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怪談片目の男

1965年、東映東京、高岩肇+宮川一郎脚本、小林恒夫監督作品。

※この作品にはミステリ要素があり、最後に意外な展開が待っていますが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、ご注意ください。コメントはページ下です。

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ここは海の墓場だ…

もうすぐ朝がやって来る…

俺はここを抜け出す…

俺の棺は冷たいままにしておこう…

若い奴らが冷たくするのなら、俺は恐怖でお前を君臨しよう。

もうすぐ朝がやって来る…

 

難破船の残骸が残る海岸で、捜査隊が一体の水死体を引き上げる。

駆けつけて来た妻の美千子(中原早苗)に確認してもらった所、恩田産業社長恩田晃一郎(西村晃)の死体で間違いないと言い、気を失う。

それを同行して来たカメラマンの下田宏(川津祐介)が支える。

二日間、水中に遣っていた恩田の死体の顔の左目は無惨に潰れていた。

タイトル

葬式が執り行われ,恩田の遺体は棺に納められ、死体安置所の中で、神父を始め、美千子、下田、恩田の会社の専務大西重雄(三島雅夫)、会社秘書秋山圭子(安城百合子)らで最後のお別れが行われていた。

下田が、その姿をカメラに収めていると、口の不自由な女中生方ぬい(田代信子)が駆け込んで来て、釣り好きだった恩田愛用の釣り竿を差し出す。

一緒に棺に入れてくれと言う意味と解した下田が、その釣り竿を棺の中にいれ、蓋を密閉するかんぬきを打ち込む。

その後、宇野弁護士と言う聞き慣れぬ人物からの、恩田の遺産問題で別荘に来てくれとの手紙を受け取った美千子と下田は、先に到着すると、いずれは恩田の遺産として自分たちのものになると思い込んでいた別荘の寝室で抱き合っていた。

下田は、亡くなる直前、恩田を背任横領の汚名で追い込んだのは大西で、奴は油断が出来ないから気をつけた方が良いなどと美千子にささやきかける。

しかし、美千子から抱いてとせがまれたので、自分たちのベッドに向けたカメラのセルフタイマーを押した下田は、すぐさま美千子の身体を抱きしめ、その瞬間を写す。

やがて、同じように、宇野弁護士なる人物から手紙をもらったと言う大西と秋山が連れ立って別荘に到着する。

それを出迎える形となった下田は、社長を背任横領に追い込んだのはあなたとしか思えないと大西に嫌みを言うが、大西の方も、下田のこの場での立場に疑問を差し挟む。

それに対し、下田は、自分は生前の恩田から、個人的なパトロンとしてイタリアに勉強させに行かせてもらったカメラマンだと自己紹介する。

大西は美千子に、この屋敷は、もはや恩田家とは無関係のもので、新しい会社の所有となっており、恩田が作った借金の穴埋めに使うと言い聞かせ、美千子を凍り付かせる。

やはり、下田が予言していた通りの筋書きになって来たからだ

さらに、恩田の妹の夫で、恩田の死亡診断書を書いた医者の深沢治夫(上田忠好)もやって来る。

晃一郎から、生前、自分の病院を保証してくれると期待して借金をしていたと言う深沢は、もし、今、九州に降り、大雨の影響でここに来るのが遅れていると言う宇野弁護士なる人物が新しい遺言話でも持ち出せば、自分は破滅だと怯えていた。

そこに、駐在(小沢昭一)が一人の少女を別荘の玄関に連れて来る。

美千子が名を尋ねると、大きな人形を抱いた少女は武田陽子(北条純子)と名乗り、パパに会いに来たのだと言う。

そのパパとは誰の事かと聞こうとした武田陽子だったが、奥から現れた生方ぬいがさっさと連れて行ってしまったので、女中の娘かだったのかと、その場にいたみんなは納得する。

しかし、さらにその直後、車いすが玄関に持ち込まれると、見知らぬ男が一人の若い女性を車いすに乗せて帰って行く。

園雪子(北条きく子)と名乗ったその足の不自由な女性は、交通事故で轢かれた車に乗っていた恩田から、生前ずっと世話になっており、公正証書まで取り交わしていたと証したので、始めて聞いた美千子は愕然となる。

