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地方記者

1962年、東宝、朝日新聞通信部編「地方記者」より、国弘威雄+関沢新一脚本、丸山誠治監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

田んぼ道を自転車に乗って走る中野俊次(フランキー堺)は、東朝新聞平尾通信社の地方記者。

ちょうど、同じく自転車でやって来る警官と出会ったので、何かないかと聞くが、こんな田舎では何もない。申し訳ないと謝られる始末。

中野は、何かあったら教えてくんせいと頼んで走り始める。

タイトル

自宅兼通信社に帰り着いた中野を迎えた妻の文子(白川由美)が、支局長から電話があり、何かないかと聞いて来た。今取材に行っていると言ったら、戻って来たら電話をくれと言っていたと伝える。

それを聞いた中野は、そうそう毎日、こんな田舎に事件があるかとふてくされる。

その支局では、毎日のように中野に記事の催促をする上坂支局長(清水元)に、記者の吉井(児玉清)が、東京本社へ自分を推薦してくれと、冗談まじりに頼んでいた。

中野の家には、漁師の息子、戸川保(田辺靖雄)がカレイを土産に立ち寄っていた。

工場が海を埋め立てた保証金で、わずか3馬力の焼き玉船を買ったと言うのだ。

その時、又電話が鳴ったので中野が取ると、又上坂支局長だったので、中野はバツが悪い。

地方版はどうするのだ?ニュースとは作るものであると、こんこんと説教される中野。

そんな平尾に、一人の青年がやって来る。

公民館のような所を、大勢の子供たちが覗いているので、何事かとその青年も覗いてみると、村の若い衆たちが芝居の稽古をしている所だった。

演目は「国定忠次」で、その忠治を演じているのは保、指導していたのは中野だった。

中野は、一生懸命、保ら青年たちに芝居を教えていたが、突然そこに割り込んで来た青年が、立ち回りのやり方を伝授してくれる。

その時、消防のサイレンが聞こえて来たので、火事だと慌てた青年だったが、あれは演習だと、中野は答える。

長い間地方暮らしをしているとそのくらい分かると言うのだ。

それを聞いた青年は驚いて、自分は東朝新聞の三浦(夏木陽介)ですと名乗えたので、中野もビックリする。

自宅で話を聞いた文子は、今朝、荷物が届いていたので、分かりそうなものだと笑う。

前任者の本間を本社に取られて、しばらく助手がいなかった中野は、新任の三浦を迎え、すぐさまサツ周りをして来い。サツ周りは顔でやるものだから、紹介や引き継ぎなどはしないと命ずる。

車代は?と三浦が聞くと、自家用車はそこにあると自転車を示す中野。

警察署の場所は?と三浦が聞けば、第六感で自分で捜せと中野は突っぱねる。

結局、右も左も分からず、目的地とは反対の方角に向かって行った三浦を、中野は苦笑しながら見守るのだった。

何とか、警察にたどり着いた三浦から事情を聞いた宮崎警察署長(中村是好)は、中野君の肝試しだと笑う。

側で聞いていた他社の記者たちも、新任の三浦の話を聞いて愉快そうに笑う。

中野さんはスッポンだからと、話しかけて来たのは「はえ取り紙」の異名を持つライバル社の会田(土屋嘉男)だった。

三浦の下宿先になった保の家で、中野と共に三浦の荷解きを手伝っていた保は、三浦をうらやましがり、おらも大学行きたいと漏らすのだった。

船に乗って中野に声をかけて来た、保の両親、漁業組合会長に選ばれた事を面倒くさがっている戸川源造(小杉義男)と女房(三好栄子)は、漁師が役者のまねしてもしようがないと、文化事業の一環として中野が計画している芝居にケチをつける。

