1949年、大映京都、小国英雄脚本、やすだきみよし(安田公義)監督作品。
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昭和20年7月東野動物園
山下金助(柳家金語楼)と横山円太郎(横山エンタツ)は象使い。
今日も、大勢の見学客の前で、人気者の象、太郎と花子の芸を披露していた。
そんな中、大井警防団長(大友柳太朗)が、顔なじみの富永動物園長(志村喬)を訪ねて来る。
話を聞いた園長は「やっぱりそうか…、ついに来たか」と、覚悟していたような深刻な顔になる。
今後、空襲で動物園が破壊された時、猛獣たちが逃げ出す事を恐れ、今のうちに処分しろとの軍の命令を伝えに来たのだった。
対象となる動物を聞く園長。
「ライオン?トラ?ヒョウ?クマ?…象は?」
そんなとは知らない金助と円太郎は、象舎の掃除を終わると、外のベンチに座って一服する。
ケチな円太郎は、金助からタバコを一本もらおうとするが、金助がそれを手帳に書こうとしたので、たかがタバコ一本くらいで手帳につけるようなしみったれな奴からタバコはようもらわんわと言いながら、自分のタバコを取り出し吸い始める。
その時、仲間が「会議室へ全員集合だ!」と、飼育係仲間が駆け抜ける。
会議室に集まった飼育係を前にして、つらそうに事情を説明した園長は、直接彼らの世話をして来た君たちの事を考えると忍びないが、状況を察してくれと頭を下げる。
できれば今夜中、無理をしても、明日の昼までには済ませてくれと言う。
すると、梶飼育係(伊達三郎)が前に出て、銃を貸してくれ、せめて自分の手で処分してやりたいと名乗り出る。
その梶飼育係が銃を手にして部屋を出て行った後、聞こえて来る動物たちの声を聞いていた他の飼育係たちは、かわいそうに、みんな何も知らずに鳴いているじゃないかと暗い気持ちになる。
そこに一発の銃声が響く。
会議室に戻って来た梶飼育係は、済みましたと銃を返すと、これから檻の中で通夜をして来ると出て行く。
次々と猛獣担当の飼育係が出て行く中、最後に会議室に残っていた金助は、象は猛獣じゃなくて良かったなと円太郎に笑いかけていた。
円太郎も、象を殺せと言われたら、俺の方は先に死んでやるよなどとのんきに返事をしていたが、そんな二人を見ていた園長は、静かに「今度はお前たちの番だよ」と告げる。
それを聞いた金助は、一瞬固まり、「冗談言わないで下さいよ」と苦笑いするが、園長の悲痛な顔を見ているうちに、冗談ではないと知り「象は猛獣じゃないですよ。牛や馬を怖がる子供だって、象は怖がらないじゃないですか!」と食って掛かる。
円太郎も「象が猛獣なら、尻尾があるオタマジャクシも猛獣ですか?」とおかしな反論をするが、「軍の命令に象も入っているんだよ」と言い聞かせる園長。
「君たちがやらないと言うなら、私が殺すと言ったら?」と問いかけて来ると、さすがに言葉に窮した金助と円太郎は「必ず殺します」と返事をするしかなかった。
銃を持たされ、暗い気持ちで象舎に向かう金助と円太郎だったが、その途中で円太郎が急に慌てたように自分と金助のポケットを触り始めると、全財産が入った財布をなくしたと言う。
しかし、いつものうっかりで、その財布は、ちゃんと円太郎の尻ポケットに収まっていた。
象の檻の前に来た二人は、どちらが撃つかでもめる。
じゃんけんをして、撃つ順を決めようとするが、金助が勝ったので、最初は金助が喜び、銃を円太郎に差し出すが、円太郎は、勝ったものが先に撃つのだと銃を突き返す。
何も知らない太郎と花子が、二人の姿を見て、鼻をこすりつけて来たり、しゃがむ芸を見せたのを知ると、二人は泣き出してしまうのだった。
そんな象舎の中の様子を、園長と大井警防団長は外から観察していた。
二人の気持ちが痛いほどわかる園長は、あの象が、どんな状況になっても危害を加えないと証明されたら、一歩も動かないようにする事が出来たら、殺すのを止めるように軍に進言してくれるかと頼むと、大井警防団長も尽力すると約束する。
