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天晴れ一番手柄
青春銭形平次

1953年、東宝、野村胡堂原案、和戸夏十脚本、市川崑脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

(現在)いきなり、大都会を疾走する車と追い掛ける車の追跡劇。

追われていた車がハンドルを切り損ねて、店のドアに突っ込む。

新聞に「銀行ギャング」の文字が踊る!

おっと失礼!(…とナレーション)

これは昭和28年の出来事。

天保年間の江戸はどうしたかな?

駕篭が走っています。

(江戸時代)横山町薬問屋の前

駕篭屋が走っていると、道のまん中にネコの死骸が転がっていたので、驚いた駕篭屋は驚いてターンしようとして人にぶつかり、その人が、さらに次の人にぶつかり…

ちょうど薬問屋のしっくい塗りを頼まれていた八五郎(伊藤雄之助)は、乗っていたはしごに人がぶつかったため、よろけて、持っていた樽の中のしっくいを下にいた客の娘に浴びせかけ、泣かれてしまう。

慌てて、はしごを降り、泣きじゃくる娘に謝っていた時、その騒ぎで顔を出したのが、店の中に隠れていた御金蔵やぶりの下手人。

すぐに、店の中に捕り手がなだれ込んで来て、その下手人を捕らえてしまう。

先頭を切って捕り物に加わり、その場で得意げに名乗りを上げたのは、最近売り出し中の三輪の万七(柳谷寛)だった。

すぐにその事を知らせようと、八五郎は平次の家である「飴屋」に駆け付け、平次さん!と呼び掛けるが、中はもぬけの殻。留守らしい。

その平次(大谷友右衛門)は、近所のとうふ屋の娘おしず(杉葉子)に、今朝買ったとうふが小さいと文句を言っていた。

気の強いおしずも黙っていず、最近原料の大豆が高騰して来たので、仕方がない。むしろ、あんたの所の飴が五つで一文と言う方がよっぽど高いじゃないかと言い返す。

しかし、平次が、どうしても、自分が買ったとうふだけが小さいとしつこいので、奥に座っていたおやじが差し出した物差を受け取ったおしずは、他のとうふと平次が持って来たとうふを並べて、物差で計りはじめる。

ちょうどそこへ八五郎がやって来て、やっぱりここだったかと安心する。

結局、計った結果、ちょっぴり大きかったとうふをせしめた平次が、八五郎と一緒に帰りかけると、おしずは思わず「けちんぼ!」と怒鳴る。

しかし、それを聞いた平次は「おれはけちじゃない!几帳面なだけだ」と言い返して帰る。

家に帰って来た平次は、好物のとうふをおかずに飯を食おうとするが、八五郎が平次さんと呼び掛けるのが気に食わないらしい。

仕方なく、八五郎が「親分」と持ち上げると急に機嫌が良くなる。

そこへ、おしずが勝手に上がり込んで来て、一月前、十手を預かったばかりの癖に、死んだおばあちゃんに笑われるわと茶化しながら、平次が食べかけていたとうふを取り上げると、油揚と一緒に煮てあげると言いながら、返事も待たずに竈で料理を始める。

そうしたおしずの一方的な態度に切れた平次は、ご飯に塩をかけて、かっこみはじめる。

そうした二人のやり取りを呆れて見ていた八五郎だったが、やっぱり伝える事だけは伝えないとと、横山町の薬問屋で…と先ほどの事を話しはじめようとするが、そこへ表から客が来た声。

