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スパルタの海

1983年、東和プロダクション、上之郷利昭 原作、野波静雄脚本、西河克己監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

昭和55年、冬、東京。

松本俊平は、突然、自宅に上がり込んで来た見知らぬジャージ姿の男たちが、自分を捕まえに来た連中だと察知する。

「てめえら、ヨットだな!」俊平は台所に逃げ込み、必死に抵抗するが、あいては無表情に俊平に迫る。

「おばあちゃん!助けて!」と祖母に助けを求める俊平だったが、その様子を観ていた母親勢津(小山明子)は、御近所の手前もあるので、静かにさせて下さいと、ジャージの男たちに頼む。

抵抗空しく男たちに捕まった俊平は、車に乗せられ、自宅前から連れ去られて行く。

愛知県美浜市にある戸塚ヨットスクールは戸塚宏校長(伊東四朗)40才、川西照光副校長36才、竹田コーチ26才、山内コーチ26才、他、工藤コーチ、水谷コーチなどの陣容で、全国の家庭内暴力などで困った親から依頼を受け、問題児を預かり、徹底的に鍛えて更生させる場所であった。

松井俊平が連れてこられたのはこの場所であった。

俊平は、施設の中に引きづり込まれると、いきなり髪を刈られ、坊主頭にされた後、柵と鍵がついた檻のような二段ベッドの中に放り込まれ、柵を閉められる。

その時、俊平のズボンのポケットから転がり落ちたビー玉を、下の柵付きベッドに幽閉されていた高校1年生沢明子が拾い上げる。

彼女は長崎で暮していたが、情緒障害の傾向が出て来て家庭内暴力が激しくなり、たまりかねた父、達郎は、ある夜、包丁を手にして、我が娘を殺そうとまで思いつめていたが、さすがに妻の美子が止め、このままの状態が続けば、一家心中するしかない所まで追い込まれていた。

ヨットスクールに明子を預ける時、母親は、いっその事、殺してもらいたいほどだと呟いていた。

俊平がヨットスクールに連れてこられた翌朝、生徒の一人山上が、トイレに立て籠り、出てこなくなると言う騒ぎが起きる。

コーチたちは、外から水をかけ、山上を外に引きずり出す。

一晩、檻の中に閉じ込められていた俊平も外に出され、いきなり外の堤防に連れて行かれると、他の生徒たちに混じり、ヨットを一人で操れるようになるまで、まず基礎体力作りとして、走ったり腕立て伏せをしろと、戸塚校長やコーチからいきなり命じられる。

そんな突然で理不尽な命令など聞けないと、コーチの言う事に返事をしない俊平や声が小さい明子は、容赦なくその場から海へ放り投げられる。

大阪出身の山上政男は、ちょっと知的ハンデがあり、シンナーの吸い過ぎで歯が全てなくなっていた。

その山上も、他の生徒たちと同じように、強制的に腕立て伏せをやらされていた。

反抗的な明子と俊平は、その後も何度も海に投げ込まれ、堤防に這い上がろうとした俊平の手は、戸塚校長に足で踏みつけられる。

その朝の特訓が終わると、ようやく朝食の時間になるのだが、腹が減った生徒たちは、むしゃぶりつくように出された食事を口に運ぶ。

ただ、その中には、あまりに肥満しているため、食い過ぎとして、鉄棒にぶら下がるように命じられるものもいた。

明子は、サラダばかり偏食しているので注意を受ける。

反抗的な俊平は、出されたミルクをコーチに浴びせかけたので、殴られ、やがて、その手のつけられない抵抗振りから「ウルフ」とニックネームがつけられる。

その日、ウルフもアッコこと明子も、戸塚校長考案の一人乗り用ヨットにいきなり乗せられるが、このヨットは、わざとバランスが悪く作られているため、よほどの熟練を経なければ、たちまちひっくり返る代物だった。

その日の練習が終わり、戸塚校長馴染みの角屋旅館で入浴させられていた俊平は、裸のまま脱走すると、近くの交番に「殺される!」と駆け込む。

南知多警察署に連れて行かれた俊平は、そこでのんきにカツ丼など食べていたが、そこに、両親と戸塚校長がやって来る。

俊平の父親松本俊一(平田昭彦)は、大企業の部長職をしているエリートだった。

俊平から事情聴取していた刑事は、彼は全治三週間の傷を負っていると両親に伝え、勝手に施設に送り込んだ事に対し、もっと子供の意思を尊重しなければ…と、苦言を呈する。

しかしそれを横で聞いていた戸塚校長は、未発達の子供の意思などを尊重しろと言うのは、悪い平等主義の考え方だと反論する。

そんな戸塚校長に対し、前に戸塚ヨットスクールの生徒が一人死んでいると指摘し、この男には保護能力などないと両親に訴えるが、それを聞いた両親は、一日一万と言う金を払っているのだからと、戸塚に対して苦い顔をする。

