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日本妖怪伝 サトリ

1973年、青林舎、前田勝弘脚本、東陽一脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

「この映画はフィクションである」とテロップ

どこか焦点が定まらないような女が座っている。

こまくらあや(緑魔子)であった。

昔、山の中に「サトリ」と言う化け物が住んでいたそうです。

サトリは、人間の心を読み、あれこれ問いつめていくのだそうです。

そして、考える事が出来なくなった人間は、食べられてしまうのだそうです。

ある夜中、山の中で一人たき火にあたっていた木こりの前に、妙な男が出て来て座ったので、「おや?妙な奴が来たな?」と木こりが考えると、「おや?妙な奴が来たな?」とお前は今考えたなと相手が言うではないか。

「こいつは、俺の考えている事が分かるのか?」と考えると、相手は「お前は今、『こいつは、俺の考えている事が分かるのか?』と考えたな?と言う。

「こいつは、サトリの化け物に違いない」と考えると、相手は「お前は今、『こいつは、サトリの化け物に違いない』と考えたな?」と続ける。

恐怖に駆られた木こりは、あれこれ考えながらたき火に木をくべていたが、突然、たき火の中野橡の実がはじけて、サトリの片目に当たってつぶしてしまう。

驚いたサトリは、人間は思いもよらぬ事をしでかすものだ。恐ろしいと逃げ出したと言います。

診療室で、精神科医の武田(佐藤慶)は、サトリの話をし終えたあやに対し、「そのサトリが、あなたの恋人の内田孝雄さんを食い殺したと信じ込んでいるのですね?」と尋ねる。

「あなたは、恋人二人をなくしておられる事は分かっていますが、三年前の松本さんは脳内出血ですし、今回の内田さんは蒸発です。精神障害の一種、分裂病には、人の考えが全部読めると思い込む事はありますが…」と、武田は丁寧に言い聞かせるが、まやは微笑むだけだった。

夜の都会の空撮をバックにタイトル

夜、電車のドアの所に立っていたあやに近づいた一人の青年が、あやの太ももにおずおずと触り始める。

あやは「私に触る人は、必ず死ぬのよ」と無関心そうにつぶやき、次の瞬間、誰かの手が、痴漢の手を押さえる。

押さえた男(織本順吉)は、これまで車内で8人もの痴漢を捕まえた痴漢逮捕の常習者で、今回も自信満々、痴漢と被害者であるあやを携えて駅に降り立つと、構内の部署に連れて行くが、痴漢はおろか、あやの方も、痴漢に関しては一言も口を開こうとしない。

あやなど、満員電車で人の身体は、どうしてもくっつくと平然とうそぶく始末。

これでは担当官も相手にするわけにはいかず、捕まえた男はメンツをつぶされ、「あんた、頭がおかしいか、痴女か?」と怒りだしてしまうが、痴漢とあやは、相手にもせず、さっさと部屋から出ていく。

その直後、痴漢はあやに対し「いい子ぶりやがって、いつか強姦してやる」と捨て台詞を残し、足早に去っていく。

あやの方も、平気な顔で「やれるなら、やってごらん」と切り返す。

あやの職業は、水族館の受付嬢だった。

いつも、魚と話をする癖があるので、今日もエイの水槽の前でぼーっと見つめているあやを見つけた同僚が仕事に遅れた事をからかうが、あやは、今日はアジを与えただけと答える。