中野は、「国定忠次」を保がやるから観に来てくれと返事する。

保は、海岸縁に出来た工場のトンネルから煙が立ち上っているのを見て、いよいよ試運転が始まった事を知るのだった。

その夜は、中野の家に三浦を招いて一緒に夕食をとる事になった。

三浦は、本社の高沢さんがよろしくと言っていたと中野に伝える。

同期の出世をちょっと複雑な気持ちで聞く中野だった。

翌朝、寝ていた中野を、新聞を持った文子が起こす。

他社に抜かれていると言うのだ。

「豚小屋が焼けて、豚が十頭焼け死んだ」と言うもので、書いていなかったのは東朝新聞だけだった。

ちょうど三浦がやって来たので、その事を指摘すると、だって豚くらい…と三浦はふてくされる。

中野は、ここでは豚の死も大きなニュースだ。犬が人間を噛んでも普通だが、人間が犬を噛んだらニュースになると言い聞かせる。

しかし、最初は誰でも抜かれっぱなしで腐ると、しょげた三浦を慰める事も忘れなかった。

何か取って来い!と、中野は三浦を発破をかけて送り出すのだった。

自転車で警察署に駆けつけた三浦は、一緒に警察署に入りかけていた交換嬢の岸部園子(星由里子)と接触してしまい、彼女が落とした弁当箱を車輪で轢いてしまう。

壊れた弁当箱からめざしが飛び出したので、恥ずかしがった園子は、そのまま警察署に逃げ込んでしまう。

他社の記者に出会った三浦は、豚小屋の事を教えてくれないなんて…、こんなにベテランの人がサディストだとは思わなかったと皮肉を言う。

中野さんは、ふてくされて寝ているのだろうと逆襲されたので、とんでもないと三浦は、朝早くから出かけた中野の事を話す。

中野は、焼けた豚小屋の主、旗尾と言う家を取材しに来ていた。

息子の康夫が青年団からだまされて豚なんか買うから…と愚痴っていた旗尾の言葉を元に、今度は、青年団の梅木孝一(中谷一郎)の所に、養豚業を始めた経緯を聞きに行く。

共同事業として養豚業を始めるつもりだったが、農協の組合長が、金を出してくれなくなったと言う。

今度は、梅木ら青年団に同行し、その組合長(沢村いき雄)の所に出向く中野。

組合長は、借金があるのでこれ以上出資できないと言うが、梅木が言うには、農協から、相場より高いえさを買わされたと言うではないか。

これには怒った組合長が、交渉決裂だ!もう金は出さないと言い出し、両者がもみ合いになった所に、会田ら他社の記者が駆けつけ、取材を始める。

自宅に戻った中野は、自分の取材先をばらしてしまった三浦を叱る。

そんな三浦に、今日はすき焼きだから、一緒に食べて行きなさいと、夕食を勧める文子だったが、三浦は戸川のおばさんが作って待っているからと遠慮して帰ってしまう。

その姿を見た文子は、ああガミガミ言っちゃ…と中野に注意するが、言われた中野は、仕事の事に口出しするなと釘を刺す。

一人娘の浄枝(坂部尚子)と夕食を始めたものの、まだ仕事の事を言っている中野に大使、人には仕事の事に口を出すなと言いながら、自分は仕事の口を平気で家に持ち込む。それじゃあ私たちが…と不満を口にしたので、中野は思わず、外に飛び出そうとする。

その時、ちょうど電話がかかって来たので出た中野は、戸川のおばさんが明日映画を観に行こうとお前を誘ってくれた。気分転換に言って来なさいと言いながら、三浦にこちらに来るように言ってくれと保の母親に伝えて切る。

三浦さんには何の用なの?と聞く文子に、こんなに肉があるのにもったいないじゃないかと、とぼける中野。

翌朝、三浦が、又抜かれたと言いながら、しょげて通信社にやって来る。

しかし中野は、駅前のパチンコ店での喧嘩だろう?と既に知っているらしく、事件が起こったのは夜7時だからうちでは朝刊の締め切りに間に合わない。載せているのは締め切りの遅い地元紙だけだと慰める。

