1960年、新東宝、岡戸利秋原作+脚本、石井輝男脚本+監督作品。
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博多の北150キロ、東洋のカサブランカと呼ばれる島対馬。
戦後は、密輸の本拠となった。
おれはこの島に、ある男を追って来た。
その男を殺すために…
そう心に呟いた大神信彦(吉田輝雄)は、佇んでいた崖から厳原港のキャバレー「SEASIDE」にやって来る。
店に入った大神は、ずかずかと店の奥の通路に入り込んだので、カウンターに座っていたマネージャーの本田(近衛敏明)は店員を伴い、誰かと尋ねながら慌てて止めに来るが、大神は知らん振りをしてマダムに会えば分かると言いながら、邪魔をする店員を殴りつけてさらに奥に進む。
殺し屋の健(松原緑郎)が出て着て立ちふさがろうとすると、大神は電燈を取り出した銃で撃ってみせ、相手を牽制する。
大神は服の内側に付いた「Z9」と書かれたバッジ見せる。
それ見た本田は、香港の本部から来た大神だとはじめて悟るのだった。
騒ぎを聞き付けたのか、マダムの真山百合(三原葉子)が姿を現す。
彼女は、大神のかつての恋人だった女だった。
大神は、本部の密命で来たので、当分滞在すると本田と百合に伝える。
百合と二人きりになった大神は、三年ぶりだなと挨拶した後、何故、無断で香港から逃げ出した?おれと暮らしたいと言っていたのに…と問いつめる。
しかし、百合は何も答えない。
その頃、本田は、何故、今頃、大神がやって来たのか見当が付かず、例の件がばれたのではないかと心配していた。
百合は「信彦さん」と大神を呼び、ボスがあなたの事をするさないだろうと告げ、自分は密輸中継地の仲間に成り下がったのだと自虐的に言う。
今は、陳雲竜と言うボスの女になっていた百合は、あなたの好きなように制裁してくれと頼むが、大神は陳とお前が揃った時にこの銃を使うと答える。
翌朝、浜辺に出向いた大神の姿を窓から眺めながら、百合は胸にかけていたロケットの蓋を開ける。
そこには、今でも大神の写真が入っていた。
浜辺にいた大神に、若い娘が親し気に話し掛けて来る。
その様子を見た本田が、冷やかすように声をかけて来るが、大神は、どこかに出かけようとしていた本田に同行すると言い出す。
しかし、それをきっぱり拒絶した本田は、波止場で働いていた谷本志摩(万里昌代)の所にやって来て、そんな仕事で借金が返せるのかと嫌みを言う。
その言葉に刃向かおうとした志摩だったが、結局、本田にキャバレー「SEASIDE」連れられると、そこのホステスとして働く事にする。
本田は途中で会った大神に、女をシンガポールに送ろうと思うと打ち明ける。
店に戻って来た大神は、カウンターに座るとアブサンを注文する。
そこに大勢の女たちが連れて来られる。
別室に集められた女たちの靴やストッキングの中から、麻薬が出て来る。
彼女達は、本部から「運び屋」として送り込まれた女たちだったが、彼女達自身、麻薬中毒にさせられていたため、その場で注射をねだり出す。
その頃、店の裏側から、ホステスが三人逃げ出そうとしていたが、森の中で追っ手に見つかってしまう。
その頃、ホステスの控え室では、新入りの志摩に、黒川(沖啓二)とマネージャーの本田は、女に手が早いので気をつけろと先輩ホステスたちが教えていたが、それをたまたま聞いた黒川が現れ、告げ口をしていたホステスと、連れ戻して来た三人のホステスを、見せしめのためむち打ちし始める。
しかし、そこにやって来た大神が、商品に傷つけるなと止めたので、ホステス達は難を逃れる。
その夜、健に呼び出された大神は、健の子分の頭に次々と物を乗せ、それを撃ち抜く勝負を挑まれるが、あっさり健よりも小さなものを撃ち抜いて行き、腕前の違いを見せつけると、そそくさと立ち去るのだった。
その頃、独り入浴していた志摩は、のぞきに来た本田に慌てて風呂から上がろうとするが、そのまま抱きつかれ、部屋に引きづり込まれてしまう。
しかし、その時、大神がやって来たので、志摩も危うい所を救われる事になる。
