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パコと魔法の絵本

2008年、「パコと魔法の絵本」製作委員会、後藤ひろひと「MIDSUMMER CAROL ガマ王子vsザリガニ魔人」原作、門間宣裕脚本、中島哲也脚本+監督作品。

※この作品は新作ですが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、御注意下さい。コメントはページ下です。

*************************

雨が降りしきるある日、一人の老人(阿部サダヲ)が、室内でフラダンスが行われている奇妙な屋敷を訪れて来る。

若者が扉を開け、いぶかしそうに客を見ると、御両親と一時期仲良くさせてもらっていた者だと、老人は自己紹介する。

屋敷の中に招き入れられた老人は、そこには奇妙な人間たちが大勢眠りこけている様子を見る。

若者が言うのは、仲間が仲間を呼び、こういう状態になったのだと言う。

若者の両親は郊外に移り住んだので、今この屋敷は若者一人で管理している様子。

若者がタンスを開けると、その中に一枚の写真立てが飾ってあり、そこに入った若者の祖父の写真を見た老人は、いきなり持っていたマーカーでいたずら書きをしようとしたので、孫である若者は慌てて止める。

「お前が俺の名前を知っているだけで腹が立つ」と言うのが口癖だったと言う、その写真の人物を、心底、老人は嫌いだったらしい。

それなのに、わざわざこうして、懐かしがってやって来たのだ。

孫が、祖父の遺品らしいぼろぼろになった「飛び出す絵本」を取り出すと、老人は懐かしそうに、昔話を始める。

孫が話してくれとせがんだ訳でもないのに…

それは、とある病院での出来事です…

タイトル

看護婦タマ子(土屋アンナ)が悪魔に姿を変え、医者(上川隆也)がタイツを履く、そんな夜でした。

消防車に轢かれたまぬけな消防士、滝田(劇団ひとり)が深夜、電話をしていると、タマ子が早く病室に帰って寝ろと恐い顔で注意する。

待ち合い室にいた、いつも不機嫌な老人大貫(役所広司)は、何度も自殺未遂をくり返している、元子役だった室町(妻夫木 聡)が、又、病院に舞い戻って来たのを見て罵倒する。

同じく、待ち合い室にいた中年オカマの木之元(國村 隼)は、倒れ込んだ室町の姿に驚きの声をあげる。

タマ子は、そんな室町を無表情に診察室に連れて行く。

そんな奇妙な病院の庭では、一人の少女が「ゲロゲ〜ロ ガマの王子はわがまま王子」と声を出して、楽しそうに絵本を読んでいる。

ある日、待ち合い室の公衆電話から、患者の一人で、顔に大きな傷があるやくざの龍門寺(山内圭哉)が「純平はどうした?」と話し込んでいる。

その様子をそれとなく見ていた木之元は、一緒に座っていた滝田と、あれこれ電話の内容を憶測しあう。

一方、大貫の元には、甥の浩一(加瀬 亮)が見舞いに来ていたが、いつものように不機嫌な大貫は、ルワールの会長はわしだ!、お前の亭主には渡さんなどと、看護婦の雅美(小池栄子)に嫌みを言っていた。

そこに、雅美の夫であり、大貫の甥の浩一(加瀬 亮)が見舞いにやって来る。

その時、大貫、いつもの心臓発作を起こし、苦しみのあまり、つい片手を椅子に手をついてしまう。

すると、突然、堀米(阿部サダヲ)が現れ、マサミちゃんのリコーダーになりたい!などと、訳に分からない事を言い出す。

堀米が何故出現したかと言うと、今、あんたがボタンを押したからだと言うのだ。

大貫が、椅子についた手を放してみると、その下には、いつの間にかボタンが置いてあった。

浩一、雅美夫婦は、会社を渡せ、じじい!と、いつまでも自分達に会社を明け渡そうとしない大貫に当てつけるように、別の部屋で叫んでいた。

診察室に呼んだ龍門寺に、医者は、彼の身体から摘出した弾丸に鎖を付けペンダントにしたものをプレゼントする。

一応、龍門寺の怪我は、銃の暴発で負った事になっていたが、どうも、彼の口調では、誰かに撃たれたような事を臭わせたりするが、医者が不審がると、慌てて否定するのだった。

