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逃がれの街

1983年、日本テレビ+田中プロモーション、北方謙三原作、古田求脚本、工藤栄一脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

馬券を買いに行かせていた弟分の米倉(島田紳助)が、5000円分ワールドハッピー買ったと報告に戻って来る。

2000円分と頼んでいた兄貴分の水井幸二(水谷豊)は、その勝手な行為に呆れながらも、一緒に電器店のディスプレイ用テレビに映し出される競馬中継を観て、メグロオーシャンを応援する。

二人の仕事は、電気製品の回収業だった。

勤め先である共栄デンキに戻って来た二人に、仲間が飲みに行こうと誘う。

給料前の米倉は、一食浮くと、その誘いを喜ぶが、兄貴の水井が断わって先に帰ろうとする姿を見て、慌てて後を追って来る。

水井は、飯代として金を米倉に渡すと、寂しがる米倉を残して独り帰ってしまう。

水井はその後、恋人遠藤牧子(甲斐智枝美)とホテルで抱き合っていた。

水井は恋人に、そのうちギリシャの大富豪オナシスが持っているようなすごいヨットを買いたいと夢を語る。

その夜、アパートに帰宅して寝ていた水井に、突如、昔、一緒の上京した旧友の沼田(平田満)から「会いたい」との電話が入る。

雨の中、公衆電話から電話をしていた沼田は「人を殺した」と意味不明な事を言うが、すぐに「冗談だよ」と言って打ち消すが、その靴は血にまみれていた。

朝が早い水井は内心迷惑に感じながらも、一応、部屋の鍵を開けておくから…と、沼田が来るのを拒まない返事をする。

その後、部屋にやって来た沼田は、店を辞めたと言いながらカップラーメンを作ろうとするが、電気をつけてみた水井は、沼田が首筋に怪我をしている事に気付く。

それでも、気にせず眠った水井は、翌朝、酒を飲んで夜明かししたらしい沼田から、酒を顔にかけられ目を覚ます。

何故か、ハイになっている沼田の態度に切れた水井は、部屋の中で取っ組み合いの喧嘩をやってしまい、沼田を追い出す。

その日、米倉と一緒に回収の仕事から会社に戻って来た水井は、待っていた先輩のおっさんこと中山(田中邦衛)から、今日サツがやって来て4時頃に一旦帰ったと教えられる。

しかし、何の心当たりもない水井は訝っていたが、そこに矢部刑事(小林稔侍)が再びやって来て、ちょっと署まで来いと水井を連れて行く。

署では、沼田が仲間と二人でパブを襲い、人を殺して金を盗んで逃げたのだと説明される。

夕べ9時から11時まで何をしていたと聞かれた水井は、遠藤牧子と言う女と一緒にいて、12時前にアパートに帰って来たと答える。

牧子との連絡方法は電話でしか知らないと、刑事に電話番号を教えた水井だったが、やがて、担当の黒木刑事(夏木勲)に、アパートを家捜ししていた刑事が、血の付いた服を見つけたと報告に帰って来るし、さらに、教えられた電話にかけてみた牧村刑事(本田博太郎)も、その電話に出たのは三谷悦子と言う16才の子供で、しかもその少女はお前なんか知らないと言っていると戻って来る。

さらに、事情聴取していた沼田がゲロしたと言う事で、訳が分からないまま、水井はそのまま留置されてしまう。

水井に遠藤牧子と名乗っていた三谷悦子は、ある日、学校から帰宅すると、母親の愛人でやくざの渡辺(財津一郎)が裸のまま慌てて洋服ダンスの中に逃げ込み、服を着るのに気付いていたが、知らぬ振りをして、ピアノの月謝代として1万5000円を母親の絹代(草笛光子)に要求する。

その後、仮釈放された水井は、迎えに来た中山と共に会社に戻り、喜んだ米倉から「お勤め御苦労さんでした」と、妙な挨拶をされる。

しかし、警察沙汰に巻き込まれた水井は、いつの間にか配置替えをされており、もうトラックに乗る仕事はさせてもらえなかった。

主任の八田(阿藤海)にその事を確認しに行くと、逆ギレされ、中山と共に、ガラクタの廃棄をやらされる。

そんな仕事に戻った水井の元だったが、また黒木と牧村が姿を見せたりするので、主任の八田は露骨に迷惑顔をする。

そんな八田の態度をふて寝して無視していた水井の態度にキレた八田は、自分が社長に口利きをしてやったから、お前は会社に残れているのだ。普通だったらお前なんか首だ!このムショ帰り!とののしりながら殴り掛かって来る。

