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幽霊暁に死す

1948年、C・A・C、小国英雄脚本、マキノ正博監督作品。別タイトル「生きている幽霊」

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

ある夏の日、生来気の弱い小学校教師、小幡小平太(長谷川一夫)は、同じアパート「大笹荘」に住んでいた活発な恋人美智子(轟夕起子)からせかされ、思いきって教会で結婚式を挙げることにする。

飛び込みだったので、参列者すらなく、普段着のままで二人きりで行った結婚式ではあったが、何故か、教会の窓から風が吹き込みカーテンを揺らすと、二人を祝福するような賛美歌の声がどこからともなく聞こえて来る。

教会からの帰り道、美智子は、結局、自分の方から結婚をせがんだ事を恥ずかしがり、気の弱い小平太に甘えてみせるのだった。

小平太は、新婚旅行として、これから3時間かけて熱海に行こうと言い出す。

美智子は、何泊位できるのかと期待に胸を膨らますが、二人揃って「大笹荘」に戻って来て、小平太の給料日三日前の財布の中を確認した所、一泊もできない事が判明。

それでも、小平太は、3時間かけて熱海に行き、温泉に1時間浸かって…と日帰りならできるとほのめかし、美智子も楽しそうにそのプランを受け入れるのだった。

今後は、同じ部屋に住みましょうなどと、廊下でいちゃいちゃしていた幸せ一杯の二人に近づいた他の住民たちは、「おめでとう!」と声をかけ冷やかす。

慌てて自室に戻った小平太は、そこに教頭(村田正雄)が来ており、自分の帰りを待っていた事に気付く。

校長の事で、どうしても話があるのだと言う。

一方、こちらも自室に戻り、さっそく日帰り新婚旅行の準備をはじめた美智子だったが、そんな様子を覗きに来た別の部屋の子供はるちゃんに、自分も一緒に連れて行ってとせがまれ、又明日…と、ごまかすのだった。

教頭が言うには、独善的な校長を、全校生とのためにどうしても退職にさせたいのだが、その不信任決議をまとめる役を小平太にやってもらいたいらしい。

本来なら自分がやるべきだが、自分は家内の入院費を1000円、個人的に借り受けている身なので…と口を濁す。

それを、廊下ではると一緒に立ち聞いていた美智子は、中にいる小平太に聞こえるように歌を唄いはじめるのだった。

結局、気が弱く、教頭の頼みを断れなかった小平太は、担がれてしまい嫌な立場になった事を、その後、部屋にやって来た美智子と共に悔やむのだった。

しかし、美智子はそんな小平太を励ます。

翌日、小学校の職員室では、不信任議決書を渡された校長をはじめ、それを提出した全教員が集まっていた。

廊下や校庭では、子供達が、事の成りゆきをかたずを飲んで見守っている。

それに気付いた教師が、追い払おうとしても、誰も立ち去るものはいなかった。

校長は全くめげた態度は見せず、むしろ、自分と懇意な先生が多い中、こんな不信任決議書に、全員が自らの意思で押印したとは思えず、一部の策士に先導された結果に違いないと切り出す。

教師たちは、皆一斉に、小平太の顔を見る。

教頭は、汗をかきながらも、何も言い出そうとしない。

校長は、自分に反対するものは起立してもらいたいと迫っても、誰独り立ち上がろうとせず、ただ小平太の顔色をうかがうのみ。

気の弱い小平太は窮地に追い込まれるが、とうとう思いきって立ち上がる。

それを見た生徒たちは一斉に歓声をあげ、職員室には風が吹き込んでカーテンが揺れる。

起立した小平太は、すっきりしたように笑いを浮かべるが、その時、どこからともなく「小平太、良くやった!」との声が聞こえる。

小平太はテーブル上に、用意した「辞表」を提出していた。

結果的に学校を辞めざるを得なくなった小平太だったが、帰り道、美智子と出会うと、誇らしげに、みっちゃんが言わしてくれたんだと、自分に勇気を与えてくれた事への感謝を伝える。

すっかり、結婚して自信を持った小平太は、もう何でも言えるし、何でもできると言い出したかと思うと、すれ違う通行人に「僕の美智子は良い奥さんです」と突然告げたり、人目もはばからず道で彼女を抱擁するのだった。