受付に座ったあやに、武田から電話がある。

断りかけたあやだったが、やがて考え直したのか、うかがいますと返事をする。

その水族館の受付の前の路上に、ぼーっと立っていた青年がおり、そこにパトカーから降り立った警官二名が職務質問をし始める。

持っていたバッグの中身を調べても、特段怪しいものも持っていなかったので、警官の一人が受付にいたあやの元に来て、「何か怪しいそぶりは?」と青年の事を聞いて来る。

あやが「ちっとも」と答えると、あっさり「失礼しました!」と青年に敬礼をして、警官たちはパトカーで走り去る。

その後、とぼとぼと歩き始めた青年に気づいたあやは、追いかけて声をかける。

道に、バッグから落ちた歯ブラシが残っている事を教えたのだ。

その際「なぜ、カエルは怒らないのかと思っていました」と奇妙なことを言ったので、青年は戸惑う。

「カエルのツラに小便と言うでしょう」と、さらにあやは訳の分からないことを言う。

しかし、青年は、ネズミの事は知っていますと答える。

猫がネズミを捕らえた後もてあそぶのは、ネズミを怒らせて、肉をおいしくするためだそうです。ただ…、カエルは冷血動物ですからね…と青年は戸惑いを残したままだった。

その後、公園の噴水の水で顔を洗った青年は、ちょうど通りかかったサラリーマンから煙草を一本貰い受けて吸う。

一方、精神科の診療室に再びやって来たあやは、武田から「内田さんはいつか戻ってきますよ」と慰められていた。

窓から見える中庭では、子供が一人塀に向かってボールを投げていた。

あやは「でもあの人、死んでいますから…、先生は最初から、サトリの事なんか信じていないでしょう?」と相変わらず淡々と答える。

「エスパーなどはSFに登場しますが、サトリと言うのは昔話ですよね。そのサトリはいつ頃から現れるようになったのか?」と尋ねる。

しかし、あやが「覚えていない」と言うので、「では、どういう時に現れるの?」と聞き返す武田。

あやは「多分…、私の中が何かでいっぱいになり、それを誰かに伝えられない時、サトリといろいろ話します」と答える。

そこに、「6号室の川辺一恵がいません」と看護婦が入って来る。

それを聞いた武田が「それじゃあ、君の白衣の中を探してごらん」と答えたので、自らの胸元を覗いた看護婦姿の女は、「いやだ、これは看護婦の川辺一恵じゃないですか」と言う。

そこに、私服姿の看護婦斉藤智子が入って来たので、ユニフォームを勝手に患者に貸した事を知った武田は叱りつける。

その時一恵が「世の中に精神病院などなくなったら、どんなに良いだろう」とつぶやいたので、「それは、私に電気ショックをかけてもらいたいと言う事かね」と意地悪く聞く。

ある都会の路上で、歩いていた中年男が急に頭を抑え、その場に倒れてしまう。

自宅に戻ったあやは、ろうそく一本を点け、部屋で一人座り込んでいた。

机の下には、左目が潰れた男がうずくまっていた。

その男サトリは「私を呼んでおきながら、あなたは心を灰色に塗り込めている。でも、灰色なのは、まだまし…。あやさんの中には今、行き倒れになった中年男と、若い男の事で占められている」とつぶやき、「医者に私の事を話したでしょう?」と聞く。

「人間にはどろどろとした欲望があるが、それは人間だから仕方ない」と諭すサトリに、あやは「なぜ恋人をとり殺すの?」と尋ねる。

サトリは「『なぜ』と言う言葉はもう今では意味はない。『ではどのように』と言う言葉しか残っていない」と答えるのだった。

人間は、私がちょっと脳を押してやったからこそ、私を思いついただけなんだと言いかけるが、用を思いついたと姿を消す。

一人になったあやは、鏡に映る自分の顔に対し「鏡よ鏡、この世でいちばん美しいのは誰?」と聞く。「このうぬぼれ鏡!なぜ黙っている!」

その頃、診察室にいた武田は、一人パイプをくゆらせながら、「木枕あやの症状は、孤独感に耐えきれないから、サトリと言う化け物を考えだしたのではないか」と空想していた。