八田は元6回戦ボクサーだったのだと、血まみれになり倒れた水井を助けながら、同じく元ライト級で10回戦ボーイだった中山が教えるが、水井は「おっさん、世話になったな」と言い残して立ち去ろうとする。

水井が会社を辞めると直感した中山は、お前は仕事をなくすって事が良く分かってないようだが、せめて世話になった社長にだけは挨拶をして行け。今後も逃げるように仕事を辞めるんじゃないと忠告するが、水井は何も答えなかった。

その後、水井のアパートに、遠藤牧子が家出して来たとやってくる。

水井は、彼女が16だった事を黙っていたり、警察からの電話に、自分を知らないなどと答えた理由を聞くが、牧子は、ママや学校に知られたくなかったからと答えた後、男なんて大嫌い!みんなひどい目に会えばいい!とぶっきらぼうに答える。

たまらなくなった水井は、そんな牧子を襲おうとするが、牧子は自分から服を脱ぎ、優しくしてくれなきゃ嫌…と甘えかかる。

それからの二人は、スーパーでの万引きなどで食い繋いでいたが、水井はそんな生活に嫌気を感じ、これからは俺が食わしてやると牧子に伝える。

そんなアパートの部屋にノックの音がし、水井が出てみると、見知らぬ中年男が立っている。

絹代から依頼され、牧子を連れ戻しに来たやくざの渡辺だった。

あの女の父親代わりだと名乗った渡辺を無視する牧子。

水井は、そんな渡辺を追い返そうとするが、渡辺が隣近所に聞こえるよう、わざと廊下で大声を出し始めたので、仕方なく牧子は帰る事にする。

金がない水井に財布を渡すと、今度の月曜の夜に電話をくれと言って、渡辺に付いて帰る。

その後、運送会社に就職願いに出かけた水井は、その場で採用され、月曜日から来るようにと言われる。

仕事も決まり、月曜日の夜、約束通り、牧子に電話した水井だったが、相手が出ても何も言わずに切るので、思いきって牧子の家に出向いてみる。

すると出て来たのは渡辺で、部屋の中にいるらしい牧子から「二人で解決して!私はどっちでも良いから」と声だけ聞こえて来る。

どうやら、牧子は、渡辺とも関係があるらしい。

そのまま、渡辺と共に表に出た水井は、道路の脇でこてんぱんに殴られる。

一旦倒れた水井は、帰りかけた渡辺に後ろから殴り掛かろうとするが、あっさり交され、又殴られ、踏みつけにされてしまう。

翌日、水井は一人で、バッティングセンターでボールを打ちまくっていた。

その夜、雨のそぼ降る無人の公園に渡辺を呼出した水井は、相手から金を渡されそうになりかっとなる。

水井は、ベンチで、渡辺の右手の平を打ち付け、相手の指はちぎれかかる。

その後、さらに執拗に近づいて来た渡辺の頭部を石で強打すると、渡辺は、噴水の中に頭を沈め絶命してしまう。

水井は、真っ赤に染まった噴水を見て恐怖にかられ、その場を逃げ出すのだった。

翌日、水井のアパートを牧村刑事が一人で訪ねて来る。

水井は、血で汚れたシャツを玄関に脱ぎっぱなしだったので、急いでそれを冷蔵庫に隠し、ドアを開ける。

牧村の要件は、沼田が全面自供し、バーテンと一緒に犯行に及んだ事を話したので、その男を調べたら、盗まれた170万円を持っていた事が分かり、水井が無関係だった事が確認出来たのだが、すでに水井が職を辞めていた事を知り、手みやげ持参で謝りに来たのだった。

