乗り換えると移動し始める。

横浜署に来た源造は、井口なら、日ノ出町辺りにいたと教えられる。

一旦帰りかけた源蔵に、署員は、今夜辺り、ヤクの陸揚げがあるらしいので、我々と一緒にやってみませんかと誘われる。

保郎は、ジャズバーを張っていたが、その店にいた丸山克巳を見つけた、あの麻薬の家の見張り役本多は、老人を連れ去る。

それを目撃したバンドボーイは、演奏中のドラマー白木に耳打ちする。

張っていた刑事たちもその後を追っていた。

井口は、とある線路脇の小屋に連れて来られた丸山を、タバコ屋の先が手入れを受けた。お前がちくったんだろうと痛めつける。

その場にいたマリ子は、自分は横浜から11時半の鈍行に乗って来る。

そのじいさんも、使ってみたら?と勧め、自分は外に停めてあった車に乗って横浜に戻る。

その小屋に高木が近づいて来るのを、張っていた保郎は見つけ、すぐさま、本部に連絡を取る。

電話に出た捜査主任(長尾敏之助)は、親父さんは横浜駅で張っていると教える。

源造は、外国人と横浜駅の改札前で別れて、ホームに入って行くマリ子を確認したので、もう一人の刑事に外国人を当らせると、自分はマリ子を追って列車に乗り込む。

しかし、鉄道公安官の協力も得て、マリ子が入った洗面所に踏み込んだ源造は、すでにマリ子の姿が消えている事に気づく。

危険を察知したマリ子は、計画を変更し、車で移動していた。

線路脇で待っていた丸山に近づいて来た高木は、「お父さん!」と呼びかけながら、連れて帰ろうとするが、丸山は「わしはここにいなければいけない…」と抵抗する。

その騒ぎに気づいた本多らが小屋から出て来て高木を妨害しようとしたので、保郎らが駆け寄り、高木と丸山親子を助け出す。

それに気づいたマリ子は、車で逃走する。

本多らを追っていた保郎だったが、犯人の一人は、道路に飛び出した所でタクシーに撥ねられてしまう。

慌てて、運転手が降りて来た所、もう一人の犯人がそのタクシーを奪い逃げ出す。

しかし、そのタクシーは、線路を渡りかけた所で、やって来た列車に激突してしまう。

丸山は、ヤクをイーさんに…と言うので、場所はどこだと問いかけると、クラブ「パシフィック」と言う。

往きが降りしきる中、クラブ「パシフィック」では、白木と高木らがジャズを演奏していた。

そこに井口がやって来て、先に来ていたマリ子とカウンターで落ち合う。

マリ子が井口に渡した辞書の中はくりぬいてあり、その中に麻薬が詰まっていた。

マリ子は、サツが張っていると耳打ちする。

そこに、丸山がやって来る。

その様子をステージ上の高木も見つめていた。

そこに保郎がやって来て、マリ子の側に座るとハイボールを注文する。

その後に、源造も店に姿を見せる。

危険を察知した井口は、飲んでいた洋酒の瓶を、近くにあったランプシャードに投げつけ、その隙に逃げようとする。

それに気づいた白木は、猛烈にドラムを叩き始める。

すぐに井口は取り押さえられ、マリ子も源造に確保される。

保郎は、殺人容疑と言いながら、井口に手錠をかける。

源造は、丸山の様子を見ながら、高木に、お父さんも一度病院で診てもらった方が良いといたわる。

同じ車で帰る保郎は、殺しの犯人は逮捕出来たが…と言葉を濁す。

それを聞いた源造も、麻薬って奴は困り者だとつぶやくのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

刑事物語シリーズの第九話で、上映時間54分の中編作品。

白木秀雄とクィンテットがドラマに絡む異色編。

全体的に、麻薬の恐ろしさを告白するような内容になっている。

これまでのシリーズでは悪役を演じていた上野山功一が善人役を演じ、逆に捜査主任を演じて来た山田禅二や佐野浅夫が、それぞれ脇役と犯人役に回っているのが見所。

佐野の強面振りはなかなか。

保郎が、学生時代に習い覚えたトロンボーン吹きとして潜入捜査をし、自ら麻薬を打って、その苦しみを体験してみると言う辺りは、なかなかアイデアとしても面白い。

麻薬で身を持ち崩したかつての名演奏家と若きペット吹きの息子、さらに同じように麻薬で引き裂かれた兄弟間の情愛表現なども、雪の降りしきる美しい風景と相まって、情感を盛り上げてくれる。

クライマックスに、白木秀雄のソロドラムのリズムを使うと言う辺りの演出も上手い。

安心して観ていられる好編だと思う。