1956年、東映京都、北村寿夫原作、佐々木康脚本+監督作品。
今から、そう…、約500年くらい昔の話としておこう。
所はネパール高原。
三角帽子をかぶって、ほろ馬車を操り、旅をしていた冒険児五郎(中村錦之助)は、山岳地帯を通りかかった時、突然、山賊の一味に取り囲まれる。
草原の鬼と呼ばれるオンゴの手下ダミル(三条雅也)率いる一団だった。
五郎は、自分は父親を探している大切な旅の途中だと抵抗するが、多勢に無勢、あっさり、大仏が崖に刻まれたオンゴの都へ連れて行かれる。
オンゴ(吉田義夫)は、テントの中で女たちを侍らせていたが、カラコジアの五郎が連れて来られると、彼が父親トルハンを探している事や、母親が日本人である事など、その素性を知り抜いていた。
オンゴから与えられた食べ物を五郎が食べ始めるや、いきなり、その五郎がかぶった三角帽を奪い取ったオンゴは、その中を探し始める。
どうやらオンゴは、その帽子に、五郎の父親トルハンが、カラコジアの秘宝の在り処を記した指輪を入れたと思い込んでいたらしい。
オンゴが言うには、彼の曾祖父マハ・オンゴは、カラコジア王国の首相だったが、ある日、謀反を起こし、王を殺害した人間であり、五郎の曾祖父オト・トルハンも、同じくカラコジアの大臣だったが、オンゴが謀反を起こした際、姫を連れ出して城を抜け出した間柄なのだと教える。
そして、カラコジアの指輪には、カラコジア王シャー・ムンドーが世界中から集めた財宝の隠し場所の在り処が記されているだけでなく、それを持つものがカラコジアの王位継承者である事を示す印にもなるのだと言う。
それが見つからなかったオンゴは、五郎を奴隷蔵に連れて行くよう部下に命じるが、一瞬の隙を見た五郎は、敵の鞭を奪い抵抗を試みる。
しかし、すぐに取り押さえられ、オンゴの手下の一人トカチ(片岡栄二郎)に、奴隷倉へ閉じ込められてしまう。
その夜、オンゴは踊子の女たちの舞に御満悦だったが、そこへ部下の一人がベタンネ村に市が立つと言う情報を知らせに来る。
オンゴは、その市を襲撃しようと企てる。
その頃、踊子の一人サラ(丘さとみ)が奴隷倉に忍び込み、昼間、鞭打たれていた所を目撃した五郎の傷の手当てをしてやる。
危険を犯してまで自分に親切にするサラを怪しむ五郎だったが、サラも又、子供の頃、オンゴにさらわれて来て同じ奴隷になった身だと聞かされる。
名前は母親から付けてもらったもので、子供の頃の事は良く覚えていないが、兄が一人いたような気がする事と、村のどこかに黒水仙の花が咲いていた事は覚えていると、サラは告白する。
砂漠の奇跡と呼ばれる平和な村ベタンネでは、市場が立って賑わっていた。
その中で、子供達相手に紙芝居を演じている男がいた。
男は、カラコジア王国がマハ・オンゴと言う逆臣のため滅びた歴史を、歌に合わせて紹介していた。
変装して市に潜入していたオンゴとその一味は、その歌を聞くと、紙芝居の男を怪しみ、捕まえると、歌の由来を聞き出そうとするが、男が何も答えないのを知ると、そのまま自分達の奴隷倉に連れて帰る。
一方、ベタンネ村の酋長ゲンジ(波島進)の元へは、その紙芝居の男の事を、部下の一人が報告しに来ていた。
五郎は、オンゴの砦建設のため、連日、重い石を運ばされる重労働を課されていた。
その奴隷の一人が横で倒れるのも見ながら、五郎も又、列車病でその場に気絶してしまう。
そんな五郎の様子を、陰から心配そうに見守っていたサラは、その夜、又、奴隷倉に忍び込むと、五郎に持って来た水を飲ませるのだった。
サラは、何故昼間、帽子をかぶっていなかったのかと聞くが、五郎は、父親からもらった大切なものだから胸にしまっていたのだと、三角帽子を取り出してみせる。
サラと五郎が、互いに見つめあっている時、側で寝ていた一人の男(それはベタンネ村で捕まった紙芝居屋であったが)が「もしや…」と、五郎に声をかけて来る。
その帽子を渡したのは自分だと言う男こそ、紛れもなく五郎が長年探し求めていた父親トルハン(加賀邦男)だった。
