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次郎長三国志

2008年、光和インターナショナル/バンダイビジュアル/時代劇専門チャンネル/角川映画、村上元三原作、大森寿美男脚本、マキノ雅彦監督作品。

※この作品は新作ですが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、御注意下さい。コメントはページ下です。

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「たかさごや〜♪」と祝い唄が聞こえる家の周囲を、御用提灯が取り囲んでいる。

祝言を挙げているのは、駆け出しの博徒、清水の次郎長(中井貴一)とお蝶(鈴木京香)の二人。

次郎長はその席から逃亡する決意をし、まさか、夫婦固めが別れの盃になるとは…と呟くが、お蝶は「待つのは嫌!」と返事する。

二人は、祭りの夜、神社で二人きりになった時の事を思い出していた。

その時、次郎長は、お蝶の髪に刺さっていた簪を、唇でくわえて抜いたのだった…

祝言の席に出席していたお蝶の兄、江尻の大熊(春田純一)は、必ず男を上げて帰って来るとお蝶に約束する次郎長に、何故、こんなめでたい日に御用聞きが…といぶかしがる。

次郎長は数日前、子分の大政(岸部一徳)、桶屋の鬼吉(近藤芳正)、関東綱五郎(山中聡)らを伴い、河原に集結していた津向の文吉(本田博太郎)一家の喧嘩を止めようと、自ら乗り込んで行ったのだった。

そこに現れた、異様に臭い坊主姿の法印大五郎(笹野高史)が、喧嘩の発端になったお峰と言う女を奪ったのは三馬政(竹内力)と言う男だと説明したので、津向の文吉も、この喧嘩はおめえに預けると、次郎長に譲歩してくれたのだった。

どうやら今日、御用聞きが取り囲んだのは、次郎長が出入りをすると、誰かが悪意の噂を立てたためらしい。

そこに、又、臭い匂いが漂いはじめる。

法印大五郎が、そろそろ危ないと告げに来たのだ。

河原に死体が浮かんでいたが、それも三馬政の仕業らしいとの報告も。

表の戸を叩く音がし始めたので、次郎長は、お蝶の簪を預かると子分たちと一斉に刀を抜き、殺すんじゃないと命ずる。

全員、刀の刃を返すと、捕り手達の中に突き進んで行く。

一人が拳銃をぶっぱなし、捕り手達の気勢を削ぐと、そのまま橋を渡って逃げて行くのだった。

タイトル

お蝶は、買い物に近くまで出かける。

そこへ馴れ馴れしく声をかけて来たのは、若い博徒、大野の鶴吉(木下ほうか)だった。

その時、お蝶は、松林の向こうから、1年振りに帰って来る夫、次郎長とその子分たちの姿を見つけ喜ぶ。

一方、鶴吉の方は、今声をかけた女が、有名な次郎長の女房だったと知り、その場で腰を抜かしてしまう。

すっかり、ヒゲも伸びた次郎長は、お蝶と抱き合うと、預かっていた簪を、又、お蝶の髪に刺してやる。

お蝶は、子分の中に、見知らぬ男が一人混ざっているのに気付く。

旅の途中で仲間になった森の石松(温水洋一)と言う男らしい。

何か喋ろうとすると言葉が上手く出て来ない、奇妙な男だったが、人柄は良さそうだった。

一方、逃げ出そうとしていた鶴吉は、いきなり出現した女房のおきん(真由子)に、女狂いを理由に首を絞められていた。

それを見た次郎長は、おきんを諌めようとするが、逆に啖呵を切られてしまう。

おきん、相当気が強い女のようだ。

大政が、鶴吉の男を磨いてやったらどうかと仲間に入るよう持ちかけてみるが、おきんは、磨いてみやがれと捨て台詞を残したまま、さっさと帰ってしまう。

久々に、無沙汰をしていた江尻の大熊の所に挨拶に行った次郎長は、今、甲斐の祐典仙之助(高知東生)と言う博徒が名を出して来たが、その背後には猿屋の勘助(寺田農)、さらにその背後には黒駒の勝蔵(佐藤浩市)と言う、学問があって腕が立つ男がいるのだと、最近の情勢を教えられる。

