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深海獣レイゴー

2008年、とりうみけいた脚本、林家しん平原作+企画+脚本+監督作品。

※この作品は新作ですが、最後まで詳細にストーリーを書いていますので、御注意下さい。コメントはページ下です。

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昭和12年11月4日、戦艦「大和」起工。

大正11年2月26日に結ばれたワシントン海軍軍縮条約の前年末での失効に伴い、無条約時代になったため、日本が諸外国に負けない世界最大級の戦艦を目指して大和は考案された。

鮫が海を泳ぐ。

タイトル

海の下から海面に浮上する怪しい巨大生物の影。

昭和16年、大和竣工

大迫登(蛍雪次朗)は、妊った妻のみどりと近くの神社に、安産祈願に出かける。

大迫は神様に、生まれて来る子供が男の子であるように願をかけ、みどりを呆れさせていた。

みどりが願ったのは、勿論、大和に乗ってこれから出航する夫、大迫の無事帰還であった。

同じ頃、やはり大和に乗る海堂猛(杉浦太陽)は、幼馴染みである小島千恵(七海まい)と海岸で、つかの間の別れを楽しんでいた。

それは、二人にとって甘酸っぱい恋人同士の別れでもあった。

自宅に戻った海堂は、祖母の作ったおはぎを5、6個も食べ終えた後、死んだじいちゃんに習った手旗を祖母に教えてやろうと渡すが、祖母も手旗信号くらいできると言う。

翌朝、出航した大和に向けて、岸から必死に手旗を振る祖母の横には千恵も手を振っており、甲板上の海堂が見えなくなると、千恵は祖母に抱きついて泣き出すのだった。

イルカが泳ぎ、ヤドカリが歩く南の島、トラック島に停泊する事になった大和の船内。

砲兵大迫は、日章旗を顔にかぶして、こっそり島の女モモカ(林由美香)を船内に連れ込もうとしていた。

ようやく二人きりになれたと日章旗を取ってみると、中から現れたのは無気味な老人(ミッキー・カーチス)だった。

後から部屋に入って来たモモカに聞くと、どうしても話があると言って付いて来たのだと言う。

その老人は「あいつが戻って来たんじゃ…、レイゴーじゃ」と、意味不明な事を大迫に言い出す。

大迫が戸惑っていると、「怖い魚、光る魚、骨だらけの魚、その魚が出ると、レイゴーが出る」と老人は続ける。

レイゴーとは何だと聞くと、レイゴーは龍で、この島は龍の島なのだと言う。

いい加減面倒臭くなった大迫は、その老人を部屋から追い出して、モモカと抱き合う事になる。

大和の甲板では、山神長官(黒部進)が、船員たちに訓示を垂れていた。

さらに、下士官の(アゴ勇)が、最近、船内で賭け事をしている者がいると目を光らせると、心当たりがある大迫は列の中で固まってしまう。

その頃、本土では、千恵の同級生たちが一緒に歌を唄いながら帰っていたが、千恵のカレシが大和で出現している事を思い出すと、ちょっと同情した後、又彼女を元気づけるために歌を唄いはじめる。

トラック島の海上は、しごく穏やかだった。

その時、遠くにスケルトン級の船影らしき影を発見、大迫は、それに向けて大砲を発射する。

弾は見事に着弾命中するが、水しぶきの色も赤く濁り、悲鳴のような声が響いて来たので、大迫たちは不思議がる。

しかし、とにかく敵船を撃沈したと言うので、山神長官から酒が水兵たちに差し入れされ、その夜は無礼講を許される。

すっかり酔って上機嫌になった大迫は、仲間たちに、老人から聞いたレイゴーと言う龍の話をする。

皆興味深そうに聞くが、本当かと尋ねられた大迫は、少し考えた後、嘘じゃろうと結論付ける。

さらに大迫は、今度生まれて来る子供の名前はすでに決めており「大迫力(つとむ)」にするのだと発表する。

その頃、一人の水兵が酔って甲板に出、海に向って戻していたが、その時、海に浮かんだ漂流者を発見する。

救助してみると、それはアメリカ兵で、遅れて駆け付けて来た大迫が名前を尋ねると、ノーマン・メルビル少佐だと、日本語で言うではないか。

大迫たちは酔った勢いもあり、そのアメリカ兵をいたぶろうとするが、そこのやって来たのが山神長官で、日本にもシップマン精神があるのだから、捕虜として紳士的に接してやれと取りなす。

