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血槍無双

1959年、東映京都、小国英雄脚本、佐々木康監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

一人の侍が、庭で切腹の儀式を進めている後ろ姿。

松の廊下での刃傷沙汰のお咎めとして、詰め腹を斬らされた浅野内匠頭長矩だった。

元赤穂藩城代家老大石内蔵助(大河内傳次郎)以下の赤穂浪士は、雨の中、一路江戸に向かっていた。

時は元禄15年10月7日、一行は原惣右衛門(御橋公)の出迎えを受ける。

しかし、庭先に挨拶に来たその惣右衛門の配下の顔を見た内蔵助は、上杉藩の前田平内殿(藤木錦之助)ではござらぬか、異な形でお目にかかりますなと、相手の正体を見抜いてします。

慌てて逃げかけた左右田を、追った武林唯七(若山富三郎)が斬り捨てる。

偽物を見抜けなかった不明を惣右衛門は謝罪するが、相手は千坂兵部ほどの人物、これしきの事するであろうと内蔵助はつぶやき、江戸の動静を聞く。

惣右衛門は、先に江戸の入った仲間たちは、皆町人に身をやつし、吉良の動静を日々下がっていると報告する。

難波屋や、相生町の美作屋という呉服店にも数名づつ入り込んでおり、他にも、魚屋、八百屋、大道芸人などに化けている。ただし、堀部安兵衛(黒川弥太郎)だけは、顔が知れすぎているため隠密活動に向かないと言うので、自ら煮え湯を顔に浴びて…と言う。

その顔に観にくいやけどの跡が残る六助こと堀部安兵衛が美作屋にやって来る。

難波屋で働いていた伝衛門こと倉橋伝助(長嶋隆一)が美作屋の奥に向かうと、間喜兵衛(薄田研二)が蕎麦をすすっている。

その蕎麦を作った裏庭に来ていた夜鳴きそば屋も、赤穂浪士の一人、杉野十平次(大川橋蔵)だった。

その十平次が、夜泣き蕎麦屋「当たり屋」を松坂町近辺で商っていると、5人の男が近づいて来る。

どうやら、練習帰りの、商家丸屋の若旦那とその取り巻きらしく、蕎麦を注文すると、今まで行っていた道場の事を話し始める。

道場の先生はやたら練習は厳しい癖に、飲んだくれのへそ曲がりでどうしようもない人物だが、その妹から介抱させれると、気付け薬みたいに良い心持ちになるとにやけているのだった。

その話を聞いていた十平次は、その道場主の名前が俵星玄蕃で、その妹の名は俵星妙と言う事を知る。

その後、その道場の横を流していると、当の俵星玄蕃(片岡千恵蔵)から「求め使わすから入って来い」と招かれる。

「毎度ありがとうございます」と言いながら門を入ると、いきなり「その方、何のために嘘を言う?」と、酔っているらしい玄蕃から難癖をつけられる。

始めて来たくせに「毎度ありがとう」と言ったではないかと言うのだ。

商人特有の世辞ですよと呆れて返すと、最近は武士も世辞を言うようになった、けしからんと玄蕃は嘆く。

十平次が蕎麦を渡そうとすると、自分は蕎麦など頼んでいないと言い出す。

「求め使わす」と呼んだではないかと、十平次が気色ばんで迫ると、「蕎麦を求め使わすとは言っていない、酔い覚めの水をくれ」と、玄蕃は言い出す。

どうやら自分で井戸に汲みに行くのを面倒くさがっているだけの事だと察し、十平次は腐るが、一応水を差し出すと、それを「甘露甘露」と飲み干した玄蕃は、今度は酒を持っておらぬかと言い出す。