そこに、追分政五郎と言う男が訪ねて来たと子分が知らせに来る。

それを聞いた石松は、何故か大喜びで玄関口に飛び出して行く。

どうやら、やって来た政五郎(北村一輝)と言う色男は石松と旧知の間柄だったらしく、久々の再会に驚きながらも、政五郎は、石松のなかなか出て来ない言葉を、先に察してしまうほどだった。

その政五郎、赤鬼の金平の所に雇われていた相撲取りを連れて来たと言う。

見ると、大勢の相撲取りが、道ばたにへたり込んでいる。

どうやら全員、腹を空かせている様子。

次郎長は、自分に相撲の興行をやれと言うのか?と戸惑う。

へたり込んでいた相撲取りの中から、頭取をしている久六(蛭子能収)と言う男が名乗り出て、こいつらに飯を…と頼む。

次郎長は迷うが、男気を出して、相撲取りを引き受けてみる事にする。

それを聞いたお蝶は喜ぶ。

大政も、もう親分は相撲の興行をするくらいの貫禄はあると太鼓判を押す。

次郎長は、相撲取りを自分の所に連れて来た政五郎を、本当の渡世人だなと誉めてやるのだった。

すぐに食事の支度が始められ、一家の子分たちが材料を調達して来ると、相撲取りにもちゃんこの手伝いをさせる。

そんな中、石松は政五郎に、どうして急に親切になったのかと不思議がる。

その石松の方が、何故、次郎長一家に加わったのかと逆に問われ、いきなり、旅の途中で喧嘩を売って来たのだと、他の子分たちが説明しはじめる。

橋を渡っていた次郎長一行の前に立ちふさがった石松は、いきなり刀を抜くと、からかった鬼吉や を川に突き落としてしまう。

仕方がなく、次郎長が相手になってやると、その腕前にいきなり惚れ込んだと言うのだ。

その際、石松、相手に仁義を切る時だけは、何故か流暢になると言うおかしなエピソードも、子分たちが披露する。

そもそも、何故、喧嘩を売って来たかと言うと、次郎長が剣を習った先生を知っており、次郎長から、剣の未知を教わりたかったからだと、石松の出ない言葉を、政五郎が通訳してやる。

もともと、石松の親分だった森の伝六の娘おしま(ともさかりえ)が嫁に行くのを嫌がり、石松を連れて駆け落ちしたものの、途中であっさり石松は捨てられたと言う。

そのおしまには、途中で待ち合わせていた本当に好きな相手がおり、自分は利用されただけと知った石松が、悔しさのあまり斬り掛かった所、その男は、全く相手にならないほど強かったと言う。

その男こそ、三馬政だった。

その男は、あの黒駒の勝蔵の身内と知らされた石松と法印大五郎は、怯えて逃げ出そうとするが、それを見ていた大政は、仲間から抜けるのなら盃を返してからにしろと渇を入れる。

