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あの手この手

1952年、大映京都、京都伸夫「アコの贈物」原作、和田夏十脚本、市川崑脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

present from ako

大阪。

書斎で、机の上に足を伸ばした姿勢のまま、うたた寝から目覚めた鳥羽(森雅之)は、お手伝いの鈴江(津村悠子)から、不経済だから部屋で寝てくれと文句を言われ、明日の朝食はご飯と味噌汁にしてくれないかと頼むが、奥様はパンですと言われると、じゃあ、自分もそれで良いと妥協し寝室に向かうが、妻の近子(水戸光子)は、もうとっくに就寝していた。

翌朝、10時過ぎに目覚めた鳥羽は、物干竿が腐っているので修理しておいてくれと奥様からの伝言ですと鈴江に言われ、渋々、承知する。

鳥羽はパンが苦手だったので、牛乳とリンゴだけで済ませようとするが、鈴江から、それだけでは栄養が足りませんよと注意される。

その鈴江、PPPグラフのカメラマン天平(掘雄二)から写してもらったと言う自分の写真を嬉しそうに持っている所を見ると、天平にちょっと気があるようだ。

朝食後、鳥羽が物干竿の修理をしている所にやって来たのが、往診から帰る途中の産婦人科医野呂(伊藤雄之助)と天平。

鳥羽は、野呂から頼まれていた「ホルモン移植」に関する翻訳が出来ていると伝え、二人を書斎に招き入れる。

天平が来たのが嬉しいらしく、鈴江はかいがいしくサンドウィッチを作って持って来る。

その天平は、社用で今度2週間ばかり東京に行くと言う。

そこに玄関ブザーがなり、やって来たのは文芸社の編集者宮本(旗孝思)。

鳥羽は、書きかけていた原稿を素早くその場で仕上げると、宮本に渡す。

そこに紅茶を運んで来た鈴江が、迷わずカップを若い編集者宮本と天平に渡した所を見ると、彼女は若い男性なら誰でも良いようだ。

その夜、又しても書斎でうたた寝をしていた鳥羽は、あれこれ外で仕事をして帰って来た妻近子から起こされる。

近子も女学校の講師が本業ながら、雑誌の人生相談執筆やら、各種会合への出席等、職業婦人として多望な毎日を送っていたのである。

その夜も遅くまで、人生相談の手紙を読む妻の姿を見て、鳥羽は感心するのだった。

そんな鳥羽は、原稿を依頼される事も多くなったので、そろそろ学校を辞めたいと近子に言う。

鳥羽は現在、大学の助教授で40才、専業作家になりたいと思っていたのだった。

近子は、夫の気持ちは分かるものの、果たして、専業作家として今後夫が成功するかどうか確信が持てなかった。

そんな所に、玄関ブザーが響く。

時間は、早朝の5時前である。

二人は怪しみながら玄関まで降りてくるが、ちょうど起きて来た鈴江とも合流すると、この前、近所の加賀さんの家に入った泥棒も、早朝、郵便配達を装っていたそうだと言う近子の話に緊張する。

