1952年、東京映画、中沢治夫原作、丸根賛太郎脚本+監督作品。
▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼
失業した武士の事を浪人と言う。
大鳥藩江戸屋敷に「剣の達人と棒術の達人求む」との立て札が出され、大勢の浪人達が押し寄せて来る。
屋敷内では選抜試合が行われ、次々に勝者が勝ち名乗りを上げて行く。
中でも抜きん出た技量を持っていたのは、剣の方では扇谷十兵衛(月形龍之介)であり、棒術では菅新吾(高田浩吉)の二人であった。
十兵衛の方等、最後の対戦相手となった鰐淵一刀斉が振り降ろした木刀を、よそ見をしながら素手で握って止める程。
怒った相手が、真剣でもそのような事ができるかと息巻くと、十兵衛騒がす、できると言うので、それならばと一刀斉が真剣を取り出すと、本当にその真剣の刃も握りしめてしまう。
今時の浪人の持つ真剣等、大半が竹みつである事を見抜いた上での行動だった。
結局、剣術では十兵衛、棒術では菅新吾が採用される事になり、二人には、最近、市中を騒がせている浪人崩れの野党一味「大草鞋組」から屋敷を護衛する夜中見回り役、分かりやすく言うと「泥棒の用心棒役」を仰せつかる。
少ないながら、30石2人ぶちが与えられると言う事で、取りあえず二人は納得する。
じつはこの二人、同じ長家の同じ部屋に同居する友だち同士、正確に言うと、妹と二人暮しだった十兵衛の部屋に、新吾が居候していると言うのが実情だったのである。
そんな二人の仕官が決まったと言う知らせはすぐに長家に伝わり、これまで溜めに溜めて来た借金を取ろうと、大勢の借金取りが長家に詰め掛けていた。
そこに当の二人が戻ってくると、待っていた長家の住民、借金取りらが全員万歳をする。
二人は祝い酒を長家のみんなに振る舞うと言う事になり、酒屋の勝五郎(山茶花究)、魚屋の太平(益田喜頓)、米屋の忠助(坊屋三郎)などが早速品物を持って来て、金が入ったら、まっ先に自分に借金を返してくれと、十兵衛の妹の小雪(岸恵子)に頼んで行く。
一方、長家の住人の浪人達も、祝宴が始まるのを楽しみにしている。
新吾は、今まで、内職として作って来た矢の数を思い返していた。
そこに、その矢の納め先である矢場のおけい(宮城千賀子)がやって来て、気のある十兵衛、、今晩来てねと言い残して去る。
ところが、その晩、酒の支度をして待っていたおけいは、いつまで立ってもやって来ない十兵衛に苛立ちはじめる。
当の十兵衛は、新吾や長家の連中と、長家でどんちゃん騒ぎに夢中だったのだ。
待ちくたびれて外に出たおけいは、飲み屋でやけ酒をあおって家に戻ると、嫌な男が勝手に上がり込んで待っている事に気付く。
一方的におけいに色目を使っている虎鮫の珊瑚兵衛(上田吉二郎)だった。
虎鮫はすでに酔っているらしく、十兵衛の為に用意していた酒を勝手に飲み始め、おけいに言い寄って来る。
そこにようやく、十兵衛がやって来たので、助けてくれとおけいが頼むと、十兵衛は虎鮫を外に放り出してしまう。
その頃、長家の浪人権藤司馬之助(永田光男)が長家に戻って来る。
他の浪人達が、振る舞い酒で良い気持ちになっている様子を見て、自分がもし仕官しても、振る舞い酒等はしないと言い捨てる。
さらにもう一人、長家住まいの浪人由良庄八(高橋貞二)も帰って来る。
庄八は、老いた母親(毛利菊枝)と二人暮しだったが、その母は、死ぬまでに息子の裃姿を見たいと言うのが口癖だった。
そんな庄八の部屋にやって来た小雪は、今度兄が仕官したので、大鳥藩の江戸屋敷の方に引っ越さなければいけなくなったと庄八に別れを告げる。
その頃、おけいの所で飲んでいた十兵衛は、長家に残る庄八の事をくれぐれも頼むとおけいに頭を下げていた。
これまで親しくつきあって来た十兵衛が、今後は自分達とは違う世界に行ってしまうのかと考えると、おけいは涙せずにはおれなかった。