二人が運命的な再会に感激して抱き合っている時、その様子を外でうかがっている女がいた。
奴隷女の一人チカ(有島三都子)であった。
チカは、別の女を抱こうとしていたオンゴのテントに入って来ると、ベタンネ村で捕まった男の正体を知りたくはないかと、オンゴの気を惹こうとする。
その頃、オンゴのねぐらを探そうと追って来たゲンジの一行は、途中で出会った旅人から、石仏の近くで出会ったと言う情報を聞く。
オンゴのテントに連れて来られたトルハンは、自分の正体を見破られた事を知る。
その頃、サラは奴隷倉の見張りの気を惹き、その隙に見張りの背後に近づいた五郎は、その首を締め付け気絶させる。
胸に下げられた黒水仙をかたどった十字形を発見したオンゴから、その意味を尋ねられたトルハンは、これはカラコジアの再建を誓いあった七人の旗本たちが持つ誓いの印だと教える。
悪の仲間である一文字入道から聞かされていたらしく、オンゴは、シャー・ムンドーの孫でカラコジアの王位継承者である桜子は、今、日本に匿われている事を知っていた。
その時、オンゴの背後から忍び寄った五郎が、刃を突き付けて、父親トルハンを救出する。
トルハンは、サラが用意していた馬に乗って、オンゴの都を脱出し、五郎も、トルハンの部下たちと戦った後、自分も馬に跨がり、サラや父親の後を追う。
山岳地帯にやって来たサラ、トルハン、五郎の三人は、山に逃げ込むが、後を追って来たオンゴの一味も、乗り捨てられた馬に気付き、山を追う。
千尋の谷にかかる吊り橋に追い詰められ、吊り橋を斬られかけた五郎たち三人だったが、その時、対岸から、オンゴの追っ手に矢を射って掩護する一団があった。
ベタンネ村から駆け付けたゲンジ一行だった。
オンゴ一行は、必死に吊り橋を切り落とすが、間一髪、三人は橋を渡り終え、ゲンジたちと合流する。
サラの顔を見たゲンジは、幼い頃にさらわれた妹である事に気付き、トルハンも又、ゲンジの胸に下げられた十字形を見ると、彼が、自分が探し求めていた七人の一人である事を知るのだった。
ゲンジらと一緒に、ベタンネ村に同行したサラは懐かしい母親スマ(毛利菊枝)と再会を果たす。
一方、トルハンは、ゲンジの胸の十字形の意味を教え、自分は長年かかって七人の仲間を探していたが、今までに5人は見つける事が出来た。
ゲンジで6人目、いまだに見つけていないのは後一人になったと知らせるのだった。
それを側で聞いていたスマは、息子のゲンジに、今までこの村の平和な暮らしに慣れてしまい、カラコジア再建を誓う十字形の意味をお前に打ち明ける事が出来なかったのだと詫びる。
トルハンがすでに見つけた5人の内、高山伊織(坂東蓑助)、夕月丸(大川橋蔵)、杢助(伊東亮英)の三人は日本におり、桜子を守っているので、仲間の一人モゴールのカピ(伏見扇太郎)を連絡にやった所だと五郎とゲンジに伝える。
その頃、日本の飛騨の山里、豪族高山伊織の館に到着したカピは、杢助をトルハンの元に使いにやった所だと伊織から聞かされ、自分と行き違いになった事を知る。
伊織は、桜子(千原しのぶ)愛用の蛇味線のバチの中に、カラコジアの財宝の在り処を記した夜光石の指輪を忍ばせることにするが、その時、夕月丸が、天井裏に忍び込んだ曲者の気配に気付き、槍で突く。
曲者の正体は、一文字入道(山形勲)の配下、梟丸(徳大寺伸)であった。
夕月丸との戦いを逃れ、姉の黒比丘(初音麗子)も待つ一文字入道の城塞に戻った梟丸は、伊織の城に桜子が匿われている事と指輪の事を報告する。
入道は、部下日野原陣五左(中村時十郎)を従え、都の加賀爪丹波(月形龍之介)にこの事を知らせるため出かける事にするが、その様子を屋敷の陰でうかがっていた女中がいた。
夕月丸の妹楓(三笠博子)であった。
入道から報告を受けた加賀爪丹波は、その指輪を手に入れれば、カラコジアの財宝を手にする事が出来、それで鉄砲を大量生産して、足利義晴を倒す事ができるとほくそ笑む。
その時には、執権にしてやると言われた一文字入道も喜ぶ。
その後、入道によって差し向けられた配下たちが、高山伊織の館を襲撃する。