その頃、飲み屋で鬼吉や関東綱五郎と飲んでいた鶴吉は、この店のお千(前田亜季)が可愛いとの話を聞き、そのおせんを呼んで見る。

すると、そこに酒を運んで来たのは、何故か女房のおきん、何でも、この店の女中として働く事にしたと言うのだ。

そのおきん、お千なら、今、二階で男に捕まっていると言うので、鬼吉と綱五郎は慌てて二階に行ってみる。

すると、その男とは政五郎の事で、お千は政五郎から騙され、すっかり相手を御家老の落としだねだと思い込んで同情している様子。

鬼吉たちは呆れて、そいつは単なる飯屋の息子だと教えてやる。

やがて、次郎長が主催する相撲興行が始まり、多くの近隣の親分衆を招待して花会が開かれる。

小川の武一(西岡徳馬)、津向の文吉、大前田の英五郎(勝野洋)、今天狗の活助(六平直政)、小川の武一(西岡徳馬)…、そして遅れて、黒駒の勝蔵もやって来る。

そうした親分衆を前に、次郎長は、今日は存分に遊んで行ってくれと花会の挨拶をする。

賭場が開かれ、壺を振っている女に目を付けた黒駒の勝蔵は、あれは誰かと次郎長に聞く。

投げ節お仲(高岡早紀)だと教えた次郎長は、勝蔵親分には大岩、小岩と言う良い子分がいなさるが、自分には大政がいるだけ…とへりくだってみせる。

そんな次郎長に勝蔵は、今、長崎には次々と外国から貿易船が来ているがどう思う?と話し掛けて来る。

しかし、次郎長には、そうした勝蔵が話す世情には全くついていけず、「こんな話は、次郎長親分には釈迦に説法だろうが…」との勝蔵の問いかけに、「シャケに鉄砲?」と頓珍漢な返事をするばかり。

頭の良さの差を見せつけられるだけだった。

その頃、相撲の売り上げを任されていた政五郎が、いきなり、その金を持って逃げ出すしたので、一緒にいた石松は慌てて後を追う事に。

近くの神社までやって来た政五郎は、おれに掘れ抜いた女がいるので…と言い訳をするが、石松は嘘だと見抜いて引き止めようとするが、相手が本当に斬るぞと居直ると、斬れるなら斬ってみろと、背中の般若の入れ墨を見せて座り込む。

そうした二人は、何者かが自分達を追って来た事に気付き、政五郎は、殺すんじゃないぞと石松に念を押すと、自分はさっさと逃げ出してしまう。

残された石松は仕方なく、迫って来た相手に刀を向ける事になる。

その後、石松に痛めつけた追っ手は、次郎長の家に怒鳴り込んで来る。

彼等は、自分達が興行をやるはずだったのに逃げた相撲取りたちを追って来た赤鬼の金平(螢雪次朗)と子分たちであった。

次郎長は、一緒に戻って来た石松の詫びから、政五郎に金を持ち逃げされた事を知りがく然とする。

この落とし前をどうしてくれると凄む金平の前には、久六が出て来て、自分達は、約束の金を金平が出し渋ったから逃げて来たのだと説明する。

さらに、石松一人に怪我をさせられたらしいなと次郎長に皮肉られると、金平たちも、それ以上突っ込む事ができず、すごすごと引き上げる事になる。

そこに法印大五郎たちが戻って来るが、石松は自分の失敗を恥じ、急に泣き出す。

次郎長は、そんな石松に、お前はおれに、剣術を習いたかったんだな?今から教えてやるから真剣でかかって来いと、裏庭に連れて行かれる。

石松は、へっぴり腰でかかって行くが、到底適うはずもなく、そんな石松に次郎長は、剣の道で一番大切なのは我慢だ。昔おれたちが会っていたら、二人ともとうに死んでいただろうと諭し、先に死ぬなよ。死ぬ時は一緒だと優しく声をかける。

それを聞いた石松はすっかり感激してしまうのだった。

その頃、温泉に浸かっていた政五郎は、偶然、一緒に入っていたお仲と出会い、後で部屋に来るように誘われる。

その後、政五郎はお仲に諭され、次郎長の元に戻って来る。

何故戻って来たと聞かれた政五郎は、以前、親分から、お前は本物の渡世人と言われた言葉が忘れられず、今度こそ本物になりたいと思ったのだと言う。

次郎長は、久六たちには、ちゃんと自分が金を渡して帰したと教えてやると、本当に男になりたいのだったら、人の手など借りぬ事だと言い聞かせる。

それを聞いた政五郎は、覚悟を決め、一人で旅立つ事にする。

しかし、一旦、玄関を出た政五郎はすぐ戻って来ると、見送っていた法印大五郎に、おやまと言う大女に会ったが知っているのではないかと聞いて来る。

法印大五郎は、すぐに、それは自分が以前つき合っていたおだんであると気付く。

その話を聞いていた次郎長は、お仲が取り戻してくれた相撲の売り上げ金を差し出し、これで、その女を身請けして来いと言う。

感激して、政五郎と一緒に出かけて行った法印大五郎だったが、やがて、一人で帰って来る。

出迎えた次郎長たちが訳を聞くと、おだんは死んだと言うではないか。

すでに身体を壊していたおだんは、自分が本当に夫婦になりたかったのは三馬政で、あんたではないと言いながらも、自分を待っていたかのように、自分の腕の中で息絶えたと打ち明ける法印大五郎に、次郎長は手ぬぐいをそっと渡してやるのだった。

