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モダン道中 その恋待ったなし

1958年、松竹大船、山田洋次脚本、野村芳太郎脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

生きているだけで、何となく疲れてしまう…、それが現代社会。

銀行に勤めているつまらなそうな顔の男がこの映画の主人公。

これから、映画とパントマイムで進行します。(…と、女性の声のナレーションが入る)

自宅に帰った銀行員鶴川松夫(佐田啓二)は、ちゃぶ台に乗った目刺の夕食に飽き飽きし、外食に出かけるが、ちょうどそこでかかっていたテレビで、クイズの当選者発表が行われていた。

応募者2853人中正解者は2852人、抽選の末、当選したのは鶴川松夫さん。

賞金3万円が贈呈されます…と言うアナウンスをカウンター席で聞いた鶴川は、驚いてひっくり返ってしまう。

彼は、この賞金を何に使うのか?

青森行き三等車に乗り込んだ鶴川は、やって来た車掌に、東北、北海道周遊券を見せる。

5440円で購入したのだが、3等でこの値段は高いと車掌に文句を言う。

すると、向いに座っていた青年も、自分も周遊券で旅行に行くのだと話し掛けて来る。

これがもう一人の主人公で、自動車修理工の亀野竹彦(高橋貞二)。

亀野は、1年間残業し溜めた貯金で、ようやくこの周遊券を手に入れたのだが、女は男からおごられる事は大好きだが、金を溜めているような男には興味がないようで、急にもてなくなったと愚痴をこぼす。

今回の旅で、結婚相手でも見つけたいと豊富を語り、鶴川にウィスキーを勧める。

鶴川も名乗ると、互いの名前が「松夫」と「竹彦」で「松竹」だと気付き、すぐに二人は互いに意気投合する。

「明るく楽しい松竹映画」のテロップが入る。

タイトル

タイトルを読んでいるのはつまらないでしょうから、おしゃべりをします。(…と、又女性の声のナレーションが重なる)

本編が始まり、福島飯坂温泉の風景が写る(ここまでがロケーションで…とナレーションが説明)

温泉に到着した大勢の客のシーン(ここからがセット…とナレーション)

風呂から部屋に戻る途中だった鶴川は、婦人会の団体客らしい中年女性達から、可愛いから、後で可愛がってやるとからかわれる。

部屋の電話で、ビールの追加注文をしていた亀野は、一本180円と聞き、あまりの高さに驚くが、鶴川と一本づつ追加する事にする。

そのビールを持って来たのは、東北訛りのきついばあさん、おすが(若水ヤエ子)だったので、がっかりした亀野は、ここの部屋付きの女中の名前は何だったかと聞くと、弘子だと言う。

その弘子を呼んで来てくれ、頭は悪そうだけど可愛いからと亀野が言うと、あれは自分の娘だと言い、ちょうどやって来た弘子(川口のぶ)に、おすがばあさんは何ごとか耳打ちして帰る。

亀野が、何と言われたの?と聞くと、弘子が言うには、この二人には気をつけろと言われたのだそうだ。

弘子は、すみれ会の宴会を見に行ってみたらどうかと二人に勧める。

すみれ会とは、先程玄関口ですれ違った中年女性の団体客の事らしかったが、大広間でどんちゃん騒ぎをしている。

それを廊下から眺めた二人は、あまりの情景にあっけに取られる。

その宴会の中に、一人だけ男が混ざっており、鶴川と亀野に気付くと、一緒に飲みましょうと誘うので、すみれ会の人かと聞くと、その男も飛び入りだと言う。

毒気を抜かれた二人は、部屋に戻りふとんに身を横たえると、あれは、女性が解放されたと言う事なんですねと嘆息する。

亀野はさらに、東京には処女など一人もいないと思うと言い出し、その点、地方の女性は慎ましやかで優しい気性をまだ持っている。

この際、本気で嫁を探す気になったと言うのだ。

(そんな亀野さんの心の中を覗いてみましょう…とナレーション)

すると、二人が寝ていた部屋の壁が開き、その奥に、亀野からの求愛の手紙を読む女性が現れる。

あなたの理想の相手は?と聞かれた鶴川は、ロマンチックな答えをしたので、(日本では再現できませんので、夢は花のパリに飛びます…とナレーション)

