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大虐殺

1960年、新東宝、内田弘三脚本、小森白監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

第一次世界大戦後の日本は、どこか人心荒廃していた。

大正12年9月1日、社会主義者大杉栄を信奉し、「労働新報」と言う新聞に参加していた青年古川大次郎(天知茂)は、昼食を取るため、浅草の牛鍋屋に立ち寄るが、二人の刑事が尾行して来た事には気付いていなかった。

注文を終えた古川は、側の酔客たちが、戦争景気でもなけりゃ、やっていけないと愚痴をこぼしている姿を、微笑みながら眺めていたが、時計の針が11時48分を指した時、時ならぬ地鳴りが起こり、大地震が発生する。

浅草十二階がその直後、崩壊し、街は阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。

夜になると、火災から逃れる人の波が増え、そうした避難民の間に、朝鮮人たちの暴動が起こったと言う流言飛語が飛び交いはじめる。

近隣の各町内会では、朝鮮人を見分けるため、避難民たちに「君が代」を歌わせたり、「いろは」を言わせたりして、国籍の確認を行うようになりはじめる。

さらに、何の罪もない朝鮮人たちを民衆が襲撃する朝鮮人狩りまで起こりはじめる。

こうした混乱を無視できなくなった関東軍では、緊急の幹部会が召集されるが、この席で、甘粕大尉(沼田曜一)は、この際、朝鮮人や社会主義者の事よりも、無政府主義者である大杉栄を捕らえるべきだと進言するが、もう少し待てと諌められる。

やがて、警察と東京憲兵隊が協力しあい、社会主義者や朝鮮人たちを次々に連行しはじめる。

こうした中、古川も亀戸署に連行され、大杉栄との関係を尋問されるが、学者である大杉栄を辛抱して何が悪いのかと反論していた最中、庭の方から銃声が聞こえて来る。

それは、連れて来た朝鮮人たちを後ろ手に縛ったまま、憲兵たちが老若男女の区別なく、射殺していたのだった。

しかし、やがて、その銃声が近所の住民たちの耳に入り、不安の声が聞こえはじめたと言う報告を受けた軍は、古川ら社会主義者や朝鮮人をトラックで荒川土手の付近まで連れて来て、その場で解放すると言い出す。

喜んだ朝鮮人や社会主義者たちは、トラックの荷台から降りると、喜んで帰宅し始めるが、その背後から、憲兵隊は用意していた機銃を掃射しはじめる。

次々に倒れて行く人たちの中を逃げ回った古川は、川に飛び込み難を逃れる。

大虐殺の後、憲兵達は、土手に倒れた多数の死体をその場で焼き始める。

その頃、大杉栄(細川俊夫)は、妹、橘あやめ(山下明子)とその息子宗一(島村徹)が遊びに来ている中、同士達と自宅でくつろいでいた。

あやめは、外で刑事らしき変な男に会ったと兄に報告するが、大杉は笑って気にしない様子。

そうした中、勝手口に誰かが現れたので、同士が誰何してみると、古川である事が分かり、中に導き入れる。

川から逃げて来た古川は、軍による朝鮮人や社会主義者たちの虐殺を目撃したと語り、すぐにでも逃げるように大杉にすすめるが、大杉は自分に逃げる必要等ないと拒絶する。

ある日、上野公園に、内縁の妻伊藤野枝(宮田文子)と甥の宗一を連れ、遊びに来た大杉だったが、その帰宅時、甘粕大尉ら尾行していた東京憲兵隊の三人に連行されてしまう。

大杉が連行された理由は、大震災の争乱の乗じて、東京、横浜に放火をし、革命起こそうと画策したと言うものだった。

それを聞いた大杉は、革命は、天変地異に乗じて行うようなものではないと否定するが、甘粕大尉は、国には国の歴史があるんだと詰め寄る。

大杉は、それは、君たちにとって、都合が良い歴史の事かと反論すると、逆上した甘粕は、いきなり大杉につかみかかると、その場で首を閉め、床に押し倒すと、部下二人に大杉の足を押さえさせた上で、刺殺してしまう。