その様子を見た雪子は、結婚前の話だし、自分は金目的で来たのではなく、遺産を受け取ったとしても、身体障害者の施設に寄付するつもりだと詫びる。

しかし、全く恩田から聞かされていなかった美千子は、激情のあまり、屋敷を飛び出してしまう。

それを追って来た下田は、あの屋敷だけでも、2、3億の値打ちがあり、借金の穴埋めをしても相当残るはずだし、あの足の不自由な女にしても、大した金額は要求しないだろうと美千子を慰めようとする。

その時、棺を納めた墓の扉が開く音が聞こえたので、その方に二人が向かってみると、雪子が墓に向かって必死に祷っていた。

やがて別荘に夕闇が迫り、コウモリが群れ飛ぶようになる。

台所で女中のぬいと一緒にいた陽子は、持っている人形はしゃべる人形で、キャシーと言うのだとぬいに話しかけるが、ぬいは黙々と食事の準備をすると、それを車いすの雪子の二階の部屋に持って行ってやる。

雪子は、その夕食のスープを、近づいて来た黒猫に飲ませてやる。

その直後、スープを飲んだ黒猫が死んでしまったので、雪子は大声を上げる。

同じ頃、同じ食事をとっていた他の招待客たちは、時ならぬ、雪子の悲鳴に驚いて、何事かと階段下に集まる。

誰かが私を殺そうとして毒を盛ったと叫ぶ雪子の言葉と、黙って、黒猫の死骸を下げて階段を下りて来るぬいの姿に凍り付く招待客たち。

しかし、同じスープを飲んだ自分たちは何ともなかったので、きっと猫は別のショックで死んだのだろうと深沢は説明するが、その時、シャンデリアの明かりが消えてしまう。

さらに、墓の扉が開く、不気味な金属音が響いて来る。

その後、今度はどこからともなく、「トロイメライ」のメロディーを奏でるヴァイオリンの音が聞こえて来る。

死んだ恩田が好きだったメロディーだった。

何者かのいたずらだと感じ、怒った下田は、恩田の愛用ヴァイオリンが置いてある部屋へと向かうが、「トロイメライ」の楽譜と弓が置いてあるだけで、ヴァイオリンは、ガラスケースに入ったままだった。

そこへ美千子と深沢もやって来て、部屋に人影がない事を確認する。

下田と美千子は、すぐに部屋を辞去するが、一人残った深沢は、殺気のヴァイオリンの弾き方は晃一郎のものだったとつぶやいていたが、やがて、自分が部屋に閉じ込められた事に気づき、又、あのヴァイオリンの音が響いて来たので、怯えて階段を滑り落ちてしまう。

その頃、玄関ホールにいた大西は、これ以上ここで待たされていてもしようがないので、東京に帰ると息巻いていたが、その時電話が鳴り、大西が出てみると、大雨で飛行機も列車も動かないのだが、飛行機で明日到着するので待っていて欲しい。今回の遺産問題には複雑な事情があるので…と言う宇野弁護士からのものだった。

そうまで言われると、さすがに大西も、もう一晩だけ別荘に留まるしかなかった。

その夜、寝室で寝ていた美千子は、誰かがドアの鍵を開けて入って来る気配に気づき身を固くするが、それは下田だった。

美千子は、抱きついて来た下田に、他の招待客たちは、自分たちの事を気づいているのではないかと心配するが、その時、窓から一匹のコウモリが飛び込んで来る。

下田は、そのコウモリを掴まえると、「あの時もこうやって…」と言いながら、水槽の中に沈め殺そうとする。

下田と美千子は、二人で恩田の身体を浴室の湯船に押さえつけ、溺死させた日の事を思い出していた。

二人は、溺死した恩田に釣りの格好をさせ、車に乗せ海辺まで運ぶと、恩田の身体を愛用のボートに乗せ、釣り竿を持たせ、あたかも釣りをしているようなポーズを付けた後、船の中に水が入り込むよう栓を抜き、ボートを発進させる。