そんな武田に、「確かに、あいつは嫌らしいケツしているな」と、突然誰かが話しかけて来る。

驚いて横を観ると、そこに左目に眼帯をした見知らぬ男が立っているではないか。

誰だお前は?と誰何すると、ご存知サトリです、と相手は答える。

すると、高田は思わず、吃音状態になる。

驚きのあまり、子供の頃の癖が戻ってきましたか?とサトリは続け、あなたは、精神異常者は犯罪予備軍だと考えている。刑法改正したがっている。鷺山病院長の椅子を欲しがっていると、次々に武田の心を読み取ってみせる。

唖然とした武田だったが、相手を患者だと無理矢理思い込みたいのか、お帰りくださいと、冷静に命ずる。

素直にその言葉に従う事にしたサトリは、少々、あんたの頭の中をいじっといたから…と言いながら姿を消す。

その直後、机の上に置いてあった薬箱からスプレーを取り出した武田は、それを自分の口の中に噴射し、思わず苦悶するのだった。

その様子を、勝手にドアから顔をのぞかせた川辺一恵が、呆れたように目撃していた。

武田は、忌々しそうにつぶやいていた。「そんなバカな…、許せない!今に見ていろ!キ●ガイどもめ、キ●ガイどもめ…」

その頃、ものぐさ太郎は、公園で拾ったトラックのおもちゃを修理しながら、近くを這っていたカエルを観ながら楽しげだった。

ある日、いつものように水族館の水槽を見つめていたあやは、ガラスに、大きなおもちゃのカブトムシが留っているのに気づく。

あの痴漢が、電車から降ろされるとき落としたカブトムシだと気づく。

案の定、あの痴漢男がその場に来ていたので、「あら!私を強姦しに来たの?」と問いかけるあや。

痴漢男は、「あんたみたいな女だと、痴漢する気もなくなる」と言ったかと思うと、突然「俺と寝てくれないかな?」と言い出す。

飲み屋にあやを連れて行った痴漢は、ある女に、メダカの血管には二本が一本になっている部分があり、そこでは別々の血液が混じらないで通っているんだと話しても、交わらないんだったら、本当の愛とは思いませんと言われたなどと話しながら、カウンター上で寝てしまう。

あやは、その酒場で飲んでいた、あの職務質問を受けていた青年、太郎を見つけたので、話しかけようと立ち上がる。

すると、いつの間にか、サトリが隣に立っており、何か嫌な気がする。あの男、又、行方不明になりはしないか?とあやに忠告して来る。

しかし、あやは「知った事か」と相手にせず、「行きましょう、カエルさん」と太郎に声をかける。

いつの間にか、あやと太郎は、長距離トラックに乗せてもらっていた。

そんな二人をちらちら眺めながら、運転手は、昔、逃げた男女を乗せた事があると話しだす。

見つけた時には死んでいた、二人とも…と。

駆け落ちって言うのは百姓一揆と同じで、どうしようもないので走ってみるが、最後にはつぶされるとも。

温泉場に付いた二人は、湯船の中で抱き合っていた。

人の声が外でしたので、気になってガラス戸の所まで行って外の様子を覗いたあやだったが、誰もいないので安心して湯船の方を振り返ると、太郎の姿がない。

消えたと思い、半狂乱になって、湯船に入り探し求めていたあやだったが、太郎は湯に潜っていただけだった。

その夜、二人は抱き合う。

事が終わった後、「何を気にしていたんだ?」と寝床で聞く太郎。

翌日、公衆電話でどこかに電話していたあやは、外で待っていた太郎と共に旅を続ける。

夜汽車の座席で、太郎に肩を抱かれながら寝ていたあやは、思わず寝言で「来ないで!サトリ!」とつぶやく。

すると、寝ていなかった太郎が「そうか…、サトリが来るか…」と平然と答えたので、目覚めたあやは「太郎はサトリを知っているの?」と聞く。

「昔はたくさん化けものがいたが、みんな消えてしまった」と続ける。

「なぜ、私の前に現れるの?」と聞くと、「たき火がちろちろと、胸の中で燃えているからさ」と太郎は答える。

海岸を歩く太郎は、どこで拾ったのかボロボロに裂けた傘をさしながら、青山である日、保線区員が死体を発見した。ドドンがドンドン、ドドンがドン…と節をつけて唄い始める。