そして、今日は俺と来い。サツ関係の仕事を教えてやると、一緒に警察署に向かう。

机に置いてあった次長の日誌を、警官阿部(堺左千夫)の目の前で堂々と見始める中野。

さらに、はたきかけをするまねをしながら、署長の机に置いてある書類をわざと床にはたき起こすと、それを拾う振りをして中身を盗み見る。

これで、夕べの喧嘩騒ぎの詳細は、かなり分かってしまう。

その時、交換室から出て来たのが園子だったので、三浦は、かねて平尾銀座で買っておいた新しい弁当箱を渡そうとする。

園子は恥ずかしがって受け取ろうとしないが、通りかかったヨッチャンは、もらっとけば?とからかう。

三浦と二人で警察署を出た中野は、表に置いてあったはずの自転車がない事に気づく。

何と、警察署の前で自転車を盗まれたのだ。

深部者の足を奪われたのでは、さすがの中野も腐り、自宅で茶漬けなど書き込んでいたが、そこに警察からの電話が入り、出た三浦が言うには、質屋で自転車泥棒が捕まった。若い女だそうですと伝える。

署長の前で取り調べられていたその娘は、15歳の幸子と名乗ると、東京に出る汽車賃にするつもりだったと、泣いて詫びていた。

どこに住んでいると聞くと、野田だと言う。

署長は、一応現行犯だからと掴まえるようだったが、中野は、警察日誌に載せなければ良いと助言する。

記者が自転車を盗まれたのを、他社の人間に知られたくないからだろうと言う署長に、警察の目の前で盗まれたんでは、署長の面目丸つぶれでしょうと帰す中野。

結局、事件はなかった事にされ、三浦は幸子を自転車に乗せて野田まで送って行く事になる。

野田に付いた途端、自転車がパンクをし、降りた幸子はさっさと逃げ出してしまう。

追うのを諦めた三浦だったが、野田炭坑跡の住宅地のあまりにも貧しい暮らし振りを目の当たりに見て愕然とする。

帰って来た三浦は、分厚い取材メモを中野に手渡す。

今見て来た野田炭坑の事を書いたのだと言う。

しかし、それを見た中野は、ダメだなこの原稿と突っ返す。

すでに、野田の事は、支局でも「黒い失業地帯」と言う記事を既に書いているし、よほど新しい切り口でもなければ使えない。書き直すんだなと中野は言い、君は新聞記事と言うのを簡単に考えすぎているのではないか?と三浦に問いかける。

