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少林老女

2008年、「少林老女」製作委員会、カロルコ脚本、寺内廉太郎監督作品。

※この作品は新作ですが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、御注意下さい。コメントはページ下です。

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郵便配達員(上島竜兵)が、「×小林」と書かれた一軒家に書留を届けに来る。

「×」の下には、別の名前が書いてあったが、それを消した様子。

郵便配達員は、「小林さ〜ん」と声をかけるが返事がない。

ドアに手をかけると、鍵はかかっていないようなので、開いて中に呼び掛けてみる。

すると、郵便配達員の目に飛び込んで来たのは、倒れている老女の下半身だった。

こわごわ上がり込み、座敷で倒れていた老女に声をかけ続ける郵便配達員だったが、ぴくりとも動かないその様子を見て死亡を確信、すぐさま家の電話から警察に電話を入れる。

すると、到着するまで、発見者としてその場に留まっていてくれと言われたようで、仕事の途中だった郵便配達員は困惑するが、断わる訳にもいかず、仕方なく、死体が転がっている座敷で待つ事にする。

座り込んだ郵便配達員は、畳の上に転がっていた巻物を発見する。

見ると「私の一生」と書かれているではないか。

遺書ではないかと気付いた郵便配達員だったが、さすがにそれを見るのははばかられたので、最初は遠慮していたが、なかなか警察が到着しない事もあり、とうとう好奇心に負けて、その巻物を開いて中を読みはじめる。

最初の方には、本人の顔と思われる下手な似顔絵が描かれ、身長、体重などが記されている。

戦後、孤児になった小林美代子(浅見美代子)は、陳老師に拾われ、山奥の寺で、秘伝の少林寺拳法を教わるようになった…と書かれていた。

やがて、陳老師が亡くなると、美代子が寺の後を継ぎ、弟子たちに少林寺拳法を教えていた。

その寺には、何人もの道場破りが訪れて来たが、美代子は難なくやっつける。

アフロヘアの黒人(千太郎)も、難なく叩きのめした一人だったが、二年前のある日、その黒人が再び少林寺にやって来る。

黒人は、「一本足の先生!」と呼び掛けると、その背後から、一人の美女(長澤奈央)が現れる。

その様子を見ていた美代子の一番弟子マロが、先生が出るまでもなく、自分が相手をすると美女の前に進み出るが、美女が操る一本足拳法の前にあっさりやられてしまう。

続いて飛びかかったデブのマサルもあえなくやられてしまう。

それを見た黒人は、さすがに神の足を持つと言われた先生だと感心する。

美代子は、ただならぬ相手だと気付くがもはや戦うしかないと悟り立ち向かうが、一本足は、片足をゆっくり回転させ、まるで眠狂四郎の「円月殺法」のような残像を残す技を披露し、美代子を蹴りつける。

美代子は、寺の石段を転げ落ち、気絶してしまう。

弟子たちは全員、そんな美代子の元にかけ降りて来るが、寺から黒人が、「今日からこの寺はおれたちが頂く。一本足先生の弟子になりたいものは上がって来いと声をかけると、一人、また一人と、その言葉に従い、階段を登って行く弟子たち。

最後まで美代子の側に残ったのは、一番弟子のマロと、デブなので、とても「一本足拳法」など出来ないと気付いていたマサルだけだった。

二人は、傷付いた美代子を抱えて山を下山する。

そんな彼ら三人がやって来たのは、大都会東京の渋谷だった。

駅前交差点を渡っていた三人は、巨大ビジョンに映し出された「安田大サーカス」の芸を見て衝撃を受ける。

今の自分達にできるのはこれしかないと気付いた三人は、美代子が両手を胸にあてがい、ちょっと持ち上げる仕種に、弟子二人が「ペンペンペン 少林寺!」と、ただ安田大サーカスの持ちネタの言葉を入れ換えただけのセリフを叫ぶと言う安直な路上パフォーマンスを始める。