その頃、別室で待たされていた宗一は窓から外の星を数えながら、野枝に、お星様っていくつあるのかな〜…などと無邪気な質問をしていたが、そこに入って来た部下に野枝は甘粕大尉の元に連れて行かれる。

野枝も又、甘粕に大して毅然とした態度で臨んだため、甘粕から絞め殺されてしまう。

そのちょうど最中、宗一が「おしっこ」と部屋のドアを叩いて来たので、慌てた部下二人は、宗一もどこかに連れて行ってしまう。

その後、大杉の家に「遺体を引き取りに来い」と知らせる電報が届くが、それを郵便屋から母親に渡したのは、まだあどけない大杉の娘だった。

大杉栄と野枝、宗一の三人が殺害された事件は、号外によって広く庶民にも知られるようになる。

その号外を手に、「労働新報」の仲間の元に駆け込んで来た古川は、ただちにこの怒りを官憲への報復としてぶつけようと進言するが、それを聞いた仲間の一人和久田進(若宮隆二)から慎重にして欲しいとなだめられ不満に思うのだった。

やがて、自宅でしめやかな葬儀が行われ、突然父親を失い泣く娘を、胸に抱いて庭に出た古川は、娘をあやすため「月の砂漠」を歌ってやりながら、悔しさを噛み締めるのだった。

甘粕事件は大衆の間でも問題視されるようになったため、隠しきれなくなった軍部は司法会議を執り行う事にする。

甘粕大尉の行為の中でも特に問題視されたのは、無垢な子供まで殺害してしまった事に対してであり、母親の代理である検察官は、その首謀者が本当に甘粕本人だったのかどうかと問いつめる。

だとしたら、帝国軍人の恥ではないか。部下をかばう気持ちは分かるが、本当の事を言ってくれと言うのだ。

甘粕は、迷った末、自分は殺さなかったと言い出す。

しかし、部下二人は、憲兵司令官の命令でやったと言い出したので、慌てた甘粕は、司令官を守るため、自分が子供を殺したと前言を翻す。

その裁判を膨張していた古川は、甘粕はロボットに過ぎないと看破し、仲間達たちが「労働新報」に記事を書き、世論を巻き起こそうと相談しあう中、テロで指導者達を倒すしかないと過激な事を言い出す。

しかし、東京は警戒が厳重で当分危ないので、大阪の仲間の所にしばらく身を寄せようと彼等が相談しあっている時、古川に来客の知らせがある。

客と言うのは、古川の高校の先輩で、今は新聞記者をやっている高松(御木本伸介)だった。

以前から親しくしていた妹の京子(北沢典子)も一緒だった。

その京子とひさしぶりに散策する事になった古川は、大阪へは何しに行くのかと聞かれ、友だちの所へと言葉を濁すが、古川が何かを隠している事に気付いていた京子からさらに問いつめられ、自分にはやらなければならない事があり、その目的を果たしたら満州に行くと伝える。

それを聞いた京子は、もっと平凡に生きて欲しい。今のあなたにはついていけないと言い残し、寂し気にその場を立ち去るのだった。

大阪に居着いた古川は、活動の資金調達のため、ある日、同士平岩(千葉徹)らと一緒に老銀行員を襲撃し、持っていた鞄を奪おうとするが、激しく抵抗されたため、つい持っていた短刀で相手を突き殺してしまう。

そこへ人が駆け付けて来たので、古川達は、鞄を奪えないまま逃亡せざるを得なかったが、目的のためとは言え、人を殺めてしまった事に対し、古川は自分を責め始める。

そんな中、甘粕大尉には、懲役10年と言う軽い刑が下される。

東京に戻った古川は、遺骨が戻って来た大杉栄の告別式に出席するが、そこに九州からやって来たと言う見知らぬ男が家に上がり込むと、突然、大杉の遺骨を掴んで逃亡を計ろうとする。