結局、俊平を施設に連れ帰る事になった戸塚校長は、そうした両親の態度を、自分に責任がかかって来るとすぐに逃げる…と呟くのだった。

戸塚の車に乗せられ、警察署から施設に帰って行く俊平を見送りながら、父親はこれで良いのか?とためらいを見せ、かつて自宅で俊平に首を閉められるなど暴行の数々を思い返していた母親勢津は、これで良いのよと、自分に言い聞かせる。

施設に連れ戻された俊平は、自分の怪我の事は訴えても、これまで自分がさんざん暴行の限りを尽くした両親の事など、警察で話したのか?と突っ込まれながら、コーチたちから手荒い折檻を受ける。

ある日、施設を訪ねて来た山上幸三(牟田梯三)と初子(藤田弓子)と言う、共に目が不自由なマッサージ師夫婦は、最近、祖母が車にはねられ入院してしまい、さらに幸三は胃を患い、初子は乳癌の手術と不幸が重なったので、こちらへの金が払えなくなったと、留守番をしていた角屋の娘岩本節子に打ち明ける。

さらに初子は、ここに預けている息子の山上政男に、面会させてもらえないかと申し出る。

両親を連れ堤防に向った節子は、ヨット練習中の戸塚校長にトランシーバーで連絡し、政男に目立つヘルメットをかぶさせるように頼む。

ヨットから双眼鏡で堤防に佇む両親を確認した戸塚校長は、すぐに事情を察し、政男にヘルメットをかぶせると共に、宿舎に戻るように指示を出す。

両親たちは、不自由な目で節子から渡された双眼鏡を見張り、ぼやけた視界の中にかすかに見えるヘルメットの色で、息子の位置を確認するのだった。

練習を終え、施設のベッドに戻って来た明子は、以前拾ったビー玉のカラフルな色を見て、長崎のおくんち祭りを思い出していたが、そのビー玉に気付いたコーチが取り上げそうになったのを見た俊平は、急に暴れ出し、そのあげく縛られてしまう。