すすと、もう一方の壁が開き、その奥には、パリの一部屋を思わせるような書き割りが現れ、そこの机に座って、鶴川に愛の手紙を書く女性が現れる。

やがて、寝付いてしまった二人の部屋に、深夜、ほっかぶりをした男が侵入してくるが、うっかり鶴川の足を踏んでしまい、気付かれそうになったので、慌てて逃げる。

その男、宴会で二人を誘った男のようだったが、怪しい男である。

翌日、二人は松島の遊覧船に乗っていたが、鶴川は、一人の令嬢風の美しい女性に目を止めていた。

正しくは、その女性が連れている妹らしき女の子が、ちらりちらりと鶴川の方に視線を送っていたのが気にかかっていたのだ。

やがて、その妹らしき女の子が、席に座っていた鶴川に近付いて来て、「あの〜、そこを立っていただけません?」と声をかける。

何で立たなければいけないの?と鶴川が答えると、「私達のお弁当がそこに置いてあったはず」と言うではないか。

慌てて立ち上がった鶴川の尻の下には、みじめにも弁当が押しつぶされていた。

その後、その姉妹らしき二人はボートに乗って海を走っていたので、橋を渡っていた鶴川と亀野は手を振る。

やがて、彼女達と同行する事になった鶴川と亀野だったが、昼食時になったので、そろそろ僕達だけで弁当を食べないか?と亀野が鶴川を誘う。

しかし、あの二人はどうする?弁当を潰しちゃったし…と鶴川はバツが悪そう。

じゃあ、一緒に食べるか?と亀野が譲歩すると、自分達が持っているのは単なる握り飯だから、あんな令嬢にふるまうのはかえって失礼だろうと鶴川は困る。

そんな二人の会話を聞いていた妹のトンちゃんこと海老原トシ子(宇野賀世子)は、姉のゆり(岡田茉莉子)にウインクすると、それがおにぎりと言うものなの?といかにも珍しいものでも見るように二人に近付いて来る。

さらに、ゆりの方も、妹に調子を合わせるかのように、それ、食べられますの?などと言いながら近付いて来たので、本当にこの娘達はおにぎりも知らないんだと思った鶴川と亀野は、姉妹におにぎりをやってしまう。

ゆりは、花屋の店先に鈴蘭の花束が飾ってあったのを見て、急に旅を思い付いたのだと動機を語る。

そんなゆりと妹のトンちゃんが、自分達が泊まるのはこのホテルだと、豪華なホテルの前に連れて来たので、鶴川と亀野は、自分達は別の安い宿に泊まると断る。

せめて一緒に写真でも撮ろうと言う事になり、カメラのシャッターをたまたま通りかかった男に頼んだ亀野だったが、シャッターを押してくれたその男が、そのまま、カメラを自分の肩に下げて持ち帰ろうとしたのに慌てる。

その男が、前夜、二人の部屋に忍び込んだ富士山梅吉(桂小金治)だとは気付かなかったが、宴会で顔を合わせているので、男三人で一緒に宿に泊まる事にする。

梅吉は、角になっている隣部屋のガラス戸から見える泊まり客が新婚夫婦だと気付き、花の下を延ばすが、間もなく、その新婚の部屋に、部屋を替わってくれと宿の人間に付き添われて時化田(坂本武)なる刑事がやって来る。

定年が間近に迫っていた時化田は、スリ、コソ泥の常習犯梅吉を逮捕せんと、東京から追って来たのだった。

そんな事には気付かず、梅吉は鶴川と亀野に、貴重品は自分が預かってやるから先に風呂に入ってくれば良いと勧める。

すっかり梅吉を信用していた二人が、何も疑わず財布や時計を託して部屋を出て行ったので、梅吉はさっさと部屋を逃げ出そうとするが、そこで、隣の部屋から顔を覗かせた時化田から御用だ!と言われた瞬間、持っていた財布や時計は預かりものだとごまかす。

そこへ戻って来た鶴川と亀野は、渋々隣の部屋に引っ込む時化田の姿を見て、あれは誰なのかと梅吉に尋ねる。

梅吉はちゃっかり、あれはスリだと嘘をつく。

そんな梅吉に、今度は自分達が貴重品を預かってやるから風呂に行ってこいと二人が勧めていた頃、時化田の部屋には、松島署の佐々木なる別の刑事がやって来て、スリがいるとの情報を得たので、梅吉を調べようと言う事になる。