翌朝、太郎と花子の身体に鎖をかけ、それを大木に縛り付けてみた上で、金助と円太郎に、象を呼んでみてくれと園長は命ずる。
言われた通り、太郎と花子の名を呼ぶ金助と円太郎。
すると、太郎と花子は彼らに近づこうと前に進み始めるが、鎖が邪魔をする。
しかし、その後も二人が必死に呼び続けていると、太郎と花子は鎖を引きちぎってしまう。
これを見た金助と円太郎は大喜びで、工夫する時間があるまで諦めないよと、困った表情を見せる園長に対し、この程度の芸は朝飯前、おそらく日本中に、太郎と花子をつなぐ鎖なんかないでしょうと、愉快そうに笑いながら自慢する。
それを見ていた梶飼育係は、象舎に戻った二人を叱りつける。
お前たちの事を不憫に思って、象を殺させない工夫を徹夜で考えてくれている園長を笑うとは何事かと言うのだ。
一方、園長室に戻った園長は、象に足を広げて力を入れさせないようにすれば良いのではないかと、足を縛る方法を考えだしていた。
それを見ていた職員は、さっきの仕返しですか?と笑いかける。
象舎では、円太郎が、残された時間は後420分やと金助に話しかけていた。
その直後、顔を互いに見合わせた二人は、連れて逃げようか?と同時に発言するが、大きな象を人に知られず外に連れ出す事の難しさに気づく。
しかし、諦めきれない金助は、今夜空襲警報が鳴ったら、神様が助けなさいと言っている事にしないかと言っている最中、その空襲警報が鳴りだす。
それを聞いた円太郎は、神様が助けなさいと言ってらっしゃると言う事かとつぶやく。
園内の人間が退避した後、二人は太郎と花子を動物園の外に連れ出す。
案の定、外の通りも人気はなかった。
恐る恐る道を進んでいた二人だった、前から来る人に出会い、もはやこれまでと覚悟する。
しかし、その人は目が不自由な人で、何も気づかず、象の腹の下をくぐり抜けて通り過ぎてしまう。
その頃、象舎の中では、象と象使い二人がいなくなった事を知った園長たちが頭を抱えていた。
警察に知らせますか?と聞く職員に、二人が罪人になるから知らせるなと止める園長。
まだそう遠くへは行っていないだろうから、とりあえずみんなが手分けして探してくれ。しかし、象を見なかったかなどと聞くんじゃないよ、帰って騒ぎになるからと釘を刺す。
しかし、象の名前を出さずに、人に聞いて回る訳にも行かず、外に走り出た職員たちは奥歯にものの挟まったような聞き方をするしかなかった。
一方、二人を捜す声が間近に迫っている事に気づいた金助と円太郎は、象に乗って川を渡り始める。
動物園では、園長に呼ばれて相談を受けた中沢警察署長(寺島貢)が、穏便に済ませるには、園長が言うように、二人を説得して戻すしかないだろうと納得していた。
その頃、象の背中に乗って山の中を歩いていた金助と円太郎は、このままでは、餌もないし休む場所もない。何とか手だてはないかと相談していた。
すると、円太郎が、お前の不細工な女房の家があるではないかと言い出す。
それを聞いた金助は、確かにかかあの家は芋の名産地だし、山の中の一軒家だから好都合だと納得する。
とは言え、当座のえさ代として、お前が金を出せと言う金助に、なぜ俺が金を持っていると知っているのかと驚く円太郎。
呆れたように、お前はしょっちゅう、自分の全財産6879円63銭入っている財布がなくなったといつも騒いでいるではないかと指摘した金助は、俺の金は銀行に入れているので今持ち合わせがないのだと言う。
しかし、円太郎は、これは自分が好きなものを買うために必死に貯めた金だから出すわけにはいかない。そんなことを言うなら失敬しますと、立ち去りかける。
しかし、結局、象のために、近くの農家から食料を買う円太郎と金助だった。
その夜、山の中で野宿していた二人は、何者かに起こされる。
見ると、三人組の男が金を出せと言うではないか。
強盗だった。