それを聞いた水井は、何故、沼田は俺を仲間だと言ったのだろう?と問うと、何か怨まれていたのだろうと牧村は答え、そそくさと帰って行く。

一人になった水井は、自分の皮肉な運命に笑いはじめ、部屋の中で逆立ちをする。

一方、牧子の方は、母親の絹代と喧嘩をして家を飛び出ると、そのまま水井のアパートにやって来るが、水井はドアを開けようとはしなかった。

それでも、最後には中に入れてもらった牧子は、母親から奪って来た小切手を見せて、一緒に逃げようと言い出す。

水井は、牧子が渡辺の女になっていた事を責めるが、牧子は、水井に渡辺が呼出されて殺された事を気付いていたので、それを警察に言うと逆襲する。

水井はそんな牧子の態度に、俺はお前の道具じゃないとキレて、部屋から追い出してしまう。

水井は、その後、何度もかかって来る牧子からの電話には一切出ようともせず、畳の上に転がっていた。

ある日、公園の階段で独りファーストフードのポテトを食べていた水井の側に、一人の子供が近づいて来る。

親がいないようなので不審がるが、親は?と聞いても、迷子になったのか?と聞いても首を振るばかり。

取りあえずその子にフライドポテトを与え、水井は立ち去ろうとするが、何故か子供は付いて来る。

水井は仕方なく、宏(阪本浩之)と言うその子供をアパートに連れ帰る事にする。

その頃、牧子は、渡辺の所属していた組の連中から拉致され、渡辺を殺した相手の名前を聞き出そうとする。

そのやくざたちから、とある駅の構内に呼出された水井は、宏も捕まっている事に気付く。

子供は関係ないからと、宏を取り戻した水井は、短刀を抜いて逃げようとするが、やくざたちに囲まれ、仕方なく戦いはじめる。

一人人を殺している水井の迫力に、経験のないやくざたちは押されがちになり、とうとう日本刀を持ったやくざを刺すと、水井は懸命に逃げ出す。

その夜、宏をおぶった水井は、中山の家を訪れ、一晩だけ、この子を預かってくれと頼む。

気が付くと、中山の座敷には、かつて子分だった米倉が寝ており、中山が言うには、水井が会社からいなくなって以来、酒浸りになり、今や急性肝炎になっているのだと言う。

現状を聞こうとする中山を無視し、取りあえず、宏を無理矢理押し付けるようにして中山に託すと、水井は立ち去ってしまう。

アパートに戻った水井は、小銭をためていた瓶を包丁で割り、中身を取り出すと、スーツを着込み、夜の街に出向いて駐車中の車で鍵がかかってないものを探しはじめる。

なかなかめぼしい車が見当たらなかったが、やがて酔った女を乗せた車が近づいて来て、気分が悪くなった女を外に連れ出した運転手の男が介抱する様子を観ていた水井は、素早くその車に近づくと、運転席に座って車を発車させる。

翌朝、再び、中山の家を訪れた水井は、一睡もしなかった様子の中山から、預けていた宏を受取ると、車に乗り込もうとするが、その時目を覚ました米倉が水井の姿に気付き、自分も連れて行ってくれと必死に車にすがりつこうとする。

中山はそんな米倉を止め、水井は宏と共に車で立ち去るが、諦めきれない米倉はバイクに跨がると、その後を追跡しはじめる。

中山は、そんな米倉の背中に向けて「死ぬぞ!お前」と叫ぶだけだった。

米倉を振り切った水井は、とある港に到着する。

ヨットハーバー側の堤防に座り、宏と海を見ていた水井は、小さい頃から海の側に住みたかった。小さなヨットで良いから買いたかった…と夢を語る。

でも、ヨットなんて、自分のような者には手の届かないものだと言う事も今では理解していた。

何かを振り切るように、水井は宏と一緒に、ヨットハーバーで銃撃ごっこに興じはじめる。

一暴れして地面に倒れ込んだ後、宏が山が見たいと言い出したのを聞いた水井は、それが日本アルプスの事だと確認すると、信州が宏の故郷だと気付く。

宏を故郷に連れて行く事を決めた水井は、車で出発するが、その途中で、エンコしたバイクの側に座り込んでいた米倉と遭遇する。

運転席から「東京に帰れ!」と叫び、そのまま立ち去った水井だったが、米倉は必死に後を追おうとするが、体調の不調を感じ苦しみ出す。

道路脇の荒れ地にたどり着いた米倉は、その場に倒れると、「兄貴…、おれさびしいねん、一人にせんといてくれ…」と呟く。

その頃、宏に立ち小便をさせるため停車していた水井は、米倉の事がやはり気になり、彼がいた場所に戻ってみる事にする。

バイクは見つけたが、米倉の姿はなく、道路脇を探している内に、倒れている米倉を発見。

しかし、その息はもう絶えていた。

水井は、その遺体の周囲に枝木を積み上げると、その場で火をつけ、火葬にした後、立ち去るのだった。

その頃、水井の住んでいたアパートの部屋を訪れていた黒木刑事は、部屋の中から漏れて来るガスの匂いに気付き、ドアを蹴破って中に入ると、そこで倒れていた牧子を発見する。