その死体には右腕がなかった。

やがて、上野駅に到着した青森発の列車の車輪についていたのは、その右腕だった。

若い男は、この世におさらばしたんだそうだ…

その歌を聴いていたあやは、思わず太郎にしがみつくのだった。

やがて、とある田舎町に来たあやは、空腹のあまり、もう歩けないと言い出す。

財布の中身は、112円しかないのだと言う。

それを聞いた太郎は、「もはやこれまで…、貧者変じて亡者になる」と言いながら、赤いバンダナを額に三角巾のように巻くと、道に正座して、前に空き缶を置き、物乞いを始める。

しばらくすると、土地のものらしい二人組が近づいて来て、お前は何だ?乞食か?新興宗教か?と話しかけて来る。

戦後の怠惰な教育がお前のような人間を作ったんだ。迷惑だから、その大衆の金を置いて立ち去れと迫って来るが、太郎は終止「嫌です!」と動こうとしない。

仕方がないと、実力行使をしようと組み付いて来た二人を、太郎はあっという間に突き飛ばしてしまう。

すると、二人の男の態度は急変し、「強いんですね。実は自分たちは福祉国家建設のため、羽を売っているのです」と、紅白二色に染めた奇妙な羽を出して「買ってくれませんか」と言い出したので、太郎は、横にいたあやの手を取り、一目散にその場を逃げ出す。

物乞いで得た小銭で、菓子パンと牛乳を買った二人は食べる。

やがて、雨が降って来るが、二人はさらに山奥の廃村に向かっていた。

あやは、何かが私の身体を触れる…、ここは人が他所に移り住んだ跡に過ぎないのにとつぶやいていた。

半ば崩壊しかけた藁葺き屋根が並ぶ村に入った太郎は「とうとう旅の終わりだな、来る所まで来てしまった…故郷に…」とつぶやく。

しかし、それを聞いたあやは「違うわ、私の故郷は…」と口ごもる。

それでも、訳知り顔で、一人廃屋に入り込んだあやを外で待っていた太郎は、突如、近くに現れたカメラマンらしき男の姿を見てちょっと驚く。

しかし、カメラマンの方は何事もなかったかのように、勝手に三脚を立てて、廃村の写真を撮っているようだった。

誰もいない家には上がり込んでいたあやは、割れた櫛を見つけ、しれで自分の髪をとかしていた。

夜、墓の側で薪を炊いて夜を過ごしていた二人の前に、「太郎さんは、妙な奴が出て来たなとは、思っていませんね」と言いながらサトリが姿を現す。

実際、太郎は、サトリの姿を見ても平然としていた。

サトリは、この辺り一帯が自分の住処なのだと言う。

その時、たき火の中の何かがはじけるが、「この手はもう古いです」とサトリは身を避け、私は太郎さんが気に入ったと言いながらも、太郎さん、鏡を見る時用心しなさいよと言い残して、又姿を消す。

あやは、思わず寒いわ!と太郎に身を寄せ、太郎は「鏡だと?それがどうした!」とつぶやく。

翌朝、廃屋で寝ていた太郎は、自分の名を叫ぶあやの声で目覚める。

外に出てみると、あやの目の前に、昨日会ったカメラマンが倒れているではないか。

近づいて脈を診てみるが、すでにカメラマンは死亡していた。

武田は、他の精神科医との研究会に出席しており、そこで、ある死体の脳の言語中枢部が破壊されていると言う症例を聞かされ、意見を求められたので、思わず、サトリが現実に現れて行った仕業だと言い出す。