ちょっと覗いたからって、記事になると思うなと釘を刺す中野。

すっかり落ち込み一人帰る三浦に声をかけて来たのは、交換嬢の園子だった。

大変ですねと言ってくれた園子に、ボクなんか、へっぽこ記者ですよと自嘲する三浦。

その夜、中野も、叱った三浦の事が気になり、寝そびれていた。

そんな中野の様子に気づいて起きて来た文子は、あの人、入社仕立てのあなたに似ていると言い出す。

北富士の演習場土地接収問題の時など、あなたは夢中で私に話していた…と昔を懐かしむ文子。

中野も、三浦のああいう所が大切なんだと一人つぶやくのだった。

その日は、平尾の祭りの日だった。

着物姿に着替えた浄枝にせかされながら、文子は化粧をしていた。

公民館に先に行っている中野は、いよいよ「国定忠次」拾うの当日と言う事で上がっている保を励ましていた。

そんな中、素人女優の一人が長襦袢がないと言い出す。

慌てて家に戻った中野は、タンスをかき回し、シャレた襦袢があっただろうと文子に聞く。

文子がそれなら今着ているわよと言うと、いきなり、すぐに脱げと、中野は文子に身体に手をかける。

保の両親も見守る中、いよいよ舞台で「国定忠次」が始まると、そこに中野を捜して、梅木ら青年団の一団がやって来る。

中野は、セリフに自信がないと言う保のプロンプターを舞台袖でやっていたが、そんな中野に梅木が話しかけて来る。

「青年団と農協の軋轢」と題された記事を突き出し、こんな事書かれちゃ困ると言うのだ。

しかし、それは他社の新聞で、自分は両者に公正な立場で、明日の産業欄に載せるからそれを読んでくれと返事をする中野。

舞台では、いよいよクライマックスの名台詞の場面だったが、保つはセリフが出て来ない。

台本を読みながらセリフを口伝えに教えていた中野だったが、相変わらず「中野さん、中野さん」と青年団が絡んで来るので、とうとう「中野が鳴いて、南の空に飛んでいか~…」などと保が言ってしまい、客席は大爆笑。

ますますセリフを伝え難くなったので、近づいているうちに、中野は姿を舞台上出してしまい、笑いと怒号で、もう客席は大混乱になってしまう。

裏で手伝っていた三浦もこれにはがっくり。

そんな三浦に電話が入り、出てみると、交換嬢の園子からだった。

何でも、警察に連絡が入り、五才の女の子が排水溝に落ちて亡くなったと極秘情報を個人的に伝えてくれたのだ。

横で聞いていた中野は、すぐに出かけようと三浦を誘う。

亡くなった娘の家では、父親田代一夫(佐田豊)が、一人娘奈津代を亡くしたのは自分のせいだと泣いていた。

三浦は、奈津代さんの写真を一枚拝借できないかと持ちかけるが、奈津代が生き返る事ならどんな事を書かれても構わないが、もう記事にするのは止めてくれと断る。

手ぶらで帰りかけた三浦は、親戚縁者への取材に走っていた中野と町中で出会う。

折悪しく、祭りの最中なので、みんな出かけて収穫なしだと中野もこぼす。

それでも、今度は俺が行ってみると、田代家に向かう中野。

一応香典代わりの鐘を仏壇に供えると、名刺を渡して相手に、自分の正体を明かした中野だったが、娘さんが落ちた排水溝は、以前から婦人会などが蓋をしてくれと陳情していた場所、これを教訓として、もっとたくさんの人に真剣に考えて欲しいのだと記事を書く動機を切々と訴える。

