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東京ゴッドファーザーズ

2003年 「東京ゴッドファーザーズ」製作委員会 信本敬子脚本、今敏原作+脚本+監督作品

今敏監督の前作「千年女優」は、その卓越した作画テクニックと映画オタクらしい豊富なイメージの展開には感心させられたものの、正直、映画としての満足観は今一つだったように思える。

それは、登場するキャラクターがどこか非現実的で、その内面までに共感できなかったからだと思う。
しょせんは「空疎な絵空事」の域を出ていなかったのである。

オタク作家特有のコピー能力はあっても、独創性不足の人なのではないかと、失礼な想像もしていたが、本作を観て、その疑念は払拭された。

クリスマスの日、ホームレスの三人組が捨て子を拾ってしまい、残された手がかりを元に、その親を捜し歩く…という、およそ、アニメらしくない地味な展開である。

取り立てて、派手なスペクタクルがある訳でもない。
物凄い群集シーンがある訳でもない。
基本的には、数人のキャラクターたちの掛け合いが中心となって物語は進行して行く。

つまり、従来、アニメが得意としてきた要素をあえて捨て去り、逆に不得意とされてきた部分を中心に組み立てられているのである。

そのリアルな絵柄を観るまでもなく、そのような地味な人情話なら、何故、実写で撮らないのだろう…と素朴な疑問も涌くが、観て行く内に、これは、やはり実写では不可能な世界なのが分かって来る。

全てが、大雪の日の話だから…などという、物理的な理由ではもちろんない。(もちろん、そういう部分も含まれるのだろうが)

ちょっと風変わりだが、決してありえないではないキャラクター、どこででも見かける平凡な東京の風景。

全て、実写で撮れそうなのだが、よ〜く考えてみると、やっぱり撮れない…、その微妙なニュアンスは、本作を観てもらうしかないだろう。
キャラクターにしても、風景にしても、極めて現実そっくりでありながら、現実ではない…、そこがミソなのである。

では結局、これも又「空疎な絵空事」なのかというと、そうではなく、本作では、見事に「現実らしいが微妙に現実ではない世界」を描き切る事によって、独特の現実感が浮き上がっているのである。
風景にしても、人物像にしても。

これを、実写で撮ってしまったら、物凄く「臭い話」になるはずなのである。

その「臭み」が、絵で描かれているために、きれいに「抜けている」というか、「抽象化されている」というか、見事に一編のファンタジーに昇華しているのである。

ファンタジーらしくない素材を描いて、別種のファンタジーにしてしまう。

これは、アニメの新しい強みになるべき表現だろう。

そこに描かれているのは、紛れもなく、現代の都会の生活が凝縮された世界である。

落ちこぼれた奴、嫌な奴もいれば、ダメな奴もいる。
しかし、その反面、まだ頑張ろうとしている奴、気の良い奴もいる。
まだまだ、全てが捨てたものでもないのである。

作者のその、やや願望も含んだ、優し気な現実を見る眼差しが嬉しい。

ストーリー的には御都合主義的な展開部分もあるが、そこも、アニメ、マンガであるから、許されてしまう所もある。

これまでも、実写そっくりに描いたアニメはあったが、ここまで、その効果が十二分に発揮できた例は少なかったのではないか?

日本のアニメは、独自の道を歩みながら、とうとう、こんな秀作を結実させる所まで到達したのである。
見事な作品である。