それを聞いた他の医者たちは眉をひそめ、何を言い出すかと武田を見つめたので、武田は、サトリと名乗る妄想狂がいたのだと急にごまかす。

しかし、最近の言動に不審を覚えていた教授は、武田君、最近変だよと注意する。

サトリの噂を知った記者(渡辺文雄)は、産業スパイにしたら儲かるんじゃないかと会社で仲間に提案していた。

それを聞いていたデスクは、「そんな事より、サトリをホワイトハウスや北京に送り込んだらどうなる。君はやっぱり小者だな」と呆れる。

廃村では、警察署でしぼられて帰って来たあやから、殺人の事を聞かされたサトリが知らないと弁解していた。

ただ、もしかすると…とサトリは何事かを思いついたようにつぶやく。

もう一匹のサトリが…

夜の街角に、警官が死んでいた。

さらに、帰宅途中のサラリーマンが何者かに迫られ、「止めろ!頭が割れる!」と叫びながら後ずさりしていた。

「俺には、こんな自己嫌悪に耐えきれない」と言いながら、サラリーマンは路上に倒れる。

記者の前に、サトリが連れて来られる。

ここにいる誰でも良いから、心を呼んでくれと記者が、部屋にいた仲間たちを示しながら言うと、「こいつらと来たら、どいつもこいつも使い物にならない」とサトリは言い放つ。

それを隣の部屋で聞いていたデスクは、良しサトリ、お前を買ったと言う。

武田は、又殺人が起こった事を電話で聞いていた。

あやの事を心配しているらしい相手の言葉に、あれは別に危険はないよと武田は答える。

希望ヶ丘団地の件に話が変わったので、精神衛生法で出来るとアドバイスする。

その直後、団地の一室で男が捕まり、救急車に乗せられ、どこかに運ばれていく。

ある日、あやのいる水族館に、恋人だと言うミキと言う女を連れて、又あの痴漢男が来ていた。

今度、勤めていたおもちゃ会社を辞めたと伝えに来たのだ。

しかし、本当に自分がひどい目に遭うまでは、痴漢は止めないとも言い、二人は帰っていく。

同僚と、エイの餌付けを見学するあや。

太郎はあやとベッドで抱き合っていた。

その二人の心を、ベッドの横で読んでいたサトリは、途中から「ああくだらない!人間は何万年、こんな事を続けているのか。もう止めて下さい。私を通信衛星代わりに使うのは!」と飽きて叫ぶ。

「もう一人のサトリなんていない。あれはサトリが、自分一匹をもてあましているだけだ?」、太郎が考えていた事だった。

あやさん、何でも分かっているつもりの太郎さん、いつも橡の実が弾けるとは限りませんよとサトリは忠告するが、太郎は分からないさ…とつぶやく。

ベッドの中で、あやは、私のせいだわと言い、急に、太郎に赤い靴を買って下さいとねだる。

太郎は、又しがらみか…とつぶやきながらしばし考えた後、良し!買ってあげると答える。

太郎は、再び街で物乞いを始めるが、とても金はたまらない。

通りすがりの男に、いきなり一万円をねだってもみたが、相手が素直に出すはずもない。

結局、夜中、郵便受けに郵便物がたまっている屋敷に忍び込む事にする太郎。

タンスをこじ開け、金の入った封筒を見つけた太郎は、その中から少し札束を抜き出し、後は戻そうとしていたが、真っ暗な部屋の奥に何者かの気配を感じ、サトリか?と誰何してみる。

