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仁鶴・可朝・三枝の
男三匹やったるでぇ!

1970年、吉本興行、藤本義一+林禧男脚本、長谷和夫脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

夜、テキ屋の大門辰五郎(笑福亭仁鶴)の家に忍び込んで来たのは、天友会、がんもどきの寅の配下のチンピラ三人。

しかし、家の中で待ち構えていたのは、馬場組の馬場平八郎の妻だと言う、偉く威勢の良いばあさん。

今自分は今、リウマチで足が悪いが、ちょっと人を呼ぶと幾らでも集まってくるぞと、畳に土足で上がり込んで来たちんぴらを怒鳴り付けると、その勢いに怖じ気付いた三人を追い出してしまう。

そこに隠れていた辰五郎は、母親ハナ(ミヤコ蝶々)が今言っていた啖呵は本当なのかと聞くが、ハナはデタラメだと返す。

いくつになってもまともな生活をしようとしない辰五郎を叱るハナに対し、辰五郎の方は、何とか近い内に男を上げて、おっかさんを安心させるでござんすと見栄を切るのだった。

翌朝、出前に出かける途中だった中村朝夫(月亭可朝)は、道の向こうから、松葉づえをつきながら歩いてくる母親ハナと、その介添えで来る兄の辰五郎の姿を見て、思わず隠れるが、すぐに見つかってしまう。

実は、辰五郎と朝夫は種違いの兄弟で、母親は今、両方の家を行ったり来たりで、交互に世話になっていたのだったが、正直、子供側にしてみれば、母親の面倒を見るのは互いに迷惑に思っていたので、兄弟で押し付けあっていたと言うのが実情だった。

朝夫の家は寿司屋で、食べる事に不自由しないと言う事がハナと辰五郎が考える利点だったが、朝夫と嫁のかよ(野村昭子)は露骨に迷惑顔を見せる。

しかし、そんな事は気付かぬ振りで、辰五郎はハナをさっさと寿司屋の二階に連れて行くと、ハナはトロの握り、辰五郎はビールをくれなどと、どこまでも図々しい。

そんな所に、大学の先生だと言う小林三四郎(桂三枝)なる人物がやって来て、テストの採点など始める。

彼は、辰五郎と麻生が種違いの兄弟だと言う事を聞くと、自らは試験管ベビーとして生まれたので、父親は知らないが、母親はエリザベス・テイラーに似ていたなどと自慢げに言い出す。

そんな所へ、トロの握りはまだかと、催促しに来ていたハナが階段から落ちてしまう。

慌てて、辰五郎が又二階に連れて上がるが、その様子を、親子って良いなあ〜…などと眺めていた三四郎だったが、ハナの顔を見ている内に、何かを思い出したような顔になり、「これは矛盾だ」と呟く。

すぐに、自分も二階に上がった三四郎、ハナに向かって、小林と言う男を知らないか、あなたは小林ハナと名乗っていた事はないかと質問するが、ハナは知らないと答えるだけ。

がっかりしたような三四郎は、部屋の外に靴をそろえて行くと、靴下のままかえって行く。

しばらくぼう然自失の状態だったハナだが、すぐに今の男を呼び戻してくれと辰五郎に頼む。

一方、三四郎を送りがてら、自分も配達に出かけようとしていた朝夫は、三四郎が捨て子だったと本当の事を打ち明けたのを聞き、ひょっとすると、あんたは○○○園と言う施設で育ったのではないかと聞き、こちらも何かを思い出したように、三四郎をもう一度、店に連れて帰る事になる。

ハナは、かつてのある雪の朝、小さかった辰五郎と朝夫を連れ、まだ赤ん坊だった三四郎を施設に残し、こっそり逃げるように別な所へ引っ越した時の事を打ち明けていた。

つまり、三四郎も種違いの弟だった事が分かり、辰五郎と朝夫は、大学の先生の弟ができたと鼻高々になり、かよも、大学の先生なら、ハナの面倒を見てもらえるだろうと喜ぶ。

しかし、三四郎は、アメリカの大学から招かれているので、ハナの面倒を見るのは難しいと断る。

とは言え、ひょんな事から兄弟三人が揃った祝いにと、全員でビールを乾杯する。

朝夫は三四郎から、兄弟になったのだから、これからこの店での飲食代をただにしてくれと頼まれ、ずっこける。

銭湯に出かけた辰五郎は、子分の安(北竜介)と六(小田草之助)に、大学の先生が弟になったと自慢する。

ところが、そこへ入れ墨の男が入って来た途端、安と六は、すっかりそちらの男にヨイショしはじめたので、辰五郎も、入れ墨を入れると息巻く。

昇り竜に雷で「辰ゴロゴロ」と言うのはどうだと、安と六に図案の意気込みを伝えた辰五郎は、可愛い娘幸子(倍賞美津子)が看護婦をしている町内にある本山診療所の先生(内田朝雄)に、入れ墨を入れてくれと頼みに行くが、親不孝もの!と怒鳴られ、追い返されてしまう。