そこで得た、わずかばかりの小銭でパンを買い、喰い繋いでいた三人の元に、一人の金髪の男が近づいて来る。

君たちは事務所に所属しているのか?と問いかけて来たその男は、よかったら自分の店で働かないかと三人に持ちかける。

その男は、タニー・ルドルフビッチと名乗った。

…「以下、2巻に続く」と巻物に書かれてあった。

そこまで読んでいた郵便配達員は、「2巻?」といぶかしげに、読んでいた巻物を確認すると、確かに表書きに、「1巻」と書いてある。

どうやら、続きを書いた「2巻」があるのだと気付いた配達員は、座敷の棚の中などを勝手に探しはじめる。

すると、ほどなく「2巻」と書かれた巻物が見つかり、配達員は迷わずそれを開くと又読みはじめる。

タニーの店とはショーパブだった。

三人は、そこで普段はウエイター兼用心棒、ショータイムには路上でやっていたあの下らない物まね芸を披露するダンサーに成り果てる。

あまりにハレンチな生活に疑問を抱いた弟子二人は、ある日、美代子に、こんな生活をいつまでも続けるのではなく、あの一本足を倒しましょうと相談するが、美代子はステージ衣装の選定に夢中な振りをして無視をする。

本心では、そんな復讐などどうでも良かったからである。

この今の生活に満足していたと言っても良い。

そんなある日、ハレンチな衣装を身にまとった美代子と弟子二人がステージで踊っていると、止めろ、止めろ!と客席の後ろから声が響く。

こんなババアのパンツ姿なんか見て、何が面白いんだ!と言いながら、ステージに近づいて来たのはあの黒人だった。

その後ろには、一本足も来ているではないか。

慌てて美代子の前に出た弟子二人は、あっさり一本足に蹴り倒されてしまう。

何事かと止めに入ったタニーも、黒人から札束を握らされると、とたんににや付いて引っ込んでしまう。

しかし、美代子は無言のまま、踊りを続けていた。

黒人は、そんな美代子を嘲りながら、こんなババアに付いていて何になるんだと倒れた弟子たちに罵声を浴びせる。

美代子は、怖くて仕方なかったのだ。

その後、黙ってマロとマサルの二人は店を辞め、美代子は一人ぽっちになってしまう。

一人、舞台裏で膝を抱えていた美代子は、今のままでは一本足に負けるのは必然だと分かっていたのだった。

そこまで読んでいた郵便配達員は、その気持ちは良く分かる。おれも負け続けだと共感するのだった。

さらに、その後、店にやって来た刑事二人が、タニーを連れて行ってしまう。

どうやら不法滞在者だったらしく、タニーは祖国へ強制送還させられてしまう。

店がなくなった美代子は、公園生活者に落ちぶれていた。

段ボールで寝泊まりするようになった美代子は、昼間公園で、近所の老人たちが遊んでいるゲートボールを何気なく見つめていた。

すると、そんな美代子に一緒にやってみないかと声をかけて来た中年男性がいた。

太郎だった。

太郎は、ゲートボールなどやった事がないと言う美代子に手取り足取り、ゲートボールを教えはじめる。

そんな様子を嫉妬の目で眺めていたのは、太郎と仲良くしていたフーミンと呼ばれるおばちゃんだった。

しかし、美代子は、そんな優しい太郎と会える事が嬉しくもあり、ゲートボールにのめり込んで行った。

そんなある日のゲーム、先に打った美代子のボールを、後から打ったフーミンのボールが、不思議な動きでタッチする。

フーミン得意の「フーミンスライダー」だった。

さらに、「フーミンスパーク」と言う技で、美代子のボールは外にはじき出されてしまう。

次々にくり出されるフーミンの荒技で、美代子のゲームは台なしになって行き、それを見ていた他のメンバーたちは、ああやってチームから消えて行った人間が何人いたか…と心配しあう。

結局、その日の最下位は美代子になってしまい、フーミンは、1点以下の人は独り居残ってグランドを掃除するのだったわね?と太郎にわざとらしく念を押す。

太郎は、初心者の美代子に同情し、一人、グランドの整備をしていた美代子の元にその後舞い戻って来て、手伝ってくれる。

そんな太郎の親切に、美代子は思わず微笑むのだった。

掃除が終わり、段ボールの我が家に戻ると、そこにくわえタバコのフーミンが待っており、私と賭けをしない?と言い出す。

今度の試合で、私が負けたら、太郎をあんたにやる。

その代わり、あんたが負けたら、ここから出て行けと言うのであった。

その条件に頷いた美代子は、その夜から一人、猛特訓を始める。

空き缶を並べて、次々と、「フーミン」の似顔絵を書いた紙を的にして当てていったり、スティックを振る風圧で、遠くに並べた蝋燭の火を消すなどと言う練習だった。

やがて、フーミン対みよちゃんの特別試合が始まる。

いつものように、先に美代子が打ち、止まったボールを、フーミンの「フーミンスライダー」が襲うが、美代子が放った「気」の力により、美代子のボールは一人で動き、フーミンスライダーを交す。