渋々酒を差し出すと、それも飲み干し、人心地付いたら、腹が減って来たので、今作った蕎麦をくれと言う。

全く人を食ったへそ曲がりだとつぶやきながら蕎麦を手渡した、十平次ではあったが、代金を請求すると、明日取りに来い、妹も今いないと言うではないか。

これにはさすがに堪忍袋の緒が切れた十平次、冗談じゃねえと詰め寄りかると、玄蕃はタンポ槍を持ち出して来て、えい!とばかりに十平次の面前に突き出す。

これで目を回した十平次が倒れ込んだ所に帰って来たのが、玄蕃の妹お妙(花園ひろみ)。

お妙は、すぐに事情を察すると、ふてくされて帰りかけた十平次に追いつくと、兄の無礼を詫びると共に、代金の足しにしてくれと、母の形見と言うかんざしを差し出す。

そんなものは受け取れないと辞退する十平次だったが、「兄は寂しいのです」と謝るお妙の気持ちを察し、一応預かる事にする。

すっかり気分を害し、その日の商売は止めて帰りかけていた十平次を呼び止めたのは、頬かぶりをした中元風の男。

もう終いだと通り過ぎようとする十平次に、無理に蕎麦を作らせる。

さらに「お前、いつから始めた?この界隈じゃ見かけねえ顔だな」と気になることを言って来るではないか。

油断できんと無言で十平次が蕎麦を渡すと、その男、「まずいや」と言いながらぺろりと平らげてしまったので、さすがに腹に据えかねた十平次、「下郎の分際で無礼を言うと捨てては置かぬぞ!」と、つい侍言葉を出してしまう。

それを聞いた男は頬かぶりを取ると、「もし俺が、吉良の中間だったらどうする?もういっぱいくれ、なかなか旨いぞ」と言うではないか。

相手が堀部安兵衛である事を知った十平次は、自分の未熟さを悟り恥じるのだった。

翌日、十平次から零落した俵星玄蕃の事を聞いた美作屋の間喜兵衛は、驚くと共に同情し、十平次に五両の金を貸してやる。

その金を持って帰る十平次の姿を、別の部屋から目を留めたのが、美作屋の上得意の一人で、松野屋と言う料亭の女将、お蘭(長谷川裕見子)であった。

その頃、俵星玄蕃の道場では、お妙に仕立物の仕事の世話をしてやっている老婆お兼(松浦築枝)が、玄蕃に説教をしていた。

お妙お嬢様がどれほど苦労して毎日の生活を支えているのか、あなたは考えた頃があるのか。お嬢様のお年をご存知か?と、婚期を逃しかけている妹の事にも無頓着で自堕落な毎日を過ごしている玄蕃の態度を叱りつけていたのだった。

そこへ、醤油樽と酒樽を荷車に積んだ十平次がやって来る。

樽を屋敷に入れ、さらに「これはゆうべの…」と言いながら、金を手渡そうとした十平次の言葉を慌てて封じたお妙は、「この方は、兄上の指南を受けたいそうです」とごまかす。

それを聞いた十平次も驚くが、では来いと玄蕃から道場に招かれたのでは断りようがない。

仕方なく、防具をつけ、タンポ槍を構えてはみたものの、生来の武芸音痴、相手の気合いだけで目を回してしまう。

お妙は慌てて、お蕎麦屋さん、まだ突かれてはいませんと介抱するのだった。

その頃、美作屋では、お蘭と言う上得意の女が杉野十平次に一目惚れをしたらしいのだが、あの女は実は吉良の思い女なので、上手く取り入れば、情報が手に入るのではないかと浪士たちが相談し合っていた。

つまり、お蘭が吉良邸に呼ばれる日は、間違いなく上野介が在宅している証となると言うのだった。

それを聞いていた武林唯七は、あいつに出来る事と言えば、女たらしくらいだろうからちょうど良いと、露骨にあざける。

しかし、庭先でそれを聞いていた十平次本人は、屈辱感から反論する。

自分は確かに生来の未熟者だが、いざ討ち入りの時には、自分は進んで相手に斬られるつもり。自分が斬られている隙を狙って誰かが相手を殺せば良い…と言う覚悟があるのだ。しかし、敵の引かれものになると言うのでは、死んでも死にきれません!…と。