急に愛想よくなった平次は、飯を置くと、店に出て、汚い顔の子供に愛想を振りまき、飴を売って、一文銭をざるに入れる。

おしずが「煮えたわよ」と鍋を差し出してみせるが、おれが頼んだんじゃないから、とうふ代は後で八五郎に返してくれと、あくまでも平次は冷たい返事をする。

さすがに怒ったおしずが帰った後、八五郎は改めて、今日あった出来事を話しはじめる。

すると、平次、今始めて、事の重大さに気付いたとばかり、八五郎に出かけるぞと言い出す。

平次が着物を着替えている間、神棚のロウソクに火をともそうとした八五郎、棚の上にあったライターを手にするが、ちょっと迷った末に、火打石を使って火をともす。

平次と一緒に表に駆け出した八五郎、行く先を尋ねると、御金蔵やぶりがいると言う横山町の薬問屋に決まっているだろうと平次は走りながら答える。

呆れた八五郎、その事件は、もう三輪の万七の手によって解決したと説明する。

その頃、髪結いに集まった女達は、最近、江戸に出回っていると言う偽小判の噂で持ち切りだった。

居酒屋で働いているお駒(木匠マユリ)は、偽者も何も、小判そのものを見た事がないと妙な自慢すると、商人の娘お花(島秋子)が、家では三枚も混じっていたと自慢する。

髪結いの女主人(三條利喜江)が、こんな時、平太郎親分が生きていたら…と言うと、それを聞いたお駒は、息子の平次さんも立派な岡っ引きになるわと言い出す。

10才の時に、父親平太郎と死に別れ、3才の時に母親に死なれた…と、妙に平次情報に詳しい。

他の娘達も、平次さんってきれいだからね〜…とうっとりし始めたのを聞いていたおしずは、岡っ引きなんかになれるもんですか、私、大っきらい!と一人反論する。

そこへ、店の前を平次が通りかかったと言うので、店の中にいた娘達が一斉に窓際に寄ったので、店が斜に傾いてしまう。

店の前を歩いていたのは、飴の仕入れから帰って来た、どう見ても岡っ引きには見えない情けない平次だった。

その前に立ちふさがったのが三輪の万七、今回の手柄で、与力から褒美をもらったと威張り、飴屋丸出しの平次の事をバカにして通り過ぎる。

平次は、路地に駆け込むと、あまりのみじめさに泣き出すのだった。

家に帰って来た平次は、風呂の中で、八五郎にテキパキ指図をするまねをしてみたり、座敷きの中で十手を振り回し捕り物をするマネをしてみる。

そこへ、いつものように子供が飴を買いにくるが、今忙しいから後でと、追い返してしまう。

捕り物ごっこに夢中になった平次は、店の方まで後ずさった時、ふと手にしたざるの中の一文銭を見ると、何かが閃いたかのように、その一文銭を掴むと、座敷きの障子めがけて投げはじめる。

全部投げ終わった時、ふと我に帰った平次は、裏庭に落ちた一文銭を拾いに行く。

縁の下の一文銭を取ろうと苦労している時、誰かが訪ねてくる。

客だと思い、今忙しいからと断ろうとすると、笹野新三郎の使いで来たと言う。

慌てて飛び出した平次、ただの使いである人夫風情の男に、平身低頭礼を言う。

八五郎を呼びに、住まいである「産婆 とめ」の家に行ってみた平次だったが、出て来た八五郎の叔母とめ(三好栄子)はネコを抱きながら、今、八五郎は出かけていていないと言う。

その後、ヨイトマケをやっていた八五郎を見つけた平次は、すぐに笹野の家に駆け付けると、何なりと御用を御言い付け下さいと張り切る。

しかし、笹野新三郎(伊豆肇)が平次を呼んだのは、事件の話ではなく、奥方であるお年(塩沢登代路)の畳上げの手伝いをする事だったとしりがっかりする。

金になる日雇いを中断させられた八五郎はぶつぶつ言い出す始末。

それでも、笹野は、南町奉行からこれまで手伝ってくれた事に対するわずかばかりの礼金が出たから、受取書に「サイン」しろと平次に差し出したので、平次は有り難く押し頂く事にする。

笹野は、今後も捜査に使った金は必要経費としてちゃんと出すから、遠慮せずに申告しろと言ってくれる。

翌日、今度は、酒屋虎屋の酒樽運びの手伝いをしていた八五郎、背負った樽の中から飛び出した手が、自分の顔を触っている事に気付き、思わず樽を放り出すと、中から首を斬られた男の死体が転がり出てくる。

