1955年、東宝、池田一朗脚本、谷口千吉脚本+監督作品。
※この作品はミステリ的要素があり、後半に意外な展開がありますが、最後まで詳細にストーリーを書いていますのでご注意ください。コメントはページ下です。
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あけぼの荘の前の空き地では、大勢の子供たちが凧揚げに興じている。
もうすぐ正月だからだ。
買い物から帰って来た敦子は、そんな子供に身体をぶつけられ、ちょっと迷惑顔。
アパートに入ると、米屋に闇米の注文をしていた女たちが、敦子の顔を見てそっと肩をすくめる。
部屋に戻って来ると、そこにも夫の村上(池部良)と遊ぶ、近所の子供が5人もいたので、帰って頂戴と追い返す。
敦子は、これから夜勤で出かける村上に、無線と車の運転が出来るんだから、おじさんのところで働いてみる気はないかと切り出す。
何故、今の仕事ではダメなのかと村上が問うと、人に愛されない仕事だからだと言う。
その証拠に、部屋の窓には、以前学生に投石されて割れたガラスの痕がいまだに残っていた。
いつも聞き慣れている新妻の愚痴を聞き流していた村上は、3日に1度は夜勤だし、確かに大変な仕事に違いはないが、君もそれを承知で嫁に来たんだから、慣れてもらうしかないと言い聞かす。
しかし敦子は、いつも夜勤の時は心配で寝られないのだと言う。
それでも、出かける村上に、手製のマスコット人形と夜食を手渡すのを忘れない敦子。
明日は忘年会だと知っているので、500円小遣いも渡しながら、酔って唄いながら帰って来ないでねと頼む敦子の言葉が引っかかった村上が訳を聞くと、この前、唄いながら帰って来たあなたの事を、供応酒で良いねと言われたのだと言う。
それを聞いた村上は珍しく気色ばむ。
警官だから、いつも、ただ酒を振る舞われていると思われている事が侵害だったのだ。
誰がそんな陰口をきいていたか聞きただそうとしたが、敦子が黙っているので、ボクは人と違って、好きで警官をやっているのだから、辞めるつもりはない。考えるなら今だよと、敦子にきつく当たってアパートを後にする。
ちょうど、敦子の姉でダンサーをやっている和子(中北千枝子)がやって来て、空き地ですれ違った村上に声をかけるが、村上は返事もせずに通り過ぎて行く。
部屋にやって来た和子は、泣いている妹敦子の姿を見て、新婚七ヶ月目でとうとうやったかとからかう。
所詮、田舎育ちのあなたには巡査がえらく見えただけよと、さらにからかう和子は、パーティ券があると差し出す。
それを見た敦子は、今日がクリスマスだった事を思い出すのだった。
気分を変えようと、ラジオのスイッチをひねってみた敦子だったが、いきなり、鈴木巡査が、ヒロポン中毒者から後頭部を鈍器で殴られたと言うニュースを報じていたので、すぐに切ってしまう。
敦子は、パーティ券をプレゼントする姉に、パーティなんかに着ていくものがないと尻込むが、衣装なら自分のを貸してやるから行こうと誘われる。
本庁では、夜勤担当の警官たちが全員拳銃を確認し携帯していた。
ぞの全員に、鈴木巡査を襲ったヒロポン中毒者の浅沼浩(平田昭彦)の写真が配布される。
その日の訓示を受ける警官たちに、隣の部屋で電話を受ける岡田主任(清水元)の声が聞こえて来る。
子供が5人いる鈴木巡査が亡くなったと言うのだ。
同じような境遇の原田巡査部長(志村喬)も、じっとそれを聞いている。
岡田主任は、浅沼が次に何をやるか分からん。俺の勘だと、逃走用の車を手に入れるために自動車強盗だなと話している。
パトカー33号車に乗り込もうとしていた村上は、今日これからテレビの歌のコンテストに出ると張り切っている、勤務明けの柴田巡査(大村千吉)と交代する。
村上と一緒に同乗しようとした原田巡査長は、「ご老体」と同僚から呼ばれたのでむっとなる。
村上と原田を乗せた警視33号車は、3時間の環状線警邏に出発する。
時間は18時30分。
運転する村上はさっそくバックミラーに、敦子からもらったマスコット人形を下げるが、鈴木巡査は気の毒ですねとつぶやく。
実は、原田の妻も、今日明日辺りに5人目の子供を出産予定と言うので入院中だったのだ。