その頃、小平太の叔父に当る小幡平次郎(斎藤達雄)の家では、彼の妹 優子(飯田蝶子)、 禮子(萬代峰子)とその夫で弁護士の安積(徳川夢声)が落ち合っていた。

安積は、平次郎が、20年前に亡くなった兄平太郎の遺産を、自分だけで勝手に資産運用していると嫌味を言いに来ていたのだった。

彼ら兄妹らは、亡くなった長男の平太郎から面倒を見てくれと頼まれていた小平太を、中学卒業後に追い出してしまい、その後、遺産を自分達だけで横領していたのだった。

そんな欲の皮の突っ張った内輪もめの最中に、何十年も会ってなかった当の小平太が訪ねて来る。

バツが悪くなった安積と禮子は、そそくさと退去する事にする。

応接間で小平太の顔を見た平次郎は驚愕の表情を浮かべる。

平次郎の妻のたけ子(沢村貞子)は、いきなり仏壇を拝みはじめると、娘のきみ子(月丘千秋)に、幽霊を見た事があるかと尋ねる。

あまりに唐突な質問に、日頃から夢遊病の症状がある母親のたわごとだろうときみ子は笑うが、たけ子は20年前に死んだあの人が、今応接間に立っているのだと呟く。

さらに、優子までが、その座敷に駆け込んで来て、腰を抜かしたようにしゃがみ込んでしまう。

小平太は、就職の世話を頼みに来ただけだったのだが、自分は5才の時死に別れた父親の顔も覚えていないので、こちらに生前の写真の一枚でもないだろうかとついでに聞いてみると、突如平次郎は怒り出す。

その時、一陣の風が窓から吹き込むと、壁にかけてあった油絵が床に落ち、カーテンが揺れる。

平次郎は、貴様、俺を脅しに来たのか!俺が金を横領しているとでも聞いて来たのだろう!と意味不明の言葉を投げかけると、さっさと席を立ってしまう。

戻って来た兄平次郎に対し、優子は、平太郎が遺した山の家に小平太夫婦に行ってもらおうじゃないかと切り出す。

その後、幽霊屋敷と呼ばれるようになり、誰も買い手が見つからないまま寂れた別荘をこのままに放置しておくより、小平太に様子を見に行かせ、何でもなかったら、100〜200万ですぐにでも売れるではないかと言う金儲けの提案だった。

小平太には、旅行費として5万円も渡せば喜んで行くだろうと、優子はあざ笑う。

欲深い平次郎も、この妙案に賛同する。

応接間に独り取り残された小平太は、床に落ちた油絵を拾い上げると、そこに描かれた山の風景を懐かしそうに眺めていた。

その描かれたモデルの軽井沢に小平太と美智子の新婚カップルはやって来る。

平次郎から勧められ、新婚旅行も兼ね、十日間、父が遺してくれた軽井沢の別荘に逗留する事にしたのだった。

麓の喫茶店「タサ・デ・オロ(金の盃)」で、偶然にも小平太は、小学校時代の級友だったオロちゃん事、那古太三郎(田端義夫)に出くわす。

いつもおろおろしていた事から、オロちゃんとあだ名されていた多三郎は、今、この喫茶店の店主になっていたのだった。

再会を喜びあった太三郎だったが、小平太夫婦が、これから柳陰荘に行くと聞き驚く。

あそこは幽霊屋敷として有名な所で、死霊に憑り付かれているとでも言うか、陰々滅々とした場所なので、行かない方が良いと説得するが、美智子も小平太も、全く気にしない様子で、むしろ行ってみたいと言い出す始末。

すると、又風が吹き、小平太の耳には「小平太、良く言ってくれたね」と囁く言葉が聞こえる。

山を登る小平太と美智子は、途中、自転車で巡回中だった井上巡査(阪本武)に出会ったので、道案内を頼む。

井上巡査は最初、快く職務だからと二人を先導して林の中に入るが、目的地が柳陰荘と聞くと、とたんにおびえだし、途中で、方向だけ教えると、自分は自転車に乗って引き返そうとするが、腰が抜けたのか、巧くペダルに足を乗せる事すら出来ず、その場に転倒してしまう。

林の中には又風が吹き、霧が立ちこめて来るが、その中にうっすら目的地である柳陰荘が見えて来る。

その家を見た途端、小平太は、見た事がある!この家は夢で見たんだと洩らす。

張り切って「行こう!」と美智子の手を引く小平太だったが、「はい!」と何度も元気良く返事をする美智子の片手は、しっかり木にしがみついており、なかなか足は進まない様子。

