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大悪党

1968年、大映東京、円山雅也「悪徳弁護士」原作、石松愛弘脚本、増村保造脚本+監督作品。

※この作品はミステリであり、最後にオチがありますが、その部分も含め、詳細にストーリーを書いていますので、御注意下さい。コメントはページ下です。

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夜の10時、ボーリング場で、独り珠を弄びながら、近くでつまらなそうにボーリングをしている太田芳子(緑魔子)と同伴者の若者の様子を観察している安井(佐藤慶)。

彼女の連れであるらしい大学生(森矢雄二)が別れ話を持ちかけているようだった。

それを聞いた芳子は、これまで自分が体を許さなかった事が不満だったのかと問いかけるが、大学生は否定せず、そのまま「さよなら」と言い残して去って行く。

ひとりぼっちになった芳子に馴れ馴れしく近づいて来た安井は、待ち合わせていた仲間が来ないので、一緒に投げさせてもらえないかと言葉をかけて来る。

傷心状態だった芳子は、その言葉に無関心そうに頷く。

その後、安井に連れられ、馴染みのバーに連れて行かれた芳子は、安井が何をしている人間なのか聞き出そうとするが、そんな素性調査のような事は止めて、赤の他人同士、気楽に付き合いましょうと言われ、カクテルを勧められるが、芳子は自分はアルコールが飲めないと断わる。

しかし、ジュースのように飲みやすいカクテルなのでとのバーテン(三夏伸)から勧められた事もあり、ついそれを口にしてしまった芳子は、すぐに気分が悪くなりトイレに駆け込むが、その様子を見ていたバーテンは、特製カクテルが効いたらしい、良い女を見つけて来ましたねと安井に笑いかける。

安井はそんなバーテンに、一ヶ月前から目を付けていた女だと冷静に応ずるのだった。

最近の景気はどうかと安井に聞かれたバーテンは、組が解散になって以降、喰うのが精一杯…と苦々しそうに答える。

そこへ、意識朦朧状態になった芳子が戻って来て、その場に昏倒してしまう。

とあるマンションの寝室に連れて来られた芳子は、意識朦朧のまま「何するの?」と安井に問いかける。

タイトル

気がついた芳子は、ベッドの上で自分が裸にされており、隣で同じく裸の安井が眠っている事に気付く。

その安井を起こさないように、そっとベッドを抜け出した芳子は、急いで脱がされた衣類を掻き集めると、免許証が入っていたバッグの中身を急いで確認して、その部屋から抜け出す。

その後、無事自宅アパートに戻り、ミシンを踏んでいた芳子は、ドアをノックする音を聞き、何気なくドアを開けると、そこに入って来たのは、あの安井だった。

安井は、随分分りにくい所に住んでいるんだなと言いながら、写真を見て欲しいんだと言い、数枚の写真を懐から出して見せる。

それは、裸で眠っている芳子のあられもない姿を写したものだった。

驚いた芳子が、それを奪い取って破りはじめると、安井は薄笑いを浮かべながら、こちらにはネガがあるので、何百枚でも焼き増しができるのだと言いながら、又何枚もの写真を床に放り投げて見せる。

その中には、芳子のバッグの中にあった免許証を複写した写真も混ざっていた。

それで、住所を突き止めて来たのだ。

芳子が大手の服装学園の生徒である事も知っているらしい。

さらに、結婚調査と偽って、アパートの管理人から、芳子の父親が郷里の長野で校長をやっている事まで調べあげたと安井は笑う。

娘のこんな写真がばらまかれたら、父親は仕事を辞めなければならないだろうと笑う安井に、芳子は写真とネガを返してくれと頭を下げるが、返してやっても良いが、その代わり、一つやってもらいたい事があると安井は言い出す。