しかたなく、円太郎は全財産の入った財布、金助も小銭を差し出すしかなかった。
それを自分の胴巻きの中におさめた強盗(上田吉二郎)がほくそ笑んでいると、そこに太郎と花子が姿を現したので、それを見た三人は逃げ出してしまう。
円太郎は今の強盗が胴巻きを落として行った事に気づく。
中には、自分たちの財布以外に3000円も入っていた。
二人は思いもよらぬ臨時収入に喜ぶ。
翌日、又、象の背中に乗り女房の実家に向かっていた金助は、円太郎に奥さんをもらわんかと聞く。
最初は感心がなさそうな返事をしていた円太郎だったが、34にもなって独身であるので、やっぱり気になるらしく、どこのお嬢さんや?と聞いて来る。
お君の妹のお照だと金助が言うと、あんな不細工な女房の妹なら、定めし不細工だろうと興味をなくす円太郎。
それを聞いた金助はむっとして、お照は、気だてが良くて美人だと評判なんだと反論する。
しかし円太郎は、殺すと言われてもご免被りますと断固拒否する。
やがて、女房お君の実家に到着した金助は、とりあえず一人で訪問する事にする。
お君(大美輝子)は妊娠中で、ちょうど実家に帰っていた所だったので、珍しく夫が訪ねて来たので喜ぶ。
義父の上野源兵衛(星ひかる)や、お照(喜多川千鶴)、末っ子の健坊も歓迎してくれた。
金助は恐縮して、実は連れが外にいるんですが…と打ち明けると、源兵衛はすぐに入れてやれと言う。
外で待ちくたびれていた円太郎は、金助から呼ばれ、家に入ろうとするが、そこに見慣れぬ美人がいるので、それがお君の妹のお照と気づき、ばつが悪くなって入れないと言い出す。
お前が行った悪口など話してないと金助が言うと、ようやく安心して土間に入って来た円太郎は、そこで帽子で服のほこりを払い落とし始めるが、あまりのほこりの量の多さに逆に、顔が真っ白になってしまう。
茶を入れるため台所に引き込んだお照に、健坊が、あの人のお嫁さんになるの?と聞いてきたので、思わずお照は「嫌よ!あんならっきょみたいな人」と返事する。
やがて、又おずおずと金助が、まだこいつの他の連れがいると指を二本差し出したのを見た源兵衛は、何を遠慮している、すぐに入れてやれと言う。
しかし、金助が、ここには入れないと思うとつぶやくと、ここに二人くらい入れなかったら、何でもくれてやると怒りだす。
それを聞いた円太郎は、思わず「輝子さんもですか?」と聞く。
気がつくと、太郎と花子の鼻が玄関先に入って来ており、中に入ろうと迫って来たので、玄関口が壊れてしまう。
それを見た源兵衛は激怒するが、象が来たと知った健坊は大喜び。
結局実家を追い出された二人は、象を連れて山の中に戻るが、とりあえず、象のために小屋を建ててやろうと言う事になる。
二人は、周りの木を集めて何とか小屋を完成させるが、その中に象を入れ、眠り込んだ二人は、翌朝、小屋がなくなっている事に気づく。
腹をすかせた象たちが、小屋を一晩で食べてしまっていたのだ。
腹を空かさせた責任は自分たちにあるのだからと、二人は又小屋を作り始める。
後日、家を抜け出し山に向かう健坊の姿があった。
それに気づいて近づいて来たのが、近所に住むみどり(中村メイコ)
どうして勉強に来ないの?と健坊に詰め寄って来たので、ボク忙しいんだと逃げようとする健坊。
それでも、おせっかいなみどりは、山の中に入って行く健坊の後を付いて来るのだった。
すると、困った様子で健坊が、大人には言っちゃいけない秘密なんだと言い出したので、みどりちゃんはあれこれ考えた末、私はまだ子供の方だと思うわと答える。
健坊はようやく、実は、一日一回背中に乗せてもらう代わりに、象の世話をしているんだと打ち明ける。
にわかに信じかねたみどりだったが、やがて健坊に連れて行かれた川で、象と一緒に水しぶきを上げて遊ぶ子供たちの姿を見る。
一方、お照も山の中で、よろけながらも水を運ぶ円太郎の姿を目撃していた。