そうした中、ブザーは止む事もなく、しつこくくり返される。

やがて、がちゃっとドアが開き、「あら?開いてるわ?ごめん下さい!」と女の声が聞こえたかと思うと、近子の姪に当るアコ(久我美子)が入って来る。

唖然とする鳥羽夫妻の後ろで、鈴江が気絶してしまう。

今年21になったばかりのアコは、実家のある志摩から家出して来たのだと言う。

書斎に落ち着かせ、理由を聞くと、私の心は散り散りになって潰れたの…と言うだけ。

アコは、そんな自分を冷たい目で睨み付けている近子を見て、私が孤児だと思って…と泣き出す。

それを聞いた近子は呆れて叱る。

近子の姉、つまりアコの母親は確かに亡くなったが、父親は今でも元気だからだ。

アコは、養子の父親よりも、おばあちゃんに育てられたおばあちゃん子と言うだけなのだが、気が付くと、目の前のアコは、椅子の上で眠っていた。

朝食の席に現れた鈴江は、まるでターバンのような包帯を頭に巻いている。

気絶した時、階段の角にぶつけた、耳の後ろにたんこぶが出来たので、近子が巻いてやったのだそうだが、その大仰さを見たアコはケラケラと笑い出す。

近子は鳥羽に、アコを志摩まで連れて帰ってくれと頼み、自分は先に出かけて行く。

その近子、電車の中で、向いの席に座っていた野呂夫人(望月優子)に声をかけられる。

おしゃべりな野呂夫人は、最近、政治運動に興味があるらしく、和歌山まで人の応援演説に行って来たのだと長々と喋り出す。

近子は、その野呂夫人がちょっと苦手だった。

人生相談を掲載している新聞社にやって来た近子は、何人もの文化人達が雑談している部屋に通される。

その後、女学校に戻った彼女に、鳥羽から電話が入り、今、アコちゃんを連れて阿倍野にいるのだと言う。

実家に帰りたくないアコは、鳥羽が電話をしている電話ボックスの横から、車に轢かれて死んでやる!と叫ぶと、いきなり道路に飛び出したので、慌てて鳥羽が止めに走る。

アコは、今日の晩までに、島に帰れば良いんでしょう?と、鳥羽に甘えて来る。

仕方がないので、鳥羽は一旦大学に行き授業をやる事にするが、外で待っていると約束したアコが、窓から無邪気に声をかけて来るので、授業を聞いていた若い学生達は、可愛い彼女の事が気にかかって、全員彼女を見つめる始末。

大学を出た鳥羽とアコは、道でばったり天平に出会う。

東京行きは、急に別の人間が行く事になったと言うのだ。

鳥羽は、PPPグラフの二見天平君だとアコに紹介すると、二人を連れて馴染みのバー「エトワール」に出かける。

天平が家出の動機を聞くと、アコは又、私の心は散り散りになって…とくり返し、月が煌々と照るある夜、養殖場の若者と二人でボートに乗っていたら…と、どこまで本当の事なのか、妄想なのか、分からないような説明をする。

アコも、ちょっぴりアルコールが入ったカクテル等を飲んだものだから、その饒舌は留まる所を知らない。

鳥羽は日頃から妻を「奥さん」などと呼んでおり、すっかりイニシアティブを奥さんに取られてしまって、言いなりになっていると言い出したので、こちらも少し酩酊していた事もあり、そんな事はないと反論した鳥羽は、もうアコちゃんは志摩に帰らなくても良いと言い出す。

そこに、知り合いのインテリアデザイナー秋山(三上哲)が顔を見せたので、鳥羽はみんなで家に行こうと誘う。

夜、近子が帰宅すると、書斎に、酔いが冷めた鳥羽、天平、アコ、秋山がしゅんとなって待っていたので驚いてしまう。

黙って、みんなを睨み付けている近子の様子を見て、さすがに気まずく感じた秋山と天平は、すごすごと帰ってしまう。

後に残った鳥羽は、アコが何故まだここにいるのかを説明しようとするが、近子の顔を見ると、もうしどろもどろ。

そこに電報が届き、近子が読んでみると「ゴハイリョ カンシャ アトフミ ハハ(御配慮感謝、後文 母)」と書かれているではないか。

志摩の母親、つまり、アコのおばあちゃんからの電報だった。

もうすっかり、こちらでアコが世話になると思い込んでいるらしい。

鳥羽がそう連絡したらしいと思い込んだ近子は驚くが、連絡したのはアコ自身だと本人が告白したので呆れてしまう。

近子は、そんなアコに、一体何のために大阪に来たのか尋ねると、独立しようと思うと偉そうに言うので、まだまだ男中心社会なのだから、結婚して御主人の世話でもしなさいと忠告する。

それからと言うもの、鳥羽家に住み着く事になったアコのために、鳥羽があれこれ世話を焼くものだから、平穏な生活を望んでいた近子はイライラして来る。

勝手口で鈴江が洗濯屋に、前にも注意したボタンが、又外れかけていると注意をしていると、うるさいわねと文句を言いに来たアコは、勝手口のドアを閉めた途端、ドアのガラス窓を割ってしまい、自分の方が大きな音を立ててしまう。

ある日、近子が心理学者の戸川先生の所へ出かけており、野呂が遊びに来ていたのだが、アコは、鳥羽が作家になりたがっているのに近子が賛成しないのは、自分が大学教授婦人と言われたいが為の虚栄心よなどと言い切る。