三馬政は、あちこちで女を誑かせている事が分かった。

そんな所に、赤鬼の金平と手を組んだ祐典一家が殴り込みの準備をしているらしいと、江尻の大熊が知らせに来る。

それを聞いた次郎長は、みんなで甲州に行って、三馬政を叩っ斬ると子分たちに告げる。

大熊は、今度は、お蝶も連れて行け、きっと逃げおおせろよと頼む。

さっそく出発の準備を始めた子分たちだったが、綱五郎と鬼吉の二人は何か未練があるようだった。

実は、二人が好きだった飲み屋のお千が、堅気の男と結婚する事になったので、自分達で、その駕篭を担いでやると約束していたのだ。

事情を察したお蝶は、見送ってやんなと二人に勧める。

その夜、お千は、綱五郎と鬼吉が担ぐ駕篭に乗って嫁いで行く。

その頃、とある宿で、女中といちゃついていた政五郎は、いきなり飛び込んで来たヤクザたちに捕まってしまう。

その女中は三馬政の女で、その宿も祐典一家のものだったのだ。

そうした様子を、隣で三味線を弾きながら聞いていたのは、お仲だった。

旅立っていた次郎長一家は、山中でお仲と出会い、政五郎が敵の手に落ちた事を知る。

近くに隠れ、その様子をうかがっていた祐典一家の手の者は、意外にも、そのまま引き返して行く次郎長一家の行動を親分に報告に帰る。

それを聞いた祐典仙之助と金平は喜び、祝いの酒でも飲もうと、一緒に待ち受けていた黒駒の勝蔵を誘うが、勝蔵は、次郎長が来ないのなら祝う気持ちになれないと立ち上がると、その場にいた三馬政に、次郎長に会う事があったら、縁があったら又会おうと伝えてくれと言葉を残して帰ってしまう。

その後、祐典の家の前に、白装束の行者一行が立ち止まると念仏を唱え始める。

その様子を何気なく見ていた祐典の子分たちは、笠の下の顔を見て驚く。

まさしく、そこにいるのは、次郎長一家だったからだ。

祐典一家の家に殴り込んだ次郎長一家は、馬屋に縛られていた政五郎を救出するが、その斬りあいの最中、石松が左目を斬られてしまった事に気付く。

次郎長は、助け出した政五郎を「小政」と呼びはじめたので、政五郎は大感激する。

その頃、鶴吉は、別の場所で身を隠していたお仲とお蝶に戦果を報告かたがら迎えに出向くが、待ち伏せていた三馬政に斬られてしまう。

馬屋の所で喜びあっていた次郎長一家の元に、お仲とお蝶を人質にした三馬政がやって来て、刀を捨てろと命ずる。

次郎長たちは、仕方なく刀を投げ捨てるが、その時、一瞬の隙をついて、お仲が、三味線に仕込んだ刀で三馬政に斬り付けると、お蝶も次郎長の方に逃げ出す。

次郎長たちも一斉に刀を拾い上げ、形勢不利を悟った三馬政は逃げ出す。

その後、倒れていた鶴吉の元に駆け付けるが、虫の息の下、鶴吉は、自分は姉さんに一目惚れしたが、本当に愛していたのは…と言いながら、腕に掘った「おきん命」の入れ墨を見せて息絶える。

