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容疑者Xの献身

2008年、フジテレビジョン、アミューズ、SDP、FNS27社、東野圭吾原作、福田靖脚本、西谷弘監督作品。

※この作品は新作であり、なおかつミステリ作品ですので最後に謎ときがありますが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、御注意下さい。コメントはページ下です。

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テレビで、羽田沖でクルーザーが沈没した事故のニュースが流れている。

事件性はないのかと問いかける女性アナウンサーに、解説者(石坂浩二)が、あの状況でのクルーザー破壊は不可能だろうと冷笑する。

帝都大学のグラウンドでは、湯川学(福山雅治)が、この事件について質問をしに来た内海薫 (柴咲コウ)に、運動量とエネルギーの法則について解説していた。

通常、並べられた複数の鉄球の片方に鉄球をぶつけると、反対側の一個の鉄球だけが、ぶつけた力と同じスピードで飛び出す。

しかし、その並べられた鉄球に超伝導磁石をくっつけて同じ事をやってみると、反対側の鉄球は、ぶつけたスピード+超伝導磁石によって吸い付けられた力も加わり、信じられないスピードで飛び出す…と。

グラウンドには、超伝導磁石を使った大形の装置が設置されていた。

用意が整ったと分かった湯川が、その装置を作動させると、装置から飛び出した鉄球は、グラウンドの向こう側に立てられていた標的を瞬時に破壊し、炎上させる。

唖然とした内海は、こんな大掛かりで特殊な装置なんて作れっこないと疑問を口にするが、超伝導磁石はCTスキャンなど医療分野では馴染みのものだし、クルーザー沈没事件の当日、周辺で強力な磁場の発生による電波障害が起こっていたと湯川は反論する。

しゃくに触ったのか、内海は、湯川には分析ができない事、例えば「愛」などは説明できないだろうと皮肉るが、湯川は真顔で反証しようとする。

タイトル

高校教師石神哲哉 (堤真一)は、隣の部屋の物音が聞こえる一人暮らしのアパートのベッドで目覚める。

ホームレスが段ボールの家を並べている橋下の通路を通り、石神は毎日、高校に出かける。

浜町公園の近くにある弁当屋「みさと」に立ち寄った石神は、店主の花岡靖子(松雪泰子)に、いつものようにおまかせ弁当を注文する。

花岡靖子は、石神と同じアパートの隣人なのだ。

弁当を受け取った石神は、店の前で、見知らぬ男とぶつかりかける。

その男は、その夜、帰宅した花岡靖子のアパートの部屋を訪ねて来る。

開けられた扉から、ずかずか勝手に上がり込んできたその男は、靖子の元夫富樫慎二(長塚圭史)だった。

露骨に迷惑がる靖子に、お前が前に勤めていたバーで、このアパートの住所を聞いてきたと笑う冨樫。

そこに、娘の美里(金澤美穂)が学校から帰って来る。

美里も、父親が来ている事を知ると露骨に嫌な顔をする。

靖子は、財布から2万円を引き出すと、冨樫に与え、帰ってくれと頼む。

金をもらったので、取りあえず帰りかけた冨樫の背後から迫ってきた美里は、手にしていた飾り物で冨樫の高等部を強打する。

驚いた靖子は、娘の強行を止めようとするが、その時、倒れていた冨樫が立ち上がり、娘に挑みかかってきたので、思わず、靖子は、こたつのコードで冨樫の首を締めはじめる。

抵抗しようとする冨樫の手を、しっかり美里が押さえていた。

その物音に、隣の石神が気付かないはずがなく、犯行を終えた靖子は、入口のチャイムが鳴ったので凍り付く。

取りあえず返事をし、目の前に倒れている冨樫の遺体を急いで隠すと、何食わぬ顔で応対に出る。

やって来たのは、もちろん石神で、何かありましたか?と聞いて来たので、思わず、ゴキブリで大騒ぎして…と靖子はごまかそうとするが、表に立っていた石神は、ゴキブリじゃないんでしょう?と問いかけて来る。