ある日、人気歌手の島輝夫(倉石功)が所属事務所の暁プロに帰って来ると、大勢の女性ファンから取り囲まれる。

マネージャー(内田朝雄)が次々と今日のスケジュールを読み上げるのを、島はうんざりしたような顔で聞いていたが、そこへふらりと安井が顔を覗かせる。

女を紹介すると写真を取り出して持ちかけられた島は、うんざりしたように、安井の言い値の3万円だけ払って、女はいらないと追い返そうとする。

すると安井は、無名だったお前を売出してやったのは俺の組だぞと凄み出す。

今は、警察が、芸能界から暴力団を閉め出してしまったので、その手の仕事が出来なくなったし、組が解散してからはあれこれやってみたが巧く行かず困っている。

これもビジネスだ。施しを受けるつもりはないと、マンションの地図と603号室の部屋番号を書いた紙を押し付けて来る。

その後、喫茶店で待っていた芳子と会った安井は、今夜一晩、島の相手をしろと命ずる。

芳子は、今夜一晩だけ付き合ったら、ネガを返してくれるのね?と念を押す。

その夜、マンションで待っていた芳子は、ノックの音を聞き、ドアを開けると、打合せ通り、アイドルの島が入って来る。

島は芳子の顔を確認すると、本当に素人娘だと知りちょっと驚いた様子で金を払う。

そして、時間がないと言いながら、芳子をベッドに誘うと、恥ずかしさから電気を消してくれと頼む芳子を無視して、島は、自分は明るい方が好きだと言いながら、そのまま抱きついて来る。

事が済んだ後、気に入ったので、又付き合ってくれるかとベッドの上で聞く島に、そいつはダメだと、急に声をかけて部屋に入り込んで来たのは、8mm撮影機を手にした安井だった。

島と芳子は、その撮影機を見て、自分達の今までの様子が隠し撮りされていた事を悟る。

抗議をする島をマンションから叩き出した安井は、約束通り、芳子にネガと写真を投げ与える。

こんな白黒フイルムを撮ったからには、もうそんなエロ写真なんか用がないと言うのである。

芳子は、安井の策略にはまってしまった事を知るが、安井は、今日からお前はここへ住め。もうお前は俺の女だとあざ笑うだけだった。

後日、島はマネージャーに連れられて、「得田法律事務所」と書かれた場末の小さな事務所を訪ねて来る。

そこは、判事、検事たちから「ごろつき弁護士」と呼ばれている、業界でも悪名高い得田仁平(田宮二郎)の個人事務所だった。

応対に出て来た得田は、客の一人が島と気付いた様子の助手の少女(西條美奈子)を早めに帰すと、依頼人の二人を奥の部屋に招き入れる。

マネージャーから事情を聞いた得田は、平然と、相手を告訴すれば良いのでは?と言い出す。

相手が、事を公表されたくない芸能人である事を知った上での嫌味だった。

それでも、どうしても引き受けて欲しい、あんたしか頼める者がいないとマネージャーが頭を下げると、それなら、自分はヤクザが大嫌いだし、費用もかかるので500万出してくれと吹っかける。

マネージャーは、しぶしぶと言った表情で、その額を了承するしかなかった。

その頃、安井のマンション寝室に監禁状態だった芳子は、逃げ出そうと、タンスから自分の衣装を探していたが、それを見つけて入って来た安井から、何をしていると怒鳴られる。

芳子は、自分はもう覚悟を決めた。まともな結婚が出来なくても、人から陰口を叩かれても良い。だけど、あんたと暮すのだけは嫌!顔も見たくない、殺されたって良いと言い放つが、それを聞いた安井は、それならお望み通りにしてやろうと殴り掛かり、着ていた下着も剥ぎ取られてしまう。

パンツ一丁のこの格好じゃ、逃げられまいと言うのであった。

そこにドアのブザーが響く。

やって来たのは、島の代理人を名乗る得田であった。

得田は、島の相手をさせたのは商売女でしょう?だったら強請れませんよと切り出して来るが、安井は平然と、相手をしたのは俺の妻だと言い出し、そのまま寝室に得田を案内する。

裸で毛布に包まっていた芳子を見た得田は、これから時々うかがいますが、何か困る事あったら御連絡下さいと名刺を差し出すと、安井にはフイルムを見せろと迫る。

安井をタダモノではないと見抜いた安井だったが、素直に盗み撮りしたフイルムの複写を見せる事にする。

それを確認した得田は、今はこんなエロ写真ごときで金は取れない。何しろ僕は、不可能を可能にする男だからと言い、下手な事をすると自分で自分の首を絞める事になるよと安井に釘を刺すと、帰って行く。