そのまま夜の海に連れて行かれた俊平は、ボートに独り置き去りにされる。

俊平は、自分がずっと大切にしていた宝物のビー玉を、ある日、母親が勝手に焚き火に捨てていたのを見つけた日の事を思います。

その後、様子を見に戻って来たコーチは、ヨットから俊平の姿が消えており、闇に隠れていた俊平から逆に襲撃されてしまう。

名古屋にある戸塚ヨットスクール本部にいた戸塚の妻幸子は、横浜の岡村と言う人物から緊急の電話を受ける。

中学三年生の息子、岡村正彦が暴れていると言うのだ。

幸子は、すぐに警察を呼ぶように指示する。

しかし、その連絡を受け岡村家にやって来た警官たちは、応対した正彦が、単なる夫婦喧嘩だったと言うので、そのまま調べもせずに帰ってしまう。

正彦は、警官たちに見えないように背中に隠していた片腕にバットを握りしめていた。

翌朝、結局、又捕まってしまった俊平に、明子が朝食を運んで来てやる。

その時の俊平の様子を見ていた戸塚校長は、「あの顔や!あの表情や!」と独り納得する。

俊平はその日も、訓練にくわえられる。

そんなヨットスクールに、あの岡村正彦が連れてこられていた。

彼もすでに坊主頭に刈られていたが、対峙する戸塚校長に、自分が悪いのではなく、社会が悪いのだと、大人びた理屈をこねはじめる。

それを聞いていた戸塚校長は、手が勝手に動くと言いながら、岡村を殴り始める。

戸塚は、評論家が多すぎる、無責任な評論家が…と言いながら、さらに容赦なく、岡村を叩きのめして行く。

お前が頑張らんと、親や社会や人類の迷惑になると、戸塚は続ける。

俊平たちは、コーチからヨットの講習を受けていた。

コーチから専門的な質問をされた木原穂高は、スラスラと答える。

その木原が、その後、一人でトイレ掃除をしている所にやって来た戸塚校長は、お前はもういらん、帰って良いと言われる。

戸塚ヨットスクールを卒業したと言う事であった。

その頃、俊平は、自分のビー玉を見つけていた。

コーチたちは、帰宅が許された木原が嬉しそうだと話していた。よほどここが嫌いだったと言う事だと。

それを聞いていた戸塚校長は、ヨットスクールなんて憎んで良いんやと呟く。

太った岡村は、相変わらず腹筋運動をやらされていた。

その頃になると、明子は海で俊平の乗るヨットに自分のヨットがぶつかると謝るような素直な性格に戻って来たので、施設で炊事の手伝いなどもするようになっていた。

そんなヨットスクールに、高松弘と千代と言う夫婦が、新たに相談に来ていた。

息子の雄吉が、予備校にも行かず、家に閉じ籠ってばかりいるので、ここで引取って欲しいと言うのだった。

一緒に聞いていた角屋の女将、岩本菊枝は、帰って行った高松夫婦の態度に、何か隠しているような感じがしたと戸塚校長に打ち明ける。

菊枝は以前から、明らかに病気が原因と思われる生徒まで、一律にスパルタで教育しようとする戸塚校長の考え方に疑問を抱いていたのである。

戸塚校長も、それを感じないではなかったが、何とかやってみると言うしかなかった。

長野から連れてこられた高松雄吉は20才を超えていた。

そんな雄吉は、他の生徒と同じように、朝から海に突き落とされる訓練をさせられるが、僕はもうすぐ死ぬんだ〜!と喚くばかりで、全く訓練に意欲を示そうとはしなかった。

その様子を見ていたコーチは、俊平に向って、お前より上手やなと言う。

雄吉は、その後も、全く何もしようとしなかった。

その夜、俊平は見つけたビー玉を明子に手渡していた。

病気で入院していた生徒の吉井輝一が退院して来る。

病気のようにベッドから起きようともしない高松は、僕は捨てられたんだと呟いていた。

そうした様子を見ていたコーチは、小さい頃から甘やかされ過ぎて、親離れが出来ていないらしいと感じる。

しかし、念のため、高松の体温を計ってみた川内コーチは、体温が35度しかないと異変に気付く。

夜中、高松の監視を続けていた水谷クーチに、高松は、もうすぐ死ぬ…、母に申し訳なかったと伝えてくれと言ったかと思うと、突然叫び出す。

それを知った戸塚は、平田病院に高松を運び込ぶため車を走らせる。

翌日、マスコミがヨットスクールに押し掛け、岡村などはその異様な様子に怯えてしまう。

高松が、ヨットスクールに入校後6日で死亡したと言うので、傷害致死の疑いがあるとニュースが一斉に報じる。

戸塚は、警察に呼ばれ、事情聴取を受ける。

霊安室で、その戸塚に面会した両親は、入会金50万、一日一万と言う高い授業料を払いながら、何と言う事をしてくれたと責める。

名古屋の本部には、連日嫌がらせや脅迫電話がかかり続ける。

入学希望だった札幌の依頼人からも、中止したいと言う電話がかかる。

こうした状況に、電話係りの戸塚幸子は、すっかり精神的に参ってしまい、帰宅して来た夫の戸塚校長に、もう耐えられないと洩らす。

しかし、戸塚校長は、教育とは子供に魂を吹き込む事、今の親たちは、そうした事をしようともせず批判するだけ。そうした風潮が情緒障害の子を生んでいるんや…と呟く。

それを聞いた幸子も、今の甘ったれたニューマニズムを嘆くのだった。

そんなある日、台所から包丁を持ち出した岡村正男は、施設の表を通りかかった女子高生を人質に取り、ヘリを呼べと叫び出す。

それを止めに駆け付けた明子は、逆に岡村に捕まってしまう。

俊平も、その場に駆け付けるが、ショックのためか、その場で倒れてしまう。

彼の心臓は止まっていた。

水谷コーチは、すぐに脈を取り心音が弱いと診断し、すぐに呼ばれた戸塚が車で平田病院に運ぶ。

俊平の咽に痰が詰まっていると付き添っていた水谷コーチは言う。

明子の祈りが届いたのか、俊平は一命を取り留める。

その病院に見舞いに来た町会の副議長でもある角屋の主人岩本鋼一は、これまで自分達もヨットスクールを支援して来たが、こうした騒ぎが続いたので、もう住民たちが黙っていないと戸塚校長に申し訳なさそうに告げる。