あっけに取られるフーミン。

美代子が、フーミンのボールと自分のボールを接触させ、一気に弾く「スパーク」をやる事になる。

フーミンは、バカにしながらタバコをくゆらせてみていたが、美代子が放ったスパークで弾かれたフーミンボールは炎となって、そんなフーミンの額を直撃し、フーミンは泡を吹いて昏倒してしまう。

それを見ていたチームメイトたちは驚いてフーミンの身体を抱え上げ、病院に連れていくが、 まだ地面で炎をあげ続けていたボールは、何故か突如爆発し、公園は火の海になる。

残っていた太郎は、美代子の名を叫びながら、炎の中、彼女に近づくと、しっかりその場で抱擁する。

美代子が、太郎の自分への愛を感じた瞬間だった。

その後二人はラブホテルへ直行し、抱き合うが、太郎は、美代子が初体験だった事をそこではじめて知るのだった。

「3巻へ続く…」

郵便配達員は、又慌ててタンスの中を探しはじめる。

ようやく3巻が見つかり、読みはじめると、そこに書かれていたのは、エロ小説のような官能シーンばかり。

自分で描いたと思しき挿し絵も、下手なエロマンガタッチで、さすがにそんな描写の連続で飽きた配達員は、急いで次の4巻を探す。

4巻も、まだまだ官能シーンの連続だった。

嫌気がさし、急いで5巻を探す配達員。

ようやく5巻では「そんなある日の事…」と、まともな事が書かれていた。

すっかり派手なミニスカート姿で、太郎と町中をデートしていた美代子は、覗き部屋の呼び込みをやらされているマロとマサルの姿を見つける。

美代子は、彼らと少林寺で過ごしていた日々の事を一瞬思い出す。

その場は知らん振りをして通り過ぎた美代子だったが、いつものようにホテルで抱き合った後、太郎から結婚を申込まれても黙っていた。

すでに、同棲をはじめていた二人だったが、翌日太郎が気付くと、テーブルの上に置き手紙があり、美代子が消えていた。

そこには「今の私には、結婚する前に、自分のプライドのためにどうしてもやらなければいけない事がある。これまで自分の事しか考えていなかったが、今こそけじめをつけなければいけない。終わったら必ずここへ戻って来る」と記されてあった。

その後、山の中で、独り黙々と修行を重ねる美代子の姿があった。

しかし、美代子には、こんな通常の練習では、あの一本足を倒す事は出来ないと分かっていて悩む。

そんな美代子が何気なく目に止めたのは、リュックに入れて持って来たゲートボールのスティックだった。

新技のヒントを得た美代子は、修行を再開し、岩場の上で「ロッキー」のように両手を空に掲げて飛び跳ねるのだった。

後日、町中で呼び込みを続けていたマロとマサルの前に、修行を終えた美代子が黙って立つ。

その姿を見た二人は、互いに頷き、黙って立ち去りかけた師匠の後を追う。

彼らが到達した場所は、勿論かつての住処だった「少林寺」だった。

少林寺では、今や、一本足の元で弟子たちが修行を続けていたが、突如、石段の下から、覗き部屋の呼び込みの声が響いて来る。

黒人が覗き込むと、下に立っていたのは、あの美代子と弟子二人だった。

石段を上がって来た美代子に、黒人が挑みかかるが、簡単に倒されてしまう。

修行をし直して来たと見抜いた一本足は、直ちに、美代子に襲いかかる。

二人は、鐘楼に登って戦い続ける。

一本足は、鐘に頭を打ち据えられるが、一本足の蹴りで美代子を地面に叩き付ける。

立ち上がった美代子は鼻血を出していたが、にやりと不敵な笑みを浮かべて一本足を見上げる。

一本足は、再び、片足をゆっくり回転させて相手に目を欺く技を仕掛けて来るが、今の美代子には完全に見切っていた。

相手の蹴りの、一瞬早く空中に飛び上がった美代子は、ゲートボールスティックを取り出すと、空中でボールを一本足に向って打つ。

それは炎となって一本足に襲いかかるが、美代子の蹴りでからくも跳ね飛ばすと、そのボールは、一旦気が付いた黒人に当って、又気絶してしまう。

一本足は、さすがに相手の実力を認め、倒すために、これまで誰にも見せた事がない「奥義」を披露してやると言い出す。

それは、身体をスピンさせながら相手に飛びかかると言う技であったが、美代子はあっさり交し、地面に落ちた一本足の首を挟むように、ゲートボールの枠を刺して動きを封ずると、その頭部にゲートボールスティクを叩き付けようとする。