権藤らと共に、新吾のいる部屋で酒宴に加わった庄八は、自分も、母親の為と言うだけではなく、自分自身の幸せの為に仕官する機会が欲しいと泣き言を言う。
それを聞いた権藤は、女々しい事を言うなと気分を害し、その場を立ち去ってしまう。
十兵衛も又、今夜はおけいの涙が出なくなるまでつきあうつもりだったが…と言い残し、帰る事にする。
翌日、小雪と外に出た庄八は、小雪さんがどこか遠くへ行ってしまうような気がすると未練がましい事を言い、自分も一日も早く仕官して、迎えに行くと約束する。
ところが、大鳥藩に出向いた新吾は、とんでもない事を言い付けられてしまう。
藩に仕えるからには、むさ苦しいプロペラひげを剃れと言うのであった。
しかし、長年生やして来た自慢のひげを剃る事はできぬと新吾は拒否し、自分と新吾とは一心同体の間柄、その新吾がそう言うのなら、自分も仕官は返上すると言い出し、十兵衛も一緒に辞める事にする。
長家に戻って来た二人は、待ち構えていた借金取りに仕官を断ったので、金は払えなくなったと詫びる。
しかし、怒った借金取りの中には、そんな言葉に納得せず、妹を女郎に売ってでも金を払えと言う者まで現れる始末。
さすがにその言葉に逆上した新吾は、槍を取り出し、借金取り達を追い出してします。
しかし、おけいは、新吾の口から、仕官がダメになった事を聞くと喜ぶものもいた。
とにかく、借金取りを納得させる方法を考えねばならなくなった十兵衛は、新吾に死んでもらおうと言い出し、戻って来た新吾に向かって、明日朝死ねと命ずる。
翌日、長家には棺桶が運ばれ、新吾がとん死したと言う噂がたちまち広がる。
長家の浪人達は、借金取り達を呼び集めろと言う事になる。
かくして、十兵衛の部屋に集まった借金取り達に対し、新吾の霊魂はこのままにはしまいと、脅すような言葉を浪人代表が伝える。
仏前にと、米や魚や酒を持って来た連中に、祟りが恐かったら、今後27日間、長家に近付くなと浪人達は釘をさす。
十兵衛の部屋の置かれた棺桶の中には、退屈そうに新吾が入って、外の声を聞いていた。
その夜、十兵衛の部屋では、又しても、どんちゃん騒ぎが始まる。
そこへおけいもやってくるが、入ろうとすると、戸に中から心張り棒が噛ませてある事に気付き、十兵衛さん、随分賑やかなお通夜ですねと嫌みを言う。
棺桶の外で浮かれていた新吾は、その声を聞いて慌てて棺桶の中に入り込む。
その後、取りあえずどんちゃん騒ぎはお開きにするが、庄八の母親もやって来て、通夜につきあうと言い出したので、十兵衛は困惑してしまう。
さらに、新吾の叔父と言う柚木卓左衛門(富本民平)までやって来て、死んだ新吾の形見としてひげを切らせてもらうと言い出す。
慌てた十兵衛は止めようとするが、棺桶の蓋を開けた柚木卓左衛門は、中に入っていた新吾のヒゲを掴むと、あっという間に切り落として持ち帰ってしまう。
その後、寒気がするので帰らせてもらうと、庄八の母親が言い出したので、これ幸いと、小雪に送って行かせる。
ところが、そこへ、今度は庄八自身がやって来て、棺桶の前で手を合わせると、何やら書状を置いて帰っていく。
十兵衛が、その中身を読んでみると、金がないので、取りあえず香典の借用書と言う内容だったので、その律儀さに感心してしまう。
その頃、世の中では、ますます大草履組の暗躍が激しくなったため、捕まえると金子を与えると言うおふれが立つ。
しかし、その賞金額があまりに小額なので、大半の武士達は、こんな金額で盗賊と対峙するもの等いないだろうと噂しあう。
ところが、そんなおふれを熱心に見ていた浪人もいた。
権藤や庄八らだった。
権藤は、金目当てと言うより、大草履組を退治すると、天下の評判になると感じていたのだった。
その権藤、長家に戻って来て、そこに居合わせた小雪を見ると、あなたは幸せになりたいかと問いかける。
一方、おけいは、今夜虎鮫が来るので、十兵衛にやっつけて欲しいと頼みに来ていた。
とにかく、何も言わずに、私が言う事に頭を振ってくれるだけで良いと言うので付いて行った十兵衛だったが、部屋で待っていた虎鮫は、おけいの色男とやらをここに出せと息巻いていた。