医者は、診察室の窓のちょうど真下の椅子に腰掛け、絵本を読んでいた少女パコ(アヤカ・ウィルソン)に、ティンカーベルが振り掛けるような光の粉をかけてやる。

(現在)大貫じじいは、若い頃から頑張って働いて、一人で会社を大きくした男だったが、おちょくるには最高の人だった…と、館で昔話をしている老人が解説する。

その日も、大貫は庭で会った木之元の事を、賠償金目当てに入院引き延ばしているだろうと毒づいていた。

そんな大貫が座っている椅子に、パコが近付いて来て、一緒に座ろうとするが、いじわるな大貫は露骨に嫌がる。

しかし、パコが気にせず、横に座り、いつもの絵本を読みはじめる。

ガマの王子はわがまま王子、蜂の子供さらって来いと命令したり、水すましくんの家を壊したり…

すると、どうした訳か、それを横で聞いていた大貫が続きを読んでやると言い出す。

弱い生き物など必要ないからです。

強い生き物だけ残れば良いんです。弱い生き物は痛めつけられるだけ…

不思議そうな顔をして聞いているパコに、大貫は、ちゃんと書いてある通りに読んでやっているぞと威張る。

パコは、自分の名前を名乗ると、おじさんは?と無邪気に聞く。

大貫は、名前を教え、立ち去って行く。

独り残ったパコは、椅子の下に落ちている金色に輝くものを見つけ大喜びする。

それは、大貫が落としたライターだった。

その後、庭にやって来た医者が椅子に座り、何気なく手を椅子に置くと、その下にスイッチがあり、それを待っていたかのように、庭の池の中から、タニシに扮した堀込が突然現れ、バカにつける薬はないかと聞いて来る。

待合室では、龍門寺が、又、純平の事を電話で聞いていた。

椅子に座っていた滝田が、早く消防の仕事に戻りたいと呟くと、それを聞いていたタマ子が、消防車に轢かれたんだってねと、間抜けな滝田の事をからかう。

その頃、病室で寝かされていた室町は、子役時代の自分の幻影に悩まされていた。

庭では、きれいに咲いた花畑の中に踏み込んだ大貫が、めちゃめちゃに花をむしり取っていた。

そこに、浩一がやって来て、会社の売上が5%アップしたので、常務が会社の事は心配しないでくれと言っていたと伝えると、大貫は、あの会社は、わし一人で作ったのだ!と怒鳴り付ける。

花畑を荒らしている大貫に気付いた木之元が、その花畑は、昨年ここで亡くなった小学生が作った花畑になんて事するの!と注意すると、大貫はライターを探しているんだと無視する。

病院内では、室町が又倒れていた。

翌日、庭の椅子にパコが座っていると、大貫がいつものようにやって来て、自分の椅子だと言わんばかりにどっかと腰掛け、尻でパコを落としてしまう。

大貫が、パコの名前を思い出すと、パコの方は、どうして私の名前を知っているの?と不思議がる。

昨日、自分で言ったではないかと大貫が言うと、パコは知らないと答える。

大貫は、たばこを取り出し、吸おうとするが、ライターをなくした事を思い出し不機嫌になる。

すると、横に座ったパコが、私、ライター持っているよと差し出す。

見ると、それは、大貫が昨日落とした自分のライターだったので、盗まれたと逆上し、パコの頬を殴りつける。

倒れて泣き出したパコに気付いた龍門寺たちが駆け付け、大貫の大人気ない行為に怒る。

(現在)どうして、パコちゃんは、そんなとぼけた事を言ったのでしょう?…と、昔話を聞いていた大貫の孫が不思議がると、老人は、パコは7才の時、両親と一緒に車に乗っている時、トラックと衝突。両親は、その事故で亡くなり、パコだけは生き残ったが、彼女は夜になると、その日の記憶をなくしてしまうと言う後遺症が残ったのだと説明する。

孫は、話の続きを聞きたがる。

待合室では木之元がジュディ・オングの歌を歌っている。

医者はひらひらのドレスを着ておどけている。

木之元は、夕べ、室外機が回ったと滝田に打ち明ける。

その室外機とは、霊安室の空調と繋がっているので、誰かが死ぬ前触れだと言うのだ。

パコは、待合室の椅子に腰掛け、いつものように絵本を読んでいる。

大貫もやって来てライターを取り出すと、甥の浩一が来て、そのライターは、会社を立ち上げた大貫が、はじめて黒字になって時に買った一番大切なものなのだと説明する。

しかし、聞いていた大貫は、うるさい!帰れ!と浩一を怒鳴りながら、ライターで火を付けようとするが、何度やっても着火しないのでいらつく。

すると、隣に座っていたパコが、そのライターを着火してやる。

そのパコの左頬の、昨日、大貫から殴られた部分には、ばんそうこうが貼ってある。

浩一は、大貫はずっと一人で頑張って来たんだと、妻の雅美に話す。

急に愛おし気な目つきになった大貫が、パコに、おじさんの事を知っているか?会った事ないか?と尋ねてみるが、パコは知らないと答える。

大貫が改めて自分の名前を教えると、パコは無関心そうに、又、絵本を読みはじめる。

その絵本には、「お誕生日おめでとう。毎日読んでね。ママ」と記されてあり、パコは、今日が自分の7才の誕生日であり、寝ている内にママが枕元に置いて行ってくれたと信じ込んでいるのだった。