仕方なく、覚悟を決めた靖子は、一旦かけていたドアチェーンを外すと、石神を中に招き入れる。

報道のヘリがうるさく飛び回る中、警視庁からやって来た草薙俊平(北村一輝)、柿本純一(林泰文)ら捜査官たちを出迎える地元署の内海は、彼等を発見された全裸遺体の元へ案内する。

発見された男性の遺体は、顔が潰され、手の指紋も焼かれていた。

近くのドラム缶の中では、被害者のものと思われる衣服が焼かれていた。

被害者の身元は簡単に割れた…と、内海が報告する。

冨樫慎二、幸区の簡易旅館に、数日前から泊まっていた事が分かったのだ。

そこにあった遺留品と、現場に乗り捨ててあった自転車から採取した指紋が一致したのだ。

冨樫の交友関係を調べて行く内に、バー「カンドレア」に勤めていた花岡靖子の事が判明した。

早速、花岡の自宅アパートを訪れた内海と草薙は、靖子から12月2日の夜のアリバイについて質問する。

すると、その夜は、娘と二人で日比谷スカラ座で映画を観た後、ラーメンを食べて、カラオケに行き、その後帰って来たと靖子は答える。

部屋の外に出た内海は、部屋にあったこたつのコードは、被害者の首に痕跡が残っていたねじれコードではなかったと草薙に告げる。

階段を降りかけた二人は、登って来る石神とすれ違ったので、ついでに、事件当夜の隣の様子について尋ねてみるが、特に変わった事はなかったと言う。

草薙は、石神が郵便受けから取り出した手紙の中に「帝都大学同窓会」の名前をさり気なく発見する。

二人の刑事が帰って行った後、部屋を抜け出た石神は、近くの公衆電話の中に入る。

その直後、靖子の部屋の電話が鳴り、出た靖子に、怖がる必要はない。映画の半券は、引き出しの中ではなく、パンフレットに入れておくようにと石神がアドバイスする。

公衆電話から電話をしたのは、盗聴の恐れがあるからだと石神は付け加える。

本当に大丈夫なのかと不安がる靖子に、石神は大丈夫、私の言う通りにやっていればと自信ありげに答えるのだった。

帝都大学で教鞭をとっていた湯川の元に、草薙と内海がやって来る。

授業の後、研究室に招かれた二人は、大森で顔が焼かれた遺体が発見された事件が行き詰まっているのだと説明する。

湯川は、アリバイトリック等には興味がなさそうだったが、後日、映画の半券を確認しようと、再び靖子のアパートを訪ねた際、渡されたパンフレットの中から見つかったと聞かされると、ちょっと興味を持ったようで、いきなり1854年、ドイツのエミリーと言う人物が、突然、みんなの観ている前で二人になったと「ドッペルゲンガー現象」の事を話しはじめる。

しかし、現象には必ず理由があるはずで、その半券がトリックだとすると、相手は相当な強敵だと一応感心してみせるが、すぐに興味を失ったのか、学生達に促されるまま、実験の指示に向かおうとする。

その時、草薙が、靖子の隣人は、帝都のOBで石神と言と言う人物だったと漏らすと、石神哲哉か?と湯川は足を止める。

数学の天才だと説明するその口調は、どうやら良く知っている人物のようだった。

その夜、いつものように公衆電話から電話して来た石神に、靖子は、今日、美里の学校にも刑事がやって来たと報告していた。

その後、靖子は、どうして、自分達を助けてくれるのかと石神に問いかけるが、あの男に苦しめられて来たのでしょうと答えるのみ、その後は、又、靖子や美里に今後の指示を与える。