すると、闇の奥の男は、自分はナイフを持っているからお前の名を名乗れと言う。

太郎は、花房太郎、人は自分の事をものぐさ太郎と呼ぶと答え、あなたは野々村さんんですね?声に聞き覚えがある。昔、桜の下で演説を聴いた事があると答える。

しかし、相手は、だったらどうしたと返して来たので、太郎は「別に」と答える。

その後、屋敷を出た太郎は、翌日、とある花屋にやって来ると、そこの女性店員に「宮本さんですね?6番目の花をください」と伝える。

すると、動揺した店員は「5番目のではいかがですか?」と聞いて来たので、「いや、5番目の奴はしおれかけているので」と答え、ピンクのカーネーションを包ませる。

その際、太郎は、女店員が急いで何かを記した紙片もこっそり受け取っていた。

一万円札を渡し、女店員が釣りを取りに奥に引っ込んだ隙に、素早く店を後にした太郎は、その後、大きな屋敷の塀の横を歩いていたが、その目の前にボールが落ちて来る。

屋敷の中から飛んで来たと知った太郎は、拾って中に投げ返してやるが、すぐに又、ボールは戻って来る。

何度か、そのやり取りをしていると、中の方で「やだー」と叫ぶ子供の声が遠ざかっていったので、手にしていたボールを持ったまま太郎は歩き出すのだった。

その夜、夕べ忍び込んだ屋敷にもう一度入り込んだ太郎は、野々村を呼びかけるが返事がない。

危険を察し、外に出た太郎は、案の定、近くで張り込んでいた刑事らしき二人組から追われながら、何とか逃げ切るのだった。

部屋に戻って来た太郎は、女店員から受け取った紙片を、皿の上で燃やしてしまう。

鏡に、ボールをぶつけていた太郎だったが、その鏡にサトリが映る。

サトリは、呼んだんですよ。浮き世のしがらみって奴が言話しかけて来る。

「大丈夫ですよ、あの人は逃げ延びてますよ、あんたのせいじゃない」とも言い、「やつがれは、サトリと言うケチな妖怪です」と言うと、太郎が頭を抱えて苦しみだす。

やがて、ベッドの上で苦悶していた太郎を、あやが揺すぶっていた。

「どうしたの?顔が真っ青よ」と心配するあやに、「考え事していただけ」とごまかす太郎。

デスクに連れられ警察署にやって来たサトリは、思想犯の女を取り調べている部屋に案内される。

この女の心を読んでくれと言うのだった。

サトリは、あなた方は野々村と言う人物を捜しているのですねと言い出し、「その人物なら、目黒の大沢と言う家にいたのだが、その後は赤羽の内田と言う家に移ったが、その後の事はこの女も知らんと教える。

刑事は、とりあえず、それだけ知っただけでもありがたいと感謝するが、その壁にかかった刑事のスーツの胸には、紅白二色の羽が付けられていた。

デスクと一緒に警察署の外に出たサトリは、急に苦しみだし倒れかけるが、心配するデスクに別れを告げると、ふらつきながらも立ち去る。

やがて西新宿の空き地に立ったサトリは、苦しそうに頭を抑えながら大声で叫びだす。

やがて、サトリは「助けてくれー!」と、どこかの海岸で絶叫していた。

鷺山病院では、患者が二人逃げ出したとの報告を受けた武田が、すぐに探しに行け!と医者たちを叱りつけていた。

そこに、別の看護婦が、熊倉君が、何個もボールを塀の外に投げるので、備品代がかさみ困ると報告に来る。

病院を抜け出した川辺一恵は、「まさか、渡しの方があなたに助けられるとは…」と感謝する看護婦斉藤智子をバスに乗せて別れを告げていた。

サトリは、あやから左腕に包帯を巻いてもらっていた。

ある日、恐ろしい悲鳴が聞こえた。若い女の必死に呼ぶ声だった。その声に釣られてこの世に出たら、その声の主はあやだったとサトリは言う。

それを脇で聞いていた太郎は、「あやが呼ばなくても、誰かが読んでいたさ」とつぶやく。

俺を呼び出した人間どもは、自分で自分をいじめ殺したり、政治や金儲けに利用したりする。ひどいものだった…と、サトリは嘆息する。

なぜ私は死なないんですと聞くあやに、それは偶然ですと答えるサトリ。

偶然って便利な言葉ですねと答えたあやは、あなたは昔に戻って、木こりの相手をしていた方が幸せなのでは?と忠告するが、サトリは、この頃、自分が本当に妖怪なのか分からなくなって来たと答えるのだった。