やがて、二人は柳陰荘の薄暗くなった部屋の中に入り込むが、その無気味な内部の様子に、さすがにこれまで楽観的だった美智子も、帰りましょうと怯え出すのだった。

電気が通じていないので、蝋燭の明かり一つで暗闇の中を探査しはじめた二人だったが、美智子が突然、幽霊を見たと騒ぎ出す。

小平太が、蝋燭の明かりでその方を見てみると、そこには鏡があるだけだった。

小平太は、恐怖と言うものは、その現象の原因が分からない時の心理であって、原因が分かってしまうと何でもない事なんだよと、子供に言い聞かせる教師のように妻に語りかけるが、その言葉もしどろもどろだった。

やがて、客間の大時計が鳴ったので、又、美智子は怯え出す。

10年間も人が住んでいなかった家の時計がなるはずがないと言うのだ。

これには、さすがの小平太も巧い説明が出来ず、万事は明日夜が開けたら…と言いながら、美智子を二階の部屋に案内する。

すると、美智子は、あなたはこんな真っ暗やみの中で、どうして二階に部屋がある事が分かったの?と聞いて来る。

これには、当の小平太自身も訳が分からず、美智子としっかり抱き合って夜を明かすしかなかった。

翌日、二人の逗留を心配した井上巡査とオロちゃん、そして若者たちが数名、柳陰荘に近づいて来る。

しかし、皆、恐怖心があるので、おっかなびっくり。

井上巡査は、靴の紐を直す振りをしながら時間稼ぎをするし、オロちゃんの方は、なめくじが手に付いただけで震え上がってしまう有り様。

やがて、柳陰荘が見えて来ると、二階の窓が急に開き、そこから汚れた顔が覗いたので、一同肝を潰すが、それは大掃除の最中で顔が汚れた美智子と判明、胸をなで下ろす。

美智子は、彼らの前にやって来ると、恐怖と言うのは、その現象の原因が分からない時の心理なのです、と夕べの夫の受け売りをしてみせる。

ただ、夕べ3時に客間の大時計が鳴ったのは不思議だと美智子が言うと、それは時計だから、時報くらい打つだろうと、オロちゃんが笑う。

しかし、美智子は、10年間も人が住んでいなかった家の時計が鳴るはずがないと言い切るのだった。

そんな彼らの元へ、置き時計の中からこれを見つけたと、巻物のような書状を持って小平太が出て来る。

夕べは、おそらく自分がうっかりこれを蹴飛ばしてしまったので、振り子に引っ掛かって時計が鳴ったのだろうと言うのだ。

その説明を聞いたオロちゃんたちは安心し、家の中に入らないかとの小平太の誘いは断わって、自分は明日からの食料の調達をして来てやると言い、井上巡査の方も、電気を付けてあげようと言いながら、皆その場から引き返してしまう。

その後、又、じゃれあいながら家に戻った小平太と美智子だったが、逃げ回っていた美智子は飛び込んだある部屋で、小平太そっくりの自画像が描かれた油絵を発見する。

さらに二人は、玩具が置かれた子供部屋らしき所も発見するのだった。

食堂で食事の準備をはじめた美智子は、別の部屋にいる小平太に、蓄音機を掃除して、レコードをかけてくれとねだる。

やがて、レコードの音楽が聞こえはじめた中、美智子は、ベレー帽にルパシカ姿の小平太が食堂に立っているのに気付き、どこからそんな旧式の服を見つけたの?と呆れる。

すると、言われた小平太の方は、これは旧式か?と、自分の服を見ながら奇妙な事を言う。

美智子は、幸せで夢を見ているようだわ、夢でも良いから十日間で覚めないで欲しいと、自らの頬をつねると、小平太に、早く着替えて、レコードの裏面をかけてくれとねだるのだった。