その電話を終え、部屋に戻りかけた石神は、その部屋の前に立っている見知らぬ男の姿を見かけ、思わず立ち止まる。

振り向いたその男は、見覚えがある男、湯川だった。

部屋に湯川を招き入れた石神は、誰からここの住所を聞いたと聞く。

湯川は、君に声をかけた刑事がいただろう。あれも帝都の出身だと答える。

どうして大学院に残らなかったのかと逆に問い返した湯川に、親が寝たきりになったので、行けなくなったのだと説明する。

壁に貼られた山の写真を観た湯川は、まだ登っているのかと聞きながら、今日は、面白い問題を持って来たと種類を渡す。

リーマンを否定した論文と気付いた石神は、ただちに机に向かうと、その反証に取りかかる。

気がつくと、すでに夜は明け、酒を飲んでいたはずの湯川は眠り込んでいた。

毛布を出してやろうと、押し入れを開けた石神は、そこに隠してあったこたつのネジレコードに気付き、一瞬、身体をこわばらせるが、そっとふすまを閉める。

やがて、目覚めた湯川は、論理にミスがあったと指摘する石神が、わずか6時間で解いてしまった事に、天才はまだ健在だったと喜び、出勤する石神と共に部屋を出る。

ホームレスが居着いた場所の横を通り、浜町駅への通路入口に到着した湯川は、石神と別れるが、少し立ち止まった後、そっと後ずさると、横を曲がって行った石神の後ろ姿を見つめるのだった。

一方、捜査会議に参加していた内海は、女性と言う事でなのか、本庁の刑事からコーヒーを入れさせられたりしていたが、そんな中、「遺体発見現場で待っている」と言う湯川からのメールを受け取る。

あれほど、この事件には興味を持っていなさそうだった湯川が乗り出して来た事が意外だったが、取りあえず現場で湯川と落ち合うと、遺体発見現場に案内してやる。

冨樫が乗って来た自転車は盗難届が出ていたと教えると、その自転車は新品ではなかったかと湯川は問う。

その通りだったので、内海が驚くと、犯人は盗難届を出して欲しかったからだと湯川は説明するが、その理由についてはさっぱり分からんと言うのみ。

その日、高校の仕事を終え、帰りかけた石神は、校門の所で待っていた湯川の姿を発見する。

食事の事を考えたら、お前がいつも買っていると言う弁当が食いたくなったのだと湯川は言う。

仕方がないので、石神は、靖子の弁当屋「みさと」に連れて行く。

近くで、店を張っていた内海は、店に湯川がやって来たのを観て驚く。

湯川は、石神に勧められたおまかせ弁当を注文するが、その時、店に独りの中年男が入って来て、靖子に気安く声をかける。

工藤邦明 (ダンカン)だった。

その際、湯川は、さり気なく、鏡に写った石神の表情を盗み見ていたが、その中年男を見る石神の顔はこわばっていた。

再び、浜町駅の入口まで来た湯川は、別れ際、誰にも解けない問題を作るのと、それを解くのはどっちが難しいだろう?ただし、必ず、答えは存在するとして…と問いかけると、言われた石神は、興味深いね…と言いながら、そのまま帰って行く。

その夜、いつものように公衆電話から靖子に電話を入れた石神は、今日店に連れて行った男は湯川と言う旧友だが、大変頭の良い奴なので、気をつけるようにと警告した後、さり気なく、今日、自分達二人が店に行った時、入って来たお客は誰かと聞く。

昔お世話になった人だと靖子が答えると、美里に電話を替わらせ、映画館で偶然出会った友だちの名前を尋ねる。

美里は、森野くるみだと教える。

大学にやって来た内海は、今日、弁当屋に行っただろうと嫌みを言い、その後、解剖医の城ノ内桜子(真矢みき)にその事を教えると、容疑者は美人と言ったでしょう。分かるわ。私も経験あるからと自慢されてしまう。