そこで、隣の部屋から十兵衛を呼び入れたおけいは、あんたは私の事が好きなんでしょう?私の為なら、例え、火の中、水の中でも入ってくれるんでしょう?と問いかける。
十兵衛は一瞬言葉に詰まりながらも、約束通り、頭を振るしかなかった。
挙げ句の果てに、その場で抱き合う始末。
その様子を見せつけられた虎鮫は、しらけて帰ってしまう。
その帰り、権藤とすれ違った十兵衛だったが、近くで賊に襲われている御用人らしき人陰を発見、すぐに救出に向かう。
一方、権藤の方は、覆面姿の集団と出会ってしまう。
これが噂に聞く大草履組と悟った権藤は、臆する事なく、首領を出せと言う。
すると、その首領らしき人物が前に出て来たので、瞬時に権藤は斬って捨てた後、狼狽する他の大草履組の連中に、これからはおれに服従しろと命ずる。
さらに権藤は、一緒にいた桑山義山(山路義人)と横木泰助(小林重四郎)に、長家に行って仲間を集めろと伝える。
その頃、十兵衛の方は、命を救った御用人の屋敷に招かれ、仕官してくれないかと頼まれていた。
それを聞いた十兵衛は、友人の新吾も棒術の達人なので、一緒に雇ってくれと頼む。
翌日、その腕前を披露した新吾も、あっさり仕官を認められる事になる。
二人は、さっそく屋敷に移ってくれと御用人から頼まれるが、その際、十兵衛の持った刀を見せてくれと頼まれる。
喜んで長家に戻った二人だったが、外で待っていた小雪が、庄八の母親が熱を出したが、こんな貧乏長家に敗者が来てくれないと打ち明ける。
それを聞いた新吾は、通夜の晩に風邪を引いたに違いなく、それなら自分にも責任があると感じ、すぐさま槍を持って町に出向くと、無理矢理医者を引き連れて戻って来る。
医者の見立てでは、日本橋本石町にオランダの優秀な解熱剤があり、それを使えば病気も直るかも知れないが、その薬は三両もすると言うではないか。
十兵衛はすぐに、おけいに頼みに行ってくると出かける。
ところが、そのおけいの矢場は、虎鮫に指図されたやくざ達に荒されている最中で、おけいが一人で立ち向かっていた。
店に飛び込んだ十兵衛は、すぐにおけいの応援するが、岡っ引きが駆け付けて来たのに気付かず、おけいが投げ付けたものが、岡っ引きの額に当ってしまう。
怒った岡っ引きは、やくざだけでなく、十兵衛までも奉行所に連行してしまう。
その頃、庄八の部屋を訪れた権藤は、母親の薬代として三両を庄八に与えていた。
翌朝、新吾は、奉行所から出て来る十兵衛を迎えに行き、一緒に仕官した屋敷に出向くと、支度金を受け取る事にする。
ところが、屋敷の御用人は、うっかり刀収集の趣味がある殿に、そなたの刀の事を話した所、譲り受けたいと言い出したので、刀を渡してくれないかと言うではないか。
これには十兵衛は呆れ、きっぱり断る。
新吾も同調しようとしたが、すでに二人とも支度金を受け取ってしまっている。
苦悩した二人だったが、諦めて金を返すと、せっかくの仕官を断り、二人とも屋敷を後にする事になる。
その後、二人が向かったのは質屋だった。
しかし、質屋の主人蜂左衛門(花菱アチャコ)が刀を見立てて言うには、一両にしかならないと言う。
十兵衛は、自分も質草になるから、新吾の槍と自分の刀とまとめて三両貸してくれと懇願したので、仕方なく主人は承諾する。
その頃、母親の薬を買ってしまった庄八は、権藤から、借りた金は働いて返せと迫られていた。
一方、小雪から、庄八が権藤から借りた三両で薬を買ってしまったと新吾は教えられていた。
十兵衛は、質草として、質屋の蔵の中に入っていた。
庄八や長家の浪人達は、大草履組の屋敷に招かれ、仲間に加わるかどうか返事を迫られていた。
浪人達は、自分にはこの仕事は性に合わぬと長家に帰ろうとするが、そこで待っていた権藤は、子供がまっているので…と帰りかけた一人を、即座に斬り捨ててしまう。
そして、残りの庄八や浪人達に、お前達に残された道は、仲間になるか、死を選ぶかだと詰め寄る。