そこに110番に入電が入る。
大田区大森で強盗が侵入中だと言うのだ。
品川駅前を走っていた33号車は直ちに現場に急行する。
本部の司令室は、連絡が途中で消えたので緊急を要するとせかすが、町はクリスマスのにぎわいで、なかなか前に進めない。
さらに、踏切で阻まれ、後部に42号車まで近づいて来る。
いよいと現場に近づいたのでサイレンを止め、通報車小林清三なる人物の家を捜そうとする村上だったが、いきなり女から水をかけられてしまう。
その女に、小林清三の家はどこかと聞こうとするが、女は何も言わない。
その内、家の中で父親らしき男が、そいつは言葉が不自由だと言う。
その父親に改めて、小林の家がある28番地を尋ねる原田。
父親は、そこは空き地だと言う。
取りあえずそこに向かってみると、そこにいたのは、たき火の前で愉快そうに目覚まし時計を持って立っているバタ屋(沢村いき雄)だった。
バタ屋は、電話をしたら4分半で到着したと喜んでいるではないか。
原田は一目で、その男がポン中だと見抜く。
その現場には、その後も続々とパトカーが到着したので、バタ屋は大喜びだったが、そのまま署に連行する。
いたずらだと分かりカリカリする村上だったが、原田の方は、パトカーから本庁に連絡を入れる。
その後、電気屋の前で、ちょうど柴田巡査が唄っているテレビ中継をやっていたので、覗きに行った村上だったが、電気屋の主人は、警官が来たので何事かとテレビを消してしまう。
村上が正直に、一緒にテレビが観たいと思ってと訳を話すと、すぐに又、スイッチを入れてくれたが、他の客と又観ようとした矢先、原田が猛スピードで走り抜けるタクシーを発見、その車を追跡する事にするが、パトカーに戻ろうとしたその二人の背中に、柴田巡査が落選した鐘二つの音が聞こえて来る。
タクシーはサイレン音が聞こえないのか、80kmオーバーのスピードのまま、なかなか停止しようとしないので、原田は、ひょっとすると指名手配の浅沼ではないかと手配写真を再確認する。
やがて、タクシーは停まり、運転手(柳谷寛)が謝る。
助手席に、子供の土産らしい、アンテナ付きのリモコンの自動車のおもちゃがあったので、その手のものに目がない村上は、ちょっと路上で動かしてみる。
その内、後部座席に乗っていた、客の若い女が高笑いをし始める。
何がおかしいのかと原田が聞くと、女は、鼻が真っ赤な原田の顔がパパにそっくりなのだと言う。
女は、ゆり(根岸明美)と言う名らしく、隣には鳥かごに入ったオウムを持っていた。
タクシーが立ち去った後、村上はあの女は変だ、頭がおかしいのではないかと原田に告げるが、原田は、あの年頃は箸が転げてもおかしいのだと笑う。
その時、新たな110番が入る。
薬屋に、中毒患者らしい不審人物が客として来ていると言う。
さっそく言ってみると、青酸カリが欲しいと言う客が来ていると、通報車である店の主人が言う。
その人物は、何を聞いても答えようとしなかったが、注射の痕はなく、ポン中ではなさそうだった。
野次馬が言うには、その男はブリキ屋のおじさんだと言う。
無抵抗なその男を抱え、ブリキ屋に連れて行った原田と村上は、中にいた子供に声をかけるが返事がない。
最初は眠っているのかと思った村上だったが、異変を察知し、机の前に突っ伏しているその子供に駆け寄った村上は、その首に細紐が巻き付いているのに気づく。
原田が隣の部屋を覗くと、布団の中に二人の子供が、やはり絞殺されて倒れていた。
やりきれない気持ちで、ブリキ屋を所轄署に連れて来た原田と村上は、森川主任(村上冬樹)から、気分転換用に森永キャラメルを渡される。
主任が言うには、ブリキ屋の妻が、この春、男を作って逃げ出したのだと言う。
そこに、一人の子供を連れた中年男が奥から出て来る。
どうやら、手癖の悪い子供を引き取りに来たらしい。
子煩悩は原田は、連れて帰られる子供にキャラメルを手渡してやる。
主任が言うには、今の中年男は、渋谷に住んでいる篤志家の須川と言う人物で、浮浪児などを集めて面倒を見てやっているのだと言う。
ああいう人物の事をブリキ屋が知っていたら、心中などせずに済んだのに…と主任は悔やむ。