現場にはすぐに野次馬が集まり、捜査を始めた岡っ引きたちを見て興奮しはじめる。

黒門町の伝七がいる。人形町の佐七もいる。そしてその横には若様侍(小林桂樹)までいるではないか。

そんな話に割り込もうと、平次と万七が自分の名前を言ってみるが、野次馬達は、そんな名前は聞いた事がないと相手にしない。

事情聴取を終えた八五郎が腰を抜かしている前で、死体を乗せた戸板が運び出されて行く。

その時、八五郎の前に、戸板の乗せられた死体の懐から一枚の小判が転がり落ちる。

捜査陣が誰もいなくなった事に気付いた八五郎は、とっさにその小判を拾うと、懐に入れてしまう。
江戸中の名物探偵が総集合する。

その夜、八五郎相手に平次は、おれなんて、いつになったら一流になれるんだろうとぼやいていた。

三輪の万七が、お前の事も、良い子分をお持ちですねなどと皮肉っていたぞと言うのを聞いた八五郎は、怒って仕返しに行こうとするが、おばあちゃんから暴力は振るうなと言われたと、平次は必死に止める。

そんな平次に、八五郎は、叔母からもらったと言いながら、拾った小判を出してみせ、酒を飲みに行きましょうと誘う。

喜んだ平次は、八五郎と共に、馴染みのお駒が働く居酒屋に出かける。

お駒は、八五郎が小判を出すと驚いて感激し、店に主人に見せに行く。

すると、その側にいた老人客が、ちょっとそれを見せてくれと言い、何か音のする入れ物はないかと言い出す。

お駒が、金盥を持ってくると、老人は自分の懐から本物の小判を取り出し、その中に落としてみせる。

続いて、今、お駒から預かった小判を同じように金盥の中に落とすと、明らかに落ちた音が違う。

つまり、この小判は偽物だと老人が言うのを聞いた八五郎と平次は、バツが悪くなり店を出ようとする。

しかし、お駒の方は、一度偽小判と言うものを見てみたかったと喜んでいる。

ちょうどそこにやって来たのがおしずで、平次の顔を見ると喜びながらも、八五郎に、大量にとうふの注文が入ったので、今夜は豆挽きの手伝いをして欲しいと頼む。

しかし、お駒はおしずに因縁をつけはじめる。

嫌いだなどと言っていた癖に、今の顔は好きだと言っているようなものじゃないかと言うのである。

すると、好きで何が悪いとおしずも逆切れし、二人の娘は店の中で、丁々発止の言い合いを始めるが、気がつくと、平次も八五郎の姿もなかった。

二人はとっくに、店の外に逃げ出していたのだ。

暗闇の中、小判を事件現場から拾って来たと何故言わなかったと八五郎を叱りつけていた平次は、急にその虎屋が臭えと言いながら、怖がる八五郎を無理矢理連れて事件現場に戻る事にする。

樽が積んでいる場所で様子を伺っていると、案の定、覆面姿の一団が近付いて来て、樽wp動かすと、その後ろに隠れていた平次と八五郎に気がつく。

しかし、平次は十手を持っていなかったので、刀を抜かれると対応しようがない。

とっさに持っていた一文銭を投げて、敵に当てる平次の手のひらには、今投げた一文銭が戻って来ていた。

ちゃっかり、ゴムが結んであったのだ。

それを見ていた八五郎もおもしろがって、自分にも一つ貸してくれと言う。

しかし、八五郎が投げた一文銭は、ゴムが切れて帰ってこない。

平次から拾ってこいと叱られた八五郎は、仕方がないので、刀を持った賊達の直中に入り込み、落ちていた小銭をちゃっかり拾うのだった。

呆れた賊達がその場を立ち去ったので、平次は、連中が手に取った樽を開けてみろと八五郎に命ずる。

八五郎が、ふたを開けて樽を傾けると、中からこぼれ出たのは、大量の小判だった。

調べてみると、三つの樽の中に小判が入っており、それらは全て偽物だった。

調子に乗った八五郎、もう一つ開けてみようと、ひっくり返した樽には本物の酒が入っていた。

佐々木新三郎を通じ、この事を知らされた南町奉行大久保石見守(山形勲)の座敷に、偽小判がつまった樽が三つ積まれていた。

江戸城に出向いた大久保石見守は、吉良上野守が冠った烏帽子が飾られた松の廊下を歩いて、老中達に報告するが、ふだん金を使う習慣がない老中達には、あまり偽小判事件は関心がなさそうだった。