実家ではお君が産気づき、健坊が金助を連れて来たので、それを知った源兵衛は、普通なら、一歩も敷居をまたがせない所だが、どうして赤ん坊が生まれた事を金助は知ったのだろうと不思議がる。
その赤ん坊と添い寝していたお君は、もう象の事は諦めてくれ、戦争が終わったら、インドからまた象を買えば良いじゃないかと、枕元に座った金助に頼むが、では、赤ん坊も又生まれるから、殺してくれと言われて出来るかと言う金助の返事を隣で聞いていた源兵衛は、人間と象を同じに言うとは何事かと、又逆上して金助を追い出してしまう。
戻って来た金助に、円太郎は、もう自分の金は底をついて来たと打ち明ける。
それを聞いた金助は、今度は俺が銀行から金を下ろして来ると言いだしたので、それでは捕まりに行くようなものと円太郎は止める。
それでも金助は、二日経っても俺が戻らなかったら、捕まったと覚悟してくれ、そして、10日経っても戻らなかったら、お前一人で象を殺してくれと頼んで出かけて行く。
その頃、みどりは一人で、象の歌を作詞作曲していた。
街の銀行に到着した金助は、回転扉を入って行くが、その扉の反対側から外に出て来たのは富永動物園長だった。
園長は、帽子を忘れた事に気づき、又回転扉を入って行くが、その反対側から、金を下ろした金助が出て来る。
帽子をかぶった園長は、回転扉から出た所で、去って行く金助の後ろ姿に気づき、尾行を始める。
バスから降りた金助は、後ろから付いて来ていたハイヤーをやり過ごすと、急に山の中に走り込む。
ハイヤーから降りた園長は、必死にそれを追いかける。
しかし、草陰に隠れていた金助は、追って来た園長の前に姿を現すと、このまま帰ってくれと説得する。
しかし、園長は、あいつらは生きているのか?お前が銀行から金を下ろした所を見ると、まだ生きているんだねと冷静に尋ねる。
皮肉なもので、象が死んだと言う報告が出ないので、まだ食料の供給は続いており。象舎の中には餌が山と積まれているんだと園長は説得するが、捕まえに来たと頭から信じ込んでいる金助は聞く耳を持たず、見逃して下さいの一点張り。
その時、偶然、近くを通りかかった警官の姿を見た金助は、やっぱり罠だったと思い込み、必死に山の中に駆け込む。
それを勘違いするな!と必死に追う園長は、崖から足を滑らせて落下した金助を目撃する事になる。
頭に大けがを負い、病院に入院させられた金助は、気がつくと帰してくれと暴れだす。
自分が帰らないと、象たちが円太郎に撃ち殺される事を知っていたからだ。
しかし、訳を言わないで暴れる金助は、打ち所が悪く、頭に異常を来したと医者に勘違いされてしまう。
そんな事を知る由もない健坊らは、毎日、みどりが作った「象の歌」を口ずさみながら、餌を運んでいた。
山で象の世話をしているなどとは知らない源兵衛は、最近、健坊が丈夫になったと喜んでいた。
円太郎は、お照が近づいて来たのに気づき警戒する。
どうせ、自分たちの事など理解してくれないと思い込んでいた円太郎は、ここはあんたのような人が来る所じゃないと追い返そうとする。
しかし、「私も、皆さんのお仲間になります」と言うお照の返事を聞いた途端、急に態度を変えた円太郎は、今まで一人で寂しかったと弱気を漏らすのだった。
金助は病院で呻吟していた。
動物園に戻った園長は、誰にも耳を貸そうとしない金助を精神病院へ入れたいと医者が行っていると職員たちに打ち明ける。
やがて、本当に金助は精神病院に入れられてしまう。
終戦
健坊が、家から猟銃を持ち出そうとしている所を目撃したお照は、そんなものを子供が持っている所を見つかったらかえって怪しまれるから、自分が持って行ってやると銃を受け取る。
精神病院にいる金助を尋ねた園長は、もう良いんだ、戦争は終わったんだと教えると、金助は、円太郎との約束の日は今日なんですと、象がいる場所を教える。
その頃、円太郎は、木の上に登り、お照から受け取った猟銃の試し撃ちをしていた。
そして、その銃を象たちに向けると、頼むさかい、死んでくれ!と引き金に手をかける。