庄八は大草履組に加わるしかなかった。
その頃、薬のおかげで、何とか回復して来た母親は、献身的に看病してくれた小雪を前にして、元気になったら、又欲が出て来た。今度は、あなたが庄八のお嫁さんになるのを見て死にたいと言い出す。
その後、庄八が憔悴した様子で帰って来る。
母親は、二人で生きて行くのさえ苦しい所で、自分が病気に等なってしまい申し訳ないと謝る。
一旦、自分の部屋に戻っていた小雪が又戻ってくるが、庄八は帰ってくれと、戸を開けようとしない。
庄八の態度の急変の意味が分からない小雪は、戸の前で、どうしたのか?と戸惑う。
そこにやって来た新吾は、庄八を呼び出すと、二人きりで十兵衛の部屋に戻ると、三両を出してみせ、これは十兵衛が自ら質草になって作った金だと説明すると、小雪さんの気持ちを考えて、有意義に使ってくれと頼む。
庄八は、自室に戻ると、眠っていた母親の布団の下に置き手紙を入れ、部屋を出たところで、小雪と会うと、母親の事はくれぐれも頼むと言い残して出かけて行く。
その後、質草の主人にも、庄八は十兵衛宛の手紙を渡していた。
母親の部屋を訪れた小雪と新吾は、布団の下に挟まれていた置き手紙を発見して読んでいた。
すると、権藤から金を借りたばかりに、大草履組に加担させられた事情から、もし自分が明日までに戻らなかったら、その住処を奉行所に知らせてくれむと書かれてあるではないか。
驚いた新吾は、その手紙を持って質屋に出向く。
すると、蔵の中でも十兵衛が手紙を読んでおり、一緒に内容を知った主人蜂左衛門は、感激して、すぐさま蔵の鍵を開けて十兵衛を出してやる。
質草に入れた槍を取り出した新吾も後を追う。
それを見送る蜂左衛門は、あんたは質草なんやから、傷一つつけずに帰って来てくれと応援するのだった。
その頃、権藤はじめ、大草履組の仲間達の元にやって来た庄八は、新吾から預かって来た三両を返すと、自分は仲間から外れると宣言する。
しかし、権藤は、仲間から去ると言う事は、この世から去ると言う事だと言いながら、庄八に迫って来る。
庄八は刀を抜き、襲って来る仲間達と戦いはじめる。
しかし、多勢に無勢、庄八の運命は風前の灯になる。
そこへ何とか駆け付けて来た十兵衛と新吾は、権藤を諌め、長家の浪人達は手を出すなと注意する。
しかし、権藤や権藤たちは、無言で刃を向けて来る。
仕方なく、十兵衛と新吾は戦いはじめ、新吾は大館を、十兵衛はやむなく権藤を斬ってしまう。
その後、質屋の蔵に戻った十兵衛を、自分の藩に召し抱えたいと言う全国の使いが押し掛けて来る。
それを必死に断っているのが、主人の蜂左衛門。
そこへ、やって来たおけいが、自分が十兵衛の身体を受け取ると言う。
それを聞いた藩の使い達は、必死におけいに頭を下げるが、おけいは言う事を聞かない。
かくして、おけいの元に仕官すると言う形になった新吾と十兵衛は、めでたく仕官を果たし屋敷に向かう庄八、小雪、母親を乗せた藩の駕篭を見送るのだった。
▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼
月形龍之介、高田浩吉共演のコメディ…と言う程ではないが、明朗時代劇。
渋いと言うイメージがある月形龍之介に、このような軽いタッチの時代劇があった事自体がまず驚き。
特に滑稽な事をやるわけではないが、おけいという女に自在にあやつられ、困惑する様等はユーモラスである。
前半部は、落語の世界を見ているようで陽気だが、後半は、貧乏浪人の悲哀を描いてあり、かなりシリアスタッチになる分、展開もやや平凡な印象になる。
宮城千賀子、岸恵子、上田吉二郎、山茶花究などは、うっかりすると、良く似た別人かと疑うくらい若い。
蔵の中に入った十兵衛が、厚かましく酒も飯も要求するので、それに迷惑顔をする蜂左衛門役のアチャコも愉快だし、庄八の手紙で窮状を知るや、男気を発揮して、逆に応援しながら送りだす所等は、粋で小気味良い演出である。