翌日、島がいるテレビ局のメイク室に乗り込んで来た安井は、慌てて応対したマネージャーに、妙な弁護士を寄越すなと凄んでみせる。

その頃、マンションにいた芳子は、着るものの入ったタンスを開けようと苦労していたが、どれも鍵がかかっており、唯一開いたタンスの中にはバスタオルが一枚だけかかっていた。

しかし、それを体に巻き付けると、芳子は部屋を出て行く。

マネージャーから、この事件から手を引いてくれとの電話を受けた得田は、すぐに、安井から脅されての事と気付き、自分は一度引き受けた事件を途中で投げ出すような事はしないし、依頼人からの指図を受けたりもしない。それでも断わると言うなら、このネタをそっくり、週刊誌の記者たちに流そうかと、逆に脅かす始末。

そこに、バスタオル姿の芳子が駆け込んで来て、ここまで乗って来たタクシー代を貸してくれと言う。

得田は、芳子を奥の部屋に匿うと、タバコを買って帰って来た少女をまたもや早く帰宅させ、タクシー代を払ってやった後、芳子から今までの事情を聞く。

あなたは不可能を可能にする男だって言ってたわね、私を助けてと芳子から迫られた得田だったが、あっさりあれは単なるはったりだったと苦笑いする。

じゃあ、私を警察に連れて行ってと芳子が頼むと、婦女暴行、軟禁くらいじゃ、2〜3年で舞い戻って来て、又安井は、さらにあなたにひどい事をして来ますよと、得田は、芳子の様子を楽しむかのように平然と教える。

一旦ああいう男に捕まったら、もう逃げる手立てはなく、今後は骨の髄まで吸い付くされて働かせられたあげく、病死するか、発狂して病院に入れられるだけで、助かるためには、安井が病気か交通事故で死ぬのを待つしかないと、得田はさらに冷酷に言い捨てる。

そんなのを待っていたら、自分はおばあちゃんになってしまうと落胆する芳子は、そんなに長生きできるとでも思っているのか?と冷笑した得田から、安井が生き残るか、あんたが生き残るか、どっちか一人しか生き残れないんだ、勇気を出せと妙な説得をされる。

さらに、人殺しをしても人殺しになるとは限らない。ヤクザや政治家は絶対に刑務所に行かないものだと謎めいた事まで言って来る。

そんな事務所に当の安井がやって来て、芳子が来ているだろう?怪我をしない内に、この件から手を引けと迫ると、得田は「考えとくよ」と答え、あまり虐めるなよと言いながらすんなり芳子を渡す。

しかし、マンションに連れ帰って来た芳子を、安井は、得田に体を任せただろうと因縁を付けながら、ベルトで殴りはじめる。

その後、今日は生理だからと拒絶しようとする芳子を、お前は死ぬまで俺のために働くんだと怒鳴りながら、安井は強引に抱きつく。

情事後、ソファーの上で寝穢く眠る安井の横で起き上がった芳子は、飲めないウィスキーをあおった後、床に落ちていたネクタイに目をとめる。

とっさにそれを掴んだ芳子は、寝ているヤスイの首にネクタイを巻き付け絞めはじめる。

しかし、安物のネクタイは途中で切れてしまったので、急いでタンスの中から別のネクタイを取り出した芳子は、苦しがっているヤスイの首をさらに絞め続け、とうとう安井は息絶えてしまう。

その後、その芳子から「殺したわ」との電話を受けた得田は、すぐに行くので、何も手を付けずに待っていろと命じ、腕時計で時間を確認すると、にんまり笑みを浮かべるのだった。

安井のマンションに深夜やって来た得田は、ソファーの下で死んでいる安井の体を確認、何かを期待している芳子に、殺人は殺人だから、懲役5年程度で執行猶予が付くだろうと冷たい事を言いながらも、危ない橋を渡ってみるか?勝負してみるかと問いかけて来る。