岸から遠ざかるボートを見送っていた下田は、美千子に、ガソリンが切れた頃には、あの船は水浸しになる…とつぶやいていた。

そんな下田と美千子は、浴室から聞こえて来る水の音で現実に戻る。

その浴室の近くを通っていた雪子は、開いていたドアから中をのぞき、湯船の中に浮かんだ不気味なサングラス姿の神父の姿に身をすくませる。

次の瞬間、背後から肩に黒猫が飛びかかって来たので悲鳴を上げてしまう。

そこに下田と美千子が駆けつけて来て、浴室の中を覗き込むが、雪子が言うような恩田の姿はない。

しかし、湯船の中から、一枚の写真が浮かび上がって来る。

それは、下田と美千子がセルフタイマーで写した自分たちのベッドシーンが写ったものだった。

そこに、騒ぎを聞きつけた大西たちもやって来たので、下田は慌てて写真を拾い上げると、背中に隠す。

雪子が、神父の服を着た社長が、確かに湯船の中にいたと証言すると、それを聞いた深沢が「そうだ…、あの男は生きている…。死亡診断書を書いたのは私だが、生きている…」とどこかうつろなまなざしで同調する。

一人落ち着いて寝室に戻った大西だったが、秘書の秋山圭子が、深沢の様子が変と言いながら、怯えてやって来る。

しかし、大西は、二日も水に浸かっていた死体が生き返るはずがないと動ずる気配を見せない。

翌朝、一人に写真の現像をしていた下田は、棺桶を安置した墓の中で写した写真に、サングラスを下もう一人の神父が写っている事を発見する。

一方、遅れて食卓にやって来た大西に、先に朝食を済ませていた美千子が、新会社の専務に大西さんがなっているとは知らなかったと当てこする。

同じく食事を終えていた雪子が、夕べは本当に社長を見たと言い張るので、全員で墓に向かってみる。

すると、そこには、あの駐在が待っており、海で拾ったが、ここの社長のものではないかと釣り竿を美千子に手渡す。

それは確かに、恩田の愛用していた竿だったが、葬儀の時、棺の中に一緒に入れておいたはずだった。

全員で墓の中に入り、棺のかんぬきを外し、蓋を開いてみると、中に入っていたのは、何と深沢の死体だった。

恐怖に狩られた秋山圭子は墓を飛び出して一人屋敷の中に戻る。

すると、そこに、死んだ恩田が常用していたクスリ瓶が置いてあるのを見つける。

圭子は、そのクスリ瓶を手に取ると、恩田と一緒に車に乗り、この別荘に向かっていた時の事を思い出していた。

恩田は、この辺は満潮にならないとなかなか魚が釣れないので、船で起きに出るのは8時頃になるだろうと、圭子から手渡されたクスリを飲みながら答えていた。

圭子がその日に手渡したクスリは、深沢から手渡された、手足が麻痺する毒が混入した錠剤だった。

その夜の8時過ぎ、深沢、大西と共に、別の船で、恩田のボートに近づいた圭子は、釣り竿を出したまま動けなくなったように見えた恩田を、ボートに乗り込んだ大西が海に突き落とすのを見ていた。