パコの症状を理解した大貫は、少し後悔しながら、パコの頬のばんそうこうに触れてみる。

すると、驚いた事に、パコが、昨日もおじさん、私の頬を触ったわよね?パコは、大貫の事を知っているのね?と言い出す。

昨日の記憶がないはずのパコが、大貫の手の感触を覚えていたのだ。

そこにドレスを着た医者がやって来て、シンデレラですなどと言うので、大貫は、パコは明日も、俺の事を覚えているだろうかと聞いてみる。

しかし、哀しそうに医者が首を振るので、でも、パコは俺の事を覚えているんだと話すと、あり得ませんと否定する。

大貫は、自分は弱い人間になってしまったのかなと自嘲する。

弱い人間ではダメなんですか?と医者が問うと、強くなければ、会社を経営していけないのだと大貫は答える。

パコに…と大貫が、もどかしそうに呟くと、何かをしてあげたいんですね?…と、医者がフォローしてやる。

あるはずですよ、あなたが、あの子にしてあげられる事が…と医者が続けると、涙はどうして止めるんだと大貫が泣きながら聞く。

子供の頃から、泣いた事がないんで、止め片が分からんと言うのだ。

医者は、簡単です。一杯泣けば、止まりますよと教え、大貫は号泣し出す。

(現在)大貫の孫は、あったんですかね〜?この人が、パコちゃんにしてあげられる事なんて…と、不思議がる。

それからも、大貫がパコの頬に手を触れてやると、パコは大貫の事を思い出す事ができた。

有名な医者を呼んでやるとか?と孫が言うと、老人はいいえ、と否定する。

それからと言うもの、大貫は毎日、パコの為に絵本を読んでやった。

花壇に水をやっている医者達の姿を見ると、ごめんよ、みんな、僕はバカだった…と、ガマ王子の台詞に自分のこれまでの姿を重ねるのだった。

その頃、室町は、まだ、子役時代の幻影に悩まされており、酒を飲んでごまかしていた。

大人になって、子役時代の名声以上の演技ができなくなった事に絶望していたのだ。

特に、ガンで死ぬ子供の役をやった時の反響は凄まじく、日本中が泣いてくれたんだと嘆く。

そうした様子を、看護婦のタマ子は、そっと見守っていた。

戻って来たタマ子に、医者が、どう?室町君と聞くと、苦しんでいるとタマ子は伝える。

大貫は、又、その日も、パコの頬を触ってやる。

すると、パコは、昨日も、おじさん、ほっぺを触ったよね?と聞く。

大貫は、いつものように絵本を読んでやり、パコと一緒に、絵本の世界に飛び込むのだった。

ザリガニ魔人強いよ。

でも、ガマ王子、お腹が光ると、何故か勇気が湧いて来る。

一生懸命、パコに絵本を読んで聞かせている大貫の姿を、側に座った木之元と滝田が見つめている。

パコは、この続きは明日で良いよと言いだすが、大貫はちゃんと読みたいんだと、読むのを止めない。

医者が近付いて来て、やっぱり神様は、パコちゃんを幸せにする役をあなたに与えたんですよと大貫に話しかけると、大貫は、あの子を見ていると、自分が弱い生き物だと分かると言う。