すると、小平太と思われたその男の姿は、美智子が背中を向けている間にうっすら消えて行きながら、レコードだけはしっかり裏返してやるのだった。

そこへ、本物の小平太が入って来て、又部屋を出ると同時に、服を着替えた小平太にそっくりの男が入って来る。

又しても、大時代な服を着ていたので、それを見た美智子は、さっきの方がまだ良かったわと呆れる。

美智子が背中を見せて料理を始めると、小平太にそっくりな男は、そうか、さっきの方が良かったか…とつぶやきながら消えて行く。

やがて、料理が出来、テーブルの所にやって来た美智子は、そこにスプーンやナイフが三人前用意されている事に気付き、奥の部屋にいたルパシカスタイルの男に、何故三人分用意したのかと尋ねる。

すると、ルパシカの男は、そうか、二人分で良かったのか、でも形だけ…と、又奇妙な返事をする。

そこに本物の小平太が入って来たから、ルパシカの男を小平太とばかり思い込んでいた美智子は、二人の小平太の姿を見比べながら気絶してしまう。

慌てて妻に駆け寄った小平太も、薬を取って来ると言いながら、消え去る自分そっくりの男の姿を見て驚愕する。

気付け薬を妻に嗅がせながら、小平太は、半透明の姿で再び目の前に現れた男が、自分の父親の平太郎の幽霊である事を知る。

小平太には恐怖心はなく、顔を覚えていなかった父親に再会出来た喜びに溢れていた。

教会の賛美歌を聞いてくれたかい?と聞く父親の言葉に強く頷く小平太。

気が付いた美智子も、もう怯える事なく、平太郎の姿を直視していた。

平太郎の幽霊は、妻がお前を産んですぐ亡くなった後、自分はお前を連れてこの屋敷に来たのだと語りはじめる。

子供部屋で遊んでいたのは、幼い頃の小平太だったのだ。

その間は、自分にとって一番幸せな期間だったと語る平太郎だったが、自分が病気になった時、お前の養育を弟の平次郎に託したのが失敗だったと悔やむ。

平次郎や、妹の優子、禮子たちは、お前の養育もそこそこに、自分が遺した全財産を全て横領してしまったので、それが悔しくて成仏できずにいると言うのだ。

客間の大時計の中に遺言状を入れて、鳴らしたのは自分だったとも教える。

それを聞いていた小平太は、自分達は財産など何もいらない。むしろ、お父さんが幽冥の境に彷徨っている事の方が耐えられないと答える。

しかし、平太郎は、自分がきちんと死ぬには二つの条件があると言い出す。

一つは、小平太夫婦が幸せになる事。

もう一つは、平次郎に恨みを晴らさなければならない事。

そんな事は非民主主義的ですと眉をしかめる小平太だったが、平太郎は、そうは言っても、幽霊界の標語は「うらめしや」「怨み晴らさずに置くべきか」だからね…と、妙な反論をする。

叔父や叔母が悪い事をしている事の目を覚まさせないとねと言う平太郎、それを聞く小平太、美智子は、いつしか、夜の暖炉の前で、本当の親子のようにくつろいで語り合っていた。

平太郎は、美智子に気にいってもらおうと、せいぜい最新の服を着てみたつもりだったが、旧式と言われてしまったと苦笑する。

それを聞いた美智子は、お父様はお幾つなんですかと尋ねると、30才だと言う。

幽霊は、亡くなった年の姿のままなのだと言う。

だから、今の小平太と年格好が瓜二つだったのである。

それを聞いていた小平太は、自分の姿を久々に見た叔父たちが驚いていた訳を悟る。

自分に、亡くなったはずの父親平太郎の姿を重ねていたのだ。

平太郎は、ピアノが弾きたくなったが、唄ってくれるかね?と美智子に問いかける。

やがてその姿が消えると、ピアノのふたが開き、鍵盤が独りでに音を奏で出したので、美智子はピアノの側に立ち、得意の歌声を披露するのだった。

そんな柳陰荘に近づいていたのは、またまた様子を見に来た井上巡査とオロちゃんの二人。

中から聞こえて来る歌声に聞き惚れながら、窓からこっそり中の様子をうかがってみた二人だったが、誰も座ってないピアノが曲を奏で、その横で美智子が唄っている姿を見て腰を抜かす。