笹野新三郎は、事件を奉行に報告してから十日間も梨の礫状態である事に苛立っていた。

このままでは、下手人達に逃げられる恐れがあったからだ。

毎日、笹野邸の庭で待ちぼうけを食わされていた平次と八五郎はもっと苛立っていた。

そこへようやく、奉行から達しが届く。

虎屋に運ばれた酒樽は、川向こうの丁字屋から三十樽あったと言う事であった。

さっそく虎屋に出向いた笹野は、そこの主人や番頭(津田光男)、奉行人達全員から事情を聞く事にするが、誰も何も知らないと言う。

それではと、笹野は、川向こうの丁字屋での調べを平次に頼む。

丁字屋で、先程、笹野が取り調べていたのと全く同じような尋問を、そっくりまねて平次と三輪の万七が聞くが、主人(勝本圭一郎)や九六と言う番頭(恩田清二郎)はじめ、こちらの関係者たちも誰一人心当たりがないと言う。

虎屋に運ぶ酒樽は、朝、岸に並べていただけだと言うので、平次は、三つの酒樽が偽小判の樽の代わり、一つの樽に死体が入っていた謎を考えはじめる。

そんな平次の様子をあざ笑っていた万七に、手代の鳥吉(山本廉)なる男が手招きし、三日前の深夜、店の周囲をうろつく怪しい人陰があったとこっそり打ち明け、万七の名前も良く知っていると喜ばせるのだった。

そこへ、酒が入ったままの本物の酒樽が四つ、蔵の中で見つかったと知らせが来る。

一つの巨大酒樽にはしごをかけ、中を覗いてみた平次は、その底に、四つの酒樽が隠されているのを見つける。

その報告を受けた笹野は、奉行の大久保に事件の概要を説明し、死んでいた男の正体は、以前、大阪の勘定奉行所に出入りしていた細工師の金兵衛だと判明したと教える。

大久保は、座敷の中に置いていた三つの樽を示しながら、この出所を調べろと命じる。

しかし、当時の江戸には、造り酒屋をはじめ、問屋、小売店、居酒屋など膨大にあり、これに樽屋や材木消磨で含めるととんでもない数があった。

平次は、捜査陣の中でも人一倍働いたが、そのせいで、足に豆をこしらえ寝込んでしまう事になる。

おしずが、その看病をしている時、お駒が訪ねて来て平次さんはいるかと言うので、今寝込んでいるとおしずが教えると、それは大変と、勝手に上がり込み、自分も看病しようとし始める。

二人がまた、寝込んでいる平次を巡って口げんかを始めると、奥にいたお花が、かいがいしく、平次の足に薬を塗って包帯を巻いて行く。

その姿を唖然としながら見つめるおしずとお駒。

平次の実際的な看病をしていたのは、このお花だったのだが、そのお高くとまった態度を嫌っていたお駒は、平次さんをあんたに取られるくらいなら、おしずさんに取られた方がましと言い出し、聞いたおしずを喜ばせる。

しかし、お駒は単なる比較だから勘違いしないでと、にやつくおしずに釘を刺す事を忘れなかった。

寝込んだ平次をまん中に、娘三人がにらみあいを続けていた所へ、八五郎を知らないかととめがやってくる。

神田橋の所で、馬みたいな顔をして走っている所を見かけたと娘達が噂していると、当の八五郎がやって来て、事件前、丁字屋には樽が四つ足りなかったと分かったと、平次に報告する。

すると、寝込んでいた平次はムックリ起き上がり、娘達を置き去りにして、八五郎と共に外に出かけて行く。

残されたとめと娘達は、そんな二人をぽかんと見送るだけ。

その頃笹野は、丁字屋が新たな酒樽を四つ注文したのは事件の前と知り、事件を手引きした奴が内部にいるに違いないので、これから全員の荷物を調べると丁字屋の勤め人達全員に伝えていた。

すると、やにわに立ち上がった鳥吉がその場から逃げ出したので、万七、平次、八五郎らはその後を追う。

しかし、足に豆をこしらえて包帯を巻いている平次は思うように走れない。

小判を落としながら、逃げていた鳥吉は川っぷちで、平次と万七、八五郎らに挟まれてしまった事を悟り、川の中に飛び込んで逃げる。

後日、勘定奉行の九鬼隼人正(石黒達也)の屋敷には、北町と南町の両奉行からの使いが連日訪れていたが、九鬼は不快だと言うばかりで、昼から酒浸りの状態で、誰にも会おうとしなかった。