その頃、園長や梶飼育係たちは、全員トラックの荷台に乗って、山に向かっていた。
木の上の円太郎は、引き金を引きかねていた。
「金助もおらんわ、お前らもおらんようになったら、そんな寂しい所によう生きとらんわ。俺も死ぬわ」とつぶやきながら、引き金を引いた円太郎だったが、銃は鳴らなかった。
そこに園長らが駆けつけて来て、一緒やって来たお照が、自分が銃をすり替えておいたので、そっちの銃は弾が入ってないのだと教える。
太郎と花子は、子供たちに見送られ、無事、動物園に戻る事になる。
その頃、病院で頭の包帯をほどかれていた金助は、毛髪がすっかり抜け落ちている事を知る。
その頭で実家に戻って来た金助を見たお君は、どなたですか?と聞く始末。
夫の金助の変わり果てた姿だと知ると、おもしろがって、兄弟や父親を呼ぶ。
実家にこもるようになった金助に、お照がどうして動物園に帰らないのと聞くと、こんな頭になった自分を太郎たちが分からないんじゃないかと思うと帰れないと言う。
しかし、お照は、そんな事気にしないで帰りなさい。自分も円太郎さんと約束があるから一緒に行ってやると言うではないか。
それを聞いた金助は、お照と円太郎の仲が進展した事を知り喜ぶと同時に帰る決心をする。
東野動物園では、円太郎と、別の象使いが、太郎と花子の芸を披露していた。
しかし、慣れない象使いは、厳しい口調で太郎を叱りつける。
観客の中には、それを心配げに見つめる金助の姿があった。
やがて、乱暴な象使いに太郎は怒りだし、象舎から逃亡して園内を走り出す。
観客たちはパニック状態になる。
そんな太郎の前に、頭を抑えてうずくまる男の姿があった。
それに気づいたお照は「義兄さん!」と呼びかけ、そこにやって来た円太郎と再会する。
騒ぎを聞きつけた園長や梶飼育係も、その場に駆けつけ、息を止める。
太郎は、うずくまった男の前に来ると急に足を止め、その頭を鼻でなで始める。
それに気づいた男は金助だった。
金助は、太郎の背中に乗ると、「覚えています!太郎は私を覚えています!」と感激するのだった。
安心したお照も、思わず円太郎に抱きつくのだった。
再び象使いに戻った金助と円太郎、そして太郎と花子を前にした子供たちは、みどりが指揮をする「象の歌」を高らかに唄っていた。
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戦時中、上野と天王寺動物園の象は殺処分され、名古屋東山動物園では、鎖に繋ぐなどの条件付きで、マカニイとエルドの二匹だけが延命した実話に基づく子供向けの動物映画。
その東山動物園が「東野動物園」として全面協力しており、そのマカニイとエルドの二匹が「太郎と花子」の名で登場している。
当時、象が子供たちのアイドル的存在だった事が分かる。
子供向けだけに、たあい無いと言ってしまえば、たあい無い内容だが、象が悠然と猿などが木々に群れる山の中を歩く姿や、子供たちが象と一緒に水浴びをするキラキラ輝く映像などは、ターザン映画でも観ているようで、まさに当時の子供に撮っては夢のような憧れイメージだったに違いない。
いかにも頭が弱い狂言回し風のキャラクターに描かれた象使いたちや、その漫才風のやり取りは昔風だが、大友柳太朗や志村喬、伊達三郎ら渋い脇役が、物語を引き締めている。
柳家金語楼が、最初からオールバックのヅラをかぶって出て来るので「おや?」と思っていたが、これがラストの「子供受けする古典的な」オチに繋がる仕掛けになっている。
途中、象を外に連れ出す所や、象の上に象使いが乗っている所は、明らかに吹き替えが使われている。
アップになるそのシーンの金助が、側面に妙に大きなフードの付いた変わった帽子をかぶっている所を見ると、金助の方の吹き替えは、髪の長い女性だったのかもしれない。
途中から登場してくるメガネっ娘は一瞬誰だか分からないが、中村メイコである。