バツが悪そうに本田が姿を消した後、志摩はお礼の意味も込めて大神を挑発してみるが、大神は全く関心もなさそうに去って行ったので、志摩は感心してしまう。
その後、百合の部屋にノックもせずに入り込んだ大神は、百合のバッグの中から鍵を取り出すと、百合が見ている前で金庫を開けてみせる。
その中には、大量の麻薬が入っていた。
大神は、その麻薬を預かると言い、これで陳雲竜も信用をなくすだろうとほくそ笑むが、その直後、百合の様子がおかしくなった事に気付く。
百合も又、麻薬に犯されていたのだ。
その姿を見た大神は、百合を奪ったばかりか、こんな身体にしてしまった陳雲竜に、おれは必ず復讐すると誓うのだった。
その後、百合の部屋にやって来た本田は、大神には気を付けた方が良いと忠告する。
百合は、日韓貿易との取り引きが失敗するので、ヤクを返してくれと言いに来る。
百合は、日韓貿易の張(大友純)の元に出向くと、値段を急に二倍に吹っかける。
驚いた張だったが、ヤクの相場はその時によって変わると百合に居直られてては、その条件を飲むしかなかった。
同行していた本田らは、百合の度胸に感心する。
日韓貿易から戻って来た百合は、突堤で大神と会うと、早くこの島から出て行ってくれ、私はダメな女なのだと言い出す。
しかし、大神は、今のおれが信用できるのは、強い酒と拳銃だけなのだと答えるのみ。
キャバレーの自室に戻って来た百合は、部屋を物色中だったホステスを見つける。
先日、キャバレーから逃げ出した三人のうちの一人だった。
訳を問いただすと、逃げ出したのは、故郷の母親が病気と知ったからで、今、部屋に忍び込んでいたのは、仲間の恵子がヤクが切れて苦しんでいるのに、本田がヤクをくれないと言う。
女を許して立ち去らせた百合は、本田の部屋に向かうと、本部に隠している薬を出せと迫る。
本田は、ヤクをくすねていた事をマダムの百合に知られていた事に驚くと共に、覚悟を決め、金庫に隠してあったヤクを取り出すと、秘密を守ってくれますね?大神は知らないんでしょうね?とこびる。
百合がヤクを持って立ち去った後、本田は部下の黒川と、アブサンに毒を投入して大神を殺害する計画を実行する。
しかし、カウンターにいた大神に自らアブサンを勧めた態度に不信感をもたれ、大神からアブサンを顔に浴びせられてしまう。
日韓貿易の張と取り引きに出向いた百合は、ヤクを2500g渡すが、相手がそのヤクの品定めをその場ではじめたので、いきなりこの取り引きは止めると言い出す。
訳を聞いて、ヤクを品定めをすると言う事は自分を信用していないのだろうとの百合の言葉を聞いた張は、すぐに謝罪し、金を手渡す。
百合が、金額も確かめずに立ち去ろうとするので、訳を聞くと、信用しているからと言う。
張はすっかり百合の大きさに感服してしまう。
しかし、その直後、海から警備艇が近付いて来る。
誰かが、取り引き場所を密告したのだ。
取り引きがパーになった張は、損害をどうしてくれると百合に迫る。
裏切り者はそちらの大神らしいので差し出せと言うのだ。
その場は、本田と黒川が取りなして、事なきを得るが、帰宅時、百合は本田を殴りつける。
大神の名を張に知らせたのは、本田だと直感したからだ。
本田と黒川は、本田を殺す打ち合わせを始める。
それをほくそ笑みながら健も聞いていた。
その大神は、外で志摩に声をかけられていた。
先日の紳士的な態度に惚れた志摩が、あなたを誤解していたと言い寄っていたのだ。
そんな大神の元にやって来た黒川は、日韓貿易の事で話があるので、10時までに岬まで来てくれと伝える。
一旦、「SEASIDE」のカウンターでアブサンを飲んだ大神だったが、立ち去った後、その同じグラスで、百合が酒を飲む。
そんな百合に近付いて来た黒川は、一緒に踊りましょうと勧め、自分がバンドの前で歌い出すと、百合もみんなの見ている前で踊り出す。
酔った百合の目には、目の前で踊っている黒川の顔が大神に見えていた。
その後、ベッドで目覚めた百合だったが、本田から大神を一緒に始末するように勧められた言葉を思い出していた。
10時近く、岬に到着した大神を待っていたのは、日韓貿易の連中や本田らの待ち伏せだった。