その頃、番所には町人達が詰め掛け、偽小判の見分け方を聞くし、商売人達も偽小判騒動で互いに疑心暗鬼になり、あちこちで小競り合いが起こっていた。

呼び出しに応じようとしない九鬼の態度に苛立った大久保は、龍之口評定所で緊急評定を開催する。

しかし、その日出席した北町奉行は、今は控えた方が良くはないかと諌める。

そこへ、当の勘定奉行、九鬼隼人正がやって来る。

何か、今回の偽小判事件に手当てはないかと全員が尋ねる中、一つの案があると言い出した九鬼は、今使っている小判を全て使用不能にし、小判の形を変えたらどうだろうと老中達に申し出る。

それを聞いた水野越前守(小川虎之助)は、早速実行する事にする。

かくて、小判は正方形に変わった。

ところが、それが出回りはじめてすぐ、同じような正方形の偽小判が出始める。

それではと、今度は三角にしてみる。

すると、又しても、同じ形の偽小判が出回り、続いて梅形…と、偽小判作りとのいたちごっこになってしまう。

江戸中は死んだようになってしまう。

子供達は、星形だの、蛇形などの小判を模した木型をおもちゃにして遊ぶようになる。

度重なる失態を恥じた九鬼は、辞職願いを提出したが、取り上げられないと悔やんでいたが、御用人の雨森一平(見明凡太郎)がそんな主人を慰めていた。

雨森が、偽小判作り一人捕まえられないような町奉行所めらが…と憤ると、それを聞いていた九鬼は、突如高笑いし出す。

その頃、八五郎と共に、夜の町を見回りながら歩いていた平次は、極秘であるはずの新しい小判の形が、すぐに偽小判作り達に知れてしまうのはおかしいと頭をひねっていた。

八五郎は、偽小判と言ったって、困るのは金持ちばかりで、貧乏人にとっては役に立っているのではないか、例えば、金がなかった病人が偽小判のおかげで医者に見てもらえたり、親分だって、今度の事件を解決すれば褒美がもらえるが、それだって偽小判のおかげじゃないのかと言い出す。

すると、どこからともなく「そんな事はない」と女の声がする。

驚いた平次と八五郎が声の主を探していると、柳の木の下に浮かんだ女の幽霊(和田道子)を発見し、夢中で逃げ出す。

さらに路地でうずくまっている影を見つけたのでさらにおびえた二人だったが、その影は、泣いている老人だと知れる。

近付いて訳を聞くと、娘が舌を噛み切って死んだのだと言う。

上がり込んで、ふとんに寝かされていたその娘の顔を確認した平次と八五郎は、それがさっき見た幽霊と同じ娘だと知り、気絶しそうになる。

泣いていた父親の話によると、娘は、両国の水茶屋で働いていたが、ある日客から渡された小判のおつりを大量に渡した後で、それが偽物だった事が分かり、娘一人が悪人扱いされた挙げ句、店も潰れてしまったのだと言う。

親分さん、こんな憎い犯人を捕まえておくんなさい。そうじゃないと、娘が浮かばれませんと言う父親の言葉を聞いた平次の顔は一気に真剣になる。

翌日、町を歩いていた八五郎は、一人の物乞いに呼び止められる。

八五郎が、嫌々小銭を恵んでやると、急にため口を聞き出したその物乞いは、平次の変装だった事が分かる。

お前も変装しろと言われた八五郎は、さすがに拒否しようとするが、結局、平次と一緒に、物乞いのまねを始める。

こうしていれば、そのうち誰かが偽小判を使うに違いないと平次は読んでいたが、いくら待っても、小判を使うような客はいず、腹を空かせた二人は、仕方なく、一旦家に戻って飯を食べる事にする。