翌日、喫茶店に戻っていたノロちゃんは、大阪に住む父親太三郎に電話をしていた。

夕べ、柳陰荘で出会った平太郎の幽霊から聞かされた伝言を伝えていたのだった。

平太郎と、ノロちゃんの父親とは旧友同士だったのだ。

平太郎が久々にお父っあんの唸る義太夫が聞きたいと言っていたと伝えると、ようやく電話の向こうの父親も、息子の電話の内容を信じてくれたようだった。

その頃、柳陰荘では、平太郎が自室で美智子の姿を油絵を描いていた。

そこに、当の美智子がリンゴを運んでたので、平太郎は、リンゴの影を受取ると、長く描いていなかったので巧くないけど、この絵をもらってくれるかい?と聞く。

この絵も、やがて消えてしまうのではありませんかと心配する美智子に、これは僕の心なのだから、決して消える事はないよと言い聞かす平太郎。

そんな義父の真心に触れた美智子は絵を頂きますと答え、何故今はお姿を見せてくれないのかと平太郎に問いかける。

すると、時代のズレだ。自分は所詮、大賞時代の青年に過ぎぬ。こんな姿じゃ小平太にも可哀想だと、平太郎の声が聞こえて来る。

涙ながらに、美智子が去った後、姿を現した平太郎は、美智子の絵を見ながら一人苦悩しはじめる。

平太郎は、子供部屋で無心で遊んでいた幼い頃の小平太の事も思い出していた。

美智子は、そんな平太郎の悩みに気付き哀れに思うと、目の前の小平太にきつく抱きつくのだった。

その後、井上巡査と共に、再び柳陰荘を訪れたノロちゃんは、待っていた小平太と美智子に、夕べの打合せ通り、平次郎や優子、禮子たちには、この屋敷が200万で売れたとウソを言い、こちらに来るように伝えたし、自分の父親にも平太郎の伝言を連絡したと伝える。

四人は夕べ、平太郎の幽霊も交え、平太郎を成仏させるための作戦を立てたのだった。

そんなノロちゃんと井上巡査の手を誰かが引き、隣の部屋に入れようとする。

平太郎の仕業と気付いた二人だったが、ドアが閉まったままでは、自分達は中に入れないと抗議する。

すると、平太郎の幽霊は、すっかり慌てていたと詫びながら、太三郎はどう言っていたとノロちゃんに聞く。

ノロちゃんは、確かに平太郎が言ったように、この屋敷の名義は自分に替えて、その登記謄本は自分が今でも持っていた事を思い出したので、それを持参でやって来ると父親の言葉を伝える。

その後、大阪から急ぎ軽井沢に出向いて来たノロちゃんの父太三郎(花菱アチャコ)は、喫茶店「タサ・デ・オロ(金の盃)」に姿を現す。

柳陰荘では、父親と同じ古い形のタキシードを着て、これで準備万端整ったので、後は宜しく頼むと父親平太郎に嬉しげに報告する小平太だったが、平太郎の方は、何故か心底喜んでいない様子。

時代のズレですまんなと、窮屈そうにタキシードを着ている息子に詫びるのだった。

そこに、亡くなった小平太の母親のドレスを着た美智子が姿を現す。

美智子は、同じタキシード姿で立っている、小平太と父親平太郎のそっくり振りを見比べるが、こっそり壁の鏡の中を覗いてみると、平太郎の姿だけは写っていない事を知る。

そんな柳陰荘に、平次郎、優子、禮子兄妹ときみ子、安積らがやって来る。

二階の窓付近に出現した平太郎は、憎むべき弟妹たちの姿を睨み付けていた。

しかし、階段付近で出会った美智子に首を振られると、おとなしく消えるのだった。

さらに、オロちゃん、井上巡査、オロちゃんの父親太三郎も柳陰荘に到着する。

彼ら全員を出迎え、食堂に案内した小平太は、二階に登ると、姿の見えない父親に交代しましょうと声をかける。

何故か返事がなかったので、怪訝そうに小平太が何度も声をかけると、ようやく、よし!やるよ!と、タキシード姿の平太郎が出現する。

小平太に成り済ました平太郎は、美智子と共にベランダに出る。

美智子は、お父様は、こんな淋しい所で、20年もお待ちになっておられたのですねと声をかける。

平太郎は、うん、待っていたのだよ。すまなかったね。いなければいけなかったのだと優しく詫びる。

美智子は、自分は何もいりません。そのお父様のお優しさがあれば…と口籠る。

その頃、小平太の方は、子供部屋で無心になって玩具と戯れていた。

ベランダの平太郎は、いつまでもこのままでいたいと本音を洩らす。

美智子も、いて欲しい。できる事なら…と返すだけだったが、その言葉を聞いた平太郎は、僕は幽霊なんだね〜…と、淋しげに呟く。

食堂での客たちは、最近、あちこちで幽霊騒ぎが起こっているが、ああ言うのは早く退治せねばならんと話題が弾んでいたが、それを言っていたノロちゃんや井上巡査は、ベランダの平太郎に気付いて思わず口籠ってしまう。