その夜、十平次に会いに来たお妙は、この前もらった金を返そうとする。

しかし、十平次は、この金は、かんざしを売った金だからと押し返そうとすると、実は前にも、あのかんざしを売ろうとした事があったのが、醤油樽一つ分にもならなかったとお妙は言う。

十平次は、嘘を見抜かれたとは感じたが、あれこれ理屈を並べて金は受け取ろうとはせず、逆にお願いがあるのだが、本当に玄蕃のお弟子入りが出来ないかと言い出す。

武芸の一手でも身につけていれば…と思うような事があったのでねと説明する。

その頃、道場では、俺たちが払う手当がなくなったら困るのではないかとうそぶく、お妙目当ての丸屋の若旦那と取り巻きの4人らが、二度とこの道場に足を踏み入れるな!と玄蕃から追い返されていた。

その後、お妙が十平次を連れて帰宅し、弟子になりたい旨を伝える。

十平次の目を見て承知した玄蕃は、すぐさま道場にあげると、突いて来いと身構える。

槍を構えた十平治は、無我夢中で玄蕃に突きかかって行くが、簡単にいなされてしまう。

それでも、必死に何度か立ち上がり向かうが、とても歯の立つ相手ではない。

あまりに自分のふがいなさに泣き出す十平次だったが、それを見ていたお妙は、兄の仕打ちが厳しすぎるので、痛くて泣いているものと勘違いする。

酒を飲み始めた玄蕃は、一杯やるか?と十平次を側に招くと、その方、元からの町人でもなければ、槍を習うのも、これが始めてではあるまいと喝破する。

ぎくりとした十平治に、玄蕃はさらに、その方、仇持ちだろう。必死の目つきがあると迫る。

覚悟を決めた十平次は、自分は西国のさる大藩の足軽の子だと正体を明かす。

兄は示源流の使い手だが、自分は生来の不器用もの。今までは、自分が斬られる事で敵の隙を作る助けにでもなればと思っていたが、ここへ来て、せめて敵に一突きでも、一槍でも刺して死にたいと思うようになったと切々と訴える。

美作屋の奥では、大石内蔵助を招き、間喜兵衛が、伝衛門こと倉橋伝助が吉良邸の絵図面が手に入れてくれたと報告していた。

一方、十平次は、吉良邸の門番たちから蕎麦を注文されたので、これ幸いと手持ちの酒を勧め、その代わり、水を井戸で汲みたいので中に入れてくれないかと頼む。

警戒厳重な中、何人たりとも入れるなとの指示があるので…と門番(杉狂児)は迷うが、もう一人(伊東亮英)が、こっそり入れれば構わんだろうと許す。

奥の長屋に入り込んだ十平次は、何か情報はないかと周囲の様子をうかがっていたが、庭で試し斬りをしていた和久半太夫(小堀阿吉雄)と、それを見物している猿橋右門(山形勲)らの姿を発見する。

しかし、そんな十平治の肩を触るものがあった。

お蘭であった。

慌てた十平次は、何とかごまかそうとするが、お蘭は口止めをすると、人の気配を感じて誰何して来た猿橋右門の方へ、自ら姿を見せ、怪しいものなどいないと言ってくれる。

道場では、お妙が、その日なかなかやって来ない十平次の事を案じていたが、玄蕃は、蕎麦屋は助かるまいと冷静につぶやく。

それを聞いたお妙は、兄上が、あの方の仇討ちの助太刀をしてやれば良いのではないかと言い出す。

すると玄蕃は、弟子の助太刀をしてやる筋合いなどないと言いながらも、あの方がその方の婿にでもなったら、やらずばなるまい…と妹の顔を見やる。

お妙は恥ずかしそうにうつむく。

玄蕃は、自分が長い年月を経て会得した槍術を、このまま朽ちさせる事は何としても堪え難い。これを認めぬ世の中を呪った。自分の不運を恨んだ。今はただ、良き弟子を得る事だけに無我夢中で来たが、その陰で、お前の事に思い至らなかった…と独白し始める。