辛いですか?と医者が聞くと、いや、かえって、心が軽くなると答えながら、大貫は、壁に貼られていた「58回サマークリスマス」のポスターに目をとめる。

突如、そこに堀米が現れ、「人間なんて、ラララララ〜♪」と歌い出す。

大貫は、待合室に患者たちを集め、自ら作った台本を全員に手渡すと、みんなでこの絵本を劇にしてやろうと言い出す。

突然、そんな事を言われた患者たちは戸惑い、龍門寺などはやってられるか!と猛反対する。

台本を見た木之元が、これ全員出ているじゃない?一体誰が見るの?と不思議がるが、そこに、パコが私も混ぜてとやって来たので、その瞬間、意図を理解する。

パコに見せてやるのだ。

大貫は、又、そんなパコのほっぺを触り、絵本を読んでやるのだった。

しかし、突如室町が、何が芝居だと、大貫が持っていた絵本奪い取ると床に投げ捨て踏み付ける。

その時、タマ子が、黙って、その絵本を拾い上げると、大貫に戻す。

パコが、あの人悪い人?と聞くと、大貫は静かに、いや、悪い人なんかじゃないよと答えてやる。

患者たちは、台本を呼んで、練習しはじめる。

タマ子は、病室に戻った室町に、芝居をやれよ、やってみなきゃ分かんないだろ?と勧める。

あのじじいは信じているんだよ、すべてを忘れてしまうあの子にも、何か残せるものがあると…とタマ子は続けるが、室町は、下らないと吐き捨てる。

それでも、タマ子は、自分に割り振られたメダカの役をやってやると言う。

ガマ王子の役をやる事になった滝田は、練習しはじめる。

木之元は自分宛に届いたはがきを医者に示しながら、自分の娘が今度結婚するのだが、その娘が、自分を式には呼ばないと書いて来たと教える。

赤電話に出ていた龍門寺は、死んだ!純平が!と声をあげる。

待合室にいた患者たちが驚いて、龍門寺の方に注目すると、純平と言うのは、裏山から降りて来て可愛がっていた猿の事だと龍門寺が説明する。

自分が持っていた拳銃を手に取って遊んでいる内に、引き金を引いてしまい、その弾丸が自分に当ったのだとも。

驚いて逃げて行ったその猿が、今日、猟師に撃たれて死んだと言うのだった。

聞いていた大貫は、一杯泣けば、涙は止まると教わったと言うと、龍門寺と一緒に、木之元まで号泣しはじめる。

芝居の練習は、その後も続けられた。

大貫は、時折、心臓の発作に襲われたが、それでも練習は止めなかった。

そんな中、4階の病室にこもリっきりだった室町が、ある夜、窓を開いて投身自殺をしようとしかける。

その様子を、たなたま廊下を通りかかった滝田が発見し、止めようと、部屋に飛び込み窓に近付いた途端、勢い余って、自分の方が外に飛び出し落下してしまう。

滝田は又しても重傷を負ってしまい、ガマ王子の主役はできなくなってしまう。

タマ子は、あんたが飛び下りようとしたからだと室町を責める。

しかし、室町は、いまだに自分は、可愛い子役演技しかできないので、自分に割り振られたザリガニ魔人の役なんてとてもできないと拒否の姿勢を続ける。

そんな室町を、ロッカールームに引き摺って行ったタマ子は、自分のロッカーを開けてみせ、自分は貧しかった子供の頃、テレビの向こうの男の子に憧れてこの仕事についたのだと打ち明ける。

ロッカーの中には、子役時代の室町の写真がたくさん貼付けてあった。

ろくでなしの親と二人暮しで、生きていても、何も好い事ないと思い込んでいたが、テレビの向こうの男の子を見ているだけで幸せになれたと呟いたタマ子は、やってくれよ、ザリガニ魔人、見たがっているんだよ、その子が…と、室町に迫る。

いよいよ、サマークリスマスの日になり、病院内は芝居用の絵で飾られる。

事情を知らないパコは、何が始まるの?と興奮する。

堀米はヤゴの役、ミラーボールが煌めく下で「魅せられて」を歌う木之元はガマ姫の役だった。

ガマ王子の役は、急遽、大貫が演じる事になり、その演技を見た医者は、張り切っているな〜と感心する。

タマ子が、これが最後になるかも…と呟くと、傍らにいた医者が知ってた?と聞く。

後、どのくらい生きるの?とタマ子は心配する。

劇は進行し、いよいよ、室町が演ずるザリガニ魔人が登場する。

子役言葉をあやつる室町の悪役演技は、別の意味で恐いものになっていた。

その手下の沼エビの魔女を演じているのは雅美だった。

水の中の生き物は、みんなザリガニ魔人に食べられてしまいました…

パコは、椅子の影に隠れて震えていた。

そこに現れたのが、ガマ王子に扮した大貫。

ゲロゲ〜ロ!許せない!ザリガニ魔人!許せない!

大貫は、これまで自分がやって来た事を思い出していた。

ごめんよ、みんな!

巨大なザリガニ魔人はパコを捕まえると、ガマ王子のいる塔を破壊する。

ガマ王子は、必死にパコを救出する。

だけど、強いよザリガニ魔人。僕はそろそろ死んじゃうよ。

だけど、何度も立ち上がる。不思議な力がそうさせる。

僕の心に急に生まれたこの気持ち。

ごめんよ、みんな!