店の常連を調べに行ったんだと聞いた内海は、湯川が石神を疑っている事を知る。

しかし、問われた湯川は、石神は殺人で問題を解決しようとするほど愚かではない。彼が関わっているとすれば、殺人の後だと冷静に指摘する。

どんな殺人にもミスはあるはずと詰め寄る内海に、いや、彼にミスはないと反論するが、その直後、内海の携帯が鳴り、花岡母子が映画を観に行ったと証言していた夜、映画館で、森野くるみと言う美里の友人と映画館で偶然出会った事を美里が思い出したとの報告がある。

それを伝え聞いた湯川は、まさか、ありえない!と絶句してしまう。

石神が、高校の職員室で、「みさと」の弁当を食べている時、靖子は、工藤邦明に誘われて外で食事をしていた。

雨が降っていたので、工藤の車でアパートの前まで送ってもらった靖子だったが、車を降りた時、ちょうど階段を昇りかけていた石神に観られてしまった事に気付き、気まずくなり顔を臥せる。

再び顔を上げた時には、もう石神の姿は消えていた。

捜査会議では、弓削志郎(品川祐)が、殺された冨樫には暴力団関係者との付き合いがあったとの報告がされ、にわかに組織対策本部と合流する事になる。

そんな会議室を出た時、内海は草薙に、湯川は石神に目を付けていると打ち明ける。

そんな内海は、その後、マル暴のガサ入れに参加するしかなかった。

後日、石神の高校にやって来た内海と草薙は、遅れて待合室に来た石神から、今、追試をやっていた所だと聞き、さぞかし先生が作る問題は難しいんでしょうねとお追従を言うと、ちょっとした引っかけ問題ですよと教えられる。

草薙は、用意していた勤務表を指し示しながら、先生は、12月2日と3日の二日間続けて休まれていますねと質問する。

石神は、風邪で休んだのだと冷静に答える。

花岡靖子とは、隣人以上の関係はないのかと聞かれても、ないですよと答えるだけだった。

その後、石神は、工藤の行動を見張りはじめる。

工藤は、靖子をホテルのロビーに呼び出すと、談笑していたが、その近くに停めた車の中から、石神は、二人の様子をカメラにおさめていた。

石神は、そう言う事をやっていると、私の怒りはその男に向く事になる…と、心の中で呟いていた。

内海と草薙から、四川料理をごちそうしたいと招かれた湯川は、学生時代、はじめて石神と話をした時の事を打ち明ける。

それは、隣り合った面が絶対同じ色にならないように地球儀を塗りわける事は可能かと言う四色問題がきっかけだったと言うのだ。

その問題は、20年以上も前に証明されていると湯川が指摘すると、当時の石神は、あの証明は美しくないと答えたと言うのだ。

先日、石神の学校を訪ねた時、追試で引っかけ問題を出したと言っていた。「何でも、幾何の問題と見せ掛けて、実は関数の問題だったとか…」と草薙が話す言葉を聞いた瞬間、湯川は固まってしまう。

そしてそのまま、ごちそうさまと言い残して店を飛び出してしまう。

その夜、帰宅して来た石神の部屋の電話が鳴り、出てみるとそれは湯川からで、君と話がしたいと言う。

盗撮した写真をコピーしていた石神は、今夜は忙しいと断り、週末、一緒に山に登らないかと誘う。

靖子は、その後呼び出された工藤邦明から、最近、脅迫状まがいの手紙を受け取っている事実を知らされる。

中には、靖子との付き合いを止めるように促す文と、工藤と靖子が一緒の所を写した写真が同封されていた。

靖子は、すぐに手紙の差出人の察しがつき、おののく。

自宅アパートに帰ってきた靖子は、カレーを作って待っていた美里から石神の事を持ち出され、これじゃあ、冨樫が石神に変わっただけじゃない!と逆上してしまう。

週末、湯川と石神は、山小屋に到着していた。

湯川は、石神が生徒に引っ掛け問題を出している事を聞いたと打ち明け、今回の事件で石神が捜査陣を惑わすために、彼等に思い込みをさせるトリックをしかけただろうと話し掛ける。

