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刑事物語 犯行七分前

1960年、日活、高橋二三脚本、小杉勇監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

群馬県草津町

草津局仮採用の郵便車運転手久保田稔(深江章喜)は、本採用の試験が来週に決まったと、地方局回りへの出発前、郵便課主任(長尾敏之助)から声をかけられる。

その頃、峠では、サングラス姿の男が二人,間もなくこの近くを郵便車が通るのデ抜かるなと打ち合わせをしていた。

タイトル

峠にさしかかった郵便車の前に、急に男が飛び込んで来る。

助手席に乗っていた局員の三島(杉幸彦)と久保田は、驚いて車を降りると、痛がる男の前に来て呆然としていたが、気がつくと、郵便車がバックして行くではないか。

それを追って行こうとした二人だが、強奪されたと分かると、三島は警察に連絡をと叫ぶ。

さらに二人が後ろを振り向くと、先ほど倒れていた男の姿も消え失せていた。

盗まれた郵便車を運転して来た神風(上野山功一)は、待ち受けていた遠州(宮崎準)と共に鍵のかかった後部ドアをこじ開けると、二人して中に積んであった郵便袋を取り出し、近くの竹やぶに入り込むと、そこで中身を別の袋に入れ替える。

事件を知り、車が見つかった現場に駆けつけて来た郵便課主任は、草津局始まって以来の不祥事で、大変な事をしでかしてくれたと久保田と三島をとがめる。

その夜、草津にあるバー「かよ」の二階。

郵便車を襲った遠州、神風、そして当たり屋役をやったハチ(近江大介)の三人は、奪った郵便書留の封を開け、為替の類いは役に立たないからとその場で燃やしていた。

そこに、遠州の情婦加代(南風夕子)が酒を運んで来て一緒に座ると、こっそり為替を一枚盗もうとする。

しかし、すぐに見つかり、遠州から殴られたので、3年振りに帰って来たと思たら亭主面して…と睨みつける。

そこに、久保田も上がって来る。

遠州が手助けの分け前を渡そうとすると、久保田は、自分は分け前はいらない。その代わり、きっぱり手を切らせてくれ。自分は郵便局の本署員になるのだと言い出す。

その時、ハチが、一通の書留を、これはあんたの女房の名前じゃないかと言いながら差し出す。

その書留の差出人欄には、確かに、妻、久保田弘子の名前があり、宛先は東京の「佐藤源造」と言う知らない男の名前だった。

中には、昔お世話になりましたと言う手紙と共に、5000円が同封されていた。

それを見ていた遠州たちは、お前の女房は、主人に秘密で男に金を貢いでいるのか?お前の幸せもガタが来てるなと皮肉る。

旅館の女中の仕事を終え、同僚と一緒に帰る途中だった弘子(香月美奈子)は、夫の久保田が迎えに来ていたので少し驚くが、一緒に下宿をしている饅頭屋の二階の部屋に帰る。

弘子は、久保田の様子がおかしいので訳を聞き、一緒になる時、互いに隠し事をしないと言ったじゃないと迫る。

久保田はようやく重い口を開き、郵便車が襲われ、現金書留が盗まれたと言うが、急に顔色を変えた弘子を見て、お前何か心当たりがあるのか?と逆に問いかける。

翌日、石楠で強盗の記事が新聞に載る。

その夜、仕事から帰って来た弘子に、部屋にいた久保田は、今日、奪われた書留を弁償しろと局から手紙が来た。局に記録されていたお前の書留の相手、東京の佐藤ってどういう男なんだと弘子に突きつける。

その頃、東京の隅田署内でうどんをすすっていた佐藤源造刑事(益田喜頓)は、一人の新聞記者(早野輝)から、何か記事になるような話がないかとしつこく聞かれていたが、心温まる類いの話なら…と言いかけ、結局、話すのを止める。

諦めた記者が帰った後、源造は、届いた書留の中の手紙を読んでいた。

その頃、草津の弘子は、久保田に自分の過去を打ち明けていた。

東京の洋裁学校に通っていたと言うのは嘘で、実は不良の仲間と一緒にいたのだが、そんな自分に親身になってくれ、足を洗わせてくれた刑事さんがいた。あの金は、自分が無銭飲食をした時に、その刑事さんが立て替えてくれたものだ。あなたに過去を知られるのが怖かったので、書留もあなたの勤務時間でない時に出したのと言うと、久保田は驚く。