仕方なく、辰五郎は。高倉健のポスターをヒントに、自宅で手鏡を使い、自分で左腕に「男一匹」と入れる事にする。

その頃、寿司屋の二階に居着いたハナは朝から大飯を食らうようになったため、毎日、早起きして朝食を作らされる事になったかよはベッドで二度寝をしていた。

そこへ朝夫がやって来たので、かよはベッドの中から誘う。

二人がいちゃいちゃしだした時、窓の外からそれを覗いていたハナは「何をしとるんや?」と声をかけ、今日は三四郎の所に行くと言い出す。

その三四郎、大学の先生どころか、実は、食堂の給仕をしていた。

一方、神社でテキヤの場所決め役をしていた辰五郎は、安と六に、入れたばかりの入れ墨を見せびらかす。

しかし、そこに書かれていた「匹」の字は、左右逆になっていた。

また、本山診療所にやって来た辰五郎は、郵便受けに入っていた幸子宛のエアメールを届けてやる。

差出人は、インドのきゅうらい事業からのもので、こちらに来てくれないかと誘われているのだと言う。

実は、本山診療所は、今、天友会に土地の担保を転売されてしまったため、立ち退きを迫られていたのだった。

跡地には、トルコ風呂が建てられると言う。

そんな本山先生の所に来た辰五郎は、腕の入れ墨を消してくれないかとおずおずと頼む。

その頃、三四郎はハナを連れて、競輪場に来ていた。

その後、近くのおでん屋でおでんを食べていたハナは、着流し姿の老人が近付いて来た事に気付くと、三四郎をせかし、そそくさと店から出て行く。

その後、パチンコ屋に寄った三四郎を見かけた安と六が、辰五郎の弟の大学の先生だと声をかけるが、それをそばで聞いていた食堂の仲間が、あいつはただの給仕だとばらしてしまう。

朝夫の寿司屋では、本山先生が酒を飲んでいたが、そこにハナと三四郎が帰ってくる。

その場で本山先生はハナの足を診断するが、ハナは目で先生に合図を送ると、それに気付いた本山先生は、一度彼女を診療所に連れて帰る事にすると言い出し、ちょうど心配して幸子が来たのをしおに、そのままハナを背負って店を出て行く。

店で幸子に出会った三四郎は一目惚れするが、500万と言う金がないばかりに診療所が立ち退きを迫られている話を聞くと、何とか自分がしてやりたいと思う。

さっそく女の相手をする新商売を始めた三四郎だったが、女装していて商売を始めた三四郎の前を、男連れの幸子が通ったためがっかりする。

さらに、三四郎を女と思いやって来た女性客はレズだったため、相手が男だと知ると怒って帰ってしまう。

本山診療所では、ハナの足を幸子が揉んでやっていた。

同じく、辰五郎の方は、先生から腕の入れ墨をようやく消してもらった礼の意味を込めて、天友会の事なら力を貸すと意気込み、帰る時、咲子にラブレターをこっそり渡そうとするが、目ざとく先生から見つかり、兄弟三人で母親を迎えに来られるようになるまで色事などお預けだと叱られる始末。

一人舞い上がった辰五郎は、天友会のチンピラに路上でぶつかって行こうとするが、身体が言う事を聞かず、とんでもない方向へ向かって店にぶつかり、転んでしまう有り様。

すっかり東映仁侠映画の主人公になった辰五郎は、天友会に刀を持って乗り込むと、親分の天友寅雄(天王寺虎之助)を斬り付けるが、自分も後ろから腹を刺されてしまう。

妄想からさめ、腹部の痛みのあまりパチンコ屋の中で倒れた辰五郎だったが、救急病院での診察は、単なる盲腸だった。

辰五郎は、幸子のいる本山診療所に移してくれと看護婦に無理を言い怒らせてしまうが、同室者が観ていたテレビで自分の元締めに当たる八州一夫の死亡を伝えるニュースを観て、慌てて葬式に駆け付ける。

応対した夫人(安藤孝子)に、自分がこれから八州組を立て直してみせると申し出た辰五郎だったが、夫人はもう、テキヤ商売の時代は終わったと相手にしなかった。

しかし、諦め切らない辰五郎は安と六に、これから四国に渡って八州組を再興してみせると意気込むのだった。

その後、ハナの元を訪れた辰五郎は、しばらく親子の縁を切らせてくれと、四国で八州組を再興する話を打ち明けると、ハナはあっさり、そう言う事なら、きっぱり捨てられようと答えるのだった。