回想に耽っていた圭子は、雷鳴で現実に戻る。

外は大雨が降り始めたので、窓を閉めようと近づいた途端、窓の外に、サングラスをした神父が立ち上がる。

驚いて飛び退いた圭子は、床にひれ伏しながら、「社長さん、お許しください!専務に頼まれたんです」と言い訳を口にする。

同じ頃、屋敷に戻っていた下田は、棺の中で見つけた深沢の死体について、警察に届けるべきか否かを大西と二人で話し合っていた。

大西は、深沢の死体は見なかった事にしようと言い出す。

そうした言動を聞いていた下田は、あなたは、社長の死に関して、何か隠していないかと問う。

一方、大西の方も、下田と美千子の関係について、疑わしいと反論する。

そんな所に、陽子がやって来て、人形のキャシーちゃんがいなくなったと言う。

しかし、大西に冷たくあしらわれたので泣きながら戻って来る所を、車いすの雪子に呼び止められる。

陽子から訳を聞いた雪子は一緒に捜してやると、陽子を膝の上に抱きかかえてやると、陽子ちゃんは何しにこの家に来たのと聞く。

すると、陽子はパパに会いに来たと、一枚の写真を出してみせる。

そこには、陽子と一緒にいる恩田の姿が写っていた。

何でも、ママは死に、パパが施設にいた自分を読んでくれたのだと言う。

それを聞いた雪子は、大切なものだから、誰にもこの写真を見せちゃダメよと陽子に言い聞かすのだった。

下田、大西、美千子の三人は、酒を飲んでいた。

その時、持っていたブランデーグラスの中に、血が滴り落ちて来た事に気づいた美千子が上を見ると、照明器具のフード上に黒猫の死骸が乗っていたので悲鳴を上げる。

しかし、落ち着いて見直すと、それは黒猫の絵が描かれたフードだったが、床に生きた黒猫がいる事に気づく。

下田は、黒猫は二匹いたのだと説明する。

そんな彼らは、二階から階段を転がり落ちるように下りて来た秋山圭子を見る。

圭子は「ダメだわ。いくらお詫びしても、社長は許して下さらない。私は頼まれただけ。眠っている社長を…。何もかも警察に言って来る!」とつぶやきながら、外に飛び出して行く。

あわてた大西が後を追いかけて行く。

圭子は、難破船がある海辺までやって来ると、難破船の中に乗り込む。

すると、中で、紐で首を括った恩田の姿があった。

それを見た圭子は、「許して社長さん!」としがみつくが、捕まったのは服だけで、勢い余った圭子はそのまま反対側から海に落ちてしまう。

その頃、屋敷に残っていた下田と美千子は、今の圭子と大西の会話から、恩田を海に突き落としたのは彼らで、自分たちが風呂で溺れさせた恩田は仮死状態だったんだと、胸を撫で下ろしていた。

しかし、その時、どこからともなく、「私は死んでいない」と言う恩田の声が響いて来る。

下田、お前は私の恩を忘れ、妻を寝取り、大西も、横領の罪をわしに負わせた…

奇跡が起こったんだ!私は墓の中からよみがえったんだ!

私は、お前たちを一人一人殺して行く…

さすがに怯えた下田は、猟銃を取りに行くと、それに弾を込め、止める美千子の声も聞かず、恩田の声がする屋根に上って行く。

排気口の前には、人形のキャシーが置いてあった。

それを払いのけると、その背後の排気口の中には、サングラスをした神父が隠れていた。

驚いた下田は、屋根から転げ落ち、キャシーと共に地上に横たわる。

美千子は下田に駆け寄りその顔を抱き起こすが、すでに血だらけの下田は息絶えていた。

手に付いた下田の血を洗い流そうと洗面所に向かった美千子だったが、いくら洗っても血は落ちない。

気がつくと、背後にサングラス姿の神父が立っており、その血は落ちない…とつぶやく。

恐れおののいた美千子は、後ずさったため、シャワーの栓をひねってしまい、熱湯が顔に降り注ぐ。

美千子は、顔の一部の皮膚がただれ落ちた事に気づくと、パニックを起こし、洗面所を飛び出して行く。

しかし、どこに逃げても、神父が立ちはだかる。

恐怖に駆られた美千子は、屋根裏部屋に逃げ込むが、そこにも神父は出現する。

サングラス姿の神父は、「俺は、神に代わってお前たちを裁くのだ」と美千子に迫る。

美千子は、神父に、女中でも何でもやるから、命だけは助けてくれと命乞いをする。

しかし、神父は、俺はお前の美しさや身体に惚れたが、今のお前の姿はこれだ!と、美千子の顔を壁の鏡に近づける。

そこに写った美千子の顔は、焼けただれ醜くなっていた。

恐れおののきながら後ずさっていた美千子は、階段脇の手すりが壊れ、そのまま下に落下して死ぬ。

別荘には、海岸で圭子を見失った大西が戻って来ていた。

そんな大西にコウモリが襲いかかる。

酒蔵に入り、酒で気持ちを落ち着けようとした大西だったが、目の前で墜落死している美千子の死体を発見すると、仰天して屋敷を飛び出すと、車で逃亡する。

トンネルの中に入った大西は、暗闇の中に突如出現したサングラス姿の神父の姿に驚いた次の瞬間、壁に激突して死ぬ。

大破した車のヘッドライトには、サングラス姿の神父のネガが貼り付いていた。

屋敷で陽子を寝かしつけたぬいは、廊下で神父の影に気づくと、すぐに、屋敷の中野一室に駆け込むと、古いアルバムから一枚の写真をはぎ取り、近くの教会まで走って行く。

そして、鐘楼の上で鐘を鳴らしていたサングラス姿の神父を見つけると、そこまで登って来て、あんたは、恩田社長の双子の弟だ!と、声なき声で迫ると、はぎ取って来たアルバムの写真を見せる。