東京の源造は、通信事故があったが、局が弁償してくれるそうですと言う、弘子名義の文面を読み終えると、同封されていた5000円を確認し、おかしいな?と首を傾げる。

盗まれた書留が自分に届くはずがなかったからだ。

さっそく、源造は、本庁の佐藤保郎部長刑事(青山恭二)に電話を入れる。

父親源造からの依頼で、仕事を休んだ保郎は、源造と共に、列車で長野原草津駅にやって来る。

案内係に招かれるままに「旅館 金みどり」の送迎バスに乗り込み、旅館の横手の間に到着した二人は、女中に弘子を指名する。

草津はちょうど、八助いなり明神の祭りが間近だった。

誰かと思い、横手の間に出向いた弘子は、そこに源造がおり、弘っぺと昔のように呼びかけられたので、驚くと同時に喜び、おかげさまで、今は、その日その日をまじめに過ごしておりますと頭を下げる。

夕食時、弘子は、二人の食卓の前で民謡を歌って聞かせる。

拍手をした源象は、郵便車の運転手をしていると言う旦那様に一度会いたいと言い出し、書留は確かに盗まれたんだねと聞く。

保郎の方も、その後送り直したと言う事はないかと確認するが、弘子は催促をされたと思い込み、ないと謝る。

ばつが悪くなった源造は、弘子の誤解を解くために、自分も民謡を歌い始める。

その夜、下宿に帰って来た弘子は、今日刑事が来て、この前の書留の事を聞かれたが、まるで、届いたかのような口ぶりだったと不思議そうに話す。

それに何も答えなかった久保田は、そのまま下宿を出ると、バー「かよ」に向かう。

二階では、加代を遠州が殴っている所だった。

密告しようとしたのだと言うが、加代は、分け前もくれないでと反論している。

久保田は、みんな、早くこの町をずらかった方が良いと説得するが、この前の稼ぎが思ったより少なかったので、ここに息をひそめていた方がヤバくないと遠州は言う。

翌日、草津署に出向いた佐藤親子は、特定局女事務員(若水朋子)と郵便課主任から、源造に書留を送ったのは久保田だった事実を聞いていた。

佐藤親子は、何故、細君に黙って出したのか不思議がる。

その後、市川警部補(山田禅二)が、呼び出した久保田本人から聞いてみると、恩着せがましくしたくなかったからだと言うので、取りあえず、その場は帰す事するが、聞いていた保郎は、久保田の態度に疑問を抱いていた。

保郎と共に、白根山ロープウエィに乗って山頂に登った源造は、景色は良いし、久保田はシロだった。もう思い残す事はないと、疑問が吹っ切れた様子で、明日辺り帰ろうかと言う。

しかし、保郎はこっそりロープウェイの駅の電話で、石川警部補に、念のため、久保田の本籍を洗ってみてくれと依頼していた。

宿に戻って来た源造は、弘子に、久保田が5000円を送ってくれた事を打ち明ける。

祭りが始まった中、下宿に戻った弘子は、久保田に、どうして5000円なんて持っていたの?何か私に隠しているでしょうと問いただす。

久保田は、自分は郵便車事件の共犯なんだと打ち明ける。

久保田も昔、練馬の鑑別所に入っていた事があり、その仲間に会って、自分が郵便局の運転手だと知られ、今回の計画を立てられ、仲間にならないと、昔の事を郵便局にバラすと脅されたのだと言い、自分は郵便車の道筋を教えただけだから自首すると言うが、弘子はもう首よと嘆く。

私は、あなたが本採用になったら、女中を辞めようと思っていたのに…と悲しむ弘子だったが、やり直しましょう、お互いつっかい棒になりながら…、さあ警察に行きましょうと、久保田と抱き合うが、そこに遠州たち3人が入って来る。

彼らは、久保田が今日警察署に呼ばれたと聞き、心配してやって来たのだった。

今の自首する話を聞いた神風は、ナイフを取り出すと、久保田に襲いかかる。

久保田は必死に抵抗し、もみ合っているうちに、ナイフは神風の腹に突き刺さり、その場で死んでしまう。

遠州は、もうお前も俺たちと同類だ。死体の始末はこちらがやるから、お前も自首するなんて妙な了見は止めろと脅して来る。

その夜、草津の町は祭りでにぎわっていた。

翌朝、賽の河原にやって来た猟師(吉田勇男)は、そこで神風の死体を発見し、驚いて知らせに戻る。

宿で朝食を済ませた源造が、茶を差し出した弘子に、今度ご亭主とも一緒に、白根山にでも登りませんかと誘っていると、突然弘子が倒れる。

それを見た保郎は、これは何かあるに違いないと疑う。

だが、弘子を往診した医者(花村典克)が言うには、いくらか過労気味ではあるが、妊娠三ヶ月なのだと言う。

源造は、息子に思い過ごしだっただろうとからかうと、そろそろ帰ろうと言い出す。

源造と共に、警察署に挨拶に出かけた保郎は、ちょうど賽の河原殺人事件で捜査に当たっていた市川警部補から、依頼していた久保田の本籍を渡される。

それを読んだ保郎は、久保田が19才の時、練馬の鑑別所に入っていた事を知る。

そこに、殺された男の身元が分かったと刑事が報告に来て、神風も又、練馬の鑑別所に入っていた事を知ると、保郎の目が光った。

久保田が練馬鑑別所に入っていたのは、昭和29年2月から8月、そして神風が入っていたのは、同じく昭和29年4月から5月で、両者は同じ時期に練馬鑑別所で出会っていた事になる。