その後、見張りの水兵が、海面に不思議な光を見つけ不審がるが、次の瞬間、謎の生物が水兵たちに襲いかかる。

そこに通りかかったのが海堂少尉で、甲板に光る魚がいるとの負傷兵の言葉に驚き、現場に駆け付けると、そこには無惨にも食いちぎられた、見張り兵たちの身体の残骸が残っているだけだった。

死亡2名、行方不明者16と言う思わぬ惨劇に見回れた大和作戦室では、現場を唯一目撃した証人として、海堂少尉が呼ばれていた。

さらに深夜、大和周辺の海面に落雷がある。

そんな中、大迫は、捕えたアメリカ兵を尋問していた。

聞くと、彼も戦艦の砲兵をやっていたが、ボーンフィッシュと言う謎の光る魚に襲われた後、巨大な生物に船が襲われて沈没したのだと教えられ、驚いた大迫は、それを山神長官の元に知らせに行く。

夏島の老人から聞いたレイゴーと言う龍の話と符合すると伝える大迫に、一緒に呼ばれた海堂も、あれは7〜80mはあったと補足する。

山神長官は、謎の生物に付いて気にはなっていたが、明日、自分はラバウルに出かけなければならない事もあり、留守中の事を三田に託す事にし、この際、謎の生物への対抗策を考えるため、階級をなくして、自由闊達な意見を言い合うように提案する。

翌日から、夜中に大和の甲板に出るのは禁止される。

大迫や海堂も出席して、階級を超えた会議が行われていた。

毒を飲ませてはどうかと一人が提案するが、その毒はどこから調達すると別の男が反論する。

結局、会議は終始がつかなくなり、最後には、ゆきかぜの艦長がキレて怒鳴り出す始末。

戻って来た山神長官は、会議の様子を聞いて、階級をなくした事がかえって逆効果だったかと苦笑いした後、巨大なウロコと、歯形がついた残骸と言う、この地方に伝わる謎の龍の証拠を見て来たと話し出す。

そして、二日後には内地より輸送船が到着すると言う今、できれば、その龍に出て欲しくはないのだが…と心配するのだった。

その頃、自室で、千恵の写真を見ようとしていた海堂は、突然入って来た友人にそれを見つけられからかわれる。

やがて、輸送船団が到着する。

そこへ、恐れていたレイゴーが出現する。

海堂が、山神長官に報告する。

山神長官は、音源で敵の位置を探り、直ちに攻撃せよと命ずる。

やがて、船団の一隻がレイゴーによって破壊されるが、近距離に出現したレイゴーには、大和は何も出来ない事が分かる。

その後、山神長官に電報が届き、それを読んだ長官は、思わず机に置いてあったカレーをスプーンでつっ突き、やがて、そのスプーンを右手で高く掲げるのだった。

大和の長官は、山神から信任の松田に交代する。

新艦長の松田は、海洋生物学の研究をしていたと言う変わり者だった。

今回のレイゴーはどのような生物なのかと部下たちが質問すると、深海生物だろうと松田は答える。

アイパッチをしている潮は、夜間しか動かない生物なのなら、昼間こちらが動けば良いだけではと意見をだし、松田艦長は、レイゴーは強い光を嫌うが、相反して、光に吸い寄せられる性格も持っているようなので、探照灯でおびき出して攻撃をしたらどうかと提案する。

その頃、食堂で燻っていた海堂たちは、いまだに新艦長の顔さえ知らされていない事に不満を言い合っていた。

大和の下で潜行していた伊号潜水艦は、レイゴーらしき姿を確認、その後、撃沈されてしまう。

それを知った船団は、大和を中心に体型を作り、レイゴー出現に備える。

潮は、機雷の投下を命じるが、やがて駆逐艦諸共、レイゴーにやられてしまう。

大和も砲撃を開始するが、やはりレイゴーが艦に近すぎるため、どうする事も出来なかった。

あまりの大和の無力さに、海堂はいらだちをつのらせる。

そんな時、海堂は、松田新艦長から呼ばれる。

はじめて新艦長の顔を見た海堂は仰天する。

大学時代の恩師、松田教授ではないか!