清水に戻った次郎長たちから遺髪を受け取ったおきんは、何が、次郎長だ!何が男になっただ!やくざなんてろくな者じゃない!と言い残し去って行く。

それを黙って聞いていた次郎長は、子分たちに、おれはこんりんざい喧嘩はしないと誓うのだった。

その時、お蝶がふらつき倒れてしまう。

長旅の疲れもあり、風邪をこじらせたのだった。

次郎長は、そんなお蝶を背負い、久六の家に世話になる事になる。

岡っ引きとの二足の草鞋を履いていると言う久六は、以前受けた恩を返す事ができると、女房のお駒(荻野目慶子)と共に、次郎蝶一家を歓待するが、石松ら子分たちは、その屋敷が、妙に豪奢である事に不信感を抱くのだった。

久六は役人にも顔が利くらしいと知った政五郎も、みんなに用心するよう伝える。

その言葉通り、自室に戻って来たお駒は、それまで着飾っていた着物を脱ぎ捨てると、夫である久六の目の前で、隣から出て来た三馬政の愛撫を受け入れはじめる。

恨めしそうに見つめる久六は、お駒から部屋を追い出されてしまう。

その後、その久六の屋敷にやって来たのは、次郎長の兄弟分沼津の佐太郎(大友康平)だった。

それを知った久六は、ただちに役人を呼んで来いと子分たちに命ずる。

しかし、次郎長は再びお蝶を背負うと、医者が間もなく来ると言う久六の言葉を無視し、子分たちと一緒に反対方向へ逃げ出す。

林の中で待ち伏せていた三馬政は、木の陰から単筒を発砲し、背負われていたお蝶の背中を撃ち抜く。

やがて、久六に連れられた役人達も駆け付けて来るが、その場は、拳銃で追い払う事ができた。

お蝶の怪我はひどく、一刻も早く医者を見つけて来なくてはならない状況だった。

この場を脱出するため、子分たちは死を覚悟すると、その場で唄を歌いながら、旅支度を始める。

しかし、林の中に横たえられたお蝶は、自分のせいで、みんなが死ぬのは嫌!早く私を死なせてと、次郎長に頼む。

次郎長は、誰が死なすものかと答え、大政は、みんなを止めるのだった。

その頃、佐太郎の女房、お園(木村佳乃)は、夕べ帰るはずだった夫が朝になっても帰って来なかったので、心配のあまり、家の前にある押切権現の祠に、夫の無事を祈って願をかけていた。

やがて、一人で昼寝をしていたお園の元に、次郎長たちを連れて来た佐太郎が戻って来る。

取りあえず、お蝶を寝かし付け、医者を呼んで来なくてはいけないと言う事になるが、金がないため呼べない。

滋養でもつけようと、一匹だけ飼っていた鶏をひねって食べさせようとするが、もう体力の弱ったお蝶が受け付けるはずもない。

祠の後ろに夫を呼んだお園は、自分を売って金にして、義理を返せと勧める。

その時、同じ祠に祈りに来たのは大政ら子分たちであった。

鬼吉は、金を作るために実家の桶屋に戻るが、勘当していた父親(長門裕之)は相手にしない。

諦めて帰りかける息子に、母親がそっと金を渡そうとしていると、裏側からその姿を見ていた父親が近付いて来て、息子の頭を叩きながら、持っていた金を自分も手渡してやると、もうおれにはせがれはおらん!と言いながら仕事場に戻って行く。