その夜、子分達とリヤカーでハナを高架橋の下に連れて行った辰五郎は、そこにハナを座らせると、行き倒れを見つけたと警察に電話をする。

やがて、救急車が駆け付け、ハナを運び去って行く。

数日後、辰五郎と子分達は、フェリーに乗せられた車のトランクの中に忍び込み、まんまと四国へ渡る。

その頃、また、本山診療所へ預けられていたハナは、幸子からインドのきゅうらい事業部から来て欲しいと言われている話を聞くと、父親を捨てて行くのは良くないし、結婚も日本人とした方が良いとアドバイスする。

その外では、朝夫がギターを弾きながら、「♪ボインは〜」などと、幸子への妄想ラブソングを一人歌っていたが、「うるさい!」と近所の住民から水をかけられてしまう。

一方、高松の姫島親分(花菱アチャコ)の屋敷に来ていた辰五郎は、今度、友人と一緒に大阪で大きな事業を始めるから、手伝って欲しいと持ちかけられていた。

ふと嫌な予感がした辰五郎が、その友人とは?と聞くと、天友だと言う。

部屋に戻った辰五郎と安、六の三人は、どうしようかと悩みだし、このまま夜逃げをする事にする。

姫島の親分から小遣いとして渡されていた金の大半と、置き手紙を残し、夜逃げする三人だったが、翌朝、それを知った親分は、すぐに三人を捕まえてこいと子分らに命じるのだった。

フェリー乗り場にも、姫島の若い衆が張り込んでいる事に気付いた辰五郎、安、六は、駐車場の所で進退極まり身を隠していたが、そこに見知らぬ老人が近付いて来て、大阪に帰れと言う。

正体も分からぬ相手に説教された辰五郎は抵抗しようとするが、相手は思いのほか強く、あっという間に逆手を取られると、手錠を渡される。

一瞬、警察の人間かと思った辰五郎だったが、これを使って逃げろと言われ、ピンと来る。

手錠をはめた犯人を輸送する刑事に化けた辰五郎達は、無事、姫島の若い衆の目をごまかし、船に乗り込む事ができる。

その頃、天友会は、本山診療所を壊そうと工事を始めかけていた。

止めようとする本山先生を投げ飛ばした遣り口を見ていた幸子は、暴力がばれたら、建築どころではなくなるわよと天友を牽制する。

その夜、自宅に戻って来た辰五郎と子分は、自分の家に明かりが灯っているのを見て、てっきり姫島の連中が先回りをしていると思い付き、外から部屋の電気を消すと、闇討ちしようと中になだれ込むが、電気をつけてみると、中にいたのは、弟の三四郎だった。

三四郎は、一体、母親を捨てて何をしていたんだと辰五郎を叱り、今、ハナは、本山診療所にいると教える。

診療所では、夕食中の先生が幸子に、インド行きはどうしたと聞いていた。

幸子はその事について、父親には何も相談していなかっただけに驚くが、この際、実子でもない自分をここまで育ててくれてありがとうと言う。

今度は、先生の方が驚く番だった。

いつその事を知ったのかと聞くと、孝行入試の時に知ったと幸子は答える。

先生は、幸子の実父は戦死し、実母は肺病にかかっていたが、当時、自分が新薬を信用し過ぎたばかりに、死なせてしまったのだと打ち明ける。

同じ頃、下水道に忍び込んでいた辰五郎は、安と六に、天友会の事務所の水道管とガス管を入れ替えさせ、大事故を起こしてやろうと目論んでいた。

工事を終え、家に戻って来た辰五郎は、茶でも飲もうと水道をひねるが水が出ない。

その横では、安と六がたばこに火をつけようとしており、大爆発が起きる。

間違って、自分の家のガス管と水道管をつなげていたのだった。

いよいよ天友会のトルコ風呂建設が始まる。

辰五郎は、本山診療所の幸子に、幸せになってくれと涙を流しながら別れを言うと、安と六を引き連れ、天友会に殴り込みに出ようとする。

時代劇の妄想の中、辰五郎は天友会に乗り込むと大暴れするが、現実はあっけなく返り討ちにあってしまい、ぼろぼろになって、診療所で治療を受ける事になる。

それでもバカが直らない辰五郎は、一人でまた出かけようとするが、玄関口にいたのは、いつか四国で助けてくれた老人だった。

老人は「馬場ハナがこちらにいないか?」と聞く。

老人の正体は、辰五郎の実の父親馬場平太郎(有島一郎)だったのだ。

いつか、三四郎とおでん屋にいたハナを見つけて近付いて来たのは平太郎だったのだ。

ハナは瞬時にその正体に気付き、その場を逃げ出したのだったが、診療所に入院しているのでは逃げるわけには行かない。

若い頃、自分と子供を捨てて家を飛び出したヤクザな平太郎に対し、ハナは複雑な思いを抱いていた。

あんたのせいで、自分達母子が、その後どんなに辛酸をなめて来たかを話すと、さすがに若い頃、道楽の限りを尽くした平太郎は反省し、この年になって、よりを戻そうと戻って来た自分が虫が良すぎた事を悟る。