野呂は、あまりに自由闊達な発言をするアコを称して「あの手この手のアコちゃんか…」と呟く。

そんな所に、先日一度家に来た秋山が又やって来る。

すると、玄関口に飛んで行ったアコは、自分を外に連れ出してくれと、面喰らう相手も気にせず、いきなり頼むのだった。

野呂が帰ると、アコは鳥羽に、秋山君が大阪見物に連れて行ってくれると勝手に伝え、そのままさっさと出かけてしまう。

秋山は、自分の作品が置いてある「ニューアンドニュー」と言う喫茶店にアコを連れて行くと、あれこれ自分がデザインをやっている事を話しはじめるが、全く無関心そうなアコは、電話の場所を聞き出すと、PPPグラフの天平は今いるかと会社に電話を入れる。

そして、そのまま秋山には無断で店を出ると、PPPグラフの編集部にいた天平に会いに行くのだった。

いきなり仕事中に、アポなしでやって来たアコを見た天平は驚くが、「重大な用がある」と言うので仕方がないので、編集長(近衛敏明)に断って外出する事にする。

しかし、アコは「大阪って広いわね〜」などとのんきな事を言うばかりで、肝心の話は切り出そうとしない。

その頃、「ニューアンドニュー」では、秋山がまだアコの帰りを待っていた。

天平を乗せ、川にボートで漕ぎ出したアコは、おじさまみたいに愛情の冷えきった夫婦などみじめだわなどと言い出し、そんな家庭の問題に口を挟むのは差し障りがあると怖じ気付く天平にも、恩師の窮状を放っといても良いのかと喝を入れて来る始末。

アコは、鳥羽に積極的に浮気させ、近子の愛情を再燃させる作戦を打ち明ける。

その浮気相手として、バー「エトワール」のママ、星子(平井岐代子)が良いと思うので、彼女に決めましょうなどと一方的に話を終えてしまう。

しかし、天平は、会社の窓からこちらを覗いている編集長に気付き、時間を超過した事に気付き、思わず立ち上がると、バランスを崩してそのまま川に落ちてしまうのだった。

その後、アコは、天平が星子とピクニックがしたいそうだからと言うので、星子と一緒に生駒山に出かける。

ところが、肝心の天平はその日姿を見せなかったので、アコと星子と三人でのピクニックのような状況になる。

頂上に辿り着いたアコは、下界を見下ろし「志摩が見える!おば〜ちゃ〜ん」と叫ぶので、星子は遠くに見える雲海を指し、「天国が見えるわ。おかあ〜さ〜ん」と叫ぶ。

すると、アコも同じように「おか〜さ〜ん」と叫び、星子の胸に甘えるように抱きつく。

その後、アコは天平を探してくると言い、その場を離れたので、二人きりになった鳥羽と星子は、何となく、星子が持って来た弁当を広げ、酒を飲みはじめる。

星子の方も、その日の目的が良く分かっておらず、自分達はアコと天平のデートのだしなんですかね?と首をかしげる。

アコはいつまで経っても戻って来なかった。

それもそのはず、先に帰宅していたアコは、近子に、鳥羽と星子がデートしていると報告していた。

しかし、そこに鳥羽が帰って来て、なんだか今日は、天平がマダムとピクニックがしたいとアコに言われたのでついて行ったんだが、その天平がいないんだと困惑した様子を見せる。

近子は、アコが自分達夫婦の間を裂こうと嘘をついた事を見抜き、あなたのように恐い子はいないと叱りつける。

すると、アコは、自分が家出をした動機は、おばさんの人生相談に匿名で投書して今の悩みを書いたら、自分から外に飛び出しなさいとアドバイスされたので、その言葉に従っただけなのだと打ち明ける。

それを聞いた近子はショックを受け、部屋に閉じこもってしまう。

それを心配して様子を見に来た鳥羽に、あの子は狐が馬に乗っているみたいで、何をしでかすか分からないと近子は打ち明ける。

そこへ鈴江が、アコが急に熱を出して倒れたと報告に来る。

慌てた鳥羽は、野呂に電話し、往診に来てもらう事にする。

ところが、アコを診察した野呂は、風邪を引いたわけでもないのに、熱があるのが分からないと首をかしげ、取りあえず、お灸でもすえとくかと言いながら、ペニシリンの注射をアコの尻に打って帰る。