松田は旧交を暖める間もなく、海堂が以前発案していた、大和の吸水管から水を排出し、艦を傾けて、主砲を水面に向けて直接撃ち込んだらどうかと言うアイデアを聞かせてくれと頼む。

しかし、海堂は、そんな案は実現性に乏しいと自ら否定し、一緒に聞いていた大迫もバカにする。

その後、自室に戻った海堂は、千恵から届いた葉書が、ほとんど検閲で塗りつぶされている事を知りがっくりしていた。

手紙には、内地にいる千恵は、海堂の祖母の面倒を見ながら将来花嫁になれるよう毎日努力していたが、一目でも海堂に会いたいと言う気持ちが綴られていたが、それを海堂が読めるはずもなかった。

そこに連絡が入る。

ボーンフィッシュが出現し、その後からレイゴーも姿を現したのだ。

レイゴーは海面からジャンプし、大和の真上を飛び越える。

その際、落雷があり、砲兵たちは、全身感電して大火傷を負う。

大迫は何とか一命を取り留めたが、仲間が目の前で息絶えるのを目撃する事になる。

海堂を呼んだ松田新艦長は、何とか君の作戦で戦えないか?このままでは艦隊が危ないと伝える。

松田の思いを知った海堂は、作戦を実行してみる事にし、艦内放送を使い、我々はこのまま負ける訳には行かないと水兵たちに激を飛ばす。

しかし、それを聞いた大迫は、まだ海堂の計画など信用していなかった。

そこに、今度は、松田新艦長の声が響いて来る。

我々は、自然の力を全て知っている訳ではない。今、勝てるとすれば、この作戦しかない。この松田に命を預けてくれと言う言葉を聞くと、さすがに大迫も何も言い返せなかった。

松田は、これを「A-140F6 深海獣零号作戦」と名付ける。

その直後、海堂に大迫から電話が入り、主砲の事は俺に任せろと力強い言葉が響いて来たので、海堂も思わず「ありがとうございます!」と礼を返す。

大迫はふと思い付いて、幽閉していたアメリカ兵ノーマン・メルビルを主砲室に連れて来る。

駆逐艦「雪風」が爆雷を投下しはじめるが、レイゴーが迫り、「雪風」を破壊する。

そして、あろう事か、雪風艦長村西の身体を空中に弾きあげると、喰ってしまうのだった。

大和は注水を開始し、甲板が傾きはじめる。

上空を向いていた主砲も段々角度を下げ、やがて、海面に水平近くまでなる。

主砲が発射されるが、一番砲、二番砲となかなかレイゴーに当らない。

最後の頼みの綱と思われた三番砲は、何と不発であった。

レイゴーはさらに大和に接近し、もはや残された主砲は一つしかなかった。

それを大迫やメルビルらが発射する。

弾は見事にレイゴーに命中し、レイゴーは動きを止める。

一瞬、信じられないような沈黙が主砲室にあったが、やがて、本当に勝った事に気付き、全員抱き合って喜ぶ。

松田たちも大喜びだった。

甲板に出た海堂は、すでに海面に浮いているだけのレイゴーに対し、全艦、機銃掃射を浴びせ続けているのを見て、このまま死なせてやりましょうと思わず止める。

大迫も甲板に出て来てレイゴーの様子を見ていると、やがて息絶えたレイゴーの身体は海の奥深く沈みはじめる。

それを見ながら、松田新艦長は、みんなで力を合わせなければ勝てなかったと呟く。

昭和20年3月26日、大和に「天一号作戦」が下り、7月7日、大和は沖縄への特攻に向うが、敵潜水艦にその作戦は全て傍受されており、大和は、敵の急襲を受け、あえなく海の藻くずとなってゆく。