パトカーに再び乗り込んだ村上は、子供を道連れにするなんて…と、まださっきの心中事件を引きずって語りだし、下の女の子は、ぼろぼろの人形を抱いていましたね…などと言うので、いたたまれなくなった原田は、思わず止めろと怒鳴ってしまう。
そんなパトカーのライトに、暗がりでキスをしていた恋人が浮かび、思わず逃げ出したので、二人は悪い事したかなと苦笑い。
そこに、また110番通報が入る。
男の他殺体が発見されたと言うので、二人は久々の本格的な事件に出会えると張り切り連絡を入れるが、より現場に近かった警視52号が急行すると先に連絡してしまったので、五反田にいた33号は待機となる。
諦めた33号に入った次の指令は、新宿の暴力カフェで、ビール2本で3万円取られたとの通報があったと言うもの。
苦笑いしながら、そんな高いビールだったら、自分の給料一ヶ月分で1本くらいしか飲めないと村上と言うと、原田は、自分だったら1本と3分の1くらいかなと笑う。
問題のカフェは、クリスマスで浮かれ踊る客でごった返していた。
店の前にいた通報者の中年男に訳を聞き、まだ店の中にいると言う、金を取られた通報者の友達の席に行ってみると、ホステスと一緒だったその友達なる男(上田吉二郎)は、意味が分からない様子。
ホステスも、泣きながら、胸元に入れていた3万円を、もういらないとテーブルの上に置く。
良く事情を聞いてみると、3万を女に渡した客は、岐阜の山奥で材木を切り出す仕事をしているのだと言う。
山には女気など雌鳥以外に全くおらず、半年振りに東京に出て来たら、こんなきれいな女性と出会ったので、思わずキスしてくれと頼んだが、嫌だと言うので、1万、2万、3万と金額を増やして行っただけなのだと言う。
聞いているだけでばかばかしくなった原田と村上は、そのまま店を出ようとするが、ちょうどその時スポットライトが当たったダンサー(メリー真珠)が踊りだし、原田と村上を帰すまいと絡みだす。
その頃、和子に連れられキャバレーにやって来た敦子は、姉の衣装を着せてもらい、飲み慣れない酒も勧められるがまま飲んだ後、姉と組んで踊りだす。
その様子を見ていた中年客が、うぶい様子の敦子に興味を持つ。
同時刻、村上と原田は本庁に戻り、1時間休憩を取っていた。
21時30分。
原田は、娘のしず子に電話を入れていた。
村上は、あけぼの荘に電話をして敦子を呼んでもらおうとするが、まだ帰っていなし、今日は帰らないと言っていたと聞かされ、ちょっと驚く。
その時、警視52からの連絡がスピーカーから聞こえて来る。
42才くらいの男の死体を発見したと言う。
被害者は油の付いた軍手をしており、凶器は拳銃。
アンテナ付きのおもちゃの自動車が現場で壊れていると言う声を聞いた瞬間、原田と村上は無言で部屋を飛び出す。
被害者は、やはり、あのスピードオーバーの運転手だった。
アンテナ付きの車のおもちゃは、無惨にもひしゃげていた。
刑事に、被害者を知っていると話した原田は、自動車は空色のセダンで、客として、18、9の娘が乗っていたと報告する。
それを聞いた刑事は、犯人は自動車泥棒か?と推測する。
パトカーに残っていた村上は、変な女だと言った、あの時の自分の言葉を思い出していた。
その後、警邏を続ける事にした二人は、リヤカーに若い女性を乗せ、口笛を吹きながら自転車を漕いでいる男(土屋嘉男)を見かけ、訳を聞くと、妻(河内桃子)が産気づいたので、病院まで運んでいる途中だと言う。
病院を聞くと遠かったので、その男の乗っていた自転車を近くに交番に預ってもらうと、二人をパトカーに乗せてやる。
男は、パトカーに乗った後も、先ほどの口笛を吹いているので、村上と原田は不思議がる。
後部座席の二人は、警官たちに何か礼をしなければいけないなどとこそこそ話しているので、原田はそんな気遣いは無用だと返事する。
夫はどうやら、売れない作家か何からしいが、その内、この車遅いねなどと言いだしたので、原田は苦笑してサイレンを鳴らしてやる。
その二人を病院に送り届けた原田が、パトカー無線で本庁に連絡を済ませると、先ほどの口笛を吹きながら村上が病院から戻って来る。
何でも、あの妻が一番好きな曲なのだと言う。
パトカーに乗り込んだ村上が良い夫婦でしたねなどと言うので、原田が不思議がると、うちはもうダメだと村上が漏らす。