そこには、双子の赤ん坊が写っており、その片方の赤ん坊の左目は白く濁っていた。

偽善者!と叫びながら、ぬいは神父を突き落とす。

神父はかろうじて、鐘の綱に捕まる。

恩田は、海に落とされた瞬間、その冷たさで気がついたときの事を思い出していた。

何とか陸に泳ぎ付いた恩田は、双子の弟、山内健二郎(西村晃-二役)のいる教会に逃げ込むと、もう人間を信じられなくなったし正気を保てそうもないので、自分の復讐に手を貸してくれと頼む。

しかし、それを聞いた健二郎は、兄の恩田を鐘楼の上に招くと、神は全てをお許し下さるはずだ。一緒に鐘を打ち鳴らして、神の僕になった証としましょうと誘う。

しかし、興奮状態から抜けきれない恩田は、この俺に、神の慈悲など通用しないと、健二郎に詰め寄り、勢い余って落下してしまう。

何とか、鐘の綱にしがみついた恩田を、上にいた健二郎が必死に引き上げようとする。

翌日、神父はぬいから受け取った双子の写真を引き裂いていた。

その後、神父は、車いすに乗る雪子を伸して、海岸にやって来ていた。

雪子の方は、神父は自分を殺すのではないかと疑心暗鬼になっていた。

雪子は、神父と交わした約束を思い出していた。

雪子がこの別荘に到着後、一人で墓所で祈っていた時、墓地の扉が開き、中から出て来たサングラス姿の神父が、彼女を抱きかかえ、墓の中に入れてやると、私が兄を殺したんです…と、教会の鐘楼の上での顛末を話して聞かせ、もはや自分には神父としての資格はない。悪魔に魂を売り死刑執行人になる決意をしたので、手を貸してくれと打ち明けたのだった。

それを聞かされた雪子も、協力を願い出、神父と口づけを交わそうとした所で、外に人の気配がしたので、慌てて、車いすの所へ神父が雪子を運んでやった。

その直後、祈っている振りをしている雪子に近づいて来たのが、美千子と下田だった。

回想から覚め、海岸の岩場まで車いすを押してもらった雪子は、神父に「やっと終わったわね」と話しかける。

「婆さんには気づかれたが…」と神父が答えたのを受け、「後は陽子だけね」と雪子がつぶやくと、神父は驚いたように「子供まで!?そんな約束はしなかった」と声を上げる。

しかし、雪子は冷静に「あの墓の中で、魂を悪魔に売ったときから、恩田の財産は、あなたと私の二人で分けると決意していたのだ」と言う。

その言葉を聞いた神父は、恐れおののいたように、車いすを崖から海に突き落とそうと押すが、その途端、雪子が不自由なはずの足で神父を蹴飛ばす。

そして、次の瞬間、すっくと、車いすから立ち上がったではないか!

足の怪我はとっくに治っており、車いすは生きる為の手段だったのだと言う雪子の表情は、今までの清純なものから豹変していた。

雪子は、車いすにしがみついて来た神父を、逆に車いすごと崖から突き落としてしまう。

その後屋敷に戻って来た雪子は、寝ていた陽子を起こすと、毒を混入したミルクを飲まそうとする。

そのコップの白いミルクに神父の姿が映る。

崖から落ちた神父が戻って来たのだ。

雪子は屋敷内を逃げるが神父は執拗に追って来る。

物置部屋に入り込んだ雪子は、そこにあった銛で神父に抵抗するが、難なく、神父に捕まってしまう。

堪忍して!と命乞いする雪子に、神父は、「私を誰だと思っているんだ?」とサングラスを取る。

さらに、左目の白目をえぐり出すと、それはコンタクトだった。

神父は健二郎ではなく、兄の恩田晃一郎だったのだ!