二人の刑事の姿を見つけた梅吉は、ちょうど、風呂場に出かける所だったが、そのままの格好で逃げ出してしまう。

結局、部屋に残っていた鶴川と亀野が、仲間ではないかと、松島署に連れて行かれ、事情聴取を受けるはめになる。

警察には、ハワイからやって来てスリの被害にあった与名嶺金右エ門 (花菱アチャコ)と、その妻のぎん(高橋とよ)がいた。

金右エ門は、無実を訴える鶴川達を怪しいと言い出し、佐々木も、東京での身元調べの報告が届くまで二人は帰せないと言う。

自分達はアメリカの市民権を持っている等と自慢する金右エ門の態度切れた亀野は、こちとらはちゃきちゃきの江戸っ子だ。我々には最高裁があると息巻く。

その意気込みを見た金右エ門 は、すっかり二人を気に入ってしまう。

何とか、梅吉とは無関係と分かって釈放された鶴川と梅野は、寝台車に乗って、次の目的地十和田湖に向かおうとするが、指定のベッドの上から艶かしい女性の足が覗いているのに戸惑う。

その女性がトイレに向かった後、近くのベッドにいたマネージャーと称する男から、今のはうちの専属モデルで、明日、八戸でヌード撮影会があるのだと聞かされた亀野は、即刻自分もその撮影会に参加する事を決意するのだった。

翌日、鶴川はバスで予定通り十和田湖へ向かい、亀野の方はヌード撮影会に参加するが、 そこへ現れたのが、裸でスケッチブックを持った梅吉だった。

その姿を見た参加者達は、すっかり「裸の大将」山下清画伯と勘違いし、梅吉が即興で描いたスケッチを1枚3500円で買おうとする。

しかし、そこへやって来たのが時化田。

ヌード撮影会のモデル達を見て、公然わいせつ物陳列罪で逮捕するぞと言い出すが、一足先に梅吉は逃げ出してしまう。

その後を追って来たのは亀野だった。

警察に突き出されると覚悟した梅吉だったが、宿で預かったままの財布を返したいからだと言う亀野の言葉を聞き、その善良さに感心するのだった。

その頃、バスで十和田から八甲田山に向かっていた鶴川の方は、そのバスがエンストを起こしてしまったため、他の乗客達と一緒に、1里ほどもバスを押すはめになっていた。

ちょうどそこに通りかかったのが、ゆりとトンちゃんが乗った自動車だったので、乗せてもらおうとした鶴川だったが、自動車に別の男性が同乗している事に気付き遠慮してしまう。

弘前にやって来た鶴川は、ちょうど、飲み過ぎの胃腸薬を購入して薬屋の中から出て来た亀野と再会する。

そんな二人に声をかけて来たのが、円太郎馬車で商売をしている鈴子(桑野みゆき)だった。

二人は旅館まで乗せてもらう事にするが、近くの宿に正直に連れて行ってくれたので、鈴子の誠実さにほれ、すぐに市内案内をしてもらう事にする。

案内をしてもらった二人は、すっかり鈴子の純朴さに感心するが、特に一目惚れした亀野の方は、途中で休憩した川べりで、鶴川に用事があるのだったら先に帰って良いと目配せして来る。

へんぴな場所で追い返される事になった鶴川は、しぶしぶ一人で先に帰る事にする。

二人きりになった亀野は、鈴子が、北海道の開拓村に出かけている父や兄とは別に、自分はおばさんの所で残っている話などを聞き、岩木川の地蔵の側にある金輪占いの所へ連れて行ってもらうと、東京に行ってみたいと願った鈴子を、嫁にしたいと願うのだった。

しかし、それを告白された鈴子の方は、自分はもう一週間後に、父親が決めた相手の嫁っこになるのだと打ち明け、がっかりする亀野を乗せ旅館に帰る道すがら、ショーウィンドーに飾ってある花嫁衣装を見入るのだった。