それを聞いた原田は、やっぱり(夫婦喧嘩を)やったなと呆れる。
警官が事故に遭う一番多いケースが、家庭に問題がある場合だと教える原田。
途中、馴染みのラーメン屋で、夜食のラーメンを頼む。
その頃、和子と敦子姉妹は、先ほどキャバレーにいた男性客らと共にスケートリンクで滑っていた。
敦子は、先ほどの酒が効いて来た事もあってか、すっかり気持ちも晴れたようだったが、その時、表でサイレンの音が聞こえて来たので、又不安げな表情に戻る。
和子が火事だと言うので、勘違いだったかと表に出てみた敦子は、そこで、スケートリンクにいたヨッパライの女(塩沢登代路)を保護する警官たちの姿を目撃する。
野次馬たちにからかわれながら、始末の悪い女のヨッパライに手こずる警官たち。
その姿を見ていた和子の方は大笑いするが、敦子はいたたまれなくなる。
村上と原田は、殺された運転手の家に焼香に行くと、明日の忘年会用に持っていた小遣いを出し合い購入した自動車のおもちゃを置いて辞去する。
二人が家を出た後、運転手の妻は、その車のおもちゃを見て急に泣き出すのだった。
運転手の家を出てパトカーに向かう原田と村上は、これで忘年会に参加出来なくなった。二人の小遣いを足しても動く車のおもちゃは買えなかったなどとぼやき合うが、その時、原田の方が、民家の塀から道に降りて来る子供の姿を認め、その後を追う。
子供がその後戻って行った家は「須川玩具」と看板がかけてあった。
原田が中に声をかけると、応対に出て来たのは、渋谷署で篤志家と紹介された須川だったので、原田は挨拶をする。
須川の方もばつが悪いようで、自分も子供の頃から親がおらず、浮浪児のような経験があるので、こう言う子供の面倒を見る事を始めたが、かえって皆さんにご迷惑をかけるばかりなので、もう工場をたたんで止めるつもリだと言い出す。
その時、二階から「オハヨウ」とオウムの鳴き声が聞こえて来る。
村上の方は、パトカーで待っていた。
そのパトカーに戻りかけた原田は、道についているタイヤ痕を懐中電灯の中に見つけ、その後を辿って行くと、材木置き場の中に車が隠してあるのを発見する。
バックナンバーを注意してみると、二枚重ねしてあったので、上の番号を外してみると、それは、先ほど運転手が殺されたスピード違反の車だった。
驚いて立ち上がった原田は、背後から近づいて来た工員風の大男から後頭部を殴打され昏倒する。
待っていた村上は、子供が、もう一人のおまわりさんが呼んでいるよと声をかけに来たので、須川玩具に出向くと、銃を突きつけられる。
銃を構えていたのは、指名手配中の浅沼だった。
見ると、気絶した原田は後ろ手に縛られ、床に転がっているではないか。
浅沼は、タクシーを見つけられたので、ちょっと僕たちも慌ててね…と薄ら笑いを浮かべている。
村上も、大男に首を締め上げられ気絶してしまう。
浅沼は、原田から奪った自分の指名手配の写真に警察の制帽を落書きしながら、須川に向い、「似合うでしょう。それもそのはず、自分は復員して半年くらい警官をやっていたからね」と笑いかける。
浅沼から、タクシーはパパが使ってよ。僕たちは浦安までパトカーで行くからと言われた須川は、日本を逃げ出すつもりらしい浅沼の勝手な言い分にいら立っていた。
パトカーはこの警官たちと一緒に川に沈めるから心配ないと、須川が愉快そうに説明する。
気絶して床に転がされていた村上が目を覚ましたので、浅沼は煙草をくわえさせてやる。
その時、一人の子供が工場を訪ねて来て、盗んで来た時計を二個須川に渡す。
須川は、その代わりにヒロポンのアンプルを二本、子供に手渡して返す。
篤志家の須川の正体は、実は麻薬で子供を操り、窃盗を繰り返させていた悪党だったのだ。
浅沼は村上に、自分たちを浦安まで送ってくれたら、命は保証すると話しかける。
そんな会話の最中、先ほど民家に侵入していた子供が須川にポン射ってくれ、苦しいんだよと奥から出て来る。
須川は、ヒロポンを渡してやり、それを子供の腕に注射してやろうとした別の年上の子供に、腕だと警察にバレるから足に射てと叱りつける。
やがて、二階から、浩の好きなアフタヌーン(ドレス)よ、と言いながら着飾った女が降りて来る。