年頃になっても、着たいものも着れないどころか、他人も着物ばかり仕立てている。そんなたった一人の妹の事に心が至らなかった…。妙、その方は、幸せになるのだぞと言い聞かせるが、その話を、門の所に遅れて訪れた十平次はじっと聞いて、静かに去るのだった。

翌日、道場にやって来た十平次に、玄蕃はいつも以上の猛稽古を強いる。

お前のような奴は、人の百倍も千倍も努力しなければ一人前にならないのだと。

しかし、才能のなさ、体力もなさは遺憾ともしがたく、十平次は最後には立ち上がれなくなるほどだった。

美作屋では、年明け早々、吉良が松坂町の屋敷から上杉藩に移動するとの情報がもたらされる。

千坂兵部の措置であろうと推察した内蔵助は、時間がないと焦る浪士たちに、後二旬、20日も猶予があるのだと考えよと言い聞かせる。

その席で、鍵は、お蘭…と言う言葉を聞いた堀部安兵衛は、十平次の奴、恋を致しましたと報告する。

その十平次、ある日、お妙と連れ立って、川縁を歩いていた。

十平次の正体を知らぬお妙の方は、すっかり夫婦になれると思い込んでいるようで、うれしそうに話しかけて来たが、死を予感している十平次の心は暗かった。

そんな二人の様子を、たまたま通りかかった船の中から目撃していた人物がいた。

お蘭であった。

お蘭は、女と二人連れの十平次の姿に強い嫉妬の心を燃やす。

そんな十平次を呼び出した堀部安兵衛は、松野屋のお蘭の元に行ってくれるように説得する。

十平次は、今夜一夜だけ猶予をくれと言う。

その夜、松野屋で十平次を待っていたお蘭は、やって来た間喜兵衛が、手代の倉橋伝助だけを伴って来たのを知ると、あの人には女がいます!と激怒するのだった。

その後、一人になったお蘭は、池の中で戯れる青と赤の二匹の鯉を見ながら、自分の心のざわめきを自分で不思議がっていた。

その夜、道場へやって来た十平次は、ちょうど馬で出立する猿橋右門を見かける。

さらに、十平次を出迎えたお妙がうれしそうに、兄上に士官の口がかかったと言うではないか。

その士官の先の察しは付いた十平次だったが、招かれるままに、玄蕃の祝い酒につきあう事になるが、そんな心は知らず、お妙は無邪気に二百石の吉良家だと教える。

さすがに手にしたどんぶりをこぼす不調法をしでかした十平次だったが、そんな姿をじっと見つめながら、玄蕃はまだ士官を受けるかどうか決めかねているのだと打ち明ける。

と言うのも、吉良と言うのは、殿中松の廊下で浅野内匠頭から斬られながら、一方的な采配で、何のおとがめもなく生き延びている人物。

必ずや、赤穂浪士たちが討ちに来るはず…と言うではないか。

それを聞いていた十平次は、何とかごまかそうと、しかし、大石内蔵助なる人物は、祇園で遊びほうけていると噂に聞きましたが…と言うしかなかった。

玄蕃は、そんな十平次の心を見透かしているように、今、吉良家は、腕利きの付け人を集めている。仮に自分が吉良家の玄関に立てば、赤穂浪士を滅多に奥へは通さんと続けるが、しかし、この腕を、このような事で汚すのは誠につらい…たまらん!と吐露するのだった。

それを聞いていたお妙は、私の事を案じて士官をお受けなさるのなら、私は今のままで良いのですとかばう。

玄蕃は、十平次を道場に誘うと、一本の槍を差し出して来る。

真槍であった。

玄蕃は、その槍の石突き部分の一部を切り取ると、握りの部分を短くしてやり、万一、屋敷の奥に入り込んだ時のため、無辺流畳返しの術を伝授してやると言い出し、まずは手本を見せる。