市川警部補は、これで、賽の河原の事件と郵便車強奪事件が結びついたと結論づける。

それを聞いた保郎は、父さん、こりゃあ、もう4、5日、東京に帰れませんせんねと笑ってみせるのだった。

源造は、久保田の勤務振りを外から監視する事にする。

手紙の仕分けをしていた久保田は、自分宛で、差出し名がない手紙を発見、中を開けてみると、もう一度チャンスを与えてくれと言う、遠州からの手紙だった。

下宿に帰った久保田から事情を聞いた弘子は、自首を進めるがm生まれて来る赤ん坊のためにも、仕事は辞められないと悩む久保田。

弘子は、どんな事をしても赤ん坊は自分が育てるからと、久保田に抱きつくが、久保田は、密告したら、後でどんな目に遭わされるかと怯える。

翌日も、佐藤親子は久保田の動静を監視していた。

源造は、今日明日が峠だと思うんだが…と案ずる。

午後1時になり、久保田が運転する郵便車が草津局を出発する。

旅館で働いていた弘子は、時計を見て焦っていたが、やがて、旅館を飛び出すと、久保田の郵便車を追い始める。

賽の河原をひたすら走る弘子、それを尾行する保郎。

一方、郵便車を運転する久保田自身もまだ迷っていた。

弘子は賽の河原を抜け、道にたどり着くが、すでに郵便車は遠ざかって行く所。

思わず弘子は「あんた〜!」と叫びかけ、泣きながら、その場に崩れ落ちる。

そこに近づいた保郎は、傷ついた弘子の手の手当をすると、抱き上げる。

郵便車の前には、道を塞ぐように積まれていた。

三島が、車を降り、それをどけようとした時、近づいて来たハチが、三島の後頭部を殴って気絶させる。

しかし、久保田は、今日は嫌だと言い出したので、ハチは銃を突きつけ、父なし子にしたら可哀想だろうが…と脅し付け、久保田に郵便車を運転させる。

少し先で待っていた遠州は、久保谷銃を突きつけているハチの姿を見て、計画より遅れてやって来た訳を知る。

前と同じように、後ろの施錠されたドアをこじ開けた遠州だったが、中の郵便袋を取ろうとして後ずさる。

その中に、銃を構えた源造が乗り込んでいたからだった。

遠州は笹薮の中に逃走し、源造がそれを追う。

同時に、久保田はハチに飛びつくと、殴りつけ、拳銃を奪い、それで逃亡する遠州の足を撃つ。

倒れた遠州に近づいた源造は、久保田に手伝えと声をかける。

入院した弘子を見舞った久保田は、俺が悪かった。何もかもおしまいだよと自嘲するが、源造は、君は大した罪は犯していないと慰める。

市川警部補について部屋を出ようとした久保田に、待ってと手を差し伸べる弘子。

二人は手を握り合うと、あなた、身体に気をつけてね。猛威一度やり直しましょう。赤ちゃんと一緒に…と語りかける。

それを見ていた源造は、元気で、元気で…とつぶやく。

保郎と、再び峠にやって来た源造は、弘子の幸せをとうとう台無しにしてしまった…と悔やんでみせるが、それは父さんお感傷でしょうと保郎が優しく慰める。

源造には、弘子が歌う民謡が山の向こうから聞こえて来るような気がした。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

刑事物語シリーズの第八話で、上映時間55分の中編作品。

今回は珍しく地方が舞台となり、サスペンスやアクションよりも、旅情部分に焦点を当て、シリーズの中でもちょっと雰囲気が違う異色作になっている。

久保田を演じる深江章喜は、シリーズ三度目の登場。

その妻弘子を演ずる香月美奈子と、神風を演じている上野山功一は、前作「知りすぎた奴は殺す」に次いでの出演、また、草津署の市川警部補を演じている山田禅二は、前3作では東京での源造の上司役を演じている。

劇中に登場する「旅館金みどり」と言うのは、今でも実在する有名な旅館のようで、タイアップだったと言う事なのだろう。

捜査ものとしては地味な内容だが、美しい地方の風景を背景に、小さな幸せを掴もうとする貧しい男女の夫婦愛と、それを温かく見守るいつもながらの源造の人情味をコンパクトにまとめており、なかなか味わい深い作品になっている。