オウムと一緒に、スピード違反のタクシーに乗っていた、あのユリだった。
ユリが、原田と良く似ていると笑っていたパパとは須川の事だったのだ。
浅沼が須川をパパと呼んでいるのは、そのユリの愛人だかららしい。
ユリは、転がされている一人が、あの時の警官だと気づくと又笑い出す。
浅沼は、村上が言う事を聞きそうにもないと知ると、その場で始末しようと決意し、大男がスパナを振り上げると、声を出されると困るからと電動ノコのスイッチを入れ、音をごまかそうとする。
村上は、止めろと叫ぶ。
浅沼とユリを浦安まで連れて行く決意をしたのだ。
ユリは、あのオウムの入った鳥かごと気絶した原田と一緒に後部座席、運転はハンドルと手錠でつながれた村上、助手席には原田の制服を着た浅沼が座ってパトカー33号車は出発する。
浅沼は、アクセルを踏む村上の靴の上から自分も踏み、スピードを上げさせる。
浅沼はリボルバーを村上に突きつけ、ユリもコルトを気がついた原田の後頭部に突きつけている。
浅沼が、ユリも銃は上手いよと聞かされた原田は、運転手は背中を撃ったのか?と聞く。
ユリは、原田の耳の後ろに銃口を突きつけたまま、ここが一番確実なのと笑う。
その時、「先ほどから連絡が途絶えているが、故障か?」と、本庁からの警察無線が入る。
警察の事情を知っている浅沼は、マイクを村上に向けながら、変なことを言ったら、原田の目をつぶしてやれとナイフをユリに渡す。
村上は、乱暴をしているヨッパライを保護して渋谷署の湯島警部に引き渡した。現在位置は浅草雷門付近を走っていると伝える。
浅沼は、村上が変なことを言わなかったと安心し、アクセルを踏んでいた自分の足をどかす。
本庁の無線係も、村上のぶっきらぼうな連絡は、いつもの事だったので、この時点では別に気に留めなかった。
すると、間もなく、「警察病院に入院中の、原田さんの奥さんに男の子が生まれたので、何か伝言はありませんか」と無線が聞いて来る。
原田、浅沼が差し出したマイクに向かい「ご苦労さん。後は元気に育ててくれ」と意味深な伝言をしたので、浅沼はあわててスイッチを切ってしまう。
本庁の通信係は、やたらと、33号車からの無線がぶつぶつ切れるのを怪しみ始める。
やがて110番通報が入り、神田神保町で強請が発生との知らせ。
時刻は、早朝の4時半だった。
警察無線から、神保町の事件、一番近くを走っている33号車、そちらに急行出来ませんかとの問い合わせが来たので、聞いていた浅沼は、これには答えても答えなくても怪しまれると判断、そのまま無視しては知り続ける事にする。
33号車からの応答がない事に怪しみだした通信係だったが、そばにいた岡田主任は、渋谷署に湯島警部なんかいたかな?と疑問を感じ、さっそく電話で確認してみると、そんな名前の警部はいないし、パトカーも来ていないと言う。
33号車に異常が発生したと察知した本庁は、33号車の所在不明、見つけたら知らせよとの一斉指令を出す。
休憩中だった警官たちも全員出動する事になる。
33号車を捜せとの電話を受け取っていた某交番では、一台のパトカーが100kmを超す猛スピードで通過するのを確認、直ちに本庁に、該当車らしきパトカーが葛西橋方向に向かったと通達する。
浦安の石炭会社の裏手の海には、浅沼たちを迎えるボートが接近していた。
海上を走る警邏艇24号からは、33号車が浦安方面に走って行ったとの連絡が入る。
目的地が近づいた事を知った村上は、石炭会社の敷地内に付いた時、急ブレーキをかけ、パトカーを横転させる。
必死に、パトカーから抜け出した浅沼は、後部座席からユリを引っ張り上げると、逃走を図る。
その時、浅沼が落として行ったリボルバーを拾った村上は、片手がハンドルと繋がっていた手錠の鎖を、撃って切断すると、自分もパトカーから抜け出し、二人を追う。
後部座席の原田は、後ろ手に手錠をかけられた姿勢にも関わらず,何とか無線のマイクに手を伸ばそうと焦っていた。
浅沼とユリは、巨大な移動式石炭集積機の上に登り、ベルトコンベアの上を逆走して逃げかけていたが、ユリは、ベルトコンベアの動きに付いて行けず、落下して死亡してしまう。