拳銃を抜き出したその男は、出席者達に対し、国賊の葬式なんかさせてたまるかと言いながら、逃げようとする。

その面前に対峙した古川は、撃てるものなら撃ってみろと男に迫るが、男は、大杉の遺影に向かって発砲すると、高笑いを残して逃げ去ってしまう。

右翼の嫌がらせであった。

遺骨が戻らぬまま執り行われる事になった大杉家の追悼集会では、弁士が、権力の横暴を出席者達に演説しはじめるが、臨席していた警察が、弁士中止を言い出す。

出席していた労働者達は、一斉に労働歌を歌いはじめるが、そこに古川が遺骨が見つかったと知らせに来る。

しかし、張り込んでいた刑事達に、大阪での銀行員殺害犯人として捕まりそうになり、古川をかばって逃がした和久田が捕まってしまう。

和久田は、警察によって徹底的に拷問を受け、古川と仲間の居場所を言うよう責められるが、最後まで耐えてみせる。

古川は変装して、キャバレーに現れる。

そこで、仲間の青地啓司(宮浩二)が連れて来た朝鮮人金を紹介される。

金は古川に、依頼されていた拳銃と手製の缶詰め爆弾をその場で手渡す。

古川は早速、その缶詰め爆弾の威力を試すため、無人の交番に爆弾を投げ付け、破壊するのだった。

その後、村上が用意した隠れ家に居着いた古川は、隣室で金が缶詰め爆弾を作る中、次なるターゲットを青地と相談しあう。

最初は、憲兵司令官の小泉少将(松下猛夫)をと言う話をしていたが、さらにもっと上の福田大将(山口多賀志)をやるべきだと言う結論に達する。

会議に車で出かける福田大将を狙おうと、福田邸の近くで待ち構えていた青地と村上だったが、突然、予定されていた会議が1時間遅れると言う知らせが届いたため、車に乗りかけていた福田大将は自宅に戻り、トランクに爆弾を詰めて待ち受け定た青地は、警官に不振尋問され、その際、抵抗してトランクを落としてしまったため、捕まってしまう。

キャバレーに潜んでいた古川は、刑事らしき二人組が店に捜査しに来たのを発見すると、馴染みの女給の機転で、マスクを付けたバイオリン弾きに化け、何とかその場を逃れる事に成功する。

古川はその後、その女給の部屋に一晩泊めてもらう事にするが、女は古川が好きだと告白すると、身体を任せるのだった。

翌朝、女の部屋で目覚めた古川は、その部屋に飾ってあった写真を見て驚愕する。

そこに写っていた中年男性は、自分が大阪で殺害した銀行員だったからである。

女給が、それは自分の父親で、大阪で殺されたのだと打ち明けると、いたたまれなくなった古川は、女に無理矢理金を渡し、逃げるように立ち去るのだった。

海岸で、物思いに耽っていた古川の元に姿を見せたのは、意外な事に高松と妹の京子だった。

近くの別荘に、京子の友だちがいたので、訪ねた帰りなのだと言う。

高松は、大阪の事件の事を知っており、古川に自首するようすすめる。

しかし、自分は軍閥を倒すため戦っており、死刑になるのは覚悟していると自嘲する古川の態度に怒った高松は、何が主義だ!と殴りつける。

京子は、立ち去ろうとする古川に近付くと、自分も決意した。もうどけへでも連れて行ってくれと頼むが、自分はあなたを幸せにする事等できない。お幸せにとの言葉を残し、古川は消えて行くのだった。

アジトに戻った古川を待っていたのは、拷問に耐え、帰って来た和久田だった。

和久田は、自分も今後は官憲と戦う事にしたと、古川と村上源太郎(杉山弘太郎)に用意した拳銃を見せながら決意を見せる。

震災一周年の記念式典に出席する事が分かった福田大将を襲撃するため、群集にまぎれて待ち構えていた和久田は、到着した車を降り、会場に入ろうとする福田大将の背後に駆け寄ると、持っていた拳銃を発射するが、その弾は不発に終わり、その場で逮捕されてしまう。