青森港から青函連絡船に乗って北海道に渡る事にした鶴川と亀野の前にトンちゃんがやって来て、お姉さんに会いに行けと強引に鶴川を連れて行く。

ゆりの方は、以前、同じ自動車に乗っていた札幌の牧場主の息子と言う宝田豊(永井達郎)から、しつこく迫られて困っていた。

そこにトンちゃんんび連れられて現れた鶴川が、野村銀行の行員だと知ると、そこの重役をしている宝田備後と言うのは自分のおじだと自慢し出す。

恋のライバル出現で、海も荒れはじめました(とナレーション)

その船内では、時化田刑事が船酔いに悩まされていた。

それを介抱していたのが、追っているはずの梅吉。

梅吉は、全く船酔いには縁がなかったので、苦しむ時化田の前で、こってりしたウナギが食べたい等とからかっていた。

やがて、鶴川、亀野、ゆり、トンちゃんに宝田を加えた一行は室蘭に到着する。

そこでは、アイヌの人たちが観光客目当てに、一人300円徴集して踊りを披露していた。

そんな中、一人亀田は、アイヌ勘定と言う、落語の「時そば」でも有名なトリックで、購入した蟹の釣り銭をごまかされたと憤慨していた。

一行は、昭和新山から洞爺湖にやって来る。

みんなは二台のモーターボートに別れ、湖に乗り出す事にするが、鶴川、亀野、トンちゃんが乗ったボートは途中でエンストを起こしてしまう。

一方、ゆりと二人きりで岸辺に辿り着いた宝田は、湖に残るマニベとセツナと言うアイヌの恋人同士の悲恋物語を語って聞かせた後、ここで打ち明けたカップルは結ばれると言い、何ごとかを打ち明けようとするが、その時、トンちゃんが現れ、宝田のプロポーズは失敗に終わる。

一行はその後、登別温泉へ向かうが、鶴川が単独行動をとっている事を知ったゆりは、そちらについて行く事にする。

そんなゆりと一緒に、ケーブルカーに乗り展望台に登った鶴川は、雄大な風景を見下ろすと、こんな北海道を見たかったんだと、宝田主導の行動に嫌気がさしていた事を吐露し、自分は懸賞に当った賞金で旅行をしているのだと打ち明ける。

そんな二人は、近くの笹薮の中から物音が聞こえて来たので、熊だと直感し、ゆりの勧めでその場で死んだふりをする事になる。

ところが、笹の中から出て来たのは小熊を連れたアイヌで、地面に倒れている二人を見て、不思議そうにしながらも立ち去って行く。

先に目を明けた鶴川は、遠ざかっているアイヌと小熊を見て、自分達の早合点に気付くが、傍らにまだ死んだふりをして目をつぶっているゆりの姿を見やると愛らしくて、つい、その頬にキスをしてしまうのだった。

やがて目を明けたゆりは、今、熊が頬を嘗めて行ったと、まだ素頓狂な事を言っている。

その夜、ホテルに泊まった一行。

食後、鶴川、宝田、トンちゃんは、ゆりが奏でるピアノに聞き言っていた。

宝田は、さすがにショパンは良いですねと誉め、トンちゃんから耳打ちされた鶴川はメンデルスゾーンでしょうと自信ありげに言い返すが、ゆりはすまして「シューマンですわ」と答える。

しかし、部屋から聞こえて来る亀野の酔った歌声に興醒めしたのか、ゆりはピアノを止め、トンちゃんと部屋に戻る事にするが、開けた部屋の中では、見知らぬ中年男が女性を抱こうとしている所だった。