同行して来た菊枝は、死亡した高松雄吉は、昔から精神病院を転々としていたらしいと教える。

俊平の病名は、あまりのショックから引き起こされた心因性心臓発作だった事が分かる。

戸塚校長は、元気を取り戻した俊平を連れて施設に帰る。

施設では、沢明子が帰り支度をしていた。

故郷の母親が病気なのだと言う。

明子は、俊平からもらったビー玉をお地蔵さんに供えて、俊平の事を祈っていたと水谷コーチは教えてくれる。

俊平は駅まで見送りに行き、明子が乗り込んだ電車が動き出すと、その後を追い、ビー玉を渡そうとするが、渡せないままで終わる。

施設に戻った俊平は、又ヨットの練習に参加する。

その様子を双眼鏡で見ていた戸塚校長は、又、俊平が発作を起こしてヨットの上で倒れ込むのを見て、海に飛び込む。

ヨットの側まで来た戸塚校長は、元気な俊平が笑っている姿を見てだまされた事に気付く。

春になり、俊平の両親が面会に来る。

角屋の一室で待ち受けていた両親の前にやって来た俊平は、以前の姿が嘘のように素直な態度に変っていた。

両親が勧めたステーキに添えられていた人参も、それを嫌いだと気付いて慌てて取ろうとした母親の前で、俊平は平気で食べてみせる。

俊平は、両親に向い、すみませんでしたと謝る。

それを聞いた勢津は、思わず、ありがとうと言って泣き出す。

そこに戸塚校長がやって来る。

両親は二人で頭を下げ、俊平は高校2年なので、復学させたいと言い出す。末は外交官にしたいと言うのだ。

戸塚校長は、俊平に、明日帰れと指示する。

二人が帰って行った後、角屋の女将菊枝は大丈夫かと心配する。

すると、戸塚校長は、あいつはもう、両親を超えていると太鼓判を押す。

翌日、両親と共に、電車で帰る俊平。

しかしその直後、俊平は再び戸塚校長の元に戻って来て、帰らない事にしたと伝える。

自分も校長のようなヨットマンになり、大平洋横断レースに出たいと言うのだ。

それを聞いた戸塚校長は、嬉しそうに俊平を眺め、又、いつのものように練習を始めるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

劇場公開直前に、いわゆる「戸塚ヨットスクール事件」が起こってしまったため、公開中止になった曰く付きの作品。

あくまでも、戸塚ヨットスクールに潜入取材して書かれた原作に基づいたものなので、戸塚校長の言い分側からの視点のみで貫かれている。

つまり、子供が荒れる原因は両親にあると言う一方的な論調なのだ。

そのために、ここで登場している両親たちは、皆いかにも愚かしく描かれている。

その偏向していると言う部分を承知の上で観ていないと、この作品の本質を見誤ってしまう恐れがある。

ここでも描かれているが、明らかに病気が原因の者まで、一緒くたに教育で矯正できると言う乱暴なやり方には疑問が残るし、子供達が荒れる原因も、全てが全て親の責任ばかりとは言えまい。

甘やかされて育てられても、荒れない子供も多いのだから。

ただしかし、今、日本各地に、こうした荒れる子供が増えている事は事実だろう。

又、それに対し、きちんとした対処をしてくれる場所や方法がないために、そうした子を持つ親や家族が、地獄のような毎日に苦しめられていると言うのも確かなのだろう。

そうした追い詰められた親たちの最後の駆込み寺として、戸塚校長が一手に子供達を引き受けざるを得ないと言う所に、問題の奥深さを感じる。

ヨットスクールで更生した子供もいると言う事は、戸塚校長の考え方にも正しい部分があると言う事だろう。

普通、「家庭内暴力」などは、家族の恥として世間から隠してしまいがちな問題点だけに、それをさらけだした所は評価に値すると思う。

荒れる子供と言う表現をニュースなどで知る事はあっても、その実態を具体的に目撃した者は多くはないと思われるからだ。

同じく、ニュース沙汰になったので名前だけを知っているが、その実態を知る事がなかった「戸塚ヨットスクール」の内情が、フィクション仕立てとは言え伺い知る事ができたのも貴重である。

両親を演ずる俳優や、生徒に扮している若者たちの演技も真剣だが、何と言っても、戸塚校長に扮している伊東四朗のシリアスな演技は特筆もの。

役者伊東四郎の代表作ではないかと思われるだけに、映画としてこの作品が日の目を見なかった事は、返す返すも惜しまれる。

現実に即した厳しいエピソードの羅列が中心になっているので、ちょっとわざとらしく思えるような淡いラブストーリー要素を、彩りと言うか、救いの要素として付け加えた展開になっているが、その辺の処理の仕方は、観る者によって評価が分かれる部分ではないかと思う。

個人的には、地味な内容ではあるが、それなりに手堅くまとめた作品ではないかと感じた。

毎日、苦悩と戦っている人間たちの姿と、美しい海の姿の対比が印象的でもある。


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