その直後、その時の鬼吉の心を表すかのように雨が降り始める。

同じ頃、大政は、元女房のおぬい(とよた真帆)から金を受け取っていた。

もともと侍だった大政は、いたらなかった過去の自分を詫びる女房に、やくざに身を落とした今のおれの方を怨めと言い残す。

こうして持ち帰った大政と鬼吉の金を、次郎長は受け取れないと拒否する。

やくざの癖に、親御さんに迷惑をかけるなんてとんでもないと言うのだ。

しかし、その気持ちだけは受け取った次郎長は、お長の枕元に行くと、自分は日本一の子分たちを持ったと嬉しがる。

そこに、おきんを連れてお仲が訪ねて来る。

一瞬、おきんの顔を見た子分たちは、鶴吉が来たと見違えたほどだった。

お仲は、これは博打で儲けたものだからと金を手渡す。

それを見た鬼吉は、自分達の金も、これに混ぜてしまえば分からなくなると提案するが、その話声は、しっかり隣の次郎長にも聞こえていた。

その夜、ようやく医者に診てもらう事ができたので、次郎長は、子分たちに形ばかりの酒を振る舞う。

場を明るくしようと、大政が子分たちに何か面白い話でもしろと言い出すと、親分とお蝶さんのなれそめを聞きたいと言い出す声があがる。

次郎長は照れて答えなかったが、お蝶は、一緒に踊ると夫婦になると言われる祭りに自分が誘ったのだが、次郎長は踊ろうとせず、すぐに神社の方に逃げ出してしまった。

それを追って行った自分が帰ろうと背中を向けると、その背中を次郎長が抱いて来て、「お蝶が好きだ」と打ち明けられた言う。

その話を聞いた大政は、次郎長の手を握り、お仲も惚れたと言いながら、お長の手を握るが、その時、お蝶は、あなたの姿が見えないと言い出す。

その言葉にハッとした次郎長は、お蝶の手を握りしめると、おれはここにいるぜと声をかける。

お蝶は、見えないながらも、独り独り、その場にいた子分たちの名前を呼びながら、親分をよろしく頼むと言い残す。

たまらなくなったお園は、表の押切権現の祠に、懸命に願をかける。

お蝶は、清水にいるみたいと呟き、次郎長は清水に一緒に帰ろうと声をかける。

しかし、お蝶の目は静かに閉じて行った。

次郎長は、そのお蝶の顔に自らの顔を近付けると、髪の簪を、昔のように、唇で抜き取ってやるのだった。

次郎長たちは、再び旅支度を始めると、翌朝旅立つ。

目的地は、三馬政のいる久六の屋敷だった。

竹林を駆け降り、塀を乗り越えた次郎長一家は、見張りたちを次々に斬って行く。

久六は震えながら単筒を向けて来たが、次郎長が斬る。

さらに、三馬政も斬り、持ちこたえるその身体に石松と政五郎もとどめを刺し、三馬政は池の中に落ちて死ぬ。

その後、次郎長一家は、富士山が見える清水の茶畑に戻って行くのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「寝ずの番」に次ぐ、マキノ(津川)雅彦監督作品第二弾。

前作もそれなりに面白かったが、特に「マキノ」姓を使ってアピールするほどの作品でもないかな?と感じていたが、今回の作品は、さすが「マキノ!」と言いたくなる出来になっている。

「マキノの血」は濃いのか、ちゃんと「娯楽映画の才能」は、脈々と津川雅彦の体内に受け継がれていたと言う事だろう。

全体的にコミカルなタッチ、そこに泣かせあり、アクションありで、これぞ娯楽時代劇!…と言いたくなる。

冒頭から、強烈なキャラで登場する笹野高史が笑わせたり、泣かせたり、巧みな芝居を見せる。

「寝ずの番」にも出ていた木村佳乃は、今回さらに良くなっているし、高岡早紀も「忠臣蔵外伝四谷怪談」以来のお色気振りでなかなか!

監督の兄、長門裕之の出演場面は絶妙。

相変わらずの濃いキャラで登場する本田博太郎、螢雪次朗の「平成ガメラ」コンビや久々な印象の竹脇無我、「いつかギラギラする日」以来の悪女振りを見せる荻野目慶子など珍しい顔ぶれも随所に登場し、楽しめる。

監督二作目なのに、もう手慣れた感じに仕上げているのが凄い。

ただ、複雑な人間関係などが、今の観客には良く分からないのではないかと思えたり、明らかに芝居が下手な蛭子能収や、監督の娘(真由子)の登場シーンが思いのほか多いのは、いかがなものかと思ったりもする。

いかにも、昔の正月映画のような肩のこらない内容なのだが、今の観客にどう受け入れられるのか…