1973年、松竹、古谷三敏原作、ジェームス三木脚本、野村芳太郎脚本+監督作品。
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雨野大助(三波伸介)28才と本田冬子(倍賞美津子)22才は、昔通った幼稚園で結婚式を挙げた。
二人の出会いは、八百屋をやっている冬子の実家で会社帰りに買った野菜の値段のおつりが50円多かった事に気づいた大助が、その日の深夜、二駅も歩いて返しに来た事だった。
おつりを渡した自分の計算違いに気づいた冬子は、大助の正直さに感心し、帰りかけた大助を追いかけ、その場でキュウリを土産に渡す。
結婚式で披露されたそのエピソードから、冬子さんにはキュウリ夫人になって欲しいと挨拶する大助の勤める会社、桃栗建設の同僚の南村不二夫(小山田宗徳)と、大学時代同じ砲丸投げ部の後輩に当る由美子(吉田日出子)は、新婚旅行に出かける二人を駅で見送った後、一緒にお茶でもと声を掛け合う。
新婚旅行で熱海に向かう列車の中、冬子に、今後は、思いっきり尻をひっぱたいてもらえれば、自分は課長にも部長にもなれると思うと話しかけ、冬子もそうしますと誓うのだった。
ホテルに着いた大助は、後から冬子も一緒の風呂に入りに来ると考え、1時間も入浴していたが、冬子が下の大浴場に行ってしまったので、のぼせて部屋に戻って来る。
初夜を迎えようと布団に入りかけた二人は、窓の外に火の手が上がっている事に気づく。
風呂場から出火したのだ。
あわてて外に逃げ出した二人は、とんだ新婚旅行になったと驚くが、もらった餞別も旅行クーオ運も焼けてしまったと落ち込む大助に、冬子は、この際、ホテルに水増し請求しようかと提案する。
しかし、真っ正直な大助が、そんな事は出来ないと言うのを見ると、冬子は改めて大助に惚れ直し抱きつくのだった。
タイトル
10年後
女好きで要領の良い南村は課長になっていたが、大助の方はお詫び係と言う平社員のままだった。
今日も、とあるマンションのベランダが落ちたと言う苦情電話が入ったので、早速南村から命じられた大助が詫びに出かける。
その頃、冬子は、近所の魚屋(高松茂男)に買い物に出かけていたが、そこでばったり昔なじみの由美子と出会う。
由美子があっさり、尾頭付きの鯛とハマチを丸ごと買うので、驚いて訳を聞くと、主人が課長になり、最近分譲住宅を購入したと言うではないか。
いまだにアパート住まいで、貧乏暮らしをしていた冬子は、かつての後輩のその言葉でとたんに機嫌が悪くなる。
その夜、疲れて帰って来た大助は、冬子の機嫌が悪い事に気づくが理由が分からない。
そんな大助に、冬子は、同期の南村が課長になったんじゃないのかとカマを入れるが、大助の返事があいまいなのに切れて、暴力を振るってしまう。
思わず、大助は「鬼婆!」と叫んでしまう。
そんな夫婦喧嘩の最中、ひょっこり冬子の母親豊子(浅香光代)がやって来たので、寿司を1人前電話で注文した大助は、タバコを買いに行くと言いながら部屋を出てしまう。
大助と、それに付いて行っ一人息子のタコ坊(佐野伸寿)がいなくなったので、冬子から事情を聞いた豊子は、由美子に取り入って亭主の出世を頼みに行けと言い出す。
かつての後輩にそんな事は出来ないと渋る冬子に、それが出来ないようじゃ、サラリーマンの奥さんにはなれない。嫌なら辞めて、実家の八百屋の手伝いでもしろと叱りつける。
その時、訪問者があり、出てみると、何と逗子葬儀社(三遊亭円楽)。
特上を一人前注文を受けたので持って来たと言いながら、棺桶を室内に運び入れようとするので冬子と豊子は慌てる。
ちょうどそこへ帰って来たのが大助とタコ坊。
大助は、先ほど自分がかけた電話が間違っていた事に気づくと、冬子や義母、そして、どうしてくれるんだと開き直る葬儀屋までにも謝罪しまくるのだった。
翌日、由美子はカステラを手みやげに、由美子の家を訪れる。
冬子は恥を忍んで、係長になるのは課長の推薦ですってねと、遠回しに贔屓を頼む。