平次の家にやって来たおしずは、戸があいている事に気付き、怪しみながら中に入ると、見なれぬ物乞いが二人、勝手に飯を食べているではないか。

怒ったおしずは箒を取ると、ここは今に立派な親分になる平次さんの家だ!出て行け泥棒!と言いながら、二人をたたき出してしまう。

路上にたたき出され、その晩泊まる所がなくなった二人は、野宿でもするしかないかと途方に暮れていたが、そんな二人に声をかけて来た老人がいた。

小判しかないのでつりはあるかと聞くので、20文ならあると答えると、それで良いと言う。

交換し、小判を受け取った平次は、それを近くの置石の上に落とし偽小判と知ると、八五郎と共に老人に飛びかかって行く。

すると、老人と思ったのはカツラで、その下から現れた顔は、以前逃げられた鳥吉だった。

鳥吉は、丁字屋の蔵に逃げ込む。

大きな酒樽の間を追い掛けあう平次、八五郎と鳥吉。

その内、鳥吉が、樽の上に逃げようとはしごをかけたのに躓いた八五郎、一旦そのはしごを退かして、又追い掛けはじめる。

その後、再びはしごを立て掛けた鳥吉は、酒樽の上に登って行く。

そこへ今度は、平次がはしごに躓いたので、はしごの上にいた鳥吉は、反動で酒の中に落ちてしまう。

そんな事は知らない八五郎、樽の下にひもを張って、犯人を引っ掛けようと待ち受けるが、転んだのは平次だった。

その頃、酒の中を泳いでいた鳥吉は、すっかり泥酔していた。

お白州に連れてこられた鳥吉はまだ酔っており、偽金作りの仲間は15人で、全員前科者である事、アジトは仕事の度に変える事など、洗いざらい喋ってしまうが、大親分の顔は知っているが名前は知らないと言う。

大久保は笹野を呼び出すと、実は、以前、大阪の勘定奉行だったのは、九鬼隼人正 だッたのだと打ち明け、勘定奉行所に鳥吉を直接連れて行き、面通しをさせろと命じる。

その夜も、覆面姿の偽金作りの一味は、偽小判を棺桶の中に積め、運搬していた。

勘定奉行所に鳥吉を連れて行った笹野だったが、九鬼はなかなか出てこようとしなかった。

苛立って、奥へ様子を見に行こうと、笹野が席を立ったその時、座らせていた鳥吉の旨に小づかが刺さり、一命を落としている事に気付く。

そこへ、ようやく九鬼が姿を見せる。

平次とおしずは、自宅で二人きりだった。

外は嵐だったが、二人は「良い天気だ、静かだ」と浮き世離れした会話を続けている。

平次は思いきって、もし自分が将来偉い岡っ引きになれず、一生、飴屋のままでも良いかと聞く。

おしずは意外そうな顔をし、平次さんは女嫌いだとばかり思っていたと答える。

それはおばあちゃんからの言い付けで、女とつきあうとお金がかかるからだと教えられていたせいだと、平次が答えると、私は倹約家よとおしずは嬉しそう。

平次は、おしずちゃんが、あんなに自分の事を買ってくれているとは知らなかったよと、箒でたたき出された時の事を思い出しながら言うが、あの時の泥棒が平次の変装とは気付いていないおしずはきょとんとする。

やがて雨も上がり、照れ隠しにタバコ盆に近付いた平次は、紙巻たばこを手に取り、間違いだと気付くと、キセルに持ち変え口にするが、むせてしまうだけだった。

そんな平次におしずは、今投げている一文銭にはゴムがついているそうだけど、大親分になったら、ゴムも取ってよと頼む。

そこへ八五郎がネコを抱いてやって来て、九鬼が捕まったそうだが本当かと聞いて来る。

御褒美も何もなかったな〜…などと話していると、そんな八五郎の手からネコのミー公が逃げ出してしまう。

さらに、そのミー公が、店のざるの中の小銭をくわえて外に飛び出してしまったので、慌ててその後を追う八五郎と平次。

ミー公は、とある長家の中には入り込むと、小銭の代わりに、小判をくわえて家の前に落とす。

ちょうどそこに追い付いた平次と八五郎は、落ちている小判を見て、この家の中からミー公が盗んだに違いないので謝ろうと、中に入ると、そこには棺桶に偽小判をつめている最中の一味が揃っていた。