水井の車は、スキー場のある信州の山にやって来ていた。

町はちょうど、選挙運動の真っ最中のようで、選挙カーが走り回っている。

宏が訪ねる鈴木勝一(小池朝雄)と言う人物も、そうした選挙事務所の親分として忙しい様子だった。

東京の病院では、入院させた牧子から、この十日間、水井と会った事を話してくれと、黒木刑事が頼んでいた。

鈴木が選挙運動をしている事務所に宏を連れて入った水井は、四歳の子供を東京から連れて来たと渡そうとするが、露骨に迷惑顔をした鈴木は、事務所の横にある自宅から妻の多美江(絵沢萠子)を呼んで来て対応させる。

自分は宏の伯母だと名乗った多美江は、宏は借金を作り、サラ金に追われて一家心中した真二の子供で、施設に預けていたのだと、水井に事情を打ち明ける。

水井が「引取ってくれますね?」と聞くと、それだけは勘弁してくれ、今は大堀健三と言う人物の選挙の応援中であり、変な噂を建てられたくないのだと金を渡そうとする。

水井はもう一度、事務所にいた鈴木に会いに行き、宏を引取るよう交渉するが、事務所にいた若い衆から追い出されてしまう。

宏と共に雪の中に取り残された水井は、泣く宏をあやし、今夜どこに泊まるか思案しはじめる。

その夜、水井は鍵にかかった無人の別荘の一つに忍び込む。

そして、深夜、鱸の自宅に忍び込みに戻った水井は、就寝中だった鈴木夫妻を叩き起こし、短刀を見せながら宏の養育を迫る。

鈴木は、後2〜3年、あの子の面倒を見てくれないかと水井に頼むが、聞き届けられそうにもない事を知ると、金庫から金を出す振りをして、中に隠していた拳銃を取り出すと、急に水井に向けて発砲する。

驚いた水井は一瞬怯むが、弾が当らなかったので、鈴木を殴りつけ、持っていた拳銃を奪い取るとその場を逃げ出す。

翌朝、鈴木から連絡を受けた警察が選挙事務所にやって来ていた。

その頃、水井は、勝手に泊まった別荘の前の雪の中で、選挙事務所から取って来た合格ダルマを使って宏と遊んでいた。

選挙事務所前で、水井を捜索するため、山狩りの検討をはじめていた県警の元に、東京から牧子を連れてやって来た黒木と牧村の両刑事が合流する。

牧子は、運転手が立ち小便をしに降りた隙を見て、車から逃げ出し、警察が話していた水井がいるらしいペンションに向う。

黒木たちも、賢兄の捜査隊と共にペンションに向い、拡声器で、渡辺ともう一人のヤクザ殺害の容疑で逮捕すると呼び掛けるが、水井は聞こえているのかいないのか、宏と合格ダルマを抱えて、さらに山の上に登りはじめる。

水井は宏に、自分の田舎に連れて行ってやると言い、かくれんぼをするから宏が鬼だと言い出す。

お兄ちゃんが20数えるまで目を開けてはダメだと告げ、数を数えながら、目をつむった宏の元から遠ざかりはじめる。

合格ダルマを持ったまま、雪山の中を走りはじめた水井は、持っていたダルマを斜面に投げると、数を20と数えながらそれに向けて持っていた拳銃で撃つが、その瞬間、遠くから水井を狙っていた警察の狙撃部隊のライフルが一斉に発射される。

弾は水井の腹部を貫通し、水井は雪の中に倒れるが、再び起き上がろうとして、さらに銃弾を撃ち込まれる。

牧子は、倒れた水井の体に何とか近づこうと雪の中を進もうとするが、なかなか前に勧めない。

雪の中に倒れたままびくともしなくなった水井の体から、真っ赤な血が大量に流れ出るのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「青春の殺人者」(1976)「幸福」(1981)と並ぶ水谷豊主演映画の一本で、最新作「相棒-劇場版- 絶体絶命!42.195km 東京ビッグシティマラソン」(2008)の何と25年も前の作品となる。

日本テレビが製作をしているのは、当時人気が高かった「熱中時代」との絡みか?

まだまだ若々しかった水谷豊が、幸薄く、ずるずると人生を転落して行く不幸な青年の末路を演じ切っている。

同じく幸薄そうな子分役を演じる島田紳助もなかなかの好演。

夏木勲の部下の刑事を演じる本田博太郎も若く、まだ素直な芝居をしている。

アイドルだった甲斐智枝美の大胆な体当たり演技なども驚かされる。

哀愁を主題歌で表現する部分などに、やや安易さを感じないではないが、当時の流行スタイルだったようにも思われるし、ロケーションを含め、全体的に丁寧に撮影されている感じで、画面に安定感がある。

秀作と言っても良い出来ではないだろうか。