美智子は、きみ子にピアノを弾いてくれないかと頼む。

すると、一緒に誘われたノロちゃんも張り切って、唯一知っていると言う歌を唄いはじめる。

「♪山の人気者、それはミルク屋〜」

すると、ベランダにいた平太郎の表情が曇る。

ノロちゃんは、さびの部分のヨ−デルの部分に差し掛かる。「娘と言う娘はユ〜レイヒ〜」…

そこで、ハッと気付いたノロちゃんは、平太郎の様子を横目でうかがいながら、この歌はまずいよねと弁解しながら止めてしまうのだった。

すると平次郎は、小平太だと思い込んでいる平太郎の幽霊に、お前も何かやってみろ。お父さんはピアノがお上手だったんだと勧める。

黙ってピアノの前に座った平太郎は、得意のピアノを奏ではじめ、今度は美智子がそれに合わせて歌いはじめる。

その階下の歌を聞きながら、小平太は、揺りいすに座ってうっとりしていたかと思うと、美智子が描かれたキャンバスを手に持って踊り出すのだった。

さらに、部屋の中で転がった小平太のタキシードの背中が破れてしまう。

すると、不思議な事に、ピアノを弾いていた平太郎のタキシードの背中も、同じように破れたので、それを見た平次郎は嘲笑する。

怒った平太郎は、そのまま二階の自室に帰ると、そこに待っていた小平太に向って、僕はお前の影でしかないと悲しげに伝える。

お前と同じで、小心者の自分には、平次郎を前にしても何も言い出せなかったと悔しがるのだった。

その頃階下では、太三郎が平次郎たちに自己紹介をしていた。

すると、相手が関西実業界の大物と知った平次郎はとたんにへつらいはじめる。

しかし、太三郎は、そんな平次郎を、あんたらは、この屋敷の所有者と偽る詐欺師ではないかと聞いて来る。

さすがに気色ばみ、こちらには証拠があると、安積と共に反論しかけた平次郎だったが、この屋敷は今自分の名義になっており、その登記台帳もちゃんとここに持っているがと太三郎が書類を差し出すと、さすがに安積も平次郎も何も言い返せなくなる。

登記台帳の事を20年間も忘れていた自分もアホだったが、白黒つけるために、この屋敷をあんたらに200万で買ってもらいましょう。そうしないと、いつまでも平太郎が浮かばれず、ドロドロと出まっせ〜と迫った太三郎は、その後二階に登ると、廊下で待っていた小平太と美智子に挨拶をして、平太郎の部屋の中に入り込むと、平ちゃん出て来てくれと呼び掛ける。

その言葉に応じ、出現した平太郎の姿を間近に見た太三郎は、一瞬固まりながらも、相手が死んだ時のままである事を知る。

一方、平太郎の方は、太三郎が随分年をとって、汚くなったな〜と本音を洩らすのだった。

太三郎は、何でお前が言うてやらんのや、幽霊のお前が言えば、あいつらは怖がる。

言わん事にはあいつらは分からん。言ってやれ!と説き伏せる。

客間にいた平次郎たちは、外がにわかに嵐のようになって来た事に気付く。

平次郎の妻たけ子は、突如苦しみ出す。

夢遊病者のように立ち上がったたけ子は、無表情なまま、平太郎兄さん、平次郎は悪い人です。叱ってやって下さい。悪人の娘を嫁にやれますか…と囁く。

やがて、暗くなった部屋の中に、「優子、禮子、平次郎」と声が響いたので、平次郎は驚いて誰だ!と叫ぶ。

そんな平次郎の目の前に、20年前に死んだ平太郎が出現する。

しかし、それを見た平次郎は、こいつは小平太だ!俺は、こんな事にだまされる小悪党ではないぞと、開き直る。

平太郎が、では小平太を呼ぼうと外に声をかけ、扉が開くと、そこから小平太、美智子夫婦が姿を現す。

さすがに、本物の幽霊だと気付いた平次郎、妹たちは、一斉に平太郎に向って土下座をする。

平太郎は小平太に向って、20年前に書いた遺言状を読んで見なさいと言う。

小平太が読みはじめた遺言状には、遺産は、小平太と平次郎、優子、禮子の四人で平等に分けるように。この屋敷は、なるべく人手に渡さず、皆が共同で使える避暑地のような場所にして欲しい。仲良くみんなで暮すように…と書かれてあった。