その中にいた雨森一平は、自ら名乗りを上げて、よくここを見破ったなと感心するが、平次と八五郎には、その場にいても今一つピンと来ていなかった。

しかし、賊が刀を抜いて追って来たので、慌てて逃げ出す二人。

途中で、奉行所に知らせに行けと八五郎に命じた平次は、一人追っ手に追われながら寺の中に逃げ込む。

夏の最中だっただけに、追われる方も追う方も、もうヘトヘトの状態だった。

八五郎から知らせを受けた南町奉行所から捕り手が大勢走り出す。

その頃、平次は、完全に賊の一味に追い詰められていた。

ようやくそこへ捕り手達が駆け付け、寺の中では大立ち回りが始まる。

敵が手強い事を悟った笹野は、急いで近所から、荷車とはしごを調達して来るよう部下達に命ずる。

ただし、荷車一台につき六文、はしごは一つ二文しか出さんぞと釘を刺すのも忘れなかった。

やがて到着した荷車やはしごを使って、賊達を追い詰めようとするが、敵の反撃も凄まじく、捕り手達が次々に斬られて行く。

木の上に逃げていた平次は小銭を投げようとするが、焦っ、懐の小銭を下に全部こぼしてしまったので、慌てて拾いに降りる始末。

そこに雨森が迫って来たので、逃げ出す平次。

八五郎はと言えば、寺の外でのんきにたばこなどくゆらせていたが、気がつくと、平次、それを追う賊と捕り手達が全員、外に飛び出して来たので、慌てて自分も逃げ出す。

その先頭を逃げていた平次は、南町奉行所の門の中に逃げ込むが、賊の一味はそんな事はお構いなしに追って来る。

奉行所の座敷内では、大久保が九鬼に、冤罪で捕まえてしまった事を謝罪していたが、その座敷にも賊と捕り手達がなだれ込んで来る。

結局、牢屋に逃げ込んだ平次だったが、賊の一味もその中になだれ込んでしまう。

笹野が扉を閉めようとすると、後からやって来た八五郎が自分も中に入れてくれと言うので入れてやり、鍵を閉めようとするが、その鍵が壊れている事に気付き、笹野はとっさの判断で、持っていた十手で扉に閂をかける。

お白州に引き出された雨森は、偽金で困るのは金持ちだけ。貧乏人の中には、娘を身請けして助かったものもいるだろうとうそぶき出す。

しかし、迷惑をかけた九鬼様には申し訳なかったと塩らしい事を言うので、牢に連れ戻す時、さっきの自白には感心したと役人が誉めると、あれは全部嘘だと言う雨森は、役人の耳に口を近付けると、誰でもお金は欲しいでしょう?と言い、役人に呆れられるのだった。

事件解決への褒美として、平次は浴衣一単をもらった。

おしずがそれで浴衣を縫ってやり、今頃二人は夏祭りに出かけている事でしょう…とナレーションが呟く。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

市川崑監督、二十作目にして初めての時代劇だったらしい。

しかし、その内容は、才気に満ちあふれた傑作コメディになっている。

有名な銭形平次最初の事件とも言う形を取っており、お馴染みのメンバーの若い頃がユーモラスに描かれている。

通常、この手の時代劇コメディは、コメディアンが主役になって作られるのが普通だが、ここでは既存の喜劇役者は一人も出ていないところがすごい。

脚本と演出だけで笑わせているのだ。

出演メンバーの中では、伊藤雄之助と柳谷寛、塩沢登代路らが、時折ユーモラスなキャラを演じるくらいで、他は「青い山脈」の杉葉子や伊豆肇、山形勲、山本廉など、普段、どちらかと言えばシリアスな演技をやるイメージが強い役者達ばかりである。

それらが全員、真面目にコメディを演じているのだから面白くないはずはない。

平次が、最初から最後まで、徹底したダメ人間として描かれているのも凄い。

普通は、最後の見せ場では、キリッとしたヒーローに変身したりするものだが、ここでは一切そう言う事もなく、最後までドタバタとして徹底している所が潔い。

劇中に登場する巨大な酒樽が並んでいるシーンが、後年の「悪魔の手鞠唄」の有名なシーンを連想させたりする所も興味深い。

コメディの中には、時代と共に風化してしまう類いの物も多いが、この作品は今見ても笑える。

ナンセンスさが徹底しているからだろう。

恋する娘同士の口げんかの様なども、普遍的なものだけに、今観ても愛らしくかつ面白い。

おこもさんに扮した平次を見て、その役者振りを誉める八五郎が、さすが育ちが違うね〜などと梨園育ちの大谷友右衛門(現:4代目中村雀右衛門 )をからかう「楽屋落ち」も楽しい。

若き時代の市川崑監督が、コメディ映画を撮らせても一流だった事を思い知らされる一本である。