しかし、立場的に優位に立つ由美子は、かつて大学時代しごかれた冬子の事をちくちく攻撃して来るが、唯一、南村の女関係の事だけは気にかかるらしく、それとなく冬子に、何か情報を知らないかなどと聞いて来る。
2号が多く住むので「ひも付きマンション」と呼ばれる建物内に独り住まいしていた瀬戸すみれ(新藤恵美)は、風呂の水を出しっ放しで、下の部屋に迷惑をかけたので、つい同じ課の大助を呼んで謝ってもらう。
自室に招き入れ、すみれが大助に感謝している所に、南村が訪ねて来る。
大助は、何故、課長がこんな所に?と聞くと、南村は、彼女の身元保証人になったのだと言い、今夜付き合えと命じる。
その日南村が会った飲み相手は、付き合いのある下請け会社の神武建設社員黒江(穂積隆信)だった。
南村は、すみれとの関係を大助に気づかれたと思い、それをごまかす為に、大助に酒を勧めるが、大助は飲めないと断る。
しかし、結局、課長命令と言う事で無理矢理飲ませると、大助はその場で昏倒してしまう。
南村が先に帰った後、黒江の部下の土井は、こっそり、気絶していた大助の上着のポケットに金の入った封筒を押し込む。
すみれのマンションに戻り、彼女とベッドインした南村は、冬子に電話を入れ、大助を「デコイチ」と言うスナックに来るよう伝言を頼む。
ふらふらになって帰宅した大助は、ポケットの中に封筒が入っている事に気づくが、南村に呼び出されたスナックに行きくと、それをリベートをもらっているのか?と怒りを交えて押し付ける。
南村は、それを一応預っておくと言いながら、今まで、俺と一緒に飲んでいた事にして、自宅まで一緒について来てくれと言う。
かくして、又、無理矢理、飲めない酒を飲まされた大助は、へべれけになって南村の自宅まで連れて来られるが、日頃の鬱憤が吹き出したのか、由美子のいる部屋に勝手に上がり込むと、むちゃくちゃに暴言を吐きながら暴れ始めてしまう。
翌日、由美子に呼び出された冬子は、大助が夕べ壊した花瓶などを見せられ恐縮するしかなかった。
由美子は、やっぱり能力のない人を係長にする事は出来ないって主人が言うし、会社のお荷物とまで呼ばれているような人では…と、この前のカステラを返して寄越す。
そうまで言われた冬子は激高し、アパートに戻ると、二日酔いで寝込んでいた大助を叩き起こし、課長からもらって来たと「宅地建物取引主任者試験」の参考書を投げ与え、来月行われるその試験に受かるように命ずる。
あまりに急なことを言われた大助は、今のままで十分幸せだと思うけど…としどろもどろになるが、冬子は、昔、新婚旅行へ行く時何と言った?課長、部長になってみせるって言ってたじゃないか!自分は、後輩の由美子が出世したのでクラス会にも行けないのを知らないのかと切れると、それを聞いていたタコ坊も、皆からダメおやじとからかわれているのだと打ち明ける。
冬子は、もし、この試験に受からなかったら離婚するとまで言い出す。
かくして、冬子が指導する大助の体力作りから訓練は始まる。
電車の中でも会社でも参考書は手放せず、冬子が出す模擬テストに0点を取ると、翌日の弁当箱は空にされると言う扱い。
疲れきって帰宅しても、深夜まで冬子に質問攻めに合わされ、答えられないと、タコ坊から、掃除機のホースで頭を叩かれると言う刑罰が待ちかまえていた。
こうしたスパルタ教育の連日で、とうとう大助はノイローゼ状態になってしまう。
南村が、交通費を手渡すと、その札束をホッチキスで閉じてゴミ箱に捨ててしまうし、湯のみにペンを浸け、インク瓶の中のインクを茶のように飲み干して蒼くなってしまったり…
そんな大助は、試験日の前前夜、アパートまで戻って来た所で、大切な給料袋が亡くなっている事に気づき途方に暮れる。
そこにちょうどタコ坊が来て事情を知ると、強盗にあった事にすれば良いとアイデアを出してやる。
それは名案と、早速、スーツを自らぼろぼろにし、身体にも、タコ坊から殴ってもらって傷を付けた大助が帰って冬子に事情を説明すると、冬子は箪笥の引き出しの中から給料袋を取り出して来て、給料日は昨日だったと言うではないか。