そこに、朝夫と三四郎も駆け付けて来て、天友会に乗り込んだ幸子が帰ってこないと言う。

辰五郎は飛び出そうとするが、それを平太郎が止める。

幸子は必死に診療所の立ち退きを延ばして欲しいと天友に掛け合っていたが、話が通じない事を知り帰りかけるが、このまま帰れると思うのかと、逆に天友から脅されていた。

そこにやって来た辰五郎。

それを迎えた天友は、辰五郎の後ろにいる人物を見て驚愕する。

昔世話になった平太郎と分かったからだ。

急に低姿勢になった天友に、辰五郎は、これが自分の父親だと自慢する。

診療所で待っていたハナ、朝夫、三四郎、辰五郎の元に現れた平八郎は、ここの立ち退きは10年後にしてもらったと伝える。

しかし、それを聞いたハナの機嫌は悪かった。

いまだに、平八郎の渡世人根性が直ってないと感じたからだ。

今、平八郎を許したら、何の為に今まで苦労して来たか分からないと言う。

三四郎は実父の話ではないだけに、自分には関係ないと興味無さそうだったが、朝夫は、こうして親子が再会できたのも運命やと言う。

そんな家族の話を聞いていた平八郎は、それぞれの立場も考えず、40年経った今頃、よりが戻せると思っていた自分の思い上がりだった…とつぶやきながらと、診療所を後にする。

その後ろ姿を見ながら、辰五郎と朝夫は、ハナに良いのか?と問いかける。

そんな息子達の言葉を聞いたハナは、今まで耐えて来た涙が溢れだし、父さんの事、許してくれるか?と言いながら、ベッドから降りると、松葉づえなしで駆けて行く。

その姿を見た兄弟達は唖然となる。

今まで、母親が足が悪いと言っていたのは嘘だったのだ。

平八郎の姿を追っていたハナは、線路の中に入って帰ろうとする平八郎を見つけ一旦は安堵するが、そこへ電車が近付いて来ている事に気付き、慌てて「平さん!死なんとって!」と叫びながら、平八郎に飛びついて行く。

その直後、電車は、反対側の線路を通過して行くが、二人の抱擁は続いていた。

ハナを追い掛けて来て、その様子を目撃した朝夫は、思わず「これが本当の、父帰るやおまへんか〜♪」と歌うのだった。

羽田空港、インドに旅立つ事になった幸子を見送るため、本山先生以下、辰五郎、朝夫、三四郎達も来ていた。

しかし、どうしても幸子への思いが断ち切れない辰五郎は、幸子らが乗った飛行機が飛び立った滑走路に侵入すると、「戻って来てくれ〜、わいも行くで〜」と叫び、思わず、飛行機もバックしかかるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

70年当時、人気が高かった吉本芸人三人が活躍する松竹人情もの。

ちょうど、高倉健主演の仁侠映画が流行っていた時期だけに、松竹もそのブームに便乗したかった所だろうが、さすがに斬ったはったの世界は松竹には似つかわしくないと判断したからか、仁侠の世界に近いテキヤ稼業の人間を主人公にした所は、「男はつらいよ」の世界に近い。

男を上げたい、一人前の男になるなどの粋がった台詞が随所に登場するのも、この時代特有のもの。

60年代後半の学生運動でも仁侠映画は人気が高かったが、さすがに万博が開催された1970年頃になると、こうした仁侠ブームも下火になったと思われるが、「男はつらいよ」が当たりはじめた松竹にとっては、テキヤだったら下町人情と組み合わせる事によって、まだまだ稼げる世界観と読んだのかも知れない。

また、この映画の中で四国が登場するが、1957年「集金旅行」などの時代から、松竹作品には、たびたび四国が登場するようになるのが興味深い。

コミカルな演技もシリアスな演技も両方出来る有島一郎だが、この作品ではシリアスで通している。

仁鶴が演ずる主人公は、この時代の松竹喜劇ではよく登場する類型的なキャラで、ストーリー自体にも特に新鮮さはないが、善くも悪くも、いかにも当時の松竹プログラムピクチャーらしい作品になっている。