そこへホテルの女性が飛んで来て、急に部屋が替わったのをお知らせし遅れたとゆり達に詫びると、別の部屋に連れて行く。

とんだ所を見られた中年男は憤慨して部屋の前に出てくるが、そこに来た宝田が、磐城さんと声をかける。

部屋に戻ったトンちゃんは、自分は鶴川は好きだが、宝田は大嫌いだとゆりに打ち明けていた。

ゆりは、私達の旅行も後二日だとちょっと寂しそう。

実は、彼女は令嬢でも何でもなく、一介のデパートガールに過ぎなかったが、ちょっと贅沢な旅行をしたこの十日間の旅で、十分お嬢様気分を味わえ、満足していたのだった。

そこへ、急にやって来たホテルの女性が、丸越デパートの支店長が挨拶に見えたと知らせに来る。

続いて部屋に入って来たのは、先程女を抱きかけていたあの中年男磐城(多々良純)だった。

磐城は、ゆりを丸越デパートの令嬢と思い込んでいる宝田から聞いて来たのだった。

その場は何とか取り繕ったゆり達だったが、これはヤバいと気付き、翌朝早く宿を発とうとするが、宝田がやって来て、もう車の用意は出来ていると言う。

ゆりとトンちゃんは、半ば強引に磐城と同じ車に乗せられ、鶴川と亀野は宝田と別の車で後を追う形になる。

ところが、途中で車を停めた宝田は、鶴川を外に連れ出すと、自分はゆりにプロポーズするつもりだが、君が目障りなので、自分達とは別に旅に出てくれと言い出す。

鶴川が抵抗を示すと、君とゆりとでは身分が違う。君の銀行の重役の叔父に、この事を報告しようか?などと脅迫まがいの言葉まで言い出す始末。

車の中でうたた寝をしていた亀野も、宝田から、その場で車を降ろされてしまう。

宝田の牧場に連れて来られたゆりとトンちゃんは、遅れてやって来た宝田から、鶴川達は勝手に札幌へ向かったと聞かされ、驚く。

そこへ車が近付いて来たので、鶴川らが来たと思ったトンちゃんは近付いて行くが、乗っていたのは磐城で、丸越デパートの海老原社長から聞いて、ゆりたちが偽者だと分かったと宝田に告げる。

ゆりは、自分は丸越デパートで働いていると言ったつもりだが、宝田がそれを勝手に社長令嬢と勘違いしただけと言い訳するが、宝田は自尊心を傷つけられ激怒する。

磐城は、二人を訴えるぞと脅してくるが、トンちゃんも負けずに、おじさんのホテルでの出来事を組合の機関紙に書いてやると逆襲し、インチキはお互い様って事と、ゆりも開き直ってその場を去る事にする。

札幌にやって来たゆりとトンちゃんは、鶴川達を探して時計台のそばに来ていたが、ちょうどその裏側で、その鶴川と亀野が同じ時計台を見上げていた。

その鶴川と亀野にぶつかったのが、スリの梅吉だった。

二人は梅吉に気付くと声をかけ、梅吉の方も二人だと知ると、正直に、今スリ取ったばかりの財布を返してくれる。

しかし、そこに又時化田が追って来たので、梅吉は又逃げ出す。

鶴川と亀野は、その後、ゆりとトンちゃんが座っていたベンチに近付いてくるが、二人に気付く直前、泣きながら前を走り抜けた鈴子に気付き、後を追い掛ける。

時間は30分遡る。

船酔いの後遺症のため、宿で寝込んでいた時化田は、梅吉の介抱を受けていた。

しかし、その梅吉は、今夜から祭りが始まるので…と言いながら、時化田の前から去ろうとしたので、時化田はその後を追って宿の外に駆け出したのだった。

一方、別の宿に来ていた鈴子とその父親津軽円太郎(三井弘次)は、ハワイからやって来た旧友与名嶺金右エ門とすずの口から、昔鈴子との結婚を約束していた息子が、勝手にアメリカ人と結婚してしまったので、約束を果たせなくなったと言う詫び言を聞かされ呆然としていた。