しかし、石神は、湯川の推理も、最後まできちんと証明できていないのではないかととぼける。

その後、山小屋を出て山頂に向かう二人はガスに包まれ、遅れた湯川は斜面を転がってしまい遭難しかける。

捜査本部にいた内海は、湯川に連絡を取ろうと、何度も携帯をかけていたが、全く通じなかった。

石神に見捨てられたかに思えた湯川だったが、石神は戻ってきて、湯川を助けると、その後、無事山頂に到達する。

石神は下界の美しい風景に満足しながら、あの答えを聞いても誰も幸せになれんと、疲れきって肩で息をしている湯川に対して呟く。

ある日、又、靖子の部屋の電話が鳴りはじめたが、石神からの連絡と分かっている靖子は無視しようとする。

しかし、美里が受話器を取ってしまう。

石神は、お宅の郵便受けに二通の手紙が入っているはずで、一つの方は今後も保管しておき、もう一つの茶色の封筒の方は、読んだ後捨ててくれと告げた後、私が連絡を取るのもこれが最後だと言って電話を切る。

翌日、捜査本部に衝撃が走る。

石神が、冨樫殺害の犯人として自首してきたからだった。

内海はただちに湯川に連絡をする。

取調室での石神は、冨樫をこたつのコードで絞め殺し、身元を分からなくするために、顔と指紋を潰した後、衣類は近くのドラム缶で燃やしたと供述する。

花岡靖子に対し、脅迫状を送った事も認めており、隣の部屋の様子を聞くため、壁に盗聴器までしかけていたと説明する。

石神の部屋を調べた刑事はそれが事実であったので、草薙は石神を典型的なストーカーだと断定せざるを得なかった。

内海と草薙は、当然、靖子にも事情を聞きに出向いたが、石神の供述通り、靖子に宛てた脅迫状が保管してあった。

しかし、靖子が刑事二人の対応をしている間、隣の部屋では美里が泣いていた。

刑事二人が帰って行った後、石神から捨てるように指示されていた茶色の封筒に入った手紙を靖子は再び読みはじめる。

そこには、工藤邦明はあなたを幸せにできる信用できる人物だと記されてあった。

その靖子のアパートを、湯川は近くからジッと見つめていた。

留置場での石神は、寝る時も、天上や壁に四色問題のイメージを描いて時間を潰していた。

事件の真相を聞くため、内海は再度、湯川の元を訪れる。

湯川は、石神と再会した次の朝、石神が湯川の事を、君はいつまでも若いな、うらやましいと呟いた事を教え、あの石神は自分の容姿を気にする人間などではなかったと打ち明ける。