しかし、それを予期していた大神は、おれの拳銃の練習台になってもらうと言うや、いきなり銃を抜くと、撃って来た相手に応戦しはじめる。
しかし、多勢に無勢、形勢不利に見えた大神だったが、突如、ライフルを持った百合が援護して来る。
やがて、殴り合いの乱闘になり、足を滑らせ崖から落ちかけた健を大神は救い上げてやる。
敵はちりじりに逃げ、一人になった大神は、援護してくれた百合の元に近付く。
百合は、自分は陳雲竜が憎い。このまま自分と一緒に逃げてと本音を漏らす。
しかし大神は、自分は、女たちを苦しめている陳雲竜と対決しなければいけないので、日野岬で待っていてくれと約束して、百合が持っていたライフルを手にする。
店に戻ろうとした百合だったが、待ち受けていた陳雲竜の手下たちに拉致されてしまう。
百合は、ボス陳雲竜(天知茂)の待つアジトに連れて行かれ、縛られてしまう。
そこに連れて来られていた志摩たちホステスは、東南アジアに送り込まれる事になっていた。
殺し屋の健は、本田に、取り引きを警察に密告した人物の正体を吐かせようとするが、本田はマダムが知っていると言う。
健が陳雲竜に指示をあおぐと、百合を調べろと冷酷な返事。
自分の女を、この場で拷問してもかまわないと言うのだ。
これにはさすがの健も動揺するが、百合は、密告者は自分自身だ。自分の恋を引き裂いた陳雲竜が憎かったからだと自ら告白する。
百合は、手を鎖に縛られ、その身体を吊るされる。
しかし、その瞬間、鎖が撃たれ、百合の身体は床に落ちる。
撃ったのは、潜入して来た大神だった。
大神は陳雲竜に銃を突き付け、反撃しようとした部下達を牽制する。
陳雲竜は、この島の権利を全部渡すと大神に媚びる。
大神は、密告者の事も忘れろと条件を出す。
そうした大神の背後から銃で狙っていた子分は、別の方向からの銃撃で撃たれ、撃った本人も陳の子分から撃たれてしまう。
大神を助けたのは、殺し屋の健だったが、彼も又、縦断を受け瀕死の状態だった。
健を助け起こした大神に、健はこれで借りは返したと呟くと息絶える。
その死体を床に降ろした大神は、おれが女だったら惚れるぜと呟くのだった。
やがて、倉庫に警察隊が乱入して来て、さらなる銃撃戦が始まる。
一旦倉庫を逃げ出した陳雲竜は岩場で追って来た大神と殴り合いを始めるが、別の洞窟の中に逃げ込むと、そこにいた子分の銃を受け取ると、後から追って来た大神を狙う。
それを邪魔したのは百合だった。
陳雲竜は百合を撃ってしまう。
そこに駆け付けた大神が陳雲竜を殴りつける。
陳雲竜は崖から海に落ちて行く。
大神は、倒れた百合を抱いて海が見える丘に連れて行くと、そこに身体を横たえてやる。
百合は苦しい息の中で、二人で香港を良く歩いたわねと思い出を話し出す。
大神は、お前が死んだら、おれは生きていられないと嘆くと、あなたが死んだら、誰が私の事を思い出してくれるの。私が愛しているのは、あなた、あなただけ…と言いながら、百合は胸のペンダントを差し出す。
大神は、思わず、その百合の両手を握りしめるが、百合は微笑みながら、目を閉じてしまう。
そっとペンダントの蓋を開けてみた大神は、そこに昔の自分の写真が入っているのを発見するのだった。
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タイトルから想像すると、得体の知れない怪奇ものかエロティックなキワモノ作品のようなイメージを持つが、実際は、対馬をカサブランカに見立てた、かなりきざな無国籍アクションロマンスになっている。
冒頭から、気取った台詞を吐きまくる吉田輝雄をはじめ、登場人物たちは、あたかも往年のハリウッド映画を模倣したような、わざとらしいと言うか、一風奇妙な芝居を展開して行く。
キャバレーの中で酔った百合が踊るシーンなどは、ちょっとアメリカングラフィティ風。
いろんな時代のハリウッド映画のエッセンスをアレンジして、日本風に再現しようとしたのだろうが、それが一種独特の不可思議な世界観を作り出している。
まだ痩せていた時代の三原葉子が、ちょっと大人っぽいヒロイン役を演じているのも興味深いし、きざな悪役を演じている天知茂も印象に残る。