それは、槍で畳を空中に投げ上げ、相手が体を交わして、槍で突き刺すと言うものだった。

玄蕃の思いを悟った十平次は、無我夢中で、その技の練習を始めるが、やっはり、どうしても出来なかった。

そんな十平次に、このくらいの事が出来ずに、大事の仇討ちが出来るか!と、着り取った石突きの部分で打ち据える玄蕃。

さすがに、その鬼気迫る二人の稽古を見かねたお妙は、平次さんが死にます!と止めに入るのだった。

翌日、美作屋にいた内蔵助の元に出向いた十平次は、松野屋に行くと返事をする。

ふがいない私には他に手だてがない…とうつむく十平次に、恥じる事はない、立派な仕事だと内蔵助は力づける。

さらに、十平次は、俵星玄蕃が吉良家の付き人になるとの報告もする。

それを聞いた内蔵助は何事かを考える。

その後、道場に前田藩中納言綱広の家臣奥村勘解由と名乗る侍が訪ねて来る。

その人物こそ、変装した内蔵助だった。

前田藩で迎え入れたいと言う勘解由の言葉を聞いた玄蕃は、その場であっさり承知し、その返事を聞いた内蔵助も感激する。

互いに相手の正体には気づいていたからだった。

その後、妙と二人になった玄蕃は、平次は諦めねばならぬぞ…と言い聞かせる。

その頃、十平次は、松野屋でお蘭と対峙していた。

お蘭は、十平次にしなだれかかり、何とか早く思いを遂げたいと焦る。

しかし、心いまだ決まらぬ十平次は、これから毎日来てくれるねと甘えて来るお蘭に対し、つい、お蘭様が吉良様のお屋敷に行かれる日は無理でしょう。その日は必ず教えて下さいますねと言ってしまう。

その言葉にピンと来たお蘭は、隣の布団が敷かれた室に逃げ込むと、懐からかんざしをそっと取り出して見つめている十平次への当てつけの意味もあってか、その事はこっちの部屋で教えてあげますと意地悪を言うが、鏡で紅を落としているうちに、自分の浅ましさが恥ずかしくなって来る。

無理に酒を飲み、寝室に向かった十平次だったが、そこにはお蘭の姿はなかった。

さらに、布団の上に置かれた手鏡の蓋に「十四日」と書かれてあるではないか!

その情報を持って十平次が帰った後、一人部屋で泣いていたお蘭は、私は自分の浅ましさがたまらなくなり、あの人を諦めた。きれいなまま帰してしまった。

吉良様が松坂町に泊まる日まで教えて…

あの人の素性を知っていながら、こんな事をしてしまったのも、吉良様の事を心のどこかで恨んでいたのかもしれない。始めて知った恋人を守りたかったのかもしれない…、私はバカな女さ…とつぶやいていた。

14日は朝から大雪であった。

道場へ出かけた十平次を迎えたのは、留守番していたお兼一人だった。

玄蕃とお妙は、こんな日にも関わらず、お参りに出かけたのだと言う。

そして、石突き部分が直って来たから、お前にやると言われたと、玄蕃から預かった槍を、お兼は十平次に渡すのだった。

蕎麦屋の難波屋へ、赤穂浪士たちが次々に集結して来る。

杉野十平次も、槍を持ってやって来る。

その夜、いつまで待ってもやって来ない十平次を気にしながらも、玄蕃はお妙と床に入る。

四十七士と共に吉良邸の前にやって来た大石内蔵助は、山鹿流陣太鼓を打ち鳴らす。

その音に気づいた玄蕃は「やったな!」と叫ぶと、にわかに起き上がり、身支度を整えると、何事かと目覚めたお妙に、神棚に灯明あげて、平次の無事を祈れ!と叫ぶと、そのまま雪の中に走り出て行く。