さては、明後日の試験の良い逃れをするつもりだったのかと、逆に言いがかりをつけられてしまう。
翌日、顔中傷だらけになり、あまりに憔悴しきった大助の姿を見たすみれは、同情して、今夜ステーキを食べに家に来てと誘う。
その優しい言葉を聞いた大助は男泣きをしてしまう。
すみれのマンションに来た大助は、料理をしているすみれに、自分がこれまで、どんなに冬子から虐待されて来たかを切々と訴える。
ある時は、洗濯機の中に入れられ、ある時は、背中に焼きを入れられたと、シャツをめくってその痕を見せるが、すみれにはそんな痕は見えなかった。
その時、由美子が突然やって来て、興信所から聞いて来たが、うちの南村が来ているはずだと勝手に上がり込んで来る。
しかし、そこでズボンを直していたのは大助だったので、由美子は、自分が勘違いをしていたと気づくと、大助に、今日の事は内緒にしよう。お互い恥だからと言い残して、そそくさと帰ってしまう。
残された大助は、何の事か分からず、きょとんとするだけ。
すみれが出してくれたステーキをたらふく食べてアパートに帰った大助は、冬子も、すき焼きを用意して待っていた事を知り愕然とする。
冬子は、試験前だと言う事で、食事も特別豪華にしてくれていたのだった。
既に満腹だと言い出せない大助は、冬子がドンドン注いでくれるすき焼きを、無理矢理飲み込むしかなかった。
いよいよ、宅地建物取引主任者試験の日が訪れる。
大助は、9時から2時間に渡る試験に臨むが、あがってしまって、答案用紙の字がぼやける始末。
さらに、声を出して問題文を読む大助を注意した試験管の姿が冬子にだぶって見える。
緊張の極致に達した大助の妄想は、ますます酷くなり、首まで埋められた大助を他所に、リヤカーに荷物を積んだ冬子とタコ坊が家を出ようとし、大助の顔を轢いて行く。
さらに、冷蔵庫に入れられ凍り付いた大助は、次に焼却炉に入れられ、背中に火がついた状態で逃げ出す。
試験場は、妄想で暴れる大助で大騒ぎになる。
冬子は、会社の人間から、試験会場から大助が失踪したとの連絡を受け、夕食時になっても戻らないので心配する。
タコ坊も、最近お母さんはモーレツすぎる。ひょっとしたらダメおやじ、自殺するかも…と言われた冬子は、本気で不安になる。
そこに、当の大助から電話があり、酔っぱらった口調でさよなら…と別れを告げられる。
冬子は懐中電灯を持ち、タコ坊と二人で心当たりの場所を探しに行くが、公園にぶら下がったビニールを首を吊った大助の姿に見間違える始末。
その内雨が降って来る。
矢も盾もたまらなくなった冬子は、実家の八百屋に行ったり、由美子の家に行ったりする。
事情を聞いた由美子は、実はこの前とんでもない所を観てしまったと言い出し、寿町の丑寅マンションに住んでいる瀬戸すみれと言う女の所ではないかと教えてくれる。
まさか、大助が浮気をしていたとは信じられなかったが、とにかく瀬戸すみれの部屋を訪ねた冬子は、すみれと一緒にベッドに寝ていた男を見つけ、思わずつかみ掛かってしまう。
ところが、その男は南村だった。
浮気の現場を見られた南村は、大助を係長にするから、今日の事は女房に黙っていてくれと土下座をする。
その後、もう一度、タコ坊と二人で実家に行ってみると、奥の部屋に大助が寝かされていた。
父親の銀平(大宮敏充)が言うには、眼鏡橋のたもとで倒れていたのを見つけたので連れて来たらしい。
豊子は、試験に失敗したら夫婦別れをするんじゃなかったのかい?と嫌みを言うが、あの人は、私が付いていないとダメなのだと冬子はつぶやく。
その言葉を聞いた大助は布団から起き上がって来て謝る。
それを見ていた豊子は、そんな事を言っていたら、いつまでたっても、尻をひっぱたかれるだけだよと呆れてしまう。
ある日、桃栗建設では、社長(豊島泰三)が部長(田武謙三)に、北海道改造計画のプランを話していた。
社長と入れ違いに部長の元にやって来た南村は、最近ノイローゼ気味の雨野を、係長の肩書きをやると言う条件付きで、稚内に転勤させて、ゆっくりさせてやったらどうかと提案する。