夕月丸と伊織は桜子を守ろうと必死の抵抗をする。
そこに現れた梟丸には、カピが対抗する。
桜子を連れ、城の外に逃げ出した伊織だったが、山の崖っぷちに追いつめられ足を滑らせてしまう。
一人になった桜子は、最後の抵抗を試みようとするが、敵に捕まらんとする時、どこからともなく現れた黒頭巾が敵を追い払って、一緒に逃げる。
一緒に船下りをする時、助けてもらった礼を言い、その名を尋ねた桜子だったが、黒覆面は名乗ろうとはしなかった。
その頃、平和な村ベタンネの城壁の中では、洗濯をしていた娘たちが、五郎に気があるらしいサラの事をからかっていた。
一方、五郎、ゲンジと共に山に出かけていたトルハンは、日本に送ったカピから、その後、何の連絡も届かない事を案じていたが、五郎とゲンジは、ただただ、いまだ見た事のない日本へ早く行きたいと気持ちを逸らせていた。
同じ頃、日本からやって来た杢助は、トルハンを訪ね旅を続けていたが、石仏の辺りで行き倒れてしまい、それを発見したトルハンの部下たちにオンゴの元へ連れて行かれる。
日本の近くの島で作られたと言う鉄砲を見ていたオンゴのテントに連れて来られた杢助は、意識朦朧としたまま、自分はトルハンを訪ねて来たと洩らしてしまう。
それを聞いたオンゴは、自分がそのトルハンだと嘘をつく。
それを聞いた杢助は喜ぶが、トルハンがいるベタンネ村にあると言う泉や黒水仙はどこにあるのかと疑問を口にする。
しかし、オンゴは慌てず、今作っている要塞工事のため、泉と黒水仙は潰してしまったとごまかす。
それを聞いた杢助は、もはや怪しまず、持って来た手紙をオンゴに手渡すが、日本語で書かれたモジをオンゴは読む事が出来ない。
それでも、最近、年のせいか目が霞んで来たので、代わりに読んでくれと、杢助に手紙を手渡す。
杢助は素直に読み始めた内容とは、黒水仙の十字形を持った七人が一日も早く日本に集結し、カラコジア王国の再建に向けて動き始め始めようと言うものだった。
オンゴは、鉄砲を持ってただちにベタンネ村を襲撃するよう命ずる。
それを聞いた杢助は、目の前にいるのが偽者だったと知り悔しがる。
ベタンネ村の城壁の中では、サラと五郎が、互いに出会った不思議な縁を感慨深げに話し合っていた。
しかしサラは、何故か急に涙するが、その時、一発の銃声が響き、サラが倒れる。
オンゴの一味が襲撃して来たのだ。
ゲンジ一派は、急ぎ城壁を閉ざすと、オンゴの騎馬隊に応戦し始める。
寝室に運ばれたサラは、苦しい息の下から、五郎を読んでくれと母親スマに頼む。
その願いを聞いたスマは、ゲンジらと一緒に城壁で戦っていた五郎を呼びに行く。
妹の最後の願いを聞いてやってくれとゲンジからも勧められた五郎は、急いで寝室に向う。
サラは、五郎の姿を見ると、いつまでも生きてくれと呟き、息絶えてしまう。
ゲンジの城内には、オンゴ軍が発射した火玉が何発も落ちて来る。
オンゴは、今にも陥落しそうなゲンジの城を見ながら、高笑いするのだった。
▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼
NHKラジオの放送劇として、当時、日本中の子供達に親しまれた「新諸国物語」シリーズの映画化。
同じ「新諸国物語」の「笛吹童子」や「紅孔雀」と違い、今回はカラー作品になっているだけではなく、いきなり、中村錦之助がチロル帽のような帽子をかぶり、ほろ馬車で荒野を旅していると言う、無国籍風な出だしで始まる異色作になっている。
「フラッシュ・ゴードン」に登場する皇帝ミンにそっくりな雰囲気のオンゴを演じる吉田義夫の悪役振りが見物。
ネパールと日本と言う両国に跨がる話はスケール感もあり、当時の子供達だけではなく、今の大人が観ても、それなりに楽しめる。
何やらエジプトの神殿を守る彫像を思わせる石仏やヒマラヤ山脈などは、マット合成で表現されている。
ラストの城攻めは、セットのちゃちささえ気にしなければ、ちょっとしたハリウッドの歴史大作でも観ているような雰囲気さえある。
ゲンジ役の波島進は、初代「七色仮面」である。
