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ドッペルゲンガー

2003年 「ドッペルゲンガー」製作委員会 古澤健脚本、黒澤清脚本+監督作品

予想外に…といったら失礼かも知れないが、面白かったので驚いた。

基本的には、数名の役者だけで構成された作品だが、話の展開が面白く、ついつい引き込まれて最後まで見せ
られてしまった。

ドッペルゲンガーものといえば、ポーの「ウィリアム・ウィルソン」をベースにした「世にも怪奇な物語」(1969)の中の、アラン・ドロン主演のエピソードなどがあるが、現代の日本を舞台にして、いわゆるホラーや怪奇幻想譚という感じでもなく、SFという感じでもなく、かといって普通の日常ドラマでもなく、一種独特の雰囲気を持つ作品になっている。

つまり、通常の恐怖や笑いなどの娯楽要素を期待して観ていると、肩透かしを食うかも知れない。
かといって、難解…という感じもなく、意外とすんなり物語に没入する事ができる。

いわゆるウィリアム・ウィルソンもののパターンだと、その当事者(ドッペルゲンガーと対峙した主人公)が苦悩と錯乱の末、最後は自滅…みたいな、どちらかといえば閉鎖的な展開を想像してしまうのだが、本作の面白さは、その主人公にかかわって来る人物像が面白いため、怪異でありながら、意外にもからっとした印象のラストを迎える点にある。

永作博美演ずる永井由香は、すでに自身が怪異を経験済みで慣れている。
ユースケ演ずる君島は、見かけによらずドライで悪賢く、他人の事なんか興味がない。
つまり両名とも、怪異に対し、疑問を持ったり怯えたりしない…という所がポイント。

プレッシャーに押しつぶされそうになっている天才肌の社員技術者…、主人公の早崎道夫(役所広司)だけを追っていると、実は、通常の「ウィリアム・ウィルソン」パターンなのである。

それが、ひねったように見えるのは、ひとえに由香の存在にある。
彼女は、表面上は、現実の早坂を慕っているかのようにふるまっているが、本心は、二つに分かれた早坂の「どちらか特定の方」に愛情を感じている訳ではない。
怪異もろとも愛しているのである。 (ここが、微妙な所である。見方によっては、むしろ、ドッペルゲンガーの方に魅力を感じているようにも思える)

この辺を色々深読みしながら観て行くと、ラストの解釈も人によって違って来ると思う。

一見、早坂の心の成長物語のように思えるこの作品だが、実は、由香の方の心の変化を描いた物語なのかも知れない。