得田は、僕が帰った後、警察を呼ぶんだと言いながら、安井の所持品らしき鍵の中から一本を取って自らのポケットに入れる。

そして、安井の首に巻き付いていた二本のネクタイの内、ちぎれている方を外して、それをタンスの中のネクタイ掛けに戻す。

さらに得田は、ソファーに腰を降ろすと、ここで一緒に飲もうと言い出す。

冗談は止めてくれと呆れる芳子に、人殺しになりたくなかったら君も飲むんだと言いながら、強引に芳子にもウィスキーを勧める。

飲めない酒を飲まされ、むせる芳子の首を、いきなり得田は手で絞めて来る。

そして、苦しがる芳子から手を離すと、これで痕が付いただろうと言う。

さらに、裸になれと言われた芳子はさすがに耳を疑うが、得田は平然と、警察が来るまでにやってもらう事はまだたくさんあるんだと言い放つのだった。

翌日、「ヒモを絞殺した女自首」との新聞記事が踊る。

得田は、警察に拘留されていた芳子の元に、郷里から呼んだ母親を連れて面会に来る。

いつ保釈させてもらえるのかと尋ねる芳子に、もう少し頑張ってくれと励ました得田は、その足で検察庁に向うと、第三検事室にいた岡野担当検事(北村和夫)に、今回は犯人が自首しているのでお手上げですと、下手に挨拶をするが、岡野の方は、悪徳弁護士と噂の高い得田の事を警戒していた。

やがて、215号法廷で、太田芳子の第一回公判が始まる。

検事から、事件当夜の確認を迫られた芳子は、安井は午後8時半頃マンションに帰って来たと証言し出す。

その日は、生理で、朝から頭がぼーっとしていたので、肉体関係を拒んだのだが、怒った安井からバンド(ベルト)で殴られている時に『あの人』がやって来たのだと芳子は続ける。

安井から、兄貴と呼ばれていたその人(早川雄三)は、帽子にサングラス、そして大きなマスクを付けた姿だったので、顔は全く分からなかったが、急に安井を殴りつけ、ひどく怒っている様子だったと言う。

すると、安井は急に兄貴の機嫌を取り出し、兄貴は酒を飲みはじめたが、やがて、私に酌をするよう求められたので、仕方なく芳子が酌をしてやると、お前も一緒に飲めと言われたと言う。

安井からも無理強いされ、何杯も飲めない酒を飲ませられた上、兄貴から、酒だけ飲んでもつまらないので、何か趣向をしてみろと迫られたと言うのだ。

何の事かと思っていると、兄貴の目の前で実演してみせろと言うので驚いていると、安井も、兄貴は一旦言い出したら絶対止めない人だからと、無理矢理自分を押し倒すとのしかかって来たらしい。

兄貴からあれこれ指図を受けながらの行為だったので、死ぬほど恥ずかしい思いだったが、さらに兄貴は、互いにやりながら、相手の首を絞め合ってみろと言い出したと言う。

そうすると、男女とも互いにすごく気持ちが良いのだそうだ。

自分は安井の体の上に乗った姿勢でネクタイで安井の首を絞め、安井は下から手で自分の首を絞めはじめたが、その安井の表情があまりに獣のように醜かったので、とっさにネクタイを絞めていた手の力が入り、芳子はその瞬間、気絶してしまったと告白する。

気が付いたら、兄貴の姿はいなくなっており、安井の死体だけが残っていたと言うのだ。

それを聞いていた岡野検事は、安井の首を絞める時、殺意があったね?と問いかけると、すかさず立ち上がった得田が、誘導尋問だと抗議する。

その後、反対尋問を求められた得田だったが、ただ「ありません」と答えるのみだった。

得田と共に控え室に戻って来た芳子に会いに来た母親は、傍聴席で聞いていたが、恥ずかしくてたまらなかったのでもう郷里に帰ると言う。

父親は恥じて職を辞したし、もう二人とも今の所には住めなくなったので、山の中に入ってひっそり暮す事にする。もう二度と会えないね、達しゃでな…と言い残して、母親は帰って行く。

今さらながらに自責の念に捕らわれた芳子だったが、そんな彼女に、家庭や職場がなくても生きていける!僕がいると力付けた後、今日の法廷での芝居は巧かった。公判に持ち込めばこっちのものだ。判事や検事は簡単な人間だ。犯人が自首している今回の事件では、検事も油断しているに違いない。それがこっちの付け目だ。これからが勝負だ!と得田は自信ありげな言葉を吐く。