その瞬間、一本足が思わず「参りました!」と負けを認めたので、美代子は寸止めでスティックの動きを止める。

美代子の元に、かつての弟子たちが駆け寄って来る。

その後、一本足は美代子の弟子となり、美代子は少林寺の弟子たちの前で、太郎との結婚式をあげる。

真っ白なウェディング姿を披露した美代子は結婚生活に入るため少林寺を引退し、寺は一本足が継ぐ事になる。

しかし、その結婚生活は長く続かなかった。

太郎のワイシャツに女の口紅が付いている事を発見した美代子だったが、それは電車の中で付いたんだとごまかす太郎は、結婚した一週間後から外泊が増え、やがて帰ってこなくなった。

そして離婚届だけが送って来たのだった。

又孤独になった美代子だったが、これまでの人生に悔いはなかった。

巻物の最後には「少林寺を辞めて 後は色々 悔いはなし」と辞世の句が記されてあった。

そこまで読んで来た配達員は、泣きながら、生きていたら、自分もあんたの弟子になりたかったよと呟くが、ふと見ると、そんな美代子の身体が動きだしたではないか!

どうやら、死んでいたのではなく、昼寝をしていただけらしい。

驚いて口が聞けない配達員。

無言のまま起き上がって、配達員の方に近づいて来る美代子。

恐怖にかられた配達員はホウホウの態で玄関に逃げ出し、自転車に乗り込もうとするが、一瞬遅く、追い掛けて来た美代子に首を捕まれ、ひねられてしまう。

首の骨が折れる乾いた音が響いた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

低予算で短時間に作られた「少林少女」のパロディ…と言うか、一種の冗談映画だと思うが、退屈だった本家に比べると、意外にまともなカンフーパロディになっていて、本家より面白いとも言える。

少なくとも「カンフー映画」のセンスは、こちらの方が正しく理解して作っているという感じがするのだ。

敗北、逃亡、自堕落、悟り、再挑戦、勝利…と言う基本的なスポーツ映画展開の要素をきちんと守っているので、色々、途中でバカバカしいネタを交えていても、最後まで安心感があるのは確か。

「少林少女」では、柴咲コウが動いているように見せるためCGを多用していたが、これが逆に「全くカンフー映画らしく見えない」リズムと映像になっていたのに対し、「少林老女」の方では、巧みなスタントを使っているので、柴咲コウよりもさらに動けないヒロインを使っている割には、少なくとも「低予算カンフー映画」には見える。

カンフー映画において、低予算である事はマイナスではない。

多くのカンフー映画は、低予算の中で創意工夫を凝らし、面白さを見い出していたジャンルだったからだ。

さらに、この作品では、ワイヤーアクションやCGなど今風の技術もしっかり利用しており、最低限アクションの「ツボ」は押さえてある感じがする。

階段落ちのシーンなどは、スタントが身体を張った生身の迫力で驚かされたりもする。

エンディングでメイキング映像を流すなどと言った趣向なども、カンフー映画ファンにはにやりとする所だろう。

笑いに関しては、ナイナイ岡村とダチョウ倶楽部上島竜兵のどちらが面白いか?と言う極めて低次元な比較論になる恐れもあるが、少なくとも「くだらなさ」においては、こちらの方が徹底しているように思える。

スポーツ要素としてゲートボールが出て来るので、つい、円谷プロ作品「勝利者たち」(1992)を思い出したりもするが、今や、かつて円谷プロがやっていたCGテクニック以上の事が、このレベルの作品でも簡単に使える時代になったと言う事が分ったりもする。

青春スポーツものとしても、喜劇としても、カンフー映画としても、「外しまくっていた印象がある」「少林少女」に強い不満があった人には、これはある意味、溜飲を下げる部分もある作品ではないだろうか。