アジトに逃げ戻った村上は、ある日、陸軍省内部の地図を入手して来る。

その二階の会議室に、小泉少将、福田大将らが一同に介す会議が開かれる事が分かっていたからだ。

その会議室に爆弾を仕掛けて、全員殺害しようと古川は喜ぶが、そこに又、突然、高松がやって来たので、慌てた古川は、地図を服にしまい応対する。

高松は、荒川土手で起こった軍部の大虐殺に対抗すると称して、テロで世間の不安をあおってどうなる?お前も良心があるのなら自首しろと強く勧めて来るが、古川は断固として拒絶し、今度こそ本当のお別れですと、高松を追い返すのだった。

自宅に戻った高松は、京子に、もう古川の事は忘れろと助言するが、古川が殺人を犯している事を知らない京子は、何とか古川を助けてと兄に頼む。

兄からバカな事を考えるなと諭された京子だったが、何とか、古川を立ち直らせようと、アジトの場所を警察に知らせに行く。

警察は、アジトを急襲するが、すでに、古川と村上の姿はなかった。

ただ、床の落ちていた紙片に気付いた刑事が、それを拾って確認すると、それは陸軍省の地図の一部だった。

古川が服にしまう時、落としていたものだった。

その頃、陸軍省の裏門にやって来た、電気工に化けた古川と村上が、電話の修理に来たと見張りに偽り、まんまと内部に入り込む事に成功していた。

難無く、二階に会議室に潜入した二人は、爆弾を仕掛ける場所として暖炉の横の通気坑辺りを物色していたが、その時人の気配がしたので、慌ててテーブルの下に身を隠す。

部屋に入って来た二人の軍人が、テーブルに書類を並べはじめた時、突然非常ベルが鳴り出す。

不振人物が潜入した形跡があるので、警戒を厳重にせよと言う知らせだった。

まさか、自分達の事がばれたとは気付かない古川と村上だったが、取りあえず、異変を察知したので、急いで机の下に爆弾を仕掛ける事にする。

導火線を伸ばし、通気坑に二人が身を潜めた二人は、やがて部屋に入って来た小泉少将や福田大将の姿を目撃し、スイッチに手を伸ばしかけるが、そこに知らせがやって来て、会議の延期を通達する。

さらに床に這っていた導火線に躓いた軍人が、通気坑に潜んでいた二人を発見。

村上は慌ててスイッチを入れるが、点火は失敗する。

二人は通気坑のはしごを降りて逃げようとするが、上から拳銃を突き付けられていてはもはや逃げられぬと覚悟し、会議室に戻って来る。

しかし、二人とも、服に忍ばせていた缶詰め爆弾を取り出すと、それで軍人達を威嚇しながら、建物を抜け出す。

しかし、すでに、警戒厳重になっていた省内から逃げだせようはずもなく、二人はとうとう逮捕されてしまう。

護送車に乗せられる古川の姿を目撃したのは、取材に来ていた高松だった。

古川は、車に乗せられる時こう叫ぶ。

「亀戸、荒川で朝鮮人たちを虐殺した奴が処刑されないのは何故だ?自分が死んでも、必ず、次の自分が現れる!」と…

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

関東大震災の後、起きたとされる朝鮮人や社会主義者たちの大量虐殺事件と、大杉栄らが殺害された「甘粕事件」を中心に描いた作品。

当時の新東宝にしては珍しく、かなり真面目な社会派作品風に作られている。

タイトルや凄惨な虐殺シーンには、大衆の好奇心に訴えかける、多分に「扇情的な」動機があったのかも知れないが、冒頭の関東大震災のシーンなどは、ミニチュア特撮とオープンセットを巧みに使い、浅草十二階(凌雲閣)の崩壊も描かれているのが興味深い。

日本の黒歴史とでも言うべき内容なので、観ていて決して愉快ではないが、こういう闇に葬られそうな題材を、どこまで史実に忠実かは知らないが、一応それなりに撮っていた映画があったと言う事を知っただけでも貴重だと思う。

テロの道に走り、やがて自滅して行く青年を演じている、若き天知茂の熱演も印象的である。