その後、安井のマンションを独り訪れた得田は、事件現場の再調査をしたいので立ち会って欲しいと、管理人(谷謙一)に部屋を開けさせる。

そして、部屋の中をさり気なく見渡していた得田は、タンスを開けて、そのネクタイ掛けの中から、ちぎれたネクタイを見つけ、管理人に妙だなと見せる。

公判が始まる。

証人台に立った大学生は、芳子とは同県人の間柄だったと話し、被告は酒が飲めたかとの得田からの質問に、一切飲めず、ビール一杯飲んだだけで苦しがったと証言する。

その後、承認台に呼ばれたマンションの管理人は、得田が見せたちぎれたネクタイが、間違いなく、安井の部屋のタンスから見つかったものだと証言する。

反対尋問を求められた岡野検事だったが、今度はこちらが「ありません」と答えるしかなかった。

得田は芳子に、凶器に使ったネクタイのがらを覚えているかと聞くが、頭がボ〜ッとなっていたのでと芳子が自信なげに答えると、あの夜、あなたは飲めない酒を無理矢理野間されていた状態だったので、思い違いもありますねとフォローしてやると、すかさず岡野検事が、誘導尋問だと抗議する。

得田は、ちぎれたネクタイと、以前、岡野検事が凶器はこれで間違いないねと念を押していたネクタイの二本を両方芳子に示しながら、どちらを使って首を絞めたのかと聞くと、あの時、絞めている途中で、切れた事を思い出したので、ちぎれた方のネクタイだったと答える。

得田は裁判長に対し、ちぎれたネクタイの法医学鑑定を願い出る。

岡野検事は、偽装工作に違いなく、法廷侮辱罪だと反論するが、被告の無罪を証明しようとする行為がどうして侮辱罪になるのか?このちぎれたネクタイで安井の首を絞めたものが、本当の犯人ですと言う得田の言葉には、裁判長も判定依頼を認めるしかなかった。

検事局に戻って来た岡野検事は、まんまと得田の罠にはまったと悔しがる。

側にいた部下も又、本当に、兄貴なる人物などいるのでしょうかと首をひねるのだった。

岡野検事は、暴力団関係者の写真を多数、芳子に見せ、どれが兄貴か思い出せと迫るが、芳子は、サングラスとマスクをしていたので覚えてないと突っぱね、このままだと、殺人、偽証、法廷侮辱罪になるぞと検事から脅かされても、その態度を変えようとはしなかった。

その後、自宅アパートに戻って来た芳子は、このままウソをつき続けても大丈夫だろうかと、訪ねて来ていた得田に相談する。

得田は、テレビのコマーシャルから政治家の言葉まで、今や世の中の全てがウソで固められていると、妙な説得をする。

所詮、裁判なんて、検事と弁護士のだましあい、勝てば良いんだと言い切るのだった。

その後に開かれた公判で、証言台に立った鑑識主任(中条静夫)は、鑑定したちぎれたネクタイからは人間の皮膚片が発見され、それは安井のものと断定されたと、質問をした得田に報告する。

その後、岡野検事は、懲役5年を求刑、それに対し、得田は、この事件の証拠と言えるのは、被告の自白だけにしか過ぎず、兄貴の存在が確かなのは、現場に、酒を飲み残したコップや吸い殻が残っている事からも明白であり、安井の首を絞めかけた芳子は、ネクタイが切れた瞬間気絶し、その後、兄貴が、タンスから丈夫なネクタイを取り出して来て、何か不始末をしでかしたに違いない安井の首を絞めた後、ちぎれた方のネクタイをタンスに戻し、自分は部屋から出て行ったに違いないと推理を述べた後、百歩譲っても、被告の釈放は認められるべきだと主張する。

その後、検事局の岡野の元にやって来た刑事たちは、どう手を尽くしても、組はとっくに解散しているし、兄貴なる人物は浮かんで来ないと悔しがる。

その報告を受けた岡野検事も、そうした事を予期した上での、得田の作戦だったに違いないと地団駄を踏む。

一方、得田に会っていた芳子の方は、もう自分は昔のような純情さを失ってしまったと自嘲していたが、そんなものは処女みたいなもので、この際、きっぱり捨てて、今後は明るく生きろと、得田は励ますのだった。

最終公判の日、太田芳子に下されたのは「無罪」の判決だった。

証拠不十分と言うのがその理由だった。

裁判所からの帰り、得田は、裁判には「一事不再理」と言う原則があり、一旦無罪になったものは、同じ事件で二度裁判を受ける事はないのだと芳子に教え、これから僕の事務所で祝杯を挙げようと誘う。