門が閉ざされた吉良邸の前にかけ参じた玄蕃は、中にいると思われる大石内蔵助に声をかけ、自分はこれから両国橋に行き、上杉藩から来るものを防いでみせると伝える。

その声の主に気づいた内蔵助も礼を言う。

吉良邸に仲間たちと共になだれ込んだ十平次は、立ちはだかった相手が和久半太夫と知ると、一瞬たじろぐが、怯え立ての技を試さんと、畳に槍を突き立てる。

最初は上がらなかったが、二度目に気合いをいれ直して跳ね上げると、見事に畳は宙に浮いた。

相手がひるんだ隙に、十平次は槍を突き立てる。

それを横で目撃した仲間は、どうしたんだ、その技は!と驚く。

こつを会得した十平次は、その後も、畳返しを使い、次々に敵を倒して行くと、「先生!出来たぞ!」と笑うのだった。

その頃、両国橋の上で仁王立ちになった玄蕃は、やがて向かって来た上杉藩の侍と戦い始める。

数人突き倒した所に、猿橋右門が馬に乗って到着、引け!と家来たちを引き戻した後、「かかる身で、おぬしと対するのも武士の定めだ」と言い、それに「御意!」と答える玄蕃を残し帰って行く。

その時、吉良邸の方向から勝どきの声を聞いた玄蕃は微笑む。

翌朝、吉良の御印を捧げた四十七士は、泉岳寺へと向かっていた。

それを道ばたで見つめる玄蕃とお妙。

その姿に気づいた内蔵助が近づいて来て、御助勢かたじけないと頭を下げ、列に戻る。

列の最後に付いていた十平次も又、二人の側に駆け寄ると、「先生、畳跳ね上がりました!」とうれしそうに報告する。

「わしもそう察しておいた」と答える玄蕃。

しかし、お妙は、「お嬢様」と呼ぶ十平次に、「妙」と一言呼んでくれとせがむ。

そんなお妙に、十平次は「おさらばでござる」と頭を下げ、列の最後尾に戻って行く。

戻って来た十平次が泣いているのを見た堀部安兵衛は、今はもう普通の人間だ、泣きたければ思いっきり泣け、俺は思いっきり笑うと言い高笑いを始める。

杉野十平次は、俺の槍を継いでくれた…と喜びながらも、玄蕃は傍らに立つ妹の事を案じていた。

しかし、お妙も、自分の気持ちは、あの方が持っているかんざしに…と言い、頷いた兄玄蕃と共に歩き始めるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

かつて三波春夫唄う長編歌謡浪曲「俵星玄蕃」でも有名な、忠臣蔵のサイドストーリー的な俵星玄蕃と杉野十平次との逸話の映画化。

「赤穂城」(1952)「女間者秘聞 赤穂浪士」(1953)「忠臣蔵桜花の巻・菊花の巻」(1959)などで、すでに大石内蔵助は経験済みの御大、片岡千恵蔵が、主役の一方、豪放磊落な玄蕃を演じている。

もう一方の主役、十平次を演じるのは、若手だった大川橋蔵。

いかにも、力も才気もないが、気持ちだけは、他の浪士たちに負けまいとする美剣士を演じている。

この作品で大石内蔵助を演じているのは、ベテラン大河内傳次郎、貫禄も十分である。

人気のある堀部安兵衛を黒川弥太郎が演じているのが、今の感覚からすると、ちょっと意外な感じもするが、当時としてはそれなりに人気があったと言う事なのだろう。

あくまでも「作り話」だから、道場では全く腰抜けだった十平次が、いざ本番となると、いきなり技を使いこなせるようになると言うのも、いかにもご都合主義なのだが、痛快さを期待する娯楽映画としては必要な展開だったのだろう。

年増の深情けを背景に、サスペンスの肝となるお蘭の登場も、今の感覚からすると、かなりわざとらしい設定に思えるのだが、女が男に「きれいなまま帰してしまった」などと言う台詞が、今観ると、ちょっと笑える。

自分の武芸の事しか考えていなかった玄蕃が、ある時、ふと、年頃になった妹お妙に苦労をかけている事を反省する…と言う辺りの独白シーン、今観ると、どうと言う事もない泣かせの部分なのだが、当時としてはこういうしんみりさせる演出が受けたのだろう。

余談だが、お妙が十平次を呼ぶ時、途中から略して「平次さん、平次さん」と、後に銭形平次で人気を博す事になる橋蔵の事を呼ぶのがちょっと面白かった。

当時の東映時代劇としては、平均的な出来ではないだろうか。