石神がそうなった理由はただ一つ、彼が恋をしているからだと湯川は言い、山で石神が言った通り、自分がこの事件の真相を解いたところで、誰も幸せにならないと口籠る。

その弱気な発言を聞いた内海は、先生が真相の重さに耐えられないのなら、私も一緒に受け止めますと答える。

湯川は、刑事としてではなく、人間として聞いてくれるかと念を押した後、この事件の結末は全て自分に任せて欲しいと願い出る。

その後、湯川は靖子を川べりに呼び出すと、事件の真相を語りはじめる。

何故、あなたは、最初に刑事達がやってきて事件の事を聞きはじめた時、12月2日のアリバイについてばかり聞くのか不思議に思ったはずだ…と。

何故なら、あなたが冨樫を殺したのは、前日の12月1日だったのだから。あなたと美里を守るため、石神はとてつもなく大きな犠牲を払った…と湯川は指摘する。

留置所に留め置かれていた石神は、拘置所へ移送される事になるが、そこに草薙と内海がやってきて、取調室に連れて行く。

係官達は不審に思うが、全て、上は承知している事だと、草薙は言い通す。

取調室に入った石神は、そこに独り座っていたのが湯川である事に気付く。

全て、湯川の便宜を計るため、草薙と内海が独断でやった事だった。

湯川は対面するイスに腰掛けた石神に、お前は靖子の事件を隠ぺいするために、もう一つ別の殺人を犯したんだなと指摘する。

靖子達のアリバイを作るために、1日にはまだ冨樫が生きていたように見せ掛けるため、お前は一人のホームレスに金を与え、冨樫と同じ服を着せ、あらかじめ自分が見つけておいた簡易旅館「扇屋」に泊まらせ、そこに、ホームレスの指紋や毛髪をわざと残させた。

然る後、その男を、これもあらかじめ盗んでおいた自転車に乗せ、事件現場まで連れてきた後、そこで殺害したのだと。

刑事達が調べた遺体は冨樫ではなく、そのホームレスのものだったのだ。

アリバイトリックと見せ掛けて、実は遺体のすり替えと言う「引っかけ問題」だったのだと湯川は指摘する。

お前は、愛する人を守るため、もう一人の命を奪ってしまった。

でも僕は全て、花岡靖子に喋ってしまったよと打ち明ける。

しかし、それを黙って聞いていた石神は、もう一つの死体が見つかる前に、僕は裁判で有罪が確定してしまうだろうと反論する。

そうなってしまえば、もう事件を覆す事はできない…と。

湯川は哀しそうに、残念だ。そんなすばらしい頭脳を、こんな事に使うとは…と嘆いてみせ、どうしてそこまで彼女を守る!何があったんだ!と詰め寄るが、石神は答えないまま、部屋から連れ出される。

花岡靖子様、あなたには感謝しております…。石神は心の中で呟いていた。

花岡靖子と娘の美里が、引っ越しの挨拶をしに、石神の部屋のチャイムを押した時、その石神は、人生に絶望し、首を括って死のうとしている所だった。

石神は、つい玄関に出てしまい、美しい靖子と明るい美里の笑顔に出会った瞬間、生きる望みを得る事になる。

その日から、石神は、明るい靖子と美里母子の毎日の声や姿を垣間見る事を、生きる糧にして、今まで生きてきたのだ。

だから、石神は、そんな靖子と美里を守るためだったら、いかなる事故犠牲もいとわなかった。

石神が、警察署を出ようとした時、聞き覚えのある声が呼び掛けて来る。

花岡靖子だった。

彼女は、廊下に土下座すると、私ごときの為に、こんな事をさせてしまい、申し訳ありません。私も罪をつぐないますと、涙ながらに訴える。

それを聞いた石神は、自分の犠牲が無に帰す事を悟り、その場に泣き崩れてしまう。

その時、湯川は取調室でジッと耐えていた。

その後、大学にいた湯川を訪ねて来た内海は、キャンパス内のイスに座ると、花岡靖子はすべてを自供したけれど、石神の方は認めませんと教える。

湯川は、17年前、石神とはじめて話したのが、このイスなんだと回想に耽る。

もし、石神が、人を愛する事を知らないまま、今後も生きて行ったら、今回のような罪を犯す事もなかっただろうと嘆息する。

内海は、石神は、花岡靖子に生かされていたんですね…と答える。

そんな二人を包み込むように、空から雪が舞い降りてきていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

動きがない原作を補うように、冒頭と途中に、映画的なけれんシーンが加えられており、テレビシリーズとの整合性を合わせるかのように、内海が登場するなどいくつかの差異はあるが、基本的には、原作を忠実に映像化した作品と言える。

原作では、その風貌から「ダルマ」と称されていた人物は、かなりイメージが違う役者によって演じられているが、映画を観て行く内に、さほど気にならないものとなる。

全体的に、ていねいに撮られている印象。

原作自体が地味な印象がある作品だけに、この映画も決して派手さはないが、じっくり見ごたえがある内容になっている。

なかなかの佳作と言うべきではないだろうか。