近子を先に休ませ、一人でアコの側についてやる事にした鳥羽だったが、急に起き上がったアコが水が飲みたいと言い出す。

コップを持って来てやると、もう一杯、さらにもう一杯と何杯もお代わりをした後、醤油を飲むと熱を出すって本当ね。私、三合もラッパ飲みしたと言うではないか。

寝室に戻った鳥羽は、やっぱりアコは志摩に帰らせた方が良い。私が連れて帰る。あの子は本当に、狐が馬に乗って走っているようだと呟く。

翌日、志摩の実家である料亭にアコを連れて帰った鳥羽は、アコが、月夜の晩、若者と二人で海に漕ぎ出した事は許して欲しいと祖母(毛利菊枝)に頭を下げるが、それを聞いた祖母は、そんな話は今初めて聞いたときょとんとする。

祖母の言う事に何でもうなずく、アコの父親(南部彰三)も何も知らない様子。

祖母は、アコにこの料亭を継がせたいが、この子は、来る縁談、縁談を全て断ってしまうので仕方がない。

今では、近子も偉くなったようだから、わがままな娘ですがよろしくお願いしますと、鳥羽は逆に頭を下げられてしまう。

祖母は、アコを今後も鳥羽が預かってくれるものと信じ込んでいるのだった。

その夜帰宅して来た近子は、たまたま一瞬遅れて帰って来た鳥羽と玄関ではち合わせる。

申し訳なさそうに立ちすくんでいる鳥羽の後ろには、連れて帰ったはずのアコが立っていた。

アコは、これから家事を一生懸命やるので、今までの事はお互いに水に流しましょうと、すまして言う。

その後、アコは、鳥羽家で徹底的にこき使われる事になる。

何をするにもアコ、アコと呼ばれるので、鈴江が仕事がなくなってしまいふくれる程だった。

アコも自分から積極的に仕事をこなすようになったので、主婦としての存在感がなくなってしまった近子もだんだん気持ちが落ち込んで行く。

そんなある日、鳥羽とアコが揃って野球を見に行き、久しぶりに近子が一人で家にいると、野呂婦人がやって来て、又おしゃべりを始める。

「大阪評論」と言う雑誌に、鳥羽が書いている小説が面白いと言うのである。

そこに出て来る婦人は、きっと奥さんがモデルに違いないと言うのだ。

その後、今後、義太夫の稽古を家でやるので、ぜひ近子にも来て欲しいと言い残して帰る。

千賀子は書斎に向かい「大阪評論」を見つけると、広げて小説を読んでみる。

彼女はこれまで、夫が書いた小説を一度も読んだ事がなかったのだ。

帰って来た鳥羽に、さっそく近子はあの小説に書いた女性のモデルは自分なんですねと問いつめる。

それを聞いた鳥羽は、これまで自分は、君がどんなに忙しくても、私が書いた小説は読んでくれているだろうと思っていたと打ち明け、ぶ然とする。

二人の言い争いを階段の下で聞いていたアコは、はじめて妻に反論する鳥羽を密かに応援する。

あの小説に出て来る女性に特定のモデルなどはいないが、あえて言えば野呂婦人かも知れないと続けた鳥羽は、そのまま黙って家を出て行く。

それを見ながら、アコは帰って来ないでねと応援する。

外では雨が降り出し、家を出た鳥羽はバー「エトワール」に入る。

すると、客はおらず、見知らぬ男と二人で話をしていたママの星子は鳥羽に近付いてくると、今度この店も代替わりする事になって、あの人が次のオーナーなのだと言う。

その頃、夫の帰りを待っていた近子は、玄関のブザーを聞き喜ぶ。

しかし、アコと鈴江が玄関に出てみると、御主人はいるかと入って来たのは野呂だった。

自分の家では今、家内が仲間を集めて義太夫の練習会をはじめたのでうるさくていられないのだと上がり込んで来る。

近子が応対に出て、自分は二週間前に、新聞社の仕事を辞めたのだと教えると、あの人生相談は、うちの12になる娘が愛読者だったのに…と、野呂は惜しむ。

近子は、夫は専業作家になりたいらしいが、みんながみんな、石坂洋次郎のような人気作家になるとは限らず、今、あの人に注文があるのは、大学の先生と言う肩書きがあるからだと思うと、野呂に打ち明ける。