その後、太郎は、俺はあやに赤い靴を買ってやると言うと、新宿西口に出て、又物乞いのまねをし始めるが、そこにいつか田舎町で因縁をつけていた二人組が近づいて来る。

二人は、道交法違反なんですよ。もうお前なんかにやられねえぞと言ったかと思うと、衆人環視の中、太郎に襲いかかる。

その頃、一人部屋で待っていたあやは、オルガンで「赤い靴」の唄を弾いていた。

夜、ぼこぼこにされた太郎が公園にやって来る。

水道の蛇口をひねり、水を飲んでいた所に、棒を持ったあの二人組が近づいて来て、太郎の頭を殴りつけて逃走する。

血を流しながらその場に倒れる太郎。

部屋では、裸になったあやが、ろうそく一本点けてじっとうずくまっていた。

サトリが出て来て、又、二人きりになりましたね、あやさん…と話しかけて来る。

新聞に載っていましたよ、男が公園で頭割られて死んだって…

あやさん、太郎さんが帰って来ないのは、もうサトリのせいだと思わないんですね…と言うサトリに、あやは、太郎さん、どうして帰って来ないの?と聞く。

サトリは、私にも分かりません。私何だか、どんどん人間に近づいて来ているようだと答える。

そんなサトリに、あやは、自分には子供が出来たのだと打ち明ける。

それを聞いたサトリは、何かお祝いを上げなくっちゃと言い出す。

新宿西口を、子供用の赤い靴や、その他大量のベビー用品を抱えて歩くサトリは、どこか幸せそうだった。

しかし、そのサトリを、二人のガードマン(蟹江敬三、石橋蓮司)が追って来て、路上で捕まえる。

サトリは、自分が金を払わないまま品物を持ち出した事の罪悪感に気づいていない様子で抵抗する。

ガードマンともみ合いながら路上を転げ回っているうちに、排水溝から飛ぶ出ていた釘で、サトリは残っていた右目を刺してしまう。

「ああ!橡の実が弾けた!」と叫び、目を押さえながら、サトリは野次馬の中を逃げて行くのだった。

路上に散らばったベニー用品を拾い集めたガードマンも店に帰って行く。

水族館に出ていたあやはつぶやいていた。

太郎が人に殺されるなんて、そんな事我慢できない。サトリは何をしているの?私に何をくれると言うの?

その時、同僚が、木枕さん電話よ!武田さんと言う人からと知らせて来たので、一旦、断ってと言いかけたあやだったが、良いわ、自分で断ると言う。

その日、帰宅途中で寄った肉屋でビフテキ用の肉を買うあや。

店の主人(下川辰平)は、これだけ食べると精がつくよと言いながら、包みを渡す。

あやは、「力付けなくちゃ、何が起こるか分からないからね」と答える。

その包みとボールを持ったあやは、踏切を渡る時、ちょっとボールを投げ上げて受け止めるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

今では放送できないような台詞や舞台などを含んでいるため、なかなか観る機会のない作品だが、すがるものが一人もおらず孤独さに耐えられない女と、何もかも知り抜いたように冷めきった青年、そして、そうした孤独な人間たちの声を代弁するかのように出現するシニカルな妖怪の姿を通して、病んだ現代社会の問題点を浮き彫りにした、なかなか興味深い秀作である。

精神病院で働く看護婦が、患者に助けてもらって病院から脱走するエピソードや、精神科医自身も、徐々におかしくなって行く辺り、皮肉も利いている。

妖怪は登場するが、特撮などを多用した今風のファミリー向けファンタジーとは異なり、あくまでも「風刺劇」の流れにある作品だと思う。

トリック撮影の類いは一切登場しない。

低予算作品であるため、奇をてらった派手な見せ場などはないが、途中、ロードムービー風の部分もあったり、なかなか飽きさせない展開になっている。

河原崎次郎、山谷初男、佐藤慶らの個性も光っているが、中でも特異なヒロイン役を演じている緑魔子の存在感は強烈である。