大貫は、又、発作が起こり、苦しみ出す。

大変、どうしよう!とパコ。

すると、ヤゴの役の堀米が、大丈夫だよと言いながら、いつものスイッチを差し出す。

それを押すと、天上から大きなたらいがザリガニ魔人の頭に落ちて来る。

ドリフか!?

床に倒れた大貫は、最後まで読んでやれと言うが、メダカ役のタマ子は読めないと拒否する。

すると、その台本を室町が取り、俺が読むと言い出す。

雨が降って来て、死んだガマ王子を濡らしました…と読み出すが、部屋の中に雨の装置はなかった。

しかし、奇跡が起こったのか、窓の外に、本当に雨が降り始める。

その時、みんなは庭に誰かがいると気付く。

大怪我をして、ガマ王子の芝居から外れていた滝田が、消防用ホースで庭に水を捲いていたのだった。

パコは、床に倒れた大貫の手を取って泣き出す。

大貫は、そのパコの頬に手を添えようとして力つきる。

(現在)感動的な話を聞き終えた孫は、最後まで聞いて良かったと、老人に感謝する。

しかし、老人は首を振り、その時の大貫は、いつものただの発作だったのですと言う。

本当の結末は、あなたのお気に召すものではないかも知れないと言いながら、老人は真実の最後を語りはじめる。

タマ子が、最後になるかも知れないと言っていたのは、パコの事であった。

パコは、芝居の夜、危篤に陥る。

滅菌カーテンに囲まれたパコのベッドに入り込もうとする大貫を、みんなが必死になって止める。

大貫は叫ぶ。「あの子のほっぺに触ってやらないと、あの子は私だと分からないんだ!私は、この子の心に残りたいんだ!」

その時、眠っていたパコは一瞬目を開き、手を伸ばしかけて、水の中に落ちて行く。

臨終であった。

タマ子は、残されたパコの絵本を大貫に渡すが、大貫は、この絵本はパコと一緒に読むんだ!いらん、こんなもの!と叫びながら、びりびりと、絵本を引き裂いてしまう。

パコは、水の中でガマ王子に出会い、水の中に黄色い水中花が花開く。

大貫が言う。「お誕生日、おめでとう!」

(現在)話し終えた老人は、修復された古びた絵本を指しながら、悔しいんだ。私が書いたその本より、あの人のやった事の方がすばらしいから…と呟く。

孫が改めて、絵本の表紙を見ると、そこには堀米けんじと著者名が記されていた。

老人は、その絵本は売れなかったけれど、世界一幸せな絵本です…と言い残し、屋敷を去って行く。

環礁に浸っていた孫は、ふと見た壁に妙なボタンがあるのに気付く。

急いで、ベランダから帰りかけた老人を見やると、振り向いた老人は、それを押せと身ぶりで示す。

言われた通り、壁のボタンを押してみると…

絵本が急に動きだし、その中から、ガマ王子が飛び出して来て、屋敷の外にある湖に飛び込むと、元気に手を振るのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

個人的には、今まで、日本の実写ファンタジー映画の最高峰は「モスラ」(1961)ではないかと思っていたが、同じくらいの高みに、この「パコ〜」も来ると感じた。

両者は全くタイプが違うので、どっちが上とか下とかとは言えないが、これこそ天才の仕事と言うしかない。

この作品、一見、子供向けかと勘違いしそうだが、実際は「人生に挫折した大人」が観て癒される類いの、れっきとした「大人もの」。

「嫌われ松子の一生」と同様、悲劇を、真逆の「冗談や悪乗り」「コミックのように非現実的なキャラクターや舞台劇を膨らませたような設定」で表現する事で、より強調すると言うパターンになっている。

ただ、その奇抜な表現法で、子供にもそれなりに楽しめる作りになっている事は確か。

ラストも、単純なお涙パターンで終わらせず、爽やかな余韻を残している所も見事。

この作品を観ていて、ふと感じたのは、発想の原点は「クリスマス・キャロル」なのではないかと言う事。

パコは主人公と言うよりも、大人の心を洗い浄める無垢な天使と言うか、精霊みたいな役割だから…

ひねくれた老人が、「クリスマス(本作の場合、サマークリスマスと言う設定になっているが)」をきっかけに改心すると言う骨格が似ているのだ。

全体的に計算し尽くされ、ていねいに作られた、近年希に観る傑作だと思う。


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