それを小平太が読み終えた時、平太郎は「さよなら」「美智子ちゃん!」と言いながら消えて行く。

皆は驚き、美智子と小平太は、父の姿を求めて屋敷中を探し回る。

風が吹き込む、二階の父親の自室にあった美智子の絵も消えかけていた。

それを見ながら、消えないとおっしゃったのに、私の絵が消えます!と美智子は空に向って叫ぶ。

すると、空から平太郎の声が聞こえて来る。

美智子よ、それは本当の僕の心を描いたものではなかった。

僕の心は、お前たちの心の中に残るものだったのだ…と。

すると、にわかに曇っていて空が晴渡ったので、小平太と美智子は庭に走り出て空を眺める。

そこには、呆然とした平次郎たちや、三味線弾きを横に、必死に義太夫を唸る太三郎の姿があった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼


シネマ・アーチスト・コーポレーション(C・A・C)が新演技座と組み、当時所属女優だった轟夕起子と、天下の二枚目長谷川一夫とが始めてコンビを組んだ第一回作品で、マキノ正博監督が、父親マキノ省三監督の二十年祭を記念して作った映画らしい。

タイトル通り、幽霊が登場するし、当時のパンフレットには「スリラー」と紹介されているが、いわゆる恐怖映画の類いではない。

どちらかと言うと、教訓めいてはいるが、基本的にはユーモアタッチの「ロマンチックゴーストファンタジー」とでも言った方が良い作品である。

冒頭は、明るい性格の若者二人の新婚振りを描く、微笑ましくも楽しいタッチの導入振り。

そんな彼らが、幽霊屋敷も気にせずにやって来ると言う展開もモダンで面白い。

中盤からは、トリック撮影も交え、亡くなった若い頃の姿のままで出現した父親の幽霊と、若い息子夫婦の奇妙な三角関係が描かれて行く。

新妻は、優しい父親を慕おうとするし、父親の方も、娘の嫁に気に入られようとするが、やがて二人は、しょせんは叶わぬ関係である事を知り、互いに苦悩しはじめる。

この部分は、今の視点で見ると、義父と嫁の関係と考えるより、父親の方が自分の心の若さのままに、若い嫁に恋をした…と解釈した方が分かりやすいかも知れない。

嫁の方も、薄々それに気付いているので苦悩するのである。

だが、この映画が封切られた当時の倫理観からすれば、そういう恋愛感情をはっきり表現しにくかったのかも知れない。

だが、父親の幽霊が、今生に留まっておきたいと告白し、嫁も、できる事ならば、自分もそうして欲しいと語り合うベランダのシーンは、明らかに恋人同士の会話のように聞こえるし、最後で消え行く父親が「美智子ちゃん!」と叫ぶのも、意味深である。

つまりこれは、「何事にも勇気を持って、はっきりものを言え」とか「悪い奴には、きちんと正義をただせ」と言った表向きの教訓とは裏腹に、美女と幽霊のはかないラブストーリーでもあるのだ。

コメディリリーフとして登場するバタやんこと田端義夫や飯田蝶子らも若々しい。

一人二役の長谷川一夫の美貌はたっぷり見れるし、轟夕起子やバタやんの歌声も聞けるとあって、娯楽作品としてはサービス満点。

トリック撮影も、初歩的な技法だと思うが、なかなか巧みに使われているし、随所にちりばめられた洒落も愉快。

例えば、飯田蝶子の役名が「ゆうこ」で、その妹の名が「れいこ」、二人合わせて「ゆう・れい」だったり、バタやんが唄うヨーデルが「ユ〜レイヒ〜」、別荘の名前が柳陰荘(やなぎのかげ)…

小平太と言う主役の名前も、有名な怪談「生きている小平次」の洒落ではないかと思われ、そう言った類いの、今では気付き難い洒落はもっとあるのかも知れない。

今でも楽しく観られる、モダンで洒落たファンタジーである。