確かにそれはその通りだと頷いた野呂は、今度、私から言ってやりましょうと約束する。

しかし、そこに、野呂夫人が夫がお邪魔していないかと迎えに来たので、野呂は連れ添って帰ってしまう。

その姿は結構仲睦まじそうだった。

その頃、鳥羽は、独り住まいの天平のアパートの部屋に上がり込んでいた。

突然の鳥羽の訪問だけではなく、その鳥羽の口から、今晩ここで泊めてくれないかと言われた天平は驚くが、ちゃっかり、先生も酒を飲むでしょうと聞き、買って来るからと手を差し出して来る。

鳥羽は仕方なく、酒代を出してやる。

その後、夜がふけて行き、鳥羽は、天平が最近、うちに来なくなった事等を聞くが、天平は奈良で撮って来たと言う仏像の写真等を見せ始める。

突如鳥羽は、まだ最終電車はあるだろうかと言い出し、結局、自宅に帰る事にする。

深夜、帰宅した鳥羽を出迎えたアコはがっかりするが、近子の方は心配していたと喜ぶ。

その仲の良さを垣間見たアコは、知らない!と癇癪を起こすのだった。

その夜、寝室に向かった鳥羽は、まだ、布団に近子が寝ていない事を知り、隣の部屋を開けてみると、そこの机で、うたた寝をしている所を発見する。

起こしてやると、近子は、この10年と言うもの、あなたに怒られた事がなかったから、今日のあなたの言葉は、昔父親に叱られた時のように恐かったと打ち明ける。

昔は私の事、奥さんだなんて呼んでいなかったわねと近子が問いかけると、鳥羽も遠い昔を思い出すような顔をして、最初は伊勢君、それから伊勢さん、近子さんなどと呼んでいたっけと思い出に耽る。

あの頃は、二人の給料を合わせても200円だったが、今はもう、あなたのサラリーと原稿料で食べていけるわね。私はもう、仕事を辞めても良いと近子は告白する。

しかし、鳥羽は、君は仕事を続けた方が良いと言い、それを聞いた近子は喜ぶ。

そうした夫婦の会話を階段の下で盗み聞きしていたアコは、自分の方に気を引こうと、わざと「イタタ!」と大声を上げてみせ、何ごとかと鳥羽夫婦が顔を二階から覗かせると、ドアに指を挟んで…と言い訳をする。

しかし、夫婦はただ「気をつけなさい」と言っただけで引っ込んでしまったので、アコはがっかりする。

そこへやって来たのが天平で、さっき鳥羽が家に忘れて行ったと財布を見せる。

アコは、その天平を強引に外に連れ出す。

近くのすすきのにやって来たアコに、天平は、いつかの生駒山へのピクニックに行けなかったのは、ボートから川に落ちて風邪を引いてしまったからだと謝る。

しかし、アコは、そんな事は聞いておらず、自分は中年男の魅力が分かりかけて来た。アコは志摩に帰ると言い出す。東京に出て、勉強してみたいとも。

「アコのアは、アホのア」と言いながら笑い出すアコ。

その後、本当にアコは志摩に帰ってしまった。

雪が振る夜、書斎にストーブを焚いた鳥羽は、机に座ると辞書をめくり、そこにしおりのように挟まっていたアコの靴下の片方を見つける。

そこに姿を見せた近子は、アコがいなくなって、もう一ヶ月経つわねと言いながら、自室に帰って行く。

鳥羽はいつものように机に足を乗せ、いつしかうたた寝を始めるのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

それまで一見平穏に見えた夫婦の生活に、一人の世間知らずだが、恐いもの知らずで天衣無縫な娘が紛れ込む事で巻き起こる、一瞬の嵐のような混乱と修復を描いた明朗ホームドラマ。

当時の人気ラジオドラマの映画化とあって、いかにも当時良くあったようなホームコメディパターンの展開に思える。

戦後強くなったと言われる女性の立場、その逆に、覇気をなくしたかに見える男、その両面の姿をちょっと皮肉ったようなタッチになっている。

子供っぽい発言や思い込みが愛らしい、アコを演じる久我美子や、現代劇の職業婦人を見事に演じている水戸光子の姿等が珍しい。

おっとりした中年の知識人を演じる森雅之の大人の魅力も印象的な作品になっている。

かけ出しのカメラマンを演じている掘雄二は初々しいし、伊藤雄之助独特のとぼけた存在感は、後の「プーサン」などでもお馴染みのもの。

アコの底なしの元気さ、純粋さは、今観ても、心を晴れやかにするものがあるような気がする。