こうして中野がようやく手に入れた写真を、通信社で渡された文子が電信で東京本社に送る傍らで、三浦が記事を電話入稿していた。

一段落した所で、中野が嫌な商売だ…、ブン屋は書かないでくれと言われた事も書かなきゃならん…とこぼす。

そんな夫の姿を見ながら、文子は、三浦さんの始めての特ダネだから、今夜はごちそうをしようと明るく言い出す。

しかし、当の三浦は用事があると帰ってしまう。

それを見た文子は、事件を教えてくれた岸部さんの所よと、勘を働かすのだった。

その言葉通り、港で園子に会った三浦は、情報提供の礼を言い、でも君に迷惑がかからないかなと心配する。

ところが園子は、次長の浅岡さんからお見合いを勧められたのだがどうしようと意外な事を言い出す。

返事に窮した三浦は、海に向かって石を投げるしかなかった。

ある日、通信社に電話がかかって来るが、中野は取材で出かけており、文子は現像室で写真の現像中だった。

仕方ないので、娘の浄枝が出るが、高校生からの質問で、ボクシングのフライ級の重さが分からないかと言う内容。

母親に聞いても分からないし、折り返し電話をするので相手の電話番号を聞いて、それを机のメモに浄枝が書いていた時、ちょうど中野が帰って来る。

だが、中野もフライ級の重さについては知らなかった。

ちょうど、現像室から、現像が上がったばかりの写真を文子から受け取った中野は、絵解きでもするかと言い、浄枝に不思議がられる。

ブン屋が言う「絵解き」とは、写真を見ながら記事を書く季節ネタなどを指す言葉だった。

そこに、一升瓶を抱いた梅木ら青年団と農協組合長がそろってやって来る。

中野が書いた「産業欄」での記事が両者に公正だったので、互いの誤解も解け、融資もする事になったと組合長は礼を言う。

そこへ、三浦が駆け込んで来て、工場の汚水で大量の魚の死骸が浮かんだので、今、保君の父親が、工場に押し掛けたと言うではないか。

江見港の工場の前で、漁民らがピケを張った事は、新聞紙上をにぎわせる事になる。

やがて、事件の説明会を工場側が開くと言う事で、三浦と中野も出席する。

多くの漁民や青年団が集まり騒然とする中、朝会議長(左卜全)が開会を宣言し、まずは町長の挨拶を言うが、そんなものはいらないと保の父戸川源造が怒鳴ったので、結局立ち上がった町長は挨拶の機会を逸する。

まずは、東北工業の代表森脇(田武謙三)が登場し、自社では、日新製紙の汚れ事件に鑑み、1億6000万を投じて濾過装置を設置していると説明する。

しかし、それを聞いていた三興製紙の代表が、我が社は1億8000面を投じて濾過装置を設置しており、その装置を通して海に流れる細かい繊維は、魚のえさになっていると言い出す。