死んでゆく水兵たちの顔は、皆、歌舞伎の隈取りのように変化してゆく。

海堂も千恵の名前を呼びながら死んだ。

海面には、千恵からの手紙が浮かぶ。

大和が沈む際、その背後に巨大なレイゴーの姿がダブって見える。

戦争が終わり、神社に詣り、帰る千恵とすれ違ったのは、母親みどりに手を引かれて神社にやって来た大迫の息子、大迫力(つとむ)だった。

その右手には、紐に縛った亀が握られていた。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

怪獣好きが高じて、自分一人で怪獣映画を作ってしまったと言う、驚異のインディーズ映画。

完成までも紆余曲折あり、完成してからも、公開までに何年もかかったと言う曰く付きの映画でもある。

映画自体の印象を言えば、さすがに同監督の前作「ガメラ4」よりは映画らしく仕上がっており、 それなりに観れる。

ただし、しょせんインディーズなので、場面場面を抜き出すとチープなのは当然で、あれこれ言い出せばきりがないが、役者さんたちは皆真面目に演じているし、監督も必死になって撮っている(一応、プロの助監督がサポートしている模様)様が想像できるので、そのマニアの熱気は伝わって来る。

全体的に「劇画調(監督に言わせると、怪獣映画は劇画だそうだ)」と言うか、シリアスタッチで貫かれており、幼児向けを意識した近年の怪獣ものとは一線を画しているような感じ。

個人でこれだけのものを作り上げたと言う情熱には正直頭が下がる。

ただ、これが何か、次のムーブメントを起こしそうかと言えば、そう言う事はないと思う。

明らかに「時代錯誤」「70年代頃に作られたような昭和映画風」以上のものではないからだ。

「ゴジラ」と「ガメラ」をこよなく愛する監督のマニアとしての思い込みは理解できるものの、その趣味性に拘泥するあまり、少しも新しさは感じられない。(大和への思い込みなども、紋切り型と言うしかない)

特撮に関しては、全長180cmくらいの骨格が入った造型物を、グリーンバックの前で棒操りの要領で撮ったものと、後はCGの組み合わせ方式。

そのCGも、予算の関係で、プロにやってもらった部分と、「ガメラ4」の時にCGを担当した、鹿児島在住の美術の先生が自宅のパソコンで作ったものの併用らしいので、クオリティにばらつきがある事も確か。

しょせんパソコンレベルだな…と思っていると、急に、おや?と思うような高度な素材(爆発とか水柱など)が合成されていたりする。

本編の方で言えば、主役は一応杉浦太陽(何故か、茶髪のままで大和の乗組員を演じているのが気になるが)なのだが、カット数的には、螢雪次朗さんの方がワンカット多いらしく、観ている印象も「大迫力(おおさこ つとむ)の父親」が主役のように見えなくもない。

どちらもなかなか熱演している。

別に、主役はどちらでも良いのだが、「大迫力(つとむ)」と言う、平成ガメラシリーズの役名をそのまま他人が使って問題はないのか?と言う懸念はある。

レイゴーが、明らかに「ゴジラ」そっくりなのも、どうかと思うし…(最初、雨宮慶太氏のデザインは、あまりにも雨宮色が強く、頭の上に狐が付いてたりしたので、原口さんが難色を示し、7、8点描き直してもらう内に、雨宮氏が昔どこかに載せた「水棲ゴジラ」のようなパターンで…と言う事になったらしい)

ベテラン、ミッキー・カーチスの存在感(おそらく天本英世の雰囲気を狙ったのだろう)も印象的だったが、意外にもアゴ勇の真面目な演技も良かった。

上映後のトークショーによると、最初、とある会社と組んで製作に入ったものの、編集段階で、その会社が傾いてしまい、1年半休止状態。

ようやく次の会社が見つかり、何とか完成に漕ぎ着けたものの、しん平師匠は、1年間も落語の高座を空けて撮影に専念してしまったので、落語家としての信用がなくなり、さらに4ヶ月ほど仕事が入らなかったそうで、その間、力仕事のバイトで喰い繋いだり、離婚されたりと、波瀾万丈の怪獣人生を送られたとか。

監督とプロデューサーがしろうとだったため、予算など相手方の言いなりに払っていたら、結果的にボラれていたようで、何やかやで1億近い予算がかかったらしい。

ちなみに、大和の注水を利用し、甲板を傾ける事ができると言うのは実際にできるのだそうだが、主砲が自重に耐えるか、それを動かすギアが壊れないかなどについては自信はないとのことである。