それを上から見下ろし愕然とする浅沼は、集積機に登って来た村上の姿を発見し、コルトを発砲し始める。
横転した33号車の中では、何とか後ろ手にマイクを掴んだ原田が、葛西橋から約1km上流地点、村上を助けてくれと叫ぶ。
それを聞いた通信係は「原田巡査部長!」と必死に声をかける。
海から接近していたボートに乗っていた連中は、土砂の山の上で殴り合っている浅沼と村上の姿を見つけると、猟銃を構える。
原田からの連絡を受けた本庁は、須川玩具会社にも急行を命ずる。
殴り合っている二人の周囲には雪が降り始める。
ボートから浅沼を援護する発砲が撃ち込まれが、やがて、近づいて来た警邏艇24らによって、ボートは確保されてしまう。
力つきて倒れ込んでいた浅沼は、なおも迫って来る村上の顔に土砂を投げつけて来るが、村上は仁王立ちの形相で浅沼に近づいて来て、浅沼の頭をココナッツ割りの要領で膝蹴りして倒す。
その時、横転していた33号車の側に警察車両が到着。
中から原田を救出する。
土砂山の上には、ドロドロに汚れた村上が這い上がっていた。
翌朝、左目の上に絆創膏を貼った村上が、あの出産間近の妻を連れていた夫が吹いていた曲を口笛で吹きながら、あけぼの荘の前の空き地を帰って来る。
八百屋のリヤカーがいたので、妻は実家に帰ったものとばかり思い込んでいた村上が、自炊のためにネギを買っていると、後ろから敦子が声をかけて来る。
村上の絆創膏に気づくと心配し、夕べどんな事があったの?と聞いて来るが、村上は普段と同じさと軽く答える。
敦子には、仕事の話はしない事にしているのだ。
敦子に取ってはそれが不満らしかったが、ボーナスの残りで買ったと言う大きな箱を村上に渡す。
その場で開けてみると、中には、エンジン付きの模型飛行機が入っていた。
さっそく近づいて来た子供に手伝ってもらい、その模型飛行機を飛ばし始める村上だった。
▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼
警視庁が全面協力していると言う事もあってか、なかなか見応えのある作品に仕上がっている。
個人的に、今まで観た谷口千吉監督作品の中では一番面白かったかも知れない。
新婚とベテラン警官コンビが遭遇する一晩の夜勤勤務の話なのだが、ヒロポン中毒が蔓延していた当時の社会状況が良く分かる内容になっている。
特に、子供が巻き込まれる事件は、今観ていても胸を締め付けられる。
途中までは、事件ともいけないような案件と深刻な事件が混合し、言わば、今、テレビなどで流行っている「警察24時」風の、自分たちも一緒に事件に遭遇しているような臨場感と、観客の野次馬精神を刺激するような展開になっているが、そうした中に、ちゃんと後半への伏線がしっかりちりばめられており、正統的なポリスストーリーとしての醍醐味を味わえる。
後半のサスペンスを盛り上げているのは、登場する犯人像の造型の面白さだろう。
平田昭彦演じる浅沼の方は、ヒロポン中毒者であるとは言え、表面的にはインテリ優男風の丁寧な言葉使いと警官経験者であると言う、なかなか一筋縄ではいかない悪人像。
それに輪をかけて、根岸明美演ずるユリと言う娘の冷酷な異常さが、じんわりと観るものの恐怖感を煽る仕掛けになっている。
ラストの、雪の中での土砂置き場での壮絶な戦いも迫力があり、アクションものとしても見応えがあるが、この辺ちょっと、谷口監督のデビュー作「銀嶺の果て」(1947)に通ずる要素もあるかも知れない。
アクションシーンの一部は、スピード感をあげるために、コマ落しをしているように見える。
ちょっと気が短いが、まじめ一筋と言った感じの池辺良と、温厚な志村喬のコンビネーションも定番的組み合わせながら、観ていて安心感があるし、歌番組で熱唱する大村千吉や、ヨッパライを演じてい警官を手こずらせる塩沢トキ、金でホステスにキスを迫ろうとして友人に誤解される上田吉二郎らの絵面なども、息抜き要素としてなかなか愉快。
考えてみると、クリスマスの夜に大事件が起こると言うのは、事件ものやサスペンスものとしては、割と良くあるパターンなのだと言う事に気づく。
華やかに浮かれ騒ぐ街の様子と、その裏側で起こっている犯罪と言う闇の対称が面白いからだろう。