円太郎は怒るし、鈴子は泣きながら宿を飛び出し、ちょうどそこに出くわしたのが、鶴川と亀野だったのである。

北海道大学で追い付き、鈴子から事の次第を聞かされた鶴川は、気を利かせて、今度は自分から用事を思い出した言い残し、亀野と鈴子を二人きりにして先に帰る事にする。

亀野と鈴子は、その後宿に戻り、父親や金右エ門夫婦に会う。

金右エ門は、松島署で出会った亀野のことを思い出し、こいつは信用できる男だと円太郎に紹介し、いっその事、ハワイに来て、おれの息子にならないかと亀野を誘う。

そうすれば、亀野は金右エ門の息子と言う事になり、鈴子との結婚も丸くおさまるではないかと言うのであった。

ぎんも、同じ女の直感で、鈴子が亀野のことを好きだと言う事を見抜いていたので、その話に乗る。

結局、娘の態度を見ていた円太郎も、その本心を察し、二人の仲を認めてやる事にするのだった。

その頃、二人とぼとぼと歩いていたゆりとトンちゃんは、馬に乗ろうと苦心している鶴川の姿を発見する。

トンちゃんが気を利かせて牛と遊んでやっている中、ゆりと鶴川は、いよいよ明日は二人とも東京に帰るので、今晩は思いっきり楽しもうと意気投合する。

ビール園で乾杯した二人は、酔った勢いでその後遊園地の飛行機に乗ると、互いの気持ちをそれとなく確認しあう。

鶴川は、自分は月給1万8000円のしがない銀行員でしかなく、朝食もいつも目刺ばかりと打ち明けるが、ゆりはそれでも良いと言い出し、そのあまりの積極的な態度に、鶴川の方がたじたじとなる始末。

気がついた時、二人は、酔った農民が引く藁馬車の荷台の上でキスを交わしていた。

朝、藁馬車の上で目覚めた二人は、互いに気まずい思いで帰る事にするが、ゆりは、夕ベ確か、あなたから結婚を申し込まれたような気がすると言い出し、鶴川も本気だったんですと答える。

それを聞いたゆりは、自分はただのデパートガールでしかなく、令嬢でも何でもないのだと打ち明けると、鶴川は、全部夕べ、あなたの口から聞きましたと答える。

東京へ帰る列車の中、トイレに立った亀野は、又してもばったり、梅吉と出会う。

ふとその手許を見ると、手錠がかかっているではないか。

トイレから出て来たのは、その手錠の片方がかかった時化田だった。

梅吉が言うには、昨日で時化田は定年だったので、捕まってやる事にしたのだと笑う。

今までのナレーションは、岡田茉莉子でした…と、当人が画面に登場して挨拶をした後、まだ終わったんじゃありませんと続ける。

羽田空港に到着したハワイからの旅客機から降り立ったのは、亀野と鈴子夫婦と、その子供達。

一方、それを出迎えに来ていたのは、鶴川、ゆり夫婦と、その子供達。

年を経て再会を果たした鶴川、亀野両夫婦は、一緒の車に乗り、空港を後にする。

その後ろから、互いの子供達が手を取り合って、ついて行くのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

観光映画と言うか、ロードムービーとでも言った形式で、佐田啓二と岡田茉莉子が四国へ出かける「集金旅行」(1957)の東北・北海道バージョン、もしくは、観光名所で出会った美男美女と言うパターンで言えば日本版「ローマの休日」(1953)と言った内容だが、 監督だった野村芳太郎が、松竹から謹慎処分を言い渡されたと言う問題作。

脚本は野村芳太郎と山田洋次と言う点や、主人公の片割れの職業が自動車工と言う類似性から考えると、後の山田監督「幸福の黄色いハンカチ」の北海道ロードムービーと言うアイデアの原点なのかも知れない。

この作品の何が問題になったのかと言えば、冒頭から随所に挿入されるナレーションや演出が、全て楽屋落ちばかりだから。

ごく普通のラブロマンスを期待していた会社側からすると、とんでもないふざけた作品と言う事だったのかも知れないが、今観ると、モダンでしゃれたラブコメになっている。

ストーリー自体はたあい無いものでも、松竹グランドスコープの大きな画面で、雄大な観光名所の美しい情景と、そこに立つ佐田啓二、岡田茉莉子と言うバリバリの美男美女を観ているだけでも、ああ映画だな〜…と満足感がある所が凄い。

この頃の松竹映画は、60年代のように「臭い泣かせや貧乏臭い設定」がまだ目立たないので、本当に「明るく楽しく」観る事が出来るのだ。

この当時の岡田茉莉子や桑野みゆきは、本当に愛らしいとしか言い様がなく、キラキラと輝いている印象がある。

桂小金治演ずるとぼけたスリと老刑事との追っかけも、ありふれたアイデアながら、心和ませる要素としてそれなりに楽しい。

鶴川とゆりの間の恋のキューピッド役を勤める、おしゃまな妹トンちゃんの存在が、後半、二人の中が成就した途端、画面からも忘れられたように消えてしまうのが御愛嬌かも知れない。