教会での鐘楼の上、一度は落ちかけて鐘の引き綱につかまった晃一郎を助けようと、必死に綱をたぐり寄せていた弟健二郎は、重さに耐えかね折れた手すりと共に落下し死亡してしまう。

その後、何とか綱をよじ上り生き延びた晃一郎は、死んだ健一郎の義眼を細工し、健二郎に成り済ませていたのだった。

恩田は、真相を知り驚く雪子に、「お前が最後の一人だ。長年の同情心をだまし、弟を愛した事を許せると思うか!」と迫る。

雪子は手近にあった銛を再び握ると最後の抵抗を試みるが、恩田に奪い取られた弾みに転び、床に落ちていた灰かき棒に突き刺さり死亡する。

陽子は、誰もいなくなった別荘の中で、「パパ、早く帰って来て」とつぶやきながら、人形のキャシーと遊んでいた。

それを見つめていたぬいが、不憫そうに抱きしめる。

その様子を物陰から寂しげに見ていた恩田は、屋敷を出て海辺に向かうと、用意していたボートに乗り込み発進する。

ガソリンが燃え尽きた所が、俺の墓場だ…

パパは、海のそこから陽子を見つめているよ、

陽子は、夜空に光るお星様なのだから…

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「怪談せむし男」(1965)に次ぐ「怪談シリーズ」第二弾

「怪談…」と言うタイトルから、和風の怪談話を連想するが、前作同様、洋館風の別荘に、教会、黒猫、コウモリ、洋式の棺桶…などと言ったアイテムが登場する「西洋風」。

さらに、ホラーと言うよりも、どちらかと言えば「散歩する霊柩車」に近い「怪奇ミステリ」もしくは「復讐譚」と言った方が良い内容。

後半、二転三転する仕掛けが施されており、一見、怪奇現象と思われるものも、一応理屈がつくような描写がしてある部分もあり、いわゆる「幽霊話」の類いではない。

ただし、本格ミステリほど厳密な説明がしてある訳ではないので、見終わった後、釈然としない部分も多々残る。

一番気になるのは、冒頭、海から引き上げられた恩田の左目が無惨に潰れている描写がある事。

これへの説明は最後までない。

想像するに、鐘楼から落下し、死亡した弟健二郎の義眼を細工して、あのような細工を左目に施した恩田が、捜索隊に見つかるまで、じっと水死体の振りをして海に潜っていた。

その後、義弟の医者深沢に、偽の死亡診断書を書かせ、その秘密を知っている深沢を後で殺した…と言う事なのだろうが、この辺は、じっくり考えないと理解出来ないし、陸上で発見されると言うならまだしも、水の中で発見されるのを待っていると言う設定からして、かなり無理のある細工と言うしかない。

又、口が不自由な女中ぬいが、双子トリックを神父に問いつめると言うシーンも不自然。

画面上は、ぬいのセリフが字幕として出て、むいの気持ちが神父に伝わっているかのような表現になっているが、これもかなり無理があると言うしかない。

怪奇ものとしても、不気味であるはずの神父役がサングラス姿なので、神父ネタをしている頃のタモリを連想してしまい、怖いと言うより、つい笑ってしまい、全体的に怖さは希薄。

西村晃と言えば、あのぎょろっとした目が特徴的なのに、この話では「片目」がトリック上のポイントになっている為、話の展開上、かなりの部分をサングラスで隠さざるを得ないのがつらい。

登場人物の中で、幼女の陽子同様、終始清純なイメージだった雪子の豹変振りなどは面白いが、車いすから立ち上がる所などは、今の目で観ると、意外な演出と言うよりも、ギャグすれすれに見えなくもなく、せっかくのクライマックスで緊張感を欠いてしまっているような印象がないではない。

中原早苗も、後半、醜いメイクなどを施し熱演しているが、メイクも中途半端で怖さには結びついていないの惜しい。

かなり出来が良かった「怪談せむし男」に比べると、物足りない二作目と言うしかない。