後日、得田は、安井から奪い取ったロッカーの鍵を使い、その中に隠してあった8mmフイルムや隠し金をそっくり没収していた。

そのフイルムを返された島輝夫とマネージャーが、150万の小切手を持って、得田の事務所を訪れて来る。

金額を忘れたのでは?と問いかける得田に対し、安井も死んだ事だし、事情が変ったので…とマネージャーがい訳をすると、得田は急に態度を硬化させ、このフイルムを新聞記者に公開するか?出すものはきっちり出して欲しいと脅しつける。

結局、当初の約束通り、500万をせしめた得田は、それを芳子に見せ、検事も控訴を取り下げたし、この金を貸してやるからバーでも開いてみるかと笑って見せる。

すると、芳子は、その500万の束を引き寄せ、これは全部私のものよと言い出す。

あなたは私に、安井を殺せと命令したわね?それを実行したんだから、これは自分がもらって当然。

ダメだと言うなら、警察に全部言うわ!私は一事不再理で無事だけど、先生は大変よ。弁護士廃業になるわと脅しつける。

先生のお陰で自分は人を殺したけど、人を殺すって大変な事で、それは人間を変えてしまうほどって事を知っていた?と芳子は迫る。

もう何も怖いものはない。何でもできる。

今までは、男に言い様に虐められて来たけど、これからは私が男を虐めてやるつもり。

私がバーを開いたら、人殺しの女の店って事で好奇心に満ちた男たちで溢れ、さぞ繁昌する事でしょう。さよなら…と言い残し、芳子は去って行く。

独り、事務所に取り残された得田は、残ったのは一枚の写真だけか…と言いながら、芳子の写真を取り出し眺めながら、相手が男だったらタダでは置かないが、女だから負けてやろうか…と呟くのだった。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

いわゆる法廷ミステリと言うか、悪徳弁護士ものとでも言うべきジャンルだろうか?

ヤクザに引っ掛かった女を悪徳弁護士が助けるため、巧妙な法廷戦術を仕掛けると言う展開。

前半は、ヤクザを演じる佐藤慶の冷酷さと、ひたすら暴力でいたぶられて行く緑魔子の哀れさの対比と言うか、演技合戦が見物なのだが、ここは今で言う「監禁もの」のパターンである事に気付く。

暴力で、弱い女が監禁されていると言う状況は、結構、映画としてはスリリングに見入ってしまう魔力のようなものを秘めている事が分かる。

途中から、田宮二郎演じる悪徳弁護士が二人に絡んで来て、悪と悪との対決。誰が誰を脅し、誰が誰をだましているのか、一瞬迷ってしまうような奇妙な三角関係になって行く様が面白い。

さらに、女を巧妙に誘導し殺人を起こさせた後、その罪から救ってやるために、弁護士自身が巧妙なトリックを授けると言う所がアイデアもの。

得田の目的は、依頼人から受取る金だけではなく、検事を煙に巻き、法廷で勝つ快感を得る事も含まれるのだ。

公判で芳子が語る、偽りの事件当夜の再現映像も興味深い。

現実では冷酷で強面一本槍だった佐藤慶が、偽りの証言再現では、兄貴に怯えてペコペコする腰抜けとして表現されているからだ。

もちろんそれは、ヤクザ嫌いの得田が考えた、安井への面当てのアイデアなのだが、それを実際に映像で演じ分けている佐藤慶の演技力が見物。

この映画では、そのヤクザを演じている佐藤慶、妙に人を喰ったような別タイプの悪人を演じている田宮二郎、そして、ほとんど前半の全てを裸に近い状態で演じ続けている緑魔子の三人がメインなのだが、珍しく、その坊っちゃん風貌が巧く使われている倉石功や、計算高いマネージャーが意外に似合っている内田朝雄なども、地味ながら印象に残るし、ちらっと登場する鑑識主任役の中条静夫や、真面目一本槍の岡野検事を演じている北村和夫も意外さはないものの、安心感はある。

最初の方で、芳子に話し掛ける安井のベトナム戦争の話題が、当時の時代背景を感じさせる。

前半はヤクザに、後半は悪徳弁護士に、言い様に弄ばれる女の運命は…?