かくして、大助は稚内支社の警備係長と言う事になり、由美子と南村に栄転祝いとして中華料理屋に招待される。
しかし、大助本人は、最近失敗続きの自分が係長に抜擢されるなんて信じられず、南村に、リベートの事で僕を丸め込む為に出世させたのか?と詰め寄る。
それを、冬子は関係ないと仲裁に入るが、転勤先が稚内と聞き愕然とする。
そこに突然、瀬戸すみれがやって来る。
すみれとの相手が大助だと思い込んでいる由美子は仕返しよと冬子をせせら笑うが、冬子の方は課長さんの方に御用なんじゃないですか?と余裕で切り返す。
皆のテーブルの前にやって来たすみれは、今度、九州の恋人の所に帰るのでと言いながら、退職届とマンションの鍵を南村に手渡す。
それを見た由美子は始めて、すみれの浮気相手が亭主の南村だった事に気づき、猛然と怒りだす。
おかしなボーイ(伊東四朗)の協力もあり、由美子は店の中で徹底的に南村を痛めつけるのだった。
そんな騒ぎを他所に、悠然と食事を続けていた冬子は、北海道に行くんだったら一人で行ってと大助に告げる。
かくして、単身赴任となった雨野大助は、同僚たちに陰で同情されながら、南村に上野駅で見送られていた。
やがて、列車が出発し、一人寂しく寝台に座り込んだ大助の前に現れたのは、冬子とタコ坊だった。
驚く大助に、冬子は、私がいなけりゃ、お尻をひっぱたく人がいないじゃない。父ちゃんは、田舎の方が向いているかも知れないと、照れくさそうに言い、互いに笑い合うのだった。
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人気マンガの映画化だが、記憶している原作とはかなり違った雰囲気になっている。
原作では、文字通り、不細工な妻の鬼ババに、徹底的に虐め抜かれるダメおやじのM的なナンセンスとおかしさが描かれていたと思うが、映画版では、割と平凡な夫婦愛物語になっている。
やはり、鬼ババ役を倍賞美津子に設定している段階で、ギャグにするつもりはなかったのだろうし、実写で家庭内暴力を表現してしまうと、笑いや洒落にならないと言う配慮かもしれない。
CGなどが発達した今なら、もっとギャグ的な暴力表現が出来たかもしれないが、当時の特撮技術では、せいぜい、ダメおやじの画像を歪ませるくらいが精一杯。
結局、オーバーな暴力表現のシーンは、ノイローゼに陥ったダメおやじの妄想と言う事になっている。
さすがにこれでは笑えるはずもなく、冬子の怪談風メイクなども、本当に不気味なだけで笑いに繋がらない。
後は、亭主の浮気を巡る吉田日出子と倍賞美津子の、女のつば迫り合い…みたいな部分を見せるしかなく、これも、今観ているとどうと言う事もない。
冬子の母親役で登場している浅香光代が、見た目、鬼ババのイメージに近いので、彼女を冬子役として実写化していたら…とか、当時の東映や日活で映画化していたら、もっとハチャメチャな面白さが出たのではないかとも想像するが、下町人情劇と言う枠からはみ出さない当時の松竹としてはこれが限界だったのだろう。
ただし、普通の人情ドラマ、あるいはプログラムピクチャーの添え物として観る分にはそれなりにまとまっていると思う。
冬子の父親役をやっている俳優は、最初、一瞬、エノケンか?と思ったが、キャストロールを良く観ると、同じ浅草芸人の「デン助」こと大宮敏充だったので驚いた。
1976年に亡くなっているので、その3年前の作品だと分かるが、「デン助」のイメージからはほど遠い痩せた姿と、足腰や声が弱っている様子が見て取れて、かなり痛々しい。
「続・てなもんや三度笠」(1963)にも出ていたらしいが、記憶がないので、この作品での姿は、カラーで観られるかなり貴重な映像だと思う。
「てんぷくトリオ」の三波伸介の相方の一人伊東四朗が、後半ちらりと登場しているが、トリオのもう一人だった戸塚睦夫はこの年に他界しているので、この作品にはトリオとしては、出られなかったと言う事だろう。
ピンとして主人公を演じる三波伸介の奮闘振りはなかなか。