これを聞いた源造が、餌になるどころか、みんな死んでいるじゃないかと抗議したので,会場は不穏な状況になる。

工場側代表は、こんな状況ではとても話は出来ないので、ひとまず休憩してくれと提案すると、議長もこれに賛成する。

これで、さらに漁民たちの怒りは沸騰し、青年団なども壇上に上がり込む騒ぎになる。

中野は、三浦を肩車し、この様子を写真に撮るように命じる。

この騒動取材を手伝うため、支局から吉井ら数名の援軍が送られて来る。

通信社はにぎわい、中野は久々に張り切っていた。

そんな中、保がやって来て、今度の事はどっちが悪いんだ?工場できなければ良かったんす…と、中野に語りかける。

保証金もらっただろうって言われるけど、たったの30万もらっただけ。海岸埋め立てられたんでは、沖に行かなきゃ漁は出来ないじゃないですかと訴えてかけて来る。

その夜、中野は一人考え込んでいた。

文子が心配して、明日があるからと諭すが、俺今日、うれしがっていたな。久しぶりに仕事らしい仕事にぶつかって…。バカだな、俺って…と、中野は自嘲するのだった。

翌朝、援軍の江波(山本康)や結城(伊藤久哉)が文子手作りの朝食を食べていると、三浦が駆け込んで来て、戸川が姿を消したと言う。

それを聞いた江波は、斡旋拒否のための組合側の作戦だなと読む。

中野がアジトを突き止めろ!と三浦に指示を出すと、横で聞いていた結城が面白くなって来たとつぶやいたので、中野は渋い顔になる。

記者が取り囲む中、警察署長は、戸川を逮捕すると言い出していた。

通信社では、江波が漁師側に偏っている中野の記事を批判していた。

今回の雲隠れは、保証金を吊り上げるためのものであると言うのだ。

それに対し、生活圏の問題だよと中野は反論するが、結城は、中野の記事は人情に絡まれて甘くなっていると指摘する。

そんな言い争いを止めようとする三浦。

それなら僕は記者失格だと言うのかと気色ばむ中野。

俺はこの土地に根を下ろしている。記者失格と言われれば失格かも知れないが、通り一遍の記事は書かせないと押し通す。

記者たちが出払った後、昨日今日来た人には分からないわよ。あなたは思っている通りに書けば良いのよと、落ち込んでいた中野を慰める。

そこに電話がかかって来て、文子が出ると、隣の市の大浜から保がかけて来たと言うではないか。

すぐに受話器を取った中野は、「タクシー 三浦」とメモに走り書きし、文子に伝言すると、自分は保の居場所を聞き出そうとする。

どうやら予想通り、オルグの連中の口車に乗って移動しているらしい。

出て行けば負けなので、7時になったら場所を移動するとオルグの連中が言っていると言うではないか。

すぐさまタクシーに三浦と乗り、保つとの打ち合わせの場所へ向かう中野だったが、後ろには阿部が乗った警察のジープが付いて来ていた。

敵もさるもの、保つと中野が親しい事を知っており、中野の動静を探っていたらしい。

やがて、前を走っていたタクシーが止まると、三浦が降りて立ち小便を始めたので、阿部も釣られて、ジープを止めさせると、一緒に立ちションを始める。

とたんに、三浦はタクシーに飛び込み、走り去ってしまったので、だまされたと悟った阿部は又ジープで追いかけはじめる。

ところが、その後、草むらから姿を現したのは、いつの間に降りたのか中野だった。

三浦が囮になり、やっと警察をまいたと喜んだ中野だったが、気がつくと、会田が近づいて来た。

彼も、警察の動静を探っていたのだと言う。

何とか、会田を振り払おうとする中野だったが、「蠅取り紙」の異名を取る会田は離れる気配がない。

そこへトラックが追い越して行き、その助手席から文子が手招きしているではないか!

これ幸いと、トラックに飛び乗ると、会田を置いてきぼりにして走り始める。

文子は、岸部さんが、会田さんが動いたって知らせてくれたのだと言う。

中野は、トンネルを抜けた所で一人だけ降りると、文子には囮としてそのまま走って、後でここに迎えに来てくれと頼む。

海岸に降りると、打ち合わせ通り、保、源造らが乗った船が近づいて来た。

彼ら漁民は、中野にすべて任すと頭を下げる。

中野は公正な記事を書くと約束する。

やがて、工場側と漁民側との斡旋交渉に県知事が乗り出したと記事に載る。

中野の家族と三浦は、乾杯をしていた。

帰って行った援軍立ちには、土産としてみりん干しを渡しておいたと文子が報告する。

三浦はしみじみと、少しづつ地方記者の事が分かってきましたとつぶやく。

まだまだ独り立ちなんてと言いながら、急に文子に、地方記者の奥さんって幸せですかと聞く三浦は、その後、慌てたように帰って行く。

その様子を見ていた中野は、あいつの目当てはめざしの所よと、文子に言う。

その言葉通り、海岸を歩く三浦と園子。

三浦は、警部さんとの見合いはもうすんだのかと聞く。

ええ…と答えた園子だったが、私、お見合いしても断るつもりだったんですと言う。

それを聞いた三浦は安心したかのように、ちくしょう!それじゃ、ボクの独占記事って訳だねと喜び、園子を抱きかかえるのだった。

その後、又田んぼ道を自転車で走っていた中野は、向こうからやって来た警官と出会うが、その日の警官も「何にもなくて面目ないス」と頭を下げるだけだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

事件と言う事件もない地方に根を下ろす地方記者の姿を描く作品。

当時の東宝のお馴染み連が登場しているが、中でも注目すべきは、フランキー演ずる中野の一人娘浄枝を演じている坂部尚子。

「ウルトラQ」「悪魔っ子」のリリー役で知られる坂部紀子ちゃんのお姉さんである。

顔が良く似ているので混同しやすい。

魔術師の赤沼役だった小杉義男も、保の父親源造役で出ているし、青年団の一人は、一平役の西條康彦、保と一緒に国定忠次の芝居に出ているのは二瓶正也である。

浄枝が、時々テレビを付けるシーンがあり、画面こそ登場しないが、音楽が流れて来て、NHKの子供人形劇「チロリン村とくるみの木」の主題歌とか、植木等の「スーダラ節」が聞けるのが時代を感じさせる。

話は淡々としており、地方の出来事もほぼ予想の範囲内だし、星由里子と夏木陽介の接近振りなどもありきたりと言えばありきたりだが、のんびり安心して観ていられる雰囲気はある。

平均的なプログラムピクチャーの一本と言った所か。